電極箔および有機デバイス
【課題】支持基材および反射電極としての機能を兼ね備え、かつ、熱伝導性に優れた、電極箔ならびにそれを用いた有機デバイスが提供される。
【解決手段】金属箔と、前記金属箔上に直接設けられる反射層とを備えてなり、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードまたはカソードとして用いられる、1〜100μmの厚さを有する電極箔。
【解決手段】金属箔と、前記金属箔上に直接設けられる反射層とを備えてなり、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードまたはカソードとして用いられる、1〜100μmの厚さを有する電極箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔を用いた電極箔、ならびに電極箔を用いた有機EL素子、有機EL照明、有機太陽電池等の有機デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL照明が、環境に配慮したグリーンデバイスとして注目されている。有機EL照明の特徴としては、1)白熱灯に対して低消費電力であること、2)薄型かつ軽量であること、3)フレキシブルであることが挙げられる。現在、有機EL照明は、上記2)および3)の特徴を実現すべく開発が進められている。この点、フラットパネルディスプレイ(FPD)等で従来使用されてきたガラス基板では、上記2)および3)の特徴を実現することは不可能である。
【0003】
そこで、有機EL照明のための支持体としての基板(以下、支持基材という)に対する研究が進められており、その候補として、極薄ガラス、樹脂フィルム、金属箔等が提案されている。極薄ガラスは、耐熱性、バリア性、および光透過性に優れ、フレキシブル性も良好であるが、ハンドリング性がやや劣り、熱伝導性が低く、材料コストも高い。また、樹脂フィルムは、ハンドリング性およびフレキシブル性に優れ、材料コストも低く、光透過性も良好であるが、耐熱性およびバリア性に乏しく、熱伝導性が低い。
【0004】
これに対し、金属箔は、光透過性が無いことを除けば、耐熱性、バリア性、ハンドリング性、熱伝導性に優れ、フレキシブル性も良好であり、材料コストも低いといった優れた特徴を有する。特に、熱伝導性については、典型的なフレキシブルガラスやフィルムが1W/m℃以下と極めて低いのに対し、銅箔の場合、280W/m℃程度と極めて高い。ただし、金属箔をフレキシブル電子デバイスの支持基材として用いるためには、その表面を絶縁膜で被覆することが必要とされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、フレキシブル基板上に、下部電極層、有機層および上部電極層を備えた有機発光デバイスが開示されており、フレキシブル基板として、絶縁層で被覆してもよい金属箔を使用できることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、表面粗さRaが30nm以上500nm以下のステンレス箔を備えた、フレキシブルな電子デバイス用絶縁被覆金属箔が開示されている。この金属箔は、表面に絶縁膜が被覆されることで、薄膜トランジスタ(TFT)等の電子デバイスが形成されるための支持基材として用いられる。
【0007】
特許文献3には、表面粗さRaが0.2μm以下程度の金属箔表面に熱圧着性ポリイミド塗膜が積層されたフレキシブル金属箔積層体が開示されている。
【0008】
特許文献4には、絶縁層構成材料との張り合わせ面の低プロファイル化を図るべく、析出面側の表面粗さ(Rzjis)を1.0μm未満とした電解銅箔が開示されているが、この文献に開示される表面粗さ(Rzjis)は最も平坦なものでもせいぜい0.27μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−536697号公報
【特許文献2】特開2008−142970号公報
【特許文献3】特開2001−270036号公報
【特許文献4】特開2007−217787号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者は、今般、反射層を金属箔上に直接設けることで、支持基材および反射電極としての機能を兼ね備え、かつ、熱伝導性に優れた、フレキシブル電子デバイスに有用な電極箔が得られるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明の目的は、支持基材および反射電極としての機能を兼ね備え、かつ、熱伝導性に優れた、フレキシブル電子デバイスに有用な電極箔を提供することにある。
【0012】
本発明の一態様によれば、金属箔と、前記金属箔上に直接設けられる反射層とを備えてなる電極箔が提供される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、上記電極箔と、
前記電極箔の前記反射層側の最表面に直接設けられる有機EL層および/または有機太陽電池活性層からなる有機半導体層と、
前記有機半導体層上に設けられる、透明又は半透明の対向電極と、
を備えた、有機EL素子および/または有機太陽電池である、有機デバイスが提供される。
【0014】
本発明にさらに別の態様によれば、上記有機デバイスを有機EL素子として備えてなる、有機EL照明が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による電極箔の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明による電極箔をアノードとして用いた有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明によるトップエミッション型有機EL照明の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明による電極箔をカソードとして用いた有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【図5】例4で作製した有機EL素子が発光する様子を撮影した写真である。
【図6】例4および5で測定された輝度の電圧依存特性を示す図である。
【図7】例4および5で測定された電流密度の電圧依存特性を示す図である。
【図8】例5で測定された輝度の電圧依存特性を示す図である。
【図9】本発明による電極箔の他の一例を示す模式断面図である。
【図10】例6で作製した電極箔の反射層の断面をTEMにより観察した顕微鏡写真である。
【図11】例6で作製した電極箔の反射層の界面をEDX分析して得られたスペクトルである。
【図12】例7で作製した電極箔の反射層の断面をTEMにより観察した顕微鏡写真である。
【図13】例7で作製した電極箔の反射層の界面をEDX分析して得られたスペクトルである。
【図14】例8で作製した電極箔の層構成を示す模式断面図である。
【図15】例9で作製した有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
電極箔
図1に本発明による電極箔の一例の模式断面図を示す。図1に示される電極箔10は、金属箔12、金属箔上に直接設けられる反射層13、および所望により反射層上に直接設けられるバッファ層14を備えてなる。すなわち、電極箔10は金属箔12、反射層13およびバッファ層14を備えた3層構成であるが、本発明の電極箔はこれに限定されず、金属箔12および反射層13の2層構成であってもよい。トップエミッション型有機EL素子において金属電極層上に反射層を形成することは一般的に行われているが、この金属電極層は絶縁基板等の支持基材上に形成されなければならないものと信じられてきた。事実、本発明者の知るかぎり、それ自体単独でハンドリングが可能な金属箔に反射層を形成して有機EL素子のアノードまたはカソードとして使用しようとする試みは今までなされていない。本発明にあっては、金属箔12を支持基材のみならず電極として用い、かつ、その上に反射層13を直接設けることで、支持基材、電極および反射層の3つの機能を兼ね備えた従来に無い電極箔を提供することができる。したがって、本発明の電極箔によれば、従来のトップエミッション型フレキシブル発光デバイスで必要とされてきた支持基材および反射層を不要にすることができる。このため、本発明の電極箔は、少なくとも反射層側に絶縁層を有しないものであり、好ましくはいかなる部位にも絶縁層を有しない。
【0017】
金属箔12は、支持基材としての強度および電極として必要な電気的特性を有する箔状金属材料であれば特に限定されない。好ましい金属箔は、加工時に発生する粒子状物の帯磁による付着を防止できる観点から、非磁性金属箔である。非磁性金属の好ましい例としては、銅、アルミニウム、非磁性ステンレス、チタン、タンタル、モリブデン等が挙げられ、より好ましくは銅、アルミニウム、および非磁性ステンレスである。最も好ましい金属箔は銅箔である。銅箔は比較的安価でありながら、強度、フレキシブル性、電気的特性等に優れる。
【0018】
電極箔10の少なくとも一方の最表面は、10.0nm以下の算術平均粗さRaを有する超平坦面とするのが好ましく、より好ましくは7.0nm以下、さらに好ましくは5.0nm、さらにより好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.8nm以下、特により好ましくは2.5nm以下、最も好ましくは2.0nm以下である。算術平均粗さRaの下限は特に限定されずゼロであってもよいが、平坦化処理の効率を考慮すると0.5nmが下限値の目安として挙げられる。この算術平均粗さRaは、JIS B 0601−2001に準拠して市販の粗さ測定装置を用いて測定することができる。
【0019】
