説明

難燃性絶縁部材

【課題】高い耐熱老化性及び難燃性を有する架橋ポリオレフィン組成物によるチューブ又はシース等の難燃性絶縁部材を提供する。
【解決手段】難燃性絶縁部材は、ポリオレフィンと、有機ハロゲン系難燃剤と、フェノール系酸化防止剤とを含有する放射線架橋ポリオレフィン組成物によって形成され、フェノール系酸化防止剤は、ヒンダードフェノール化合物と、セミヒンダードフェノール化合物及びレスヒンダードフェノール化合物のうちの少なくとも1種とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁材料として有用な放射線架橋ポリオレフィン組成物を利用して製造されるチューブ又はシース等の難燃性絶縁部材に関し、特に、ポリオレフィン組成物の放射線架橋成形物として得られ、耐熱老化性及び難燃性に優れ、ブリードが少ない、ワイヤーハーネスや電線等のチューブ又はシースとして有用な難燃性絶縁部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、電気絶縁性に優れ、加工性や耐水性、対薬品性にも優れた樹脂であるため、様々な分野において絶縁材料として幅広く用いられている。しかし、ポリオレフィン樹脂は、耐熱性が十分でないという欠点があり、ワイヤーハーネスや耐熱電線等のような高温環境下で使用する用途では耐熱性を改善する必要がある。このため、有機酸化物を配合して熱処理を施したり放射線照射を行うことによって架橋して熱変形温度を高めることが従来行われている。
【0003】
上記の方法では、熱変形を抑制することが可能であるが、熱老化を防止するには至らないので、長期間の耐熱使用に適したものは得られない。このため、ポリオレフィン樹脂の耐熱老化性を改善するために種々の試みが行われ、酸化防止剤や不活性化剤などとして作用する様々な化合物を利用することが提案されている。例えば、下記特許文献1には、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートと、ビス〔2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12又はC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル〕スルフィド又はデカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドとを組み合わせて配合した耐熱性架橋ポリオレフィン組成物が記載されている。
【0004】
他方、絶縁材料に求められる特性として難燃性(耐燃性)があるが、難燃性は耐熱性とは相反する特性であり、難燃性と耐熱性とを同時に満足するには、難燃剤を耐熱用添加剤と組み合わせて用いる必要があり、これらの組み合わせや配合について様々な提案がなされている。例えば、下記特許文献2には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、前述のスルフィド化合物及びヒドラジド化合物と共に、デカブロモジフェニルエタン又はデカブロモジフェニルアミドを難燃剤として配合した難燃性架橋ポリオレフィン組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2857733号
【特許文献2】特許第3131110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、絶縁材料の特性に求められる要件は、年々厳しくなり、ワイヤーハーネスや耐熱電線等の用途において、より高い耐熱老化性及び難燃性を満足させるために改良が必要となっている。又、耐熱温度の上昇に伴って、ブリード発生の防止についても更に改善が必要であり、高温下での経時後においてもブリード発生の抑制が必要であるため、従来の技術では対応が難しくなっている。
【0007】
本発明は、放射線架橋ポリオレフィン組成物を用いて形性され、高温下でも長時間ブリード発生を抑制可能な耐ブリード性を有し、より高い耐熱老化性及び難燃性を備えるチューブ又はシース等の難燃性絶縁部材を提供することを課題とする。
又、本発明は、耐熱老化性及び難燃性に優れ、高温下での耐ブリード性を保持し、ワイヤーハーネスや被覆電線の絶縁部材として優れた性能を発揮するチューブ又はシースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、配合する酸化防止剤の組み合わせについて更に検討したところ、耐熱老化性を付与するための酸化防止成分として、特定の酸化防止剤の組み合わせによって、材料特性や難燃性、耐ブリード性を低下させることなく、耐熱老化性を向上させることが可能となることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
本発明の一態様によれば、チューブ又はシースは、ポリオレフィンと、有機ハロゲン系難燃剤と、フェノール系酸化防止剤とを含有する放射線架橋ポリオレフィン組成物によって形成され、前記フェノール系酸化防止剤は、ヒンダードフェノール化合物と、セミヒンダードフェノール化合物及びレスヒンダードフェノール化合物のうちの少なくとも1種とを含有することを要旨とする。
