説明

難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物

【課題】 薄肉の樹脂成形品が製造可能(高流動性)であり、且つUL−94規格とIEC60695−2規格の、双方の難燃性を満足し、加えて機械的性質、絶縁特性についても充分な性能を有する、物性バランスに優れ、広範な用途へ適応可能な、難燃性樹脂組成物、およびこれを成形してなる樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 (A)270℃、10分間処理した際に生ずる1,4−ブタンジオール成分量が50ppm以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、以下の(B)〜(E)を配合してなることを特徴とする難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
(B)臭素系難燃剤10〜50質量部
(C)アミノ基含有トリアジン類の塩10〜60質量部
(D)無機系難燃助剤5〜20質量部
(E)無機充填材40〜200質量部

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れた、具体的には赤熱棒(グローワイヤー)着火温度を向上させた、難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、PBT系樹脂と略称することがある。)組成物、及びこのPBT系樹脂組成物からなる樹脂成形品並びに絶縁材料部品に関する。更に詳しくは、優れた難燃性、電気特性、具体的には例えば耐トラッキング性、流動性、機械物性に加えて、グローワイヤー特性に優れたPBT系樹脂組成物およびそれを用いた樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品における電気安全性に対する要求が、以前にも増して高くなりつつある。例えば、最近改定された国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission;略称IEC。)のIEC60335−1規格では、冷蔵庫、全自動洗濯機などの家庭用電気製品において、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品のうち、通常の動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している絶縁部品、およびこれらの接続部から3mm以内の距離にある、プリント回路基板、端子台、プラグ等に代表される電気絶縁部品の材料(樹脂組成物)に関する安全性の要求が著しく高くなってきた。
【0003】
特に、この様な電気絶縁部品の材料に対しては、グローワイヤー試験に対する特性向上(安全性の向上)要求が高まっている。具体的には例えば、赤熱棒燃焼指数(Glow−wire Flammability Index、略称:GWFI値、IEC60695−2−12)が、0.75mm、1.5mm、3.0mmの各々の厚みを有する3種の試験片全て850℃以上であり、且つ、赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature、略称:GWIT値、IEC60695−2−13)が、0.75mm、1.5mm、3.0mmの各々の厚みを有する試験片の全てにおいて775℃以上である等、最近では厳しい特性が要求されている。
【0004】
通常、電気絶縁部品は様々な形状をとるので、上述した様に高度な安全性に応えるためには、樹脂成形品の肉厚によらず、具体的には例えば薄肉状のリブ等が入り組んだ複雑な構造等においても、あらゆる肉厚においてグローワイヤー試験に合格する必要があり、この様な高い安全性を有する樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形品並びに絶縁材料部品が要求されている。
【0005】
勿論これらの部品は、既に同様の電気電子部品に要求されている難燃性試験をも満足する必要がある。この難燃性とは、具体的にはアンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格における難燃性や、トラッキング指数(Comparative Tracking Index、略称CTI)、または保証トラッキング指数(Proof Tracking Index、略称PTI)等であり、これらの規格が要求する事項をも同時に満たさねばならない。即ち、0.3mm厚みにて、V−0以上の難燃性、またPTI(またはCTI)で、250V以上の値を有する必要がある。
【0006】
この様に、難燃性や耐トラッキング性に加え、グローワイヤー試験の様に、着火および炎の伝播に対しての耐性、即ち電気安全性についても厳しい規定が設けられ、全てをバランスよく満たす樹脂組成物およびこれを成形してなる樹脂成形品が求められている。
【0007】
この様な要求に対しては、多くの樹脂材料のうち、ポリエステル樹脂、中でもPBT系樹脂が機械的性質、電気的性質、耐熱性等に優れているので、電気機器部品、機械部品等の多くの用途に使用されてきた。特に、優れた難燃性が容易に得られ、同時に機械的性質も優れている点から、上述の様に、オペレータが付かない状態で動作する電気電子機器の部品の絶縁材料(難燃性絶縁材料)として使用されてきた。
【0008】
難燃性の評価は、裸火による火災延焼抑制を目的とした自己消火性評価試験の他に、電気火災を想定した評価方法がある。上述のUL−94規格の難燃性(以下、単に難燃性ということがある。)は、バーナーによって試験片に鉛直下方から着火させた後、バーナーを離して着火元が無い状態で試験片の「燃焼継続のし難さ」を評価する、自己消火性評価試験である。
【0009】
一方、UL−94規格以外の、別の難燃性評価方法として、電気火災を想定した評価方法としてグローワイヤー試験(GWIT:IEC60695−2−13)が挙げられる。この試験は、赤熱した高温のグローワイヤーを試験片に押しつけた状態で「着火するかしないか」を評価するものである。つまり、通電部加熱による発火を想定した電気火災における着火性評価試験である。
【0010】
また更に電気火災には、通電部樹脂表面に湿気を含んだ埃等が付着して僅かな電流が流れ、炭化導電経路(トラック)が形成されることで発熱・発火に至る場合がある。この様なトラッキング現象に対する耐性評価として、耐トラッキング性試験(IEC60112;PTI、UL746A;CTI)がある。
【0011】
従来、PBT樹脂に難燃剤を配合した樹脂組成物は、UL−94規格の最高評価(V−0)に到達可能であることが知られている。しかしV−0の材料であっても、グローワイヤー試験(GWIT)を実施した場合には、上述の高い安全性の目安となる775℃を達成することは困難であった。
【0012】
一方、別の樹脂材料では、自己消火性を示さない材料(つまりUL−94規格の評価が「HB」となる様な材料。)であっても、グローワイヤー試験(GWIT)の結果が775℃を達成出来るものがある。この様な樹脂としては、具体的には例えばPPE樹脂、PP樹脂、PC樹脂等が挙げられ、これらはUL−94規格評価がHBであっても、0.75mm、1.5mm、3.0mmの3厚みで775℃以上を満足する場合があった。
【0013】
しかしこれらの材料では、流動性や耐熱性(そして当然、UL−94規格の難燃性)が不充分であり、多様化した要求特性を満足した、物性バランスに優れた樹脂組成物を提供することは極めて困難であり、問題となっていた。
【0014】
この問題に対して、例えば臭素系難燃剤を使用し、電気安全性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供する方法が開示されている(例えば特許文献1、2参照)。しかしこの方法では、3mm厚のポリエステル樹脂成形品においてのみGWIT値が775℃以上を満たす反面、0.75mm厚や1.5mmの厚の樹脂成形品ではGWIT値が著しく低いという問題があることが、本発明者の検討により判明した。
【0015】
これは、グローワイヤーを押しつけてから30秒以内に貫通しない様な厚肉の試験片では、グローワイヤーと樹脂組成物との接触面積が極めて小さいままであり、肉厚の薄い試験片での試験結果に比べると、結果が良好となる傾向にあると考えられる。また逆に、極めて薄肉の、具体的には例えば0.2〜0.4mm程度の肉厚の試験片では、グローワイヤーが接触すると同時に、試験片にはグローワイヤーの径より大きな穴が空いてグローワイヤーが貫通してしまう。つまりグローワイヤーと試験片が、直ぐに接触しなくなるので、グローワイヤーと樹脂組成物との接触時間が極めて短く、同様に良好な結果となると考えられる。
【0016】
しかし、グローワイヤーを試験片に押しつけている30秒間に、徐々に貫通してゆく肉厚の試験片、具体的には例えば、0.75〜2mm厚のものでは、グローワイヤーと樹脂組成物との接触時間が長く、そして接触面積が広くなるので、大幅にグローワイヤー特性が低下すると考えられる。
【0017】
また一方、PBT樹脂に臭素系難燃剤、難燃助剤、液晶性ポリマー及び繊維状強化剤等を配合してなるPBT系樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献3参照)。このPBT系樹脂組成物は、グローワイヤー試験結果が良好であり、そして特に困難とされている成形品厚みを1.5mm程度に薄くしても、IEC60695−2−13規格による赤熱棒着火温度が775℃以上となる。
【0018】
しかし液晶ポリマーを配合する為に流動性の大幅な低下が生じ、PTI(またはCTI)が250V以上を満足できないという問題があることに、本発明者の検討により判明した。
【0019】
そして、熱可塑性ポリエステル樹脂に、ガラス繊維、メラミン・シアヌル酸付加物及び無機複合酸化物を特定量配合した樹脂組成物が、優れた難燃性、機械的強度、耐湿熱性、耐熱性を有し、且つ電気絶縁性に優れる強化難燃ポリエステル樹脂組成物となることが知られている(例えば特許文献4参照)。
【0020】
しかし臭素系難燃剤とメラミン・シアヌル酸付加物との組み合わせは、難燃性が良好なポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂に関する実施例のみであり、PBT系樹脂での記載はもちろん、厚み0.3mm程度の薄肉状の試験片における特性、具体的にはUL−94規格とグローワイヤー特性の双方を改善することについて、示唆すらされていない。
【0021】
更に、PBT系樹脂に無機酸のメラミン塩および/または縮合リン酸アミド、難燃剤、三酸化アンチモン及び無機充填剤等を特定割合で配合した樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献5参照)。この樹脂組成物は耐トラッキング特性と難燃性に優れ、且つPBT樹脂が本来有する機械的特性をも維持する特徴がある。しかし厚み0.3mm程度の薄肉状試験片におけるUL−94とグローワイヤー特性の双方の改善等について、示唆すらされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2005−232410号公報
【特許文献2】特開2006−45544号公報
【特許文献3】特開2008−19400号公報
【特許文献4】特許3697087号公報
【特許文献5】特許3951451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、これまで困難とされていた、難燃性PBT系樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品において、薄肉の樹脂成形品が製造可能(高流動性)であり、且つUL−94規格とIEC60695−2規格の、双方の難燃性を満足し、加えて機械的性質、絶縁特性についても充分な性能を有する、物性バランスに優れ、広範な用途へ適応可能な、難燃性PBT系樹脂組成物、およびこれを成形してなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、この課題に関し、PBT系樹脂における難燃性の改良について検討した。まず、本発明者はPBT系樹脂におけるモノマー成分である、1,4−ブタンジオール成分に着目した。PBT系樹脂は加熱することで分解し、モノマー成分である1,4−ブタンジオール成分を生じる。そして1,4−ブタンジオール成分は更にテトラヒドロフラン(THF)へと縮合、閉環する。
【0025】
本発明者は、この加熱により発生するTHFが、PBT系樹脂成形品における難燃性、とりわけ電気火災を想定した耐グローワイヤー特性や耐トラッキング性に対して大きな影響を及ぼすことに着目した。次に、この様な高い難燃性を有し、且つPBT系樹脂組成物として充分な機械物性を有することはもちろん、高い流動性を有することで薄肉状の樹脂成形品の製造も可能な樹脂組成物について検討した。
【0026】
そして本発明者は、熱による分解の際、生成する1,4−ブタンジオール成分の量が特定以下のPBT系樹脂、具体的には270℃にて10分間処理した際に生じる1,4−ブタンジオール成分の量が50ppm以下であるPBT系樹脂に、臭素系難燃剤、アミノ基含有トリアジン類の塩、無機系難燃助剤、更に無機充填材を、各々特定量配合したPBT系樹脂組成物が、これらの課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
即ち、本発明の第一の要旨は、
(A)270℃、10分間処理した際に生ずる1,4−ブタンジオール成分量が50ppm以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、
