説明

電子デバイス用エピタキシャル基板およびその製造方法

【課題】導電性SiC単結晶基板上のIII族窒化物電子デバイスにおいて、縦方向耐圧を向上させることができる電子デバイス用エピタキシャル基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】電性SiC単結晶基板2と、該SiC単結晶基板上に形成した絶縁層としてのバッファ3と、該バッファ上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて形成した主積層体4とを具え、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板であって、前記バッファは、Ba1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1,0<b1≦1,0≦c1≦1,0≦d1≦1,a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、初期成長層5と、バンドギャップの異なる2層を交互に積層した超格子多層構造からなる。超格子積層体6、または、前記主積層体の前記バッファ側の部分の少なくとも一方は、C濃度が1×1018/cm3以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用エピタキシャル基板およびその製造方法、特に、HEMT用エピタキシャル基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IC用デバイス等の高速化に伴い、高速の電界効果トランジスタ(FET: Field effect transistor)として、高電子移動度トランジスタ(HEMT: High electron mobility transistor)が広く用いられるようになっている。このような電界効果型のトランジスタは、例えば図1に模式的に示されるように、基板21上にチャネル層22および電子供給層23を積層し、この電子供給層23の表面にソース電極24、ドレイン電極25およびゲート電極26を配設することにより形成され、デバイスの動作時には、ソース電極24、電子供給層23、チャネル層22、電子供給層23およびドレイン電極25の順に電子が移動して、横方向を電流導通方向とし、この横方向の電子の移動は、ゲート電極26に印加される電圧により制御される。HEMTにおいて、バンドギャップの異なる電子供給層23およびチャネル層22の接合界面に生じる電子は、通常の半導体内と比較して高速で移動することができる。
【0003】
このように、横方向の電子の移動、すなわち電流は、ゲート電圧によって制御されるが、一般に、ゲート電圧をOFFにしても電流が0になることはない。このゲート電圧OFF時に流れる電流のことをリーク電流といい、リーク電流が増えると消費電力が増大し、その結果、発熱などの問題が生じることになる。このリーク電流は、一般に、横方向リーク電流と縦方向リーク電流とに分けられ、横方向リーク電流とは、電子供給層23側表面に配置した2電極間(たとえば、ソース電極24とドレイン電極25間)に流れるリーク電流のことをいい、縦方向リーク電流とは、電子供給層23側表面と基板21側表面にそれぞれ配置した2電極間に流れるリーク電流のことをいう。
【0004】
ところで、III族窒化物材料を用いて電子デバイス層構造を形成する場合、放熱性に優れるSiC基板を用いることが提案されているが、縦方向リーク電流を抑制し、かつ、縦方向の耐圧を向上させるために、絶縁性SiC基板を用いるのが一般的である。しかし、絶縁性SiC基板は、基板製造時の高抵抗化が容易ではなく、コストが高くなってしまうという問題があり、導電性SiC基板を用いる方法も提案されている。
【0005】
特許文献1には、導電性SiC基板上に超格子バッファ層、チャネル層および電子供給層を具えるHEMT構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、SiあるいはSiC基板上にGaN介在層を介して、p型不純物を添加した超格子バッファ層、チャネル層および電子供給層を具えるHEMT構造が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、超格子バッファ層の絶縁性が十分考慮されておらず、縦方向耐圧の悪化という問題があった。また、特許文献2に記載された発明においては、基板上にIII族窒化物層を成長する際、GaN系低温バッファ層を用いるため、SiC基板を用い、絶縁性を向上させる目的でAl含有超格子バッファ層を用いてエピタキシャル基板を得た場合には、エピタキシャル基板にクラックが発生してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−85123号公報
