説明

電子輸送材料およびこれを用いた有機電界発光素子

【課題】有機EL素子の長寿命化、駆動電圧の低下等に寄与する電子輸送材料を提供し、さらにこの電子輸送材料を用いた有機EL素子を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物、ならびにこの化合物を用いた有機EL素子。


式(1)中、Pyは独立して、式(2)、(3)、(4)、または(5)で表される基であり;


式(1)で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジル基を有する新規な電子輸送材料、この電子輸送材料を用いた有機電界発光素子(以下、有機EL素子または単に素子と略記することがある。)等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のフルカラーフラットパネルディスプレイとして有機EL素子が注目され、活発な研究がなされている。有機EL素子の実用化を促進するには、素子の駆動電圧の低減、長寿命化が不可欠な要素であり、これらを達成するために新しい電子輸送材料の開発がなされてきた。特に、青色素子の駆動電圧低下、長寿命化は必須である。特許文献1(特開2003−123983号公報)には、フェナントロリン誘導体またはその類似体である2,2’−ビピリジル化合物を電子輸送材料に使用することで有機EL素子を低電圧で駆動させることができると記載されている。しかしながらこの文献の実施例に報告されている素子の特性(駆動電圧、発光効率など)は比較例を基準にした相対値のみであり、実用的な値と判断できる実測値は記載されていない。他に、2,2’−ビピリジル化合物を電子輸送材料に使用した例が、非特許文献1(Proceedings of the 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence)、特許文献2(特開2002−158093号公報)および特許文献3(国際公開2007/86552パンフレット)に開示されている。非特許文献1に記載されている化合物はTgが低く、実用的ではなかった。特許文献2および3に記載の化合物は比較的低電圧で有機EL素子を駆動させることができるが、実用化に向けてはより長寿命化が望まれている。特許文献4に記載の化合物は比較的長寿命で有機EL素子を駆動させることができるが、駆動電圧が高めである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−123983号公報
【特許文献2】特開2002−158093号公報
【特許文献3】国際公開2007/86552パンフレット
【特許文献4】国際公開2010/137678パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceedings of the 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。本発明は、有機EL素子の駆動電圧低下および長寿命化等に寄与する電子輸送材料を提供することを課題とする。さらに本発明は、この電子輸送材料を用いた有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、2−ナフチル基および1−ナフチル基が9、10位に置換されたアントラセン誘導体における2−ナフチル側に、ピリジル、ビピリジル、フェニルピリジル、またはピリジルフェニルを有する化合物を有機EL素子の電子輸送層に用いることにより、低駆動電圧かつ長寿命で駆動できる有機EL素子が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
上記の課題は以下に示す各項によって解決される。
【0007】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【化1】

式(1)中、
Pyは独立して、式(2)、(3)、(4)、または(5)で表される基であり;
【化2】

式中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【0008】
[2] 下記式(1−1)または(1−2)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化3】

式(1−1)または(1−2)中、
Pyは、式(2)、(3)、(4)、または(5)で表される基であり;
【化4】

式中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【0009】
[3] 下記式(1−1)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化5】

式(1−1)において、
Pyは、式(2)、(3)、(4)または(5)で表される基であり;
【化6】

式中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【0010】
[4] 下記式(1−1−1)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化7】

【0011】
[5] 下記式(1−1−24)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化8】

【0012】
[6] 下記式(1−1−31)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化9】

【0013】
[7] 下記式(1−1−34)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化10】

【0014】
[8] 下記式(1−1−35)で表される、前記[1]項に記載の化合物。
【化11】

【0015】
[9] 前記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の化合物を含有する電子輸送材料。
【0016】
[10] 陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置される発光層と、前記陰極と該発光層との間に配置され、前記[9]項に記載の電子輸送材料を含有する電子輸送層および/または電子注入層とを有する有機電界発光素子。
【0017】
[11] 電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、さらに、キノリノール系金属錯体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体およびボラン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、前記[10]項に記載の有機電界発光素子。
【0018】
[12] 電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つが、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、前記[10]項または[11]項に記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明の化合物は薄膜状態で電圧を印加しても安定であり、また、電荷の輸送能力が高いという特徴を持つ。本発明の化合物は有機EL素子における電荷輸送材料として適している。本発明の化合物を有機EL素子の電子輸送層に用いることで、低電圧かつ長い寿命を有する有機EL素子を得ることができる。本発明の有機EL素子を用いることにより、フルカラー表示等の高性能のディスプレイ装置を作成できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本明細書においては、例えば「式(1−1−1)で表される化合物」のことを「化合物(1−1−1)」と称することがある。「式(1−1−2)で表される化合物」のことを「化合物(1−1−2)」と称することがある。その他の式記号、式番号についても同様に扱われる。
<化合物の説明>
本願の第1の発明は下記の式(1)で表される、ピリジル、ビピリジル、フェニルピリジル、またはピリジルフェニルを有する化合物である。
【化12】

