説明

防汚剤、防汚性樹脂組成物及び防汚フィルム

【課題】 良好な防汚性を有する防汚剤、該防汚剤を含有する樹脂組成物及び、防汚フィルムを提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物を1種以上含む防汚剤であって、式(1)中のRの炭素数が19以上である成分が、式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物中の50重量%以上である防汚剤。
R−CONH−(CH−NHCO−R (1)
(式中、nは1〜6の整数を表し、Rは脂肪族基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な防汚性を有する防汚剤、該防汚剤を含有する樹脂組成物及び、防汚フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な壁紙として、難燃性の裏打紙等の基材に塩化ビニル樹脂層と印刷層とを設けた塩化ビニル樹脂製壁紙や、発泡剤を添加した塩化ビニル樹脂ペーストを塩化ビニル樹脂シート上に塗布し、発泡により表面に凹凸模様を形成した発泡壁紙などが知られている。また、これらの壁紙には、意匠性を付与するため、表面強度を向上するため、或いは表面の光沢感を低下させるために機械的なエンボス加工が施されているのが一般的である。
【0003】
このような一般的な塩化ビニル樹脂製の壁紙は、軽度の汚れであれば拭き取りによって除くことができるが、汚れの種類や量によっては汚れが残存してしまう。このため、壁紙には、飲料や調味料等の飲食品、水性ペンやクレヨン等の筆記具、手垢、タバコの煙等の汚れが残存しないこと、特に、液状の物質が壁紙内に浸透しないようにすることが望まれる。
このため、防汚性を有する壁紙が種々検討されている。壁紙の防汚性を改良する手法としては、壁紙の最表面にエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)等からなる透明フィルムをラミネートする方法が提案されている(特許文献1、2参照)。この方法によれば、下層に汚染物質が浸透することを防ぎ、また、裏面の水性糊等が乾燥することも防ぐことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−140345号公報
【特許文献2】特開平8−309903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような特性を発揮するためには、壁紙表面がEVOHで完全に被覆されていることが必要である。一方、一般的な壁紙は表面がエンボス加工されているため、凹凸差の大きいエンボス加工を行う場合は、エンボス加工時にEVOH層が引き伸ばされて薄くなり、場合によってはEVOH層が破れ、所期の目的を達成し得ないという問題があった。これを改良するためにEVOH層を十分に厚くすることが考えられるが、壁紙を製造する際の成形性が悪化し、しかもコストも大幅に悪化するという問題があった。
【0006】
以上の通り、従来は凹凸差の大きな表面をもつ壁紙等においても、十分な防汚性を備えることは困難であり、如何にすれば達成することが可能であるかは明らかでなかった。また、このような問題は壁紙のみならず、床材等の内装材や家具の表皮材等においても同様であった。
本発明は、良好な防汚性を有する防汚剤、該防汚剤を含有する樹脂組成物及び、防汚フィルムを提供することを課題とする。
本発明は、表面にエンボス加工等の物理的処理を行ったフィルムを製造する場合においても良好な防汚性を付与し得る防汚剤、該防汚剤を含有する樹脂組成物及び、防汚フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、防汚剤として特定の化学構造をもつ脂肪酸ビスアミド化合物を用いることにより、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[7]を要旨とする。
[1] 下記一般式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物を1種以上含む防汚剤であって、式(1)中のRの炭素数が19以上である成分が、式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物中の50重量%以上である防汚剤。
R−CONH−(CH−NHCO−R (1)
(式中、nは1〜6の整数を表し、Rは脂肪族基を表す。)
[2] 熱可塑性樹脂100重量部に対し、[1]の防汚剤を0.5〜40重量部含有することを特徴とする防汚性樹脂組成物。
[3] 熱可塑性樹脂100重量部に対し、下記一般式(1)で表され、式(1)中のRの炭素数が19以上である脂肪酸ビスアミド化合物を0.5〜40重量部含有することを特徴とする防汚性樹脂組成物。
R−CONH−(CH−NHCO−R (1)
(式中、nは1〜6の整数を表し、Rは脂肪族基を表す。)
[4] 熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂又は塩化ビニル樹脂である[2]又は[3]の防汚性樹脂組成物。
[5] [2]〜[4]の何れかの防汚性樹脂組成物を成形してなる成形体。
[6] [2]〜[4]の何れかの防汚性樹脂組成物を少なくとも表面に有する防汚フィルム。
[7] [2]〜[4]の何れかの防汚性樹脂組成物を少なくとも表面に有する壁紙。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な防汚性を有する防汚剤、該防汚剤を含有する樹脂組成物及び、防汚フィルムを提供することができる。
