説明

電子部品用樹脂組成物および電子部品

【課題】高誘電率を有しながらも、誘電率等方性および成形収縮率等方性を同時に有する電子部品、および該電子部品を製造するための樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート、アスペクト比1〜2の球形チタン酸ストロンチウムおよびガラスファイバーを含有し、チタン酸ストロンチウム/ポリブチレンテレフタレートの含有割合が48〜63体積%、ガラスファイバー/チタン酸ストロンチウムの含有割合が13〜18体積%、ガラスファイバー/ポリブチレンテレフタレートの含有割合が8〜10体積%である電子部品用樹脂組成物、および該樹脂組成物からなる電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用樹脂組成物および電子部品に関する。特に本発明は、高周波用途に適した電子部品用樹脂組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、特に高周波用途の電子部品には形状を小さくするために高誘電性樹脂組成物が使われている。従来では、高誘電性樹脂組成物を実現する為に、より多くの誘電フィラーを樹脂中に分散させていた(特許文献1)。しかしながら、樹脂中に誘電フィラーが分散させることによって機械強度などの機械特性が悪くなるという問題があった。
【0003】
機械特性の良い高誘電性樹脂組成物を得るために、誘電フィラーとして高誘電率の針状フィラーを使用する技術が報告されている(特許文献2)。しかしながら、針状フィラーを使用すると、そのフィラー形状に基づいて誘電率に異方性が発現するという問題があった。さらに、針状フィラーを使用すると、射出成形の際に流動方向(MD)と流動方向に対して垂直方向(TD)とで成形収縮率に異方性が発現するため、成形品にそり変形が生じた。そのため、その樹脂特性に合った製品設計を行う必要があり、設計および工法の自由度が低くなっていた。
【0004】
成形時のそり変形を防止するために、熱可塑性ポリエステル系樹脂中に様々なアスペクト比のガラス材料および非晶質重合体を含有させる技術が報告されている(特許文献3)。しかしながら、誘電率が著しく低い値となるため、電子部品用途、特に高周波用途としては使えなかった。
【特許文献1】特開平11−106516号公報
【特許文献2】特許第2814288号
【特許文献3】特許第3131949号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高誘電率を有しながらも、誘電率等方性および成形収縮率等方性を同時に有する電子部品、および該電子部品を製造するための樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート、アスペクト比1〜2の球形チタン酸ストロンチウムおよびガラスファイバーを含有し、
チタン酸ストロンチウム/ポリブチレンテレフタレートの含有割合が48〜63体積%、ガラスファイバー/チタン酸ストロンチウムの含有割合が13〜18体積%、ガラスファイバー/ポリブチレンテレフタレートの含有割合が8〜10体積%であることを特徴とする電子部品用樹脂組成物、および該樹脂組成物からなる電子部品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物からなる電子製品は高誘電率を有しながらも、誘電率および成形収縮率に異方性がほとんど発現しないので、高誘電性、誘電率等方性および成形収縮率等方性を同時に満足する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る電子部品用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という)は少なくともマトリックス樹脂、チタン酸ストロンチウムおよびガラスファイバーを特定の割合で含有するものである。
【0009】
本発明の樹脂組成物を構成するマトリックス樹脂はポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」という)である。所望によりさらにポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、シンジオタクティックポリスチレン(SPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の他の樹脂を含んでよい。
【0010】
PBTのメルトボリュームフローレート(MVR)は25〜60cm/10min.、特に35〜50cm/10min.が好適である。
MVRはISO1133に従って温度250℃、荷重2.16kgにて測定された値を用いている。
【0011】
PBTは市販品として容易に入手可能である。PBTの市販品の具体例として、ノバデュラン5010N6、ジュレナックス2016、プラナックBT−2200等が挙げられる。
【0012】
チタン酸ストロンチウム(以下、「ST」という)はアスペクト比が1〜2の球形のものが含有される。アスペクト比が2を越えると、誘電率や成形収縮率に異方性が発現する。例えば、アスペクト比20の針状誘電フィラーを使用すると、射出成形の際の流動方向に誘電率が高くなり、誘電率の異方性が発現する。また誘電フィラーはその種類によって比誘電率が異なるので、STの代わりに他の無機化合物、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等を使用すると、高誘電率を実現できない。さらにSTは誘電特性の温度特性が良く、それ以外の無機化合物では温度特性は悪くなる為、現実的でない。
【0013】