式(1)中、Pyは独立して、式(2)、(3)、(4)、または(5)で表される基である。
【0021】
式(2)で表されるピリジルは、具体的には2−ピリジル、3−ピリジルまたは4−ピリジルである。
【0022】
式(3)で表されるビピリジルは、具体的には2,2’−ビピリジン−5−イル、2,2’−ビピリジン−6−イル、2,2’−ビピリジン−4−イル、2,3’−ビピリジン−5−イル、2,3’−ビピリジン−6−イル、2,3’−ビピリジン−4−イル、2,4’−ビピリジン−5−イル、2,4’−ビピリジン−6−イル、2,4’−ビピリジン−4−イル、3,2’−ビピリジン−6−イル、3,2’−ビピリジン−5−イル、3,3’−ビピリジン−6−イル、3,3’−ビピリジン−5−イル、3,4’−ビピリジン−6−イル、3,4’−ビピリジン−5−イル、4,2’−ビピリジン−3−イル、4,3’−ビピリジン−3−イル、または4,4’−ビピリジン−3−イルである。この中では、2,2’−ビピリジン−5−イル、2,2’−ビピリジン−6−イル、2,3’−ビピリジン−5−イル、2,3’−ビピリジン−6−イル、2,4’−ビピリジン−5−イル、2,4’−ビピリジン−6−イル、3,2’−ビピリジン−5−イル、3,3’−ビピリジン−5−イル、3,4’−ビピリジン−5−イル、4,2’−ビピリジン−3−イル、4,3’−ビピリジン−3−イル、および4,4’−ビピリジン−3−イルが好ましい。そして、2,2’−ビピリジン−5−イル、2,2’−ビピリジン−6−イル、2,3’−ビピリジン−5−イル、2,3’−ビピリジン−6−イル、2,4’−ビピリジン−5−イル、2,4’−ビピリジン−6−イル、3,2’−ビピリジン−5−イル、3,3’−ビピリジン−5−イル、および3,4’−ビピリジン−5−イルがさらに好ましい。
【0023】
式(4)で表されるフェニルピリジルは、具体的には3−フェニルピリジン−2−イル、4−フェニルピリジン−2−イル、5−フェニルピリジン−2−イル、6−フェニルピリジン−2−イル、2−フェニルピリジン−3−イル、4−フェニルピリジン−3−イル、5−フェニルピリジン−3−イル、6−フェニルピリジン−3−イル、2−フェニルピリジン−4−イル、または3−フェニルピリジン−4−イルである。
【0024】
式(5)で表されるピリジルフェニルは、具体的には4−(2−ピリジル)フェニル、4−(3−ピリジル)フェニル、4−(4−ピリジル)フェニル、3−(2−ピリジル)フェニル、3−(3−ピリジル)フェニル、3−(4−ピリジル)フェニル、2−(2−ピリジル)フェニル、2−(3−ピリジル)フェニル、または2−(4−ピリジル)フェニルである。この中では、4−(2−ピリジル)フェニル、4−(3−ピリジル)フェニル、4−(4−ピリジル)フェニル、3−(2−ピリジル)フェニル、3−(3−ピリジル)フェニル、および3−(4−ピリジル)フェニルが好ましい。
【0025】
式(1)において、Pyが連結するのは、2−ナフチルにおける任意の位置でよいが、6位および7位が好ましい。ナフタレン−2,6−ジイルとナフタレン−2,7−ジイルを比較したとき、ナフタレン−2,7−ジイルの両側に連結した芳香環の共役が分子内で途切れるのに対して、ナフタレン−2,6−ジイルは(環構造全体が同一平面上にあるという条件で)共役が途切れない。そのため、一般的にナフタレン−2,6−ジイルの構造の方がガラス転移点(Tg)が高くなることが知られており、それによって化合物によって形成された薄膜の信頼性が高くなることが期待され。その点では、6位にPyが連結した化合物が好ましい。また原料が入手しやすいという点でも、6位にPyが連結した化合物が好ましい。
【0026】
式(1)中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。炭素数1〜6のアルキルの例はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシルである。炭素数3〜6のシクロアルキルの例はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルである。
【0027】
<化合物の具体例>
本発明の化合物の具体例は以下に列記する式によって示されるが、本発明はこれらの具体的な構造の開示によって限定されることはない。
【0028】
<式(1−1)で表される化合物の具体例>
式(1−1)で表される化合物の具体例は下記の式(1−1−1)〜(1−1−90)で示される。この中では、式(1−1−1)〜(1−1−15)、式(1−1−22)〜(1−1−24)、および式(1−1−31)〜(1−1−70)で表される化合物が好ましく、式(1−1−1)、式(1−1−2)、式(1−1−4)〜(1−1−6)、式(1−1−22)〜(1−1−24)、(1−1−31)〜(1−1−36)、式(1−1−41)〜(1−1−50)、および式(1−1−61)〜(1−1−70)で表される化合物がより好ましく、式(1−1−1)、式(1−1−2)、式(1−1−22)〜(1−1−24)、式(1−1−31)〜(1−1−36)、および式(1−1−61)〜(1−1−70)で表される化合物がさらに好ましい。
【0029】
【化13】

