説明

陰イオン交換膜の製造方法

【課題】ハロアルキルスチレンを含む重合性組成物を重合させてなる重合体と離型フィルムとの離型時に、重合体と離型フィルムとの接着に起因する樹脂剥離の発生を防止することのできるイオン交換膜の製造方法を提供する。
【解決手段】ハロアルキルスチレン、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体、エラストマー、重合開始剤、および、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物を含有する重合性組成物を基材シートに付着させた後、該基材シートに離型フィルムを貼り付け、その後重合反応を行い、得られた重合体に陰イオン交換基を導入することを特徴とする陰イオン交換膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換膜の製造方法、および、陰イオン交換膜用重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、イオン交換作用をもつ樹脂で膜状のものであり、陽イオン交換基が導入された陽イオン交換膜や陰イオン交換基が導入された陰イオン交換膜等がある。イオン交換膜は、電気透析、電気分解、拡散透析など種々の用途に使用されている。
【0003】
イオン交換膜の製造方法として、イオン交換基の導入に適した官能基を有する単量体、エラストマー、架橋剤を含む重合性組成物を基材シートに塗布し、基材シートを離型フィルムと積層させてローラで巻き取り、ローラに巻かれた状態で該基材シート上の重合性組成物を重合させる方法が知られている。重合性組成物を重合させて得られた重合体にイオン交換基の導入処理が行われ、イオン交換膜が得られる。上記イオン交換基の導入に適した官能基を有する単量体としては、ハロアルキルスチレンが広く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−36507号公報
【特許文献2】特開2005−146066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハロアルキルスチレンを単量体として用いた場合、得られた重合体と離型フィルムが強固に接着し、重合体から離型フィルムをうまく剥離できない問題が起こる場合があった。特に、陰イオン交換膜の製造においては、ハロアルキルスチレンの使用量が多く、上記問題が発生する頻度が高い為、その解決が望まれていた。
【0006】
特許文献1には、ハロアルキルスチレンをラジカル発生剤の存在下に重合したときに発生するハロゲン化水素の補足剤として、スチレンオキサイド等のエポキシ化合物が使用できることが記載されている。
また、特許文献2には、ハロゲン化水素の補足効果および樹脂自身の化学的安定性等の観点からエポキシ化ジエン系ブロック共重合体が使用できることが記載されている。
しかし、特許文献1および2には、重合体と離型フィルムとの剥離のしやすさについては、一切記載も示唆もされていない。
【0007】
そこで本発明の目的は、ハロアルキルスチレンを含む重合性組成物を重合させてなる重合体と離型フィルムとを離型させる際に、離型フィルム側に樹脂が付着して剥離することを防止できる陰イオン交換膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、上記剥離の問題はハロアルキルスチレンが重合する際に発生するハロゲン化水素や離型フィルムの材質等に起因するのではないかと考えるに至った。上記知見に基づき、さらに検討を重ねたところ、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物を、ハロアルキルスチレンを含む重合性組成物中に含有させることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の陰イオン交換膜の製造方法は、ハロアルキルスチレン、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体、エラストマー、重合開始剤、および、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物を含有する重合性組成物を基材シートに付着させた後、該基材シートに離型フィルムを貼り付け、その後重合反応を行い、得られた重合体に陰イオン交換基を導入することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、前記離型フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、前記重合性組成物中のグリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物の含有割合が、ハロアルキルスチレンおよびハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体の合計100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、前記ハロアルキルスチレンとしてクロロメチルスチレンを好適に用いることができる。
【0013】
さらにまた、本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、前記ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体がスチレン、ジビニルベンゼンおよびアクリル酸アルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の単量体であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、前記重合体に、アミン化合物を用いて陰イオン交換基を導入することが好ましい。
【0015】
本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、前記エポキシ化合物としてグリシジルエーテル基を2〜5個有する化合物を好適に用いることができる。
【0016】
本発明の陰イオン交換膜用重合性組成物は、重合後、陰イオン交換基を導入可能な官能基を有するハロアルキルスチレンと、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体と、重合開始剤と、エラストマーと、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物とを含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ハロアルキルスチレンを含む重合性組成物を重合させてなる重合体と離型フィルムとの離型時に、重合体と離型フィルムとの接着に起因する樹脂剥離の発生を防止することのできるイオン交換膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)本発明の陰イオン交換膜の製造方法
