説明

関節内粘性補充のための療法

【課題】変形性関節症および関節損傷をヒアルロン酸ナトリウム(HA)ベースの粘性補充剤、特に3週間よりも短い関節内残留半減期を有する粘性補充剤で治療するための粘性補充方法を提供する。
【解決手段】使用するための粘性補充剤はさらに、少なくとも5%(w/w)が例えばヒランBなどのジェルの形態にある20mg/ml未満のHAを含有することを特徴とし得る。実例となる態様において、ヒランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))は、6±2mlの単回関節内膝注入において投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、リウマチ学および整形外科に関する。特に、本発明は、粘性補充による軟骨の病態(例、変形性関節症)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
変形性関節症(OA)は、関節における軟骨の分解、関節に存在する滑液の変質、および骨棘形成を伴う軟骨下の骨硬化症によって特徴付けられる進行性変性疾患である。OAを有する患者はしばしば、彼らの日々の生活の多くの局面に影響する重度の疼痛を呈する。OAの罹患率は加齢とともに増大し、60歳以上のOA患者の60%超がなんらかの軟骨異常性を有するようである(Bjelle (1982) Scand. J. Rheumatol. Suppl., 43:35-48)(非特許文献1)。OAは、関節炎の最も高価な形態になってきており、集合的に西洋国家の国民総生産の1〜2.5%までに上る(Reginster (2002) Rheumatology, 41(Suppl. 1 ):3-6)(非特許文献2)。
【0003】
滑液は、関節内の接合表面を潤滑にし、保護する。滑液は、高分子量の多糖類ヒアルロナン(HA、ヒアルロン酸のナトリウム塩、ヒアルロン酸ナトリウムとしても公知)から主として構成される。正常なヒト滑液関節液中のHAの濃度は、約3mg/mlである。HAは、N-アセチルグルコサミンおよびグルクロン酸ナトリウムの反復する二糖単位からなる(図1)。関節の正常な滑液中のHAは、5MDaの総分子量(MW)を有する12,500個の二糖単位を含有する(Balazs et al. (1993) J. Rheumatol. Suppl., 39:3-9)(非特許文献3)。OA患者において、滑液中のHAの濃度およびMWは低下し、結果として、軟骨を保護する滑液の能力を低下させる。
【0004】
高分子量HAを含有する粘弾性溶液の関節内注入は、罹患した関節の正常なホメオスタシスを回復させることが示されてきた。粘性補充として公知のこの手法は、疼痛を低下させ、関節機能を亢進させる上で効果的であることが証明されている(例、Balazs et al. (1993) J. Rheumatol. Suppl., 39:3-9(非特許文献3); Wobig (1998) Clin. Ther., 20(3):410-423(非特許文献4)参照)。
【0005】
多くのHAベースの粘性補充剤が市場で入手可能であり、新製品が開発されつつある。粘性補充剤は、例えば(動物由来または細菌の)HAの原料、HAの濃度およびMW、および、もしあれば、使用される化学架橋剤のタイプおよび程度を含む多くの特徴において多様である。通常、ほとんどの粘性補充剤は、5〜15mg/mlのHAを含有し、一度注入されると、何時間〜数日間の残留半減期を有する。このような粘性補充剤は、各1週間おきに3〜5回の注入の系で2〜3ml単位の容積で膝へ注入される。いくつかの場合、疼痛の緩和は数日以内で生じ、数週間にわたって進行し続け、しばしば数ヶ月間続き、1年まで続くことさえある。例えば、毎週2mlで3回投与されるシンビスク(登録商標)(ヒランG-F20;Genzyme Corp., Cambridge, MA)による膝の粘性補充は、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)+関節腔穿刺による6ヶ月間にわたる連続した経口療法と少なくとも同じくらい良好であるか、またはより良好であり(Adams et al. (1995) Osteoarthritis and Cartilage, 3:213- 225)(非特許文献5)、塩類溶液プラセボまたは関節腔穿刺の対照群よりも効果的であること(Moreland (1993) Am. Coll. Rheumatol. (57th Ann. Sci. Meeting, Nov. 7-11 , San Antonio, TX), 165 (非特許文献6) 、Wobig (1998) Clin. Ther., 20(3):410-423 (非特許文献4))が示されている。
【0006】
複数回の注入の系は、ほとんどの粘性補充剤の残留半減期が短いため、主として変形性関節症の疼痛に及ぼす長期間(6ヶ月〜1年)の効果に不可欠であると考えられてきた(Peyron (1993) J. Rheumatol., 20(Suppl. 39):10-15)(非特許文献7)。例えば、1.7〜2.6MDaの平均分子量を有する1%HAの関節内残留半減期は、ウサギにおいて決定されるように11時間である。HAの分子量が増大するにつれ、残留半減期も増える(例、HAの平均分子量が6MDaである1%ヒランAは、1.2±1日の半減期を有する)。しかしながら、0.4%のHAを含有するヒランBなどの不溶性ジェルでさえ、7.7±1日の比較的短い残留半減期を有する。半減期のデータと一致して、OAの膝へのシンビスク(登録商標)の3回の2ml注入は、2回の2ml注入よりもOAの疼痛を低下させるのに有意により効果的であることが示された(Scale et al. (1994) Curr. Ther. Res., 55(3):220-232)(非特許文献8)。
【0007】
股関節にOAを有する患者のシンビスク(登録商標)による治療について、推奨される用量は、1回の2ml注入であり、疼痛緩和が不十分である場合、第二の任意の注入が1〜3ヶ月間投与される(Chevalier (2000) Am. Coll. Rheumatol. (64th Annual Scientific Meeting, Oct. 30-Nov. 3, Philadelphia, PA))(非特許文献9)。股関節OA患者において、2mlでのシンビスク(登録商標)の単回の関節内注入は、登録された患者の大部分において症状に関する有意な即時のおよび3ヶ月間まで(研究の期間)の持続的な効果を示した。シンビスク(登録商標)などの粘性補充剤のより大きな容積(例、4.6ml以上)が2〜3mlの複数回の注入、または2mlの単回注入と比較して、少ない回数の注入で等価以上の有効性を提供できたかどうかについては研究されていない。知られている限りでは、より多い容積の使用は、疼痛、腫脹、および滲出などの局所的な副作用の危険性を潜在的に与える。
