説明

電子回路基板用耐銅移行剤

【課題】金属(銅)イオン捕捉性にすぐれ、電子回路基板と接触する材料に有効に使用することのできる電子回路基板用耐銅移行剤を提供する。
【解決手段】1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物よりなる電子回路基板用耐銅移行剤。1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物としては、3個のSH基がそれぞれSCH(CH3)OR基(R基:炭素数3以上のアルキル基)に変換されたトリアジン誘導体が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板用耐銅移行剤に関する。さらに詳しくは、金属(銅)イオン捕捉性にすぐれた電子回路基板用耐銅移行剤に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用電子機器は、小型化、高性能化が進み、それを用いられる電子回路基板は益々高密度化する傾向にある。それに伴い、回路を形成する金属導体の線幅も狭くなり、金属回路から移行した金属イオンによる絶縁性の低下も起り易くなり、金属イオンの溶出防止技術が益々重要となってきている。
【0003】
こうした要求に対して、トリアジンチオール化合物類は金属と安定な化合物を形成することから、金属表面処理による接着性の改善や接着剤中の銅イオンのトラップ剤としての使用が提案されている。実際に、銅貼り積層板における銅の移行を防止し、耐トラッキング性を改善するために、ポリビニルブチラール樹脂にエポキシ樹脂またはメラミン樹脂を配合した接着剤樹脂混合物に銅害防止剤としてトリアジンチオール化合物、具体的には6-置換-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールを配合することが提案されている(特許文献1参照)
【0004】
また、有機チオール化合物とポリイミド樹脂を含む高分子フィルムと蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法で形成された金属薄膜とを有する積層体において、ポリイミド樹脂中に有機チオール化合物を含有せしめることにより、平滑な表面にすぐれた接着力を持つメッキ膜を形成し、これを用いて高密度回路を形成することが提案されており、すなわちこの積層体を用いてプリント配線板の製造を行うことにより、高密度プリント配線板の形成を可能とし、かつすぐれた金属層に対する接着性および高温高湿環境下での接着信頼性を実現するものとされている(特許文献2参照)
【0005】
具体的には、有機チオール化合物を添加するに際し、トリアジンチオール基の一部をNa塩に変換させ、水溶液としてポリイミド樹脂に添加したりあるいは金属層の表面を処理することも提案されている。しかしながら、この場合にはNaイオンが電気特性を悪化させることが考えられるが、これについての議論はなされていない。
【0006】
さらに、比較的簡単な方法であって、銅貼り積層板上の銅配線回路と接着剤付きカバーレイフィルムの接着剤層の接着強度を向上させたフレキシブルプリント配線基板を提供するために、銅貼り積層板の銅配線回路表面上に設けたトリアジンチオール化合物層を介して、カバーレイフィルムの接着剤層と接着させることが提案されている。その際、特定構造のトリアジンチオール化合物の有機溶媒溶液で回路を処理して剥離強度を改善するために、比較的溶媒に対する溶解性の良いジチオール化合物を用いることが提案されており、溶媒に溶け難いトリチオール化合物では所定の効果がないとされている(特許文献3参照)
【0007】
このように、トリアジンチオール化合物は有機溶媒には溶け難い固体状物質であって、ポリイミド樹脂中に均一に添加することが困難であり、従来から行われている特殊な溶媒を使用する方法やNa塩にして水溶液として用いる方法などでは、その効果を十分に発揮させることができなかったというのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−65466号公報
【特許文献2】特開2005−1384号公報
【特許文献3】特開2003−198123号公報
【特許文献4】特開2003−55353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、金属(銅)イオン捕捉性にすぐれ、電子回路基板と接触する材料に有効に使用することのできる電子回路基板用耐銅移行剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物よりなる電子回路基板用耐銅移行剤によって達成される。1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物としては、3個のSH基がそれぞれSCH(CH3)OR基(R基:炭素数3以上のアルキル基)に変換されたトリアジン誘導体が用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るトリアジントリチオール系化合物よりなる耐銅移行剤は、電子回路基板、特に金属導体が銅である電子回路基板とそれに接触する材料に適用されたとき、接触物中に移行する金属(銅)イオンを捕捉する耐銅移行性にすぐれているので、信頼性の高い電子回路基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
耐銅移行剤として作用する1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物としては、3個のSH基がそれぞれSCH(CH3)OR基(R:炭素数3以上、好ましくは3〜4のアルキル基)で変換されたものが用いられ、かかる付加物自体は公知の化合物であり、トリアジントリチオールにエーテル結合とアルキル基とを導入し、チオールの水素結合を消滅させることにより液状化させ、炭化水素溶媒等の無極性溶媒にも可溶性としたものである(特許文献4)
【0013】
炭素数が2以下のアルキル基を有するものを用いると、有機溶媒に対する溶解性が不足するようになるので好ましくなく、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、第3ブチル基等の炭素数3〜4のものが好んで用いられる。
【0014】
耐銅移行剤として用いられるトリアジントリチオール系化合物は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、メチルセロソルブ、エチルセルソルブ、セロソルブアセテート等のエチレングリコールモノエチルエーテル系有機溶媒などに溶解させた上で耐銅移行剤溶液として用いられる。
【0015】
調製されたトリアジントリチオール系化合物含有溶液の塗布は、コーティング、浸漬、刷毛塗り、ロールコータ等の一般的な塗布方法によって行われる。また、熱可塑性樹脂の場合には、溶媒を使用することなく、可塑剤を用いる場合のように添加して用いることができる。
【0016】
耐銅移行剤として用いられるトリアジントリチオール系化合物は、エポキシ樹脂を主たる接着性成分とする接着剤として樹脂フィルムとの貼り合わせに用いられる以外にも、スルーホールめっきにより金属導体を形成する際の相間絶縁材、電子回路の保護に使用される保護コーティング剤、FPCの電子回路保護に使われる接着剤付きカバーレイの接着剤、電子回路保護に使われる熱可塑性樹脂等、電子回路導体と接触するすべてのものを含むものに、耐銅移行性成分である付加物が用いられる。
【0017】
このように、本発明のトリアジントリチオール系化合物含有耐銅移行剤は電子回路基板と何らかの形で接触して用いられるが、電子回路基板としては、ガラス繊維充填エポキシ樹脂からなる基板の如きリジットタイプ基板、ポリイミドフィルムからなるフレキシブル基板等に、金属導体箔を接着した後エッチングして回路を形成した基板、無電解めっき法により回路を形成させた基板等が用いられる。ここで、電子回路を形成する金属導体としては、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉛、錫またはこれらの合金等が用いられ、あるいは回路形成用の金属微粒子よりなる導電性塗料等も用いられる。
【0018】
本発明のトリアジントリチオール系化合物よりなる耐銅移行剤は、電子回路基板と接触材料に付加物が熱分解しない温度条件下で適用し、具体的には電子回路基板、接触材料の一方または双方の面に塗布し、室温条件下で乾燥させた後、該化合物を熱分解させることにより行われる。熱分解は、前記一般式におけるアルキル基Rの種類にもよるが、一般に約150〜200℃で行われる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0020】
参考例
温度計、還流冷却器および攪拌機を備えた容量500mlの四口フラスコに、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール 35.46g(0.2モル)、イソブチルビニルエーテル 72.1g(0.72モル)、反応触媒としての酸性リン酸ブチルエステル 0.3gおよびアセトン 190gを仕込み、65℃で16時間反応させた後、未反応のイソブチルビニルエーテルおよびアセトンを留去して、粘性黄色液体91g(収率95%)を得た。赤外線吸収スペクトルおよび1H-NMRから、この液体は3個のSH基がそれぞれSCH(CH3)OCH2CH(CH3)2基に変換されたトリアジン誘導体(トリアジントリチオールのイソブチルビニルエーテル付加体)であることが確認された。
【0021】
実施例
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 40g
(油化シェル製品EP-1004F)
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂 40g
(油化シェル製品EP-5051)
臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂 20g
(日本化薬製品)
カルボキシル変性NBR(JSR製品) 50g
BF3・ピペリジン錯体(橋本化成製品) 1.5g
参考例のトリアジン誘導体 9g
メチルエチルケトン 400g
以上の各成分を混合し、ボールミルを用いて均一に溶解した。
【0022】
得られた溶液を、乾燥塗膜厚さが35μmになるようにポリイミドフィルム(東レ・デュポン製品カプトン100H;厚さ25μm)上に塗布し、室温で10分間乾燥した後140℃で2分間乾燥し、接着剤層形成フィルムを得た。これを電解銅箔(厚さ35μm)と接着剤層側で積層し、180℃、20kgf/cm2(1.96MPa)、2分間の条件下で加熱プレスを行った後、140℃で3時間の後硬化を行い、フレキシブル銅貼り積層板を得た。
【0023】
このフレキシブル銅貼り積層板について、次の各項目の測定を行った。
剥離強度:JIS C-5016準拠
剥離幅10mm、剥離角90°、引剥速度50mm/分の条件下で、銅箔をフィルム から剥したときの剥離強度を測定
耐銅移行性(耐銅マイグレーション性):
櫛形電極(パターンIPC-SM-840、導体幅0.118mm、導体間隔0.118mm、重ね 代15.75mm)を作製し、85℃、RH 85%の恒温恒湿環境下で、電極間に50Vの 直流電圧を24〜1000時間連続して印加し、移行現象が発生していないを
◎、移行現象が発生しているを○、移行現象が全体にわたって発生してい るを×と評価した
【0024】
比較例1
実施例において、トリアジン誘導体9gに代りに、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール3gが用いられた。
【0025】
比較例2
実施例において、トリアジン誘導体が用いられなかった。
【0026】
以上の実施例および各比較例で得られた結果は、次の表に示される。

