説明

防錆用塗料組成物

【課題】本発明は、密着性、耐水性及び耐腐食性に極めて優れた防錆用塗膜を形成するための塗料組成物を提供する。
【解決手段】(1) ポリピロール、
(2) 4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール、
(3) エポキシ樹脂、
(4) ポリアミン、及び
(5) 有機溶媒
を含み、シランカップリング剤を含まない、防錆用塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属(特に非鉄金属)には、水、エタノール等に対する錆(或いは腐食)を防止する方法として、防錆剤(防錆用塗料組成物)を塗布することが広く知られている。当該防錆剤として実用化に耐えられるように、新規防錆塗料組成物の開発が行われている。
【0003】
例えば、ポリアニリン、ポリピロール等のπ共役高分子を含む防錆用処理液が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−190896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の処理液では、優れた密着性を得るために、シランカップリング剤を使用する。当該シランカップリング剤の使用により、塗膜中に下記構造:
【0006】
【化1】

【0007】
を形成すると考えられる。そのため、上記黒丸箇所から水、腐食成分等が通過してしまうと考えられるので、塗膜としたときの耐水性及び耐腐食性の点で問題がある。
【0008】
また、特許文献1の処理液では、マトリックス形成高分子として、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエチレン、エポキシ樹脂等の樹脂を使用する。当該樹脂もまた、水、腐食成分等を通過させてしまうため、塗膜としたときの耐水性及び耐腐食性の点で問題がある。
【0009】
従って、上記密着性、耐水性及び耐腐食性に優れた防錆用塗膜を形成するための塗料組成物の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、密着性、耐水性及び耐腐食性に優れた防錆用塗膜を形成するための塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の成分を組み合わせた塗料組成物を使用する際は、上記密着性、耐水性及び耐腐食性に極めて優れた防錆用塗膜を形成するための塗料組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の塗料組成物に関する。
1. (1) ポリピロール、
(2) 4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール、
(3) エポキシ樹脂、
(4) ポリアミン、及び
(5) 有機溶媒
を含み、シランカップリング剤を含まない、防錆用塗料組成物。
2. 前記4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールが、4−メチル−3−ピロールカルボン酸エチルと4−メチル−3−ピロールカルボン酸ブチルの共重合体である、上記項1に記載の塗料組成物。
3. 前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の塗料組成物。
4. 前記4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールとエポキシ樹脂の重量比が、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール:エポキシ樹脂=10:90〜70:30である、上記項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
5. 前記(1)ポリピロールの含有量が、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール及びエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、20〜85重量部である、上記項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物。
6. 上記項1〜5のいずれかに記載の防錆用塗料組成物を基材上に塗布することにより得られる、防錆用塗膜。
7. 上記項6に記載の防錆用塗膜及び基材を有する、防錆用塗膜被覆材。
8. 前記基材が、表面にポーラス構造を有する基材である、上記項7に記載の防錆塗膜被覆材。
【0013】
以下、本発明の塗料組成物に関して詳細に説明する。
【0014】
本発明の塗料組成物
本発明の塗料組成物は、
(1) ポリピロール、
(2) 4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール、
(3) エポキシ樹脂、
(4) ポリアミン、及び
(5) 有機溶媒
を含み、シランカップリング剤を含まないことを特徴とする。
【0015】
上記特徴を有する本発明の塗料組成物は、上記(1)〜(5)を組み合わせて使用するため、塗膜としたときに耐水性及び耐腐食性に優れるとともに、シランカップリング剤を使用しなくても基材との密着性に優れる。以下、上記塗料組成物に含まれる成分について説明する。
【0016】
(1) ポリピロール
本発明の塗料組成物では、ポリピロールを使用する。ポリピロールは、酸化されやすい性質と逆に還元されやすい性質を併せ持つ機能に起因する、いわゆる不動態被膜形成能を有する。そのため、本発明の塗料組成物は、塗膜としたときに基材の腐食を抑制すると考えられる。
【0017】
ポリピロールは、以下の式:
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、nは正数。)で表される。重量平均分子量は、200〜1300のものが好ましい。
【0020】
本発明のポリピロールは、乳化重合によって得られたものが好ましい。当該乳化重合によって得られたポリピロールは、そのまま本発明の塗料組成物の原料として使用でき、塗料組成物中に均一に分散させることができる。
【0021】
ポリピロールは、公知のものを使用することができる。例えば、日本カーリット株式会社製「ポリピロール分散液CDP-310M」等市販されているポリピロール分散液(ポリピロール及び有機溶媒を含む液)を使用することができる。前記有機溶媒は、後述する(5)有機溶媒と同様のものを使用することができる。なお、このときポリピロールは、粒径250〜350nm程度の高分子微粒子として存在する。