アスペクト比とはSTの断面における最大長の最小長に対する割合(最大長/最小長)であり、1に近いほど球形であることを意味する。
アスペクト比はSTの電子顕微鏡写真(倍率約1000〜2000倍)を撮影し、当該写真より任意の50〜100個の粒子のアスペクト比を算出し、平均することによって得ることができる。
【0014】
STは表面処理されたものを使用してもよい。表面処理されたSTを含有させることによって、吸水の抑制により環境変化に対する誘電率の変化をより有効に抑制できる。ST表面には水分子が存在するが、表面処理によって水分子を除去できるので、電子部品において当該STとマトリックス樹脂との界面に残存する水分子を有効に低減できる。その結果、当該STとマトリックス樹脂との間の密着が一層促進されるので、それらの間からの水分子の侵入を防止でき、環境変化に対する誘電率の変化をより有効に抑制できるものと考えられる。表面処理は、STと表面処理剤とを混合しながら加温することによって達成される。表面処理剤は電子部品に含有される無機化合物(誘電フィラー)の分野で公知のものが使用され、例えば、いわゆるシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウムカップリング剤、脂肪酸等が挙げられる。好ましくはチタネート系カップリング剤が使用される。表面処理剤の使用量は特に制限されるものではなく、通常はSTに対して0.1〜2重量%が好適である。
【0015】
STの平均粒径は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は0.01〜10μmであり、特に0.1〜3μmが好ましい。
平均粒径は、STのアスペクト比を測定する時、最大長の平均値として得ることができる。
【0016】
STは市販品として容易に入手可能である。特に、表面処理されていないSTの市販品の具体例として、例えば、共立マテリアル(株)製、富士化学(株)製のもの等が挙げられる。
【0017】
ガラスファイバー(以下、「GF」という)はいわゆるガラス繊維と呼ばれるものであり、アスペクト比10〜50、特に20〜40のものが含有される。アスペクト比が小さすぎると、十分な成形収縮率を得られず、成形収縮率に等方性が発現しない。アスペクト比が大きすぎると、成形収縮率が小さくなり、成形収縮率に異方性が発現する。
【0018】
GFのアスペクト比は、STのアスペクト比と同様の方法によって得ることができる。
【0019】
GFの繊維長は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は2〜4mmであり、特に2.5〜3.5mmが好ましい。
繊維長は、GFのアスペクト比を測定する時、最大長の平均値として得ることができる。
【0020】
GFは市販品として容易に入手可能である。GFの市販品の具体例として、例えば、チョップドストランド(オーウェンスコーニング株式会社製、日清紡)等が挙げられる。
【0021】
本発明において上記成分は以下に示す含有割合で含有される。
ST/PBTの含有割合は48〜63体積%である。これによって、任意の誘電率の値にすることができる。ST/PBTの含有割合が少なすぎると、誘電率が低くなり、電子部品用途、特に高周波用途としては使えない。一方で、多すぎると、樹脂組成物の粘度が上がり、射出成形が困難となる。
【0022】
GF/STの含有割合は13〜18体積%であり、かつGF/PBTの含有割合は8〜10体積%である。これによって、電子部品の誘電率等方性および成形収縮率等方性を同時に満足できる。GF/STの含有割合は誘電率の異方性に関連しており、少なくても多くても誘電率に異方性が発現する。GF/PBTの含有割合は成形収縮率の異方性に関連しており、少なくても多くても成形収縮率に異方性が発現する。
【0023】
本明細書中、含有割合および含有量は各成分の使用重量と比重に基づいて算出された体積比で表すものとする。例えば比重は、STが4.8g/cm、PBTが1.4g/cm、ガラスファイバーが2.6g/cmとして、体積比は算出される。
【0024】
樹脂組成物全量に対する各成分の含有量は、上記含有割合が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は以下の通りである。
ST含有量は樹脂組成物全量に対して通常は30〜37体積%である。
GF含有量は樹脂組成物全量に対して通常は5〜6体積%である。
PBT含有量は樹脂組成物全量に対して通常は58〜64体積%である。
【0025】
樹脂組成物には、上記したマトリックス樹脂、STおよびGFの他に、電子部品原料の分野で公知のいわゆる難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、加水分解抑制剤、滑剤等の添加剤が、本発明の目的が達成される範囲で含有されてもよい。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、上記した成分を単に混合して得られるブレンド混合物の形態を有していてもよいし、またはそれらの混合物を溶融混練して得られる混練物の形態を有していてもよい。
【0027】
電子部品は上記樹脂組成物用いて各種方法によって製造可能である。
例えば、マトリックス樹脂、ST、GF、およびその他の添加剤を溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得る。次いで、ペレットを、射出成形法、押出成形法、トランスファ成形法等によって所定の形状に成形し、冷却して、電子部品を得る。
【0028】