【0008】
デュロラン(Durolane)(商標)(Q-Med AB, Uppsala, Sweden)は、1回に3mlで注入されるべきであることを推奨された唯一の粘性補充剤である。デュロランは、報告されたより長い半減期(4週間)およびHAのより高濃度(20mg/ml)のエポキシ架橋した粘性補充剤である。残留時間の長期化は、注入の回数を減少できると考えられている。それにもかかわらず、デュロラン(商標)の単回注入は、プラセボを上回る統計的な恩典を示さなかった(Altman et al. (2004) Osteoarthritis and Cart., 12:642-649)(非特許文献10)。
【0009】
したがって、本発明に先立ち、HAベースの粘性補充剤、特に短い残留時間を有するものの単回注入が望ましい長期間の治療効果を生じ得るかどうかは公知ではなかった。
【0010】
より少ない回数の注入の使用は、複数回の注入よりも明らかな利点を提供し、それには、副作用の回避、経費の削減、およびより良好な患者のコンプライアンスが含まれる。複数回の注入を必要としないOA患者へ効果的な緩和を提供する新規の粘性補充治療を開発することに対して持続的な需要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Bjelle (1982) Scand. J. Rheumatol. Suppl., 43:35-48
【非特許文献2】Reginster (2002) Rheumatology, 41(Suppl. 1 ):3-6
【非特許文献3】Balazs et al. (1993) J. Rheumatol. Suppl., 39:3-9
【非特許文献4】Wobig (1998) Clin. Ther., 20(3):410-423
【非特許文献5】Adams et al. (1995) Osteoarthritis and Cartilage, 3:213-225
【非特許文献6】Moreland (1993) Am. Coll. Rheumatol. (57th Ann. Sci. Meeting, Nov. 7-11 , San Antonio, TX), 165
【非特許文献7】Peyron (1993) J. Rheumatol., 20(Suppl. 39):10-15
【非特許文献8】Scale et al. (1994) Curr. Ther. Res., 55(3):220-232
【非特許文献9】Chevalier (2000) Am. Coll. Rheumatol. (64th Annual Scientific Meeting, Oct. 30-Nov. 3, Philadelphia, PA)
【非特許文献10】Altman et al. (2004) Osteoarthritis and Cart., 12:642-649
【発明の概要】
【0012】
関節の病態を治療し、このような病態と関連した疼痛および不快感を低下させるための方法および組成物を提供する。このような病態の例には、変形性関節症および関節損傷が含まれる。
【0013】
本発明は、少なくとも部分的に、粘性補充剤のより多量の容積の単回の関節内注入が、より少量の容積の連続注入によって生じるものに匹敵する長期間の治療上の恩典を提供するという発見に基づいている。本発明と関連して実施された研究において、膝OA患者のある群は、シンビスク(登録商標)の標準的な一連の注入を膝に2mlで3回、3週間にわたって受けたのに対し、別の群は同一条件下で、6mlの単回注入を受けた。驚くべきことに、治療26週間後に評価されたように、治療の有効性は両群で類似していることがわかった。したがって、シンビスク(登録商標)などの粘性補充剤のより大きな容積の単回注入は、好ましい安全性特性を維持しながら、より少量の容積の数回の注入と同じくらい効果的であり得る。
【0014】
したがって、本発明は、HAベースの粘性補充剤、特に3週間より短い関節内残留半減期(T1/2)を有する粘性補充剤による関節内粘性補充のための療法を提供する。本発明の方法において使用するための粘性補充剤はさらに、それらが20mg/ml未満の(誘導体化したおよび/または誘導体化していない)HAを含有し、その少なくとも5%が例えばヒランBなどのジェルの形態にあることを特徴とし得る。実例となる態様において、粘性補充剤は、8±2mg/mlのHAを含有するヒランG-F20(シンビスク(登録商標))であり、そのHAの10重量%はジェルの形態にある。
【0015】
いくつかの態様において、粘性補充剤は、注入6ヶ月後まで治療効果を提供するのに十分な量で単回注入で投与される。いくつかの態様において、より大きな容積の単回注入の治療効果は、治療の経過にわたって投与される3回注入(各々より大きな容積の1/3)によって達成されるものと実質的に同一である。実例となる態様において、シンビスク(登録商標)は、3週間にわたって3回の2ml注入ではなく、むしろ6mlの単回注入で投与される。
【0016】
本発明の方法において使用される投与の方法、組成物およびデバイスも提供される。
【0017】
後述の概要および以下の記載は、請求される本発明に制限を加えるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ヒアルロナン(ヒアルロン酸ナトリウム)の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な記述
定義
「関節内半減期」、「残留半減期」という語、およびそれらの同語族の語は、関節内空間へと注入される与えられた粘性補充剤へ適用可能な時間のいずれかのより長い時間を指し、すなわち、(a)注入されるHAジェル成分の50%のクリアランスに必要とされる時間、(b)注入されるHA液成分の50%のクリアランスに必要とされる時間、および(c)それが液体、ジェル、または別の形態であるかどうかにかかわらず、HAの50%のクリアランスに必要とされる時間である。残留半減期の算出の目的のため、別段の記載がなければ、注入は、成人の膝関節の関節内空間へ投与されると考えられる。当技術分野において残留半減期を決定するための方法は公知であり、例示的な方法は、実施例に記載される。
【0020】
「HA液」、「HA液体相」、「HA液体成分」、「可溶性HA」という語、およびそれらの同語族の語は、20MDa未満の平均分子量を有する架橋されていないかまたは軽度に架橋された水溶性HAを指す。
【0021】