【0022】
ポリピロール分散液を使用する場合、当該分散液には界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、アニオン系界面活性剤が好ましく、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)がより好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができる。具体的には、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム、分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0023】
ポリピロールの含有量は、後述する4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール及びエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、20〜85重量部が好ましく、20〜50重量部がさらに好ましい。
【0024】
(2)4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール(SSPY)
本発明の防錆用塗料組成物では、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール(以下、単に「SSPY(Super Soluble polyPyrrol)」ともいう)を使用する。なお、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールは、後述する(5)有機溶媒に可溶である。
【0025】
前記4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールは、下記一般式(I):
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれアルキル基であり、nは正数である。)で表すことができる。
【0028】
本発明のSSPYにおける前記R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキルがさらに好ましい。また、一般式(I)で示されるnは、30〜1300が好ましく、60〜600がより好ましい。
【0029】
なお、前記一般式(I)では一元共重合体(単独重合体)のSSPYが示されているが、本発明では二元共重合体あるいは三元以上の共重合体であってもよい。例えば、SSPYが二元共重合体である場合、下記一般式(II):
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基であり、p及びqは、同一又は異なって、それぞれ正数である。)で示されるSSPYを使用することができる。なお、前記R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキルがさらに好ましい。また、一般式(II)で示されるSSPYのp及びqは、同一又は異なって、それぞれ、5〜1000が好ましく、20〜400がより好ましい。
【0032】
本発明のSSPYにおいて、二元以上の共重合体を使用する場合、4−メチル−3−ピロールカルボン酸エチル(以下、EMPYともいう)と4−メチル−3−ピロールカルボン酸ブチル(以下、BMPYともいう)の共重合体を使用することが好ましい。この場合、EMPYとBMPYのモル比率が、EMPY:BMPY=2:1であれば、生産性、安定性、有機溶媒可溶性の点から好ましい。
【0033】
本発明のSSPYは、以下のようにして製造することができる。SSPYを構成する単量体を、第二鉄化合物の存在下、化学酸化重合した後、アルカリ化合物又は還元剤によって脱ドープ状態とすることにより、有機溶媒可溶型のSSPYを得ることができる。例えば、EMPYとBMPYのモル比率(=EMPY:BMPY)が2:1である二元共重合体SSPYは、EMPY:BMPY=が2:1となるようにEMPY及びBMPYを用意し、上述の通り化学酸化重合及び脱ドープを行うことによって得られる。
【0034】
第二鉄化合物としては、塩化第二鉄、過塩素酸第二鉄、パラトルエンスルホン酸第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、トリフルオロメタンスルホン酸第二鉄、鉄ミョウバン等が挙げられる。第二鉄化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
上記脱ドープ状態とするためのアルカリ化合物又は還元剤としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ヒドラジン等が挙げられる。上記アルカリ化合物又は還元剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
上記得られたSSPYは、脱ドープ状態(いわゆる還元性の状態)であるため、酸等の腐食成分を受け入れる効果に優れる。
【0037】
なお、本発明のSSPYは、市販のものを使用することもできる。例えば、有限会社ソフトケム製のSSPYを使用することができる。
【0038】
SSPYが共重合体高分子である場合、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等のいずれの配列であってもよい。
【0039】
SSPYの重量平均分子量は、5,000〜200,000が好ましく、10,000〜100,000がより好ましい。分子量が大きすぎると、有機溶媒に対して難溶となるので、実用上好ましくない。
【0040】
(3) エポキシ樹脂
本発明では、エポキシ樹脂を、SSPYと併用することにより、密着性、耐水性及び耐腐食性を併せ持つ塗膜を形成することができる。
【0041】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂中のエポキシ基又は水酸基に各種変性剤が反応せしめられた変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0042】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に高分子量まで縮合させてなる樹脂、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に縮合させて低分子量のエポキシ樹脂とし、この低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールとを重付加反応させることにより得られる樹脂のいずれであってもよい。
