説明

難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形加工品、防火テープ

【課題】難燃性と高い破断伸びを有し、しかも従来より長寿命の難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形加工品、防火テープを提供する。
【解決手段】塩素化ポリエチレン100質量部に対し、金属水酸化物を50質量部以上200質量部以下、フリットを50質量部以上200質量部以下含有する組成物からなり、前記組成物が過酸化物架橋されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火性を向上させた難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形加工品、さらに電力ケーブルなどに巻き付けて使用する防火テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
洞道等に敷設されている超高圧OFケーブルあるいは高圧CVケーブル等の重要幹線ケーブル類は雷やケーブルの劣化などにより、万一地絡した場合、地絡により火災が発生、延焼により被害が拡大する。
【0003】
このような延焼を防止するため、ケーブル最外層に難燃で耐延焼性に優れた防火テープを巻き付けている。防火テープは地絡が発生したときにケーブル等の絶縁体が膨張し破裂することを防止したり、火災が発生したときに延焼拡大を防止する機能が必要となり、これらの機能を長期間持続することが求められる。
【0004】
従来より電線・ケーブルの延焼防止の方法として、特許文献1や特許文献2に開示されるような防火層形成材(防火テープ)をケーブルや電線に巻き付けて実施されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−162211号公報
【特許文献2】特開昭56−84738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
難燃性樹脂組成物を、例えばケーブル等の最外層に巻きつけて防火テープとして用いた場合、防火テープに着火したときに延焼を抑え、鎮火することで延焼被害を最小限に抑制するために用いられるため、防火テープとして用いる難燃性樹脂組成物には、主に高い難燃性と燃焼時の固化性と200%以上の破断伸びが必要である。
【0007】
このため、難燃性樹脂組成物を防火テープとして用いた場合は、垂直トレイ法によるVTFT難燃試験(IEEE std 383)に合格することが求められる。
【0008】
また、さらに高い耐燃焼性及び耐熱性の求められるケーブルに使用する場合には、垂直トレイ法によるVTFT難燃試験(IEEE std 383(1974))において、20分燃焼後のシース炭化長が60cm以下を達成する必要がある。これを達成していない防火テープであると燃焼中に防火テープが裂けて落下してシースが露出し、炎がシースに直接当たり燃焼が進行しやすくなる。このため、燃焼中に固化する難燃性樹脂組成物の製造が求められる。
【0009】
また、地絡発生時は瞬間的に高温になり電線の絶縁体やケーブル絶縁体(シース)が分解し、ガス化、更には爆発的燃焼に至る。この際、防火テープは、電線やケーブルの発火口を塞いで延焼を防止することが要求される。
【0010】
この延焼防止能力は破断伸びと関連があり、破断伸びが150%以下になると地絡発生時に防火テープが破壊することが分っている。従って防火テープが破壊しないためには、破断伸びが200%を切ったときを寿命と判定し、その寿命が長いことが必要となる。
【0011】
従来の防火テープは、使用環境50℃の条件で20年の寿命であるのに対し、ケーブルの耐用年数はそれ以上を要求されると共に、さらに長期化が期待されていることから、従来の防火テープは一度張替えを行う必要があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、難燃性と高い破断伸びを有し、しかも従来よりも長寿命の難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形加工品、防火テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、塩素化ポリエチレン100質量部に対し、金属水酸化物を50質量部以上200質量部以下と、軟化点が200℃以上500℃以下であるフリットを50質量部以上200質量部以下含有する組成物からなり、前記組成物が過酸化物架橋されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0014】
請求項2の発明は、前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイトの中から選ばれた1種以上のものからなる請求項1に記載の難燃性樹脂組成物である。