【特許文献2】特開2005−85852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、基板として導電性SiC基板を用いて、横方向リーク電流の低減および横方向耐圧特性を良好に両立させ、かつ縦方向耐圧を向上させるとともに、クラックの発生を抑制することができる電子デバイス用エピタキシャル基板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)導電性SiC単結晶基板と、該SiC単結晶基板上に形成した絶縁層としてのバッファと、該バッファ上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて形成した主積層体とを具え、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板であって、前記バッファは、前記SiC単結晶基板と接する初期成長層および該初期成長層上の超格子多層構造からなる超格子積層体を少なくとも有し、前記初期成長層はBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、かつ前記超格子積層体はBa2Alb2Gac2Ind2N(0≦a2≦1, 0≦b2≦1, 0≦c2≦1, 0≦d2≦1, a2+b2+c2+d2=1)材料からなる第1層および該第1層とはバンドギャップの異なるBa3Alb3Gac3Ind3N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなる第2層を交互に積層してなり、前記超格子積層体、または、前記主積層体の前記バッファ側の部分の少なくとも一方は、C濃度が1×1018/cm3以上であることを特徴とする電子デバイス用エピタキシャル基板。
【0011】
(2)前記超格子積層体、および、前記主積層体の前記バッファ側の部分は、ともにC濃度が1×1018/cm3以上である上記(1)に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【0012】
(3)前記第1層がAlN材料からなり、前記第2層がAlb3Gac3N(a3=0, 0<b3≦0.5,0.5≦c3<1, d3=0)材料からなる上記(1)または(2)に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【0013】
(4)前記初期成長層がBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0.5≦b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなる上記(1)、(2)または(3)に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【0014】
(5)前記初期成長層がAlN材料からなる上記(1)、(2)または(3)に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【0015】
(6)導電性SiC単結晶基板と、該SiC単結晶基板上に形成した絶縁層としてのバッファと、該バッファ上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて形成した主積層体とを具え、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記バッファは、前記SiC単結晶基板と接する初期成長層および該初期成長層上の超格子多層構造からなる超格子積層体を少なくとも有し、前記初期成長層はBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、かつ前記超格子積層体はBa2Alb2Gac2Ind2N(0≦a2≦1, 0≦b2≦1, 0≦c2≦1, 0≦d2≦1, a2+b2+c2+d2=1)材料からなる第1層および該第1層とはバンドギャップの異なるBa3Alb3Gac3Ind3N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなる第2層を交互に積層してなり、前記超格子積層体、または、前記主積層体の前記バッファ側の部分の少なくとも一方は、C濃度が1×1018/cm3以上であることを特徴とする電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法。
【0016】
