説明

電子顕微鏡観察用試料の作製方法

【課題】TEMによる観察を正確に行うことが可能な電子顕微鏡観察用試料の作製方法を提供する。
【解決手段】支持部材10の面上に試料片20を固定した電子顕微鏡観察用試料の作製方法であって、支持部材10の面上を深さ方向に切り欠く溝部30を形成する工程と、試料片20の加工面Sが溝部30と交差するように当該試料片20を支持部材10の面上に固定する工程と、溝部30の深さ方向に沿って試料片20の加工面Sを薄膜状に加工する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡観察用試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の不良解析の手法の1つとして、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いた観察が行われている。このTEMによる観察を行うためには、電子顕微鏡観察用試料(以下、単に観察用試料という。)を約100nm以下まで薄片化する必要があり、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工装置を用いて、観察用試料の加工が行われている(例えば、特許文献1,2を参照。)。
【0003】
ここで、従来の観察用試料の一例を図5(a)〜(c)に示す。
なお、図5(a)は、この観察用試料を示す正面図であり、図5(b)は、この観察用試料を示す上面図であり、図5(c)は、図5(b)中に示す囲み部分の拡大図である。
この観察用試料は、図5(a)〜(c)に示すように、支持部材100に設けられた固定部101に、観察用の試料片200をデポジション膜102によって固定したものからなる。
【0004】
また、上記試料片200を拡大した断面図を図6に示す。
なお、図6は、図5(c)中に示す切断線Y−Y’に沿って、上記試料片200を加工面Sと直交する方向に切断した断面図である。
この試料片200は、図6に示すような楔(クサビ)形に予め加工されて、固定部101の面上に、その端部がデポジション膜12により固定された状態で支持されている。そして、この支持部材100に固定された試料片200の中央部分(加工面S’)に対して、FIB加工装置を用いて薄膜状に加工(FIB加工)することが行われる。また、この試料片200の上には、FIB加工の際に損傷等を防ぐための保護膜201が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−204959号公報
【特許文献2】特開2001−124676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の観察用試料の作製方法では、上述した試料片200を正確にFIB加工することが困難となったり、加工後の試料片200を精度良くTEM観察することが困難となったりすることがあった。
【0007】
具体的に、上述したFIB加工装置を用いてTEM観察用の試料を作製する際は、試料片200の加工面S’の状態を正確にモリタリングしながら加工を進める必要があり、そのためには、FIB加工装置において、加工時に試料片200から発生する二次電子のみを検出器に取り込んで映像化する必要がある。
【0008】
しかしながら、従来の観察用試料では、図7に示すように、試料片200をFIB加工する際に、この試料片200が固定される固定部101の表面にも加工用のイオンが到達するために、この固定部101の表面が多少削られることによって、固定部101の表面に加工痕Pが形成されてしまう。
【0009】
この場合、図7中の矢印eで示すように、固定部101の表面からも二次電子が放出されるため、試料片20からの二次電子と混在し、モニタリング時の映像が不鮮明となることによって、試料片200を正確にFIB加工することが困難となってしまう。
【0010】
また、従来の観察用試料では、試料片200をFIB加工する際に、イオンビームの照射によって削られた試料片200の粒子が、図7中の矢印rで示すように、このイオンビームの照射によって再び試料片200に付着してしまうといった現象(リデポジション現象)が発生することがある。
【0011】
このリデポジション現象の発生は、TEM観察の際に試料片200の加工面S’における可視性を低下させるだけでなく、試料片200の加工面S’を損傷させる虞もあるため、TEM観察を精度良く行うことが困難となってしまう。なお、従来の観察用試料では、上記図6に示す固定部101の表面と試料片200の加工面S’との間の距離dが5〜10μm程度に設定されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者は、図8に示すような観察用試料を作製した。具体的に、図8に示す観察用試料は、支持部材300に複数の凹部301を並べて形成し、櫛歯状としたものである。また、凹部301の幅は、試料片200のサイズよりも十分大きく、この凹部301の側面に試料片200を固定している。なお、図8示す試料片200から凹部301の底面までの距離dは、190μm程度に設定されている。
【0013】
そして、この試料片200に対してFIB加工を行ったところ、上述したリデポジション現象の発生を抑制できることを確認した。これは、試料片200を固定した場所が凹部301の底面から十分に離れているためと推測される。一方、支持部材300の表面から放出される二次電子の抑制は十分ではなく、上記図5示す支持部材100を用いた場合よりも、鮮明な画像をモニタリングすることが困難であった。これは、試料片200を凹部301の側面に固定しているため、この凹部301の側面から放出される二次電子を分離できないためと推測される。
【0014】