【0015】
請求項3の発明は、前記組成物の架橋度が5%以上70%以下である請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物である。
【0016】
請求項4の発明は、前記組成物は、鉛及び鉛化合物を含有しない請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物である。
【0017】
請求項5の発明は、前記組成物はホウ酸塩、スズ酸塩の中から選ばれた1種以上を1質量部以上20質量部以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物である。
【0018】
請求項6の発明は、前記ホウ酸塩がホウ酸亜鉛であり、前記スズ酸塩がスズ酸亜鉛であることを特徴とする請求項5に記載の難燃性樹脂組成物である。
【0019】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形加工してなることを特徴とする成形加工品である。
【0020】
請求項8の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物をテープ状に成形加工してなることを特徴とする防火テープである。
【0021】
請求項1〜4の発明は、難燃性と高い破断伸びを有し、しかも従来よりも長寿命の難燃性樹脂組成物を提供するものであり、請求項5,6の発明はさらに耐熱性及び耐燃焼性の求められる環境で使用する場合に高い効果を発揮する難燃性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の難燃性樹脂組成物は、耐熱性、耐燃焼性、燃焼時の固化性、耐加熱変形性に優れ、しかも従来よりも長寿命化であるという優れた効果を発揮するものであり、より具体的には、以下の効果を奏する。
【0023】
(1)防火テープ(防火層形成材)の破断伸びが200%を切る時間は130℃の条件の下、8日以上で、固化性は300g以上、加熱変形率は25%以下となる。
【0024】
(2)本発明の防火テープはケーブルに巻き付けることができ施工が簡単である。
【0025】
(3)本発明の防火テープは経済性が良い。
【0026】
(4)本発明の防火テープは、垂直トレイ法によるVTFT難燃試験(IEEE std 383)に十分耐えうるものであり、実用途での効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の防火テープの実施の形態を示し、(a)、(b)は本発明の防火テープの1枚の厚みを変えた実施の形態の斜視図、(c)は本発明の防火テープを3枚重ねた実施の形態の斜視図である。
【図2】本発明の防火テープを電線(或いはケーブル)に巻いて使用した例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0029】
本発明は、塩素化ポリエチレン100質量部に対し、金属水酸化物を50質量部以上200質量部以下と軟化点が200℃以上500℃以下であるフリットを50質量部以上200質量部以下含有した組成物より構成され、かつその組成物が過酸化物架橋剤を用いて過酸化物架橋された難燃性樹脂組成物である。
【0030】
さらに上記組成物に、ホウ酸塩、スズ酸塩の中から1種以上を1質量部以上20質量部以下添加しても良い。
【0031】
上記組成物の主成分の他に、可塑剤、無機充填剤、難燃助剤、安定剤、パラフィンを添加するようにしてもよい。
【0032】
次に本発明の組成物の主成分について説明する。
【0033】
塩素化ポリエチレン;
塩素化ポリエチレンは、平均分子量50000以上500000以下、塩素含有量20質量%以上45質量%以下の範囲が使用できるが、難燃性と高い破断伸びのためには平均分子量70000以上250000以下、塩素含有量30質量%以上45質量%以下の範囲が望ましい。
【0034】
分子量が50000未満の場合は強靭性の大幅な低下を招き、分子量が500000を超える場合は成形加工性が悪くなるためである。また、塩素含有量が30質量%未満、特に20質量%より小さい場合は難燃性の低下が大きく、塩素含有量が45%を超える場合は剛性が大きくなり可とう性の著しい低下を伴うためである。
【0035】
フリット;
フリットは、例えば、単一非結晶性のリン酸塩硝子粉末で、主な組成分がP25、Al23,B23、K2O,Na2Oから構成され、軟化点が200℃以上500℃以下のものが使用できる。軟化点が200℃未満と低い場合、軟化する時期が早すぎるため、効果的に延焼を防止できない。軟化点が500℃を超えて高いと、延焼の勢いが強い場合、軟化する時期が遅くなり、フリットが軟化しても延焼を防止できない。前述したフリットは塩素化ポリエチレン100質量部に対して、50質量部以上200質量部以下とする必要がある。50質量部未満では、VTFT級の難燃性を付与することが難しく、また、200質量部を超えると押出成形性が著しく低下する。