【0043】
上記ビスフェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンなどを挙げることができる。上記ビスフェノール類は、1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0044】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製806、807、4004P、4005P、4007P、4010P;DIC株式会社製840、840-S、850、850-S、850-LC、860、1050、1055、2050、3050、4050、7050、HM-091、HM-101等を挙げることができる。
【0045】
上記ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、分子内に多数のエポキシ基を有するフェノールグリオキザール型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0046】
ノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、DIC株式会社製N-740、N-770、N-775、N-740-80M、N-770-70M、N-885、N-885-80M、等を挙げることができる。
【0047】
また、前記変性エポキシ樹脂としては、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又はノボラック型エポキシ樹脂に、例えば、乾性油脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂、アクリル酸又はメタクリル酸などを含有する重合性不飽和モノマー成分を反応させたエポキシアクリレート樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂又は上記各種変性エポキシ樹脂中のエポキシ基にアミン化合物を反応させて、アミノ基又は4級アンモニウム塩を導入してなるアミン変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0048】
エポキシ樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
エポキシ樹脂とSSPYとの含有量割合は、SSPY:エポキシ樹脂=10:90〜70:30(重量比)が好ましく、30:70〜70:30(重量比)がさらに好ましい。
【0050】
(4) ポリアミン
本発明の塗料組成物では、ポリアミンを含有する。ポリアミンを使用することによって、上記エポキシ樹脂を架橋させるとともに、水・塩水等に含まれるアニオンに対して吸着剤としての機能を有する。さらに、上記SSPY及びポリピロールを更に脱ドープ状態とさせることができる。そのため、本発明の塗料組成物を塗工した際、塗膜が基材に対して強固に密着するとともに、塗膜としての耐水性及び耐腐食性が付与される。
【0051】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン、1,6−ジアミノ−2,2,4−トリメチルヘキサン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、1,8−ジアミノ−4−アミノメチルオクタン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンなどの脂肪族ポリアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、キシリレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、これらのポリアミンのN−モノアルキル置換体、N,N−ジアルキル置換体、例えば、メチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、エチルアミノプロピルアミン、ブチルアミノエチルアミン、ブチルアミノプロピルアミン、1−イソプロピルアミノ−2−アミノ−2−メチルプロパン、ドデシルアミノプロピルアミン、オクタデシルアミノプロピルアミン、オレイルアミノプロピルアミン、牛脂アミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジドデシルアミノプロピルアミン、ジオクタデシルアミノプロピルアミン、ジオレイルアミノプロピルアミン、ジ牛脂アミノプロピルアミン、N−ドデシルジプロピレントリアミン、N−オレイルジプロピレントリアミンなどを挙げることができる。これらのポリアミンは、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
ポリアミンの含有量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂1当量に対して、0.3〜0.8当量となるように含有することが好ましい。
【0053】
(5) 有機溶媒
本発明では、有機溶媒を含有する。前記有機溶媒は、前記SSPY、エポキシ樹脂及びポリアミンを溶解させる溶媒を使用することができる。また、当該有機溶媒は、ポリピロールを均一に分散させることができる。
【0054】
有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール(イソブチルアルコール)、エチレングリコール、シクロヘキサノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素類;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン等の含窒素化合物;ジメチルスルホキシド(DMSO)等の含硫黄化合物;が挙げられる。なかでも、MEK、NMP、メチルイソブチルケトン及びDMACからなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0055】
前記有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
前記有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール及びエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、250〜1500重量部が好ましく、500〜1000重量部であることがより好ましい。