「HAジェル」、「HAジェル相」、「HAジェル成分」という語、およびそれらの同語族の語は、可溶性HAを含有しないかまたは可溶性HAを10%(w/w)未満含有するHAベースの組成物の水不溶性部分であるHAジェルを指す。典型的に、HAジェルおよびHA液の混合物を含有する与えられたHAベースの組成物中のジェルの量は、HAジェルをHA液から分離することによって決定され得る。分離は、組成物を例えば可溶性HAを通過させ不溶性相をなおも保持する45μフィルターを通じてろ過することによって達成され得る。より粘性のある組成物中のHAジェルからの可溶性HAの放出を最大化するため、組成物は、ろ過の前に平衡状態へもたらすかまたはもたらさない溶媒の数容積で希釈される必要があり得る。さらに、一般に、純粋なジェルは、材料が変形(検査周波数)変化の割合として回復(弾性反応)または流出(粘性反応)できる相対的な程度をそれぞれ表す、保存(弾性)係数(G')および損失(粘性)係数(G")などのジェルの流動学的特性に基づいて純粋な液体から区別され得る。両係数は、頻度の線形関数である。両係数は、ポリマー溶液およびジェルの構造の高感度プローブであることを証明した。G'およびG"の両者は、頻度の増大とともに増大するが、片方はもう片方よりも迅速に増大する。G'=G"の地点で、この周波数は交差周波数(fc)と呼ばれる。交差周波数は、ポリマーの分子量または濃度の増大とともに低下する。低周波数でのポリマー溶液においては、弾性ストレスが緩和され、かつ粘性ストレスが支配し、結果としてfcを下回る頻度でG"はG'よりも大きい。対照的に、ジェルについては、G'とG"との間に交差はなく、G'は頻度範囲にわたってG"よりも大きい。別段の指定がなければ、検査周波数は0.04〜7Hzである。これらの特性を測定する粘弾性材料の物理的特性および方法の概説については、例えばSchulzおよびGlass編「Polymers as Rheology Modifiers」, ACS Symposium Series 462, 1991、「An Introduction to Rheology」H.A. Barnes, J. F. Hutton and K. Walters, Elsevier, 1989、およびBohlin Rheometer Application Notes MRK544-01, MRK556-01, およびMRK573-01」を参照されたい。
【0022】
「HA」、「ヒアルロン酸塩」、「ヒアルロナン」という語は、相互変化可能に使用され、別段の記載がなければ、(細菌発酵されたかまたは動物由来の)原料、分子量、その物理的形状(例、ジェルまたは液体)、または(例、架橋されたかまたはさもなくば誘導体化された)化学的改変、または製造方法にかかわらず、いずれかのHAを指す。
【0023】
療法
本発明は、粘性補充方法および関連方法を提供する。本発明にしたがって、粘性補充方法は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26週間内の粘性補充剤の単回関節内注入を、注入4、5、または6ヶ月後まで治療効果を提供するのに十分な量で投与することからなる。いくつかの態様において、より大きな容積の単回注入の治療効果は、治療の経過にわたって投与される3回の注入(各々より大きな容積の1/3)によって達成されるものと実質的に同一である。いくつかの態様において、単回注入療法は、注入4、5、または6ヶ月後まで関節の疼痛の低下を提供する。
【0024】
治療効果は、いずれかの適切な方法によって評価され得る(例、Altman et al. (1996) Osteoarth. Cart., 4:217-243参照)。例えば、治療効果は、関節の疼痛の低下を測定することによって評価され得る。関節の疼痛の程度は、5点のリッカート尺度(five-point Likert Scale)(例、まったくない、軽症、中程度、重度、非常に重度)または実施例に記載されるような100mm視覚的アナログ尺度(VAS)にしたがって分類され得る。他の適切な疼痛指数には、健康評価質問票(HAQ)(Fries et al. (1980) Arthritis Rheumatol., 23:137-145)および関節炎影響測定尺度(AIMS)(Meenan et al. (1980) Arthritis Rheumatol., 23:146-154)がある。
【0025】
治療効果は、機能的欠陥の程度における改善を測定することによっても評価され得る。機能的欠陥は、股関節および膝OAについてのWestern Ontario and McMaster's Universities (WOMAC(商標)) OA指数などの分離され、検証された多次元指数(segregated, validated multidimensional index; SMI)(Bellamy et al. (1988) J. Rheumatol. 34:1833- 1840、実施例も参照)、または股関節もしくは膝についての疼痛機能指数(AFI)などの総計された多次元指数(aggregated multidimensional index; AMI)(Lequesne et al. (1987) Scand. J. Rheumatol. Suppl., 65:85-89)を使用することによって測定され得る。
【0026】
治療効果は、患者または医師による包括的な状態評価によっても評価され得る。包括的な状態は、例えば実施例に記載されるようなリッカートまたはVAS尺度を使用して評価され得る。
【0027】
治療効果のさらなる指数には、関節検査(例、Theiler et al. (1994) Osteoarth. Cart., 2:1-24参照)、運動能力ベースの測定(例、Rejeski et al. (1995) Osteoarth. Cart., 3:157-168参照)等が含まれ得る。
【0028】
いくつかの態様において、粘性補充剤は、膝関節へ6±2ml以上、例えば4、4.25、4.5、4.75、5、5.25、5.5、5.75、6、6.25、6.5、6.75、7、7.25、7.5、7.75、8ml以上の量で投与される。
【0029】
粘性補充剤
本発明の方法において有用なHAベースの粘性補充剤は、次のような特長のいずれか1つ、いずれか2つ、または全部によって特徴付けられる。すなわち、
(i)粘性補充剤が3週間未満の残留半減期を有する。
(ii)粘性補充剤が20mg/ml未満のHAを含有する。
(iii)粘性補充剤におけるHAの5%(w/w)以上がジェルの形態にある。
【0030】