【0010】
上記チューブ又はシースは、ワイヤーハーネス又は電線の絶縁部材として使用することができる。
上記有機ハロゲン系難燃剤として、1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタンを使用できる。上記放射線架橋ポリオレフィン組成物は、更に、ラジカル連鎖開始阻止に有効なヒドラジド系不活性化剤、過酸化物分解に有効なイオウ系酸化防止剤、酸化亜鉛などを含有してよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射線架橋ポリオレフィン組成物の材料特性や難燃性、耐ブリード性を損なうことなく耐熱老化性を高めることができるので、従来より高い耐熱老化性及び難燃性を備えると共に耐ブリード性が向上した架橋ポリオレフィン製のチューブ又はシースが得られ、ワイヤーハーネス又は耐熱電線等の難燃性絶縁部材の提供に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
架橋ポリオレフィンに難燃性を付与するには難燃剤が用いられ、耐熱老化性を付与するには安定化剤(いわゆる酸化防止剤等)が用いられる。しかし、難燃性と耐熱性とは相反する性質であるので、多量に添加すると、難燃剤は耐熱老化性を低下させ、安定化剤は難燃性を低下させるという欠点を生じ、又、伸びなどの材料の基本的特性も低下する。従って、互いの効果を打ち消し合うのを防止するためには添加量を制限せざるを得ず、より高い難燃性及び耐熱老化性を実現するには、難燃剤及び安定化剤の種類や組み合わせ、使用量等について配慮することが重要である。
【0013】
耐熱老化性を改善するために用いられる安定化剤には、様々な種類の化合物があり、機能の違いに基づいて、ラジカル連鎖開始阻止剤、ラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤に分類することができる。詳細には、ラジカル連鎖開始阻止剤としては、ヒドラジド系化合物、アミド系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物及び有機ニッケル系化合物などがあり、ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードアミン系化合物及びフェノール系酸化防止剤などがあり、過酸化物分解剤としては、リン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤などがある。上述のような各種安定化剤から適宜選択して用いることによって耐熱老化性を改善することができるが、その選択及び組み合わせによって結果は大きく異なり、大量に添加すると架橋ポリオレフィンの基本的な材料特性や難燃性を低下させる。
【0014】
そこで、本発明では、安定化剤の役割をするラジカル捕捉剤(A)として、複数種のヒンダードフェノール系酸化防止剤を特定の組み合わせに基づいて選択して用いる。具体的には、セミヒンダードフェノール化合物及びレスヒンダードフェノール化合物のうちの少なくとも1種と、ヒンダードフェノール化合物とを組み合わせて使用する。このような組み合わせの複数種のヒンダードフェノール系酸化防止剤を併用すると、相乗的に耐熱老化性を高めることができ、単独の場合より格段に少量の配合で効率よく耐熱老化性を改善することができる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明に係るチューブ又はシース等の難燃性絶縁部材を形成する放射線架橋ポリオレフィン組成物は、難燃性を付与するための難燃剤と、耐熱老化性を付与するための安定化剤とをポリオレフィンに添加して得られる樹脂組成物を放射線により架橋処理したものであり、安定化剤として作用するラジカル捕捉剤(A)として、フェノール系酸化防止剤を含有する。安定化剤として、更に、過酸化物分解剤(B)及びラジカル連鎖開始阻止剤(C)を組み合わせて用いると好適であり、具体的には、過酸化物分解に有効なイオウ系酸化防止剤、及び、ラジカル連鎖開始阻止に有効なヒドラジド系不活性化剤などを使用できる。
【0016】
本発明の難燃性絶縁部材を形成する架橋ポリオレフィン組成物の主体を構成するポリオレフィンは、オレフィン系炭化水素モノマーを用いた重合体であり、オレフィン系炭化水素モノマーの単独重合体、2種以上のオレフィン系炭化水素モノマーの共重合体、及び、オレフィン系炭化水素モノマーとビニルエステル系モノマー又は(メタ)アクリレート系モノマーとの共重合体がある。ポリオレフィンを構成するオレフィン系炭化水素モノマーとして、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられ、ビニルエステル系モノマーとしては、酢酸ビニルなどが、(メタ)アクリレート系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等が挙げられる。