【0036】
金属水酸化物;
金属水酸化物には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイトの中から1種以上を使用することができる。
【0037】
ここで、垂直トレイ法によるVTFT級の難燃性を付与するにはJISK7201に準拠した酸素指数で35以上が必要である。
【0038】
そこで金属水酸化物は、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、50質量部以上200質量部以下とする必要がある。50質量部未満では、VTFT級の難燃性を付与することが難しく、また、200質量部を超えると押出成形性が著しく低下する。
【0039】
ホウ酸塩またはスズ酸塩;
ホウ酸塩またはスズ酸塩は、塩素化ポリエチレンの塩素と反応し、ホウ酸の塩化物またはスズ酸の塩化物になり、塩素化ポリエチレンの炭化を促進させて、難燃性樹脂組成物を固化する働きがある。
【0040】
ホウ酸塩またはスズ酸塩の添加量は、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下とする。1質量部未満では、配合量が不十分であり難燃性樹脂組成物を固化させることができない。20質量部を超えると、固化しやすい分、破断伸びの低下も早く、寿命が不十分となる。
【0041】
ホウ酸塩は例えば、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸ナトリウムが用いられる。特にホウ酸亜鉛を水酸化物で表面処理したものが望ましく、例えばALCANEX FRC(水澤化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0042】
スズ酸亜鉛は例えば、アンチモン化スズ、テトラエチル第二スズ、塩化第一スズ、n−ブチル第二スズトリクロライド、ジ−n−ブチル第二スズジクロライド、ジメチル第二スズジクロライド、クロム酸第一スズ、六塩化スズ二アンモニウム、六塩化スズ二カリウム、酢酸第一スズ、オキシジエチル第二スズ、酸化第二スズ、ビス(トリ−n−ブチル第二スズ)オキサイド、しゅう酸第一スズ、酒石酸第一スズ、酸化スズ(IV)水和物、三酸化亜鉛スズ、四酸化スズニカドミウム、三酸化スズカドミウム、三酸化スズカルシウム、三酸化スズストロンチウム、三酸化スズ鉛、三酸化スズバリウム、三酸化スズマグネシウム、セレン化スズ、テルル化スズ、ふっ化第一スズ、よう化第一スズ、よう化第二スズ、硫化第一スズとこれらの水酸化物が用いられる。この中でスズ酸亜鉛が望ましく、例えばALCANEX ZS(水澤化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0043】
上記主成分の組成範囲では、フリットと金属水酸化物の組合せ効果によって難燃性を発揮する。
【0044】
すなわち、第一に、フリット及び金属水酸化物は、規定量の範囲内で、且つ多いほど難燃性は高くなる。
【0045】
第二に、火災が発生した場合には高温により、防火テープが熱を受け膨張することで、電線(ケーブル)と防火テープとの間に空隙が生じるため熱伝達性が悪くなり、防火効果を高める。
【0046】
第三に、塩素化ポリエチレンが分解炭化してもフリットが融点以上の高温で溶融し、防火テープの表面を覆い、強固な防火層を形成してグローワイヤ性を向上させる効果がある。
【0047】
また、本発明では鉛および鉛化合物を含有しないことが好ましい。
【0048】
塩素化ポリエチレンに代表されるハロゲン系ポリマは熱劣化により脱塩酸し、劣化が進行する。脱塩酸したHClによって劣化反応が連鎖的に進む(ジッパー反応)。鉛化合物は塩酸を捕捉して塩化鉛として安定化し、ジッパー反応を抑制する作用がある。従って、これまで、塩素化ポリエチレンに代表されるハロゲン系ポリマに対し、耐熱性を付与するため三塩基性硫酸鉛に代表される鉛化合物を安定剤として加えることが一般的であった。
【0049】
しかし、このような重金属および重金属化合物は人体に対し、有害であることから未添加とするのが好ましい。鉛および鉛化合物に代わるものとして、本発明では金属水酸化物を添加する。金属水酸化物と共にエポキシ系化合物を添加するとさらに好ましい。エポキシ系化合物は、塩酸を捕捉する作用があるからである。
【0050】
次に、上記の主成分に適宜添加する添加剤を説明する。
【0051】
過酸化物架橋剤;
過酸化物架橋の架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が用いられる。
【0052】
この架橋剤として、各種の多官能性モノマーを併用しても良い。例えば、トリアリルイソシアネートやトリアリルトリメリテートやポリブタジエンが適する。
【0053】
架橋剤の添加量は、塩素化ポリエチレン100質量部に対して1質量部以上5質量部以下添加するのがよい。
【0054】
無機充填剤;