【0030】
【化14】

【0031】
【化15】

【0032】
【化16】

【0033】
【化17】

【0034】
【化18】

【0035】
【化19】

【0036】
【化20】

【0037】
<式(1−2)で表される化合物の具体例>
式(1−2)で表される化合物の具体例は下記の式(1−2−1)〜(1−2−87)で示される。
【0038】
【化21】

【0039】
【化22】

【0040】
【化23】

【0041】
【化24】

【0042】
【化25】

【0043】
【化26】

【0044】
【化27】

【0045】
【化28】

【0046】
<化合物の合成法>
本発明の化合物は既知の合成方法を利用して合成することができる。式(1−1−1)の化合物を例に本発明の化合物の合成法を説明する。
【0047】
【化29】

反応1ではナフチルアントラセンの臭化物とメトキシナフタレンのボロン酸を鈴木カップリングさせ、9−(6−メトキシナフタレン−2−イル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセンを合成する。この際、ナフチルアントラセンのボロン酸とメトキシナフタレンの臭化物を鈴木カップリングしても、目的物を得ることができる。また、ここでは鈴木カップリングによる例を示したが、例えば亜鉛錯体を利用した根岸カップリング等も利用することができる。
【0048】
【化30】

反応2では9−(6−メトキシナフタレン−2−イル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセンのメトキシ基を脱メチルしてナフトールにする。ここでも脱メチル化反応に常用される試薬が適宜使用できる。
【0049】
【化31】

反応3でナフトールの−OHをトリフルオロメチルスルホネート(トリフラート)にする。反応式中の−OTfは−OSOCFの略である。
【0050】
【化32】

反応4で根岸カップリング反応によってナフタレン環にピリジン環を結合させる。先ず4−ブロモピリジンをグリニャール試薬とする。ここでは原料に安定な4−ブロモピリジン塩酸塩を用いているためイソプロピルマグネシウムクロリドを2倍モル使用しているが、塩酸塩を用いる必要がない原料については等モルで差し支えない。グリニャール試薬に塩化亜鉛テトラメチルエチレンジアミン錯体を加えてピリジンの塩化亜鉛錯体を合成し、これにパラジウム触媒の存在下反応5で得たトリフラートを反応させて目的物を合成する。
【0051】
根岸カップリング反応で用いられるパラジウム触媒の具体例としては、Pd(PPh、PdCl(PPh、Pd(OAc)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、ビス(トリt−ブチルホスフィノ)パラジウム(0)、または(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)ジクロロパラジウム(II)があげられる。
【0052】
この段においては根岸カップリング反応以外にも、鈴木カップリング反応など常用されるカップリング反応を適宜用いることができる。根岸カップリング反応、鈴木カップリング反応は例えば、「Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions - Second, Completely Revised and Enlarged Edition」などに記載されている。
【0053】
式(1−1−1)以外の化合物についても、目的物に合わせて原料を適宜用いることにより、上記の合成法に準じて合成することができる。例えば、式(1−1−4)の化合物を例に説明する。
【0054】
【化33】