単独重合体であるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等があり、ポリエチレンには、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(NDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン、メタロセン超低密度ポリエチレンなどが含まれる。共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体等のオレフィン共重合体や、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体等のオレフィン−(メタ)アクリレート共重合体がある。これらの各種重合体は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
架橋ポリオレフィン組成物には、難燃剤として、有機ハロゲン化合物である有機ハロゲン系難燃剤が用いられる。難燃剤の一種である金属水酸化物に比べて、有機ハロゲン系難燃剤は耐熱性の改善効果が高いので、放熱し難い構造で使用される絶縁部材に適用する上で有利である。有機ハロゲン系難燃剤として、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルアミド、1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタン等の有機ハロゲン化合物が挙げられる。特に、1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタンの使用は好適であり、この難燃剤は、熱老化の防止及び難燃性の向上において特に優れており、必要とされる難燃性を付与するのに要する使用量を少なくすることができるので、難燃剤の配合によって生じ得る耐熱性(耐熱老化性)の低下を抑制する上で有利である。上記難燃剤は、ポリオレフィン100質量部に対して5〜50質量部の割合において好適に用いられ、5質量部未満であると、難燃性の向上が十分でなく、50質量部を超えると、難燃性が上限となるだけでなく、架橋ポリオレフィン組成物の引っ張り強さや伸び等の機械的強度が著しく低下する。
【0018】
本発明においては、必要に応じて、他の有機系難燃剤や無機系難燃剤を上記有機系難燃剤と併用したり、難燃化相乗剤を添加してもよい。無機難燃剤には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム等の金属水酸化物などが挙げられる。又、難燃化相乗剤としては、例えば、三酸化アンチモン、酸化ジルコニウム等の無機酸化物系難燃剤が使用できる。この場合、架橋ポリオレフィン組成物の耐熱老化性や機械的強度の低下が顕著にならないようにこれらの使用量を適宜調節することが望ましい。特に、ハロゲン化合物を用いる場合は耐熱老化性の低下に留意し、含水無機化合物を用いる場合は機械的強度の低下に留意するとよい。
【0019】
本発明においてラジカル捕捉剤(A)として用いられるヒンダードフェノール系酸化防止剤は、立体障害の大きさによって、(a)2つのオルト位が嵩高い基で置換されたヒンダードフェノール化合物、(b)一方のオルト位は嵩高い基で置換され、他方のオルト位は嵩高でない基で置換されたセミヒンダードフェノール化合物、(c)一方のオルト位は嵩高い基で置換され、他方のオルト位は無置換であるレスヒンダードフェノール化合物、の3つに分類される。より高い耐熱老化性を実現するために、高反応性ラジカル捕捉剤(A1、セミヒンダードフェノール化合物及びレスヒンダードフェノール化合物)のうちの少なくとも1種と、低反応性ラジカル捕捉剤(A2、ヒンダードフェノール化合物)とを組み合わせてラジカル捕捉剤(A)として使用する。このように高反応性ラジカル捕捉剤(A1)と低反応性ラジカル捕捉剤(A2)とを併用すると、単独の場合より格段に少量で効率よく耐熱老化性を高めることができ、特に80〜150℃における耐熱老化性の向上に有効である。
【0020】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤における「嵩高い基」とは、具体的には、t−アルキル基のような3級のα炭素を有する脂肪族基又は芳香族基であり、更に置換基を有してもよい。本発明においてはt−アルキル基、特にt−ブチル基のような脂肪族基が好適である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[4−メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4−ブチリデン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−m−クレゾール)、2,2’−チオ−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、各種ヒンダードフェノール系酸化防止剤から適宜選択して使用することができる。上記化合物中、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)はレスヒンダードフェノール化合物であり、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]はセミヒンダードフェノール化合物である。
