説明

難燃性繊維構造体

【課題】低目付でも、難燃性があり、かつ嵩があり、油保持量にすぐれた、難燃性繊維構造体を提供する。
【解決手段】(A)単糸繊度が2.0〜25.0dtexの難燃性繊維30〜70重量%と(B)単糸繊度が2.0〜50.0dtexの非難燃性の熱接着性繊維70〜30重量%(ただし、(A)難燃性繊維+(B)非難燃性の熱接着性繊維=100重量%)を混綿し、エアースルー法で熱処理によりシート化されてなる難燃性繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高で難燃性があり、油保持性にも優れ、フィルターや自動車用、インテリア資材などとして有用なシート状の難燃性繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、難燃性繊維やこれを用いた難燃性繊維構造体は多々提案されている。
例えば、特開2006−281108号公報(特許文献1)には、非溶融性繊維と、熱融着性繊維との短繊維による混繊からなり、前記融点をもたない非溶融性繊維の混繊比率が20〜60質量%の範囲であり、かつ熱融着性繊維の混繊比率が80〜40質量%の範囲である繊維層を熱融着性繊維の融着により繊維間を接着させた不織布により形成してなる換気扇用フィルターが提案されている。しかしながら、非溶融繊維が入っているため繊維の脱落が発生し、難燃性が付与され難い。また、熱融着性繊維として、サイドバイサイドあるいは芯鞘の繊維の記載があるが、なんらその特性が明記されていない。さらに、融点を持たない繊維を配合することは、その繊維が支持体となりシート全体が燃えやすくなる。
【0003】
また、特許第4356501号公報(特許文献2)には、ホスファゼン誘導体およびヒンダードアミン誘導体を含む難燃性繊維、さらにはこの難燃性繊維を用いて、エアレイド法またはカード法により得られる不織布などが提案されている。この難燃性繊維では、並列型複合繊維100%での難燃性の評価はあるが、難燃性の評価項目の残炎時間、炭化面積の数値が良いとはいえない。
【0004】
さらに、特開2007−146357号公報(特許文献3)には、環状ホスファゼン化合物および/または鎖状ホスファゼン化合物を含む熱可塑性樹脂を用いて得られた繊維に、非イオン性の繊維処理剤を付着してなる難燃性繊維、これを用いて得られる不織布が提案されている。しかしながら、この繊維の難燃性のレベルは、JIS L1091A−1法(45度ミクロバーナ法)で評価区分1に入り難燃性のレベルは低く、難燃評価の高い区分3ではない。
【0005】
さらに、特開2005−023478号公報(特許文献4)には、環状ホスファゼン誘導体、ヒンダードアミン誘導体および熱可塑性樹脂からなる難燃性繊維、さらにはこれを用いた繊維成形体が提案されている。ここにおける難燃性評価は、自動車内装材に適応されるFMVSS302法であり、評価方法はUL94HF−2と同様な水平法での評価であり、またその評価での合格レベルでも、換気扇などのフィルター用途には、通常、適応しがたい。また、この水平法の評価は、45度ミクロバーナー法のような厳しい評価法ではない。
【0006】
さらに、特開2005−288374号公報(特許文献5)には、繊度が3〜30dtの難燃複合繊維50重量%〜97重量%、3〜30dtのビニロン繊維、3〜30dtのポリエステル繊維、および3〜30dtのアクリル繊維から選ばれる少なくとも1種50重量%〜3重量%からなり、熱風によって熱処理、目付が20〜50g/m、通気抵抗が0〜0.004kPa・s/m、密度が0.01〜0.04g/cm、保油量が10〜30g/100cmである換気扇フィルター用不織布が提案されている。この特許文献では、難燃繊維が芯鞘構造としか記載していなく、偏芯タイプを用いることは記載されてはいないので、従来以上の嵩が発現したり、保油量の大幅なアップについては期待できない。さらに、難燃繊維に熱融着繊維を使っておらず、他の非難燃繊維が偏芯の熱融着繊維でもないので、嵩高は発現できない。しかも、素材構成繊維が多く製造時の調整が煩雑であり、生産性が悪い。
【0007】