(7)前記超格子積層体、および、前記主積層体の前記バッファ側の部分は、ともにC濃度が1×1018/cm3以上である上記(6)に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子デバイス用エピタキシャル基板は、導電性SiC基板上に、Al含有III族窒化物からなる初期成長層および所定の超格子積層体を有するバッファならびに所定の主積層体を具え、超格子積層体および/または主積層体のバッファ側の部分が、1×1018/cm3以上のC濃度を有することにより、横方向リーク電流の低減および横方向耐圧特性を良好に両立させるのみでなく、縦方向耐圧を向上させることができる。また、導電性SiC基板を用いることにより、放熱性を向上させ、さらに、クラックの発生を低減させることができる。
【0018】
また、本発明は、Al含有III族窒化物からなる初期成長層および所定の超格子積層体を有するバッファならびに所定の主積層体を具え、超格子積層体および/または主積層体のバッファ側の部分が、1×1018/cm3以上のC濃度を有することにより、横方向リーク電流の低減および横方向耐圧特性を良好に両立させるのみでなく、縦方向耐圧を向上させることができ、さらに導電性SiC基板を用いることにより、放熱性を向上し、クラックの発生を低減させた電子デバイス用エピタキシャル基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一般的な電界効果トランジスタを示す模式的断面図である。
【図2】本発明に従う電子デバイス用エピタキシャル基板の模式的断面図である。
【図3】(a),(b),(c)は、横方向耐圧、横方向リーク電流および縦方向耐圧の測定結果をそれぞれ示したグラフである。
【図4】(a),(b),(c)は、横方向耐圧、横方向リーク電流および縦方向耐圧の測定結果をそれぞれ示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の電子デバイス用エピタキシャル基板の実施形態について図面を参照しながら説明する。図2は、本発明に従う電子デバイス用エピタキシャル基板の断面構造を模式的に示したものである。なお、図2は、説明の便宜上、厚さ方向を誇張して描いたものである。
【0021】
図2に示すように、本発明の電子デバイス用エピタキシャル基板1は、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板であって、導電性SiC単結晶基板2と、導電性SiC単結晶基板2上に形成した絶縁層としてのバッファ3と、バッファ3上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて形成した主積層体4とを具え、バッファ3は、Si単結晶基板2と接する初期成長層5および初期成長層5上の超格子多層構造からなる超格子積層体6を少なくとも有し、初期成長層5はBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、かつ超格子積層体6はBa2Alb2Gac2Ind2N(0≦a2≦1, 0≦b2≦1, 0≦c2≦1, 0≦d2≦1, a2+b2+c2+d2=1)材料からなる第1層6aおよび該第1層6aとはバンドギャップの異なるBa3Alb3Gac3Ind3N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなる第2層6bを交互に積層してなり、超格子積層体6、および/または、主積層体4のバッファ3側の部分4´は、C濃度が1×1018/cm3以上であることを特徴とし、かかる構成を有することにより、横方向リーク電流の低減および横方向耐圧特性を良好に両立させのみでなく、縦方向耐圧を向上させることができるものである。また、導電性SiC基板を用いたことにより、放熱性を向上させ、さらに、クラックの発生を抑制することができるものである。
【0022】
導電性SiC単結晶基板2としては各種結晶構造のものを用いることができるが、4Hあるいは6Hのものを用いるのが望ましい。面方位は特に指定されず、(0001), (10-10), (11-20)面等を使用することができるが、III族窒化物の(0001)面を表面平坦性よく成長させるためには、(0001)面を使用することが望ましい。また、p型、n型いずれの伝導型としてもよい。SiC単結晶基板2の導電性については、1000Ω・cm以下の抵抗の低い基板を、用途に応じて適宜使用することができる。なお、本願では、抵抗率が、1000Ω・cm以下であるSiC基板を、導電性SiC基板と称する。この導電性SiC単結晶基板2の製法としては、昇華法等各種方法を用いることができ、基板表面にSiCをホモエピタキシャル成長することもできる。また、基板表面に酸化膜・窒化膜・炭化膜からなる薄膜が形成されているものを用いることも可能である。なお、SiC基板において高抵抗化が難しい要因は、大気中の主成分である窒素が不純物として混入しやすく、混入した場合n型のドーパントになり、抵抗率を下げてしまうからである。