本発明によれば、表面にエンボス加工等の物理的処理を行ったフィルムを製造する場合においても良好な防汚性を付与し得る防汚剤、該防汚剤を含有する樹脂組成物及び、防汚フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明において防汚とは、固体の表面や内部に、他の物質が付着や接触(含浸する場合も含む)した場合に、洗浄、払拭等によって該固体の表面や内部から該他の物質を除去することを可能とするための処理、或いは、固体の表面や内部に、他の物質(液体や固体、これらの混合物等)が付着や接触(含浸する場合も含む)することを抑制するための処理や付着力を低減させるための処理等を意味する。また、本発明において防汚剤とは、成形品等に含有または被覆させることによって、該成形品の防汚性を向上し得るものをいう。
【0011】
<防汚剤>
先ず、本発明の防汚剤について説明する。本発明では、下記一般式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物が、脂肪族基Rの化学構造を制御することにより、防汚性能を顕著に改良し得ることを見出した。すなわち本発明の防汚剤は、下記一般式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物を1種以上含み、かつ式(1)中のRの炭素数が19以上である成分を、式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物中の50重量%以上で含有する。
R−CONH−(CH−NHCO−R (1)
(式中、nは1〜6の整数を表し、Rは脂肪族基を表す。)
【0012】
炭素数が19以上である脂肪族基Rをもつ式(1)の化合物としては、一方の末端のみが炭素数が19以上であってもよいが、防汚性能及び製造の容易さの観点から、両末端が炭素数が19以上であることが望ましい。また、両末端の脂肪族基Rは同一であっても異なっていてもよいが、防汚性能及び製造の容易さの観点から、同一であることが好ましい。
炭素数が19以上である脂肪族基Rをもつ式(1)の化合物が防汚性能を発揮するメカニズムは明らかではないが、脂肪酸ビスアミド化合物の分子末端に長鎖の脂肪族鎖を有することにより、該脂肪酸ビスアミド化合物を熱可塑性樹脂等に含有させた際に、当該脂肪族鎖部分が熱可塑性樹脂組成物の表面に露出することが有効に働くものと考えられる。更には、脂肪酸ビスアミド化合物の結晶構造が安定しているため、熱可塑性樹脂組成物の表面から脂肪酸ビスアミド化合物が容易に脱離(ブリードアウト)することを抑制しているものと考えられる。
【0013】
炭素数が19以上の脂肪族基Rを両末端に有する脂肪酸ビスアミド化合物とすることにより、乱れの少ない結晶構造を形成することが可能である。このことにより汚れと接触した際に、汚れと絡み合うことが抑制されるため、良好な防汚性能を発揮することができると考えられる。
また、炭素数が19以上の脂肪族基を両末端に有する脂肪酸ビスアミド化合物を含有することで融解温度が高くなる。このことにより高温環境下で使用された場合においても、融解温度が高いが故にその結晶構造を保持することができ、汚れが付着するのを防ぐことができ、経時的に安定で良好な防汚性能を発揮することができる。
【0014】
本発明の防汚剤は、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である成分を、式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物中の50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上で含有する。Rの炭素数が19以上である成分を前記下限値以上の含有量で有することにより、良好な防汚性能を発揮することができる。
【0015】
なお、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である成分割合の上限は100重量%であるが、該割合が100重量%でなくとも防汚性の点では遜色無い場合があり、原料の純度や精製コスト等の理由から99.9重量%以下、更には99重量%以下であってもよい。前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物を得る手段としては、天然由来の成分として得ることが有効であるが、通常、天然由来の成分には前記式(1)中のRの炭素数が18未満のものも含有している場合が多い。そのような場合であっても、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物を前記の下限値以上の含有量で含有することにより、目的とする防汚性を発揮しつつ過度の精製を行わずに済むという利点がある。
前記式(1)中のRの炭素数の同定、定量は、ガスクロマトグラフィー(GC/FID)法で分析することができる。具体的には、脂肪酸ビスアミドを加水分解した後、脂肪酸をトリメチルシリル誘導体とし、これをガスクロマトグラフィーで分析することによって確認することができる。
【0016】
脂肪酸ビスアミド化合物を構成する脂肪族基(前記式(1)中のR)が長鎖であるほど防汚性能の観点では好ましいが、入手の容易さから、好ましくは炭素数19〜27、より好ましくは炭素数19〜23、更に好ましくは炭素数21〜23の脂肪族基を有する脂肪酸ビスアミド化合物を前記の含有量で有することが望ましい。脂肪族基の炭素数が前記範囲の脂肪酸ビスアミド化合物を用いることにより、更に良好な防汚性能が得られる傾向がある。
【0017】
脂肪酸ビスアミド化合物における脂肪族基(前記式(1)中のR)は、直鎖脂肪族基で
あっても分岐を有する脂肪族基であってもよいが、好ましくは直鎖脂肪族基である。脂肪酸ビスアミド化合物における脂肪族基が直鎖であると、防汚性能が良好となる。その理由は明らかではないが、炭素数が19以上の直鎖脂肪族基を有する脂肪酸ビスアミド化合物は乱れの少ない結晶構造を形成可能であるためと考えられる。