無機充填剤としては、クレー、シリカ、アルミナ等を用いることができる。これらは、フリットや金属水酸化物と同様に、塩素化ポリエチレン100質量部に対して、50質量部以上200質量部以下とするのがよい。
【0055】
難燃助剤;
難燃助剤としては、防火性を向上させる目的で、通常用いられている三酸化アンチモンが好ましい。
【0056】
安定剤;
安定剤は、ヒンダート・フェノール系、アミン系、硫黄系を使用できるが、特にヒンダート・フェノール系に過酸化物分解剤を併用することが望ましい。
【0057】
ヒンダート・フェノール系は単独で自動酸化劣化においてラジカル連鎖禁止剤として自動酸化の連鎖を止める効果がある。
【0058】
具体的には、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、オクチル化ジフェニルアミン、2,4,−ビス[(オクチルチオ)メチル]−O−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。
【0059】
過酸化物分解剤;
過酸化物分解剤は、連鎖禁止反応で生じた過酸化物をアルコールに還元する効果があり、ヒンダート・フェノール系と併用することで単独に比べて安定剤として相乗効果が得られる。
【0060】
過酸化物分解剤には、例えば2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩やジブチルジチオカルバミン酸ニッケルやジラウリル−3−3'−チオジプロピオネートやトリス(ノニル化フェニル)フォスファイトが用いられる。
【0061】
可塑剤;
可塑剤としては、トリメリット酸エステル類、アジピン酸エステル類、リン酸エステル類から選定した1種類以上の耐熱性可塑剤を使用することができる。
【0062】
パラフィン;
パラフィンは、上記の混合成分であるコンパウンドの粘度調整と加工性のために添加するのが好ましい。
【0063】
次に防火テープの成形を説明する。
【0064】
上述した本発明の組成物を、100℃以上に保持したロールで混練したのち、熱プレスや蒸気を用いて加熱を行い、過酸化物架橋を行うと共にシート状に加工し、これを所定の幅にカットして防火テープとする。
【0065】
過酸化物架橋による架橋度は、120℃〜180℃で、2分〜10分の間で加熱することで、5%以上70%以下の範囲で架橋度を調整できる。
【0066】
架橋度が70%より大きい場合には、防火テープの伸びが低下するため、実用的ではない。また、5%より小さい場合には、加熱変形率が大きくなり、実用的ではない。
【0067】
本発明においては、架橋度を5%以上70%以下とすることにより、使用環境50℃の条件下で60年相当の長寿命化を満足することができる。
【0068】
さて、図1は、本発明の防火テープ1を示したものである。
【0069】
図1(a)は、その厚さが厚い(2〜5mm)防火テープ1aを示し、図1(b)は、厚さが薄い(0.5〜2mm)防火テープ1bを示し、図1(c)は、防火テープ1bを複数枚積層して防火テープ1としたものである。
【0070】
これら防火テープ1は、図2に示すように導体2の外周が絶縁体層3で被覆された電線(ケーブル)4の外周面に縦添え、斜め巻きなどにて巻き付けて耐火電線(耐火ケーブル)5とする。この巻き付け施工には、防火テープ1に予め粘着剤6を塗布しておき、巻き付けることで電線(ケーブル)4の外周面に接着する。
【0071】
電線(ケーブル)4の外周面に図1(c)に示した多層構造の防火テープ1を巻き付けた場合は、火災に遭遇し、高温に暴露された際に、防火テープ1の外側の層から順に熱を受けて膨張し剥離するため、防火テープ1は多重の剥離層として機能し、防火性が向上する。
【0072】
この本発明の防火テープは、洞道等に敷設されている超高圧OFケーブルあるいは高圧CVケーブル等のような重要幹線ケーブル類に巻いて使用することができる。
【0073】
本発明の防火テープの1枚の厚みは5mm以下での使用が好ましい。5mmより厚いと、テープ状にできないためである。
【0074】
また、電線・ケーブルへの巻付施工を容易にするため防火テープに粘着層を塗布し、更にその上にセパレータを設けた構造としても良い。この場合、耐油性、耐水性の点から変性アクリル系粘着剤が好ましい。
【実施例】
【0075】
本発明の実施例1〜11と比較例1〜13を表1、表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1、表2に示した組成物の成分の混合は、120℃に保持した6インチロールで5分間混練して行った。
【0079】
実施例1〜5、10、11は、その後、熱プレスを用いて10MPaの圧力と150℃の温度で3分間保持して、架橋度を50%とした架橋を行い、1.2mm厚のシートを作製した。また実施例6〜9は、架橋度の影響を試験するため、加熱温度を120〜180℃の範囲で変えて架橋度を5〜70%に調整して1.2mm厚のシートを作製した。さらに、フリットの軟化点の影響を試験するため実施例1〜9の軟化点440℃に対して、実施例10は軟化点205℃、実施例11は軟化点496℃のフリットを使用した。