【0057】
(6)その他の成分
本発明の塗料組成物では、非イオン性ドーパント(以下、単にドーパントともいう)を使用してもよい。
【0058】
非イオン性ドーパントとしては、非イオン性であって電子受容体であれば特に限定されず、例えば、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、1,1,2,2−テトラシアノエチレン(TCNE)、2,3,6,7−テトラシアノ−1,4,5,8−テトラアザナフタレン(TCNA)、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)等が挙げられる。
【0059】
なお、本発明において、非イオン性ドーパントは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
非イオン性ドーパントの含有量は、特に限定されないが、SSPY1当量に対して、0.1〜0.4当量であることが好ましい。
【0061】
非イオン性ドーパントは、あらかじめポリピロール分散液及びポリアミンと混合させてからSSPY溶液とエポキシ樹脂の混合溶液と共に混合しても良いし、ポリピロール分散液とエポキシ樹脂及び非イオン性ドーパントを含有する混合分散液を作製した後、当該分散液とSSPY、及びポリアミンと混合しても良い。
【0062】
本発明の塗料組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、顔料、加水分解防止剤等を適宜使用することができる。
【0063】
本発明の塗料組成物は、シランカップリング剤を使用しない。当該シランカップリング剤を使用すると、塗膜の耐水性及び耐腐食性が劣る恐れがあるためである。
【0064】
本発明の塗料組成物の製造方法及び塗工方法
本発明の塗料組成物によれば、上記(1)〜(5)の成分が混合されれば、特に限定されない。
【0065】
SSPYまたはエポキシ樹脂を加える際、SSPYまたはエポキシ樹脂を均一に塗料組成物中に存在させるために、SSPY溶液またはエポキシ樹脂溶液を作製し、混合することが好ましい。
【0066】
また、ポリピロールを加える際、当該ポリピロールを分散性良く塗料組成物中に存在させるために、ポリピロールが分散した液を作製し、混合することが好ましい。
【0067】
SSPY溶液またはエポキシ樹脂溶液を作製する際、当該溶液を構成する溶媒は、前述の(5)有機溶媒を使用することができる。また、ポリピロール分散液を作製する際の溶媒もまた、前述の(5)有機溶媒を使用することができる。
【0068】
SSPY溶液、ポリピロール分散液、エポキシ樹脂溶液及びポリアミンは、それぞれ市販のものを使用することができる。
【0069】
以下、防錆用塗料組成物の製造の望ましい態様の一例につき、詳細を述べる。EMPY:BMPY=2:1(モル比)を共重合させて得られたSSPY溶液を用意する。ここで、当該溶液の濃度は10重量%程度であり、溶媒はNMP及びDMACからなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒とする。一方、ポリピロールが分散した分散液を用意する。ここで、当該溶液の濃度は10重量%程度であり、溶媒はMEKである。他方、エポキシ樹脂を溶解した溶液を用意する。ここで、当該溶液の濃度は特に限定されず、溶媒は上述の(5)有機溶媒を使用する。そして、SSPY溶液、ポリピロール分散液、エポキシ樹脂溶液を混合した後、ポリアミンを混合する。これにより、防錆用塗料組成物を得ることができる。
【0070】
本発明の防錆用塗料組成物は、各基材に塗工することができる。基材としては、特に限定されないが、元素周期表で表示される各鉄族、希土類、遷移金属等の金属又はその合金等の材質が挙げられる。特に、ランタン、セリウム、ネオジム等の希土類金属に対して、優れた密着性を有し、かつ良好な防錆用塗膜を形成することができる。また、表面にポーラス構造を有する基材(例えば、金属焼結材料等)に対しても有効である。
【0071】
基材に対して上記塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定されず、例えばグラビア印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、ドクターコーター、スクリーン印刷機等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
【0072】
本発明の塗料組成物の塗工後において、(熱による)乾燥処理を行うことが好ましい。当該乾燥工程によって、塗膜に不必要な有機溶媒を効率的に除去することができる。
【0073】
乾燥処理の温度は、好ましくは60〜200℃程度であり、さらに好ましくは80〜120℃程度である。乾燥処理の温度が上記範囲内であれば、塗料組成物中の有機溶媒を効率的に除去できる。
【0074】
乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常1分〜60分程度、好ましくは10分〜20分程度である。
【0075】
塗膜(層)には、SSPY、ポリピロール、エポキシ樹脂及びポリアミンが含まれる。ポリピロールは、SSPY、エポキシ樹脂及びポリアミンが形成する層に対して均一に分散された状態で存在する。そのため、当該塗膜に耐腐食性を付与することができる。
【0076】
ポリピロールの粒径は、塗料組成物中のポリピロールの含有量にもよるが、通常は0.1μm〜2μm程度である。
【0077】
塗膜の乾燥厚みは、通常1〜30μm程度であり、5〜20μmが好ましい。塗膜の厚みが30μmを超えると、充分な乾燥ができずに粘性が残り、基材に対する密着性が劣る場合がある。逆に、1μm未満であると基材との高い密着性が保てない場合がある。
【0078】
本発明の防錆用塗膜及び基材を有する防錆用塗膜被覆材は、塗膜との密着性に優れ、さらに耐水性及び耐腐食性(耐薬品性ともいう)に優れる。即ち、塗膜が水によって膨潤することなく、また、基材がメタノール、エタノール、酢酸、水、ガソリン等に対して腐食することを防止できる。
【発明の効果】
【0079】
本発明の塗料組成物は、上記特定の成分を組み合わせて使用するため、塗膜としたときに耐水性及び耐腐食性に優れるとともに、基材との密着性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の塗料組成物によって得られた防錆用塗膜の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0082】
実施例1
