説明

難燃性樹脂組成物、及び、被覆電線

【課題】自動車用の被覆電線の絶縁層に応用したときに薄肉化が可能でありながら、そのとき、耐摩耗性、耐ガソリン性、難燃性、及び、耐低温性を満足する難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリフェニレンエーテル40重量部以上70重量部以下、(B)ポリオレフィン10重量部以上40重量部以下、及び、(C)スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体10重量部以上30重量部以下から構成されたベース樹脂100重量部に対して、縮合リン酸エステルが10重量部以上30重量部以下配合されて構成されている難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用途に特に好適な耐摩耗性に優れる被覆電線、及び、その絶縁層形成に好適に用いることができる難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途に用いられる被覆電線は、振動の多い、かつ、狭隘な車内に配線されて用いられるために特に高い耐摩耗性が求められる。
【0003】
さらに、エンジンルーム部分などでの使用では難燃性はもちろん、耐ガソリン性、耐低温性が求められ、かつ、良好な配索性と軽量化とを満足するためにその絶縁層は薄肉化が求められている。
【0004】
ここで、特開平11−147980号公報(特許文献1)では、マトリックスがy677ポリプロピレン系樹脂、分散相がポリフェニレンエーテル系樹脂、混和剤が水添ブロック共重合体からなる難燃性に優れた樹脂組成物が提案されている。
【0005】
しかしながら、このような従来の公知技術にあっては、ポリプロピレンの配合量が多く、水添ブロック共重合体の組成についても規定されていないために、配索性向上と軽量化の目的で電線の絶縁層を薄肉化し、スクレープ摩耗規格で評価した場合に、十分な耐摩耗性は得られず、IS06722に準拠するその他の電線特性、すなわち、耐ガソリン性、難燃性、耐低温性も満足しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−147980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、自動車用の被覆電線の絶縁層に応用したときに薄肉化が可能でありながら、そのとき、耐摩耗性、耐ガソリン性、難燃性、及び、耐低温性を満足する難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の難燃性樹脂組成物は、請求項1に記載の通り、(A)ポリフェニレンエーテル40重量部以上70重量部以下、(B)ポリオレフィン10重量部以上40重量部以下、及び、(C)スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体10重量部以上30重量部以下から構成されたベース樹脂100重量部に対して、縮合リン酸エステルが10重量部以上30重量部以下配合されて構成されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0009】
また、本発明の呪詛生物は請求項2に記載の通り、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物において、前記スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体におけるスチレンユニットの含有量が、30重量%以上65重量%未満であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物において、電線被覆用の難燃性樹脂組成物であることを特徴とする。
【0011】
本発明の被覆電線は、請求項4に記載の通り、請求項3に記載の難燃性樹脂組成物により絶縁層が構成されていることを特徴とする被覆電線である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性樹脂組成物は、被覆電線の絶縁層に応用したときに、薄肉化が可能でありながら、耐摩耗性、耐ガソリン性、難燃性、及び、耐低温性を満足し、自動車用被覆電線として最適なものとなる。
【0013】
本発明の被覆電線は、特に分野を限定することなく、幅広く応用可能である。しかし、絶縁層の薄肉化が可能であり、そのときであっても高い耐摩耗性を有し、さらに、耐ガソリン性、難燃性、及び、耐低温性を備えているので、自動車用被覆電線、自動車用被覆電線として特に最適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明に係る被覆電線の断面を示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の難燃性樹脂組成物は上述のようにポリフェニレンエーテル40重量部以上70重量部以下、ポリオレフィン10重量部以上40重量部以下、及び、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体10重量部以上30重量部以下から構成されたベース樹脂100重量部に対して、縮合リン酸エステルが10重量部以上30重量部以下配合されて構成されている。
【0016】
ここで、ポリフェニレンエーテル(PPE)は三菱エンジニアリングプラスチックス社などから市販されている一般的なものを用いることができる。このようなポリフェニレンエーテルは、ベース樹脂100重量部中に40重量部以上70重量部以下の範囲で配合する。ここでベース樹脂中の配合量が40重量部未満であると耐摩耗性が不十分となり、70重量部より多いと耐ガソリン性が悪化する。
【0017】
また、本発明で用いるポリオレフィン(PO)としては、ベース樹脂100重量部中に10重量部以上40重量部以下となるように配合することが必要である。配合量が10重量部未満であると耐ガソリン性が不十分となり、配合量が40重量部より多いと難燃性が悪化する。
【0018】
このようなポリオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルー1−ブテン、4−メチルー1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルアセテート等の重合体あるいは共重合体、α−オレフィン重合体あるいはα−オレフィン共重合体が挙げられ、これらは、1種または2種以上併用することができる。耐摩耗性に優れるためにポリプロピレンであることが好ましい。
【0019】
本発明で用いるスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)としては、スチレンユニットの含有量が30重量%以上65重量%未満のものが好ましい。スチレンユニット量が30重量%未満のものを用いた場合には耐摩耗性が十分でない場合があり、65重量%以上では耐ガソリン性が十分ではない場合が生じる。このようなスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体はたとえば旭化成ケミカルズ社等から入手できる。
【0020】
本発明ではスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体をベース樹脂100重量部中に10重量部以上30重量部以下となるように配合することが必要である。配合量が10重量部未満では十分な耐低温性を得ることができず、30重量部より多く配合すると耐摩耗性、耐ガソリン性、難燃性が十分でない場合が生じる。
【0021】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、滑剤、充填剤及び補強材、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、老化防止剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、その他の樹脂等や、高分子材料、添加剤を含有していても良い。
【0022】
ここで、このような他の高分子としては、オレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム等を挙げることができる。
【0023】
本発明の難燃性樹脂組成物は、上述の成分を用いて、たとえば二軸混練押出機などを用いて適当な温度で混練することで得ることができ、必要に応じてペレット化し、押出し成形機によって導体周囲に押出し成形することにより被覆電線を得ることができる。
【0024】
ここで、軽量で配索が容易な自動車用薄肉電線の一例としては導体として、7本撚りで導体断面積が0.13mm2の導体を用い絶縁層の厚さが0.2mm以下となる薄肉電線が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例について説明する。
表1に示した材料を用いて、表1及び表2に示した配合量(重量部)となるように配合後、二軸混練押出機を用いて混練してそれぞれ種類の難燃樹脂組成物(実施例1〜5、比較例1〜10)を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
<被覆電線の作製>
上記の電線用難燃性樹脂組成物を用いて、それぞれ被覆電線を得た。すなわち、断面積が0.13mm2の導体(7本撚線)に絶縁層の厚さが0.2mmとなるように250℃の温度条件で押出成形を行い、被覆電線を得た。図1にその一例Aのモデル断面図を示す。図中符号1は導体、符号2は絶縁層をそれぞれ示す。
【0028】
さらに、実施例2に係る難燃性樹脂組成物を用いて、絶縁層の厚さが、0.2mm、0.1mm、あるいは0.09mmとなるように作製した電線、及び、
太さの異なる導体、すなわち、0.04mm2、0.05mm2、あるいは、0.13mm2の導体(いずれも7本撚線)を用いた被覆電線をそれぞれ作製した(表2〜表5参照)。
【0029】