【化34】

反応5に従って合成したピリジンの塩化亜鉛錯体を、反応6によってジブロモピリジンとカップリングしてビピリジンの臭化物を得る。この臭化物を反応4に準じて再度塩化亜鉛錯体として、反応3で得たトリフラートと反応させることにより式(1−1−4)の化合物を合成することができる。
【0055】
また、式(1−1−16)の化合物であれば、反応6でジブロモピリジンの代わりにパラジブロモベンゼンを用いることで4−(2−ピリジル)ブロモベンゼンを合成し、これを上記と同様に塩化亜鉛錯体として、次いで反応3で得たトリフラートと反応させることによって合成することができる。
【0056】
式(1−2−1)〜(1−2−87)の化合物の場合は、前記の反応1において2−ブロモ−6−メトキシナフタレンの代わりに2−ブロモ−7−メトキシナフタレンを使用すればよい。
【0057】
本発明の化合物を、有機EL素子における、電子注入層または電子輸送層に用いた場合、電界印加時において安定である。これらは、本発明の化合物が、電界発光型素子の電子注入材料、または電子輸送材料として優れていることを表す。ここで言う電子注入層とは陰極から有機層へ電子を受け取る層であり、電子輸送層とは注入された電子を発光層へ輸送するための層である。また、電子輸送層が電子注入層を兼ねることも可能である。それぞれの層に用いる材料を、電子注入材料および電子輸送材料という。
【0058】
<有機EL素子の説明>
本願の第2の発明は、電子注入層、または電子輸送層に、本発明の式(1)で表される化合物を含有する有機EL素子である。本発明の有機EL素子は、駆動電圧が低く、駆動時の耐久性が高い。
【0059】
本発明の有機EL素子の構造は各種の態様があるが、基本的には陽極と陰極との間に少なくとも正孔輸送層、発光層、電子輸送層を挟持した多層構造である。素子の具体的な構成の例は、(1)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、(3)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、等である。
【0060】
本発明の化合物は、高い電子注入性および電子輸送性を持っているので、単体または他の材料と併用して電子注入層、または電子輸送層に使用できる。本発明の有機EL素子は、本発明の電子輸送材料に他の材料を用いた正孔注入層、正孔輸送層、発光層、などを組み合わせることで、青色、緑色、赤色や白色の発光を得ることもできる。
【0061】
本発明の有機EL素子に使用できる発光材料または発光性ドーパントは、高分子学会編、高分子機能材料シリーズ“光機能材料”、共同出版(1991)、P236に記載されているような昼光蛍光材料、蛍光増白剤、レーザー色素、有機シンチレータ、各種の蛍光分析試薬等の発光材料、城戸淳二監修、“有機EL材料とディスプレイ”シーエムシー社出版(2001)P155〜156に記載されているようなドーパント材料、P170〜172に記載されているような3重項材料の発光材料等である。
【0062】
発光材料または発光性ドーパントとして使用できる化合物は、多環芳香族化合物、ヘテロ芳香族化合物、有機金属錯体、色素、高分子系発光材料、スチリル誘導体、芳香族アミン誘導体、クマリン誘導体、ボラン誘導体、オキサジン誘導体、スピロ環を有する化合物、オキサジアゾール誘導体、フルオレン誘導体等である。多環芳香族化合物の例は、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ペリレン誘導体、コロネン誘導体、ルブレン誘導体等である。ヘテロ芳香族化合物の例は、ジアルキルアミノ基またはジアリールアミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ピリジン誘導体、ピラン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体、トリフェニルアミノ基を有するチオフェン誘導体、キナクリドン誘導体等である。有機金属錯体の例は、亜鉛、アルミニウム、ベリリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、イリジウム、白金、オスミウム、金、等と、キノリノール誘導体、ベンゾキサゾ−ル誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ピロール誘導体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体等との錯体である。色素の例は、キサンテン誘導体、ポリメチン誘導体、ポルフィリン誘導体、クマリン誘導体、ジシアノメチレンピラン誘導体、ジシアノメチレンチオピラン誘導体、オキソベンズアントラセン誘導体、カルボスチリル誘導体、ペリレン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体等の色素が挙げられる。高分子系発光材料の例は、ポリパラフェニルビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾ−ル誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体等である。スチリル誘導体の例は、アミン含有スチリル誘導体、スチリルアリーレン誘導体等である。
【0063】
本発明の有機EL素子に使用される他の電子輸送材料は、光導電材料において電子伝達化合物として使用できる化合物、有機EL素子の電子輸送層および電子注入層に使用できる化合物の中から任意に選択して用いることができる。
【0064】
このような電子輸送材料の具体例は、キノリノール系金属錯体、2,2’−ビピリジル誘導体、フェナントロリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チオフェン誘導体、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、オキシン誘導体の金属錯体、キノキサリン誘導体、キノキサリン誘導体のポリマー、ベンザゾール類化合物、ガリウム錯体、ピラゾール誘導体、パ−フルオロ化フェニレン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、イミダゾピリジン誘導体、ボラン誘導体等である。
【0065】
本発明の有機EL素子に使用される正孔注入材料および正孔輸送材料については、光導電材料において、正孔の電荷輸送材料として従来から慣用されている化合物や、有機EL素子の正孔注入層および正孔輸送層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。それらの具体例は、カルバゾ−ル誘導体、トリアリールアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等である。
【0066】
本発明の有機EL素子を構成する各層は、各層を構成すべき材料を蒸着法、スピンコート法またはキャスト法等の方法で薄膜とすることにより、形成することができる。このようにして形成された各層の膜厚については特に限定はなく、材料の性質に応じて適宜設定することができるが、通常2nm〜5000nmの範囲である。なお、発光材料を薄膜化する方法は、均質な膜が得やすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から蒸着法を採用するのが好ましい。蒸着法を用いて薄膜化する場合、その蒸着条件は、本発明の発光材料の種類により異なる。蒸着条件は一般的に、ボート加熱温度50〜400℃、真空度10−6〜10−3Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−150〜+300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜設定することが好ましい。
【0067】
本発明の有機EL素子は、前記のいずれの構造であっても、基板に支持されていることが好ましい。基板は機械的強度、熱安定性および透明性を有するものであればよく、ガラス、透明プラスチックフィルム等を用いることができる。陽極物質は4eVより大きな仕事関数を有する金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を用いることができる。その具体例は、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(以下、ITOと略記する)、SnO、ZnO等である。