例示的な態様において、本発明の方法において使用される粘性補充剤は、シンビスク(登録商標)である。シンビスク(登録商標)は、2つの形態、すなわち生理学的に許容される溶液中の、可溶性の形態であるヒランA(平均分子量6,000kDa)および水和したジェルの形態であるヒランBにおいて、8±2mg/mlのHAを含有する。シンビスク(登録商標)中のヒランA/ヒランB比はHAの重量による9:1である。ヒランAは、アルデヒド、典型的にはホルムアルデヒドの少量と共有結合によって化学的に改変された水溶性ヒアルロナンであるのに対し、ヒランBは、ジビニルスルホンによってさらに架橋されたヒランAである。ヒラン液は、その平均分子量を増大させ、その粘弾性特性を増大させる架橋を少数有するヒアルロナンの改変された形態である水和したヒランAである。ヒランジェルは、ヒランBの水和した形態であり、ジビニルスルホンを二機能性架橋剤として使用して、ヒランAを連続的なポリマーネットワークへと架橋することによって調製される。
【0031】
一般に、本発明によって提供される療法において使用される粘性補充剤には、22日間よりも短い、例えば21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、および3日間の関節内残留半減期を有するHAベースの粘性補充剤が含まれる。いくつかの態様において、粘性補充剤の残留半減期は、2、3、4、5、6、または7日超である。
【0032】
本発明の方法において使用される粘性補充剤はさらに、それらが20mg/ml未満のHAを、例えば1〜15、1〜10、1〜5、5〜15、5〜10、10〜15、6〜10、および7〜9mg/mlの範囲で含有することを特徴とし得る。与えられた組成物中のHAの量は、例えば実施例に記載されるようないずれかの適切な方法において決定され得る。
【0033】
本発明の方法において使用される粘性補充剤組成物はさらに、粘性補充剤中のHAの重量による少なくとも10%がジェルの形態にあることを特徴とし得る。例えば、いくつかの態様において、粘性補充剤は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%以上のHAジェルを含む。いくつかの態様において、粘性補充剤中のHAジェル/HA液の比は、1:50〜10:1(w/w)の範囲を含み、例えば、1:50、1:25、1:15、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、および10:1である。
【0034】
本発明の方法において使用するための粘性補充剤はさらに、液体相における水溶性HAを含有することができ、HAの分子量は500〜20,000kDaの範囲にあり、例えば、500〜1,000、500〜1,500、500〜3,000、500〜5,000、500〜7,000、500〜10,000、500〜15,000、1,000〜1,500、1,000〜3,000、1,000〜5,000、1,000〜7,000、1,000〜10,000、1,000〜15,000、5,000〜10,000、および10,000〜15,000kDaである。
【0035】
HAは、動物由来であることができ、例えば雄鶏のとさか、または臍帯、または非動物由来であることができ、例えば細菌発酵され得る。細菌発酵したHAは、例えばCooney et al. (1999) Biotechnol. Prog., 15:898-910に記載されるとおり製造され得る。細菌発酵したHAは市販もされている(例、資生堂、日本、Sigma-Aldrich, USA)。
【0036】
HAは、誘導体化され得る(例、架橋されるか、さもなくば改変されるかまたは安定化される)かまたは誘導体化され得ない。架橋剤の例には、アルデヒド、エポキシド、ポリアジリル、グリシジルエーテル(例、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)、およびジビニルスルホンが含まれる。
【0037】
本発明の方法において有用な粘性補充剤の特定の例には、アダント(Adant)(商標)、アルトレアーゼ(Arthrease)(商標)、アルトラム(Arthrum)(商標)、ファーマトロン(Fermathron)(商標)、グーン(Goon)(商標)、ハイアラート(Hyalart)(商標)/ハイアルガン(Hyalgan)(商標)、Hy-GAG(商標)、ハイアジェクト(Hya-ject)(商標)、ハイアルブリクス(Hyalubrix)(商標)、ネオビスク(NeoVisc)(商標)、シュパルツ(Supartz)(商標)/アルツ(Artz)(商標)、シンビスク(Synvisc)(登録商標)、オルトビスク(Orthovisc)(商標)、オステニル(Ostenil)(商標)、シノバイアル(Sinovial)(商標)、スプラシン(Suplasyn)(商標)、およびシノクロム(Synochrom)(商標)、ビスコーニール(Viscorneal)(商標)が含まれる(例、フィジシアンズデスクリファレンス(Physicians' Desk Reference)(商標)、2004を参照されたい)。本発明の方法に適した他の製品には、米国特許第5,143,724号、第4,713,448号、第5,099,013号、第5,399,351号、第6,521,223号、第5,827,937号、米国特許出願第60/533,429号に記載される粘性補充剤が含まれる。
【0038】
ヒランならびにヒランAおよびヒランBを含む粘性補充剤の調製は、例えば米国特許第5,143,724号、第4,713,448号、第5,099,013号、および第5,399,351号に記載される。
【0039】
いくつかの態様において、粘性補充剤は、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50日よりも長い残留半減期を有するデュロラン(商標)および/または他の粘性補充剤を除外する。
【0040】
粘性補充剤は、さらなる活性成分または不活性成分も含有してもよく、それには例えばイブプロフェン(Ibuprofen)(商標)、ジクロフェナック(Diclofenac)(商標)、およびピロキシカム(Piroxicam)(商標)などの非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、例えばリドカイン(Lidocaine)(商標)およびブピバカイン(Bupivacaine)(商標)などの麻酔剤、例えばコデインおよびモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬、例えばデキサメタゾンおよびプレドニゾンなどの副腎皮質ステロイド、メトトレキセート(Methotrexate)(商標)、5-フルオロウラシルおよびパクリタキセル(Paclitaxel)(商標)などの抗悪性腫瘍剤、および例えばアシクロビル(Acyclovir)(商標)およびビダラビン(Vidarabine)(商標)などの抗ウィルス剤が含まれる。粘性補充剤は、細胞(例、軟骨細胞または間葉系幹細胞)、タンパク質、DNA、ビタミンまたは他の望ましい生物活性のある材料などの成分も含有してもよい。