(B)臭素系難燃剤10〜50質量部、
(C)アミノ基含有トリアジン類の塩10〜60質量部、
(D)無機系難燃助剤5〜20質量部、及び
(E)無機充填材40〜200質量部を配合してなることを特徴とする、難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に関する。
【0028】
本発明の第二の要旨は、前記(A)が、テレフタル酸及び/またはそのエステル誘導体からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールからなるジオール成分と、更に他の共重合成分とからなるポリエステル共重合体であり、当該共重合成分が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマー酸、イソフタル酸及びイソフタル酸のエステル誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、当該ポリエステル共重合体100質量%に対する当該共重合成分由来の構造単位の割合が1〜50質量%であることを特徴とする、上述第一の要旨に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に関する。
【0029】
本発明の第三の要旨は、(D)無機系難燃助剤が、(D−1)アンチモン化合物、及び/または(D−2)硼酸金属塩であることを特徴とする、上述第一または二の要旨に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に関する。
【0030】
本発明の第四の要旨は、前記(A)100質量部に対して、さらに(F)燐系難燃剤0.1〜8質量部を配合することを特徴とする上述第1乃至第三の要旨の何れかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に関する。
【0031】
本発明の第五の要旨は、上述の要旨一乃至五のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を射出成形してなる樹脂成形品に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物によれば、成形性・機械物性、そして難燃性に優れた絶縁材料部品(プリント回路基板、端子台、プラグ等)を提供することが出来る。特に、定格電流が0.2Aを超える接続部を支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある絶縁材料部品についての効果は顕著である。更に、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は流動性にも優れているので、薄肉部を有する樹脂成形品の製造も容易であり、そして薄肉部を有する形状の部品であっても、形状によらず、難燃性、特に電気火災等に対する安全性が向上しているので、幅広い用途への使用が可能な樹脂成形品を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明において例示する例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することが出来る。
【0034】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
本発明における(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT系樹脂)とは、テレフタル酸単位及び1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有する高分子を示す。即ち、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4−ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含む。
【0035】
具体的には例えば、ポリアルキレングリコール類を共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、そしてこれら共重合体とポリブチレンテレフタレート樹脂ホモポリマーとの混合物等が挙げられる。
【0036】
本発明に用いる(A)PBT系は、270℃で10分間処理した際、モノマー由来である1,4−ブタンジオール成分の発生量が50ppm以下の、PBT系樹脂である。
【0037】
本発明において、270℃で10分間処理した際に発生する1,4−ブタンジオール量を上述の様に低減させたPBT系樹脂の製造方法については、特に制限はない。この様な(A)PBT系樹脂を得る方法としては、具体的には例えば、以下の(1)〜(5)が挙げられる。
【0038】
(1)テレフタル酸成分、1,4−ブタンジオール成分以外に、他のジカルボン酸成分やジオール成分、またはヒドロキシカルボン酸成分などの成分を共重合した共重合体(またはPBT系共重合体とポリブチレンテレフタレートホモポリマーとの混合物)を用いて、ジオール成分における1,4−ブタンジオールの割合を低減する方法。
【0039】
(2)テレフタル酸成分としてジメチルテレフタレート等のエステルを用いて、エステル交換効率を向上させてPBT系樹脂を重合することにより、通常はテレフタル酸に対して過剰に用いる1,4−ブタンジオール仕込み量を低減する方法。
【0040】
(3)PBT系樹脂に、ヒンダードフェノール系等の熱安定剤を添加し、安定化する方法。
【0041】
(4)エステル(交換)反応後に固相重縮合を行うことで、未反応の1,4−ブタンジオール量を低減する方法。
【0042】
(5)連続直接重合法によりPBT系樹脂を得ることで、末端カルボキシル基量を低減する、具体的には末端カルボキシル基量を50eq/t以下とする方法。
【0043】
中でも、本発明に用いる(A)PBT系樹脂として、上述の(1)の様な、PBT系共重合体を用いることによって、本発明の難燃性PBT系樹脂組成物において、UL−94での難燃性はもちろん、グローワイヤー特性の向上に加えて機械物性も向上する傾向があるので好ましい。
【0044】
本発明に用いる(A)PBT系樹脂において、上述の1,4−ブタンジオール成分の発生量が多いと、グローワイヤー特性が低下する。そしてこの様に低下したグローワイヤー性を補うために、アミノ基含有トリアジン類の塩や硼酸金属塩、及び/または無機充填材を、本発明の範囲を超えて過剰に配合すると、機械的強度や靭性、そして流動性が低下し、成形性の低下やモールドデポジットの発生量が多くなる。
【0045】
よって本発明の(A)において、270℃で10分間処理した際に発生する1,4−ブタンジオール量は、50ppm以下であればよく、出来るだけ少ない方が好ましい。具体的には45ppm以下、中でも40ppm以下であることが好ましい。但し、一般的にこの1,4−ブタンジオール成分の発生量を0ppmとするには経済的に不利であり、またPBT系樹脂の機械強度低下や、成形性が低下する場合がある。よって通常、この1,4−ブタンジオール成分量としては、0.1ppm以上、中でも1ppm以上である。
【0046】
尚、本発明においてPBT系樹脂を270℃で10分間処理した際に発生する1,4−ブタンジオール成分の量とは、以下の条件にて測定された1,4−ブタンジオール成分量を示す。
【0047】
1,4−ブタンジオール発生量(単位は、μg/g樹脂=ppm。)は、次の方法により測定する。先ず、PBT系樹脂を0.02g秤量し、サンプル管に入れ、島津製作所社製のTD−20、カラムUA1701を使用し、ヘリウム30ml/minの気流下、270℃で10分間熱処理し、−20℃に冷却したクライオトラップで発生ガス総量を捕集する。
【0048】
捕集したガス総量の測定は、カラムUA1701(50℃・2分間保持後、260℃(10℃/10分)へ昇温後、さらに300℃(5℃/10分))を使用する。注入口温度270℃で捕集したガスをガスクロマトグラフィーに導入し、イオンクロマトグラムで1,4−ブタンジオールの定量を行い、PBT系樹脂からの発生量を求めた。尚、1,4−ブタンジオール量はn−デカンを内部標準として検出量を作成し、定量した。
【0049】
本発明において、(A)PBT系樹脂の製造に用いるテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては特に制限はなく、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0050】
これらジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、またはジカルボン酸のアルキルエステル、好ましくはジアルキルエステルとして、PBT系樹脂の製造に使用でき、ジカルボン酸とジカルボン酸アルキルエステルとの混合物として使用してもよい。ジカルボン酸アルキルエステルのアルキル基としては、特に制限はないが、アルキル基の炭素数が多いとエステル交換反応時に生成するアルキルアルコールの沸点上昇を招き、反応液中から揮発が困難となり、結果的に末端停止剤として働き、PBT系樹脂の製造を阻害する場合があるので、中でも炭素数4以下のアルキル基が好ましく、特にメチル基であることが好ましい。
【0051】
本発明において、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分としては、特に制限はなく、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオールなどを挙げることができる。
【0052】
本発明においては、さらに、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトールなどの三官能以上の多官能成分などを共重合成分として用いることができる。
【0053】
本発明に用いるPBT系樹脂の製造方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の従来公知の任意の製造方法の中から、適宜選択して決定すればよい。これらの方法は大きく分けてジカルボン酸を主原料として用いるいわゆる直接重合法と、ジカルボン酸ジアルキルエステルを主原料として用いるエステル交換法がある。
【0054】
前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがあるが、ジカルボン酸及び/またはジカルボン酸ジアルキルエステルに対して、1,4−ブタンジオール原料の仕込量が比較的少ないため、重合後においても、モノマー由来である1,4−ブタンジオール成分の発生ガス量が少ないことからエステル交換法が好ましい。これらのエステル化反応又はエステル交換反応、および引き続いて行われる重縮合反応は連続式、半連続式、或いは回分式のいずれであってもよい。
【0055】
連続直接重合法の一例としては、テレフタル酸を主成分とする前記ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とする前記ジオール成分とを、一段若しくは複数段のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、通常180〜260℃、好ましくは200〜240℃、特に好ましくは210〜235℃の温度、また、通常10〜300kPa、好ましくは10〜130kPa、特に好ましくは60〜90kPaの圧力下で、通常0.5〜10時間、好ましくは0.5〜5時間、さらに好ましくは1〜3時間で、連続的にエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、単数若しくは複数の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、特に好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に2〜12時間好ましくは3〜10時間で重縮合反応させる方法が挙げられる。
【0056】
一方、エステル交換法の一例としては、テレフタル酸のジアルキルエステルを主成分とする前記ジカルボン酸エステル成分と1,4−ブタンジオールを主成分とする前記ジオール成分とを、一段若しくは複数段のエステル交換反応槽内で、エステル交換触媒の存在下に、通常110〜260℃、好ましくは140〜240℃、特に好ましくは180〜220℃の温度、また、通常10〜300kPa、好ましくは10〜130kPa、特に好ましくは60〜101kPaの圧力下で、0.5〜10時間、好ましくは0.5〜5時間で連続的にエステル交換反応させ、得られたエステル交換反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、一段若しくは複数段の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、特に好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に2〜12時間好ましくは3〜10時間で重縮合反応させる方法が挙げられる。
【0057】
又、重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜出ダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状の粒状体とされる。
【0058】
さらに、上記の反応工程の後に、固相重縮合工程を行なうこともできる。この工程を実施することで、モノマー由来である1,4−ブタンジオール成分の発生ガス量が少なくなることから、実施することが好ましい。