特許第2918973号公報(特許文献6)には、単糸繊度3〜200デニールの難燃熱接着性ポリオレフィン系複合繊維30重量%以上と他の繊維70重量%以下とからなり、繊維の交点が難燃複合繊維の融着により固定された目付40〜200g/mの不織布状物が立体的にプレス成形された、残炎時間が4秒以下の換気扇用フィルターが提案されている。このフィルターは、換気扇前の成型フィルターであって、シート状の嵩高で保油性に優れたレンジ用の換気扇ではない。
【0008】
特開2009−280920号公報(特許文献7)には、繊維断面において、複合成分の重心がお互いに異なる複合形態であり、単糸繊度が1〜10dtex、繊維長が3〜20mmであり、捲縮形状指数が1.05〜1.60の範囲である平面ジグザグ捲縮を有し、エアレイド法で得られたウエブをウエブ収縮率が40%以上である、エアレイド不織布製造用複合繊維、さらにはこの複合繊維を、エアレイドプロセスにてウエブ化し、得られたウエブを熱処理することを含む、不織布の製造方法が提案されている。この特許文献の不織布は、サイドバイサイドの繊維を使用したエアレイド不織布であるが、嵩の表記はあるが、難燃性繊維との組合せによる換気扇などへの用途展開は記載されていない。また、エアレイド不織布では、使用される繊維の繊維長が短いため、嵩の発現は、カード法で作製したウエブに比べて低くなる。
【0009】
特許第3484490号号公報(特許文献8)には、構成繊維群相互間を、ケミカルボンド法によりハロゲン元素を含有しない結合剤を含むバインダー樹脂で結合した不織布よりなり、該バインダー樹脂中には、粉末状リン系難燃剤が含有されている非ハロゲン化難燃性フィルター材が提案されている。特許文献8は、ケミカルボンド法による非ハロゲン化難燃性フィルター材に関するが、嵩に関する記述はない。また、ケミカルボンド法では、ケミカルバインダーによる繊維の拘束により、嵩の発現が劣るものとなる。
【0010】
特許第4064593号公報(特許文献9)には、難燃性繊維と熱接着性繊維を必須成分とし、ガラス繊維を使用せず、水中に分散し、湿式抄紙後シート温度が90℃〜150℃になるように乾燥され、JIS L1091A−1法の難燃性が区分3であり、ガスクロマトグラム質量分析法による発生ガス量の定量分析で2,6−t−ブチル−4−メチルフェノールとフタル酸ジブチルの両ガスの総量が10μg/g以下であるエアフィルター用シートが提案されている。この特許文献に記載された発明は、湿式法によるフィルターろ材である。この湿式抄紙法では、水流による作用により、嵩の発現は極めて低い。
【0011】
特開2009−279554号公報(特許文献10)には、捕集層と空間形成層とを有する積層フィルターであって、前記積層フィルターは、前記空間形成層が、流体吸入の下流側に位置するように使用されるものであり、前記空間形成層は、0.3kPa荷重下において、該空間形成層の見掛けの体積中に占める、該空間形成層の構成材料の体積の割合(%)である充填率が1〜7%であり、かつ同荷重下における厚みが1〜12mmであり、前記捕集層が、繊維径7〜35μmの不織布からなる積層フィルターが提案されている。このように、特許文献10のフィルターは、2層構造の積層フィルターであって、レンジフード用途に限定されている。また、積層フィルターの各層は性能を付与するために複雑な加工を施す必要があり、複合化にさらに工程を必要とするなど製造が煩雑であり、コストアップを伴う弱点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−281108号公報
【特許文献2】特許第4356501号公報
【特許文献3】特開2007−146357号公報
【特許文献4】特開2005−023478号公報
【特許文献5】特開2005−288374号公報
【特許文献6】特許2918973号公報
【特許文献7】特開2009−280920号公報
【特許文献8】特許第3484490号号公報
【特許文献9】特許第4064593号公報