【0021】
ラジカル捕捉剤(A)として用いるヒンダードフェノール系酸化防止剤は、過剰に添加すると材料特性や難燃性を低下させるが、高反応性ラジカル捕捉剤(A1)と低反応性ラジカル捕捉剤(A2)とを併用する場合には、耐熱老化性が相乗的に向上するので使用量を大幅に減少可能であり、合計量がポリオレフィン100質量部に対して20質量部以下の範囲において好適に耐熱老化性を高めることができ、0.2〜15質量部であると更に好適である。高反応性ラジカル捕捉剤(A1)と低反応性ラジカル捕捉剤(A2)との割合が0.01:1から100:1の範囲において、これらは好適に相乗作用し、好ましくは1:3から1:1の範囲、より好ましくは1:2.5から1:1.5の範囲となるように定めると良い。又、高反応性ラジカル捕捉剤(A1)及び低反応性ラジカル捕捉剤(A2)の各々の使用量は、ポリオレフィン100質量部に対して0.1〜10質量部の割合であることが好ましく、1.0〜5.0質量部であると更に好ましい。0.1質量部未満であると、耐熱老化性の向上が顕著でなく、10質量部を超えると難燃性が低下する。高反応性ラジカル捕捉剤(A1)及び低反応性ラジカル捕捉剤(A2)の各々について、複数種の化合物を用いても良く、その場合は合計量がポリオレフィン100質量部に対して0.1〜10質量部となるように調節すると良い。高反応性ラジカル捕捉剤(A1)としてセミヒンダードフェノール化合物及びレスヒンダードフェノール化合物を併用する場合についても、同様に、その合計量が上述の範囲となる様に用いることが好ましい。
【0022】
架橋ポリオレフィン組成物において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のラジカル捕捉剤、例えばヒンダードアミン化合物等の併用を排除するものではないが、使用に当たっては材料特性や難燃性を損なわないように配慮することが望まれる。
【0023】
効率よく耐熱老化性を付与するためには、上述のラジカル捕捉剤(A)と共に、過酸化物分解剤(B)及びラジカル連鎖開始阻止剤(C)の各々について少なくとも1種を選択し、組み合わせて配合すると更に好適である。
【0024】
架橋ポリオレフィンの耐熱老化性を改善するために従来使用されているビス[2−メチル−4−(3−n−アルキル(炭素数12〜14)チオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィドは、過酸化物分解剤として機能するイオウ系酸化防止剤であるが、ブリードを発生し易い化合物であり、この化合物を用いた場合はブリード性を抑制するためにタルクを併用することが必要となる。タルクは、無機充填材として用いられる材料であるが、多量に配合すると、ポリオレフィンの材料特性である伸び等を低下させるため、配合には限界がある。従って、上述のイオウ系酸化防止剤を用いた架橋ポリオレフィンの耐ブリード性を十分に改善することは難しい。
【0025】
より高い耐ブリード性を実現するためには、過酸化物分解剤(B)として作用するイオウ系酸化防止剤には上述のイオウ系酸化防止剤は用いず、その代わりのイオウ含有化合物として、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンを用いる。この化合物は、酸化防止機能を有するチオエーテル化合物であり、過酸化物分解剤として作用するが、耐ブリード性を備え、ポリオレフィンに配合して高温下で長時間放置してもブリードは発生し難い。つまり、耐ブリード性を低下させずに耐熱老化性を高めることができ、高温での経時によってブリードは発生し難い。従って、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンを用いると、タルクを併用しなくてもブリードを防止でき、材料特性や難燃性の低下を抑えられる点でも有利であるので、他の添加剤の配合の自由度を増やすことが可能となる点で極めて有用である。
【0026】
過酸化物分解剤(B)の使用量は、ポリオレフィン100質量部に対して5質量部以下、より好ましくは0.1〜2.0質量部とする。5質量部を超えると、耐ブリード性の低下や機械強度などの材料特性や難燃性の低下を招く。過酸化物分解剤(B)としてリン酸系酸化防止剤や上記以外のイオウ系酸化防止剤を併用することも可能であるが、ビス[2−メチル−4−(3−n−アルキル(炭素数12〜14)チオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィドのようなブリードを発生し易い化合物は用いないことが肝要である。テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンのみの単独使用は、耐ブリード性の制御を容易にする点において好しい。
【0027】