SSPY溶液(有限会社ソフトケム製、固形分10%、溶媒:DMAC)50重量部、ポリピロール分散液(日本カーリット株式会社製、固形分10%、溶媒:MEK)40重量部、及びエポキシ樹脂溶液(三菱化学株式会社製エポキシ樹脂1001B80、固形分80%、溶媒:MEK、固形分当たりエポキシ当量475±25)12.5重量部を混合した。これにポリアミン(株式会社T&K TOKA社製ト-マイドTXC−836−A、アミン価120、固形分60%、溶媒:トルエン/イソブチルアルコール=3/1(重量比))を2.1重量部添加して塗料組成物を作製した。
【0083】
実施例2
SSPY溶液(実施例1におけるSSPY溶液と同一)40重量部、ポリピロール分散液(実施例1におけるポリピロール分散液と同一)52重量部、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製828、固形分100%、エポキシ当量分析値230)8.7重量部を混合した。これにポリアミン(三菱化学株式会社製ST−11、固形分100%、アミン価343)を6.5重量部添加して塗料組成物を作製した。
【0084】
実施例3
SSPY溶液(実施例1におけるSSPY溶液と同一)70重量部、ポリピロール分散液(実施例1におけるポリピロール分散液と同一)30重量部、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製807、固形分100%、エポキシ当量分析値170)4重量部、ポリアミン(株式会社T&K TOKA社製ト-マイド410−N、アミン価65、固形分65%、溶媒:キシレン/イソブチルアルコール=7/3(重量比))0.78重量部を混合して塗料組成物を作製した。
【0085】
比較例1
エポキシ樹脂溶液を使用しない以外は実施例1と同様にして、塗料組成物を作製した。
【0086】
耐水性及び耐腐食性(I)試験
冷間圧延鋼板(SPCC(いわゆる鉄板)、75×25×0.5mm厚)に実施例1〜3及び比較例1の塗料組成物を、膜厚が10μmとなるようにバーコーターを使用して塗布し、100℃の電気オーブンで通風下乾燥した。
【0087】
また、ネオジム系焼結磁石(ネオジム、鉄、ボロンからなるボンド磁石)に実施例1〜3及び比較例1の塗料組成物を、膜厚が10μmとなるようにディップコートにより塗布し、100℃の電気オーブンで通風下乾燥した。
【0088】
当該得られた塗膜形成鋼板及び塗膜形成ネオジム系焼結磁石に対して、JIS Z2371に従って中性塩水噴霧試験方法(試験時間:24時間)を行った。
【0089】
外観評価基準は、全く外観変化を生じないものを◎、艶の変化が若干生じたものを○、顕著な腐食に起因する外観変化を生じたものを×とした。
【0090】
密着性試験
前記得られた塗膜形成鋼板及び塗膜形成ネオジム系焼結磁石に対して、密着性試験を行った。密着性評価基準は、JIS K5400の碁盤目セロハンテープ剥離試験により、塗膜にカッターナイフで1mm間隔の碁盤目状の切込みを入れ、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付けた後剥離し、剥離部分が無いものを◎、剥離部分が0を超えて5%以下であるのものを○、剥離部分が5%を超えるものを×と評価した。
【0091】
鉛筆硬度試験
前記得られた塗膜形成鋼板及び塗膜形成ネオジム系焼結磁石に対して、鉛筆硬度試験を行った。鉛筆引っ掻き試験の硬度は、JIS−S−6006で規定される試験用鉛筆を用い、JIS K5400で規定される鉛筆硬度評価方法に従った。試験結果は、9.8Nの荷重をかけた際に傷・凹み等が認められない鉛筆の最大硬度を示す。
【0092】
耐腐食性(II)試験
前記得られた塗膜形成鋼板及び塗膜形成ネオジム系焼結磁石に対して、JIS Z2371に従って中性塩水噴霧試験方法(試験時間:24時間)を行った。腐食程度評価基準は、腐食面積率0%を◎、0を超えて2%以下を○、2%を超えるものを×と評価した。
【0093】
総合評価基準は、艶の変化は発生するが塗膜に膨れや欠落がないものを合格と評価とした。塗膜形成鋼板に関する試験結果を以下の表1に示す。塗膜形成ネオジム系焼結磁石に関する試験結果を以下の表2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) ポリピロール、
(2) 4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール、
(3) エポキシ樹脂、
(4) ポリアミン、及び
(5) 有機溶媒
を含み、シランカップリング剤を含まない、防錆用塗料組成物。
【請求項2】
前記4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールが、4−メチル−3−ピロールカルボン酸エチルと4−メチル−3−ピロールカルボン酸ブチルの共重合体である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールとエポキシ樹脂の重量比が、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール:エポキシ樹脂=10:90〜70:30である、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記(1)ポリピロールの含有量が、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロール及びエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、20〜85重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の防錆用塗料組成物を基材上に塗布することにより得られる、防錆用塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の防錆用塗膜及び基材を有する、防錆用塗膜被覆材。
【請求項8】
前記基材が、表面にポーラス構造を有する基材である、請求項7に記載の防錆塗膜被覆材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214686(P2012−214686A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271602(P2011−271602)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(504137554)株式会社イオックス (13)
【Fターム(参考)】