【特許文献10】特開2009−279554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低目付でも、難燃性があり、かつ嵩があり、油保持量にすぐれ、クッション性があり、油保持性に優れ、換気扇、エアコン、空気清浄機などのフィルター材のほか、自動車、飛行機などの天井材、座席下クッション材、サイドトリムの中材、インテリアではソファー、カーペット、クッションの中材などのインテリア用途、さらにはぬいぐるみの中材など、あらゆる用途に使用可能な難燃性の繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、(A)単糸繊度が2.0〜25.0dtexの難燃性繊維30〜70重量%と(B)単糸繊度が2.0〜50.0dtexの非難燃性の熱接着性繊維70〜30重量%(ただし、(A)難燃性繊維+(B)非難燃性の熱接着性繊維=100重量%)を主体とし、熱処理によりシート化されていることを特徴とする難燃性繊維構造体に関する。
ここで、(B)非難燃性の熱接着性繊維の単糸繊度は、(A)難燃性繊維の単糸繊度よりも太いことが好ましい。
また、(A)難燃性繊維は、熱接着性繊維からなることが好ましい。
さらに、(A)難燃性繊維を構成する熱接着性繊維および(B)非難燃性の熱接着性繊維は、サイドバイサイド型および/または芯鞘型の複合繊維であることが好ましい。
さらに、(A)難燃性繊維および(B)非難燃性の熱接着性繊維は、複合繊維からなり、かつその素材の組み合わせは、好ましくは、いずれも、ポリプロビレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/低融点共重合ポリプロピレン、ポリエステル/ポリエチレン、またはポリエステル/共重合ポリエステルである。
さらに、熱処理でシート化する工程は、熱接着性繊維が熱により溶融し、その後、冷却固化できれば特に方式を問わないが、好ましくはエアースルー法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低目付でも、難燃性があり、かつ嵩があり、油保持量に優れ、クッション性がある、難燃性繊維構造体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の難燃性繊維構造体は、上記のように、(A)単糸繊度が2.0〜25.0dtexの難燃性繊維30〜70重量%と(B)単糸繊度が2.0〜50.0dtexの非難燃性の熱接着性繊維70〜30重量%(ただし、(A)難燃性繊維+(B)非難燃性の熱接着性繊維=100重量%)を主体としている。ここで、主体としているとは、本発明の難燃性繊維構造体において、例えば、(A)〜(B)成分が80重量%以上であればよく、20重量%以下、他の繊維成分が含まれていてもよい。
【0017】
ここで、(A)難燃性繊維は、非ハロゲン系の難燃剤が練り込まれている熱接着性繊維であることが好ましい。ここで、熱接着性繊維とは、後記熱処理により、(A)難燃性繊維どうし、あるいは(A)難燃性繊維と(B)非難燃性の熱接着性繊維どうしが少なくとも部分的に融着して、一体的にシート化できる繊維を指称する。
非ハロゲン系の難燃剤としては、リン酸アンモニウム、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリエチルホスフェート(TEP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、キシレニルジフェニルホスフェート(XDP)、酸性リン酸エステル、含窒素リン化合物、HALSなどがあるが、非ハロゲンで実質的に難燃効果を発揮するものであれば、これらに限定されるものではない。
これらの難燃剤は、(A)難燃性繊維中に、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは2〜40重量%練り込まれる。この練り込み量が1重量%未満では、難燃性が不充分であり、一方、50重量%を超えると難燃性能が頭打ちになるため添加した難燃剤が無駄となり、好ましくない。
【0018】
難燃剤を練りこむ繊維としては、通常のホモタイプの丸型あるいは異型断面の繊維でもよいが、サイドバイサイド型、あるいは芯鞘型の熱接着性複合繊維が好ましい。
ここで、熱接着性複合繊維は、例えば、低融点成分を鞘成分とし、高融点成分を芯成分とする芯鞘型、一方が低融点、他方が高融点成分であるサイドバイサイド型などが挙げられる。これらの複合繊維の両方の成分の組合せとしては、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PE、PP/低融点共重合PP、PET/低融点共重合ポリエステルなどが挙げられる。低融点成分である熱融着成分の融点は、通常、100〜160℃、好ましくは、110〜155℃である。100℃未満の場合、不織布として耐熱性が低いので、例えば換気扇と使用したとき、熱の作用によりシート強力が弱くなる可能性がある。一方、160℃を超えると、不織布製造工程における熱処理温度が高くする必要が生じ、生産性が落ち、実用的でない。