ここで、電極箔10の少なくとも一方の最表面とは、2層構成の場合には反射層13の表面13aを、3層構成の場合にはバッファ層14の表面14aを意味する。もっとも、2層構成の場合において反射層13の表面13aにおける上記算術平均粗さRaの実現は、反射層13が形成されることになる金属箔12の表面12aの算術平均粗さRaを上記同様の範囲、すなわち10.0nm以下、好ましくは6.0nm以下、より好ましくは3.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下、さらにより好ましくは1.5nm以下にしておき、その上にバッファ層14を成膜することにより行うことができる。3層構成の場合におけるバッファ層14の表面14aにおける上記算術平均粗さRaの実現は、上記のようにして10.0nm以下、好ましくは6.5nm以下、より好ましくは3.0nm以下、さらに好ましくは2.5nm以下、さらにより好ましくは2.0nm以下の算術平均粗さRaが付与された反射層13の上にバッファ層14を成膜することにより行うことができる。こうして形成されたバッファ層14の表面14aは、10.0nm以下、好ましくは7.0nm以下、より好ましくは5.0nm、さらにより好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.8nm以下、特により好ましくは2.5nm以下の算術平均粗さRaを有する。このように、最表面において付与されるべき算術平均粗さRaよりも同等もしくは若干小さめの算術平均粗さRaをそれよりも下の層ないし箔の表面に付与しておくのが好ましい。なお、積層状態のため最表面を構成しない金属箔表面の算術平均粗さRaの評価は、金属箔表面からFIB(Focused Ion Beam)加工にて断面を作製し、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することにより行うことができ、積層状態のため最表面を構成しない反射層表面の算術平均粗さRaの評価も同様にして行うことができる。
【0020】
本発明者の知るかぎり、このような超平坦表面を有する金属箔(特に銅箔)は今まで工業的に製造されておらず、ましてやそれをフレキシブル電子デバイスの電極そのものとして応用しようとする試みは今までなされていなかった。表面を平坦化した銅箔は市販されているが、このような銅箔の平坦化レベルは有機EL素子用電極としては不十分なものであり、有機EL素子とした場合に表面の凹凸により短絡を起こしてしまい、発光が得られないおそれがある。
【0021】
これに対し、金属箔12の超平坦面12aの算術平均粗さRaが上述のごとく極めて小さいと、有機EL素子用電極として用いても対向電極等との間で起こりうる短絡を効果的に防止できる。このような超平坦面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)処理により金属箔を研磨することにより実現することができる。CMP処理は、公知の研磨液および公知の研磨パッドを用いて、公知の条件に従って行うことができる。好ましい研磨液としては、セリア、シリカ、アルミナ、ジルコニア等から選択される1種以上の研磨砥粒約0.5〜2重量%程度を含んでなり、かつ、ベンゾトリアゾール(BTA)等の酸化剤と、さらに/または、キナルシン酸、キノリン酸、ニコチン酸等の有機錯体形成剤と、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤と、所望により防食剤とをさらに含むものが挙げられる。好ましい研磨パッドとしては、ウレタン製のパッドが挙げられる。研磨条件は、パッド回転速度、ワーク荷重、研磨液塗布流量等を適宜調整すればよく特に限定されないが、回転速度を20〜1000rpmの範囲内に、ワーク荷重を100〜500gf/cm2の範囲内に、研磨液塗布流量を20〜200cc/min範囲内に調整するのが好ましい。
【0022】
超平坦面12aは、電解研磨法、バフ研磨法、薬液研磨法、およびこれらの組み合わせ等を用いて金属箔12を研磨することによっても実現することができる。薬液研磨法は、薬液、薬液温度、薬液浸漬時間等を適宜調整して行えばよく特に限定されないが、例えば、銅箔の薬液研磨は、2−アミノエタノールと塩化アンモニウムとの混合物を使用することにより行うことができる。薬液温度は室温が好ましく、浸漬法(Dip法)を用いるのが好ましい。また、薬液浸漬時間は、長くなると平坦性が悪化する傾向があるため、10〜120秒間が好ましく、30〜90秒間がより好ましい。薬液研磨後の金属箔は流水により洗浄されるのが好ましい。このような平坦化処理によれば、Ra算術平均粗さRa12nm程度の表面をRa10.0nm以下、例えば3.0nm程度にまで平坦化することができる。
【0023】
超平坦面12aは、金属箔12の表面をブラストにより研磨する方法や、金属箔12の表面をレーザー、抵抗加熱、ランプ加熱等の手法により溶融させた後に急冷させる方法等によっても実現することもできる。また、金属箔12として、銅、ニッケル、クロムのようにメッキが可能な金属箔を用いた場合には、転写法を用いて超平坦面を実現することもできる。転写法は、公知の手法及び公知の条件に基づいて行えばよい。例えば、電解研磨法及びバフ研磨法を用いて、SUS、チタン等の電極板の表面を算術平均粗さRaが10.0nm以下、例えば3.0nm以下になるよう平坦化しておく。この平坦化された電極板の表面に金属箔12の材料をめっきし、所望の厚さに達した時点で金属箔12の材料を電極板より剥離する。こうして金属箔12の剥離面に電極板表面の平坦性を転写させることで、超平坦面を実現することができる。
【0024】
金属箔12の厚さは、フレキシブル性を損なうことなく、箔として単独でハンドリングが可能な厚さである限り特に限定されないが、1〜250μm、好ましくは25〜250μm、より好ましくは35〜150μmである。このような厚さであれば、市販の裁断機を用いて簡単に切断することが可能である。また、金属箔12は、ガラス基板と異なり、割れ、欠け等の問題が無く、また、切断時のパーティクルが発生しづらい等の利点も有する。金属箔12は、四角形以外の形状、例えば、円形、三角形、多角形といった様々な形状とすることができ、しかも切断および溶接も可能なことから、切り貼りによりキュービック状やボール状といった立体的な形状の発光体を作製することも可能である。この場合、金属箔12の切断部や溶接部には、発光層を形成しないことが好ましい。
【0025】
超平坦面12aはアルカリ溶液で洗浄することが好ましい。そのようなアルカリ溶液としては、アンモニアを含有した溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等の公知のアルカリ溶液が使用可能である。好ましいアルカリ溶液はアンモニアを含有した溶液であり、より好ましくはアンモニアを含有した有機系アルカリ溶液、さらに好ましくはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)溶液である。TMAH溶液の好ましい濃度は0.1〜3.0wt%である。そのような洗浄の一例としては、0.4%TMAH溶液を用いて23℃で1分間の洗浄を行うことが挙げられる。このようなアルカリ溶液による洗浄と併せて、または、アルカリ溶液による洗浄の代わりに、UV(Ultra Violet)処理を行っても同様の洗浄効果を得ることができる。さらに、銅箔等の場合、希硫酸等の酸性洗浄液を用いて、銅表面に形成されうる酸化物を除去することも可能である。
酸洗浄の一例としては、希硫酸を用いて30秒間の洗浄を行うことが挙げられる。
【0026】
反射層13の成膜前に、超平坦面12a上に存在するパーティクルを除去することが好ましい。有効なパーティクル除去の手法としては、超純水によるソニック洗浄法やドライアイスブラスト法等が挙げられるが、ドライアイスブラスト法がより効果的である。ドライアイスブラスト法は、高圧に圧縮した炭酸ガスを細いノズルから噴射させることにより、低温固化した炭酸を超平坦面12aに吹き付けてパーティクルを除去する方法である。
このドライアイスブラスト法は、ウェット工程とは異なり、乾燥工程を省くことができ、また有機物の除去ができる等の利点を有する。ドライアイスブラスト法は、例えばドライアイススノーシステム(エアウォーター社製)等の市販の装置を用いて行うことができる。
【0027】
金属箔12の超平坦面上には反射層13が直接設けられる。反射層13は、アルミニウム、アルミニウム系合金、銀、および銀系合金からなる群から選択される少なくとも一種で構成されるのが好ましい。これらの材料は、光の反射率が高いため反射層に適しており、しかも薄膜化した際の平坦性にも優れる。特に、アルミニウムまたはアルミニウム系合金は安価な材料であることから好ましい。アルミニウム系合金および銀系合金としては、有機EL素子等の表示デバイスにおいてアノードまたはカソードとして使用される一般的な合金組成を有するものが幅広く採用可能である。好ましいアルミニウム系合金組成の例としては、Al−Ni、Al−Cu、Al−Ag、Al−Ce、Al−Zn、Al−B、Al−Ta、Al−Nd、Al−Si、Al−La、Al−Co、Al−Ge、Al−Fe、Al−Li、Al−Mg、Al−Mn合金が挙げられる。これらの合金を構成する元素であれば、必要な特性に合わせて任意に組み合わせることが可能である。また、好ましい銀合金組成の例としては、Ag−Pd、Ag−Cu、Ag−Al、Ag−Zn、Ag−Mg、Ag−Mn、Ag−Cr、Ag−Ti、Ag−Ta、Ag−Co、Ag−Si、Ag−Ge、Ag−Li、Ag−B、Ag−Pt、Ag−Fe、Ag−Nd、Ag−La、Ag−Ce合金が挙げられる。これらの合金を構成する元素であれば、必要な特性に合わせて任意に組み合わせることが可能である。反射層13の膜厚は特に限定されるものではないが、30〜500nmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは50〜300nmであり、さらに好ましくは100〜250nmである。
【0028】
反射層13の表面13aは好ましくは10.0nm以下、より好ましくは6.5nm以下、さらに好ましくは3.0nm以下、さらにより好ましくは2.5nm以下、特に好ましくは2.0nm以下の算術平均粗さRaを有する。前述のとおり、本発明の電極箔においては超平坦な金属箔表面に反射層が形成されるため、反射層の表面においても算術平均粗さRaを小さくして高い平坦性を実現できる。これにより、過度な凹凸の発生に起因する有機EL層間における短絡のリスクを低減することができる。また、反射層表面の凹凸による影響を排除すべく正孔注入層および正孔輸送層あるいは電子注入層および電子輸送層を厚く設ける必要がないので、これらの層ならびにそれらを含む有機EL層を従来以上に薄くすることができる。その結果、極めて高価な有機原料の使用量を減らして製造コストを低減するとともに、有機EL層の薄膜化により発光効率を向上することができる。
【0029】