【0059】
この場合、溶融重縮合は固有粘度の値で、0.6〜1.1で停止し、固相重縮合を行なうことが好ましい。固有粘度が前記範囲の下限を下回ると溶融粘度が低すぎてチップ化が困難であり、一方上限を上回ると固相重縮合の利点が得られなくなる虞がある。
【0060】
固相重縮合工程における反応条件は、固相重縮合反応が進行する限り任意である。ただし、温度条件は、熱可塑性ポリエステルの温度で、通常170℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは185℃以上、また、通常210℃以下、好ましくは200℃以下である。これより温度が低いと重縮合が進行せず、温度が高いと反応器壁面に熱可塑性ポリエステルが融着して製造困難となる虞がある。
【0061】
本発明におけるエステル化またはエステル交換反応触媒としては、チタン化合物が好適に用いられ、チタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が代表的なものとして挙げられ、中でもテトラブチルチタネートが好ましい。
【0062】
その使用量は特に限定されないが、多すぎると異物の原因となるばかりでなくポリマーの熱滞留時の劣化反応や、ガス発生の原因となり、少なすぎると、主反応速度が低下し副反応が起こりやすくなるため、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂に対してチタン原子として、通常1〜250ppm、好ましくは5〜200ppm、さらに好ましくは5〜150ppm、特に好ましくは20〜100ppm、中でも30〜90ppmが好適である。
【0063】
又、エステル化またはエステル交換反応触媒として、前記チタン化合物の他に、例えば、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸、等の錫化合物、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム、等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム、等のカルシウム化合物を用いることができる。
【0064】
また、重縮合反応触媒としては、エステル化またはエステル交換反応時に添加した触媒を引き続いて重縮合反応触媒として用いることとして新たな触媒の添加を行わなくてもよいし、前記触媒を更に添加してもよく、そのときの使用量に特に制限はないが、多すぎると前記のような問題が起こるため、通常得られるポリブチレンテレフタレート樹脂に対して金属原子として、300ppm以下、好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下となる量使用し、又、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒とは異なる、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物等を新たに添加してもよい。
【0065】
同様の観点から、前述のエステル化又はエステル交換反応で得られるオリゴマーに対して、チタン原子、またはチタン原子及び重縮合反応触媒金属原子の合計の金属濃度が15〜230ppmであるのが好ましく、更に好ましくは30〜150ppmである。これらの金属量は、湿式灰化等の方法でポリマー又はオリゴマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Induced Coupled Plasma(ICP)等を用いて測定することができる。
【0066】
又、前記エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応において、前記触媒の他に、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、及びそれらのエステルや金属塩等の燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物等の反応助剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物等の抗酸化剤、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸及びそのエステル、シリコーンオイル等の離型剤等の他の添加剤を存在させてもよい。特に、ヒンダードフェノール系熱安定剤が添加されたPBT系樹脂は、モノマー由来である1,4−ブタンジオール成分の発生ガス量が少ないことから、エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応において添加されていることが好ましい。
【0067】
又、エステル化またはエステル交換反応槽としては、攪拌装置を有する反応槽であれば特に制限はなく、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等の型式のいずれであってもよく、又、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。
攪拌装置は公知のものが使用でき、動力部および軸受、軸、攪拌翼からなる通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転するタイプも用いることができる。
【0068】
攪拌の形態にも制限はなく、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、反応液の一部を反応器の外部に配管等で持ち出してラインミキサ−等で攪拌し、反応液を循環させる方法もとることができる。
攪拌翼の種類も公知のものが選択でき、具体的にはプロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼等が挙げられる。
【0069】
本発明に用いるPBT系樹脂の固有粘度は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した場合、0.50以上、好ましくは0.6以上であり、一方上限は3.0以下、好ましくは2.0以下である。固有粘度が、0.50より小さいと機械的強度が低く、3.0より大きいと成形が困難になる。本発明に用いるPBT系樹脂としては、固有粘度を異にする2種類以上のPBT系樹脂を併用してもよい。
【0070】
本発明において、(A)PBT系樹脂の末端カルボキシル基量は任意であr。一般的には、270℃、10分間処理した際に生ずる1,4−ブタンジオール成分量が50ppm以下であるPBT系樹脂としては50eq/t以下であり、より好ましくは40eq/t以下である。
【0071】
PBT系樹脂の末端カルボキシル基量は、PBT系樹脂を有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。より具体的には、樹脂ペレットをベンジルアルコールに溶解し、水酸化ナトリウム溶液にて酸−アルカリ滴定により定量する。PBT系樹脂の末端カルボキシル基量を50eq/t以下とすることにより、PBT系樹脂の溶融時及び/または分解溶融時に、加水分解による1,4−ブタンジオール成分の発生ガス量を少なくすることができる。
【0072】
PBT系樹脂中のカルボキシル基は、PBT系樹脂の溶融時及び/または分解溶融時の加水分解に対して自己触媒として作用する傾向にあるので、50eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると加水分解開始が早まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、1,4−ブタンジオール成分の発生ガス量が多くなる場合がある。
【0073】
本発明に用いる、PBT系共重合体を用いたPBT系樹脂としては、具体的には例えば、以下の(1)〜(4)が挙げられる。以下に、本発明に用いるPBT系樹脂のうち、PBT系共重合体を用いたものの例として、これらを具体的に説明する。
【0074】
(1)ポリエステルエーテル樹脂:
テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びポリアルキレングリコールを共重合した、PBT共重合体
【0075】
(2)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂:
テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びダイマー酸を共重合したPBT共重合体
【0076】
(3)イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂:
テレフタル酸、1,4−ブタンジオール、及びイソフタル酸を共重合したPBT共重合体
【0077】
(4)上述(1)〜(3)のPBT共重合体と、PBT樹脂ホモポリマーとの混合物
【0078】
(1)ポリエステルエーテル樹脂:
ポリエステルエーテル樹脂は、テレフタル酸またはそのエステル誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールを主成分とするジオール成分を重合してなる、ポリエステルエーテル樹脂である。
【0079】
このポリエステルエーテル樹脂におけるポリテトラメチレンエーテルセグメントの割合は、適宜選択して決定すればよいが、通常、1〜50質量%である。ポリテトラメチレンエーテルセグメント割合が少なすぎると、ポリブチレンテレフタレート樹脂のモノマーである1,4−ブタンジオール成分の発生量が多くなり、グローワイヤー特性が低下する。逆に当該セグメント割合が多すぎても、強度、成形性、耐熱性が不十分となる。よって当該セグメント割合は、ポリエステルエーテル樹脂において1〜50質量%であることが好ましく、中でも5〜40質量%、更には5〜30質量%、特に10〜25質量%であることが好ましい。
【0080】
ポリエステルエーテル樹脂としては、テレフタル酸またはそのエステル誘導体以外のジカルボン酸成分及び/又はブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコール以外の前記ジオール成分、ジカルボン酸成分を用いて共重合したポリエステルエーテル樹脂であってもよい。
【0081】
ポリテトラメチレンエーテルグリコールの数平均分子量は、好ましくは300〜6000であり、中でもは500〜5000であることが好ましい。数平均分子量が小さすぎると靭性向上効果が不十分になりやすく、逆に大きすぎると強度、耐熱性が不十分になる。さらにはPBTホモポリマーと混合する際には相溶性が低下し、靭性が低下する場合がある。
【0082】
ポリテトラメチレンエーテルグリコールの数平均分子量は、末端基の水酸基を過剰の無水酢酸又は無水フタル酸と反応させ、残余の無水酢酸又は無水フタル酸を水で分解して酸とし、この酸をアルカリ滴定で定量した結果から求めることが出来る。つまり、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの末端水酸基に消費された無水酢酸又は無水フタル酸の量から、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの数平均分子量を求めればよい。
【0083】
ポリエステルエーテル樹脂の溶液粘度〔η〕は、テトラクロロエタンとフェノールの質量比1:1混合溶媒を用い、30℃で測定した値が、0.7〜2であることが好ましく、中でも0.8〜1.7であることが好ましい。ポリエステルエーテル樹脂の溶液粘度が低すぎたり、高すぎると、本発明の樹脂成形品において成形性や靭性が損なわれる場合がある。またポリエステルエーテル樹脂の融点は通常180〜225℃であり、中でも190〜223℃であることが好ましい。
【0084】
(2)ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂:
ダイマー酸共重合ポリエステル樹脂は、酸成分は主としてテレフタル酸、ダイマー酸からなり、グリコール成分は1,4−ブタンジオールからなるポリエステル共重合体である。尚、本発明におけるダイマー酸とは、ダイマー酸の他、トリマー酸やモノマー酸等の、ダイマー酸製造過程における不純物をも含むものであることを示す。
【0085】
酸成分におけるダイマー酸の割合は、通常、0.5〜30モル%であることが好ましく、中でも1〜20モル%、特には3〜15モル%であることが好ましい。酸成分におけるダイマー酸割合が多すぎると、長期耐熱性が著しく低下する場合があり、逆に少なすぎても、靭性が低下するが合いがある。
【0086】
ダイマー酸の製造方法は任意だが、一般的には、炭素数18の不飽和脂肪酸又はその低級アルキルエステル、具体的には例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸等を原料とし、これらをモンモリロナイト等の粘土触媒によって重合して、炭素数36のダイマー酸の他に、炭素数54のトリマー酸、炭素数18のモノマー酸の混合物を得る。そしてこの混合物を真空蒸留、分子蒸留及び水素添加反応等を経てダイマー酸が得られる。
【0087】
得られるダイマー酸は、鎖状、芳香族環、脂環族単環及び脂環族多環のそれぞれの構造を有する混合物である。ダイマー酸の原料であるリノール酸の成分が多い場合には、鎖状構造が減少し環状構造が増加する。
【0088】
本発明に使用するダイマー酸は、下記一般式(1)で表される鎖状ダイマー酸を10質量%以上含むものであることが好ましい。
【0089】
【化1】

