説明

電子情報受信機の信号識別方法

【課題】多重経路信号と意図しないMOPによる未識別または誤識別を防止して信号パラメータを抽出することができる電子情報受信機の信号識別方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る電子情報受信機の信号識別方法は、受信した信号から直接経路信号と多重経路信号によるMOP(modulation on pulse)の開始時点および終了時点を検出するステップ;前記信号の開始時点から前記MOPの開始時点までの区間における前記信号のインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して、信号強さ、周波数、位相のうちの少なくとも1つを抽出するステップ;および前記信号の開始時点から前記MOPの終了時点までの区間を前記信号のパルス幅として抽出するステップを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子戦に関し、より詳しくは、多重経路信号と意図しないMOPによる未識別または誤識別を防止することができる電子情報受信機の信号識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子戦(EW:Electronic Warfare)とは、敵が使用する電磁波を探知したり逆利用したりして敵の軍事作戦効果を低下させ、味方の電磁波使用は敵から邪魔されないように保護する諸般の軍事行為をいう。電磁波を使用する武器は地上の通信装備から各種レーダーやミサイルに至るまでその種類が非常に様々であり、運用周波数帯域が非常に広範囲であるという特徴を有する。また、広い意味の電子戦は、電磁波信号だけでなく、赤外線とレーザ信号などを使用する武器も含むのが一般的である。
【0003】
電子戦に用いられる受信機は、応用分野に応じ、いくつかの形態の受信機に分類することができ、主な受信機の種類としては、レーダー警報受信機(RWR:Radar Warning Receiver)、電子支援(ES:Electronic Support)受信機、および電子情報(ELINT:Electronic Intelligence)受信機などがある。
【0004】
この中、電子情報受信機は主に偵察任務を担当する受信機であり、迅速な探知よりは正確度が高く、遠距離探知が可能な高感度受信機能を有し、精密信号の分析が可能でなければならない。電子情報受信機は、受信する信号(例:レーダー信号)に対し、周波数、到着時間、パルス幅、信号強さ、パルス内変調特性などを測定してPDW(pulse description word)を生成する。また、収集されたPDWを周波数、パルス幅、信号強さなどを基準にグループ化し、各グループの中のパルス間の時間関係と周波数関係を分析してパルス列の特性情報を抽出する。
【0005】
しかし、電子情報受信機においては、エミッタ(Emitter)から放射されて直接到達する直接経路信号(direct path signal)だけでなく、エミッタから放射されて他の物体に反射した後に到達する多重経路信号(multi path signal)が受信される。直接経路信号と多重経路信号が重なる場合には意図しない変調信号(MOP:Modulation on Pulse)が発生する。すなわち、直接経路信号と多重経路信号が振幅変調、位相変調、または周波数変調され、AMOP(Amplitude Modulation on Pulse)、PMOP(Pulse Modulation on Pulse)、またはFMOP(Frequency Modulation on Pulse)が発生する。このような意図しない変調信号は、脅威信号に対し、未識別または誤識別を誘発する問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が達成しようとする技術的課題は、多重経路信号と意図しないMOPによる未識別または誤識別を防止して信号パラメータを抽出することができる電子情報受信機の信号識別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するための本発明に係る電子情報受信機の信号識別方法は、(a)受信した信号から直接経路信号と多重経路信号によるMOP(modulation on pulse)の開始時点および終了時点を検出するステップ;および(b)前記信号の開始時点から前記MOPの開始時点までの区間における前記信号のインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して、信号強さ、周波数、位相のうちの少なくとも1つを抽出するステップを含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記信号識別方法は、(c)前記信号の開始時点から前記MOPの終了時点までの区間を前記信号のパルス幅として抽出するステップをさらに含むことができる。
【0009】
また、前記信号識別方法は、前記MOPの発生有無を判断するステップをさらに含むことができる。
【0010】
また、前記(a)ステップは、前記信号のインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して抽出する信号強さ、周波数、位相の時間に応じた変化に基づいて前記MOPの開始時点および終了時点を検出することができる。
【0011】
また、第4項において、前記(a)ステップは、前記抽出した信号強さ、周波数、位相のうちの少なくとも1つの最初の突然の変化時点を前記MOPの開始時点として検出し、2番目の突然の変化時点を前記MOPの終了時点として検出することができる。
【0012】
また、前記信号識別方法は、前記抽出した信号強さ、周波数、位相、パルス幅に対する情報を含むPDW(pulse description word)を生成するステップをさらに含むことができる。
【0013】
また、前記PDWは、前記MOPの発生有無、前記MOPの開始時点および終了時点に対する情報をさらに含むことができる。
【0014】