【0023】
また、初期成長層5をAl含有III族窒化物材料(Ba1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1))で形成することにより、後述するAl含有超格子積層体のクラック発生を抑制することができる。クラックを効果的に抑制するには、超格子積層体の最もAlの組成の少ない層よりも初期成長層5のAl組成を大きくすることが好ましい。クラック抑制効果の観点からは、初期成長層5をBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0.5≦b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料とすることが更に好ましく、AlNとするのが最も好ましい。組成の関係を前記のようにすることにより超格子積層体内の引張応力を効果的に抑えることができるためである。ただし、ここでいうAlN材料は、意図したもの意図しないものに関わらず、1%以下の微量不純物を含んでいてもよく、たとえば、上記Ga, Inを始めとして、Si, H, O, C, B, Mg, As, Pなどの不純物を含むことができる。初期成長層の厚みは、10nm〜200nmの範囲とすることが好ましい。初期層が薄すぎる場合には超格子積層体内の引張応力を十分に抑制できないため、超格子積層体内にクラックが発生することがあり、厚すぎる場合には、初期層内の引張応力が蓄積されてしまうため、初期層でのクラックが発生することがある。
【0024】
ここで、「横方向を電流導通方向とする」とは、図1で示したように、ソース電極24からドレイン電極25へ、主に積層体の幅方向に電流が流れることを意味し、例えば半導体を一対の電極で挟んだ構造のように、主に縦方向すなわち積層体の厚さ方向に電流が流れるものとは異なることを意味する。
【0025】
また、ここで、超格子積層体を交互に積層とは、第1層6aと第2層6bを周期的に含むように積層することを意味する。第1層6aと第2層6b以外の層(たとえば組成遷移層)を含むことは可能である。
【0026】
主積層体4のバッファ3側の部分4´のC濃度は、超格子積層体6のC濃度よりも高くするのが好ましい。部分4´においては、バッファ3と主積層体4との格子定数の違いによる影響により、転位が横あるいは斜め方向に屈曲する現象が見られ、リーク電流が流れやすいパスが形成される。従って、部分4´はバッファ層3よりもリーク電流が流れやすく、このリーク電流を抑制するため、上記のようなC濃度にすることが望ましい。また、この主積層体4のバッファ3側の部分4´の厚さを0.1μm未満とすると、C濃度が少ない部分でも転位の屈曲が顕著に存在するおそれがあるため、0.1μm以上の厚さに設定することが好ましい。部分4´の厚さの上限は耐圧の向上、リーク電流の低減という観点では、特に指定されるものではなく、基板の反り・クラックの抑制の観点から適宜設定する。
【0027】
超格子積層体6を構成する第1層6aがAlN材料からなり、第2層6bがAlGaN(a3=0, 0<b3≦0.5, 0.5≦c3<1, d3=0)材料からなるのが好ましい。第1層6aと第2層6bのバンドギャップ差が縦方向耐圧を向上するため、組成差をできるだけ大きくし、バンドギャップ差をできるだけ大きくとることが好ましい。III族窒化物半導体材料で混晶を作る場合、最もバンドギャップ差が大きいのは、AlN(6.2eV)とGaN(3.5eV)であるため、AlGaN材料で超格子構造をつくることが好ましい。組成差の下限については、0.5より小さくなると、Si単結晶とIII族窒化物の格子定数差による応力緩和が不十分になり、クラックが発生するため、組成差は0.5以上とすることが好ましい。また、組成差の上限については、組成差は大きいほうが望ましいが、AlGaN層自身の絶縁化が進み耐圧を向上させるため、バンドギャップの小さい第2層はAlが少なくとも含まれるようにし、Alの組成差は1より小さくすることが望ましい。Alが少なくとも含まれるようにした場合、Cをより効率的に取り込むことができるからである。超格子のペア数は、少なくとも40ペア以上とし、合計厚膜は1μm以上とすると、耐圧のばらつきを低減することができるため好ましい。この超格子層を厚くすればするほど、耐圧を大きくすることができるので、高電圧で用いる用途に対しては好ましいが、原料費が増大するデメリットもあるので、厚みは用途に応じて、適宜選択する。