ラジカル連鎖開始阻止剤(C)として作用するヒドラジド系不活性化剤は、金属を不活性化する機能を有し、ラジカル捕捉剤(A)及び過酸化物分解剤(B)による耐熱老化性の向上を相乗的に促進する効果を奏する。ラジカル連鎖開始阻止剤(C)として、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドを用い、ポリオレフィン100質量部に対して5質量部以下、好ましくは0.1〜2.0質量部の割合で使用する。使用量が5質量部を超えると、引っ張り強さ、伸び等の材料特性や難燃性が低下する。ラジカル連鎖開始阻止剤(C)として、必要に応じてアミド系化合物や上記以外のヒドラジド化合物を併用してもよい。
【0028】
ラジカル捕捉剤(A)、過酸化物分解剤(B)及びラジカル連鎖開始阻止剤(C)を上記のような割合でポリオレフィン樹脂に好適に配合すると、これらが相乗的に作用して更に優れた耐熱老化性を発揮すると共に、難燃性や材料特性の低下が抑制され、且つ、耐ブリード性が格段に向上して高温下での経時にも対応可能となる。
【0029】
本発明に係るチューブ又はシース等を形成する架橋ポリオレフィン組成物において、更に、酸化亜鉛を用いると、上記安定化剤による耐熱老化性の改善効果が助長される。酸化亜鉛の配合量は、ポリオレフィン100質量部に対して1〜15質量部、好ましくは2〜10質量部の割合となるように調整するとよく、15質量部を超えると、耐熱老化性は上限に至り、伸びや機械強度等の材料特性が著しく低下する。酸化亜鉛の併用によって、安定化剤の配合量を少量に抑えても耐熱老化性を高めることが容易になるので、十分な難燃性を保持しつつ高い耐熱老化性を発揮することができる。
【0030】
本発明においては、上述の添加成分に加えて、必要に応じて、充填材、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、クエンチャー、金属不活性化剤、着色剤、安定剤、ゴム・プラスチック様補強剤、難燃促進剤等の成分を、上記の利点及び材料特性を損なわない範囲で架橋ポリオレフィン組成物に配合することができる。充填材としては、例えば、タルク、ホウ酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー、シリカ等が挙げられ、タルクは、ブリード発生の抑制に有効である。充填材の配合量は、ポリオレフィン100質量部に対して50質量部以下の割合となるように調整することが好ましく、50質量部を超えると、材料特性の低下が著しくなり、成形加工性も低下する。架橋剤としては、有機過酸化物が挙げられ、架橋助剤としては、トリメチロールプロパン−トリメタクリレートなどが挙げられる。
【0031】
架橋ポリオレフィン組成物は、上述に従ってポリオレフィンに上記添加成分を配合して得られるポリオレフィン樹脂組成物に架橋処理を施すことによって得られる。架橋処理としては、電子線等の電離性放射線を照射する方法が好適に用いられ、架橋剤を配合する必要はない。従って、調製されたポリオレフィン組成物を、管状、鞘状等の所望の形状に成形して放射線を照射することによって、チューブやシース等の成形物が得られる。
【0032】
このようにして得られる放射線架橋ポリオレフィン組成物製のチューブやシースは、上述の複数種の安定化剤による相乗的作用によって耐熱老化性が飛躍的に向上すると共に、難燃剤によって付与される難燃性が効果的に発揮され、且つ、ブリードの発生が良好に抑制されて高温下での経時にも対応可能であるので、難燃性耐熱樹脂材料による製造が必要な分野において好適であり、特に、電線被覆等のような電気絶縁材料として用いると、耐熱性に優れているので、高温で長期間の連続使用が可能な難燃性架橋ポリオレフィン被覆電線又はハーネスが提供される。
【実施例】
【0033】
<試料の調製原料>
ポリオレフィン組成物を調製するための原料として、以下のものを用意した。
LDPE:低密度ポリエチレン(密度:0.924、MI:0.25)
EEA:エチレン−エチルアクリレートコポリマー(EA含量:15質量%、MI:0.75)
難燃剤:1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタン
難燃化相乗剤:三酸化アンチモン
ヒンダードフェノールa1:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:アデカスタブAO−60、(株)ADEKA社製)
ヒンダードフェノールa2:ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:アデカスタブAO−50、(株)ADEKA社製)
セミヒンダードフェノール:3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン(商品名:アデカスタブAO−80、(株)ADEKA社製)
レスヒンダードフェノール:1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン(商品名:アデカスタブAO−30)