また、前記技術的課題を解決するために、本発明は、前記電子情報受信機の信号識別方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータで読み取りできる記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多重経路信号と意図しないMOPによる未識別または誤識別を防止して信号パラメータを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子情報受信機における直接経路信号と多重経路信号が重なってMOPが発生する条件を説明するための参考図である。
【図2】本発明の一実施形態による電子情報受信機の信号識別方法を示すフローチャートである。
【図3】直接経路信号と多重経路信号によるMOPが発生する様子を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態によるこのようなPDWの構造を示す。
【図5】本発明の一実施形態により、信号強さ、周波数、位相パラメータとパルス幅パラメータが抽出される過程を説明するための参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では図面を参照して本発明の好ましい実施形態についてより詳細に説明する。以下の説明および添付図面において、実質的に同一の構成要素は各々同一の符号を付することによって重複する説明は省略する。また、本発明を説明する際、関連した公知機能あるいは構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不要に濁す恐れがあると判断される場合にはそれに対する詳細な説明は省略する。
【0018】
図1a〜図1bは、電子情報受信機における直接経路信号と多重経路信号が重なってMOPが発生する条件を説明するための参考図である。
図1aを参照すれば、直接経路信号パルスが周期的に受信され、各パルスの終了時点から一定休止期間(shadow time)が発生する。この時、図示したように、直接経路信号パルスが終了する前に多重経路信号パルスが受信される場合にMOPが発生する。そうすると、図1bに示すように、直接経路信号パルスと多重経路信号パルスが重なって受信される区間(t〜t)からMOPが発生し、多重経路信号パルスの終了時点(t)から一定休止期間(shadow time)(t〜t)が発生する。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態による電子情報受信機の信号識別方法を示すフローチャートである。
先ず、受信した信号から直接経路信号と多重経路信号によるMOPの発生有無を判断し(ステップ210)、MOPが発生すると(ステップ220)、直接経路信号と多重経路信号によるMOPの開始時点および終了時点を検出する(ステップ230)。
【0020】
図3は、直接経路信号と多重経路信号によるMOPが発生する様子を示す図である。図3を参照すれば、直接経路信号の開始時点(受信パルスの開始時点)がtであり、MOPの開始時点がtであり、MOPの終了時点がtであり、多重経路信号の終了時点(受信パルスの終了時点)がtとなる。MOPの開始時点tからMOPの終了時点tとの間の区間においては、変調により、その区間の前後区間と比較する時、位相、振幅、周波数特性が顕著に変わる。
【0021】
直接経路信号と多重経路信号によるMOPの発生有無の判断は、MOPの開始時点が直接経路信号の開始時点tより遅れる時、多重経路信号による意図しないMOPであると判断することができる。MOPの開始時点が直接経路信号の開始時点tと同じであれば、多重経路信号による意図しないMOPではなく、当初から変調された信号であると見ることができるためである。
【0022】
直接経路信号と多重経路信号によってMOPが発生したと判断されれば、MOPの開始時点と終了時点を検出し、これは次のように遂行することができる。上記で説明したように、MOPの発生区間においては、前後区間と比較する時、位相、信号強さ、周波数特性が変わる。したがって、信号を所定間隔(例えば、500MHz)でサンプリングしてサンプルごとにインフェーズ(in−phase)成分とクアドラチャ(quadrature)成分を抽出し、これを利用して位相、信号強さ、周波数特性を抽出する。また、サンプルの位相、信号強さ、周波数のうちの少なくとも1つが突然変化する時点を確認することができ、最初の突然の変化が生じる時点をMOPの開始時点(t)として検出し、その次に突然の変化が生じる時点をMOPの終了時点(t)として検出することができる。位相、信号強さ、周波数の突然な変化有無は、短い一定周期でその値を測定し、連続した測定値間の差が予め定められた基準値を超過したか否かによって判断することができる。
【0023】
ステップ230後、MOPの発生有無、MOPの開始時点および終了時点に対する情報を含むPDW(Pulse Description Word)を生成する(ステップ240)。すなわち、本実施形態から生成されるPDWは、既存のPDWが含む情報であるTOA(Time of Arrival)、Frequency、DV(Direction Vector)、AOA(Angle of Arrival)、BAND、PW(Pulse Width)、PA(Pulse Amplitude)などに加え、MOPの発生有無、MOPの開始時点および終了時点に対する情報をさらに含む。図4は、本発明の一実施形態によるこのようなPDWの構造を示す。図4を参照すれば、MOP FlagはMOPの発生有無(0または1)を示し、MOP startはMOPの開始時点を示し、MOP endはMOPの終了時点を示す。
【0024】
ステップ240後、受信パルスの開始時点(t)からMOPの開始時点(t)までの区間における信号のサンプルのインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して、信号識別のためのパラメータのうちの信号強さ、周波数、位相を抽出する(ステップ250)。図5を参照して説明すれば、受信パルスの開始時点(t)からMOPの開始時点(t)までの区間を有効区間とし、この有効区間におけるインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して、信号強さ、周波数、位相パラメータを抽出する。もし、有効区間をMOPの開始時点(t)後(例えば、受信パルスの終了時点t)とし、この区間のインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して信号強さ、周波数、位相パラメータを抽出するのであれば、MOPおよび多重経路信号によって正確なパラメータ値を抽出することができない。したがって、未識別または誤識別を誘発する。本ステップで求めた信号強さ、周波数、位相はPDWに記録する。