【0041】
使用および投与
本発明は、関節の病態を有する対象を治療し、およびこのような病態と関連した疼痛および不快感を低下させるための方法および組成物を提供する。このような病態の例には、変形性関節症(一次性(特発性)または二次性)、関節リウマチ、関節損傷(例、反復性運動損傷)、軟骨病態(軟骨軟化症)、および関節炎前の状態が含まれる。本発明はさらに、このような病態と関連した疼痛を低下する方法を提供する。方法は、関節病態のための治療を要するヒトまたはヒト以外の対象において実施され得る。
【0042】
投与部位の例には、膝、肩、顎および手根中手骨の関節、肘、股、手首、足、および脊椎における腰部関節突起間(椎間)の関節が含まれる。これらの関節のいずれかへ注入された容積は、その関節について現在推奨される用量の少なくとも2倍であろう。
【0043】
本発明はさらに、6±2mlのシンビスク(登録商標)、例えば4、4.25、4.5、4.75、5、5.25、5.5、5.75、6、6.25、6.5、6.75、7、7.25、7.5、7.75、8、8.25、8.5、8.75、9、9.25、9.5、9.75、10ml以上の単回単位用量を有するあらかじめ充填された単回使用のシリンジを含む粘性補充デバイスを提供する。単回投与用量を提供するには本明細書で提供されるシリンジを1つ使用することが好ましいが、必要とされる用量には、2つ以上のシリンジが提供されてもよい。例えば、6mlの単回投与は、各2mlを含有する3個のシリンジを使用することで達成され得る。
【0044】
以下の実施例は、実例となる態様を提供する。実施例は、本発明をいずれの方法においても制限しない。当業者は、本発明の範囲内で実施され得る膨大な改変およびバリエーションを認識するであろう。このような改変およびバリエーションはそれゆえ、本発明によって包含される。
【実施例】
【0045】
実施例1:OAを有する患者におけるシンビスク(登録商標)の関節内注入
前向きな非盲検の研究を実施し、症候性脛骨-大腿骨OAを有する外来患者(100mmVASスコアに関して50〜80の範囲の研究対象の膝における包括的OA疼痛)においてシンビスク(登録商標)の2mlの3回の関節内注入の現行の投与療法に対して、シンビスク(登録商標)の4mlまたは6mlの関節内注入の安全性および(作用の期間を含む)有効性を評価した。他に含まれる条件としては、40歳以上の年齢、最近3ヶ月以内のX線によるKellgren-Lawrence等級II〜III、緊満性の滲出(tense effusioin)、力学的障害、または最近(2年未満)の外傷がないことであった。100名の患者(59〜66歳の範囲の平均年齢61歳、55%女性)を5群に無作為化した。すなわち、
グループ1−6mlの1回注入、
グループ2−4mlの1回注入、
グループ3−2週間ごとの4mlの2回注入、
グループ4−1週間ごとの3回の4ml注入、および
グループ5−1週間後との3回の2ml注入の標準的な療法
であった。
【0046】
次に、患者を6ヶ月間(2週間目、3週間目、8週間目、16週間目、および24週間目)まで追跡した。使用される一次および二次評価のエンドポイントを以下に記載する。
【0047】
A.OA疼痛の患者自己評価
本研究の一次有効性のエンドポイントは、研究対象の膝のOA疼痛の緩和に関して、膝のOAを有する患者においてシンビスク(登録商標)による粘性補充の有効性を評価することである。これを過去48時間内の無痛(0mm)〜極度に痛い(100mm)のエンドポイントを伴う100-mmVAS自己評価された患者に関して測定し、最初の注入の24週間後に実施した。
【0048】
B.患者の包括的な自己評価
患者は、前の48時間にわたるすべての関連した兆候および症状を考慮に入れて、非常に良好(0mm)から非常によくない(100mm)までの範囲の100-mmVASについて彼らの標的膝の全体的な状態をランク付けした。患者へ呈示される実際の説明は以下のものであった。すなわち、「下の垂直線を使用することによって、今回の診察時にあなたの(研究対象の)膝の全体的な一般的状態を示してください」であった。左または「0」のスコアは「非常に良好」を示すのに対し、「100」のスコアは「非常によくない」を示す。
【0049】
C.ウォーマック(WOMAC)(商標)
患者は、Bellamy et al. (1988) J. Rheumatol., 15(12): 1833-40に記載されるウォーマック(商標)のVASバージョンを履行した。この尺度は、三次元の、疾病特異的な、自己投与される、健康状態測定である。それは、総計24個の質問において疼痛の領域、硬直性、および身体機能における臨床的に重要な患者関連症状を検出する。ウォーマック(商標)を地方の言語で患者へ提供し、通常5分未満で終えた。ウォーマック(商標)の副セクションは次のとおりである。
【0050】
ウォーマック(商標)のセクションAは、活動中の疼痛のレベルに関する質問からなり、無痛(0mm)から極度に痛い(100mm)までにわたるVASで(患者が)反応を採点した。疼痛の評価を次のシナリオについて行った。すなわち、
1.平面を歩くときですか? [歩くとき]
2.階段を上り下りするときですか? [階段を上るとき]
3.夜寝るときですか? [夜発症]
4.座るか横になるときですか? [安静時]
5.直立するときですか? [体重を支える時]
である。ウォーマックセクションAについての平均副スコアは、セクションAの各構成要素に対する反応に基づいた。
【0051】
ウォーマック(商標)パートB(硬直性スコア)は、活動時の硬直性の重度に関する質問からなり、硬直性なし(0mm)から極度に硬直性(100mm)までにわたるVASで(患者が)反応を採点した。硬直性の評価を次のシナリオについて行った。すなわち、
1.午前中に歩いた後にですか? [午前中の硬直性]
2.一日の比較的遅い、安静時にですか? [硬直性は一日の比較的遅くに生じる]
であった。セクションBについての平均副スコアは、セクションBの各構成要素に対する反応に基づいた。
【0052】
ウォーマック(商標)セクションCは、活動中の機能障害に関する質問からなり、難しくない(0mm)から極度に難しい(100mm)までにわたるVASで(患者が)反応を採点した。機能障害の評価を次のシナリオについて行った。すなわち、
1.階段を下れますか? [午前中の硬直性]
2.階段を上れますか? [硬直性は一日の比較的遅くに生じる]
3.座位から立ち上がれますか? [立ち上がり座れる]
4.立てますか? [立てる]
5.床へ屈曲できますか? [屈曲できる]
6.平面を歩けますか? [平面を歩ける]
7.車の乗り降りができますか? [車]