本発明の電子部品は高誘電率10〜14を達成するものである。誘電率はSTの含有量を調整することによって制御できる。例えば、ST含有量を増量すると、誘電率は増加し、一方で減量すると、誘電率は低減する。電子部品、特に高周波用途のものでは、誘電率は大きいほど、波長短縮効果によりアンテナ等の電子製品の小型化に有利である。
【実施例】
【0029】
(チタン酸ストロンチウムA)
チタン酸ストロンチウム(共立マテリアル(株)製;ST)に対して0.5重量%のチタネート系カップリング剤(味の素ファインテック(株)製;KR)を、加温可能なヘンシェルミキサーに投入し、加温させながら混合して表面処理を行い、チタン酸ストロンチウムAを得た。
【0030】
(実施例1)
120℃8時間熱風乾燥したポリブチレンテレフタレート(PBT:三菱エンジニアリングプラスチック(株)製;ノバデュラン5010N6、MVR40cm/10min.)を樹脂組成物全量に対し61体積%、チタン酸ストロンチウムA(アスペクト比1、平均粒径1.2μm)を樹脂組成物全量に対し34体積%、およびガラスファイバー(チョップドストランド;オーウェンスコーニング株式会社製、アスペクト比30、平均繊維長3.3mm)を樹脂組成物に対し5体積%を混合し、混合物をスクリュー径30mmのベント付き2軸押出し機を用いて真空に引きながらシリンダー温度260℃、回転数200rpm、吐出量25Kg/hにて溶融混練した。熱処理時間は5分であった。ダイスから吐出したストランドを冷却水に通し、切断して樹脂組成物のペレットを作成した。
【0031】
(実施例2〜5および比較例1〜13)
各成分を表1または表2に記載の含有量で用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、樹脂組成物のペレットを作成した。
【0032】
(評価)
実施例/比較例で得られたペレットを用いて評価を行った。
・誘電率等方性(εTD/εMD
ペレットから、型締め力40tの射出成形機を用いて樹脂温度260℃にて約89mm×89mm×厚さ2mmの平板を成形した。この平板を、図1に示すように、射出成形時の流動方向(MD方向)および該流動方向に対して垂直方向(TD方向)に沿って切削加工し、それぞれの方向について5本ずつの試験片(約89mm長×1.7mm×1.7mm)を作成した。試験片の長手方向(約89mm長)の端面は一切、加工しなかった。全ての試験片の3GHz時の比誘電率を、空洞共振器摂動法誘電率測定装置(関東電子(株)社製)及びネットワークアナライザ(8722ES;アジレント・テクノロジーズ社製)を用いて測定した。誘電異方性指数「TD方向に沿って得られた試験片の比誘電率平均値(εTD)/MD方向に沿って得られた試験片の比誘電率平均値(εMD)」を求めた。
○;εTD/εMDは0.95〜1.05であった;
×;εTD/εMDは0.95未満または1.05を越える値であった。
【0033】
・誘電率(ε)
誘電率等方性の評価時において測定した合計10本の試験片についての比誘電率の平均値を求めた。
○;比誘電率は10.0〜14.0であった;
×;比誘電率は10.0未満または14.0を越える値であった。
【0034】
・成形収縮率等方性(RTD/RMD
誘電率等方性の評価時において作成した全ての試験片の長手方向長さを、0.01mmまで測定可能なマイクロメータで測定した。TD方向の収縮率(RTD)として「TD方向に沿って得られた試験片の平均長/TD方向の金型寸法」を求めた。MD方向の収縮率(RMD)として「MD方向に沿って得られた試験片の平均長/MD方向の金型寸法」を求めた。なお、一般に金型設計し易いとされるPBT生材のRTD/RMDは1.05である。
○;RTD/RMDは0.95〜1.05であった;
×;RTD/RMDは0.95未満または1.05を越える値であった。
【0035】
・総合評価
上記項目の評価結果について、全ての項目の結果が○であったものを「○」、1以上の項目の結果が×であったものを「×」とした。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の樹脂組成物は、電子部品、特に高周波用途の電子部品への適用に有用である。特に、マイクロ波帯、ミリ波帯で用いられる高周波回路基板、アンテナ、フィルタ、コネクタ、スイッチ、リレーなどの高周波部品への適用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例において作成した評価用試験片を説明するための概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート、アスペクト比1〜2の球形チタン酸ストロンチウムおよびガラスファイバーを含有し、
チタン酸ストロンチウム/ポリブチレンテレフタレートの含有割合が48〜63体積%、ガラスファイバー/チタン酸ストロンチウムの含有割合が13〜18体積%、ガラスファイバー/ポリブチレンテレフタレートの含有割合が8〜10体積%であることを特徴とする電子部品用樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物全量に対して、チタン酸ストロンチウムの含有量が30〜37体積%、ガラスファイバーの含有量が5〜6体積%、ポリブチレンテレフタレートの含有量が58〜64体積%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物からなる電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1678(P2009−1678A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164043(P2007−164043)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】