このような複合型繊維の場合、難燃剤は、芯のみ、鞘のみ、あるいは両方、サイドバイサイドの一方、あるいは両方に練り込むことが出来る。
【0019】
使用する(A)難燃性繊維の単糸繊度は、2.0〜25.0dtex、好ましくは4〜20dtexである。繊度が2.0dtex未満の場合、不織布密度が上昇して通気抵抗が高くなり換気扇用フィルターとしては不適となり、また単位時間当たりの生産量が減少し好ましくない。一方、繊度が25.0dtexを超えると、空隙が大きくなることにより保油量が減少するため好ましくなく、またウエブの絡みが減少し、強度不足が発生し実用に耐えなくなる。
また、(A)難燃性繊維の繊維長は、エアースルー法で本発明の繊維構造体を得るために、好ましくは24〜102mm、さらに好ましくは38〜64mm程度である。24mm未満では、カード機での繊維の脱落が多くなり、一方102mmを超えると、繊維がカード機から出にくくなり生産性が悪くなる。
【0020】
一方、(B)非難燃性の熱接着性繊維としては、芯鞘型(好ましくは偏芯型)やサイドバイサイド型の複合繊維が好適である。鞘あるいは繊維外周部を構成するポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレンが挙げられる。芯成分あるいは繊維内層部を構成するポリマーとしては、鞘より高融点であり、加熱接着処理温度で変化しないポリマーが好ましい。このような組み合わせとして、例えば、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PE、PP/低融点共重合PP、PET/低融点共重合ポリエステルなどが挙げられる。これらのポリマーは、本発明の作用・効果を阻害しない範囲で変性されていても差し支えがない。さらに、フィブリル状繊維であっても良い。例えば、三井化学株式会社のSWPなどが挙げられる。
なお、(B)熱接着性繊維としては、そのほか、通常のポリエステル、共重合ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの通常の丸型、あるいは異型断面のフィラメントからなる短繊維を用いることもできる。
【0021】
(B)非難燃性の熱接着性繊維の単糸繊度は、2.0〜50.0dtex、好ましくは2.2〜35dtexであり、2.0dtex未満では、繊維がカード機から出にくくなり生産性が悪くなる。一方、50.0dtexを超えると、ウエブの絡みが減少し、強度不足が発生し実用に耐えなくなる。
なお、(B)非難燃性の熱接着性繊維の単糸繊度は、(A)難燃性繊維より太い繊度であることが好ましい。すなわち、一般に、難燃性の発現は、繊維構造体中に含まれる難燃性繊維の本数が多いほど燃焼性が抑えられるものである。したがって、本発明の難燃性繊維構造体にも同様のことが言えるのであり、繊維構造体を構成する難燃性繊維の繊維本数が多い方が、難燃性が発現しやすいことになる。
また、(B)非難燃性の熱接着性繊維の繊維長は、上記と同じ理由により、好ましくは24〜102mm、さらに好ましくは38〜64mm程度である。
【0022】
以上の(A)難燃性繊維および(B)非難燃性の熱接着性繊維は、熱処理以前に、捲縮していても、していなくてもよい。捲縮している場合、ジグザグ型の二次元捲縮繊維およびスパイラル型やオーム型などの三次元(立体)捲縮繊維の何れも使用できる。また、(A)難燃性繊維、(B)非難燃性の熱接着性繊維や、さらには本発明の難燃性繊維構造体には、抗菌性や消臭性の性能を付与するための無機物や有機物を添加してもよい。
【0023】
本発明の難燃性繊維構造体は、上記の(A)難燃性繊維が30〜70重量%、好ましくは35〜65重量%、(B)非難燃性の熱接着性繊維が70〜30重量%、好ましくは35〜65重量%である。上記のような(A)難燃性繊維だけで構成した場合、万が一、換気扇フィルターが高熱にさらされた時に溶融ドリップする現象が激しく生じる傾向があって、換気扇フィルターとしての実用性に問題を生じやすいが、(B)非難燃性の熱接着性繊維を混綿しておくことにより改善することができ、また安価に製造できるメリットもある。(B)非難燃性の熱接着性繊維が30重量%未満ではこの効果が少なく、一方、70重量%を超えると難燃性能が悪化する。