8.買い物に行けますか? [買い物]
9.ソックス/ストッキングを履けますか [ソックス/ストッキングを脱げる]
10.ベッドで横になれますか [ベッドで横になれる]
11.浴槽を出入りできますか [浴槽を出入りできる]
12.座れますか [座れる]
13.トイレに出入りできますか [トイレに出入りできる]
14.重度の家事ができますか [重度の家事ができる]
15.軽度の家事ができますか [軽度の家事ができる]
であった。セクションCについての平均副スコアは、セクションCの各構成要素に対する反応に基づいた。
【0053】
第一注入後のすべての時点での3つのウォーマック(商標)セクション(A、BおよびC)に由来する総ウォーマック(商標)スコアにおけるベースラインからの変化を、二次的なエンドポイントとして分析した。
【0054】
D.医師のOA包括評価
患者が包括評価およびWOMAC(商標)を終えた後、研究者は、非常に良好(0mm)から非常によくない(100mm)までにわたる100-mmVASに関して、調査員は通院時に患者の膝の全体的な状態を格付けした。この評価は、患者の疾患の症候、機能的可能性および医師の検査に基づいた。医師は、この通院時の患者の膝の全体的な一般的状態を、「非常に良好」を示す線の最も左に(「0」)および「非常によくない」を示す最も右に(「100」)が表される線を使用して示すよう指示された。
【0055】
E.結果
ベースラインと比較して、最初の注入の24週間後に疼痛(VAS;直近の48時間以内の無痛に対応する0および極度に痛いに対応する100)の低下を示す結果を表1に示す。疼痛は、最良を採点した3×2ml群における36.7mmと比較して、1×6ml群において34.9mm低下した。1×4mlまたは2×4mlによって治療される群において、この低下はあまり劇的ではなかった(たった24mmの低下)。
(表1)OA疼痛の患者自己評価(ベースラインからの評価)

【0056】
ウェスタンオンタリオおよびマクマスター大学変形性関節症指数(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)(ウォーマック(商標))(ウォーマック(商標)Aについては表2)によって測定される疼痛、硬直性および機能不全における改善を含む二次的な有効性のエンドポイント、患者(表3)および医師(表4)の包括膝OA評価は、同一の傾向を示した。有効性の順番において治療群を格付けし、結果を表5に示す。グループ1において観察される効果の持続期間の延長は驚くべきものであった。安全性に関して、各群(1×6mlおよび3×2ml)の10%の患者において、最小または中程度の強度の局所的な膝の副作用(疼痛、腫脹または滲出)に関する報告があった。
(表2)ウォーマック(商標)A疼痛スコア(ベースラインからの変化)

(表3)患者の包括評価(ベースラインからの変化)

(表4)医師の包括評価(ベースラインからの変化)

(表5)治療群の格付け

【0057】
安全性に関して治療群間で大きな差異は観察されず、グループ1(1×6ml)が一般に最小の副作用を有しているのみであった。これらの結果も、2mlを超えるシンビスク(登録商標)の容積が膝の変形性関節症を有する患者における疼痛を低下させるために安全に投与できることを示唆する。
【0058】
実施例2:シンビスク(登録商標)残留半減期の決定
A.雄鶏とさか器官培養物のヒアルロナンへの14C-酢酸塩の組み込み
若齢雄鶏(3〜6ヶ月齢)を頸椎脱臼により屠殺した。雄鶏のとさかを(80%)エタノールで完全に浄化した後、解剖用メスを使用して基底部で切除した。過剰の血液をとさかから押し出し、とさかを滅菌済み塩類溶液へ入れ、層流フード(flow hood)へと移し、滅菌済み塩類溶液のさらなる3容積中ですすいだ。次に、とさかを血管の中線に沿って切開し、ピンク色の皮膚組織の長方形セグメントを切除した。とさか組織セグメントを解剖用メスで薄くスライスし、ベントレックス(Ventrex)培地HL-1(Ventrex Labs)、5mg/mlプロピオン酸テストステロン(Belmar Laboratories, Inwood, NY)、14C酢酸の20μCi/ml(ICN Radiochemicals, Irvine, CA, 1 mCi/ml)、0.1mg/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシンおよび0.1mg/mlフンギゾン(Hazelton, Lenexa, KS)へ入れた。個々の培養は60mmのプラスチック製ペトリ皿において準備され(done in)、とさか組織約1.5gおよび培地15mlを含有した。培養物を5%CO2環境において72時間インキュベートした後、組織を10,000gで10分間遠心分離することによって培地から分離した。組織ペレットを30mmペトリ皿中で凍結した。通常、放射性標識された凍結とさか組織はヒランを調製するために処理を続行する前に1〜72時間、凍結保存された。
【0059】
B.放射性標識したヒラン液の調製
ヒランAを次のとおり調製した。凍結し放射性標識したとさか組織の切片を、アセトン、ホルマリン(37%ホルムアルデヒド溶液)、クロロホルム、および酢酸ナトリウムを含有する反応培地へ、反応培地の1gにつき0.75gの組織の比率で入れた。反応を18〜20時間進行させた後、組織切片を回収し、アセトンで3回洗浄した後、層流フードにおいて乾燥させた。次に、放射性標識したヒランを抽出するため、蒸留水の4容積を乾燥した組織切片へ添加した。この水性抽出を4〜6℃で実施した後、水性抽出物を摘出し、同量の水を二次抽出のために添加し直した。固体の酢酸ナトリウムを水性抽出物へ1%の濃度まで溶解し、95%エタノールの4容積へとゆっくり添加することによってヒラン線維を沈殿させた。放射性標識したヒラン線維をアセトンで2回洗浄し、アセトン下で冷却保存した。
【0060】
放射性標識したヒランA線維(40.3mg)をプールし、滅菌済みの、発熱物質を含まない、リン酸塩緩衝塩類溶液(Biotrics Inc., Ridgefield, NJ, lot 122-1)3.0ml中に、4℃で3日間ゆっくり回転混合することによって溶解した。完全に溶解した後、放射性ヒラン液を、標識していないヒラン液で5倍希釈した。混合物の4℃での回転混合をさらに5日間維持した。
【0061】
C.放射性標識したジェルの調製