反射層13がアルミニウム膜またはアルミニウム系合金膜で構成される場合、図9に示されるように反射層を少なくとも2つの層からなる積層構造で構成してもよい。すなわち、図9に示される電極箔50は、図1に示される電極箔10と同様、金属箔52、反射層53および所望によるバッファ層54を有するが、反射層53が界面53cによって仕切られた2つの層53a,53bの積層構造を有し、この界面53cを境に下層53aおよび上層53bが互いに異なる結晶方位を有する。これにより、電極箔がかなりの高温に曝される場合であっても、銅箔とアルミニウム含有反射層の間の界面から起こりうるサーマルマイグレーションを効果的に抑制して、サーマルマイグレーションに起因する表面平坦性や反射率の低下を抑制することができる。すなわち、電極箔の耐熱性を向上することができる。したがって、この態様は、200℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上の温度で行われる、正孔注入層塗布後の熱処理において特に有効であるといえる。このような耐熱性の向上は、結晶粒界を優先して進行するサーマルマイグレーションが、結晶粒界が不連続となる界面53cによって阻止されることにより実現されるものと考えられる。なお、反射層53中の界面53cの数は2つ以上であってもよく、この場合、反射層は3層以上の積層構造となる。
【0030】
積層構造の反射層53は、スパッタリング等の成膜プロセスを、所定のインターバルを経て複数回行うことにより作製することができる。そのような方法の好ましい例としては以下のものが挙げられる。
(1)スパッタリング法により下層53aの成膜を好ましくは厚さが10nm以上になるまで行い、スパッタリングを一時的に停止する。この状態で下層53aをスパッタリング装置のチャンバ内に放置する。この放置時間は30秒以上とすることが好ましい。次いで、スパッタリングを再開して上層53bの成膜を行う。
(2)スパッタリング法により下層53aの成膜を好ましくは厚さが10nm以上になるまで行い、スパッタリングを一時的に停止する。そして、下層53aを大気に接触させる。この大気接触は、下層53aが形成された金属箔をスパッタリング装置のチャンバから取り出して大気に曝してもよいし、金属箔を取り出すことなくチャンバを大気に解放してもよい。次いで、スパッタリングを再開して上層53bの成膜を行う。下層53aを大気に曝す時間は数秒程度で十分であり、通常のクリーンルーム環境におけるような湿度および温度で所望の効果が得られる。
(3)スパッタリング法により下層53aの成膜を好ましくは厚さが10nm以上になるまで行い、スパッタリングを一時的に停止する。次いで、スパッタリング装置のチャンバ内に酸素を導入して酸素雰囲気にした後、再度真空引きして上層53bの成膜を行う。酸素を導入したチャンバ内の圧力は0.01Pa以上であるのが好ましく、より好ましくは0.1Pa以上、さらに好ましくは1Pa以上である。
【0031】
積層構造の反射層53において、界面53cの数は一つで十分である。一つの界面であっても250℃程度という高温下で十分な耐熱性を発揮する。もっとも、成膜プロセスの回数を増やして界面を2つ以上に設けることにより、更なる耐熱性の向上を図ってもよい。
【0032】
反射層13上にはバッファ層14が直接設けられるのが好ましい。バッファ層14は、有機EL素子において有機EL層と接触して正孔注入効率または電子注入効率を向上させ、所望の仕事関数を与えるものであれば特に限定されない。もっとも、本発明におけるバッファ層は、金属箔を反射層として機能させる観点から、透明または半透明であるのが好ましい。
【0033】
バッファ層14は、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、およびフッ化物膜から選択される少なくとも一種であるのが好ましく、アノードまたはカソードといった適用用途および要求される特性に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
導電性非晶質炭素膜としては、水素濃度や不純物濃度を制御することにより導電性が付与された種々の非晶質炭素膜が使用可能である。導電性非晶質炭素膜の形成はスパッタリング法によって行われるのが好ましい。スパッタリングに用いるカーボンターゲットとしては、純化処理を施した物を使用することが望ましい。また、多孔質のカーボンに、B、Si、Al、Cuを含浸させたものを使用することも可能である。導電性非晶質炭素膜をバッファ層として用いる場合には、反射層として、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜、銀膜、および銀系合金膜のいずれも適するが、平坦性および材料コストを考慮するとアルミニウム合金が好ましい。
【0035】
好ましい導電性非晶質炭素膜は、水素濃度が15at%以下である導電性非晶質炭素で構成される。より好ましい水素濃度は12at%以下であり、さらに好ましくは5at%以下である。なお、水素濃度の下限は特に限定されずゼロであってもよいが、スパッタリング時の成膜環境等に起因する水素の不可避的混入を考慮すると3at%が下限値の目安として挙げられる。なお、バッファ層中の水素濃度の測定は公知の各種方法により行うことができるが、HFS(水素前方散乱:Hydrogen Forward Scattering)により行われるのが好ましい。本明細書において、導電性非晶質炭素膜中の水素濃度は、HFS等で炭素および水素を定量し、これらの原子数の合計を100at%としたときの水素濃度として定義される。このように水素濃度を極めて低くすることにより、バッファ層を構成する炭素が水素で終端されることによる導電性の低下ないし絶縁性の発現を回避して、電極としての高い導電性をバッファ層に持たせることができる。したがって、導電性非晶質炭素には炭素および水素以外の不純物が実質的にドープされていないのが好ましい。ここで「実質的にドープされていない」とは何らかの機能を付与するために不純物が意図的にドープされていないとの意味であり、スパッタリング時の成膜環境等に起因して不可避的に混入される不純物は許容される。このような観点から、本発明において導電性非晶質炭素は、0〜300wtppmの酸素濃度、0〜1000wtppmのハロゲン元素濃度、0〜500wtppmの窒素濃度を有するのが好ましい。バッファ層14の膜厚は特に限定されないが3〜30nmであるのが好ましく、より好ましくは3〜15nmであり、さらに好ましくは5〜10nmである。
【0036】
好ましい導電性酸化物膜としてはInOx、SnOx、ZnOx、MoOx、GaOx、VOx、WOx、RuOx、AlOx、TiOx、およびGeOxからなる群から選ばれる1種または2種以上で構成される膜が挙げられ、典型例としてはITO(インジウム錫酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物)が挙げられる。導電性酸化物膜の形成は、スパッタリング法、真空蒸着法等の公知の手法によって行えばよく、好ましくはDCマグネトロンスパッタリング法により行われる。スパッタリング法に用いられるターゲット材は、ホットプレス法やコールドプレス法により作製可能であるため、上記酸化物を適宜組み合わせて所望の特性が得られるようにすることが可能である。導電性酸化物膜をバッファ層として用いる場合には、反射層としては、Al−Ni系合金、Ag、またはAg系合金が特に適する。
【0037】
好ましいマグネシウム系合金膜としては、MgにAg、Al、Zn、Li、YおよびCaから選択される1種以上が添加された合金で構成される膜が挙げられる。マグネシウム系合金膜の形成はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の手法によって行えばよく、好ましくは真空蒸着法により行われる。
【0038】
好ましいフッ化物膜としては、LiF、MgF2、CaF2、AlF3、Na3AlF6およびNaF6から選択される1種以上で構成される膜が挙げられる。フッ化物膜の形成はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の手法によって行えばよく、好ましくは真空蒸着法により行われる。
【0039】
バッファ層14の表面14aは好ましくは10.0nm以下、より好ましくは7.0nm以下、さらに好ましくは5.0nm、さらにより好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.8nm以下、特により好ましくは2.5nm以下の算術平均粗さRaを有する。前述のとおり、本発明の電極箔においては超平坦な金属箔に起因する超平坦な反射膜表面にバッファ層が形成されるため、バッファ層の表面においても算術平均粗さRaを小さくして高い平坦性を実現できる。これにより、過度な凹凸の発生に起因する有機EL層間における短絡のリスクを低減することができる。また、バッファ層表面の凹凸による影響を排除すべく正孔注入層および正孔輸送層あるいは電子注入層および電子輸送層を厚く設ける必要がないので、これらの層ならびにそれらを含む有機EL層を従来以上に薄くすることができる。その結果、極めて高価な有機原料の使用量を減らして製造コストを低減するとともに、有機EL層の薄膜化により発光効率を向上することができる。
【0040】
反射層13とバッファ層14との間には酸化膜(図示せず)が存在していてもよい。この酸化膜は、典型的にはアノード層が雰囲気中の酸素によって不可避的に酸化されることにより形成されることがある。このような酸化膜はできるだけ薄い方が好ましく、好ましい厚さは3.0nm以下であり、より好ましくは1.5nm以下である。このような酸化膜はエッチング等により除去してもよい。
【0041】
本発明による電極箔は、1〜300μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは25〜250μm、さらに好ましくは35〜150μm、最も好ましくは40〜100μmの厚さを有する。
【0042】
本発明の好ましい態様によれば、金属箔12の反射層13と反対側の表面12bが、1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、さらに好ましくは5.0μm以上の十点平均粗さRzを有する粗化面となるように加工してもよい。この十点平均粗さRzは、JIS B 0601−1994に準拠して市販の粗さ測定装置を用いて測定することができる。この表面を粗くする加工は、ドライアイスブラスト、サンドブラスト、ウェットエッチング、ドライエッチング等の公知の手法により好ましく行うことができる。この粗化面の表面に形成された凹凸により放熱特性を向上させることができる。