以上のような知見に基づいて、本発明者は、更に鋭意検討を重ねた結果、試料片に対するFIB加工を行う際のリデポジション現象の発生を抑制すると共に、支持部材の表面から放出される二次電子を抑制して、試料片の加工面の状態を正確にモリタリングしながら加工を進めることが可能な電子顕微鏡観察用試料の作製方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、支持部材の面上に試料片を固定した電子顕微鏡観察用試料の作製方法であって、支持部材の面上を深さ方向に切り欠く溝部を形成する工程と、試料片の加工面が溝部と交差するように当該試料片を支持部材の面上に固定する工程と、溝部の深さ方向に沿って試料片の加工面を薄膜状に加工する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法では、支持部材の面上を深さ方向に切り欠く溝部を形成し、試料片の加工面が溝部と交差するように当該試料片を支持部材の面上に固定した後、溝部の深さ方向に沿って試料片の加工面を薄膜状に加工することで、試料片の加工時にリデポジション現象の発生を抑制すると共に、支持部材の表面から放出される二次電子を抑制することが可能である。
【0017】
これにより、本発明では、試料片の加工面の損傷を防ぐと共に、試料片の加工時に試料片から発生する二次電子のみを検出器に取り込んで映像化できるため、試料片の加工面の状態を正確にモリタリングしながら加工を進めることが可能である。したがって、本発明によれば、作製された電子顕微鏡観察用試料を用いて、電子顕微鏡による観察を精度良く行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】FIB加工装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明を適用して作製された観察用試料の一例を示し、(a)はその正面図、(b)はその上面図、(c)は(b)中に示す囲み部分の拡大図である。
【図3】図2(c)中に示す切断線X−X’に沿って、試料片を加工面と直交する方向に切断した断面図である。
【図4】図4は、溝部の深さと二次電子の減少率との関係を示すグラフである。
【図5】従来の観察用試料の一例を示し、(a)はその正面図、(b)はその上面図、(c)は(b)中に示す囲み部分の拡大図である。
【図6】図5(c)中に示す切断線Y−Y’に沿って、試料片を加工面と直交する方向に切断した断面図である。
【図7】従来の観察用試料の作製方法を説明するために、支持部材に固定された試料片を拡大して示す斜視図である。
【図8】従来の課題を解決するために作製した観察用試料を示し、(a)はその正面図、(b)はその試料片が固定された部分を拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した電子顕微鏡観察用試料の作製方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
本発明は、支持部材の面上に試料片を固定した電子顕微鏡観察用試料(以下、単に観察用試料という。)の作製方法であって、支持部材の面上を深さ方向に切り欠く溝部を形成する工程と、試料片の加工面が溝部と交差するように当該試料片を前記支持部材の面上に固定する工程と、溝部の深さ方向に沿って試料片の加工面を薄膜状に加工する工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
具体的に、この観察用試料を作製する際は、例えば図1に示すようなFIB加工装置1が用いられる。このFIB加工装置1は、減圧可能な真空チャンバ2内に、観察用試料が設置されると共に、この観察用試料を面内で移動させる移動ステージ3と、試料片を支持部材の面上の所定の位置へと移送するためのマイクロプローブ(移送手段)4と、移動ステージ3上にデポジション用のガスを供給するデポガス源5と、移動ステージ3の上方に位置して、この移動ステージ3上の観察用試料に対してガリウム(Ga)等のイオンを照射する収束イオンビーム(FIB)照射光学系6と、加工時に試料片から放出される二次電子を検出する二次電子検出器7とを備えて概略構成されている。
【0022】
一方、本発明を適用して作製される観察用試料の一例を図2(a)〜(c)に示す。
なお、図2(a)は、この観察用試料を示す正面図であり、図2(b)は、この観察用試料を示す上面図であり、図2(c)は、図2(b)中に示す囲み部分の拡大図である。
この観察用試料は、図2(a)〜(c)に示すように、支持部材10に設けられた固定部11に、観察用の試料片20をデポジション膜12によって固定したものからなる。
【0023】
支持部材10は、銅(Cu)等の金属からなる薄板状の部材であって、全体が略円盤状に形成されると共に、その一部を直角に切り欠いた部分に上記固定部11が形成されている。また、固定部11の試料片20が固定される面とは直角する面を形成する部分(突起部)13は、この支持部材10をピンセット等で保持する際に摘む場所として使用できる。
【0024】
デポジション膜12は、デポガス源5からデポジション用のガスを供給しながら、FIB照射光学系6から照射されるFIBの走査を行うことで、所定の位置に形成することが可能である。
【0025】
ここで、上記試料片20を拡大した断面図を図3に示す。
なお、図3は、図2(c)中に示す切断線X−X’に沿って、上記試料片20を加工面Sと直交する方向に切断した断面図である。
この試料片20は、図3に示すような楔(クサビ)形に予め加工されて、固定部11の面上に、その端部がデポジション膜12により固定された状態で支持されている。また、この試料片20の上には、FIB加工の際に損傷等を防ぐための保護膜21が設けられている。
【0026】
そして、本発明を適用した観察用試料の作製方法では、先ず、図2(c)及び図3に示すように、上記固定部11の面上を深さ方向に切り欠く溝部30を形成する。この溝部30は、上記FIB加工装置1を用いて形成することが可能である。
【0027】
具体的には、上記FIB加工装置1を用いて、FIB照射光学系6から出射されたイオンビームを固定部11の面上に照射しながら、深さdが20μm程度の溝部30を形成する。また、溝部30は、その長さ(図2(c)中における左右方向の寸法)が、TEM観察を行う試料片20のサイズよりも大きくなるように形成する。一方、溝部30は、その幅(図2(c)中における上下方向の寸法)が、試料片20の加工面Sの最終的な厚み(100nm程度)よりも大きくなるように形成すればよく、TEM観察を行う試料片20と同程度以上の幅になってもかまわない。