ヒランジェル(ヒランB)へとヒラン液(ヒランA)を架橋するのに使用される反応混合物へトリチウム標識した水(New England Nuclear, 100 mCi/ml)を混合した。架橋反応を次のように実施した。ヒランA線維をトリチウム標識した水中で約3時間膨潤させた。濃水酸化ナトリウムを添加し、溶液が均質化するまで(約15分間)混合物を激しく撹拌した。ジビニルスルホンを水中で50%の濃度へと希釈し、反応混合物へ激しく撹拌しながら添加した。反応混合物を室温(22℃)でさらに55分間そのままにし、その間、多糖類鎖をジビニルスルホンによって連続したポリマージェル(ヒランジェル)へと架橋した。この反応をトリチウム標識した水中で実施することによって、トリチウムはジビニルスルホニル架橋内で炭素へ共有結合する。pHを12未満に下げるため、滅菌済みの、発熱物質のない塩類溶液の10容積の添加により、反応を終止させた。塩類溶液洗浄はまた、ヒランジェルをその平衡化水和まで膨潤させた。ヒランジェルを塩類溶液で洗浄して、未反応のジビニルスルホン、未反応のトリチウム、および他の反応性産物を除去し、pHを7まで下げた。過剰の塩類溶液をジェルからろ過により分離した後、ジェルを25g針に5回通過させ、固体のジェルから簡単に注入可能な形態へと分解した。この形態において、トリチウム標識したジェルを滅菌済みの、発熱物質のない塩類溶液に対して徹底的に透析し、共有結合していないいずれのトリチウムも除去した。
【0062】
D.ヒランジェル−ヒラン液混合物の調製
トリチウム標識したヒランジェル(3.04g)を14C-ヒラン液11.63gへ直接添加し、混合物をグレンミルズ(Glen Mills)ミキサーに48時間置いた。次に、混合物を18g、21g、および25g針に連続して10回通過させ、均質性および注入の簡便性を確実にした。
【0063】
E.HA濃度および放射性標識量の測定
混合物のジェルおよび液体成分におけるヒラン多糖類の濃度を、自動カルバゾール(carbazole)手法により決定し、その反復するグルクロン酸単量体(3)をアッセイし、(2.07)を乗じて、ヒラン多糖類鎖の残余を計上した。グルクロン酸の決定の前に、ジェルの計量した0.1g試料をきつくキャップしたねじぶた式のチューブの中で0.2mlの1N H2SO4へ添加することによって、ヒランジェルを加水分解し、酸加水分解を100℃で2時間進行させた。この手法によって完全に可溶化した試料を、HAを分析する前に、0.2mlの1N NaOHでカルバゾール手法によって中和した。
【0064】
カルバゾール手法は、試料中にヘキスロン酸(グルクロン酸)の量を測定することを含む。比色法によってヘキスロン酸濃度を決定するための方法は、Dische et al. (1947) J. Biol. Chem., 167:189-198によって報告された。方法は、ヘキスロン酸の硫酸およびカルバゾールとの色素反応に基づいている。ヘキスロン酸の決定のための更新された自動化方法は、Balazs et al. (1965) Anal. Biochem., 12:547-558によって報告された。試料を硫酸/ホウ酸塩媒体中で加熱し、カルバゾールと反応させる。カルバゾールはヘキスロン酸と反応して、530nmで吸光最大値を有するピンク色の複合体を形成する。自動化方法について、試料および標準物質を、ぺリスタポンプを使用する連続流分析装置を通じて吸引する。試薬(酸およびカルバゾール)を添加し、反応チャンバー中で加熱し、吸光度を連続流比色計によって530nmで読み取る。
【0065】
シンチレーション剤としてScintiverse Bio HP (Fisher Scientific)を使用するISOCAP 300液体シンチレーションカウンタ(Nuclear Chicago)におけるシンチレーション計数によって、検査品の放射活性量を決定した。生CPMデータをDPMへ、ISOCAP300の外部標準物質比プログラムを使用して変換し、トリチウム液体シンチレーション消光標準物質、または炭素14液体シンチレーション消光標準物質(Amergham, Arlington Heights, II)に対して標準化した。
【0066】
F.シンビスク(登録商標)残留半減期の決定
シンビスク(登録商標)ならびにそのジェルおよび液体成分の膝関節からのクリアランスを、2.5〜3.5kgの体重のニュージーランド白ウサギにおいて決定した。ウサギをそれぞれ24時間目、3、7、および28日目で屠殺した。基本的に上述のように調製された放射性材料を0.3mlの関節内注入として投与した(0.086ml/kg体重)。この投与レベルは、シンビスク(登録商標)の70kgのヒトへの単回の6ml投与と等価であると期待される。他の動物に投与されるべき対応する量は、同様に動物の体重に直接比例する。
【0067】
DPMを上述に概略されるように各組織について得、適切な場合、DPM/mgを直接算出した。回収される総DPMおよび各関節組織についてのDPMおよびDPM/mgの両者を各動物について個別に算出した。これらの値を次に、各時点について平均し、平均±平均の標準誤差として表した。報告された算出平均値は最小で有意な2桁の数値であり、値が小さく動物対動物の変動が大きかった場合にあってもそうであった。各時点で関節から回収される総平均DPMを、個々の動物の合計を平均することによって算出した。
【0068】
各時点についての平均を指数関数(Y=Aekx)へ適合させることによって、半減期の決定を行った。概算値の標準誤差を曲線適合から得、Aで割ることによって期待されるパーセント誤差を得た。これを半減期によって乗じ、半減期の期待される誤差を得た。
【0069】
G.結果
シンビスク(登録商標)のジェル成分(ヒランB)は、より長い半減期の部分である。放射性材料のクリアランスに基づいて、ジェル成分の残留半減期が7.7〜8.8日であると決定した。したがって、30日目までに、ジェルの95%超が排除されるであろう。ジェルの実験的に決定された半減期に基づいた理論上の算出を実施して、単回6ml注入後のヒト関節において存在すると期待されるジェルの量を概算した。ジェル約6mgをヒト対象の膝へ注入したと仮定して、注入21日後で、残留するジェルの量は約0.9mgであろう。
【0070】
シンビスク(登録商標)の液体成分(ヒランA)は、ジェル成分よりも迅速に排除される。液体成分の半減期を1.2〜1.5日であると決定した。7日までに、注入した材料の99%がウサギ膝関節から排除されていた。
【0071】
ウサギ筋肉インプラント研究も実施した。包埋7日後および30日後での顕微鏡検査は、いずれの残留検査材料も検出せず、このことは関節内クリアランスの研究と一致する。
【0072】
本明細書は、本明細書内で引用される参考文献の教示を鑑みて最大限に完全に理解される。明細書内の態様は、本発明の態様の例示は、本発明の範囲を制限するよう解釈されるべきではない。当業者は、多くの他の態様が本発明によって包含されることを容易に認識する。本開示において引用されるすべての刊行物および特許は、それらの全体において参照により組み入れられる。参照により組み入れられる資料が本明細書と矛盾するかまたは不一致であるならば、いずれのこのような資料も本明細書によって置き換えられるであろう。本明細書のいずれかの参考文献の引用は、このような参考文献が本発明に対する先行技術であることを承認するものではない。