【0025】
ステップ250後、受信パルスの開始時点(t)からMOPの終了時点(t)までの区間を信号のパルス幅として抽出する。電子情報受信機において関心のある信号は直接経路信号であるため、直接経路信号のパルス幅を抽出しなければならない。MOPが発生する場合、直接経路信号の終了時点を直接分からないため、その代わりにMOPの終了時点(t)を直接経路信号の終了時点と見なし、信号のパルス幅を抽出するのである。図5を参照すれば、上記で説明したように、信号強さ、周波数、位相パラメータは区間(t〜t)を有効区間にして抽出される反面、信号のパルス幅(PW)は受信パルスの開始時点(t)からMOPの終了時点(t)までの区間から抽出されることが示されている。本ステップで求めたパルス幅もPDWに記録する。
【0026】
上記したステップ240およびステップ250から抽出されたパラメータ、すなわち、信号強さ、周波数、位相、パルス幅は、電子情報受信機に予め備えられたライブラリーに格納された情報に基づいてどのような脅威信号であるかを識別するのに用いられる。
【0027】
一方、上述した本発明の実施形態は、コンピュータで実行できるプログラムで作成可能であり、コンピュータで読み取りできる記録媒体を利用して前記プログラムを動作させる汎用ディジタルコンピューターで実現することができる。前記コンピュータで読み取りできる記録媒体は、マグネチック格納媒体(例えば、ROM、フロッピーディスク、ハードディスクなど)、光学的判読媒体(例えば、CD−ROM、DVDなど)、およびキャリアウェーブ(例えば、インターネットを介した転送)のような格納媒体を含む。
【0028】
以上、本発明についてその好ましい実施形態を中心に説明した。本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者であれば、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形した形態に実現できることを理解するはずである。したがって、開示された実施形態は限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮しなければならない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、これと同等な範囲内にある全ての差異点は本発明に含まれると解釈しなければならない。
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子情報受信機の信号識別方法であって、
(a)受信した信号から直接経路信号と多重経路信号によるMOP(modulation on pulse)の開始時点および終了時点を検出するステップ;および
(b)前記信号の開始時点から前記MOPの開始時点までの区間における前記信号のインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して、信号強さ、周波数、位相のうちの少なくとも1つを抽出するステップを含むことを特徴とする電子情報受信機の信号識別方法
【請求項2】
(c)前記信号の開始時点から前記MOPの終了時点までの区間を前記信号のパルス幅として抽出するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の電子情報受信機の信号識別方法。
【請求項3】
前記MOPの発生有無を判断するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の電子情報受信機の信号識別方法。
【請求項4】
前記(a)ステップは、
前記信号のインフェーズ成分とクアドラチャ成分を利用して抽出する信号強さ、周波数、位相の時間に応じた変化に基づいて前記MOPの開始時点および終了時点を検出することを特徴とする、請求項1に記載の電子情報受信機の信号識別方法。
【請求項5】
前記(a)ステップは、
前記抽出した信号強さ、周波数、位相のうちの少なくとも1つの最初の突然の変化時点を前記MOPの開始時点として検出し、2番目の突然の変化時点を前記MOPの終了時点として検出することを特徴とする、請求項4に記載の電子情報受信機の信号識別方法。
【請求項6】
前記抽出した信号強さ、周波数、位相、パルス幅に対する情報を含むPDW(pulse description word)を生成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の電子情報受信機の信号識別方法。
【請求項7】
前記PDWは、前記MOPの発生有無、前記MOPの開始時点および終了時点に対する情報をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の電子情報受信機の信号識別方法。
【請求項8】
請求項第1項に記載された電子情報受信機の信号識別方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータで読み取りできる記録媒体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−107138(P2011−107138A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255013(P2010−255013)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(510302319)エルアイジー・ネックスワン・カンパニー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】