【0068】
陰極物質は4eVより小さな仕事関数の金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物を使用できる。その具体例は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、マグネシウム合金、アルミニウム合金等である。合金の具体例は、アルミニウム/弗化リチウム、アルミニウム/リチウム、マグネシウム/銀、マグネシウム/インジウム等である。有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、電極の少なくとも一方は光透過率を10%以上にすることが望ましい。電極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下にすることが好ましい。なお、膜厚は電極材料の性質にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜400nmの範囲に設定される。このような電極は、上述の電極物質を使用して、蒸着やスパッタリング等の方法で薄膜を形成させることにより作製することができる。
【0069】
次に、本発明の発光材料を用いて有機EL素子を作成する方法の一例として、前述の陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/本発明の電子輸送材料/陰極からなる有機EL素子の作成法について説明する。適当な基板上に、陽極材料の薄膜を蒸着法により形成させて陽極を作製した後、この陽極上に正孔注入層および正孔輸送層の薄膜を形成させる。この上に発光層の薄膜を形成させる。この発光層の上に本発明の電子輸送材料を真空蒸着し、薄膜を形成させ、電子輸送層とする。さらに陰極用物質からなる薄膜を蒸着法により形成させて陰極とすることにより、目的の有機EL素子が得られる。なお、上述の有機EL素子の作製においては、作製順序を逆にして、陰極、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0070】
このようにして得られた有機EL素子に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として印加すればよく、電圧2〜40V程度を印加すると、透明または半透明の電極側(陽極または陰極、および両方)より発光が観測できる。また、この有機EL素子は、交流電圧を印加した場合にも発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0071】
[実施例]
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明する。まず、実施例で用いた化合物の合成例について、以下に説明する。
【0072】
[合成例1]化合物(1−1−1)の合成
<9−(6−メトキシナフタレン−2−イル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセンの合成>
9−ブロモ−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン(46.0g)、(6−メトキシナフタレン−2−イル)ボロン酸(26.7g)、リン酸カリウム(50.9g)、
Pd(PPh(4.2g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(300ml)、2−プロパノール(60ml)および水(12ml)の入ったフラスコを、還流温度で7時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、水およびトルエンを加え分液し、有機層をシリカゲルを敷いた桐山ロートでろ過した。溶媒を減圧留去してろ液を適量まで濃縮した後、ヘプタンを加えることによって析出した沈殿を吸引ろ過にて採取し、9−(6−メトキシナフタレン−2−イル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン(38.5g)を得た。なお、9−ブロモ−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセンは市販品を使用したが、例えば、共に市販品である9,10−ジブロモアントラセンと1−ナフタレンボロン酸を、上記に準じた方法で鈴木カップリングして合成することができる。
【0073】
<6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−オールの合成>
9−(6−メトキシナフタレン−2−イル)−10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン(38.5g)、ピリジン塩酸塩(48.1g)および1−メチル−2−ピロリドン(NMP)(40ml)の入ったフラスコを、200℃で5時間撹拌した。生成物は溶媒に難溶性なため、反応液を室温まで冷却すると反応液中に固形物として沈殿した。ここに水を加えて攪拌し、水溶性の物質を溶解した後、吸引ろ過にて固体を採取した。この固体を加熱したメタノールで洗浄した後、加熱したクロロベンゼンに溶解し、熱時ろ過にて不溶物をろ別した。溶媒を減圧留去してろ液を適量まで濃縮した後、ヘプタンを加えることによって析出した沈殿を吸引ろ過にて採取し、6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−オールを定量的に得た。
【0074】
<6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル トリフルオロメタンスルホナートの合成>
6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−オール(16.1g)およびピリジン(150ml)の入ったフラスコを氷浴で冷却し、そこにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(12.2g)を滴下した。滴下終了後、室温で4時間撹拌した後、水を加えて反応を停止した。析出した沈殿を吸引ろ過にて採取し、水次いでメタノールで洗浄した。更にこの沈殿をトルエンに溶解し、溶液をシリカゲルを敷いた桐山ロートでろ過した。溶媒を減圧留去してろ液を適量まで濃縮した後、ヘプタンを加えることによって析出した沈殿を吸引ろ過にて採取し、6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル トリフルオロメタンスルホナート(20.0g)を得た。
【0075】
<化合物(1−1−1)の合成>
4−ヨードピリジン(1.0g)およびTHF10mlを入れたフラスコをドライアイス/メタノール浴で冷却し、窒素雰囲気下、2MイソプロピルマグネシウムクロリドTHF溶液2.8mlを攪拌しながら滴下した。滴下終了後一旦室温まで昇温した後、4−ヨードピリジンが消費されたことを確認してから、フラスコを氷水で冷却し、塩化亜鉛テトラメチルエチレンジアミン錯体(1.39g)を攪拌しながら加えた。その後室温で1時間攪拌し、6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル トリフルオロメタンスルホナート(2.60g)およびPd(PPh(0.17g)を加え、還流温度で3時間加熱攪拌した。反応液を室温まで冷却し、触媒の金属イオンを除去するため、目的の化合物に対しておよそ2倍モルに相当するエチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム塩二水和物を適量の水に溶解した溶液(以後、EDTA・4Na水溶液と略記する。)を加え攪拌した。次いでこの溶液に更にトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:クロロベンゼン/酢酸エチル混合溶媒)で精製した。この際、「有機化学実験のてびき(1)−物質取扱法と分離精製法−」株式会社化学同人出版、94頁に記載の方法を参考にして、展開液中の酢酸エチルの比率を徐々に増加させて目的物を溶出させた。溶媒を減圧留去した後、トルエンから再結晶し、(1−1−1)で表される化合物:4−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ピリジン(1.10g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl):δ=8.76(d,2H), 8.31(s,1H), 8.19(t,1H), 8.00−8.14(m,4H), 7.87(m,1H), 7.67−7.80(m,6H), 7.60(m,1H), 7.49(m,3H), 7.31(t,2H), 7.17−7.26(m,4H).