【0043】
本発明による電極箔は、金属箔をベースとしているため、支持基材を特に必要とすることなく、例えばロール・トゥ・ロール(roll-to-roll)プロセスによって効率的に製造することができる。
【0044】
本発明による電極箔は、各種フレキシブル電子デバイス用(特にフレキシブル発光または発電デバイス)のアノードまたはカソードとして好ましく用いることができ、それにより反射電極として機能することができる。そのようなフレキシブル電子デバイスの例としては、有機EL素子、有機EL照明、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、薄膜太陽電池、液晶ディスプレイ、無機EL素子、無機ELディスプレイ、LED照明、LEDディスプレイが挙げられるが、好ましくは有機EL素子、有機EL照明、有機ELディスプレイ、有機太陽電池、色素増感太陽電池であり、より好ましくは極薄で高輝度の発光が得られる点で有機EL照明である。また、有機太陽電池の場合、電極材料に求められる特性の多くが有機EL素子の場合に求められる特性と共通するため、本発明による電極箔は有機太陽電池のアノードまたはカソードとして好ましく用いることができる。すなわち、本発明による電極箔上に積層させる有機半導体層の種類を公知の技術に従い適宜選択することにより、有機デバイスを有機EL素子および有機太陽電池のいずれにも構成することが可能となる。また、同一電極上に発光素子および発電素子を同時に形成することも可能となり、それによって有機EL素子の機能と有機太陽電池の機能を併せ持った複合デバイスを作製することもできる。さらに、本発明による電極箔は、有機EL素子の電極のみならず、LEDの実装基板にも使用することができる。特に、本発明による電極箔は、LED素子を密に実装することができる点でLED照明用のアノードまたはカソードとして好ましく用いることができる。
【0045】
有機EL素子および有機EL照明
本発明による電極箔を反射電極として用いて、トップエミッション型有機EL素子および有機EL照明を構築することができる。
【0046】
図2に、本発明の電極箔をアノードとして用いたトップエミッション型有機EL素子の層構成の一例を示す。図2に示される有機EL素子は、金属箔22、反射層23およびバッファ層24を備えたアノード電極箔20と、バッファ層24上に直接設けられる有機EL層26と、有機EL層26上に直接設けられる対向電極としてのカソード28とを備えてなる。バッファ層24は、アノードとして適するように導電性非晶質炭素膜または導電性酸化物膜で構成されるのが好ましい。
【0047】
有機EL層26としては、有機EL素子に使用される公知の種々のEL層構成が使用可能であり、所望により正孔注入層および/または正孔輸送層、発光層、ならびに所望により電子輸送層および/または電子注入層を、アノード電極箔20からカソード26に向かって順次備えてなることができる。正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層としては、それぞれ公知の種々の構成ないし組成の層が適宜使用可能であり特に限定されるものではない。
【0048】
前述のように、有機EL層26を公知の有機太陽電池活性層で置き換えることにより、有機太陽電池を構成することができる。本発明の電極箔をアノードとして用いる有機太陽電池の場合、バッファ層(例えばカーボンバッファ層)上に、正孔輸送層(PEDOT:PSS(30nm))、p型有機半導体層(例えばBP(ベンゾポルフィリン))、n型有機半導体とp型有機半導体のi型ミキシング層(例えばBP:PCBNB(フラーレン誘導体))、n型有機半導体層(例えばPCBM(フラーレン誘導体))、低い仕事関数を有するバッファ層(例えばMg−Ag)および透明電極層(例えばIZO)を順次積層させて太陽電池を構成することが可能である。これらの各層を構成する材料としては公知の材料を適宜使用することができ、特に限定されない。有機太陽電池に使用される電極は、有機EL素子に使用される電極と同じ材料および構造を有するものであってよい。本発明の電極箔は反射層を備えることで、キャビティー効果に起因する光の閉じ込めによる発電効率の向上が期待される。
【0049】
図3に、図2に示される有機EL素子が組み込まれたトップエミッション型有機EL照明の層構成の一例が示される。図3に示される有機EL照明において、有機EL素子はアノード電極箔20の金属箔22を介して電源30に電気的に接続可能とされる。バッファ層24上の、有機EL層26と非接触の領域は層間絶縁膜29で被覆される。層間絶縁膜29としては、CVD成膜したSi系絶縁膜が、有機層を劣化させる原因となる水分および酸素に対するバリア性が高いことから好ましく、より好ましくはSiN系絶縁膜である。さらに好ましい層間絶縁膜は、膜の内部応力が小さく、屈曲性に優れる点で、SiNO系絶縁膜である。
【0050】
カソード28の上方には有機EL素子と対向して封止材32が設けられ、封止材32と有機EL素子20との間には封止用樹脂が充填されて封止膜34が形成される。封止材32としては、ガラスやフィルムを用いることができる。ガラスの場合は、封止膜34上に疎水性粘着テープを用いて直接接着することができる。フィルムの場合は、両面及び端面をSi系絶縁膜で被覆して用いることが可能である。将来的にバリア性の高いフィルムが開発された場合には、被覆処理を行うことなく封止することが可能となり、量産性に優れたものになることが予想される。封止材32としては、フレキシブル性を付与する観点からはフィルムの方が望ましいが、厚さ20〜100μmの非常に薄いガラスにフィルムを接着させた封止材を使用して所望の性能を得ることも可能である。
【0051】
カソード28としてはトップエミッション型有機EL素子に使用される公知の種々のカソードが使用可能であり、光を透過する必要があるため透明または半透明のものであれば特に限定されないが、仕事関数の低いものが好ましい。好ましいカソードとしては、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜およびフッ化物膜が挙げられ、これらを2層以上に組み合わせるのがより好ましい。これらの膜は、電極箔のバッファ層で述べたものと同様のものが使用可能である。
【0052】
特に好ましいカソードは、導電性酸化物膜からなるカソード層としての透明酸化物層に、マグネシウム系合金膜および/またはフッ化物膜からなるバッファ層としての半透過金属層を積層させた2層構造であり、抵抗の観点からも実用性が高い。この場合、カソード28の半透過金属層(バッファ層)側を有機EL層26と接触させて用いることにより、高い光透過性と低い仕事関数がもたらされ、有機EL素子の輝度および電力効率を向上することができる。最も好ましい例としては、IZO(インジウム亜鉛酸化物)からなる透明酸化物層(カソード層)とMg−Agからなる半透過金属層(バッファ層)が積層されてなるカソード構造体が挙げられる。また、カソード構造体は、2層以上の透明酸化物層および/または2層以上の半透過金属層を備えるものであってもよい。こうして、有機EL層26で発生した光はカソード28および封止膜34および封止材32を通過して外部に放出される。
【0053】
なお、電極箔20の裏面には、使用形態に応じて補助的な基材を適宜設置してもよい。
この部分は、発光特性に影響を与えない為、材料選択の自由度は高い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルニトリル(PEN)等の樹脂フィルムを使用すればフレキシブル性を損なうことが無いので最適といえる。
【0054】
図4に、本発明の電極箔をカソードとして用いたトップエミッション型有機EL素子の層構成の一例を示す。図4に示される有機EL素子は、金属箔42、反射層43およびバッファ層44を備えたカソード電極箔40と、バッファ層44上に直接設けられる有機EL層46と、有機EL層46上に直接設けられる対向電極としてのアノード48とを備えてなる。有機EL層46は、図2に示される有機EL層26と同様に構成可能であり、バッファ層44は、図2に示されるカソード28と同様に構成可能であり、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、フッ化物膜、またはそれらの2層以上の組み合わせで構成されるのが好ましい。より好ましいバッファ層44は、マグネシウム系合金膜および/またはフッ化物膜からなる半透過金属層である。
【0055】
すなわち、図4に示されるカソード電極箔40を用いた有機EL素子は、図2に示されるアノード電極箔20を用いた有機EL素子において、バッファ層24とカソード28を入れ替え、かつ、有機EL層26内部のアノード側からカソード側への積層順序を逆転させた構成に相当する。例えば、カソード電極箔40のバッファ層44としてマグネシウム系合金膜またはフッ化物膜をスパッタリングまたは蒸着により形成する一方、アノード48として導電性非晶質炭素、MoO3またはV2O5の膜を蒸着法により形成するのが好ましい。特に、導電性非晶質炭素膜を有機EL層上に成膜する場合には、スパッタ時のプラズマダメージを避けるため真空蒸着法を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0056】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
【0057】
例1:Cu/Al合金/ITO電極箔の作製
金属箔として、厚さ64μmの市販の両面平坦電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。銅箔表面の粗さを走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して測定したところ、算術平均粗さRa:12.20nmであった。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。
【0058】
