説明

難燃性ポリエステル樹脂

【課題】耐ブロッキング性が良好な難燃性ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、(i)全ジカルボン酸成分に対して、一般式(1)で示される化合物を15〜30モル%、テレフタル酸を30〜55モル%、アジピン酸を20〜40モル%共重合し、(ii)全グリコール成分に対して、1,4−ブタンジオールを50モル%以上共重合し(iii)融点が40〜60℃である難燃性ポリエステル樹脂。


(式中、R、Rは、単結合または二価の置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性の観点から難燃性の向上が求められており、基材の難燃性だけでなく、それに用いる接着剤の難燃性が求められている。特にフレキシブルフラットケーブルやフラットワイアーハーネス等の配線材の分野では、配線材内に電流が流れ高温になることから、基材および接着剤ともに難燃性が強く求められている。
【0003】
一般に、配線材の基材はポリエステルフィルムであるため、それに用いる難燃性接着剤は、リンを含むポリエステル樹脂を有機溶媒に溶解したものが多く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1に、特定有機リン化合物を共重合した難燃性ポリエステルを用いた難燃性接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−212266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の難燃性ポリエステルを塗布したフィルムをロール状で保管した場合、フィルムとフィルムがブロッキングするという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術を鑑み、耐ブロッキング性が良好な難燃性ポリエステル樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこのような課題を解決するために鋭意検討の結果、特定組成のポリエステル樹脂が、汎用の有機溶媒に可溶で、耐ブロッキング性が高くなることを見出し、本発明に到達した。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)ジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、
(i)全ジカルボン酸成分に対して、一般式(1)で示される化合物を15〜30モル%、テレフタル酸を30〜55モル%、アジピン酸を20〜40モル%共重合し、
(ii)全グリコール成分に対して、1,4−ブタンジオールを50モル%以上共重合し
(iii)融点が40〜60℃
である難燃性ポリエステル樹脂。
【0010】
【化1】

(式中、R、Rは、単結合または二価の置換基を表す。)
【0011】
(2)(1)記載の難燃性ポリエステル樹脂からなる被膜を基材上に設けた積層体。
(3)(2)記載の積層体を用いた配線材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難燃性で、耐ブロッキング性が高く、汎用の有機溶媒に可溶なポリエステル樹脂を提供することができる。また、本発明のポリエステル樹脂からなる被膜は、接着性が良好である。そのため、本発明のポリエステル樹脂は、フラットケーブルやフラットワイアーハーネス等の配線材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分から構成される。
【0015】
ジカルボン酸成分としては、一般式(1)で示される化合物とテレフタル酸とアジピン酸とを共重合する必要がある。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(1)で示される化合物のR、Rは、単結合または二価の置換基である。R、R中の合計の炭素数は0〜3の整数であることが好ましい。R、R中の合計の炭素数をこの範囲とすることで、ポリエステル樹脂の重合性が向上する。
【0018】
一般式(1)で示される化合物としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイドのイタコン酸付加体(HCA−IA)、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイドの2−メチリデンヘキサン二酸付加体、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイドの2−メチレン−5メチルヘキサン二酸付加体等が挙げられる。
【0019】
一般式(1)の化合物は、特許文献1に記載されてように、有機リン化合物と不飽和ジカルボン酸化合物を1:0.9〜1:1.2(モル比)で、150〜180℃で、1〜3時間反応させ合成することができる。
【0020】
ジカルボン酸成分において、化学式(1)で示される化合物は、15〜30モル%共重合する必要がある。化学式(1)で示される化合物の共重合量が15モル%未満の場合、難燃性が低下するので好ましくない。一方、化学式(1)で示される化合物の共重合量が30モル%を超える場合、重合性が低下し、得られるポリエステル樹脂の数平均分子量が低くなる。そのため、接着性が低下するので好ましくない。
【0021】
ジカルボン酸成分において、テレフタル酸は30〜55モル%共重合する必要がある。テレフタル酸の共重合量が30モル%未満の場合、接着性が低下するので好ましくない。一方、テレフタル酸の共重合量が55モル%を超える場合、溶剤溶解性が低下するので好ましくない。
【0022】
また、ジカルボン酸成分において、アジピン酸は20〜40モル%共重合する必要がある。アジピン酸の共重合量が20モル%未満の場合、溶剤溶解性が低下するので好ましくない。一方、アジピン酸の共重合量が40モル%を超える場合、接着性が低下するので好ましくない。
【0023】
ジカルボン酸成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジカルボン酸を加えてもよい。