(1)
(式中、Rはアルキル基を示し、Rm、Rn、Rp及びRqの炭素数の和は31である。)この様な鎖状ダイマー酸が10質量%以上の場合、共重合ポリエステル樹脂自体の引張伸度が良好となるので、本発明の難燃性PBT系樹脂組成物の引張伸度も良好となる。
【0090】
また、ダイマー酸に含まれるモノマー酸の含有率は、1質量%以下であることが好ましい。1質量%であると、熱可塑性共重合ポリエステル樹脂を製造する際に縮合重合が十分に進むので、樹脂粘度が十分に上り、靭性が向上するので好ましい。
【0091】
ダイマー酸としては、市販されているものを用いてもよく、具体的には例えば、ユニケマ社製PRIPOL 1008や、PRIPOL 1009、PRIPOL 1008のエステル形成性誘導体であるPRIPLAST 3008、そしてPRIPOL 1009のエステル形成性誘導体であるPRIPLAST 1899等が挙げられる。
【0092】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の製造方法は任意であり、特に制限されない。具体的には例えば、特開2001−064576号公報に開示された方法に従って製造することが出来る。
【0093】
(3)イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂
イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂は、酸成分として主としてテレフタル酸、イソフタル酸を用い、グリコール成分として1,4−ブタンジオールからなるポリエステル共重合体である。
【0094】
酸成分中におけるイソフタル酸の割合は、通常、1〜30モル%であることが好ましく、中でも1〜20モル%、特に3〜15モル%であることが好ましい。イソフタル酸の含有割合が多すぎると耐熱性や射出成形性が低下する場合があり、逆に少なすぎても靭性改良効果が発揮されない。
【0095】
(4)上述(1)〜(3)のPBT共重合体と、PBT樹脂ホモポリマーとの混合物:
上述(1)から(3)のポリエステル共重合体と、PBT樹脂ホモポリマーを、100:0〜10:90の質量比率で混合したものも、本発明において用いることが出来る。これらのポリエステル共重合体は、PBT樹脂ホモポリマーと、従来公知の任意の溶融混練方法にて製造すればよいが、ポリエステル共重合体とPBTホモポリマーとの溶融粘度を合わせることが好ましい。尚、ポリエステル共重合体とPBTホモポリマーの混合比率(質量比)は、溶融混連に使用する混練機の性能により適宜選択して決定すればよいが、通常、100:0〜20:80が好ましく、中でも100:0〜30:70であることが好ましい。
【0096】
(B)臭素系難燃剤
本発明で用いられる(B)臭素系難燃剤としては、従来公知の任意の、熱可塑性樹脂に使用される臭素系難燃剤を用いることが出来る。この様な臭素系難燃性としては、芳香族系化合物が挙げられ、具体的には例えばテトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等のブロム化エポキシ化合物、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)等のポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレート、ポリブロモフェニルエーテル、ブロム化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等のブロム化エポキシ化合物、N,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)(EBTPI)等のブロム化イミド化合物、ブロム化ポリカーボネート等が挙げられる。
【0097】
中でも熱安定性の良好な点より、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)等のポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等のブロム化エポキシ化合物、ブロム化ポリカーボネートが好ましく、更にはポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)等のポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0098】
本発明で用いられるポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、または2種以上を共重合、もしくは他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましく、該臭素原子は、ベンゼン環に付加しており、付加数はベンゼン環1個あたり1〜5個、中でも4〜5個付加したものであることが好ましい。
【0099】
該臭素原子を含有するベンジルアクリレートとしては、ペンタブロムベンジルアクリレート、テトラブロムベンジルアクリレート、トリブロムベンジルアクリレート、またはそれらの混合物などが挙げられる。また、臭素原子を含有するベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートがあげられる。
【0100】
臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートと共重合させるために使用される他のビニル系モノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類;メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類;スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸またはその無水物;酢酸ビニル、塩化ビニル、などが挙げられる。
【0101】
これらは通常、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートに対して等モル量以下、中でも0.5倍モル量以下が用いることが好ましい。
【0102】
また、ビニル系モノマーとしては、キシレンジアクリレート、キシレンジメタクリレート、テトラブロムキシレンジアクリレート、テトラブロムキシレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンなどを使用することもでき、これらは通常、臭素原子を含有するベンジルアクリレートまたはベンジルメタクリレートに対し、0.5倍モル量以下が使用できる。
【0103】
該ポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、ポリペンタブロモベンジルアクリレートが、高臭素含有量であること、電気絶縁特性(耐トラッキング特性)が高い観点で好ましい。
【0104】
本発明の難燃性PBT系樹脂組成物における(B)臭素系難燃剤の配合量は、(A)PBT系樹脂100質量部に対して10〜50質量部であり、中でも10〜45質量部、更には10〜40質量部であることが好ましい。この配合量が、(A)PBT系樹脂100質量部に対して10質量部未満では難燃性の向上効果が得られず、逆に50質量部を超えるとPBT樹脂自体の機械的性質を損ない、本発明の難燃性PBT系樹脂組成物の機械物性が低下する傾向がある。
【0105】
(C)アミノ基含有トリアジン類の塩
本発明に用いる(C)アミノ基含有トリアジン類の塩において、アミノ基含有トリアジン類(アミノ基を有するトリアジン類)としては、通常、アミノ基含有1,3,5−トリアジン類が使用され、例えば、メラミン、置換メラミン(2−メチルメラミン、グアニルメラミンなど)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)、メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂など)、シアヌル酸アミド類(アンメリン、アンメリドなど)、グアナミン又はその誘導体(グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU−グアナミンなど)などが挙げられる。
【0106】
塩としては、具体的には例えば前記トリアジン類と無機酸や有機酸との塩などが挙げられる。無機酸としては、硝酸、塩素酸(塩素酸、次亜塩素酸など)、リン酸(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸など)、硫酸(硫酸や亜硫酸などの非縮合硫酸、ペルオクソ二硫酸やピロ硫酸などの縮合硫酸など)、ホウ酸、クロム酸、アンチモン酸、モリブデン酸、タングステン酸などが挙げられる。これらの中でも、リン酸や硫酸が好ましい。
【0107】
有機酸としては、有機スルホン酸(メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、トルエンスルホン酸やベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸など)、環状尿素類(尿酸、バルビツル酸、シアヌル酸、アセチレン尿素など)などが挙げられる。これらのうち、メタンスルホン酸などのC1−4アルカンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのC1−3アルキルC6−12アレーンスルホン酸、シアヌル酸が好ましい。
【0108】
アミノ基含有トリアジン類の塩としては、例えばシアヌル酸メラミン・メラム・メレム複塩、リン酸メラミン類(ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)、硫酸メラミン類(硫酸メラミン、硫酸ジメラミン、ピロ硫酸ジメラムなど)、スルホン酸メラミン類(メタンスルホン酸メラミン、メタンスルホン酸メラム、メタンスルホン酸メレム、メタンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩、トルエンスルホン酸メラミン、トルエンスルホン酸メラム、トルエンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)などが挙げられる。これらのアミノ基含有トリアジン類の塩は、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0109】
このようなアミノ基含有トリアジン類の塩の中で本発明において好ましく使用されるのは、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とトリアジン系化合物との付加物であり、通常はこれらを1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の比率で用いた付加物である。より具体的には、シアヌル酸メラミン、シアヌル酸ベンゾグアミン、シアヌル酸アセトグアナミンであり、更にはシアヌル酸メラミンである。
【0110】
これらの塩は、従来公知の任意の方法で製造される。具体的には例えば、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸の混合物を水スラリーとし、混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥した後に、粉末状で得られる。また、上記の塩は完全に純粋である必要は無く、多少未反応のトリアジン系化合物ないしシアヌル酸、イソシアヌル酸が残存していてもよい。
【0111】