脂肪酸ビスアミド化合物における脂肪族基(前記式(1)中のR)は、飽和脂肪族基であっても不飽和脂肪族基であってもよいが、好ましくは飽和脂肪族基である。該脂肪族基の例としては、ノナデシル基、イコサニル基、ヘンイコサニル基、ドコサニル基、及びトリコサニル基等が挙げられる。
以上の中でも、炭素数21〜23のアルキル基が好ましく、具体的にはヘンイコサニル基及びトリコサニル基が特に好ましい。
【0018】
脂肪酸ビスアミド化合物における2つのアミド基を連結する2価の連結基(前記式中−(CH−)は、nが1〜6のものであればよいが、具体的には、メチレン基、エチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基が含まれる。好ましくはメチレン基又はエチレン基である。
本発明の防汚剤は、前記一般式(1)に該当する化合物として、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である成分を単独で用いても、異なる化合物を2種以上併用してもよい。
【0019】
前記式(1)に該当する化合物のうち、前記式(1)中のRの炭素数が19以上ではない、すなわち炭素数が18以下である成分を構成する脂肪族基(前記式(1)中のR)としては、例えばオクタデシル基、ヘプタデシル基、ヘキサデシル基、ペンタデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。その場合の2つのアミド基を連結する2価の連結基としては、上記のRの炭素数が19以上である成分としての例示と同様の連結基が挙げられる。これらRの炭素数が18以下ある成分についても、これらを単独で用いても、異なる化合物を2種以上併用してもよい。
【0020】
脂肪酸ビスアミド化合物は、所定の脂肪酸と所定のアルキレンジアミンとを常法に従ってアミド化するという一般的な方法によって製造することができる。また、アミド化して得られた脂肪酸ビスアミド化合物は、常法により精製してもよい。
一般的な脂肪酸ビスアミド化合物の製造方法としては、例えば、温度100〜250℃、不活性ガス雰囲気の常圧下若しくは加圧下、必要に応じて水素化ホウ素アルカリ化合物、亜リン酸、次亜リン酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩等の存在下で、脂肪酸とアルキレンジアミンとを反応させることで製造することができる。
【0021】
前記式(1)中のRの炭素数が19以上である脂肪酸ビスアミド化合物を製造する際に原料となる脂肪酸としては、炭素数20以上、好ましくは炭素数20〜28、より好ましくは炭素数20〜24、更に好ましくは炭素数22〜24の脂肪酸が好ましく、その例には、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。好ましくはベヘン酸、リグノセリン酸である。なお、原料として用いる脂肪酸の炭素数に分布を有する場合は、得られる脂肪酸ビスアミドの分子構造は種々のものが得られるが、前記一般式(1)に該当する脂肪酸ビスアミドとしてRの炭素数が19以上である成分を前記の含有割合で有していれば、異なる分子構造をもつ脂肪酸ビスアミドの混合物であってもよい。
【0022】
前記式(1)中のRの炭素数が19以上である脂肪酸ビスアミド化合物を製造する際に原料となるアルキレンジアミンとしては、炭素数1〜6のアルキレンジアミンが好ましく、その例には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。好ましくはメチレンジアミン、エチレンジアミンが挙げられ、より好ましくはエチレンジアミンである。
【0023】
<防汚性樹脂組成物>
本発明の防汚性樹脂組成物は、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物と、熱可塑性樹脂とを含有する組成物である。
また、本発明の防汚性樹脂組成物は、前記の本発明の防汚剤、すなわち前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物が前記式(1)に該当する化合物の90重量%以上である防汚剤と、熱可塑性樹脂とを含有する組成物であってもよい。
これらの何れかの防汚性樹脂組成物とすることにより、該樹脂組成物を成形して得られた成形品が優れた防汚性を発現することができる。
【0024】
本発明の防汚性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂は限定されないが、具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。更には、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーも本発明の防汚性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂に包含される。これらの中でも、ポリオレフィン樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル樹脂が好適である。これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
[ポリオレフィン樹脂]
防汚性樹脂組成物に使用することができるポリオレフィン樹脂は限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の単独重合体、それら同士あるいはそれらと3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数2〜20程度の他のα−オレフィンや、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等との共重合体等が挙げられる。