【0024】
ジカルボン酸成分を構成する他のジカルボン酸としては、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ヒドロキシ-イソフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸等が挙げられる。これらは、無水物であってもよい。
【0025】
グリコール成分としては、1、4−ブタンジオールを共重合することが必要である。グリコール成分において、1,4−ブタンジオールの共重合量は、50モル%以上共重合することが必要で、60モル%以上共重合することが好ましく、70モル%以上共重合することがより好ましく、80モル%以上共重合することがさらに好ましい。1,4−ブタンジオールの共重合量が50モル%未満の場合、結晶性が低くなるため、耐ブロッキング性が低下するので好ましくない。
【0026】
グリコール成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で、他のグリコールを加えてもよい。
【0027】
グリコール成分を構成する他のグリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオール等を挙げることができる。
【0028】
ポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒドロキシカルボン酸を共重合してもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、オキシラン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、4−(β−ヒドロキシ)エトキシ安息香酸、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。
【0029】
ポリエステル樹脂には、少量であれば、モノカルボン酸、モノアルコール、3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコール、3官能以上のヒドロキシカルボン酸を共重合してもよい。
【0030】
モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等が挙げられる。モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0031】
3官能以上のカルボン酸としては、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等が挙げられ、3官能以上のアルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂には、融点が存在し、その融点は40〜60℃であることが必要であり、40〜50℃であることが好ましい。ポリエステル樹脂に融点がない場合、また、融点が存在しても40℃未満である場合、耐ブロッキング性が低下するので好ましくない。また、ポリエステル樹脂に融点が存在しても60℃を超える場合、接着性が低下するので好ましくない。なお、融点の結晶融解熱量は、4〜25J/gであることであることが好ましく、5〜15J/gであることがより好ましい。結晶融解熱量を4〜25J/gとすることで、ブロッキング性と結晶性を両立させることができる。また、本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、−15〜15℃であることが好ましく、−10〜5℃がより好ましい。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000以上とすることが好ましく、25000以上とすることがより好ましい。数平均分子量を10000以上とすることで、接着性を向上させることができる。
【0034】
ポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、硬化剤、硬化助剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、顔料、粘着付与剤、充填剤、他の樹脂、酸無水物、帯電防止剤、発泡剤が含まれてもよい。
【0035】
硬化剤としては、エポキシ樹脂、酸無水物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシナネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシナネート等のイソシアネート類およびそのブロックイソシアネート、ウレトジオン類、β−ヒドロキシアルキルアミド等が挙げられる。
【0036】
硬化触媒としては、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
熱安定剤としては、リン酸、リン酸エステル等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物等が挙げられる。
【0037】
滑剤としては、タルクやシリカ、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。
顔料としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
粘着付与剤としては、タッキファイヤーが挙げられる。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂は、直接エステル化法、エステル交換法等の公知の製造方法により製造される。なお、一般式(1)で示される化合物は、予め合成しておく方が好ましい。直接エステル化工程時に、一般式(1)で示される化合物の合成を同時におこなった場合、反応温度によっては、色調が極めて不良になる場合がある。一般式(1)で示される化合物として市販品を用いてもよい。
【0039】