【0028】
各層の厚みに関しては、耐圧の向上という観点から考えると、バンドギャップの大きい第1層6aの厚みは、トンネル電流が抑制できる程度の厚み以上でかつ、クラックの発生しない膜厚以下とすることが好ましい。たとえば、AlNを用いた場合には、2〜10nmに設定することが好ましい。第2層6bの厚みに関しては、クラックの抑制・反りの制御の観点から適宜設定するが、超格子積層構造の歪緩衝効果を有効に発揮し、クラックの発生を抑制するために、バンドギャップの小さい層の厚みは、バンドギャップの大きい層よりも厚く、40nm以下とするのが好ましい。また、超格子積層体内で必ずしもすべて同じ膜厚、同じ組成で積層させる必要はない。
【0029】
電子デバイス用エピタキシャル基板1は、横方向を電流導通方向とする様々な用途に用いることができる。HEMTに用いるのが好ましい。図2に示すエピタキシャル基板1の主積層体4は、Ba4Alb4Gac4Ind4N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなるチャネル層4aおよびチャネル層4aよりバンドギャップの大きいBa5Alb5Gac5Ind5N(0≦a5≦1, 0≦b5≦1, 0≦c5≦1, 0≦d5≦1, a5+b5+c5+d5=1)材料からなる電子供給層4bを有することができる。この際、両層とも単一もしくは複数の組成から構成することができる。特に、合金散乱をさけ、電流導通部分の比抵抗を下げるためには、チャネル層4aの少なくとも電子供給層4bと接する部分はGaN材料とすることが好ましい。
【0030】
チャネル層4aのバッファ層とは反対側の部分は、C濃度が低いことが好ましく、4×1016/cm3以下に設定することが好ましい。この部分は、電子デバイスの電流導通部分に相当するため、導電性を阻害したり、電流コラプスを発生させたりする不純物は含まないほうが望ましいからである。また、n型不純物による残留キャリアによるリークを抑制するため、1×1015/cm3以上存在することが望ましい。
【0031】
次に、本発明の電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図2に示すように、導電性SiC単結晶基板2上に、絶縁層としてのバッファ3と、バッファ3上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させたHEMT構造の主積層体4とを順に形成した、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板1の製造方法であって、バッファ3は、SiC単結晶基板2と接する初期成長層5および初期成長層5上の超格子多層構造からなる超格子積層体6を有し、初期成長層5はBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、かつ超格子積層体6はBa2Alb2Gac2Ind2N(0≦a2≦1, 0≦b2≦1, 0≦c2≦1, 0≦d2≦1, a2+b2+c2+d2=1)材料からなる第1層6aおよび第1層6aとはバンドギャップの異なるBa3Alb3Gac3In
d32N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなる第2層6bを交互に積層してなり、超格子積層体6および/または主積層体4のバッファ3側の部分4´は、C濃度が1×1018/cm3以上となるよう形成されることを特徴とし、かかる構成を有することにより、縦方向耐圧特性および横方向耐圧特性を良好に両立させ、かつ横方向リーク電流を低減させることができる電子デバイス用エピタキシャル基板を製造することができるものである。その他の不純物量については、特に指定されるものではないが、比較的不純物準位の浅いドナー不純物(Si,O,Ge)の混入は抑制することが好ましいものの、こうしたドナー準位を補償できる程度Cが含有されていれば、ある程度の混入は許容される。なお、不純物濃度は、SIMS分析を用いて、表面側からエッチングしながら、深さ方向の不純物濃度分布を測定した。この際、部分4´のみIII族元素の組成を変更したり、部分4´からチャネル層4aのバッファ層とは反対側の部分のCの濃度あるいはIII族元素の組成を変化させる場合、急峻に変化させることもできるし、連続的に変化させることもできる。
【0033】
超格子積層体6と主積層体4のバッファ3側の部分4´に添加されるCは、CVD法を用いて成長する場合には、以下に示すいくつかの方法により添加することができる。