本発明の陰イオン交換膜の製造方法は、ハロアルキルスチレン、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体、エラストマー、重合開始剤、および、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物を含有する重合性組成物を基材シートに付着させた後、該基材シートに離型フィルムを貼り付け、その後重合反応を行い、得られた重合体に陰イオン交換基を導入することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の製造方法における重合性組成物は、ハロアルキルスチレン、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体、エラストマー、重合開始剤、および、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物を含有する。本発明の重合性組成物はさらにその他の成分や添加物を含有していてもよい。
【0020】
<単量体>
本発明の製造方法におけるハロアルキルスチレンは、スチレンを構成するベンゼン環が、フッ化アルキル、塩化アルキル、臭化アルキルまたはヨウ化アルキル等のハロゲン化アルキルで置換されたものである。ハロゲン化アルキル基の炭素原子数は好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3である。具体的には、クロロメチルスチレン、α−クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ジクロロメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモブチルスチレン等が挙げられる。これらのうち、クロロメチルスチレンが好ましい。また、ハロアルキルスチレンは、1種類であってもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の製造方法におけるハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体は、ハロアルキルスチレンと共重合可能であれば特に限定されない。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、ビニルエチルベンゼン等のビニル基で置換された芳香族化合物、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸クロライド等の(メタ)アクリル酸誘導体、塩化アリル、塩化ビニル、アクリルアミド、メチルビニルケトン、4−ビニルピリジン、ビニルスルホニルクロライド、スチレンスルホニルクロライド等が挙げられる。上記のうち、スチレン、ジビニルベンゼンおよびアクリル酸アルキルエステルが好ましい。また、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体は1種類であってもよく2種以上を併用してもよい。
また、本発明の製造方法における重合性組成物は、単量体としては、ハロアルキルスチレンと、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体を必須成分とするが、必要に応じてこれら以外の単量体を含有していてもよい。
本発明に係る重合性組成物中の単量体全体におけるハロアルキルスチレンの含有量は、膜特性の観点から15〜95質量%が好ましく、特には45〜80質量%が好ましい。
また、上記単量体全体におけるハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体の含有割合は5〜85質量%が好ましく、特には20〜55質量%が好ましい。
【0022】
<エラストマー>
本発明の製造方法におけるエラストマーは、上記重合性組成物に粘度を与えるために配合される。エラストマーは公知のものを使用でき、上記重合性組成物に対し分散性の高分子化合物であっても、上記重合性組成物に可溶性の高分子化合物であってもよい。エラストマーとしては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体が挙げられる。エラストマーは1種類のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
エラストマーの含有割合は、膜特性の観点から単量体の総量100質量部に対して5〜40質量部であるのが好ましく、特には10〜30質量部であるのが好ましい。
【0023】
<重合開始剤>
本発明の製造方法における重合開始剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ラウロイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ヘキシルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン等が挙げられる。重合開始剤は1種類のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の含有割合は、単量体の総量100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましく、特には0.5〜5質量部であるのが好ましい。
【0024】
<グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物>
本発明においては、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物
を用いる。これにより重合体から離型フィルムを剥がす際の剥離性を向上できる。その作用機構は定かではないが、上記エポキシ化合物は、単量体との相溶性が高く、均一に分散されること、そして、ハロゲン化水素を捕捉する作用があることが関係していると推定される。
上記エポキシ化合物としては、具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ化合物は1種類のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記エポキシ化合物としては、特にはグリシジルエーテル基を2〜5個有するエポキシ化合物が好ましい。また、水溶性であるものが好ましい。
また、上記エポキシ化合物の分子量は特に制限されないが、分子量があまり大きいと上記単量体との相溶性が損なわれる場合がある為、好ましくは100〜4000である。
上記エポキシ化合物の含有割合は、得られる陰イオン交換膜の電気化学的性質の観点から単量体の総量100質量部に対して1〜30質量部であるのが好ましく、特には3〜20質量部であるのが好ましい。
【0025】
<基材シート>