【0028】
次に、支持部材10の固定部11に溝部30を形成した後は、上記試料片20の加工面Sが溝部30と交差するように当該試料片20を固定部11の面上に固定する。このとき、試料片20は、図3に示すように、固定部11の面上から加工面Sまでの距離dが5〜10μmとなるように、固定部11の面上にデポジション膜12を介して固定される。
【0029】
次に、上記FIB加工装置1を用いて、上記試料片20の加工面Sを薄膜状に加工(FIB加工)する。具体的には、上記FIB加工装置1のFIB照射光学系6から出射されたイオンビームを試料片20に照射しながら、溝部30の深さ方向に沿って試料片20の加工面Sを薄膜状に加工する。このとき、試料片20から放出される二次電子を上記FIB加工装置1の二次電子検出器7が検出することで、加工面Sの画像を映像化し、この加工面Sの状態をモリタリングしながら加工を進めることになる。
【0030】
本発明では、上述したように試料片20の下方に溝部30が設けられている。これにより、上述したリデポジション現象の発生を抑制すると共に、固定部11の表面から放出される二次電子を抑制することが可能である。
【0031】
ここで、上記溝部30の深さdを変更した場合の二次電子の抑制効果を測定した結果を図4に示す。なお、図4に示すグラフにおいて、横軸は、溝部30の深さdを示し、縦軸は、溝部30が無い場合と比較したトータルの二次電子の検出量の減少率を示す。また、トータルの二次電子の検出量とは、試料片20と支持部材10(固定部11の表面)の双方から放出される二次電子の合計量を指す。
【0032】
図4に示すように、溝部30の深さdが5μmのとき、二次電子の放出量が約20%減少していることがわかる。これは、固定部11の表面から放出される二次電子の減少分に相当する。また、溝部30の深さdを深くするに従って、二次電子の減少率も増加するものの、20μmを超えると二次電子の減少率が飽和することがわかる。
【0033】
したがって、溝部30の深さdを20μm程度に設定することによって、試料片20の加工時に支持部材10(固定部11の表面)から放出される二次電子を最も効率良く抑制できることがわかった。
【0034】
また、本発明では、溝部30の深さdを5μm以上とすることで、リデポジション現象を抑制できることを確認した。さらに、上記図7に示すような固定部101の表面に形成される加工痕Pの発生も防止できた。このため、上記FIB加工装置1による加工時のモニター画像が従来よりも見易くなり、加工の進捗状況の把握を容易に行うことができた。
【0035】
以上のように、本発明を適用した電子顕微鏡観察用試料の作製方法では、支持部材10(固定部11)の面上を深さ方向に切り欠く溝部30を形成し、試料片20の加工面Sが溝部30と交差するように当該試料片20を固定部11の面上に固定した後、溝部30の深さ方向に沿って試料片20の加工面Sを薄膜状に加工することで、試料片20の加工時にリデポジション現象の発生を抑制すると共に、固定部11の表面から放出される二次電子を抑制することが可能である。
【0036】
これにより、本発明では、試料片20の加工面Sの損傷を防ぐと共に、試料片20の加工時に試料片20から発生する二次電子のみを二次電子検出器7に取り込んで映像化できるため、試料片20の加工面Sの状態を正確にモリタリングしながら加工を進めることが可能である。したがって、本発明によれば、作製された観察用試料を用いて、TEMによる観察を精度良く行うことが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…FIB加工装置 2…真空チャンバ 3…移動ステージ 4…マイクロプローブ 5…デポガス源 6…FIB照射光学系 7…二次電子検出器 10…支持部材 11…固定部 12…デポジション膜 13…突起部 20…試料片 21…保護膜 30…溝部 S…加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材の面上に試料片を固定した電子顕微鏡観察用試料の作製方法であって、
前記支持部材の面上を深さ方向に切り欠く溝部を形成する工程と、
前記試料片の加工面が前記溝部と交差するように当該試料片を前記支持部材の面上に固定する工程と、
前記溝部の深さ方向に沿って前記試料片の加工面を薄膜状に加工する工程とを含むことを特徴とする電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項2】
前記試料片の加工面に対する加工を収束イオンビーム加工装置を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項3】
前記溝部の深さを5μm以上とすることを特徴とする請求項2に記載の電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項4】
前記溝部をイオンビーム加工装置を用いて形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項5】
前記支持部材の面上に前記試料片をデポジション膜で固定することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項6】
前記試料片の加工面を薄膜状に加工する際に、この試料片の上に保護膜を設けることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項7】
前記支持部材の一部を切り欠くことによって形成された固定部の面上に前記支持片を固定することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の電子顕微鏡観察用試料の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−57945(P2012−57945A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198198(P2010−198198)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】