測定項目 実施例 比較例1 比較例2
剥離強度 (N/mm) 1.3 1.0 0.9
耐銅移行性
印加 24時間 ◎ ◎ ◎
48時間 ◎ ◎ ◎
96時間 ◎ ◎ ◎
190時間 ◎ ◎ ○
470時間 ◎ ◎ ×
750時間 ◎ ○ ×
1000時間 ◎ × ×

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物よりなる電子回路基板用耐銅移行剤。
【請求項2】
1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールのアルキルビニルエーテル付加物が、3個のSH基をそれぞれSCH(CH3)OR基(ここで、R基は炭素数3以上のアルキル基である)に変換されたトリアジン誘導体である請求項1記載の電子回路基板用耐銅移行剤。
【請求項3】
電子回路基板と接触する材料に適用される請求項1または2記載の電子回路基板用耐銅移行剤。
【請求項4】
電子回路基板を構成する金属導体が銅である電子回路基板に適用される請求項3記載の電子回路基板用耐銅移行剤。
【請求項5】
電子回路基板と貼り合わされる樹脂フィルムの接着剤に適用される請求項3または4記載の電子回路基板用耐銅移行剤。
【請求項6】
スルーホールめっきによる金属導体を形成する際の相間絶縁材、電子回路の保護に使用される保護コーティング剤、FPCの電子回路保護に使われる接着剤付きカバーレイの接着剤または電子回路保護に使われる熱可塑性樹脂に適用される請求項3または4記載の電子回路基板用耐銅移行剤。

【公開番号】特開2011−160004(P2011−160004A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107748(P2011−107748)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2005−105657(P2005−105657)の分割
【原出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】