【0026】
ポリオレフィン樹脂として具体的には、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等(分岐状又は直鎖状)のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物を含む)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系樹脂;プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂;及び1−ブテン単独重合体、1−ブテン−エチレン共重合体、1−ブテン−プロピレン共重合体等の1−ブテン系樹脂;ノルボルネンの開環メタセシス重合体やノルボルネン誘導体−エチレン共重合体等の所謂環状ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0027】
ここでエチレン系樹脂とは、原料モノマーとしてエチレンを主要成分とし、好ましくはエチレンを50重量%以上含有する重合体を意味する。また、プロピレン系樹脂とは、原料モノマーとしてプロピレンを主要成分とし、好ましくはプロピレンを50重量%以上含有する重合体を意味する。1−ブテン系樹脂についても同様である。
【0028】
ポリオレフィン樹脂として共重合体を用いる場合の連鎖形式は限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等の何れであってもよい。また、重合に用いる触媒も公知のものを適宜採用することができる。
また、ポリオレフィン樹脂としては、これらのポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体や不飽和シラン化合物等で変性したものであってもよい。
これらのポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、更に好ましくは10g/10分以下であることが望ましい。ここでMFRは、ポリオレフィン系樹脂がプロピレン系樹脂である場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン樹脂がエチレン系樹脂、1−ブテン系樹脂またはその他のポリオレフィン樹脂である場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味する。ポリオレフィン樹脂のMFRが前記下限値未満では、流動性が低すぎるため成形が困難となる傾向にあり、MFRが前記上限値を超過する場合は流動性が高すぎて成形が困難となる傾向にある。
【0030】
[プロピレン系樹脂]
本発明の防汚性樹脂組成物に用いるポリオレフィン樹脂は、その用途により好適な樹脂が異なるが、壁紙用に用いる際はプロピレン系樹脂が好適である。
防汚性樹脂組成物に用いるプロピレン系樹脂は、前記の通り、プロピレンを主成分とする樹脂であれば限定されないが、通常、プロピレン単量体単位を50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上有する重合体であることが望ましい。プロピレン単量体単位の上限は限定されず、プロピレン単独重合体であってもよいが、好ましくはプロピレン単量体単位を98重量%以下、より好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下で有する共重合体である方が望ましい。プロピレン系樹脂を構成するプロピレン単量体単位を前記上限値以下とする方が、防汚性能が良好となる傾向にある。
【0031】
プロピレンと共重合する単量体は、共重合可能な化合物であれば限定されないが、具体的には、エチレン;1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1ペンテン、3−メチル−1ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数が3〜20程度のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレート;酢酸ビニル、ビニルアルコール、無水マレイン酸等の極性モノマー;スチレン、スチレン誘導体等のスチレン系モノマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、前記(メタ)アクリレートについても同様である。これらの単量体は、1種を用いても2種以上を併用してもよい。中でも、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、炭素数が3〜20程度のα−オレフィンが好ましい。
【0032】
このような共重合体は限定されないが、具体的には、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレンとその他のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンと極性モノマーとの共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、プロピレン系樹脂としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体が好ましい。
【0033】