【0076】
[合成例2]化合物(1−1−24)の合成
4,4,5,5−テトラメチル−2−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.5g)、5−ブロモ−3,4’−ビピリジン(1.3g)、リン酸三カリウム(1.9g)、Pd(PPh(0.2g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(10ml)、2−プロパノール(2ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で2.5時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却し、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、メタノール、次いで酢酸エチルで洗浄し、更にNH修飾シリカゲル(DM1020:富士シリシア製)カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン)にて精製し、(1−1−24)で表される化合物:5−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)−3,4’−ビピリジン(1.2g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl3):δ=9.13(m,1H), 8.95(m,1H), 8.80(d,2H), 8.31(m,2H), 8.21(t,1H), 8.07−8.17(m,3H), 8.03(d,1H), 7.90(m,1H), 7.71−7.81(m,4H), 7.67(d,2H), 7.61(m,1H), 7.50(m,3H), 7.32(t,2H), 7.19−7.28(m,4H).
【0077】
[合成例3]化合物(1−1−31)の合成
4,4,5,5−テトラメチル−2−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.5g)、4−ブロモ−2−メチルピリジン(0.9g)、リン酸三カリウム(1.9g)、Pd(PPh(0.2g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(10ml)、t−ブチルアルコール(2ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で1.5時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却し、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、NH修飾シリカゲル(DM1020:富士シリシア製)カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/ヘプタン=1/1(容量比))にて精製した。更にクロロベンゼンから再結晶して、(1−1−31)で表される化合物:2−メチル−4−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ピリジン(0.7g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl3):δ=8.64(d,1H), 8.30(s,1H), 8.19(t,1H), 8.01−8.13(m,4H), 7.87(m,1H), 7.70−7.80(m,4H), 7.60(m,2H), 7.45−7.55(m,4H), 7.31(t,2H), 7.18−7.27(m,4H), 2.71(s,3H).
【0078】
[合成例4]化合物(1−1−34)の合成
4,4,5,5−テトラメチル−2−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.5g)、3−ブロモ−5−メチルピリジン(0.9g)、リン酸三カリウム(1.9g)、Pd(PPh(0.2g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(10ml)、t−ブチルアルコール(2ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で1時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却し、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、NH修飾シリカゲル(DM1020:富士シリシア製)カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/ヘプタン=2/1(容量比))にて精製した。更に酢酸エチルで洗浄した後、トルエンから再結晶して、(1−1−34)で表される化合物:3−メチル−5−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ピリジン(0.4g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl3):δ=8.87(m,1H), 8.51(m,1H), 8.23(s,1H), 8.19(t,1H), 8.01−8.12(m,4H), 7.90(m,1H), 7.83(m,1H), 7.70−7.80(m,4H), 7.60(m,1H), 7.45−7.52(m,3H), 7.31(t,2H), 7.18−7.26(m,4H), 2.50(s,3H).
【0079】
[合成例5]化合物(1−1−35)の合成
4,4,5,5−テトラメチル−2−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)−1,3,2−ジオキサボロラン(2.5g)、3−ブロモ−4−メチルピリジン(0.9g)、リン酸三カリウム(1.9g)、Pd(PPh(0.2g)、1,2,4−トリメチルベンゼン(10ml)、t−ブチルアルコール(2ml)および水(1ml)の入ったフラスコを還流温度で1時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却し、水およびトルエンを加え分液した。溶媒を減圧留去した後、NH修飾シリカゲル(DM1020:富士シリシア製)カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/ヘプタン=1/1(容量比))にて精製した。更に酢酸エチル、次いでトルエンで洗浄して、(1−1−35)で表される化合物:4−メチル−3−(6−(10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ピリジン(1.5g)を得た。NMR測定により化合物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl3):δ=8.63(s,1H), 8.53(d,1H), 7.97−8.18(m,7H), 7.70−7.81(m,4H), 7.56−7.63(m,2H), 7.45−7.53(m,3H), 7.18−7.35(m,6H), 2.44(s,3H).
【0080】
原料の化合物を適宜変更することにより、上述した合成例に準じた方法で、本発明の他の誘導体化合物を合成することができる。
【0081】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、本発明の化合物を用いた有機EL素子の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
実施例1および比較例1に係る素子を作製し、それぞれ、定電流駆動試験における駆動開始電圧(V)、初期値の80%以上の輝度を保持する時間(hr)の測定を行った。以下、実施例および比較例について詳細に説明する。
【0083】
作製した実施例1および比較例1に係る素子における、各層の材料構成を下記表1に示す。
【表1】