第1の方法:Cを含む原料ガスを、III族窒化物成長中に別途添加する。メタン・エタン・エチレン・アセチレン・ベンゼン・シクロペンタン等が例示される。
第2の方法:有機金属中のメチル基・エチル基等を、成長III族窒化物成長条件によりエピタキシャル成長層に混入させる。有機金属の分解を抑えるように、成長温度・成長圧力・成長速度・成長時のアンモニア流量・水素流量・窒素流量等を適宜設定することにより、エピタキシャル成長層に添加されるC濃度を調整することが可能である。
なお、本願では、超格子積層体6のC濃度は、SIMSにより、超格子積層体6の厚さの1/2を除去した箇所の測定値とする。主積層体4のバッファ3側の部分4´のC濃度は、SIMSにより、前記部分4´の厚さの1/2を除去した箇所の測定値とする。
【0034】
なお、図1および図2は、代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。たとえば、各層の間に本発明の効果に悪影響を与えない程度の中間層を挿入したり、他の超格子層を挿入したり、組成に傾斜をつけたりすることはできる。また、導電性SiC単結晶の表面に、窒化膜、炭化膜、Al層などを形成することもできる。
【0035】
なお、本発明の積層構造は、導電性SiC基板のみならず、初期成長層をGaNとした場合にクラックが発生する各種金属材料や低抵抗半導体材料(Ge,GaN,AlGaN,GaAs,ZnOなど)からなる他の導電性基板への拡張が可能である。これにより、導電性基板を用いた場合でも、クラックの発生を抑制し、かつ、横方向のリーク電流低減、横方向及び縦方向の耐圧特性を良好にする本願の効果を得ることができる。
【実施例】
【0036】
(実験例1)
比抵抗がそれぞれ1×10-1Ω・cm、10Ω・cm、100Ω・cmの300μm厚の(0001)面3インチ6H-SiC単結晶基板上に、初期成長層(AlN材料:厚さ100nm)および超格子積層体(AlN:膜厚4nmとAl0.15Ga0.85N:膜厚25nm、合計85層)を成長させてバッファを形成し、この超格子積層体上にチャネル層(GaN材料:厚さ1.5μm)および電子供給層(Al0.25Ga0.75N材料:厚さ20nm)をエピタキシャル成長させてHEMT構造の主積層体を形成して試料1〜3を得た。超格子積層体のC濃度を変化させ、主積層体のバッファ側の部分のC濃度は、いずれの結果も、1.5〜2.0×1018/cm3の範囲であった。また、チャネル層の電子供給層側の部分は、C濃度が0.8〜3.5×1016/cm3の範囲であった。各層の成長温度、圧力を表1に示す。表中P1を調整することによりC濃度を調整し、成膜圧力を下げることによりC濃度を増加させている。成長方法としてはMOCVD法を使用し、III族原料としては、TMA(トリメチルアルミニウム)・TMG(トリメチルガリウム)、V族原料としてはアンモニアを用い、キャリアガスとして、水素および窒素ガスを用いた。ここでいう成膜温度は、成長中に放射温度計を用いて測定した、基板自体の温度を意味する。なお、C濃度のSIMS測定は、エピタキシャル層側からエッチングを行い、Cameca製の測定装置で、イオン源としてCsを用い、イオンエネルギーは8keVで行った。
【0037】
【表1】

【0038】
図3(a)、図3(b)および図3(c)に、試料2の横方向耐圧、横方向リーク電流および縦方向耐圧の測定結果を示す。測定は、以下の通り行った。
縦方向:基板表面に80μmφからなるTi/Al積層構造のオーミック電極を形成し、オーミック電極外側を50nmの厚みでエッチングした後、基板裏面を金属板に接地し、両電極間に流れる電流値を電圧に対して測定した。
横方向:200μm□(四角)からなるTi/Al積層構造のオーミック電極を各々の一辺を10μmの距離を離して配置して形成し、前記オーミック電極周囲を150nmの厚みでエッチングした後、両電極間に流れる電流値を電圧に対して測定した。この際、空気中の放電を抑制するため、絶縁油で両電極間を絶縁している。また、基板裏面へのリークの影響をなくすため、基板下には絶縁板を配置している。
本実験例において、縦方向耐圧は縦方向の電流値を上記電極面積で単位面積当たりの値に換算した値が10-4A/cm2に達する電圧値で、横方向耐圧は横方向の電流値を上記電極の1辺の長さ当たりの値に換算した値が10-4A/cmに達する電圧値で、横方向リーク電流は横方向が100Vでの電流値で、それぞれ定義する。
超格子積層体6のC濃度は、SIMSにより、超格子積層体6の厚さの1/2を除去した箇所を測定することにより得た。主積層体4のバッファ3側の部分4´のC濃度は、SIMSにより、前記部分4´の厚さの1/2を除去した箇所を測定値することにより得た。
【0039】