【0080】
表1、表2におけるシートの評価は、次の通りに行った。
【0081】
寿命;
50℃で60年の寿命は、加速劣化試験に基づきアレニウスプロットにより130℃で8日の寿命と等価であることから、130℃で8日以上の加速劣化寿命をもって、50℃で60年の寿命を持つ防火テープと判断した。
【0082】
加速劣化試験は、130℃加熱後の破断伸びが200%を切る時間で測定した。この破断伸びの測定はJIS K6301に基づき、JIS2号ダンベル試験片を用いて行った。試験片を130℃で一定時間加熱した後に破断伸びを200mm/minの引張速度で評価する。破断伸びの値が200%に達したときの加熱時間を寿命とした。
【0083】
酸素指数;
JISK7201に準拠した燃焼性試験で酸素指数を測定した。
【0084】
固化性;
10mm×10mm×厚さ1.2mmの試験片にバーナーで下側から5分間炎を当て、その後、常温に戻す。その燃焼物を圧縮試験機(テンシロン)にセットし、圧縮速度1mm/minで歪を加える。その燃焼物が圧壊した荷重を固化性とした。
【0085】
架橋度(ゲル分率);
架橋度を測定するため、サンプル約2gを100メッシュの真鍮製の網に入れて110℃のキシレン中で24h抽出した。全配合量(質量部)をa、キシレンに対する不溶成分配合量(質量部)をb、ポリマ量(質量部)をcとし、また試料の初期質量をW0、抽出後乾燥した状態での質量をW1とし、次の数1に示した式に従いゲル分率を求めて架橋度とした。
【0086】
【数1】

【0087】
加熱変形率;
加熱変形率はJIS C3005に従い80℃で30分、10Nの荷重を加えて評価した。
【0088】
表1の実施例1〜11に示したように、塩素化ポリエチレン100質量部に対し、金属水酸化物を50質量部以上200質量部以下と軟化点が200℃以上500℃以下であるフリットを50質量部以上200質量部以下含有した組成物より構成され、かつその組成物を過酸化物架橋することにより、耐熱性、難燃性、燃焼時の固化性、耐加熱変形性に優れた防火テープを提供することができる。
【0089】
これに対し、表2に示した比較例1〜13は、耐熱性、難燃性、燃焼時の固化性、加熱変形性が劣る。
【0090】
比較例1は、金属水酸化物を含まないため、難燃性に劣る。比較例2は、フリットが40質量部と少ないため、固化性が劣り、難燃性も目標値より低くなっている。比較例3は、フリットが220質量部と多いため、寿命が短い。比較例4は、金属水酸化物が40質量部と少ないため、難燃性に劣る。比較例5は、金属水酸化物が220質量部と多いため、固化性が劣る。比較例6は、金属水酸化物に代えて炭酸カルシウムを添加したものであるが、難燃性が劣る。比較例7は、フリットの軟化点が153℃と低いものを用いたため、固化性が劣る。比較例8は、フリットの軟化点が540℃と高いため、固化性が劣る。
【0091】
比較例9は、塩素化ポリエチレンに代えて、EPゴムを用いたものであるが、難燃性に劣る。
【0092】
比較例10は、フリットが40質量部と少なく且つ金属水酸化物が40質量部と少ないため、固化性と難燃性に劣り、特に固化性については非常に低い値となっている。比較例11は、フリットが40質量部と少なく且つ金属水酸化物が220質量部と多いため、固化性に劣る。比較例12は、フリットが220質量部と多く且つ金属水酸化物が40質量部と少ないため、寿命は短く難燃性に劣る。比較例13は、フリットと金属水酸化物が共に220質量部と多いため、寿命が短い。
【0093】
次に、前記組成物にさらにホウ酸塩またはスズ酸塩を添加した場合の実施例12〜26と比較例14〜23を以下に示す。
【0094】
実施例12〜26と比較例14〜23を表3、表4に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
表3、表4に示した組成物の成分の混合及び、試験シートの作製は実施例1と同様であり、組成物の架橋度は50%に設定して作製した。
【0098】
表3、表4におけるシートの評価は、次の通りに行った。
【0099】
寿命、酸素指数の測定方法及び評価基準ついては、実施例1〜11、比較例1〜14と同様である。
【0100】
シース炭化長;
難燃試験はIEEE383(1974)に従い行った。サンプルとして22kV CV−T 3x200mmSQで2.5mのケーブルを準備し、試験は2本のケーブルをはしご状に垂直に設置されたトレイに取り付け、トレイ下方から規定のバーナーによりケーブルを燃焼させる。20分間燃焼させて鎮火した後でバーナー位置からトレイ上方へのケーブルシースの炭化長を評価する。
【0101】