本発明におけるプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は限定されないが、通常1500MPa以下、好ましくは700MPa以下、より好ましくは600MPa以下であることが望ましい。また、曲げ弾性率の下限は限定されないが、通常、5MPa以上、好ましくは10MPa以上、より好ましくは15MPa以上である。
【0034】
[塩化ビニル樹脂]
防汚性樹脂組成物に使用することができる塩化ビニル樹脂は限定されないが、塩化ビニルの単独重合体または共重合体が挙げられる。
塩化ビニルに共重合体可能なモノマーは限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸またはそのエステル、アクリル酸またはそのエステル、メタクリル酸またはそのエステル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、部分的に架橋された樹脂であってもよい。また、塩化ビニル樹脂のポリマーブレンド物、たとえば、塩化ビニル樹脂とポリ塩化ビニリデンからなるポリマーブレンド物を用いてもよい。
これらのうち、塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体が好ましい。
【0035】
塩化ビニル樹脂の平均重合度は限定されないが、通常、500〜6000、好ましくは800〜3000であることが望ましい。
塩化ビニル樹脂の還元粘度(K値)は限定されないが、JIS K7367−2に準拠した値として、通常、50〜110、好ましくは60〜90であることが望ましい。
塩化ビニル樹脂の製造方法は限定されず、例えば、懸濁重合法や塊状重合法、乳化重合法等により製造することができる。また、塩化ビニル樹脂の微粒子を有機媒体に分散させたプラスチゾルや水性ラテックスであってもよい。
【0036】
塩化ビニル樹脂は、可塑剤を含有していることが好ましい。塩化ビニル樹脂に用いる可塑剤は限定されないが、具体的には、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ジウンデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジドデシルフタレート、ジイソクミルフタレート、ジノニルフタレートなどの炭素数1〜12のアルキル基を有するフタル酸エステル類;ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジヘキシルアゼレート、ジイソオクチルアゼレート、トリエチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリオクチルシトレート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレートなどの脂肪酸エステル類;トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリ−n−オクチル・トリメリテート、トリイソオクチル・トリメリテート、テトラ−(2−エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ−n−オクチル・ピロメリテート、テトライソオクチル・ピロメリテート、ビフェニルテトラカルボン酸テトラブチルエステル、ビフェニルテトラカルボン酸テトラペンチルエステル、ビフェニルテトラカルボン酸テトラヘキシルエステルなどの芳香族カルボン酸エステル類;トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどの正リン酸エステル類;塩素化パラフィン;塩素化脂肪酸エステル;エポキシ化大豆油;エポキシ化あまに油;エポキシブチルステアレート、エポキシオクチルステアレート;メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどが挙げられる。
これらの可塑剤は、1種の化合物のみを用いても、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0037】
可塑剤を用いる場合の配合量は限定されないが、塩化ビニル樹脂100重量部に対して
通常1〜150重量部、好ましくは15〜120重量部、より好ましくは20〜100重量部である。可塑剤の配合量が前記下限値未満であると、柔軟性が不十分となる傾向にある。一方、可塑剤の配合量が前記上限値を超えると、本発明の防汚性樹脂組成物を成形した成形品から可塑剤がブリードアウトする場合や、成形性が悪化する場合がある。
【0038】
塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂とともに安定剤を含有していてもよい。塩化ビニル樹脂に用いる安定剤は限定されないが、公知の塩化ビニル樹脂用安定剤等の中から適宜選択することが可能であり、例えば、三塩基性硫酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、ケイ酸鉛、オルトケイ酸鉛−シリカゲル共沈物、二塩基性ステアリン酸鉛、カドミウム−バリウム系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、錫系安定剤、及び、ハイドロタルサイト等のマグネシウム、アルミニウム、ケイ素等の無機塩を主成分とした安定剤等などが挙げられる。
これらの安定剤は、1種の化合物のみを用いても、2種以上の化合物を併用してもよい。
本発明において安定剤を用いる場合の配合量は限定されないが、塩化ビニル樹脂100重量部に対して通常1〜30重量部、好ましくは2〜20重量部、より好ましくは3〜15重量部である。安定剤が前記範囲で配合されていると、防汚性樹脂組成物を成形した成形品の熱安定性や成形性が良好となる傾向にある。
【0039】
<その他の成分>