また樹脂に配合される前の塩の平均粒径は、成形品の難燃性、機械的強度や耐湿熱特性、滞留安定性、表面性の点から100〜0.01μmが好ましく、更に好ましくは80〜1μmである。また、上記の塩の分散性が悪い場合には、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤や公知の表面処理剤などを併用してもよい。
【0112】
本発明に用いる(C)アミノ基含有トリアジン類の塩の量は、(A)PBT系樹脂100質量部に対して10〜60質量部であり、中でも10〜50質量部であることが好ましい。(C)の配合量が(A)PBT系樹脂100質量部に対して60質量部を越えると、機械的物性、流動性の低下が著しく、また金型汚染が著しく酷くなる。
【0113】
さらに、アミノ基含有トリアジン類の塩の分散性改良のため、分散剤を配合または、配合前に処理をしておいてもよい。
【0114】
例えば、この様な分散剤に適するモノマーとしては、ジオール類(エチレングリコール、ブタンジオール等。)、イソシアネート類(TDI、MDI)が挙げられる。ポリマーとしては、ポリオール類(ポリエチレングリコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等)、エポキシ化合物類(ビスフェノールAジグリシジルエステル、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂のおよびクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂のポリグリシジルエステル等)が挙げられる。
【0115】
また液体安定剤や(B)臭素系難燃剤以外の難燃剤、バインダー類により処理してもよい。この様な液体安定剤や難燃剤としては、具体的には例えばトリオクチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリエチルホスフェート、トリアリールホスフェート、メチルホスホン酸ジメチルおよび/またはそれと五酸化リンとのポリマー、またはホスホン酸エステル、メタンホスホン酸5−エチル−2−メチルジオキサホスホリナン−5−イルメチルメチル、燐酸エステル、ピロリン酸エステル、アルキルホスホン酸および/またはそれらのオキシアルキル化誘導体等が挙げられる。
【0116】
この分散剤は、低い粘度および低い固形分含有量でもよいが、高粘度で、高固形分含有量でもよい。混合時に2000〜10000mPa.sの粘度をもたらす量比であることが好ましい。
【0117】
アミノ基含有トリアジン類の塩を処理する分散剤は、(B)以外の難燃剤を併用する際、分散剤と当該難燃剤との比を、1:9〜9:1質量比とするのが好ましい。また、配合時の加工性を改善することにより、難燃剤の分散性を改善でき、この目的のため難燃剤を顆粒状にしてから配合することもできる。
【0118】
またバインダーとしては、アルキルアルコキシレート、ポリエチレンエチレングリコール、ワックス(カルナバワックス、モンタンワックス、ポリエチレンワックスなど)などが好ましい。バインダーの融点は任意だが、通常、50〜200℃である。またバインダーの量は、通常、アミノ基含有トリアジン類の塩100質量部に対して、0.5〜10質量部である。
【0119】
(D)無機系難燃助剤
本発明では(D)無機系難燃助を用いる。中でも、(D)無機系難燃剤が(D−1)アンチモン化合物及び/または(D−2)硼酸金属塩であることが好ましい。
【0120】
(D−1)アンチモン化合物としては、酸化アンチモンまたは酸化アンチモンと他の金属の複塩を使用することができる。具体的には例えば、三酸化アンチモン(Sb)、四酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)等の酸化物或いはアンチモン酸ナトリウム等のアンチモン酸塩等が挙げられる。
【0121】
好ましくは五酸化アンチモンまたは五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩が、GWIT性能が優れているため、使用される。五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩として使用する態様は、入手や配合が容易であるので好ましい。例えば、下記一般式(2)又は(3)で示される複塩を使用することが好ましい。
【0122】
n(XO)・Sb・m(HO) (2)
【0123】
n(YO)・Sb・m(HO) (3)
(式中、Xは1価のアルカリ金属元素、Yは2価のアルカリ土類金属元素、nは0〜1.5、mは0〜4を示す。mおよびnは化学式(2)及び化学式(3)においてそれぞれ独立して決定される)
【0124】
更に好ましくは、下記一般式(4)で示される複塩を使用することができる。
n(NaO)・Sb ・・・・・(4)
(式中、nは0.65〜1.5を示す。)
【0125】
上述の式(2)、(3)及び(4)において、Xとしてはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられ、Yとしてはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。nは、0より大きく、通常0.3以上、特に0.65〜1.5が好ましい。
【0126】
nが小さすぎると吸着水の脱離速度が小さいために、溶融粘度が変化しやすい傾向にあり、逆にnが大きすぎると相対的にアンチモンの量が低下することにより難燃助剤としての効果が低減する。
【0127】
mは0〜4であり、好ましくは0〜2である。mが大きすぎるとPBT系樹脂の加水分解が著しくなるので好ましくない。本発明においては特に、耐加水分解性の点からNaO・Sb(n=1)で表される、酸化ナトリウムと五酸化アンチモンの1対1の複塩が好ましく、これは具体的には例えば、日産化学社よりNA−1070L等の商品名で市販されているものが挙げられる。
【0128】
なお、五酸化アンチモンとして、上述の式(2)及び(3)で示される化合物を2種以上混合して使用することもできる。
【0129】
(D)無機系難燃助剤である(D−2)硼酸金属塩としては、例えば硼酸のアルカリ金属塩(四硼酸ナトリウム、メタ硼酸カリウム等)、アルカリ土類金属塩(硼酸カルシウム、オルト硼酸マグネシウム、オルト硼酸バリウム、硼酸亜鉛等)が挙げられ、中でも硼酸亜鉛が好ましい。
【0130】
本発明に用いる(D)無機系難燃助剤の配合量は、(A)PBT系樹脂100質量部に対して5〜20質量部であり、中でも5〜19質量部、特に10〜19質量部である。5質量部より少ないと、難燃助剤効果が発揮されない。20質量部を超えると配合効果が飽和し、また樹脂成形部材の機械的強度を低下させる。
【0131】
本発明に用いる(D)無機系難燃助剤として(D−1)アンチモン化合物を用いる際の配合量は、(A)PBT系樹脂100質量部に対して5〜20質量部、中でも5〜19質量部、特に10〜19質量部であることが好ましい。5質量部より少ないと、難燃助剤効果が発揮されない。20質量部を超えると配合効果が飽和し、また樹脂成形部材の機械的強度を低下させる。
【0132】
本発明に用いる(D)無機系難燃助剤として(D−2)硼酸金属塩を用いる際には、(D−1)アンチモン化合物と併せて配合することで、絶縁特性(耐トラッキング特性)改良、流動性改良、GWIT特性向上に大きく寄与するので好ましい。(D−2)硼酸金属塩の配合量は、(D−1)と併用する際には(A)PBT系樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは1〜10質量部である。配合料が多すぎるか、又は少なすぎると、添加に見合うだけの絶縁特性(耐トラッキング特性)の改良や、流動性改良、GWIT特性向上の効果が発揮されず、特に多すぎると配合効果が飽和し、樹脂成形部材の機械的強度を低下させる場合がある。
【0133】
本発明に用いる(D)無機系難燃助剤として、(D−1)アンチモン化合物と(D−2)硼酸金属塩を用いる際の質量比(D−2)/(D−1)は通常、0〜1であり、中でも0.1〜0.9、特に0.3〜0.9であることが好ましい。
【0134】
(E)無機充填材
本発明に用いる(E)無機充填材は、本発明の樹脂組成物における機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そりの抑制)、そして電気的性質等の性能を、更に優れたものとする。(E)無機充填材としては、従来公知の任意の、各種の形状、具体的には例えば繊維状、粉粒状、板状の無機充填材を用いることが出来る。
【0135】
繊維状充填材としてはガラス繊維、異型断面ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が挙げられる。中でもガラス繊維、カーボン繊維が好ましい。
【0136】
粉粒状充填剤としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0137】
板状充填材としてはマイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。これらの無機充填材は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。繊維状充填材、特にガラス繊維と粉粒状および/または板状充填材の併用は、特に機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい組み合わせである。
【0138】
これらの充填材の使用にあたっては、必要に応じて収束剤や表面処理剤を使用することができる。具体的には例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物を用いて、収束処理や、表面処理を行ってもよい。これらの化合物は、予め収束処理又は表面処理を施して用いるか、または材料調製の際、同時に添加してもよい。
【0139】
本発明に用いる(E)無機充填材の配合量は、(A)PBT系樹脂100質量部に対して40〜200質量部であり、中でも40〜180質量部、特に40〜100質量部であることが好ましい。無機充填剤の配合量が200質量部を超えると本発明の樹脂組成物の流動性や、靭性改良効果が低下してしまう。逆に40質量部以下では、その添加効果が不十分となる場合がある。
【0140】
(F)燐系難燃剤
本発明においては、更に(F)燐系難燃剤を、(A)PBT系樹脂100質量部に対して0.1〜8質量部配合してもよい。(F)燐系難燃剤としては、ホスファゼン化合物、リン酸エステル化合物、ホスフィン酸塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0141】
(F−1)ホスファゼン化合物
本発明に用いるホスファゼン化合物としては特に制限はなく、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、特開2002−114981号公報に記載のホスファゼン系難燃剤に関する3種類に分類されたものが挙げられる。
【0142】
即ち、本発明に用いるホスファゼン化合物としては、架橋フェノキシホスファゼン(以下、難燃剤Aと言うことがある。)、環状ホスファゼンおよび/または直鎖状ホスファゼン(以下、難燃剤Bと言うことがある。)、及びシアノ置換フェノキシ基含有の、環状ホスファゼンおよび/または直鎖状ホスファゼン(以下、難燃剤Cと言うことがある。)が挙げられる。中でも熱安定性の点から、難燃剤Bが好ましく、さらに難燃剤のブリードアウト抑制の点から、難燃剤Bの中でもフェノキシ基含有環状ホスファゼンが好ましい。
【0143】
(難燃剤B)
先ず、環状ホスファゼンおよび/または直鎖状ホスファゼン(上記難燃剤B)いついて説明する。環状ホスファゼン化合物は下記式(5)で示され、鎖状ホスファゼン化合物は下記式(6)で示される。
【0144】
【化2】