超格子積層体のC濃度を変化させた結果、横方向耐圧、横方向リーク電流については、いずれもほとんど変化ないのに対し、試料2の縦方向耐圧については、超格子積層体のC濃度が1×1018/cm3を超えると、特異的に急激に高くなることが確認できる。なお、試料1,3についても、図3(a)、図3(b)および図3(c)と同様の結果が確認された。
【0040】
なお、全ての実験例で作製したエピタキシャル基板において、ホール効果測定法により、チャネル層部分の電気特性を評価したところ、シート抵抗値440Ω/□以下(四角)、移動度は1570cm2/Vs以上と良好な特性を示すことが確認されている。
光学顕微鏡(100倍)で、全ての実験例で作製したエピタキシャル基板の表面を観察したが、クラックの発生は認められなかった。
【0041】
(実験例2)
超格子積層体の成長圧力を10kPaとして、主積層体のバッファ側の部分のC濃度を変化させ、各層の成長温度、圧力を表2に示す条件で行ったこと以外は、実験例1の試料1〜3と同様の方法により試料4〜6を作製した。表中P2を調整することによりC濃度を調整し、成膜圧力を下げることによりC濃度を増加させている。超格子積層体のC濃度は、いずれの結果も1.5〜2.5×1018/cm3の範囲であった。
【0042】
【表2】

【0043】
図4(a)、図4(b)および図4(c)に、試料4の横方向耐圧、横方向リーク電流および縦方向耐圧の測定結果を示す。主積層体のC濃度を変化させた結果、横方向耐圧、横方向リーク電流については、ほとんど変化ないのに対し、試料4の縦方向耐圧については、主積層体のバッファ側の部分のC濃度が1×1018/cm3を超えると、特異的に急激に高くなることが確認できる。また、実験例1と同様に、使用するSi単結晶基板の比抵抗が異なる試料5および6についても、図4(a)〜図4(c)に示した結果と大きな差異は認められなかった。
光学顕微鏡(100倍)で、全ての実験例で作製したエピタキシャル基板の表面を観察したが、クラックの発生は認められなかった。
【0044】
以上の実験例1および2から超格子積層体のC濃度、または、主積層体のバッファ側の部分のC濃度の少なくともいずれか一方を1×1018/cm3以上とすることにより、縦方向耐圧を効果的に大きくすることができることがわかる。
【0045】
(実験例3)
初期成長層を700℃で成長したGaN材料(厚さ:20nm)で形成し、各層の成長温度、圧力を表3に示す条件で行ったこと以外は、実験例1の試料2と同様の方法により試料7を作製した。
【0046】
【表3】

【0047】
光学顕微鏡(100倍)で、全ての実験例で作製したエピタキシャル基板の表面を観察した結果、多数のクラック発生が確認された。ウェハ全面にクラックが発生しており、デバイス試作をすることができなかった。
【0048】
(実験例4)
初期成長層を、Al0.5Ga0.5N材料とした以外は、実験例1の試料1〜3と同様の方法により、試料8〜10を作成し、同様の実験を行った。その結果、図3(a)、図3(b)および図3(c)と同様の結果が全ての試料で確認され、シート抵抗値450Ω/□以下(四角)、移動度は1550cm2/Vs以上と良好な特性を示すことが確認されていた。
光学顕微鏡(100倍)で、全ての実験例で作製したエピタキシャル基板の表面を観察したが、クラックの発生は認められなかった。
【0049】
(実験例5)
初期成長層を、Al0.5Ga0.5N材料とした以外は、実験例2の試料4〜6と同様の方法により、試料11〜13を作成し、同様の実験を行った。その結果、図4(a)、図4(b)および図4(c)と同様の結果が全ての試料で確認された。
光学顕微鏡(100倍)で、全ての実験例で作製したエピタキシャル基板の表面を観察したが、クラックの発生は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の電子デバイス用エピタキシャル基板によれば、導電性SiC基板上にAl含有初期成長層および所定の超格子積層体を有するバッファならびに所定の主積層体を具え、超格子積層体および/または主積層体のバッファ側の部分が、1×1018/cm3以上のC濃度を有することにより、横方向リーク電流の低減および横方向耐圧特性を良好に両立させるのみでなく、縦方向耐圧を向上させることができる。また、導電性SiC基板を用いることにより、放熱性を向上させ、さらに、クラックの発生を低減させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 電子デバイス用エピタキシャル基板
2 導電性SiC単結晶基板
3 バッファ
4 主積層体
4a チャネル層
4b 電子供給層
5 初期成長層
6 超格子積層体
6a 第1層