【0084】
表1において、「HI」はN,N4’−ジフェニル−N,N4’−ビス(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン、「HT−1」は1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボにトリル、「HT−2」はN−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−N−(4−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)フェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4−アミン、化合物(A)は9−フェニル−10−(4−フェニルナフタレン−1−イル)アントラセン、化合物(B)は7,7−ジメチル−N,N−ジフェニル−N,N−ビス(4−(トリメチルシリル)フェニル)−7H−ベンゾ[c]フルオレン−5,9−ジアミンであり、化合物(C)は4−(6−(10−フェニルアントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ピリジンである。陰極に用いた「Liq」と共に以下に化学構造を示す。
【0085】
【化35】

【実施例1】
【0086】
<化合物(1−1−1)を電子輸送層に用いた素子>
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨して得られる26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、HIを入れたモリブデン製蒸着用ボート、HT−1を入れたモリブデン製蒸着ボート、HT−2を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(A)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(B)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(1−1−1)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、Liqを入れたモリブデン製蒸着用ボート、マグネシウムを入れたモリブデン製蒸着用ボートおよび銀を入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0087】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10−4Paまで減圧し、まず、HIが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚65nmになるように蒸着して正孔注入層を形成し、次いで、HT−1が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚5nmになるように蒸着した。更に、HT−2が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚60nmになるように蒸着し、正孔輸送層を形成した。次に、化合物(A)が入った蒸着用ボートと化合物(B)の入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚25nmになるように蒸着して発光層を形成した。化合物(A)と化合物(B)の重量比がおよそ95対5になるように蒸着速度を調節した。次に、化合物(1−1−1)の入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層を形成した。以上の蒸着速度は0.01〜1nm/秒であった。
【0088】
その後、Liqが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01〜0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、マグネシウムの入ったボートと銀の入ったボートを同時に加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成した。このとき、マグネシウムと銀の原子数比が10対1となるように蒸着速度を調節し、蒸着速度が0.1nm〜10nm/秒になるように蒸着して陰極を形成し有機電界発光素子を得た。
【0089】
ITO電極を陽極、Liq/マグネシウムと銀の共蒸着物からなる電極を陰極として、直流電圧を印加すると、約460nmにピークトップを有する青色発光が得られた。初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は5.16Vで、初期値の80%以上の輝度を保持する時間は158時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は5.42%だった。
【0090】
<比較例1>
化合物(1−1−1)を化合物(C)に替えた以外は実施例1に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、Liq/マグネシウムと銀の共蒸着物からなる電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は6.28Vで、初期値の80%以上の輝度を保持する時間は102時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は3.99%だった。
【0091】
以上の結果を表2にまとめた。
【表2】

【0092】
続いて、実施例2〜5および比較例2〜3に係る素子を作製し、それぞれ、定電流駆動試験における駆動開始電圧(V)、初期値の90%以上の輝度を保持する時間(hr)の測定を行った。以下、実施例および比較例について詳細に説明する。
【0093】
作製した実施例2〜5および比較例2〜3に係る素子における、各層の材料構成を下記表3に示す。
【表3】

【0094】
表3において、化合物(D)は3−(6−(10−フェニルアントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)ピリジンであり、化合物(E)は5−(6−(10−フェニルアントラセン−9−イル)ナフタレン−2−イル)3,4’−ビピリジンであり、それぞれ下記の化学構造を有する。
【0095】
【化36】