(5)
【0145】
【化3】

(6)
【0146】
(式中、nは3〜25の整数、mは3〜10000の整数であり、置換基Xは、それぞれ、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が6〜11のアリール基、フッ素原子、下記式(7)で示される置換基を有するアリールオキシ基、ナフチルオキシ基、炭素数が1〜6のアルコキシ基およびアルコキシ置換アルコキシ基で表される置換基から選ばれる置換基であり、それぞれ異なっていても、同じでもよい。置換基上の水素は一部または全部がフッ素原子、水酸基、有機基に置換されていても構わない。また、式中のYは−N=P(O)(X)または−N=P(X)を表し、Zは−P(X)または−P(O)(X)を表す。)式(6)中の繰り返し単位の部分は、すべてが同じ繰り返し単位であってもよいし、異なっていてもよい。
【0147】
【化4】

(7)
【0148】
(式中のY〜Yは、それぞれ、水素原子、フッ素原子、炭素数が1〜5のアルキル基またはアルコキシ基、フェニル基、ヘテロ元素含有基の中からなる群より選ばれる置換基を表す。)
【0149】
これらのホスファゼン化合物は、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。難燃性を決める因子の一つとして、分子中に含有するリン原子の濃度が挙げられる。ホスファゼン化合物において、鎖状構造を有する鎖状ホスファゼンは分子末端に置換基を有することから、環状ホスファゼン化合物よりもリン含有率が低くなり、同量を添加する場合、鎖状ホスファゼン化合物よりも環状ホスファゼン化合物の方がより難燃性付与効果が高いと考えられることから、本発明においては、環状構造を有するホスファゼン化合物が好ましく、環状ホスファゼン化合物を95質量%以上含有するものが好ましい。
【0150】
ホスファゼン化合物中の置換基Xは特に制限はなく、具体的には例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基等のアルキル基、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、4−ターシャリーブチルフェニル基、2−メチル−4−ターシャリーブチルフェニル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、n−アミルオキシ基、イソアミルオキシ基、tert−アミルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、メトキシプロピルオキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジメチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、3,4−ジメチルフェノキシ基、2,3,4−トリメチルフェノキシ基、2,3,5−トリメチルフェノキシ基、2,3,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,5−トリメチルフェノキシ基、3,4,5−トリメチルフェノキシ基、2−エチルフェノキシ基、3−エチルフェノキシ基、4−エチルフェノキシ基、2,6−ジエチルフェノキシ基、2,5−ジエチルフェノキシ基、2,4−ジエチルフェノキシ基、3,5−ジエチルフェノキシ基、3,4−ジエチルフェノキシ基、4−n−プロピルフェノキシ基、4−イソプロピルフェノキシ基、4−ターシャリーブチルフェノキシ基、2−メチル−4−ターシャリーブチルフェノキシ基、2−フェニルフェノキシ基、3−フェニルフェノキシ基、4−フェニルフェノキシ基等のアルキル置換フェノキシ基、アリール置換フェノキシ基ナフチル基、ナフチルオキシ基等が挙げられ、これらの基の一部または全部の水素がフッ素原子および/またはヘテロ元素を含有する基に置き換わっていても構わない。ここで、ヘテロ元素を含有する基とは、B、N、O、Si、P、S原子を含有する基であり、一例を挙げると、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、グリシジル基、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、メルカプト基、シリル基等を含有する基が挙げられる。
【0151】
(難燃剤C)
本発明に用いる、シアノ置換フェノキシ基含有環状ホスファゼンおよび/または直鎖状ホスファゼン(難燃剤C)としては、上記式(6)のY〜Yの一部がシアノ基で置換されたホスファゼン化合物(以下において、シアノ基含有ホスファゼン化合物と略記することがある。)であることが好ましく、中でも下記式(8)、式(9)の構造を有することが好ましい。
【0152】
【化5】

(8)
【0153】
【化6】

(9)
【0154】
上記式(8)および(9)において、m、n、Y、Zは式(5)と(6)と同じであり、R1とR2は、それぞれ、シアノ基、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基またはフェニル基を示す。ただし、上記化合物におけるR1またはR2がシアノ基である割合は、R1とR2の総数の2〜98%である。
【0155】
さらに詳しくは、式(8)または式(9)で表されるホスファゼン化合物としては、例えば、シアノフェノキシ基とフェノキシ基を混合置換した、シクロトリホスファゼン、シクロテトラホスファゼン、シクロペンタホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物、または直鎖状ホスファゼン化合物が挙げられる。
【0156】
上記シアノフェノキシ基とフェノキシ基を混合置換した環状ホスファゼン化合物の具体例として、例えば、モノシアノフェノキシペンタフェノキシシクロトリホスファゼン、ジシアノフェノキシテトラフェノキシシクロトリホスファゼン、トリシアノフェノキシトリフェノキシシクロトリホスファゼン、テトラシアノフェノキシジフェノキシシクロトリホスファゼン、およびペンタシアノフェノキシモノフェノキシシクロトリホスファゼン等のシクロトリホスファゼン化合物、モノシアノフェノキシペプタフェノキシシクロテトラホスファゼン、ジシアノフェノキシヘキサフェノキシシクロテトラホスファゼン、トリシアノフェノキシペンタフェノキシシクロテトラホスファゼン、テトラシアノフェノキシテトラフェノキシシクロテトラホスファゼン、ペンタシアノフェノキシトリフェノキシシクロテトラホスファゼン、ヘキサシアノフェノキシジフェノキシシクロテトラホスファゼン、およびへプタシアノフェノキシモノフェノキシシクロテトラホスファゼン等のシクロテトラホスファゼン、およびシアノフェノキシ基とフェノキシ基が混合置換したシクロペンタホスファゼン化合物等の環状ホスファゼン化合物が挙げられる。
【0157】
(難燃剤A)
本発明に用いる架橋フェノキシホスファゼン(難燃剤A)としては、具体的には例えば、国際公開番号WO00/09518号パンフレットに開示されている技術により、上記環状ホスファゼンおよび/または直鎖状ホスファゼンをフェニレン基、ビフェニレン基および下記式(10)で示した基からなる群より選ばれた架橋基によって架橋されたものである。
【0158】
【化7】

(10)
【0159】
(式中、Xは、−C(CH−、−SO−、−S−、または−O−を、yは0または1を表す。)これらの架橋構造を有するホスファゼン化合物は、具体的にはジクロロホスファゼンオリゴマーにフェノールのアルカリ金属塩および芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩を反応させることにより製造される。これらのアルカリ金属塩は、ジクロロホスファゼンオリゴマーに対して理論量よりもやや過剰に添加される。これらのホスファゼン化合物は単独で用いても、二種以上の混合物として用いてもよい。
【0160】
本発明に用いる(F−1)ホスファゼン化合物は、通常、上述してきた様な環状三量体、環状四量体等の環状体や鎖状ホスファゼン、架橋体等の異なる構造を有する化合物の混合物としてもよい。なかでも樹脂に添加した場合の加工性の観点から、環状三量体、四量体含有率または架橋体の含有量が高いほど好ましく、中でも三量体等のオリゴマーまたは架橋体を、70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85質量%以上含有するホスファゼン化合物を用いることが好ましい。この様な(F−1)ホスファゼンを用いることによって、本発明の樹脂組成物への優れた難燃性付与効果が得られる上だけでなく、耐グローワイヤー特性の向上と流動性の向上が得られる。
【0161】
また、該ホスファゼン化合物中に含有するナトリウム、カリウム等のアルカリ金属成分は少ない方が好ましく、具体的には例えば200ppm以下、中でも50ppm以下、さらには50ppm以下であることが好ましい。
【0162】
尚、上記式(6)中の置換基Xのうち、少なくとも一つが水酸基であるホスファゼン化合物、即ちP−OH結合を含有するホスファゼン化合物の含有量についても少ない方が好ましく、具体的には例えば1質量%未満であることが好まし。そして且つ、塩素含有量も少ない方が好ましく、具体的には例えば1000ppm以下、中でも500ppm以下、特に300ppm以下であることが好ましい。
【0163】
置換基Xのうち少なくとも一つが水酸基であるホスファゼン化合物は、下記式(11)で表されるオキソ体構造をとることもあるが、このようなオキソ体化合物も水酸基含有ホスファゼン化合物と同様に1質量%未満であることが好ましい。上記式(6)で表される鎖状構造を有するホスファゼン化合物においても、同様である。
【0164】
【化8】

(11)
【0165】
(式中のa+b=nであり、nは3以上の整数である。また、式中のXは、それぞれ、アリールオキシ基および/またはアルコキシ基を示す。)
【0166】
本発明の樹脂組成物において、電気特性、耐加水分解性等を考慮した場合、好適に使用される(F−1)ホスファゼン化合物としては、含有する水分量が1000ppm以下、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは650ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは300ppm以下のものである。そして且つJIS K6751に基づき測定された酸価が1.0以下、中でも0.5以下であることが好ましい。
【0167】
また、本発明で使用されるホスファゼン化合物としては、耐加水分解性、耐吸湿性の観点から、水への溶解度(ホスファゼン試料を0.1g/mlの濃度で蒸留水に混合し、室温で1時間攪拌後に水中に溶け込んだサンプルの量を指す。)が100ppm以下、中でも50ppm、さらには25ppm以下であることが好ましい。
【0168】
本発明に用いるホスファゼン化合物は、含有する置換基の種類や構造の違いによっても異なるが、液状、ワックス状、固体状等、さまざまな形態のものを用いることが出来る。中でも取り扱い性、作業性等を考慮する必要がある場合、室温で固体状態のものが好ましい。固体状態の場合、嵩密度が0.45g/cm以上であることが好ましく、中でも0.45g/cm以上であり、上限は一般的に0.75g/cmである。
【0169】
(F−2)リン酸エステル化合物
本発明に使用されるリン酸エステル化合物としては、従来公知の任意のリン酸エステルを用いることが出来る。具体的には例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等が挙げられるが、中でも下記式(12)で表される化合物が好ましい。
【0170】
【化9】

(12)
(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示し、mは0または1〜4の整数である。Rは、p−フェニレン基、m−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基または以下の式(13)から選ばれる2価の基である。)。
【0171】
【化10】

(13)
【0172】
式(12)においてR〜Rは、本発明の組成物における耐加水分解性向上の為に、炭素数6以下のアルキル基が好ましく、中でも炭素数2以下のアルキル基、特にメチル基が好ましい。mは好ましくは1〜3の整数であり、1がより好ましい。Rは、中でもp−フェニレン基、m−フェニレン基が好ましく、特にm−フェニレン基が好適である。
【0173】
このようなリン酸エステル化合物のなかでも下記式(14)または式(15)で表される化合物が好ましく、式(14)で表される化合物がより好ましい。
【0174】
【化11】