【0024】
本発明の難燃性繊維構造体は、いずれも短繊維でから構成されている。本発明の難燃性背構造体は、例えば(A)難燃性繊維と(B)非難燃性の熱接着性繊維を混綿してカーディング法によりウエブ化したカードウエブを、そのままストレート状態で積層するストレートのカード方式や、セミランダムのカード方式でも良いし、あるいは、クロスレイヤーまたはクロスラッパーにより、主に不織布シートの横方向に繊維が配列するように積層化させた後、エアースルー法により一体化することによって製造することができる。
【0025】
さらに具体的に、本発明の難燃性繊維構造体の製造方法を説明すると、いずれも短繊維である、(A)難燃性繊維と(B)非難燃性の熱接着性繊維を混綿した後、カーディング法によりウエブ化する。カードウエブは、そのままストレートの積層や、セミランダムのカード方式によるか、ストレートのカーディング後、クロスレイヤーやクロスラッパーなどにより積層された後に、エアースルー法により熱風を不織布に通過させて熱融着される。クロスレイヤーやクロスラッパーにより積層することにより、不織布中の繊維をより横方向に配列することが可能となる。熱処理時にウエブをネットで挟み込んだり、ピンテンターで端部を拘束したりすることで繊維の配列と不織布の収縮をコントロールすることが可能である。
【0026】
ここで、エアースルー法の具体例としては、得られるウエブをメッシュ状ワイヤーなどのネットのような通気性材料からなる無端縁ベルトによって搬送されて熱融着部へ導入する。熱融着部においては、無端縁ベルト上を搬送されるウエブに所定温度に加熱された熱風によりウエブを貫通させ、そのときに付与される熱によってウエブに含まれている熱接着性繊維が軟化ないし溶融し、繊維どうしの交点が結合する。これによってエアースルー不織布のシート状物(本発明の難燃性繊維構造体の原反)得られる。ウエブを貫通した熱風はサクションボックスによって回収される。
【0027】
熱風の吹き付け温度は、ウエブに含まれている(A)難燃性繊維や(B)熱接着性繊維の構成樹脂の融点やウエブの搬送速度及び目付けなどに応じて適宜決定される。熱風の温度は、繊維形成性ポリマーの種類にもよるが、通常、100〜220℃、特に120〜200℃であることが、繊維どうしの交点を確実に結合し得る点から好ましい。同様の理由により、熱風の吹き付け時間は5〜60秒、特に5〜20秒であることが好ましい。
【0028】
なお、熱処理時の収縮をある程度見越して適当なオーバーフィードをかけることにより、不織布の繊維配列を制御することも可能となる。エアースルー法により得られる接着強度を更に高くすることを目的として、後の工程でプレス処理することも出来うるし、必要に応じ、ロール間にクリアランスを設けることもできる。好ましくは、120〜200℃くらいの温度で表面が平滑なプレーンロールの間を通過させてプレスすることにより接着強度を上げて剛性を高めることが可能である。このような処理により、表面が平滑になるとともに厚みが均一になるために好ましい。
【0029】
このようにして得られる本発明の難燃性繊維構造体の目付は、15〜150g/mであり、好ましくは20〜100g/mである。目付が15g/m未満の場合、厚さが減少して保油量が不十分となり、またシート強力が弱く実用的ではない。一方、150g/mを超えると通気抵抗が高くなり、またシートの厚みが厚くなりすぎ、換気扇などの装着に支障をきたすことがある。この目付は、繊維のカードへの投入量やネット速度の変更により、容易に調整することができる。
【0030】
また、本発明の難燃性繊維構造体の保油量は、30g/g以上、好ましくは50〜100g/gである。ここで、保油量とは、室温25℃でサラダ油に浸けた10cm×10cmの試料を水平な2メッシュ金網上にのせて1時間油切りした後に保持している油の量を試料の不織布の重量単位当たりに換算した値である。保油量が30g/g未満の場合は、調理で発生する油煙中の油分をキャッチし保持する能力が不十分であり、なお、100g/gを超える能力を保有している場合は、万が一付着している油分に着火するような不測の事態において延焼する危険性が増大するので、好ましいとはいえず、またシートの自重の100倍を超える油の付着はシートの変形が発生し使用できない状態になる。