【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
く被覆電線の評価>
上記得られた被覆電線の評価を耐摩耗性、耐ガソリン性、低温性、難燃性についてそれぞれ行った。
【0034】
<耐摩耗性評価>
7Nの荷重、直径0.45mmの針金、及び、上記で得られた被覆電線を用いてIS06722準拠のスクレープ摩耗規格で測定を実施し、スクレープ回数200回以上でも導体と針金との間で導通しなかった場合を十分であるとして「優」、スクレープ回数100回以上でも導体と針金との間で導通しなかった場合を十分であるとして「可」、100回未満で導通した場合を不十分であるとして「不可」と、それぞれ評価した。
【0035】
<耐ガソリン性>
得られた被覆電線を23℃雰囲気下で20時間ガソリンに浸漬し、30分乾燥(室温乾燥)の後、それぞれの電線をその外径の5倍径のマンドレルに巻付けて行うIS06722準拠の試験において、1kVで1分間の耐電圧試験の後、2kV以上の耐電圧試験に耐えたものを十分であるとして「優」、電圧1kVでの1分間の耐電圧試験に耐えたものを十分であるとして「可」、絶縁破壊したものを不十分であるとして「不可」と、それぞれ評価した。
【0036】
<耐低温性>
−40℃の恒温室槽内にて、それぞれの被覆電線をその外径の5倍径のマンドレルに巻付けて行うIS06722準拠の試験において、自己径の5倍径のマンドレルに巻き付けて1kV、1分の耐電圧試験に耐えたものを十分であるとして「優」、1kVでの1分間の耐電圧試験に耐えたものを十分であるとして「可」、絶縁破壊したものを不十分として「不可」と、それぞれ評価した。
【0037】
く難燃性評価>
電線を水平に対して45度の角度をなすようにドラフト内に設置し、ブンゼンバーナの内炎部を、電線に5秒間接炎させて行うIS06722準拠の難燃試験において、接炎終了後、絶縁体に着火した炎が全て30秒以内に消え、かつ、試験試料上部の絶縁体が500mm以上焼けずに残るものを十分であるとして「優」、絶縁体に着火した炎が全て70秒以内に消え、かつ、試験試料上部の絶縁体が50mm以上焼けずに残るものを十分であるとして「可」、70秒以上燃え続けるか、焼け残った試験試料上部の絶縁体が50mm未満のものを不合格とした。
【0038】
上記評価は1種類の電線について5回繰り返し、評価がすべて「優」であったものを十分であるとして「◎」、「優」あるいは「可」であった場合を十分であるとして「○」、「不可」が1回以上4回以下あった場合をあった場合を不十分として「△」、「不可」が5回あった場合を不十分であるとして「×」と、それぞれ評価し、これら評価結果を表2〜5に併せて記載した。
【0039】
これら結果より本発明に係る難燃性樹脂組成物によれば、絶縁層の厚さが0.1mm以上とし、導体の断面積が0.05mm2以上の導体を用いれば耐摩耗性、耐ガソリン性、難燃性、及び、耐低温性すべてにおいて優れた性能を有する薄肉絶縁電線を製造できることが判る。
【符号の説明】
【0040】
1 導体
2 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル40重量部以上70重量部以下、(B)ポリオレフィン10重量部以上40重量部以下、及び、(C)スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体10重量部以上30重量部以下から構成されたベース樹脂100重量部に対して、縮合リン酸エステルが10重量部以上30重量部以下配合されて構成されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体におけるスチレンユニットの含有量が、30重量%以上65重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
電線被覆用難燃性樹脂組成物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の難燃性樹脂組成物により絶縁層が構成されていることを特徴とする被覆電線。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14691(P2013−14691A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148484(P2011−148484)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】