(14)
【0175】
【化12】

(15)
【0176】
このようなリン酸エステル化合物の市販品としては、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−130、CR−733S、TPP、CR−741、CR747、TCP、TXP、CDPから選ばれる1種または2種以上が使用することができ、好ましくはPX−200、TPP、CR−733S、CR−741、CR747から選ばれる1種または2種以上でありより好ましくはPX−200、CR−733S、CR−741から選ばれる1種または2種以上であり、さらに好ましくはPX−200である。
【0177】
(F−3)ホスフィン酸塩
本発明に用いるホスフィン酸塩とは、下記式(16)で表されるホスフィン酸塩および/または式(13)で表されるジホスフィン酸塩であり、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水溶液中で製造され、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
【0178】
【化13】

(16)
【0179】
【化14】

(17)
【0180】
式中、RおよびRは、それぞれ、線状もしくは分枝状の炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Rは線状もしくは分枝状の1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数6〜10のアルキルアリーレン基または炭素数6〜10のアリールアルキレン基であり、MはCa、Mg、AlおよびZnのいずれかであり、mは2または3、nは1または3、xは1または2である。
【0181】
ホスフィン酸塩としての具体例は、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウムが挙げられる。
【0182】
また、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。特に難燃性、電気特性の観点からジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0183】
本発明の組成物を成形して得られる成形品の機械的強度、成形品外観の点でホスフィン酸塩の粒子サイズは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下に粉砕した粉末を用いるのが良い。0.5〜20μmの粉末を用いると高い難燃性を発現するばかりでなく成形品の強度が著しく高くなるので特に好ましい。ホスフィン酸塩は難燃剤として作用するが、窒素系難燃剤と併用することで少ない難燃剤量で優れた難燃性と優れた電気特性を発現する。しかし、これらの配合量が多いと離型不良やモールドデポジットの発生が起こりやすく、成形性が低下する。
【0184】
本発明に用いる(F)燐系難燃剤の量は、(A)PBT系樹脂100質量部に対して、0.1〜8質量部であり、好ましくは1〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部である。燐系難燃剤の配合量は少なすぎても添加効果が不十分であり、多すぎても機械的物性が低下しやすく、またブルーミングが発生し易くなり、射出成形時における発生ガス量が多くなる場合がある。本発明に用いる(F)燐系難燃剤としては、流動改質効果とGWIT特性が高い、ホスファゼン化合物、リン酸エステル化合物が特に好ましく、特にホスファゼン化合物が好ましい。
【0185】
本発明の樹脂組成物においては、難燃性の向上効果をさらに高めるために、滴下防止剤と言われる公知の添加剤を配合してもよい。滴下防止剤としてはフッ素樹脂を挙げることができる。具体的には例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体などが挙げられる。
【0186】
さらに本発明の難燃性PBT系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、その目的に応じ所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂等に添加される公知の物質、即ち酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤、耐加水分解性改良剤(エポキシ化合物、カルボジイミド化合物など)等を配合することが可能である。
【0187】
また、本発明の難燃性PBT系樹脂組成物には、その目的に応じて前記成分の他に、さらに他の熱可塑性樹脂を更に補助的に併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な樹脂であればいずれのものでもよく、例えば、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。またこれらの熱可塑性樹脂は2種以上混合して使用することができる。さらに耐衝撃改良剤であるエラストマー類を配合することもできる。
【0188】
本発明の難燃性PBT系樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法により容易に調製される。例えば、(1)各成分(A)〜(F)を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り込み押出してペレットを調製し、しかる後調製する方法、(2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分(A)〜(F)の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体としてこれ以外の成分と混合し添加することは、これらの成分の均一配合を行う上で好ましい方法である。
【実施例】
【0189】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0190】
実施例及び比較例において、使用した原材料は下記の通りである。
【0191】
以下に、本発明に用いる(A)PBT系樹脂として、以下に(A−1)〜(A−8)を、その製造方法と共に示す。
【0192】
(A−1)PBT系樹脂:
撹拌機、温度計、ガス置換口、蒸留塔を備えた反応器にテレフタル酸ジメチル801質量部、1,4−ブタンジオール435質量部、数平均分子量約1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール100質量部に触媒としてテトラブチルチタネート0.023質量部を仕込み、窒素置換後150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、エステル交換反応(第1工程)を行った。
【0193】
エステル交換反応終了15分前に、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.018質量部、テトラブチルチタネート0.018質量部を1,4−ブタンジオールに溶解して添加し、酢酸マグネシウム・四水塩0.042質量部を水に溶解したものを、1、4−ブタンジールで希釈して添加し、引き続き重縮合反応(第2工程)を行った。
【0194】
重縮合反応は、常圧から1Torrまで85分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度242℃まで昇温し、以降所定重合温度242℃、1Torrで継続し、所定の攪拌トルクに到達した時点で反応を終了した。得られたポリマーをストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターにてカッテングし、ポリマーチップを得た。
【0195】
得られたペレットを脱湿エアー80℃で水分率100ppm以下に乾燥後、不活性ガス雰囲気下、200℃で熱処理し(固相重縮合)、ポリエステルエーテル樹脂を得た。得られたポリエステルエーテル樹脂におけるポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量は10質量%であり、固有粘度は1.15、末端カルボキシル基13eq/t、融点は220℃であった。
【0196】
(A−2)PBT系樹脂:
(A−1)と同様にして、テレフタル酸ジメチル360質量部、1,4−ブタンジオール190質量部および数平均分子量約1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール100質量部を用いポリエステルエーテル樹脂を得た。得られたポリエステルエーテル樹脂におけるポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量は20質量%であり、固有粘度は1.28dL/g、末端カルボキシル基19eq/t、融点は216℃であった。
【0197】
(A−3)PBT系樹脂:
(A−1)と同様にして、テレフタル酸ジメチル360質量部、1,4−ブタンジオール190質量部および数平均分子量約1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール100質量部を用い、固相重縮合せずにポリエステルエーテル樹脂を得た。得られたポリエステルエーテル樹脂におけるポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量は20質量%であり、固有粘度は1.03dL/g、末端カルボキシル基23eq/t、融点は219℃であった。
【0198】
(A−4)PBT系樹脂:
テレフタル酸ジメチル69.6部、1,4−ブタンジオール49.9部、分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール78.0部にテトラブチルチタネート0.107部(100ppmTi/ホ゜リマー)を加え、150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、エステル交換反応(第1工程)を行った。
【0199】
エステル交換反応終了15分前に、テトラブチルチタネート0.107部を1,4−ブタンジオールに溶解して加え、酢酸マグネシウム・四水塩0.1336部を水に溶解したものを、1、4−ブタンジールで希釈して添加し、引き続き重縮合反応(第2工程)を行った。重縮合反応は常圧から1Torrまで85分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度242℃まで昇温し、以降所定重合温度242℃、1Torrで継続し、所定の撹拌トルクに到達した時点で反応を終了し、得られたポリマーをストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターにてカッテングし、ポリマーチップを得た。
【0200】
得られたポリエステルエーテル樹脂におけるポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量は52質量%であり、固有粘度は1.72dL/g、末端カルボキシル基63eq/t、融点は187℃であった。
(A−5)PBT系樹脂:
1,4−ブタンジオール223部、エステル交換触媒としてテトラブチルチタネート0.38部及びテレフタル酸ジメチル293部をエステル交換槽に仕込み、1時間当たり40℃の昇温速度で210℃まで加熱し、生成するメタノールを系外に留去し、エステル交換反応を行った。メタノール留去がほぼ完了してから、エステル化触媒としてテトラブチルチタネート0.38部及びダイマー酸(PRIPOL1009、ユニケマ社製)100部を添加し、1時間当たり20℃の昇温速度230℃まで加熱し、エステル化反応を行った。
【0201】
次に、反応生成物を重合機に移し、1時間かけて温度250℃、真空度0.5mmHgまでもっていき、その後3時間重縮合を行い、ダイマー酸を共重合したPBT系共重合体を得た。
【0202】
得られたダイマー酸共重合PBT系樹脂におけるダイマー酸セグメントの含有量は20質量%であり、固有粘度は0.98dL/g、末端カルボキシル基31eq/t、融点は207℃であった。
【0203】
(A−6)PBT系樹脂:
テレフタル酸ジメチル192.8質量部、イソフタル酸ジメチル27.5質量部(全酸成分に対し12.5モル%)、1,4−ブタンジオール 149.3質量部、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−ベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1モル%、及びテトラブチルチタネート0.1質量部を攪拌機及び留出塔を備えた反応器に仕込み、十分に窒素置換した後、常圧下で160 ℃まで温度を上げ、攪拌を開始した。
【0204】
更に、徐々に温度を上昇させ副生するメタノールを留去した。留出メタノールが理論量の90質量%を越えた時点で反応物質の温度を 210℃に上昇し、次いでこれを別の反応器(重縮合反応器)に移し、1時間で0.1torrまで減圧し、同時に反応温度を温度240℃まで上昇させた。0.1torrの圧力で3時間攪拌を続けた後、溶融物を反応器からストランドとして押し出し、そのストランドを水で冷却し、熱風下を通して付着水を除去し切断してプレポリマーペレットとした。次に、この粒状プレポリマーを予熱器(滞留30分)を経て、加熱用ジャケット付き(185℃熱媒通過)固相反応器へ供給し、181℃で固相重縮合を行った。
【0205】
得られたイソフタル酸共重合PBT系樹脂におけるイソフタル酸セグメントの含有量は25質量%であり、固有粘度は1.03dL/g、末端カルボキシル基30eq/t、融点は205℃であった。
【0206】
(A−7)PBT系樹脂:
テレフタル酸ジメチルと1,4−ブタンジオールを主原料とし、回分重縮合法によりポリブチレンテレフタレート樹脂ホモポリマーを製造した。テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で、合計2,976質量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14質量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させてオリゴマーを得た。
【0207】
引き続いて、そのオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、得られたポリマーをストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターにてカッテングし、ポリマーチップを得た。
得られたペレットを脱湿エアー80℃で水分率100ppm以下に乾燥後、不活性ガス雰囲気下、200℃で熱処理し(固相重縮合)、ポリブチレンテレフタレート樹脂ホモポリマーを得た。得られたポリブチレンテレフタレートの固有粘度は0.85dL/gであり、末端カルボキシル基量は21eq/t、融点は224℃であった。
【0208】
(A−8)PBT系樹脂:
テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを主原料とし、連続重縮合法によりポリブチレンテレフタレート樹脂ホモポリマーを製造した。テレフタル酸1.0モルに対して1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,976質量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4−ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整した第一エステル化反応槽に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14質量部を供給し、攪拌下に滞留時間2時間でエステル化反応させてオリゴマーとした。
【0209】
そのオリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽に連続的に移送し、攪拌下に滞留時間1時間でエステル化反応をさらに進めた。第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽に連続的に移送し、攪拌下に滞留時間2時間で重縮合反応させ、プレポリマーとした。そのプレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽に連続的に移送し、攪拌下に滞留時間3時間で重縮合反応をさらに進め、ポリマーを得た。
【0210】
そのポリマーを連続的に抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出し、ペレタイザーで切断することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂ホモポリマーのペレットを得た。得られたポリブチレンテレフタレート樹脂ホモポリマーの固有粘度は0.85dL/gであり、末端カルボキシル基量は20eq/t、融点は224℃であった。
【0211】
上述した方法にて製造した(A−1)〜(A−8)のPBT系樹脂について、以下の方法により発生ガス量を測定した。結果を表1に示す。
【0212】
1,4−ブタンジオール発生ガス総量(GC−MS)(単位:μg/g樹脂=ppm):
(A−1)〜(A−8)のPBT系樹脂について以下の方法にて行った。PBT系樹脂を0.02g秤量し、サンプル管に入れ、島津製作所社製のTD−20、カラムUA1701を使用し、ヘリウム30ml/minの気流下、270℃で10分間熱処理し、−20℃に冷却したクライオトラップで発生ガス総量を捕集した。
【0213】
条件としては、カラムUA1701(50℃・2min保持後、260℃(10℃/10min)昇温後、さらに300℃(5℃/10min))を使用し、注入口温度270℃で捕集したガスをGCに導入し、イオンクロマトグラムで1,4−ブタンジオールの定量を行い、PBT系樹脂からの発生量を求めた。(n−デカンを内部標準として検出量を作成して定量(単位:μg/g樹脂=ppm)。)
【0214】
【表1】