本発明の防汚性樹脂組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、添加剤を配合することができる。添加剤としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、造核剤、可塑剤、衝撃改良剤、相溶化剤、消泡剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、滑剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤等は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用しても良い。
【0040】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0041】
造核剤としては、ソルビトール化合物及びその金属塩;安息香酸及びその金属塩;燐酸エステル金属塩;エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスアクリル酸アミド、エチレンビスアクリル酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸ビスアミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、2,6−ナフタレンジカ
ルボン酸ジアニリド、N,N’,N’’−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N’−ジベンゾイル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、N,N’−ジシクロヘキサンカルボニル−1,5−ジアミノナフタレン、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド等アミド化合物等が挙げられる。また、無機結晶核剤としては、タルク、カオリン、シリカ等が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物において、これら添加剤を使用する場合のその含有量は限定されないが、防汚性樹脂組成物中に、通常0.01重量%以上、好ましくは0.2重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下であることが望ましい。なお、これらの添加剤は、本発明の防汚性樹脂組成物をマスターバッチとして用いる場合には、前記した含有量の2〜50倍、好ましくは3〜30倍の濃度で含有させることもできる。
【0043】
<防汚性樹脂組成物>
本発明の防汚性樹脂組成物における熱可塑性樹脂と前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物との含有割合は限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対し、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物を、通常0.5重量部以上、好ましくは1重量部以上、より好ましくは2重量部以上含有し、一方、通常40重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下で含有する。前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物の含有割合が前記下限値未満の場合は、防汚性能が十分に発現されない場合がある。一方、前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物の含有割合が前記上限値を超過する場合は、過剰な脂肪酸ビスアミド化合物が樹脂組成物から漏出する場合や、樹脂組成物を成形して得られる成形品(防汚フィルム等)の機械的強度が低下する場合がある。
【0044】
なお、本発明の防汚性樹脂組成物が、前記の本発明の防汚剤、すなわち前記式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物が前記式(1)に該当する化合物の90重量%以上である防汚剤と、熱可塑性樹脂とを含有する組成物である場合については、上記の「式(1)中のRの炭素数が19以上である化合物」を本発明の防汚剤に読み替えて適用するものとする。
【0045】
本発明の防汚性樹脂組成物のMFRは特に限定されないが、230℃、荷重2.16kg(21.18N)の条件で、通常0.5〜50g/10分、好ましくは1〜30g/10分、より好ましくは2〜25g/10分である。MFRが前記下限値よりも小さい場合には、高速での成形が困難となる場合がある。また、MFRが前記上限値よりも大きい場合には、樹脂組成物を成形して得られる成形品(防汚フィルム等)の機械的強度が低下する場合がある。
【0046】
本発明の防汚性樹脂組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。混合の方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した組成物を得ることができる。
より均一な混合・分散のためには、所定量の上記原料成分を溶融混合することが好ましく、例えば、本発明の防汚性樹脂組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合しても良いし、各原料成分等の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0047】
混合方法や混合条件は、各原料成分等が均一に混合されれば特に制限は無いが、生産性