過酸化物分解剤B:テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン(商品名:アデカスタブAO−412S、(株)ADEKA社製)
ラジカル連鎖開始阻止剤C:デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド(商品名:アデカスタブCDA−6、(株)ADEKA社製)
【0034】
<試料の調製及び評価>
上記原料を用いて、表1及び表2に示す組成(表中の数値は重量部)に従って原料を配合し、150℃のオープンロールを用いて均一に混練して、試料A1〜A11,B1〜B9のポリオレフィン組成物を調製した。
得られたポリオレフィン組成物を評価するために、各々、シート状に延伸した後、ペレタイザーを用いてペレットに成形し、得られたペレットを小型押出機(材料押出温度:160〜170℃)から押出すことによって、厚さ0.8mmのシートを作成した。得られたシートに16Mradの電子線を照射して架橋することで、試料A1〜A10,B1〜B9の架橋ポリオレフィンシートを得た。
得られた架橋ポリオレフィンシート試料の各々について、耐熱老化性及び難燃性について以下のように評価した。評価の結果を表1及び2に示す。
【0035】
(耐熱老化性)
JIS K7212に準拠して、所定の加熱処理を施す前後に試料の伸びを測定して、初期の延びに対する加熱後の伸びの残率(単位:%)を求め、得られる伸びの残率に基づいて耐熱老化性を評価した。加熱処理は、150℃で720時間、及び、180℃で120時間の2種を採用し、各条件において測定及び評価を行った。伸びの残率が高いほど耐熱老化性が高いと評価される。
【0036】
(難燃性)
UL規格の試験法に従って、鉛直に支持した試料の下端をバーナー炎に当てて燃焼試験を行い、試料の評価を行った。表中の「V−0」は、試料の難燃性がUL94規格のレベルV−0と判定され、難燃性が高いことを示す。
【0037】
表1によれば、試料A1〜A3と試料B1〜B4との比較によって、ヒンダードフェノールを、セミヒンダードフェノール又はレスヒンダードフェノールと組み合わせて使用することによって、耐熱老化性(特に150℃)が格段に向上することが明らかであり、その有効性は配合量の増加に従って増大することが試料A4〜A6及び試料B5の結果から解る。
【0038】
上記の点は、ポリオレフィンが異なる場合(試料A7及び試料B6参照)や、他の添加剤が配合される場合(試料A8〜A10及び試料B7〜B9)においても同様であり、ヒンダードフェノールと、セミヒンダードフェノール又はレスヒンダードフェノールとの組み合わせによる相乗効果は、他の成分が共存しても得られることが解る。しかも、過酸化物分解剤Bやラジカル連鎖開始阻止剤Cの併用効果によって、更に高い耐熱老化性が得られる。又、酸化亜鉛の配合によって、難燃性を低下させずに耐熱老化性を向上でき、耐熱温度を上げることが可能である。従って、表1に示すようなポリオレフィン組成物を管状又は鞘状に成形して放射線架橋を施せば、難燃性及耐熱老化性に優れたチューブ又はシースが得られる。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、難燃性耐熱材料として優れた特性を発揮する樹脂素材を用いて、絶縁部材として有用なチューブ又はシースを提供する。特に、電線被覆等のような電気絶縁材料として利用でき、高温で長期間の連続使用が可能な難燃性架橋ポリオレフィン被覆電線又はハーネスが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと、有機ハロゲン系難燃剤と、フェノール系酸化防止剤とを含有する放射線架橋ポリオレフィン組成物によって形成され、前記フェノール系酸化防止剤は、ヒンダードフェノール化合物と、セミヒンダードフェノール化合物及びレスヒンダードフェノール化合物のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする難燃性絶縁部材。
【請求項2】
ワイヤーハーネス又は電線の絶縁部材として使用される請求項1記載の難燃性絶縁部材。
【請求項3】
前記放射線架橋ポリオレフィン組成物は、ポリオレフィン100質量部に対して、前記難燃剤を5〜50質量部、前記フェノール系酸化防止剤を15質量部以下の割合で含有する請求項1又は2に記載の難燃性絶縁部材。
【請求項4】
前記放射線架橋ポリオレフィン組成物は、更に、ラジカル連鎖開始阻止に有効なヒドラジド系不活性化剤、及び、過酸化物分解に有効なイオウ系酸化防止剤を含有する請求項1〜3の何れかに記載の難燃性絶縁部材。
【請求項5】
前記放射線架橋ポリオレフィン組成物は、更に、ポリオレフィン100質量部に対して1〜15質量部の割合で酸化亜鉛を含有する請求項1〜4の何れかに記載の難燃性絶縁部材。

【公開番号】特開2012−97217(P2012−97217A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247241(P2010−247241)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】