【0073】
別段の記載がなければ、請求項を含む明細書において使用される成分の量、細胞培養および治療条件等を表すすべての数は、「約」という語によってすべての場合において改変されるものとして理解されるべきである。したがって、これに反する別段の記載がなければ、数の因子は近似値であり、本発明によって得られるべきであると探求される望ましい特性に依存して変動し得る。別段の記載がなければ、一連の要素に先行する「少なくとも」という語は、その一連における各要素を指すものと理解されるべきである。当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の態様に対する多くの等価物を認識するか、または日常的な実験を超えない程度の実験によって確かめることができるであろう。このような等価物は、上述の請求項によって包含されるべきであることが企図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ml以上の単回関節内投与からなる、対象の膝関節を治療するための粘性補充方法。
【請求項2】
粘性補充剤が20mg/ml未満のHAを含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
単回投与における粘性補充剤の総容積が6±2ml以上である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
量が6mlである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
粘性補充剤が関節痛の治療を要する対象へ投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
粘性補充剤の単回投与が少なくとも4ヶ月間治療上効果的である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
粘性補充剤が以下のような1つ以上の特徴によって特徴付けられる、請求項1記載の方法:
(i)粘性補充剤が3週間未満の残留半減期を有し、
(ii)粘性補充剤が20mg/ml未満のHAを含有し、
(iii)粘性補充剤中のHAの5%(w/w)以上がジェルの形態にある。
【請求項9】
残留半減期が3日を超える、請求項8記載の方法。
【請求項10】
粘性補充剤が8±2mg/mlのHAを含有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
粘性補充剤におけるHAが動物由来である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
粘性補充剤が雄鶏のとさかから製造される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
粘性補充剤におけるHAが細菌由来である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
粘性補充剤の少なくとも一画分が架橋された、請求項1記載の方法。
【請求項15】
架橋剤がホルムアルデヒドである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
粘性補充剤がヒランAを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ヒランA中のHAの平均分子量が6,000kDaである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
架橋剤がジビニルスルホンである、請求項14記載の方法。
【請求項19】
粘性補充剤がヒランBを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
粘性補充剤がヒランAおよびヒランBを含む、請求項14記載の方法。
【請求項21】
ヒランA/ヒランBの比がHAの重量による9:1である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
粘性補充剤が8±2mg/mlのHAを含有し、そのうちの10重量%がジェルの形態にある、請求項1記載の方法。
【請求項23】
粘性補充剤がシンビスク(Synvisc)(登録商標)である、請求項1記載の方法。
【請求項24】
粘性補充剤がさらに、非ステロイド性抗炎症剤、麻酔剤、オピオイド鎮痛薬、副腎皮質ステロイド、抗悪性腫瘍剤、および抗ウィルス剤からなる群より選択される成分を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
6±2mlのシンビスク(登録商標)の単回関節内投与からなる、ヒトの対象の膝関節を治療するための粘性補充方法。
【請求項26】
投与される量が6mlである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
請求項1の粘性補充方法を含む、関節の病態を治療する方法。
【請求項28】
関節の病態が変形性関節症と関連する、請求項27記載の方法。
【請求項29】
6±2mlのシンビスク(登録商標)の単回関節内注入を投与することを含む、ヒトの対象の膝関節における変形性関節症の疼痛を治療する方法。
【請求項30】
量が6mlである、請求項31記載の方法。
【請求項31】
シンビスク(登録商標)の4ml以上を含有するシリンジを含む、粘性補充デバイス。
【請求項32】
滅菌済みの、請求項31記載のデバイス。
【請求項33】
シリンジがシンビスク(登録商標)の6±2mlを含有する、請求項31記載のデバイス。
【請求項34】
シリンジ中のシンビスク(登録商標)の量が6mlである、請求項31記載のデバイス。
【請求項35】
シンビスク(登録商標)がさらに、非ステロイド性抗炎症剤、麻酔剤、オピオイド鎮痛薬、副腎皮質ステロイド、抗悪性腫瘍剤、抗ウィルス剤、および細胞からなる群より選択される成分を含む、請求項31記載のデバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−35860(P2013−35860A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−213895(P2012−213895)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2007−549479(P2007−549479)の分割
【原出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】