この銅箔を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パットおよびコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm2、液供給量:100cc/minの条件で行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の粗さを走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して測定したところ、算術平均粗さRaは0.7nmであった。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。CMP処理後の銅箔の厚さは48μmであった。
【0059】
CMP処理された銅箔の表面に、膜厚150nmのAl合金反射層をスパッタリング法により成膜した。このスパッタリングは、Al−0.2B−3.2Ni (at.%)の組成を有するアルミニウム合金ターゲット(直径203.2mm×8mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。
【0060】
こうして得られたアルミ合金反射層の表面に、膜厚10nmのITOバッファ層をスパッタリング法により成膜した。このスパッタリングは、Snを10重量%含有したITO(In2O3−SnO2)ターゲット(直径203.2mm×6mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):300W(0.9W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.35Pa、Ar流量:80sccm、O2流量:1.9sccm、基板温度:室温の条件で行った。膜厚の制御は、放電時間を制御することにより行った。こうして得られたバッファ層表面の粗さを上記同様にして測定したところ、算術平均粗さRaは2.0nmであった。得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。
【0061】
例2:Cu/Al合金/C電極箔の作製
ITOバッファ層の代わりに膜厚1.7nmまたは3.5nmのカーボンバッファ層をスパッタリング法により形成したこと以外は例1と同様にして電極箔を作製した。このスパッタリングのためのカーボンターゲットとしては、カーボン材料(IGS743材、東海カーボン社製)から作製された未処理の純度3N(99.9%)のカーボンターゲットと、このカーボン材料にハロゲンガスによる純化処理を施して作製された純度5N(99.999%)のカーボンターゲットの2種類を用意した。これらのターゲットの各々を用いてスパッタリング法によりカーボンバッファ層を成膜した。このスパッタリングは、各カーボンターゲット(直径203.2mm×8mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(マルチチャンバー枚葉式成膜装置MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):250W(0.8W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。膜厚の制御は、放電時間を制御することにより行った。こうして得られたバッファ層表面の粗さを例1と同様にして測定したところ、算術平均粗さRaは2.45nmであった。得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。
【0062】
例3:Cu/Ag合金/ITO電極箔の作製
Al合金反射層の代わりに膜厚150nmのAg合金反射層をスパッタリング法により形成したこと以外は例1と同様にして、バッファ層および反射層付き電極箔を作製する。
このスパッタリングは、Ag−1.0Cu−1.0Pd(at.%)の組成を有する銀合金ターゲット(直径101.6mm×5mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):150W(1.9W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:90sccm、基板温度:室温の条件で行う。膜厚の制御は、放電時間を制御することにより行う。
【0063】
例4:有機EL素子の作製
例1で作製された電極箔(Cu/Al合金/ITO)をアノードとして用いて図2および3に示されるような構造の有機EL素子を作製した。まず、電極箔20(5cm平方)の上にガラス基板(3cm平方×0.5mm厚)を載せてマスキングし、窒化ケイ素からなる層間絶縁膜29をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成した。このプラズマCVDは、メカニカルブースターポンプ(MBP)およびロータリーポンプ(RP)が接続されたプラズマCVD装置(PD−2202L、サムコ社製)を用い、成膜エリア:有効エリア直径8inch、投入パワー(RF):250W(0.8W/cm2)、 到達真空度:<5×10−3Pa、スパッタ圧力:80Pa、ガス:SiH4(H2希釈10%):NH3:N2=100:10: 200sccm、基板温度:250℃の条件で行った。その後、ガラスを電極箔20から除去して、3cm平方の開口部を有する層間絶縁膜29を電極箔上に得た。
【0064】
次に、層間絶縁膜が形成された電極箔の表面を以下のとおり洗浄した。まず、超純水(>18.0MΩ)で満たした槽内において、3分間の超音波洗浄を、超純水を入れ替えて2回行った。引き続き、窒素ガスを用いて水分を除去したのち、アフターキュアを100℃で3時間行った。こうして処理された表面をUV照射により洗浄した。
【0065】
こうして洗浄された電極箔上に、有機EL層26、カソード28、封止層34および封止材32の積層を行った。具体的には、電極箔のバッファ層表面に、銅フタロシアニンからなる厚さ50nmの正孔注入層、4,4’−ビス(N,N’−(3−トリル)アミノ)−3,3’−ジメチルビフェニル(HMTPD)からなる厚さ40nmの正孔輸送層、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体(Ir(ppy)3)がホスト材料中にドープされてなる厚さ30nmの発光層、Alq3からなる厚さ30nmの電子輸送層、厚さ10nmのMg−Ag半透過膜層(Mg:Ag=9:1)、厚さ100nmのIZO(In−Zn−O)透明酸化物層、厚さ300nmの窒化ケイ素パシベーション膜(封止層)、厚さ2000nmの接着層、厚さ200μmの封止ガラス(封止材)の順に積層した。なお、封止ガラス層の積層は両面テープで行い、この両面テープが接着層に相当する。
こうして、図3に示されるような、50mm平方×厚さ300μm、発光面積30mm平方の有機EL素子サンプルを得た。このサンプルを電源30に接続して5.0Vの電圧を加えたところ、図5に示されるような強い発光を確認することができた。また、印加電圧を変化させて、輝度(cd/m2)および電流密度(mA/cm2)の変化を測定したところ、図6および図7に示される結果を得た(図中、「ITO」と表記されるプロットを参照)。このように、本発明の電極箔を用いれば、低電圧で極めて高い輝度の発光を得ることができる。
【0066】
また、CMP処理時間を変えて銅箔表面の粗さをRa:6.8nmまたはRa:4.5nmとしたこと以外は例1と同様の条件により作製した電極箔を用いて、上記同様にして有機EL素子の作製および評価を行った。こうして得られた有機EL素子においても短絡を起こすことなく発光を確認することができた。
【0067】
なお、比較のため、例1で用いた算術平均粗さRa:12.20nmの両面平坦電解銅箔を用いて上記同様に有機EL素子を作製して通電したところ、電極間で短絡が起きてしまい、点灯しなかった。
【0068】
例5:有機EL素子の作製
例2で作製された、以下の3種類のカーボンバッファ層を有する電極箔(Cu/Al合金/C)を用いたこと以外は、例4と同様にして、3種類の有機EL素子サンプルを作製した。
・サンプル「5N−C 35Å」:純度5Nのカーボンターゲットを用いて形成された厚さ3.5nmのカーボンバッファ層を用いた有機EL素子、
・サンプル「3N−C 17Å」:純度3Nのカーボンターゲットを用いて形成された厚さ1.7nmのカーボンバッファ層を用いた有機EL素子、および
・サンプル「5N−C 17Å」:純度5Nのカーボンターゲットを用いて形成された厚さ1.7nmのカーボンバッファ層を用いた有機EL素子。
【0069】
上記サンプルの各々を図3に示されるように電源30に接続した。印加電圧を変化させて、輝度(cd/m2)および/または電流密度(mA/cm2)の変化を測定したところ、図6〜8に示される結果を得た。このように、本発明の電極箔を用いれば、低電圧で極めて高い輝度の発光を得ることができる。
【0070】
例6:Cu/Al合金/Al合金/ITO電極箔の作製
上層および下層からなる2層構造のAl合金反射層を、真空中放置を介した2段階スパッタリングにより形成したこと以外は、例1と基本的に同様にして電極箔を作製した。この2段階スパッタリングは、金属箔上に厚さ50nmの下層を例1のAl合金反射層と同様の条件で成膜してスパッタリングを一時的に停止し、そのまま金属箔を真空引きされたチャンバ内に約30秒間放置し、スパッタリングを上記同様の条件で再開して下層上に厚さ100nmの上層を成膜することにより行った。こうして得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。このようにして得られた電極箔の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、図10に示される顕微鏡写真が得られた。この図から明らかなように、反射層は厚さ約1nmのアモルファス状と見受けられる界面によって仕切られた2つの層からなる積層構造を有し、2つの層は界面を境に互いに異なる結晶方位(下層は概ね横方向、上層は概ね縦方向)を有していることが観察された。また、得られた反射層中の界面に対してエネルギー分散型X線分析(EDX分析)を行ったところ、図11に示されるようにAlに由来するピークを有するスペクトルが得られた。なお、このスペクトルにはCuに由来するピークも存在するが、これはサンプルの支持体に起因するものであり、サンプル自体に関するピークではない。
【0071】
例7:Cu/Al合金/Al合金/ITO電極箔の作製