【0215】
(B)臭素系難燃剤:
(B−1)ポリペンタブロモベンジルアクリレート ブロモケム・ファーイースト社製 PBBPA−FR1025
【0216】
(B−2)臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂:阪本薬品工業社製 SR−T3040 数平均分子量約6000、末端トリブロモフェノール封止品
【0217】
(C)アミノ基含有トリアジン類の塩:
(C−1)シアヌル酸メラミン サンケミカル社製 MCA、平均粒径5μm
【0218】
(C’)メラミン縮合物:
(C’−1)メロン 日本カーバイド社製 P−9501、平均粒径1.2μm
【0219】
(D)無機系難燃助剤:
(D−1)アンチモン化合物 鈴祐化学社製 三酸化アンチモン AT−3CN(商品名)、Sb含有量83.5%、平均粒径:0.9μm
【0220】
(D−1’)アンチモン化合物 日産化学社製 無水アンチモン酸ナトリウム A1070L(商品名)、Sb含有量63.2%、構造式=Sb・NaO又はNaSbO、平均粒径:1μm
【0221】
(D−2)硼酸亜鉛 BORAX社製 2ZnO・3B・3.5HO、平均粒径9μm
【0222】
(E)無機充填材:
(E−1)ガラス繊維 オーエンスコーニング社製 チョップドストランド 03JA−FT592 10.5μm径
【0223】
(F)燐系難燃剤
(F−1)ジエチルホスフィン酸アルミニウム クラリアント社製 OP1240
【0224】
(F−2)芳香族縮合リン酸エステル 大八化学工業社製PX−200(商品名)(1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート))
【0225】
(F−3)環状物を主体とするフェノキシホスファゼンオリゴマー 伏見製薬所社製 FP−100
【0226】
(G)滴下防止剤:住友3M社製四フッ化エチレン樹脂 TF1750(商品名)
【0227】
(H)核剤:林化成社製タルク ミクロンホワイト(商品名)5000A 平均粒径4μm
【0228】
(I)安定剤:ヒンダードフェノール系酸化防止剤 チバスペシャル社製 イルガノックス1010(商品名)(ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)
【0229】
実施例及び比較例において、本発明の難燃性PBT系樹脂組成物の評価は以下の方法により行った。
【0230】
[性能評価法]
溶融混練時のストランドの安定性:
表2に示す配合量にてPBT系樹脂と各種添加剤(ガラス繊維以外)をブレンド後、L/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30XCT)のホッパーより供給し、ガラス繊維は途中のサイドフィーダーより供給を行い、260℃の設定温度で溶融混合して、PBT系樹脂組成物のストランドを押出し、ペレットを得た。
【0231】
ストランドが安定して押し出される樹脂組成物では、ペレットサイズも揃ったものであった。このようなストランドが安定しているものは「○」と表記した。しかしストランドがダイスの出口より押し出されるときに左右上下に振れたり、太くなったり、細くなったりするなど不安定なものは、ペレットサイズが揃わず、射出成形時に喰い込みのトラブルがあった。このようなストランドが不安定なものは「×」と表記した。その中間で、喰い込みトラブルは起こさなかったが、目視で明らかにペレットサイズが不揃いのものを「△」と表記した。
【0232】
流動性:
溶融粘度を測定して、流動性を評価した。溶融粘度は、東洋精器製キャピログラフを使用し、樹脂温度270℃、キャピラリー径1mm、キャピラリー長30mmにて、剪断速度912[1/sec]の時の溶融粘度を測定した。
【0233】
赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature)試験(GWIT試験):
各組成物について、厚みの異なる(0.75mm、1.5mm、3mmの3種類の厚みの)平板試験片(60□)について、IEC60695−2−13に定める試験法に従って行った。具体的には、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間試験片に接触させ、着火しない先端の最高温度より25℃高い温度が赤熱棒着火温度と、当該試験法にて定義されている。この温度を測定した。3種全ての試験片に於いて、このGWITが775℃以上が求められている。
【0234】
難燃性試験:
厚み:0.3mmUL試験片を用いて、UL−94規格垂直燃焼試験を実施した。難燃性レベルは該規格に従い、V−0、V−1、V−2、及びHBの順で評価した。
【0235】
保証トラッキング指数(Proof Tracking Index)試験(略称:PTI試験):
試験片(厚み3mmの平板:60□)について、国際規格 IEC60112に定める試験法によりPTIを決定した。このPTIは、25V刻みの保証電圧の数値である。PTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、600Vから100Vの間の電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものである。
【0236】
曲げ試験:
ISO引張試験片(ISO3167)を用い、ISO178に準拠して測定した。
【0237】
ノッチ付きシャルピー衝撃試験:
ISO179−2に準拠してノッチ付シャルピー衝撃強さを測定した。
【0238】
熱変形温度:
ISO75−1またはISO75−2に準拠して熱変形温度(1.80MPa荷重時)を測定した。
【0239】
(実施例1〜16、比較例1〜4)
各配合の樹脂組成物ペレットを、射出成型機(住友重機械社製、型式SH−100)を用い、シリンダ温度265℃、金型温度80℃の条件で、上述の各種試験片を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0240】
【表2】

【0241】
【表3】

【0242】
表2に示すように、本発明に用いる、特定のPBT系樹脂に、臭素系難燃剤、アミノ基含有トリアジンの塩、無機難燃助剤、及び無機充填材を特定量比で配合して得られた樹脂組成物は、試験片厚みによらずIEC 60695−2−13記載の赤熱棒着火温度775℃以上が可能となるばかりでなく、UL−94試験でも充分な難燃性を示すことが判る。本発明ではPBT系樹脂の分解により発生するTHFを抑制することが重要な要件のうちの一つであり、この様に700℃を超える温度での試験は、1,4−ブタンジオールの分解によるTHF発生を想定した結果である。この様な高温下での試験においても充分に高いGWITを有することにより、本発明の効果が明白となる。
【0243】
更に本発明の樹脂組成物は、溶融粘度が高くならないので、射出成形による薄肉状の樹脂成形品製造においても、金型内への樹脂充填に問題が無く、0.75mmの様な薄肉成形品も充分製造可能であることが判る。そして各種曲げ試験の結果からも、機械物性の低下がなく、充分な強度を有することが判る。つまり、本発明の難燃性PBT系樹脂組成物は、生産性、流動性、難燃性、耐トラッキング特性、靭性等の機械特性に優れ、物性バランスの優れたものであることが判る。
【0244】
本発明の難燃性PBT系樹脂組成物より得られる樹脂成形品は、オペレータが付かない状態で動作するPBT製品のうち、動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している部品、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある部品(プリント回路基板、端子台、プラグ等)に対し、電気的安全性を向上させることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)270℃、10分間処理した際に生ずる1,4−ブタンジオール成分量が50ppm以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、以下の(B)〜(E)を配合してなることを特徴とする難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
(B)臭素系難燃剤10〜50質量部
(C)アミノ基含有トリアジン類の塩10〜60質量部
(D)無機系難燃助剤5〜20質量部
(E)無機充填材40〜200質量部
【請求項2】
前記(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、テレフタル酸及び/またはそのエステル誘導体からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールからなるジオール成分と、更に他の共重合成分とからなるポリエステル共重合体であり、当該共重合成分が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマー酸、イソフタル酸及びイソフタル酸のエステル誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、当該ポリエステル共重合体100質量%に対する当該共重合成分由来の構造単位の割合が1〜50質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項3】
(D)無機系難燃助剤が、(D−1)アンチモン化合物、及び/または(D−2)硼酸金属塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項4】
更に(F)燐系難燃剤を、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して0.1〜8質量部配合することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を射出成形してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品。

【公開番号】特開2011−127048(P2011−127048A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288632(P2009−288632)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】