の点からは、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて原料を混合し、単軸押出機や2軸押出機のような連続混練機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機で溶融混練する方法が好ましい。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行う場合が多い。
【0048】
<成形品>
本発明の防汚性樹脂組成物から得られる成形品には限定は無く、種々の押出成形品や射出成形品とすることができる。成形品の製造方法も特に制限は無く、具体的には、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形及び、シート成形後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の各種成形方法が挙げられる。これらの成型品としては、本発明の防汚性樹脂組成物を表面に有する成型品であることが好ましい。
また、本発明の防汚性樹脂組成物を単独で使用し、単層シートなどの成形品とすることもできるが、本発明の防汚性樹脂組成物は防汚性に優れるので、該防汚性樹脂組成物を有する積層体として利用するとより効果的である。
本発明の防汚性樹脂組成物を用いた積層体は、本発明の防汚性樹脂組成物からなる層(以下、防汚性樹脂組成物層という場合がある)を含む2層または3層以上に積層された積層体であり、具体的には、積層シート、積層フィルム、積層チューブ等が挙げられる。防汚性樹脂組成物層以外の層(以下、他の層という場合がある)を構成する材料は限定されないが、具体的には、金属層や樹脂層が例示される。特に、本発明の防汚性樹脂組成物を表面に有する積層体であることが好ましい。
【0049】
<防汚フィルム>
本発明の防汚性樹脂組成物は防汚性に優れるため、壁紙を含む防汚フィルムにおける表層に用いると好適である。本発明の防汚フィルムは、本発明の防汚性樹脂組成物を防汚層として有していれば、該防汚層のみを単独で成形した単層フィルムであってもよいが、他の層を有する積層体であってもよい。これらの他の層としては、基材や粘着剤層等、公知の防汚フィルムや壁紙が有する層であれば限定されない。
【0050】
防汚フィルムを製造する際の成形方法は制限されないが、溶融押出成形が好ましい。溶融押出成形では、本発明の防汚性樹脂組成物からなるペレット等を押出機からフィルム状又はシート状に押出成形することによって防汚フィルムを得ることができる。
また、積層体としての防汚フィルムは、共押出成形や押出ラミネート成形、押出コーティング等により製造することが好ましい。
共押出成形を行う場合、本発明の防汚性樹脂組成物と、他の層を構成する樹脂等とを異なる押出機から押出し、ダイス内で積層化して成形する。本発明の防汚性樹脂組成物は防汚性が良好であるので、他の層として用いる樹脂を適宜選択することによって、共押出成形によっても良好な防汚フィルムを得ることができる。なお、共押出成形によって3層以上の層構成の積層体とすることもできる。
【0051】
積層体としての防汚フィルムを押出ラミネート成形または押出コーティングにより製造する場合は、通常、少なくとも1層の基材層が用いられる。すなわち、既に成形されたフィルム等の基材層を巻き出すとともに、該基材層の表面に溶融樹脂等をラミネートしたり、溶液を塗布・乾燥してコーティングしたりする方法である。
本発明の防汚フィルムは、通常、本発明の防汚性樹脂組成物を有する層を表層とするが、更にその表面にコーティング層を設けてもよい。
【0052】
本発明の防汚フィルムの厚さは特に制限されないが、通常0.1〜300μm、好ましくは0.5〜200μmである。
また、防汚フィルムが積層体の場合の防汚層の厚さも特に制限されないが、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μmである。防汚層の厚さが前記範囲であると、厚さの不均一による防汚性能の低下がなく、また経済的にも好ましい。
本発明の防汚フィルムの用途は特に限定するものではないが、優れた防汚性を有することから、壁紙、床材、天井材等の内装材や家具、事務用品、電気機器、自動車部材、文房具等の表皮材等において好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0054】
[防汚層の原料]
<プロピレン系重合体>
・A−1: 日本ポリプロ株式会社製、ウェルネックスPP、RFG4VA(MFR(230℃、2.16kg)6g/10分、曲げ弾性率250MPa、プロピレン・エチレン共重合体)
【0055】
<防汚剤>
・B−1: ベヘニン酸ビスアミド
ベヘン酸(C2143COOH、東京化成工業社製、純度95%以上)115.6部を窒素雰囲気下140℃で融解し、そこにエチレンジアミン(和光純薬工業社製、純度99%以上)10部を添加した。添加後160℃まで加熱し、6時間反応を行った。反応中に生成した水分等はディーンスターク管を用いて分離除去した。反応後、室温まで冷却した後、キシレン1320部を添加し160℃に加熱して1時間攪拌して溶解させた。その後室温まで冷却して生成物を析出させ、これを濾別後、アセトン1600部中に分散させ再度濾別した。得られた生成物を80℃で12時間減圧乾燥し、ベヘニン酸ビスアミドを主成分とする脂肪酸ビスアミド(B−1)116.4部を得た。以下に記載のガスクロマトグラフィー(GC/FID)法で分析した結果、脂肪酸ビスアミド中のベヘニン酸ビスアミドの含有量は97.8重量%であった。
【0056】
〔脂肪酸ビスアミドの組成分析〕