上層および下層からなる2層構造のAl合金反射層を、大気中放置を介した2段階スパッタリングにより形成したこと以外は、例1と同様にして電極箔を作製した。この2段階スパッタリングは、金属箔上に厚さ50nmの下層を例1のAl合金反射層と同様の条件で成膜してスパッタリングを一時的に停止し、金属箔をチャンバから取り出して大気中に約30秒間放置し、金属箔をチャンバ内に再度戻し、スパッタリングを上記同様の条件で再開して下層上に厚さ100nmの上層を成膜することにより行った。こうして得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。このようにして得られた電極箔の断面をTEMで観察したところ、図12に示される顕微鏡写真が得られた。この図から明らかなように、反射層が界面によって仕切られた2つの層からなる積層構造を有し、2つの層が界面を境に互いに異なる結晶方位を有していることが観察された。また、得られた反射層の界面に対してEDX分析を行ったところ、図13に示されるようにAlおよびOに由来するピークを有するスペクトルが得られた。このように界面から酸素成分が検出されたことから、自然酸化膜が界面を構成しているものと解される。なお、このスペクトルにはCuに由来するピークも存在するが、これはサンプルの支持体に起因するものであり、サンプル自体に関するピークではない。
【0072】
例8:Cu/Al合金電極箔の作製
図14に示されるように、例1と同様の条件で作製した銅箔142上に、膜厚150nmのAl合金反射層143をスパッタリング法により成膜した。このスパッタリングは、Al−4Mg(at.%)の組成を有するアルミニウム合金ターゲット(直径203.2nm×8mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。こうして、有機EL素子においてカソード電極として用いることができる電極箔140を得た。
【0073】
例9:有機EL素子の作製
例8で作製された電極箔140(Cu/Al合金)をカソードとして用いて、図14および図15に示されるような構造の有機EL素子を作製した。まず、電極箔140(5cm平方)の上にガラス基板(3cm平方×0.5mm厚)を載せてマスキングし、窒化ケイ素からなる層間絶縁膜29をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成した。このプラズマCVDは、メカニカルブースターポンプ(MBP)およびロータリーポンプ(RP)が接続されたプラズマCVD装置(PD−2202L、サムコ社製)を用い、成膜エリア:有効エリア直径8inch、投入パワー(RF):250W(0.8W/cm2)、 到達真空度:<5×10−3Pa、スパッタ圧力:80Pa、ガス:SiH4(H2希釈10%):NH3:N2=100:10: 200sccm、基板温度:250℃の条件で行った。その後、ガラスを電極箔140から除去して、3cm平方の開口部を有する層間絶縁膜129を電極箔上に得た。
【0074】
こうして洗浄された電極箔上に、有機EL層146、アノード148、封止層134および封止材132の積層を行った。具体的には、電極箔の反射層143表面に、厚さ50nmのα−NPD層146b、厚さ50nmのAlq3層146a、厚さ20nmのMoO3層148b、厚さ100nmのIZO(In−Zn−O)透明酸化物層148a、厚さ300nmの窒化ケイ素パシベーション膜(封止層134)、厚さ2000nmの接着層、厚さ200μmの封止ガラス(封止材132)の順に積層した。なお、封止ガラス層の積層は両面テープで行い、この両面テープが接着層に相当する。こうして、図15に示されるような、50mm平方×厚さ300μm、発光面積30mm平方の有機EL素子サンプルを得た。このサンプルを電源130に接続して10Vの電圧を加えたところ、Alq3に起因する緑色の発光を確認することができた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔を用いた電極箔、ならびに電極箔を用いた有機EL素子、有機EL照明、有機太陽電池等の有機デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL照明が、環境に配慮したグリーンデバイスとして注目されている。有機EL照明の特徴としては、1)白熱灯に対して低消費電力であること、2)薄型かつ軽量であること、3)フレキシブルであることが挙げられる。現在、有機EL照明は、上記2)および3)の特徴を実現すべく開発が進められている。この点、フラットパネルディスプレイ(FPD)等で従来使用されてきたガラス基板では、上記2)および3)の特徴を実現することは不可能である。
【0003】
そこで、有機EL照明のための支持体としての基板(以下、支持基材という)に対する研究が進められており、その候補として、極薄ガラス、樹脂フィルム、金属箔等が提案されている。極薄ガラスは、耐熱性、バリア性、および光透過性に優れ、フレキシブル性も良好であるが、ハンドリング性がやや劣り、熱伝導性が低く、材料コストも高い。また、樹脂フィルムは、ハンドリング性およびフレキシブル性に優れ、材料コストも低く、光透過性も良好であるが、耐熱性およびバリア性に乏しく、熱伝導性が低い。
【0004】
これに対し、金属箔は、光透過性が無いことを除けば、耐熱性、バリア性、ハンドリング性、熱伝導性に優れ、フレキシブル性も良好であり、材料コストも低いといった優れた特徴を有する。特に、熱伝導性については、典型的なフレキシブルガラスやフィルムが1W/m℃以下と極めて低いのに対し、銅箔の場合、280W/m℃程度と極めて高い。ただし、金属箔をフレキシブル電子デバイスの支持基材として用いるためには、その表面を絶縁膜で被覆することが必要とされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、フレキシブル基板上に、下部電極層、有機層および上部電極層を備えた有機発光デバイスが開示されており、フレキシブル基板として、絶縁層で被覆してもよい金属箔を使用できることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、表面粗さRaが30nm以上500nm以下のステンレス箔を備えた、フレキシブルな電子デバイス用絶縁被覆金属箔が開示されている。この金属箔は、表面に絶縁膜が被覆されることで、薄膜トランジスタ(TFT)等の電子デバイスが形成されるための支持基材として用いられる。
【0007】
特許文献3には、表面粗さRaが0.2μm以下程度の金属箔表面に熱圧着性ポリイミド塗膜が積層されたフレキシブル金属箔積層体が開示されている。
【0008】
特許文献4には、絶縁層構成材料との張り合わせ面の低プロファイル化を図るべく、析出面側の表面粗さ(Rzjis)を1.0μm未満とした電解銅箔が開示されているが、この文献に開示される表面粗さ(Rzjis)は最も平坦なものでもせいぜい0.27μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−536697号公報
【特許文献2】特開2008−142970号公報
【特許文献3】特開2001−270036号公報
【特許文献4】特開2007−217787号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者は、今般、反射層を金属箔上に直接設けることで、支持基材および反射電極としての機能を兼ね備え、かつ、熱伝導性に優れた、フレキシブル電子デバイスに有用な電極箔が得られるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明の目的は、支持基材および反射電極としての機能を兼ね備え、かつ、熱伝導性に優れた、フレキシブル電子デバイスに有用な電極箔を提供することにある。
【0012】
本発明の一態様によれば、金属箔と、前記金属箔上に直接設けられる反射層とを備えてなる電極箔が提供される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、上記電極箔と、
前記電極箔の前記反射層側の最表面に直接設けられる有機EL層および/または有機太陽電池活性層からなる有機半導体層と、
前記有機半導体層上に設けられる、透明又は半透明の対向電極と、
を備えた、有機EL素子および/または有機太陽電池である、有機デバイスが提供される。
【0014】
本発明にさらに別の態様によれば、上記有機デバイスを有機EL素子として備えてなる、有機EL照明が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による電極箔の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明による電極箔をアノードとして用いた有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明によるトップエミッション型有機EL照明の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明による電極箔をカソードとして用いた有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【図5】例4で作製した有機EL素子が発光する様子を撮影した写真である。
【図6】例4および5で測定された輝度の電圧依存特性を示す図である。
【図7】例4および5で測定された電流密度の電圧依存特性を示す図である。
【図8】例5で測定された輝度の電圧依存特性を示す図である。
【図9】本発明による電極箔の他の一例を示す模式断面図である。
【図10】例6で作製した電極箔の反射層の断面をTEMにより観察した顕微鏡写真である。
【図11】例6で作製した電極箔の反射層の界面をEDX分析して得られたスペクトルである。
【図12】例7で作製した電極箔の反射層の断面をTEMにより観察した顕微鏡写真である。
【図13】例7で作製した電極箔の反射層の界面をEDX分析して得られたスペクトルである。
【図14】例8で作製した電極箔の層構成を示す模式断面図である。
【図15】例9で作製した有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
電極箔