直接エステル化法としては、例えば、一般式(1)で示される化合物を合成した反応缶に、さらに必要なモノマー原料を反応缶内に追加し、エステル化反応をおこなった後、重縮合反応をおこなう方法が挙げられる。エステル化反応では、窒素雰囲気下、160℃以上の温度で4時間以上、加熱溶融して反応させる。重縮合反応では、130Pa以下の減圧下で、220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。エステル化反応および重縮合反応の際には、触媒を用いてもよい。触媒としては、テトラブチルチタネート等のチタン化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム等の金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物等が挙げられる。触媒の使用量は、酸成分1モルに対し、0.1×10−4〜100×10−4モルとすることが好ましい。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂は、汎用の有機溶媒に溶解させて樹脂溶液として用いることができる。固形分濃度は、25℃において、10質量%以上とすることが好ましい。固形分濃度が10質量%未満の場合、使用する際の作業性が低下する場合がある。汎用の有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソ等の芳香族系有機溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶媒、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系有機溶媒、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル等のエステル系有機溶媒、セロソルブアセテート、メトキシアセテート等のアセテート系有機溶媒等が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、芳香族系有機溶媒、ケトン系有機溶媒が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の樹脂溶液は、公知の塗布方法で基材に塗布し、乾燥して被膜を形成することができる。
【0042】
基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム等のフィルムや、アルミニウム、銅等の金属箔、無機ガラスが挙げられる。
【0043】
基材に樹脂溶液を塗布する方法としては、特に限定されないが、コーターを用いて塗布する方法等が挙げられる。コーターとしては、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フローコーター等が挙げられる。コーティングする際に、塗布量を調整することで、接着剤層の厚みを任意に制御することができる。乾燥後の接着剤層の厚みは0.1〜20μmとすることが好ましい。乾燥工程での温度は70〜150℃とすることが好ましい。加熱加圧工程の温度は120〜190℃とすることが好ましく、圧力は0.05〜0.4MPaとすることが好ましい。
【0044】
本発明の被膜は耐ブロッキング性が良好である。そのため、樹脂溶液を塗布乾燥したフィルムは、ロール状としてもフィルム同士が接着することがなく、ロール状で長期間にわたり貯蔵することができる。
【0045】
本発明の被膜は、その上に、他の基材を載せ、必要に応じて、加熱や加圧することで、基材と基材を接着することができる。
【0046】
また、本発明の被膜は難燃性が高いため、難燃性が要求される分野においても、難燃性接着剤として十分に使用することができる。
【0047】
本発明の被膜は、フレキシブルフラットケーブル、フラットワイヤーハーネスの難燃性接着剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、ポリエステル樹脂の物性測定は以下の方法によりおこなった。
【0049】
(1)樹脂組成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製JNM−LA400)を用いて、H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた(周波数:400MHz、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸、温度:25℃)。
【0050】
(2)融点、結晶融解熱量、ガラス転移温度
JIS−K7121にしたがって、ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、DSC(入力補償型示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製、ダイヤモンドDSC)を用いて、窒素気流中、−50℃から昇温速度10℃/分で、200℃まで昇温し、ガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間点をガラス転移温度とし、昇温時の融解温度のピークをポリエステル樹脂の融点とした。また、融解温度のピーク面積から結晶融解熱量を求めた。
【0051】
(3)数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
送液ユニット:島津製作所社製LC−10ADvp
紫外−可視分光光度計:島津製作所社製SPD−6AV、検出波長:254nm
カラム:Shodex社製KF−803 1本、Shodex社製KF−804 2本 を直列に接続して使用
溶媒:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
【0052】
(4)溶媒溶解性
反応缶から全量取り出し、溶液の状態を目視で観察し、以下の指標で判断した。
○:溶解していた。
×:溶解していなかった。
【0053】
(5)耐ブロッキング性
バーコーターを用いて、樹脂溶液を、ポリエステルフィルム(厚さ38μm)に、樹脂層の厚みが3μmになるように塗布し、120℃で1分間乾燥した。