基材シートは補強布とも称され、イオン交換膜に適度な強度を付与し、耐久性を向上させるために用いられる。基材シートとしては、公知のイオン交換膜の製造方法において使用される基材シートを使用できる。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等のポリオレフィン等の炭化水素系樹脂やフッ素系樹脂からなる織布(モノフィラメント、マルチフィラメントのメッシュクロス)、不織布、多孔性フィルム等が挙げられる。
また、基材シートと上記重合性組成物との親和性を高めるために、γ線、電子線、紫外線照射処理、コロナ、プラズマ処理等の表面処理を施したものも使用可能である。基材シートは1種類のみの樹脂からなるシートを用いてもよく2種以上の樹脂からなるシートを使用してもよい。
【0026】
<離型フィルム>
離型フィルムとしては、上記重合性組成物の重合反応工程に耐えうる耐熱性を有し、適度な柔軟性が有り、かつ、重合反応工程後に、基材シートに付着した重合体から容易に引き剥がせるものであればいずれのものも使用可能である。そのような離型フィルムの材料の例としては、ビニロン(登録商標)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等が挙げられる。
安価で、柔軟性があり、得られる重合体の膜厚みの均一性が高いという観点からは、ビニロン等のビニルアルコール系樹脂からなるフィルムが好ましい。なお、ビニロン等のビニルアルコール系樹脂は、離型フィルムとして用いた場合に、重合体との接着の問題が発生しやすいので、本発明によってもたらされる効果がより大きいといえる。
離型フィルムは1種類のみの樹脂からなるフィルムを用いてもよく2種以上の樹脂からなるフィルムを使用してもよい。また、フィルム表面に、シリコン系、フッ素系等の離型剤を塗布したフィルムも使用することができる。
【0027】
<重合反応工程>
本発明にかかる陰イオン交換膜の製造方法においては、上記重合性組成物を基材シートに付着させ、離型フィルムを貼り付けた後に、重合性組成物の重合反応を行う。
重合性組成物を基材シートに付着させる方法は、コンマダイレクトコート法、グラビアコート法等の塗布による方法、ディップスクイズ加工法等の含浸による方法等公知の方法を挙げることができる。重合方法としてはラジカル重合が好ましい。重合条件は、重合性組成物の組成内容、重合開始剤の種類、基材シートの種類に応じて適宜最適な条件を選定すればよい。重合温度は、重合開始剤の種類にもよるが、好ましくは30〜180℃、より好ましくは、50〜120℃である。温度上昇方法としては、一定時間、例えば0.1〜48時間で所定温度に上昇させて重合させる方法や、重合温度を数点設定し、段階的に温度上昇、温度保持を繰り返す多段温度重合方法等が挙げられる。温度上昇のための加熱方法としては、例えば、温水槽に浸漬加熱する方法、空気恒温器を用いて加熱する方法を挙げることができる。
工業的に陰イオン交換膜を製造する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。重合性組成物を付着させた基材シートと離型シートの各々をローラで送り出し、上記基材シートの一方の面に離型シートを貼り付ける。両者が貼り合わされたシートはローラで巻き取り、当該ローラを温水中に浸漬して、重合性組成物の重合反応工程を行う方法。
【0028】
<イオン交換基の導入工程>
上記重合反応工程の後、得られた重合体に陰イオン交換基を導入する。陰イオン交換基の導入方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、得られた重合体をアミン化合物で処理することにより、ハロアルキルスチレン共重合体中のハロアルキル基を四級アンモニウム塩化する方法が挙げられる。上記アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン等が好適に使用できる。
離型フィルムは、陰イオン交換基の導入工程の前に基材シートから引き剥がすのが好ましい。
上記陰イオン交換基の導入方法の好ましい態様としては、例えば、重合体が付着した基材シートから離型フィルムを剥がした後、該基材シートをトリメチルアミンのメタノール溶液中に浸積し、温度45℃で一日反応させ、次いで、重合体中のハロアルキル基を四級アンモニウム塩化するという方法が挙げられる。また、上記のように基材シートを巻き取ってローラ状にして重合反応を行った場合は、ローラ状の基材シートをアミン化合物を含む溶液中に浸漬することが好ましい。
【0029】
(2)本発明の陰イオン交換膜用重合性組成物
本発明の陰イオン交換膜用重合性組成物は、重合後、陰イオン交換基を導入可能な官能基を有するハロアルキルスチレンと、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体と、重合開始剤と、エラストマーと、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物とを含有することを特徴とするものである。
ハロアルキルスチレン、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体、重合開始剤、エラストマー、および、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物、並びに各成分の配合割合については、(1)本発明の陰イオン交換膜の製造方法で述べたのと同様である。陰イオン交換膜用重合性組成物を、好ましくは熱重合により重合させ、得られた重合体に陰イオン交換基を導入することで陰イオン交換膜が得られる。
本発明の重合性組成物の粘度は、基材への付着性と膜特性の観点から25℃における粘度が200〜5000mPa・S、さらには800〜3000mPa・Sであるのが好ましい。上記粘度はエラストマーの種類と濃度により調節できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例、比較例により何ら限定されることはない。
【0031】
(実施例1)
クロロメチルスチレン60質量部、スチレン10質量部、工業用ジビニルベンゼン30質量部、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂株式会社製、パーブチルO)1.8質量部、エラストマーとして熱可塑性エラストマーであるハイブラー5125(株式会社クラレ製)30質量部、エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテル6質量部を配合した重合性組成物を得た。ソルビトールポリグリシジルエーテルとして、デナコールEX―614B(ナガセケムテックス株式会社製)を用いた。
【0032】
得られた重合性組成物をディップスクイズ加工法によりポリエチレン製の織布(基材シート)に付着させた。その後、ビニロンフィルム(離型フィルム)を基材シートの両側に貼り付けて被覆した後、温水槽に浸漬して加熱する方法により、35℃で2時間、70℃で6時間、90℃で8時間、段階的に加熱し、重合反応を行った。その後、基材シートから離型フィルムを手で剥ぎとり、得られた重合体について、外観と、離型フィルムとの剥がれ状態を下記基準に従って評価した。結果を下記表1に示す。
【0033】
(外観)