図1に本発明による電極箔の一例の模式断面図を示す。図1に示される電極箔10は、金属箔12、金属箔上に直接設けられる反射層13、および所望により反射層上に直接設けられるバッファ層14を備えてなる。すなわち、電極箔10は金属箔12、反射層13およびバッファ層14を備えた3層構成であるが、本発明の電極箔はこれに限定されず、金属箔12および反射層13の2層構成であってもよい。トップエミッション型有機EL素子において金属電極層上に反射層を形成することは一般的に行われているが、この金属電極層は絶縁基板等の支持基材上に形成されなければならないものと信じられてきた。事実、本発明者の知るかぎり、それ自体単独でハンドリングが可能な金属箔に反射層を形成して有機EL素子のアノードまたはカソードとして使用しようとする試みは今までなされていない。本発明にあっては、金属箔12を支持基材のみならず電極として用い、かつ、その上に反射層13を直接設けることで、支持基材、電極および反射層の3つの機能を兼ね備えた従来に無い電極箔を提供することができる。したがって、本発明の電極箔によれば、従来のトップエミッション型フレキシブル発光デバイスで必要とされてきた支持基材および反射層を不要にすることができる。このため、本発明の電極箔は、少なくとも反射層側に絶縁層を有しないものであり、好ましくはいかなる部位にも絶縁層を有しない。
【0017】
金属箔12は、支持基材としての強度および電極として必要な電気的特性を有する箔状金属材料であれば特に限定されない。好ましい金属箔は、加工時に発生する粒子状物の帯磁による付着を防止できる観点から、非磁性金属箔である。非磁性金属の好ましい例としては、銅、アルミニウム、非磁性ステンレス、チタン、タンタル、モリブデン等が挙げられ、より好ましくは銅、アルミニウム、および非磁性ステンレスである。最も好ましい金属箔は銅箔である。銅箔は比較的安価でありながら、強度、フレキシブル性、電気的特性等に優れる。
【0018】
電極箔10の少なくとも一方の最表面は、10.0nm以下の算術平均粗さRaを有する超平坦面とするのが好ましく、より好ましくは7.0nm以下、さらに好ましくは5.0nm、さらにより好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.8nm以下、特により好ましくは2.5nm以下、最も好ましくは2.0nm以下である。算術平均粗さRaの下限は特に限定されずゼロであってもよいが、平坦化処理の効率を考慮すると0.5nmが下限値の目安として挙げられる。この算術平均粗さRaは、JIS B 0601−2001に準拠して市販の粗さ測定装置を用いて測定することができる。
【0019】
ここで、電極箔10の少なくとも一方の最表面とは、2層構成の場合には反射層13の表面13aを、3層構成の場合にはバッファ層14の表面14aを意味する。もっとも、2層構成の場合において反射層13の表面13aにおける上記算術平均粗さRaの実現は、反射層13が形成されることになる金属箔12の表面12aの算術平均粗さRaを上記同様の範囲、すなわち10.0nm以下、好ましくは6.0nm以下、より好ましくは3.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下、さらにより好ましくは1.5nm以下にしておき、その上にバッファ層14を成膜することにより行うことができる。3層構成の場合におけるバッファ層14の表面14aにおける上記算術平均粗さRaの実現は、上記のようにして10.0nm以下、好ましくは6.5nm以下、より好ましくは3.0nm以下、さらに好ましくは2.5nm以下、さらにより好ましくは2.0nm以下の算術平均粗さRaが付与された反射層13の上にバッファ層14を成膜することにより行うことができる。こうして形成されたバッファ層14の表面14aは、10.0nm以下、好ましくは7.0nm以下、より好ましくは5.0nm、さらにより好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.8nm以下、特により好ましくは2.5nm以下の算術平均粗さRaを有する。このように、最表面において付与されるべき算術平均粗さRaよりも同等もしくは若干小さめの算術平均粗さRaをそれよりも下の層ないし箔の表面に付与しておくのが好ましい。なお、積層状態のため最表面を構成しない金属箔表面の算術平均粗さRaの評価は、金属箔表面からFIB(Focused Ion Beam)加工にて断面を作製し、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することにより行うことができ、積層状態のため最表面を構成しない反射層表面の算術平均粗さRaの評価も同様にして行うことができる。
【0020】
本発明者の知るかぎり、このような超平坦表面を有する金属箔(特に銅箔)は今まで工業的に製造されておらず、ましてやそれをフレキシブル電子デバイスの電極そのものとして応用しようとする試みは今までなされていなかった。表面を平坦化した銅箔は市販されているが、このような銅箔の平坦化レベルは有機EL素子用電極としては不十分なものであり、有機EL素子とした場合に表面の凹凸により短絡を起こしてしまい、発光が得られないおそれがある。
【0021】
これに対し、金属箔12の超平坦面12aの算術平均粗さRaが上述のごとく極めて小さいと、有機EL素子用電極として用いても対向電極等との間で起こりうる短絡を効果的に防止できる。このような超平坦面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)処理により金属箔を研磨することにより実現することができる。CMP処理は、公知の研磨液および公知の研磨パッドを用いて、公知の条件に従って行うことができる。好ましい研磨液としては、セリア、シリカ、アルミナ、ジルコニア等から選択される1種以上の研磨砥粒約0.5〜2重量%程度を含んでなり、かつ、ベンゾトリアゾール(BTA)等の酸化剤と、さらに/または、キナルシン酸、キノリン酸、ニコチン酸等の有機錯体形成剤と、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤と、所望により防食剤とをさらに含むものが挙げられる。好ましい研磨パッドとしては、ウレタン製のパッドが挙げられる。研磨条件は、パッド回転速度、ワーク荷重、研磨液塗布流量等を適宜調整すればよく特に限定されないが、回転速度を20〜1000rpmの範囲内に、ワーク荷重を100〜500gf/cm2の範囲内に、研磨液塗布流量を20〜200cc/min範囲内に調整するのが好ましい。
【0022】
超平坦面12aは、電解研磨法、バフ研磨法、薬液研磨法、およびこれらの組み合わせ等を用いて金属箔12を研磨することによっても実現することができる。薬液研磨法は、薬液、薬液温度、薬液浸漬時間等を適宜調整して行えばよく特に限定されないが、例えば、銅箔の薬液研磨は、2−アミノエタノールと塩化アンモニウムとの混合物を使用することにより行うことができる。薬液温度は室温が好ましく、浸漬法(Dip法)を用いるのが好ましい。また、薬液浸漬時間は、長くなると平坦性が悪化する傾向があるため、10〜120秒間が好ましく、30〜90秒間がより好ましい。薬液研磨後の金属箔は流水により洗浄されるのが好ましい。このような平坦化処理によれば、Ra算術平均粗さRa12nm程度の表面をRa10.0nm以下、例えば3.0nm程度にまで平坦化することができる。
【0023】
超平坦面12aは、金属箔12の表面をブラストにより研磨する方法や、金属箔12の表面をレーザー、抵抗加熱、ランプ加熱等の手法により溶融させた後に急冷させる方法等によっても実現することもできる。また、金属箔12として、銅、ニッケル、クロムのようにメッキが可能な金属箔を用いた場合には、転写法を用いて超平坦面を実現することもできる。転写法は、公知の手法及び公知の条件に基づいて行えばよい。例えば、電解研磨法及びバフ研磨法を用いて、SUS、チタン等の電極板の表面を算術平均粗さRaが10.0nm以下、例えば3.0nm以下になるよう平坦化しておく。この平坦化された電極板の表面に金属箔12の材料をめっきし、所望の厚さに達した時点で金属箔12の材料を電極板より剥離する。こうして金属箔12の剥離面に電極板表面の平坦性を転写させることで、超平坦面を実現することができる。
【0024】
金属箔12の厚さは、フレキシブル性を損なうことなく、箔として単独でハンドリングが可能な厚さである限り特に限定されないが、1〜250μm、好ましくは25〜250μm、より好ましくは35〜150μmである。このような厚さであれば、市販の裁断機を用いて簡単に切断することが可能である。また、金属箔12は、ガラス基板と異なり、割れ、欠け等の問題が無く、また、切断時のパーティクルが発生しづらい等の利点も有する。金属箔12は、四角形以外の形状、例えば、円形、三角形、多角形といった様々な形状とすることができ、しかも切断および溶接も可能なことから、切り貼りによりキュービック状やボール状といった立体的な形状の発光体を作製することも可能である。この場合、金属箔12の切断部や溶接部には、発光層を形成しないことが好ましい。
【0025】
超平坦面12aはアルカリ溶液で洗浄することが好ましい。そのようなアルカリ溶液としては、アンモニアを含有した溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等の公知のアルカリ溶液が使用可能である。好ましいアルカリ溶液はアンモニアを含有した溶液であり、より好ましくはアンモニアを含有した有機系アルカリ溶液、さらに好ましくはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)溶液である。TMAH溶液の好ましい濃度は0.1〜3.0wt%である。そのような洗浄の一例としては、0.4%TMAH溶液を用いて23℃で1分間の洗浄を行うことが挙げられる。このようなアルカリ溶液による洗浄と併せて、または、アルカリ溶液による洗浄の代わりに、UV(Ultra Violet)処理を行っても同様の洗浄効果を得ることができる。さらに、銅箔等の場合、希硫酸等の酸性洗浄液を用いて、銅表面に形成されうる酸化物を除去することも可能である。
酸洗浄の一例としては、希硫酸を用いて30秒間の洗浄を行うことが挙げられる。
【0026】
反射層13の成膜前に、超平坦面12a上に存在するパーティクルを除去することが好ましい。有効なパーティクル除去の手法としては、超純水によるソニック洗浄法やドライアイスブラスト法等が挙げられるが、ドライアイスブラスト法がより効果的である。ドライアイスブラスト法は、高圧に圧縮した炭酸ガスを細いノズルから噴射させることにより、低温固化した炭酸を超平坦面12aに吹き付けてパーティクルを除去する方法である。
このドライアイスブラスト法は、ウェット工程とは異なり、乾燥工程を省くことができ、また有機物の除去ができる等の利点を有する。ドライアイスブラスト法は、例えばドライアイススノーシステム(エアウォーター社製)等の市販の装置を用いて行うことができる。