脂肪酸ビスアミドを10mg精秤し、20cmヘッドスペース用バイアルに入れ、バイアルに47%臭化水素酸水溶液3cmを加えて密栓した。試料バイアルを150℃で4時間加熱し、試料バイアルが室温に戻った後、バイアル中の溶液を分液漏斗に取り出し、試料溶液にクロロホルム15cmを加え、抽出操作を行った。回収したクロロホルム相を窒素パージにより乾固し、得られた試料を70℃で1時間真空乾燥した。乾燥後の試料にジメチルホルムアミド500μL及びN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド1cmを加え、60℃で30分間加熱した。室温に戻った試料溶液をGC/FID分析に用いた。
ガスクロマトグラフィー装置は、Agilent Technologies社製「6890N」(カラム:Agilent J&W GCカラムDB−5MS、オーブン温度:80℃(1分)→10℃/分→290℃(12分)、注入口温度:300℃、検出器温度:320℃、キャリアガス:He)を使用した。
GC/FID法で得られたクロマトグラムにおいて、最大検出面積部の保持時間と標準試料(炭素数が既知である脂肪酸のトリメチルシリル誘導体)の保持時間とを比較することにより、脂肪族基の炭素数を決定した。各炭素数に帰属するピークについて、全検出面積に対する割合を百分率で表した値を各々の含有量とした。
【0057】
[支持層の原料]
・日本ポリプロ株式会社製、ノバテックPP FY4(MFR(230℃、2.16kg)5g/10分、プロピレン単独重合体)
【0058】
<実施例1>
A−1の100重量部に対し、B−1の6重量部を配合し、押出機(日本製鋼所社製、TEX30二軸押出機)にて230℃で溶融混練して防汚性樹脂組成物のペレットを得た。
この防汚性樹脂組成物のペレットを防汚層に用い、前記の日本ポリプロ株式会社製、ノバテックPP FY4を支持層の原料として、プラコー社製、多層Tダイ共押出成形機にて厚み50μm(防汚層:10μm、支持層:40μm)、幅25cmの積層体(防汚フィルム)を成形した。得られた積層体(防汚フィルム)を用い、以下の防汚性評価を行った。結果を表−1に示す。
【0059】
<防汚性評価>
防汚フィルムの防汚層側に、市販のケチャップ15gを直径35mmの円状に塗布し、常温で24時間放置した。その後、キムワイプ(日本製紙クレシア社製、商標)にて該ケチャップを拭き取った。拭き取り方法は、そのまま乾拭きする方法の他に、キムワイプ(商標)を水に浸して絞った状態で水拭きする方法の2通りとし、判断基準は以下とした。結果を表−1に示す。
○:塗布範囲全面積のうち、汚れ残りのある面積が1/4以下であり、防汚性が良好。
△:塗布範囲全面積のうち、汚れ残りのある面積が1/4を越える。
×:塗布範囲全面積のうち、ほぼ全範囲に汚れ残りがあり、防汚性が不十分。
【0060】
<実施例2、比較例1>
原料配合を表−1の通りとした以外は実施例1と同様にして防汚性樹脂組成及び防汚フィルムを製造し、実施例1と同様にして防汚性評価を行った。結果を表−1に示す。
<比較例2>
市販壁紙1(リリカラ社製、リリカラ壁紙「LV−8624」:表面はエチレン・ビニルアルコール共重合体)を使用し、実施例1と同様にして防汚性の評価を行った。結果を表−1に示す。
【0061】
<比較例3>
市販壁紙2(リリカラ社製、リリカラ壁紙「LV−8561」:表面はポリプロピレン系樹脂)を使用し、実施例1と同様にして防汚性の評価を行った。結果を表−1に示す。<比較例4>
市販壁紙3(リリカラ社製、リリカラ壁紙「LV−8266」:表面はポリプロピレン系樹脂を凹凸加工したもの)を使用し、実施例1と同様にして防汚性の評価を行った。結果を表−1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表−1の結果から、実施例の防汚フィルムは、比較例のフィルムに較べ、乾拭き、水拭きの何れにおいても良好にケチャップが拭き取られ、防汚性が顕著に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物を1種以上含む防汚剤であって、式(1)中のRの炭素数が19以上である成分が、式(1)で表される脂肪酸ビスアミド化合物中の50重量%以上である防汚剤。
R−CONH−(CH−NHCO−R (1)
(式中、nは1〜6の整数を表し、Rは脂肪族基を表す。)
【請求項2】
熱可塑性樹脂100重量部に対し、請求項1に記載の防汚剤を0.5〜40重量部含有することを特徴とする防汚性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂100重量部に対し、下記一般式(1)で表され、式(1)中のRの炭素数が19以上である脂肪酸ビスアミド化合物を0.5〜40重量部含有することを特徴とする防汚性樹脂組成物。
R−CONH−(CH−NHCO−R (1)
(式中、nは1〜6の整数を表し、Rは脂肪族基を表す。)
【請求項4】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂又は塩化ビニル樹脂である請求項2または3に記載の防汚性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか1項に記載の防汚性樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項6】
請求項2〜4の何れか1項に記載の防汚性樹脂組成物を少なくとも表面に有する防汚フィルム。
【請求項7】
請求項2〜4の何れか1項に記載の防汚性樹脂組成物を少なくとも表面に有する壁紙。

【公開番号】特開2013−35898(P2013−35898A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171050(P2011−171050)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】