得られた重合体の外観について、白点の発生の有無を目視により評価した。
【0034】
(離型フィルムの剥がれ状態の評価基準)
◎ : 膜と離型フィルムを剥がすときに、抵抗もなく剥がれ、膜表面に樹脂剥離といった不具合が見られない。
○ : 膜と離型フィルムを剥がすときに、少し抵抗があるものの簡単に剥がれ、膜表面に樹脂剥離といった不具合が見られない。
△ : 膜と離型フィルムを剥がすことはできるものの、離型フィルム側に樹脂が付着し膜の表面性は悪い。しかし、膜が破れるまでは至らない。
× : 膜と離型フィルムを剥がすことはできるものの、離型フィルム側に樹脂が付着し膜が破れてしまう。
×× : 膜と離型フィルムとが一体化し剥がせない。
【0035】
次に、得られた重合体を1.2(mol/L)のトリメチルアミンのメタノール溶液に浸積、温度45℃にて16時間反応させて、第4級アンモニウム塩基型陰イオン交換膜を得た。得られた陰イオン交換膜のイオン交換膜特性(静的輸率、実効抵抗)を評価した。静的輸率は、25℃、0.5mol/L−食塩水と1.0mol/L−食塩水の濃淡電位より算出した。また、実効抵抗は、25℃、0.5mol/L−食塩水での交流抵抗値である。得られた結果を下記表1に示す。
【0036】
(実施例2)
実施例1で使用したエポキシ化合物に代えて、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEX−911)6質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして得られた重合体について離型フィルムとの剥がれ状態の評価と、得られた陰イオン交換膜のイオン交換膜特性の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0037】
(比較例1)
エポキシ化合物を用いなかった以外は、実施例1と同様にして得られた重合体について離型フィルムとの剥がれ状態の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0038】
(比較例2)
実施例1のエポキシ化合物に代えて、アリルグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEX−111)を用いた以外は実施例1と同様にして得られた重合体について離型フィルムとの剥がれ状態の評価を行った。結果を下記表1に示す。なお、比較例1および2については、陰イオン交換基の導入によるイオン交換膜の製造および評価は行わなかった。
【0039】
【表1】

※1:パーブチルO(日本油脂株式会社製)
※2:ハイブラー5125(株式会社クラレ製)
※3:デナコールEX−614B(ナガセケムテックス株式会社製)
※4:デナコールEX−911(ナガセケムテックス株式会社製)
※5:デナコールEX−111(ナガセケムテックス株式会社製)
【0040】
2個以上のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物を用いた上記実施例1および2では、得られた重合体に白点は見られなかった。また、重合体を離型フィルムから容易に剥がすことができた。さらに、得られた陰イオン交換膜の特性も、一般的なものと変わらず、エポキシ化合物を配合したことによる不都合は見出されなかった。
それに対して、エポキシ化合物を用いなかった比較例1ではフィルムに白点が見られ、離型フィルムから重合体を剥がすことができなかった。グリシジルエーテル基を1つのみ有するエポキシ化合物を用いた比較例2では、白点は見られなかったものの、離型フィルムから重合体を剥がすことができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロアルキルスチレン、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体、エラストマー、重合開始剤、および、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物を含有する重合性組成物を基材シートに付着させた後、該基材シートに離型フィルムを貼り付け、その後重合反応を行い、得られた重合体に陰イオン交換基を導入することを特徴とする陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項2】
前記離型フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムである請求項1記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項3】
前記重合性組成物中のグリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物の含有割合が、ハロアルキルスチレンおよびハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体の合計100質量部に対して、1〜30質量部である請求項1または2記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項4】
前記ハロアルキルスチレンがクロロメチルスチレンである請求項1〜3のいずれか一項記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項5】
前記ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体がスチレン、ジビニルベンゼンおよびアクリル酸アルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の単量体である請求項1〜4のいずれか一項記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項6】
前記重合体に、アミン化合物を用いて陰イオン交換基を導入する請求項1〜5のいずれか一項記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項7】
前記エポキシ化合物が、グリシジルエーテル基を2〜5個有する化合物である請求項1〜6のいずれか一項記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項8】
重合後、陰イオン交換基を導入可能な官能基を有するハロアルキルスチレンと、ハロアルキルスチレンと共重合可能な単量体と、重合開始剤と、エラストマーと、グリシジルエーテル基を2個以上有するエポキシ化合物とを含有することを特徴とする陰イオン交換膜用重合性組成物。

【公開番号】特開2011−202074(P2011−202074A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72265(P2010−72265)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(390005407)AGCエンジニアリング株式会社 (14)
【Fターム(参考)】