通常の難燃試験は、難燃性樹脂組成物からなる防火テープで保護されたケーブルの下端から60cmの位置を20分間バーナーで燃焼させた後に、シース上端(約240cm)まで延焼しない(炭化長約240cm)ときに合格判定となる。しかし、難燃性樹脂組成物からなる防火テープをさらに耐熱性及び耐燃焼性の求められる場所で使用する場合には、より厳しい基準で判断され、上記の難燃試験でシースの炭化長がバーナー位置から60cm以下であることが求められる。
【0102】
固化性;
10mm×10mm×厚さ1.4mmの試験片にバーナーで下側から5分間炎を当て、その後、常温に戻す。その燃焼物を圧縮試験機(テンシロン)にセットし、圧縮速度1mm/minで歪を加える。その燃焼物が圧壊した荷重を固化性とした。
【0103】
表3の実施例12〜26に示したように、塩素化ポリエチレン100質量部に対し、金属水酸化物を50質量部以上200質量部以下と軟化点が200℃以上500℃以下であるフリットを50質量部以上200質量部以下、ホウ酸塩、スズ酸塩の中から1種以上を1質量部以上20質量部以下含有した組成物より構成され、かつその組成物を過酸化物架橋することにより、耐熱性、耐燃焼性、燃焼時の固化性、耐加熱変形性に優れた防火テープを提供することができる。
【0104】
これに対し、表4に示した比較例14〜23は、耐熱性、耐燃焼性、燃焼時の固化性が劣る。
【0105】
比較例14は、フリットの配合量が40質量部と少ないために、固化性に劣る。比較例15は、フリットの配合量が230質量部と多いために、寿命試験が6日と短い。比較例16は、金属水酸化物の配合量が40質量部と少ないために、酸素指数が低く、難燃性に劣ることがわかる。比較例17は、金属水酸化物の配合量が230質量部と多いために、寿命が7日と短い。比較例18は、ホウ酸亜鉛の配合量が0.5質量部と少ないために、固化性が200gと低くなる。比較例19は、ホウ酸亜鉛の配合量が25質量部と多いために、寿命が短い。比較例20は、スズ酸亜鉛の配合量が0.5質量部と少ないために、固化性が200gと低くなる。比較例21は、スズ酸亜鉛の配合量が25質量部と多いために、寿命が短い。比較例22は、フリットの軟化点が153℃と低いものを用いたため、固化性が劣る。比較例23は、フリットの軟化点が540℃と高いため、固化性が劣る。
【0106】
以上の結果より、本発明は以下の効果を奏する。
【0107】
(1)防火テープ(防火層形成材)の破断伸びが200%を切る時間は130℃の条件の下、8日以上で、シース炭化長60cm以下、固化性は300g以上となる。
【0108】
(2)本発明の防火テープはケーブルに巻き付けることができ施工が簡単である。
【0109】
(3)本発明の防火テープは経済性が良い。
【0110】
(4)本発明の防火テープは、垂直トレイ法によるVTFT難燃試験(IEEE std 383(1974))に十分耐えうるものであり、実用途での効果が期待できる。
【符号の説明】
【0111】
1 防火テープ
4 電線(ケーブル)
5 耐火電線(耐火ケーブル)
6 粘着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリエチレン100質量部に対し、金属水酸化物を50質量部以上200質量部以下と、軟化点が200℃以上500℃以下であるフリットを50質量部以上200質量部以下含有する組成物からなり、前記組成物が過酸化物架橋されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイトの中から選ばれた1種以上のものからなる請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記組成物の架橋度が5%以上70%以下である請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記組成物は、鉛及び鉛化合物を含有しない請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記組成物はホウ酸塩、スズ酸塩の中から選ばれた1種以上を1質量部以上20質量部以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ホウ酸塩がホウ酸亜鉛であり、前記スズ酸塩がスズ酸亜鉛であることを特徴とする請求項5に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形加工してなることを特徴とする成形加工品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物をテープ状に成形加工してなることを特徴とする防火テープ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−211298(P2012−211298A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203561(P2011−203561)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】