6b 第2層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性SiC単結晶基板と、該SiC単結晶基板上に形成した絶縁層としてのバッファと、該バッファ上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて形成した主積層体とを具え、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板であって、前記バッファは、前記SiC単結晶基板と接する初期成長層および該初期成長層上の超格子多層構造からなる超格子積層体を少なくとも有し、前記初期成長層はBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、かつ前記超格子積層体はBa2Alb2Gac2Ind2N(0≦a2≦1, 0≦b2≦1, 0≦c2≦1, 0≦d2≦1, a2+b2+c2+d2=1)材料からなる第1層および該第1層とはバンドギャップの異なるBa3Alb3Gac3Ind3N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなる第2層を交互に積層してなり、前記超格子積層体、または、前記主積層体の前記バッファ側の部分の少なくとも一方は、C濃度が1×1018/cm3以上であることを特徴とする電子デバイス用エピタキシャル基板。
【請求項2】
前記超格子積層体、および、前記主積層体の前記バッファ側の部分は、ともにC濃度が1×1018/cm3以上である請求項1に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【請求項3】
前記第1層がAlN材料からなり、前記第2層がAlb3Gac3N(a3=0, 0<b3≦0.5,0.5≦c3<1, d3=0)材料からなる請求項1または2に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【請求項4】
前記初期成長層がBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0.5≦b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなる請求項1、2または3に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【請求項5】
前記初期成長層がAlN材料からなる請求項1、2または3に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板。
【請求項6】
導電性SiC単結晶基板と、該SiC単結晶基板上に形成した絶縁層としてのバッファと、該バッファ上に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて形成した主積層体とを具え、横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記バッファは、前記SiC単結晶基板と接する初期成長層および該初期成長層上の超格子多層構造からなる超格子積層体を少なくとも有し、前記初期成長層はBa1Alb1Gac1Ind1N(0≦a1≦1, 0<b1≦1, 0≦c1≦1, 0≦d1≦1, a1+b1+c1+d1=1)材料からなり、かつ前記超格子積層体はBa2Alb2Gac2Ind2N(0≦a2≦1, 0≦b2≦1, 0≦c2≦1, 0≦d2≦1, a2+b2+c2+d2=1)材料からなる第1層および該第1層とはバンドギャップの異なるBa3Alb3Gac3Ind3N(0≦a3≦1, 0≦b3≦1, 0≦c3≦1, 0≦d3≦1, a3+b3+c3+d3=1)材料からなる第2層を交互に積層してなり、前記超格子積層体、または、前記主積層体の前記バッファ側の部分の少なくとも一方は、C濃度が1×1018/cm3以上であることを特徴とする電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項7】
前記超格子積層体、および、前記主積層体の前記バッファ側の部分は、ともにC濃度が1×1018/cm3以上である請求項6に記載の電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−287882(P2010−287882A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107821(P2010−107821)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】