塗布乾燥したフィルムの塗布面同士を重ね合わせて、30℃で、0.1MPaの荷重を与えて、24時間放置した。
その後、重ね合わせたフィルムを23℃×50%RHの雰囲気下で1日以上放置した後、25mm幅に切断し、引張強度試験機(島津製作所社製オートグラフAG100B)を用いて、23℃の恒温槽で180度剥離試験をおこない、剥離強度を測定した。接着性は、剥離強度を幅1cmあたりに換算して以下の基準で評価した。
○:0.01N/cm未満
×:0.01N/cm以上
【0054】
(6)接着性
(5)で塗布乾燥したフィルムの塗布面同士を重ね合わせて、160℃で、圧力0.1MPaで1分間プレスし、積層体を作製した。
その後、積層体を23℃×50%RHの雰囲気下で1日以上放置した後、25mm幅に切断し、引張強度試験機(島津製作所社製オートグラフAG100B)を用いて、23℃の恒温槽で180度剥離試験をおこない、剥離強度を測定した。接着性は、剥離強度を幅1cmあたりに換算して以下の基準で評価した。
○:10N/cm以上
×:10N/cm未満
【0055】
(7)難燃性
ポリエステル樹脂を十分に乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製、「EC−100型」)を用い、シリンダ温度180℃、金型温度50℃、射出時間30秒、冷却時間40秒にて射出成形をおこなって厚さ5mm×長さ10cm×幅10mmの成形片を得た。
得られた成形片を用いて、JIS K7201−2にしたがって、LOI値(限界酸素指数)を測定し、以下の基準で評価した。
○:45以上
×:45未満
【0056】
実施例1
9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA)43質量部、イタコン酸(IA)26質量部からなる混合物を攪拌翼の付いた反応缶に投入し、100rpmの回転数で攪拌しながら、150℃で2時間付加反応をおこなった。(HCA:IA=20:20)
その後、テレフタル酸(TPA)66質量部、アジピン酸(ADA)58kg、1,4−ブタンジオール(BD)122質量部を反応缶に追加投入し、100rpmの回転数で攪拌しながら、0.35MPaの制圧下240℃で4時間エステル化をおこなった。(TPA:ADA:IA:BD=40:40:20:135(モル比))
エステル化後、重縮合缶へ移送して重合触媒としてテトラブチルチタネートモノマーを0.4質量部投入し(カルボン酸成分1モルあたり10×10−4モル)、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、1.3hPa、240℃で重縮合反応をおこなった。その後、ストランドカッターを用いて、ペレット状のポリエステル樹脂を得た。
別の反応缶に、得られたポリエステル樹脂3質量部、メチルエチルケトン7質量部を入れ(濃度30質量%)、60℃で3時間攪拌して混合した。
【0057】
実施例2〜6、比較例1〜10
表1に示すように仕込み組成を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなった。
【0058】
表1に、ポリエステル樹脂の仕込樹脂組成、最終樹脂組成、樹脂と樹脂溶液の特性値を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1〜6は、難燃性で、耐ブロッキング性が良好で、汎用の有機溶媒(メチルエチルケトン)に可溶なポリエステル樹脂であった。また、本発明のポリエステル樹脂からなる被膜は、接着性が良好であった。
【0061】
比較例1は、ポリエステル樹脂中のテレフタル酸の共重合量が少なく、一般式(1)で示される化合物の共重合量が多かったため、接着性が低かった。
比較例2は、ポリエステル樹脂中のテレフタル酸の共重合量が多かったため、溶剤溶解性が悪かった。
比較例3は、ポリエステル樹脂中のアジピン酸の共重合量が少なかったため、溶剤溶解性が悪かった。
比較例4は、ポリエステル樹脂中のアジピン酸の共重合量が多かったため、接着性が低かった。
比較例5は、ポリエステル樹脂中の一般式(1)で示される化合物の共重合量が少なかったため、難燃性が低かった。
比較例6は、ポリエステル樹脂中の一般式(1)で示される化合物の共重合量が多かったため、重合性が悪く、数平均分子量が低かった。そのため、接着性が低かった。
比較例7は、ポリエステル樹脂中の1,4−ブタンジオールの共重合量が少なかったため、結晶性が低く、耐ブロッキング性が低かった。
比較例8は、ポリエステル樹脂中の1,4−ブタンジオールの共重合量が少なかったため、耐ブロッキング性が低かった。
比較例9は、ポリエステル樹脂中に一般式(1)で示される化合物を含まなかったため、溶剤溶解性が悪く、難燃性が低かった。
比較例10は、引用文献1の実施例3を追試したものであるが、アジピン酸を含まず、ブタンジオールの共重合量が少なかったため、耐ブロッキング性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、
(i)全ジカルボン酸成分に対して、一般式(1)で示される化合物を15〜30モル%、テレフタル酸を30〜55モル%、アジピン酸を20〜40モル%共重合し、
(ii)全グリコール成分に対して、1,4−ブタンジオールを50モル%以上共重合し
(iii)融点が40〜60℃
である難燃性ポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、R、Rは、単結合または二価の置換基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂からなる被膜を基材上に設けた積層体。
【請求項3】
請求項2記載の積層体を用いた配線材。

【公開番号】特開2013−18942(P2013−18942A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155769(P2011−155769)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】