なお、保油量は、繊維構造体であるシートの密度を調整することにより、容易に調整することができる。
【0031】
さらに、本発明の難燃性繊維構造体の密度は、好ましくは0.005〜0.015g/cm、さらに好ましくは0.008〜0.014g/cmである。密度が0.015g/cmを超えると、通気抵抗の上昇、または保油量の低下となり好ましくない。一方、0.005g/cm未満の場合、あまりにも嵩高過ぎ、かつ風合いも柔らかくなって、取扱い性が悪化するので、実用的ではなく、さらに実用上のシート強力を保ちえず好ましくない。
この密度は、繊維構造体を構成する繊維の繊度、繊維構造単位の目付、厚さの調整などにより容易に調整することができる。
【0032】
なお、本発明の難燃性繊維構造体の通気抵抗は、0.0020〜0.0080kPa・s/mであり、好ましくは0.0025〜0.0050kPa・s/mである。0.0080kPa・s/mを超えるような場合、換気量の減少を招くため好ましくない。
通気抵抗は、密度と密接な関係にあり、繊維構造体の密度を制御することにより容易に調整することができる。
【0033】
従来のような、ケミカルバインダーにより繊維間結合した不織布は、一般的に繊維交絡点に水かき状のバインダー皮膜が形成されるので、通気性に悪い影響が出るばかりか、繊維表面のバインダー皮膜によって保油性にも影響がでる。また、エアレイドによる不織布は、嵩高化が十分に発現できない(エアレイド用原綿では、繊維長が短く、捲縮の発現性が弱い)。これに対して、本発明のように、例えば(A)難燃性繊維と偏芯型の芯鞘型複合繊維からなる(B)熱接着繊維を用いて、エアースルー法で熱風によって熱処理すると、嵩高となり、通気性と保油性に優れた難燃性繊維構造体が得られる(偏芯タイプは熱処理により、ばね状のくるくるした形態のクリンプが発現し嵩がアップする)。さらに、難燃剤として非ハロゲン系を用いることにより、廃棄しても環境汚染の恐れも無くなるので好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の%は特に断らない限り重量基準である。また、実施例中における各種の評価は以下に拠った。
【0035】
<厚さ>
JIS L 1913の6.1の方法に準拠して求めた。20g/cm荷重で測定した。
<密度>
密度(g/cm)=試料目付(g/cm)/試料の厚さ(cm)で求めた。
<引張強度>
JIS L 1913の6.3の方法に準拠して求めた。
<保油量>
室温25℃でサラダ油に浸けた10cm×10cmの試料を水平な2メッシュ金網上に乗せて1時間油切りした後に保持している油の量を測定した。また、試料の重量と保持している油の重量から計算で、試料である不織布シート1gあたりの保油量を求めた。
<通気抵抗値>
AUTOMATIC AIR−PERMEABILITY TESTER(カトーテック KES−F8−AP1)を使用し、通気穴面積2πcmに定流量空気を送り試料を通して放出、吸引させることにより測定し、デジタルメータに表示された通気抵抗を読んだ。
<燃焼性>
JIS L1091A−1法(45℃ミクロバーナー法)により測定した。
【0036】
実施例1
難燃剤を練り込んだ、芯/鞘がPP/PEである芯鞘型複合繊維(2.2dt×51mm)〔繊維形成性樹脂成分が96%、難燃剤としてクレジルジフェニルホスフェート(CDP)を4%(合計100%)からなる〕50%と、芯/鞘がPP/PEである偏芯型の芯鞘型複合繊維(5.6dt×51mm)50%を混綿したのち、カーディング処理、そのウエブの積層により目付24g/m2の不織布を作成した。続いてエアースルー法により155℃で熱処理して繊維の熱接着を行った後、プレーンカレンダーで2.5mmのクリアランスを設けプレス処理を行い、厚みが2.90mmになるように調整し、目付が25.1g/mの不織布(難燃性繊維構造体)を得た。結果を表1に示す。
【0037】
実施例2〜8
(A)難燃性繊維、(B)熱接着性繊維の組み合わせなどを変更する以外は、実施例1と同様にして、本発明の難燃性繊維構造体を作製した。結果を表1に示す。
