説明

防護用具

【課題】防護用具に回転刃具が接触する等の予期せぬ事態に陥った場合に作業者の操作を必要としなくても回転刃具の回転を絡み付き部材の絡み付き抵抗によって緊急停止させて二次的被害を回避する際に、高速回転する回転刃具の切刃と絡み付き部材が係合し合う初期動作を確実に確保する。
【解決手段】誤って回転刃具101が防護用具10に接触すると、回転刃具101の切刃102によって表面部材30が切断され引き裂かれた時に、袋状の空間内に収容されていた絡み付き部材50の係合部が高速回転する回転刃具101の切刃102と確実に係合し合い、回転刃具101に対して絡み付き部材50を絡み付かせ、その、絡み付き抵抗によって回転刃具101の回転を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、刈払機の回転刃具から作業者の身体を守る防護用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、草刈り作業にあっては、例えば、刈払機が使用される。刈払機は回転刃具が高速で回転するところから、回転刃具から作業者の身体、特に、臑部を守る防護用具として、アラミド繊維織物、超高分子ポリエチレン繊維織物等の高強度繊維織物による防護スパッツ(ゲートル)、防護ズボン等、耐切創性に優れた着衣式の防護用具が種々提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。
【特許文献1】特開平6−212504号公報
【特許文献2】特開2004−244741号公報
【特許文献3】特開2006−63506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の防護用具は、作業中に刈払機の回転刃具が誤って作業者の身体に接触した時に、回転刃具による切創傷害から身体を防護するようになる。しかしながら、そのような不慮の危険な状態に遭遇した時に、作業者が何らかの停止操作を行わない限り、回転刃具は回転し続けるため、危険な状態は解消されず、緊急状態下で、更なる誤った操作によって二次的な災害を招く虞れがある。
【0004】
したがって、防護用具に回転刃具が触れる等突発的な事故が発生した場合に、更なる誤操作によって二次的な被害が生じることを未然に回避すべく、回転刃具の回転が直ちに停止することが望まれていたものである。
【0005】
そこで、本発明にあっては回転刃具が防護用具に作用した時に内部の絡み付き部材を回転刃具に絡み付かせ、その絡み付き抵抗によって回転刃具を停止させる際に、高速回転している回転刃具の切刃に対して確実に絡み付き部材を係合させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するためにこの発明による防護用具は、第1に、耐切創性を有する人体に取付け可能なベース部材と、回転刃具の切刃によって切断可能で前記ベース部材とで袋状の空間を作る表面部材と、前記表面部材の袋状の空間内に収容された絡み付き部材とを備え、前記絡み付き部材は、前記表面部材が回転刃具によって切断され切り裂かれた時に回転刃具の切刃と係合し合う係合部を有し、その係合部によって切刃に絡み付いた絡み付き部材の絡み付き抵抗で前記回転刃具を停止させることを特徴とする。
【0007】
第2に、人体に取付け可能な取付け部材と、回転刃具の切刃によって切断可能で前記取付け部材とで袋状の空間を作る表面部材と、前記表面部材の袋状の空間内に一定領域にわたって複数段に折畳まれた絡み付き部材とを備え、前記絡み付き部材は、前記表面部材が回転刃具によって切断され切り裂かれた時に複数段に折畳まれた厚みによって人体への切刃接触を阻止する阻止部材として働くと共に回転刃具の切刃と係合し合う係合部を有し、その係合部によって切刃に絡み付いた絡み付き部材の絡み付き抵抗で前記回転刃具を停止させることを特徴とする。
【0008】
この発明による防護用具は、好ましくは、前記絡み付き部材が高速回転する切刃と確実に係合し合い絡み付くことができる係合部の手段として可撓性を有する帯体の表面に多数の切刃係合用ループを設ける。あるいは、可撓性を有する帯体の表面にメッシュ材を波状に装着する。あるいは、可撓性を有する帯体の表面に切刃の回転方向に向かって傾斜する短冊状のメッシュ材を所定間隔をおいて多数装着する。あるいは、ベース部材と表面部材とで形成される収容空間に切刃の回転方向に向かって絡み付き部材を折畳むようにすることが望ましい。
【0009】