【実施例2】
【0096】
<化合物(1−1−31)を電子輸送層に用いた素子>
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、HIを入れたモリブデン製蒸着用ボート、HT−1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、HT−2を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(A)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、化合物(B)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、本願発明の化合物(1−1−31)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、Liqを入れたモリブデン製蒸着用ボート、アルミニウムを入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0097】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10−4Paまで減圧し、まず、HIが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚40nmになるように蒸着して正孔注入層を形成し、次いで、HT−1が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚305nmになるように蒸着した。更に、HT−2が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚25nmになるように蒸着し、正孔輸送層を形成した。次に、化合物(A)が入った蒸着用ボートと化合物(B)の入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚20nmになるように蒸着して発光層を形成した。化合物(A)と化合物(B)の重量比がおよそ95対5になるように蒸着速度を調節した。次に、化合物(1−1−31)の入った蒸着用ボートとLiqの入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚30nmになるように蒸着して電子輸送層を形成した。化合物(1−1−31)とLiqの重量比がおよそ1対1になるように蒸着速度を調節した。各層の蒸着速度は0.01〜1nm/秒であった。
【0098】
その後、Liqが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01〜0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、アルミニウム入りの蒸着用ボートを加熱して、膜厚100nmになるように0.01〜2nm/秒の蒸着速度でアルミニウムを蒸着することにより陰極を形成し、有機EL素子を得た。
【0099】
ITO電極を陽極、Liq/アルミニウム電極を陰極として、直流電圧を印加すると、約460nmにピークトップを有する青色発光が得られた。初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は3.61Vで、初期値の90%以上の輝度を保持する時間は91時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は6.88%だった。
【0100】
<実施例3>
化合物(1−1−31)を化合物(1−1−34)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、Liq/アルミニウム電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は3.58Vで、初期値の90%以上の輝度を保持する時間は90時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は7.17%だった。
【0101】
<実施例4>
化合物(1−1−31)を化合物(1−1−1)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、Liq/アルミニウム電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は3.84Vで、初期値の90%以上の輝度を保持する時間は85時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は6.23%だった。
【0102】
<比較例2>
化合物(1−1−31)を化合物(D)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、Liq/アルミニウム電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は3.62Vで、初期値の90%以上の輝度を保持する時間は70時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は5.98%だった。
【0103】
<実施例5>
化合物(1−1−31)を化合物(1−1−24)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、Liq/アルミニウム電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は3.67Vで、初期値の90%以上の輝度を保持する時間は94時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は5.96%だった。
【0104】
<比較例3>
化合物(1−1−31)を化合物(E)に替えた以外は実施例2に準じた方法で有機EL素子を得た。ITO電極を陽極、Liq/アルミニウム電極を陰極として、初期輝度2000cd/mを得るための電流密度により、定電流駆動試験を実施した。駆動試験開始電圧は4.48Vで、初期値の90%以上の輝度を保持する時間は50時間であった。また、輝度1000cd/mにおける外部量子効率は4.63%だった。
【0105】
以上の結果を表4にまとめた。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の好ましい態様によれば、駆動電圧が低く、長い寿命を有する有機EL素子を提供することができ、フルカラー表示等の高性能のディスプレイ装置を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

式(1)中、
Pyは独立して、式(2)、(3)、(4)、または(5)で表される基であり;
【化2】

式中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【請求項2】
下記式(1−1)または(1−2)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化3】

式(1−1)または(1−2)において、
Pyは、式(2)、(3)、(4)または(5)で表される基であり;
【化4】

式中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【請求項3】
下記式(1−1)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化5】

式(1−1)において、
Pyは、式(2)、(3)、(4)または(5)で表される基であり;
【化6】

式中のアントラセン環、ナフタレン環、ピリジン環、およびベンゼン環の−Hは独立して重水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数3〜6のシクロアルキルで置き換えられていてもよい。
【請求項4】
下記式(1−1−1)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化7】

【請求項5】
下記式(1−1−24)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化8】

【請求項6】
下記式(1−1−31)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化9】

【請求項7】
下記式(1−1−34)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化10】

【請求項8】
下記式(1−1−35)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化11】

【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物を含有する電子輸送材料。
【請求項10】
陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置される発光層と、前記陰極と該発光層との間に配置され、請求項9に記載の電子輸送材料を含有する電子輸送層および/または電子注入層とを有する有機電界発光素子。
【請求項11】
前記電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、さらに、キノリノール系金属錯体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体およびボラン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項10に記載する有機電界発光素子。
【請求項12】
電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つが、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項10または11に記載の有機電界発光素子。

【公開番号】特開2013−107874(P2013−107874A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229943(P2012−229943)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】