【0038】
比較例1〜2
(B)熱接着性繊維を用いずに、実施例1と同様にしてエアースルー法で、難燃性繊維構造体を得た。結果を表2に示す。
比較例1では、密度が高くなり、保油性能が低い試料である。
比較例2では、密度が高くなり、シートを構成する繊維の本数が少ないため、強力(特に横強度)が低下し、実使用時にシートの「たれ」が発生し、換気扇などとしては実用に適さないものである。
【0039】
比較例3
(A)難燃性繊維の代わりに通常のホモタイプで丸断面のポリエステル短繊維を用いる以外、実施例1と同様にしてエアースルー法で繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
比較例3では、(A)難燃性繊維を用いていないので、難燃性が発現されていない。
【0040】
比較例4
繊維1として、ポリエチレンテレフタレートからなるホモタイプで丸断面の短繊維(3.3dtex×51mm)、繊維2として、ビニロンからなるホモタイプで丸断面の短繊維(5・6dtex×51mm)を用い、繊維1を75重量%、繊維2を25重量%の割合で混綿してカード機で開繊後、集積し、シート化してウエブにし、このウエブを、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)を含むアクリル系エマルジョンからなるケミカルバインダー液にディッピングして所定量の樹脂および難燃剤をウエブに付着させ、さらに乾燥、熱処理することにより、目付が30.3g/m、厚みが0.90mmのケミカルボンド法による不織布(難燃性繊維構造体)を得た。結果を表2に示す。
比較例4では、得られる不織布がケミカルボンド法であるため、シートの空隙が少なく密度が高いため、保油量が少ない。
【0041】
比較例5
繊維1と繊維2の混綿割合、バインダー量、難燃剤の量を変える以外は、比較例4と同様にして、ケミカルボンド法による不織布を得た。結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の難燃性繊維構造体は、低目付でも、難燃性があり、かつ嵩があり、油保持量にすぐれているので、換気扇、エアコン、空気清浄機などのフィルター材や、自動車や飛行機の天井材、座席下のクッション材、サイドトリムの中材、そのほかインテリアではソファー、カーペット、クッションの中材、ぬいぐるみの中材などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)単糸繊度が2.0〜25.0dtexの難燃性繊維30〜70重量%と(B)単糸繊度が2.0〜50.0dtexの非難燃性の熱接着性繊維70〜30重量%(ただし、(A)難燃性繊維+(B)非難燃性の熱接着性繊維=100重量%)を主体とし、熱処理によりシート化されていることを特徴とする難燃性繊維構造体。
【請求項2】
(B)非難燃性の熱接着性繊維の単糸繊度が(A)難燃性繊維の単糸繊度よりも太い請求項1記載の難燃性繊維構造体。
【請求項3】
(A)難燃性繊維が熱接着性繊維からなる請求項1または2記載も難燃性繊維構造体。
【請求項4】
(A)難燃性繊維を構成する熱接着性繊維および(B)非難燃性の熱接着性繊維が、サイドバイサイド型および/または芯鞘型の複合繊維である請求項3記載の難燃性繊維構造体。
【請求項5】
(A)難燃性繊維および(B)非難燃性の熱接着性繊維の素材が、いずれも、ポリプロビレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/低融点共重合ポリプロピレン、ポリエステル/ポリエチレン、またはポリエステル/共重合ポリエステルである、請求項4記載の難燃性繊維構造体。
【請求項6】
熱処理でシート化する工程がエアースルー法である請求項1〜5いずれかに記載の難燃性繊維構造体。


【公開番号】特開2012−82539(P2012−82539A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227809(P2010−227809)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(591196315)金星製紙株式会社 (36)
【Fターム(参考)】