一方、防護用具の使い方としては足の外に腕、胴に着衣として使用できるようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明による防護用具の第1、第2によれば、誤って回転刃具が防護用具に接触すると、回転刃具の切刃によって表面部材が切断され切り裂かれた時に、袋状の空間内に収容されていた絡み付き部材の係合部は回転刃具の切刃と確実に係合し合い絡み付き部材は高速回転によって瞬時に絡み付く。この時、耐切創性を有するベース部材及び複数段に折畳まれた絡み付き部材を有する防護用具を足に使用すれば、足への切刃接触を、また、腕、胴に着衣として使用すれば、腕や胴への切刃接触を防ぐことができる。
【0011】
一方、驚いて作業機を手から離したり、気が動転してなにもしなくても回転刃具に絡み付いた絡み付き部材は、例えば、一端が固定された引き出し抵抗やギヤケースと回転刃具の間、安全カバーと回転刃具の間に絡み付く、その絡み付き抵抗によって回転刃具の回転を強制的に停止させることができる。この結果、二次的被害を未然に防ぐことができるようになり、安全性の向上が図れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明による防護用具の一つの実施形態を、図1を参照して説明する。
【0013】
図1は足を防護する防護用具10として使用するもので、基本的構成として、耐切創性を有するベース部材20と、全周を縫合60によってベース部材20に装着され、ベース部材20の一方の面(表面20A)との間に袋状収容室40を作る表面部材30と、袋状収納室40内に折り畳収容されて一端50Aを縫合61によってベース部材20に固定された帯状の絡み付き部材50とにより構成されている。
【0014】
防護用具10は、本実施形態では、防護スパッツとして構成されており、臑部に巻き付け装着するための締付ベルト70とベルト締結具71とがベース部材20の裏面20B側に取り付けられている。
【0015】
ベース部材20は、従来の防護用具と同等の耐切創性、つまり、回転刃具101(刈刃)の切刃102(図4参照)の侵入を阻止する機能を有する高強度材料、例えば、パラ型アラミドフェルト、高強力ポリアリレートフェルト、超高強力ポリエチレンマフェルト、ポリエステルフェルト、ナイロン織・編地、ポリエステル織・編地等を積層した積層体により構成されている。
【0016】
表面部材30は、回転刃具101の切刃102によって比較的容易に切断され得る材料、例えば、撥水加工されたナイロン・オックスツイル織物、ポリエステル・ツイル織物等により構成されていている。表面部材30は回転刃具101の切刃102と接触した際に、大きく切り裂かれるよう、縦横に張力を与えられた状態で、ベース部材20に縫着されていることが好ましい。
【0017】
絡み付き部材50は、回転刃具101の切刃102に係合して回転刃具101の回転によって回転刃具101に絡み付く帯状に作られている。性状は、布織物、編物のように可撓性を有していて、回転刃具101の切刃102によって切断されることがない強度を有し、しかも、回転刃具101に絡み付いても、破断することがない耐張力性を有する高強度・高張力材により構成されている。絡み付き部材50は、更には、軟らかくて若干の延伸性を有していることが好ましい。
【0018】
絡み付き部材50の全長は回転刃具101の全周長に応じて700〜1000mm程度、帯幅(横幅)は50〜150mm程度であればよい
このような絡み付き部材50として好適な材料としては、ナイロン+パラ型アラミド繊維交織・編地、ナイロンパラ型アラミド交織・編地、ポリエステル+パラ型アラミド繊維交織・編地、パラ型アラミドメッシュ織物交織・編地、ナイロンまたはポリエステル+ポリエチレン繊維交織・編地、PBO繊維織物・編物、ナイロンまたはポリエステル+ポリアリレート繊維交織・編地、ナイロン織・編地、ポリエステル織・編地、ビニロン織・編地、ポリプロピレン織・編地を2種類以上組み合わせものがある。なかでも、東レ・デュポン社製のKEVLAR(商標名)に代表されるパラ型アラミド繊維(ポリパラフェレンテレンラミド繊維)による交織・編地、メッシュ交織・編地が好ましい。
【0019】
絡み付き部材50は、軟らかくて若干の延伸性を有すべく、アラミド繊維とナイロン、ポリエステルニット(交編)、アラミドメッシュとナイロン、ポリエステルニット(交編)、アラミドループ加工織物とナイロン、ポリエステル・アラミド繊維交織・編地によって構成することもできる。
【0020】
図2、図3は、形状が異なる絡み付き部材50の一部分の詳細を示している。絡み付き部材50は、ナイロン織物、パラ型アラミド織物等、所要の強度(回転刃具101の切刃102によって切断されたり、回転刃具101に絡み付いた時に、破断することがない強度)を有する可撓性材料により構成されている。一端50Aは図示していないが図1と同様に縫合61によってベース部材20に縫着固定される可撓性を有する帯体51と、帯体51の表裏両面に前記回転刃具101の切刃102と確実に係合させる係合部が設けられている。係合部は各々、縫合62によって波状に縫着されたパラ型アラミドメッシュ織物52とにより構成されている。
【0021】
絡み付き部材50のパラ型アラミドメッシュ織物52の波状は、回転する切刃102と直交し合う方向の網目に作られ、高速回転する回転刃具101の切刃102と確実に係合、即ち、引っ掛かり易い形状となっていて瞬時に絡み付くようになっている。
【0022】
このために、例えば、刈払機100用のものとしては、回転刃具101の切刃102の大きさに応じて、パラ型アラミドメッシュ織物52の格子メッシュの大きさが10〜15mm四角程度、パラ型アラミドメッシュ織物52の波形ピッチ5〜30mm程度、パラ型アラミドメッシュ織物52の波形高さが10〜20mm程度であればよい。帯体51の全長は、回転刃具101の全周長に応じて、700〜1000mm程度、帯幅は50〜150mm程度であればよい。
【0023】
図4は、防護用具10と刈払機100との関係を示している。刈払機100は、操作部(図示していない)が周知の固定レバー式のものであり、シャフト103の先端に回転刃具101を有し、2サイクル小型エンジン(内燃機関)104を回転駆動源としている。2サイクル小型エンジン104の回転力(トルク)は、遠心クラッチ105を介して回転刃具101に伝達され、2サイクル小型エンジン104の回転動力によって回転刃具101を回転駆動するようになっている。遠心クラッチ105は、回転刃具101に強い回転抵抗が働くと、ドラム面105aの内周に対してクラッチシュー(図示していない)が滑ることで回転刃具101の回転が停止するようになっている。
【0024】
一方、回転刃具101が防護用具10に誤って接触すると、回転刃具101の切刃102によって表面部材30が切り裂かれ、袋状収納室40内に収容されていた絡み付き部材50の係合部となるパラ型アラミドメッシュ織物52はその網目の一つあるいは幾つかが高速回転する回転刃具101の切刃102と確実に引っ掛かかることが可能となる。
【0025】
この場合、絡み付き部材50の係合部は、上述の実施形態のものに限られることはない。例えば、図5、図6に示す如くナイロン織物、パラ型アラミド織物等、所要の強度を有する可撓性材料により構成され、一端50Aは図示していないが図1と同様に縫合61によってベース部材20に縫着固定される可撓性を有する帯体51と、帯体51の表裏両面の各々に、所定間隔をおいて縫合63によって多数縫着され切刃102の回転方向に向かって傾斜することで引っ掛かり易くなる短冊状のパラ型アラミドメッシュ織物53とにより構成した係合部としていてもよい。
【0026】
または、図7、図8に示す如く、ナイロン織物、パラ型アラミド織物等、所要の強度を有する可撓性材料により構成され、一端50Aは図示していないが図1と同様に縫合61によってベース部材20に縫着固定される可撓性を有する帯体51と、帯体51の表裏両面の各々に、所定間隔をおいて多数縫着されたパラ型アラミドフィラメント糸による切刃係合用ループ54とにより構成した係合部としてもよい。
【0027】
または、図9に示す如くベース部材20と表面部材30とで作られる収容空間40内にクッション材55を介して切刃102の回転方向に向かって絡み付き部材50を折畳む構造とした係合部としてもよい。
【0028】
なお、各絡み付き部材50の一端は縫合61によって固定されたタイプとなっているが必ずしも固定されていなくてもよい。
【0029】
このように構成された防護用具10によれば、作業中に誤って回転刃具101が防護用具10に接触すると、回転刃具101の切刃102によって表面部材30が切り裂かれるようになるが、ベース部材20によって人体への切刃接触が阻止される一方、内部の絡み付き部材50の係合部は高速回転する回転刃具101の切刃102と確実に係合し合い瞬時に絡み付く一方、驚いて作業機を手から離したり、あるいは、気が動転してなにもしなくても回転刃具101に絡み付いた絡み付き部材50は、一端が固定されているためその抵抗で、あるいは、例えば、図10に示す如くギヤケース106と回転刃具101の間に、あるいは、図4に示す如く安全カバー107と回転刃具101の間に絡みつき、その絡み付き抵抗によって遠心クラッチ105が働き、回転刃具101の回転を無理なく停止させる。
【0030】
この結果、回転刃具101による二次的被害を回避できるようになる。
【0031】
なお、前記実施形態にあっては耐切創性を有するベース部材20が必須の構成要素となっているが、図11に示す如く取付け部材59に一定の領域にわたり複数段に絡み付き部材50を折畳むことで、その折畳んだ絡み付き部材50の厚みによって人体への切刃接触を阻止する阻止部材として作用する構造とすることも可能である。特に、この実施形態の場合は、ベース部材20がいらなくなるためコスト低減につながる。
【0032】
また、防護用具10を足に装着して使用する形態となっているが腕、胴に着衣として使用できる構造とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による防護用具の一つの実施形態を示した概要切断断面図である。
【図2】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材の一つの実施形態を示す概要側面図である。
【図3】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材の一つの実施形態を示す概要斜視図である。
【図4】本実施形態による防護用具の使用例を示す概要説明図である。
【図5】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材の他の実施形態を示す概要側面図である。
【図6】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材の他の実施形態を示す概要斜視図である。
【図7】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材のもう一つの実施形態を示す概要側面図である。
【図8】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材のもう一つの実施形態の要部を拡大して示す概要側面図である。
【図9】本発明による防護用具に用いられる絡み付き部材のもう一つの実施形態の要部の概要側面図である。
【図10】刈払機の回転刃具のギヤケースの概要切断側面図である。
【図11】防護用具の別の実施形態を示した図1と同様の概要切断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 防護用具
20 ベース部材
30 表面部材
40 袋状の空間
50 絡み付き部材
51 帯体
52 波状のパラ型アラミドメッシュ織物
53 短冊状のパラ型アラミドメッシュ織物
54 切刃係合用ループ
60、61、63、64 縫合
100 刈払機
101 回転刃具
102 切刃
103 シャフト
104 2サイクル小型エンジン
105 遠心クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐切創性を有する人体に取付け可能なベース部材と、
回転刃具の切刃によって切断可能で前記ベース部材とで袋状の空間を作る表面部材と、
前記表面部材の袋状の空間内に収容された絡み付き部材とを備え、
前記絡み付き部材は、前記表面部材が回転刃具によって切断され切り裂かれた時に回転刃具の切刃と係合し合う係合部を有し、その係合部によって切刃に絡み付いた絡み付き部材の絡み付き抵抗で前記回転刃具を停止させることを特徴とする防護用具。
【請求項2】
人体に取付け可能な取付け部材と、
回転刃具の切刃によって切断可能で前記取付け部材とで袋状の空間を作る表面部材と、
前記表面部材の袋状の空間内に一定領域にわたって複数段に折畳まれた絡み付き部材とを備え、
前記絡み付き部材は、前記表面部材が回転刃具によって切断され切り裂かれた時に複数段に折畳まれた厚みによって人体への切刃接触を阻止する阻止部材として働くと共に回転刃具の切刃と係合し合う係合部を有し、その係合部によって切刃に絡み付いた絡み付き部材の絡み付き抵抗で前記回転刃具を停止させることを特徴とする防護用具。
【請求項3】
前記絡み付き部材の係合部は、可撓性を有する帯体の表面に多数の切刃係合用ループを有する形状となっていることを特徴とする請求項1に記載の防護用具。
【請求項4】
前記絡み付き部材の係合部は、可撓性を有する帯体の表面にメッシュ材を波状に装着した形状のものであることを特徴とする請求項1に記載の防護用具。
【請求項5】
前記絡み付き部材の係合部は、可撓性を有する帯体の表面に切刃の回転方向に向かって傾斜する短冊状のメッシュ材を所定間隔をおいて多数装着した形状のものであることを特徴とする請求項1に記載の防護用具。
【請求項6】
前記絡み付き部材の係合部は、ベース部材と表面部材とで形成される収容空間内に切刃の回転方向に向かって折畳まれていることを特徴とする請求項1に記載の防護用具。
【請求項7】
作業者の足の外に、腕、胴に着衣として使用する防護用具であることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の防護用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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