【0027】
金属箔12の超平坦面上には反射層13が直接設けられる。反射層13は、アルミニウム、アルミニウム系合金、銀、および銀系合金からなる群から選択される少なくとも一種で構成されるのが好ましい。これらの材料は、光の反射率が高いため反射層に適しており、しかも薄膜化した際の平坦性にも優れる。特に、アルミニウムまたはアルミニウム系合金は安価な材料であることから好ましい。アルミニウム系合金および銀系合金としては、有機EL素子等の表示デバイスにおいてアノードまたはカソードとして使用される一般的な合金組成を有するものが幅広く採用可能である。好ましいアルミニウム系合金組成の例としては、Al−Ni、Al−Cu、Al−Ag、Al−Ce、Al−Zn、Al−B、Al−Ta、Al−Nd、Al−Si、Al−La、Al−Co、Al−Ge、Al−Fe、Al−Li、Al−Mg、Al−Mn合金が挙げられる。これらの合金を構成する元素であれば、必要な特性に合わせて任意に組み合わせることが可能である。また、好ましい銀合金組成の例としては、Ag−Pd、Ag−Cu、Ag−Al、Ag−Zn、Ag−Mg、Ag−Mn、Ag−Cr、Ag−Ti、Ag−Ta、Ag−Co、Ag−Si、Ag−Ge、Ag−Li、Ag−B、Ag−Pt、Ag−Fe、Ag−Nd、Ag−La、Ag−Ce合金が挙げられる。これらの合金を構成する元素であれば、必要な特性に合わせて任意に組み合わせることが可能である。反射層13の膜厚は特に限定されるものではないが、30〜500nmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは50〜300nmであり、さらに好ましくは100〜250nmである。
【0028】
反射層13の表面13aは好ましくは10.0nm以下、より好ましくは6.5nm以下、さらに好ましくは3.0nm以下、さらにより好ましくは2.5nm以下、特に好ましくは2.0nm以下の算術平均粗さRaを有する。前述のとおり、本発明の電極箔においては超平坦な金属箔表面に反射層が形成されるため、反射層の表面においても算術平均粗さRaを小さくして高い平坦性を実現できる。これにより、過度な凹凸の発生に起因する有機EL層間における短絡のリスクを低減することができる。また、反射層表面の凹凸による影響を排除すべく正孔注入層および正孔輸送層あるいは電子注入層および電子輸送層を厚く設ける必要がないので、これらの層ならびにそれらを含む有機EL層を従来以上に薄くすることができる。その結果、極めて高価な有機原料の使用量を減らして製造コストを低減するとともに、有機EL層の薄膜化により発光効率を向上することができる。
【0029】
反射層13がアルミニウム膜またはアルミニウム系合金膜で構成される場合、図9に示されるように反射層を少なくとも2つの層からなる積層構造で構成してもよい。すなわち、図9に示される電極箔50は、図1に示される電極箔10と同様、金属箔52、反射層53および所望によるバッファ層54を有するが、反射層53が界面53cによって仕切られた2つの層53a,53bの積層構造を有し、この界面53cを境に下層53aおよび上層53bが互いに異なる結晶方位を有する。これにより、電極箔がかなりの高温に曝される場合であっても、銅箔とアルミニウム含有反射層の間の界面から起こりうるサーマルマイグレーションを効果的に抑制して、サーマルマイグレーションに起因する表面平坦性や反射率の低下を抑制することができる。すなわち、電極箔の耐熱性を向上することができる。したがって、この態様は、200℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上の温度で行われる、正孔注入層塗布後の熱処理において特に有効であるといえる。このような耐熱性の向上は、結晶粒界を優先して進行するサーマルマイグレーションが、結晶粒界が不連続となる界面53cによって阻止されることにより実現されるものと考えられる。なお、反射層53中の界面53cの数は2つ以上であってもよく、この場合、反射層は3層以上の積層構造となる。
【0030】
積層構造の反射層53は、スパッタリング等の成膜プロセスを、所定のインターバルを経て複数回行うことにより作製することができる。そのような方法の好ましい例としては以下のものが挙げられる。
(1)スパッタリング法により下層53aの成膜を好ましくは厚さが10nm以上になるまで行い、スパッタリングを一時的に停止する。この状態で下層53aをスパッタリング装置のチャンバ内に放置する。この放置時間は30秒以上とすることが好ましい。次いで、スパッタリングを再開して上層53bの成膜を行う。
(2)スパッタリング法により下層53aの成膜を好ましくは厚さが10nm以上になるまで行い、スパッタリングを一時的に停止する。そして、下層53aを大気に接触させる。この大気接触は、下層53aが形成された金属箔をスパッタリング装置のチャンバから取り出して大気に曝してもよいし、金属箔を取り出すことなくチャンバを大気に解放してもよい。次いで、スパッタリングを再開して上層53bの成膜を行う。下層53aを大気に曝す時間は数秒程度で十分であり、通常のクリーンルーム環境におけるような湿度および温度で所望の効果が得られる。
(3)スパッタリング法により下層53aの成膜を好ましくは厚さが10nm以上になるまで行い、スパッタリングを一時的に停止する。次いで、スパッタリング装置のチャンバ内に酸素を導入して酸素雰囲気にした後、再度真空引きして上層53bの成膜を行う。酸素を導入したチャンバ内の圧力は0.01Pa以上であるのが好ましく、より好ましくは0.1Pa以上、さらに好ましくは1Pa以上である。
【0031】
積層構造の反射層53において、界面53cの数は一つで十分である。一つの界面であっても250℃程度という高温下で十分な耐熱性を発揮する。もっとも、成膜プロセスの回数を増やして界面を2つ以上に設けることにより、更なる耐熱性の向上を図ってもよい。
【0032】
反射層13上にはバッファ層14が直接設けられるのが好ましい。バッファ層14は、有機EL素子において有機EL層と接触して正孔注入効率または電子注入効率を向上させ、所望の仕事関数を与えるものであれば特に限定されない。もっとも、本発明におけるバッファ層は、金属箔を反射層として機能させる観点から、透明または半透明であるのが好ましい。
【0033】
バッファ層14は、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、およびフッ化物膜から選択される少なくとも一種であるのが好ましく、アノードまたはカソードといった適用用途および要求される特性に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
導電性非晶質炭素膜としては、水素濃度や不純物濃度を制御することにより導電性が付与された種々の非晶質炭素膜が使用可能である。導電性非晶質炭素膜の形成はスパッタリング法によって行われるのが好ましい。スパッタリングに用いるカーボンターゲットとしては、純化処理を施した物を使用することが望ましい。また、多孔質のカーボンに、B、Si、Al、Cuを含浸させたものを使用することも可能である。導電性非晶質炭素膜をバッファ層として用いる場合には、反射層として、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜、銀膜、および銀系合金膜のいずれも適するが、平坦性および材料コストを考慮するとアルミニウム合金が好ましい。
【0035】
好ましい導電性非晶質炭素膜は、水素濃度が15at%以下である導電性非晶質炭素で構成される。より好ましい水素濃度は12at%以下であり、さらに好ましくは5at%以下である。なお、水素濃度の下限は特に限定されずゼロであってもよいが、スパッタリング時の成膜環境等に起因する水素の不可避的混入を考慮すると3at%が下限値の目安として挙げられる。なお、バッファ層中の水素濃度の測定は公知の各種方法により行うことができるが、HFS(水素前方散乱:Hydrogen Forward Scattering)により行われるのが好ましい。本明細書において、導電性非晶質炭素膜中の水素濃度は、HFS等で炭素および水素を定量し、これらの原子数の合計を100at%としたときの水素濃度として定義される。このように水素濃度を極めて低くすることにより、バッファ層を構成する炭素が水素で終端されることによる導電性の低下ないし絶縁性の発現を回避して、電極としての高い導電性をバッファ層に持たせることができる。したがって、導電性非晶質炭素には炭素および水素以外の不純物が実質的にドープされていないのが好ましい。ここで「実質的にドープされていない」とは何らかの機能を付与するために不純物が意図的にドープされていないとの意味であり、スパッタリング時の成膜環境等に起因して不可避的に混入される不純物は許容される。このような観点から、本発明において導電性非晶質炭素は、0〜300wtppmの酸素濃度、0〜1000wtppmのハロゲン元素濃度、0〜500wtppmの窒素濃度を有するのが好ましい。バッファ層14の膜厚は特に限定されないが3〜30nmであるのが好ましく、より好ましくは3〜15nmであり、さらに好ましくは5〜10nmである。
【0036】
好ましい導電性酸化物膜としてはInOx、SnOx、ZnOx、MoOx、GaOx、VOx、WOx、RuOx、AlOx、TiOx、およびGeOxからなる群から選ばれる1種または2種以上で構成される膜が挙げられ、典型例としてはITO(インジウム錫酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物)が挙げられる。導電性酸化物膜の形成は、スパッタリング法、真空蒸着法等の公知の手法によって行えばよく、好ましくはDCマグネトロンスパッタリング法により行われる。スパッタリング法に用いられるターゲット材は、ホットプレス法やコールドプレス法により作製可能であるため、上記酸化物を適宜組み合わせて所望の特性が得られるようにすることが可能である。導電性酸化物膜をバッファ層として用いる場合には、反射層としては、Al−Ni系合金、Ag、またはAg系合金が特に適する。
【0037】
好ましいマグネシウム系合金膜としては、MgにAg、Al、Zn、Li、YおよびCaから選択される1種以上が添加された合金で構成される膜が挙げられる。マグネシウム系合金膜の形成はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の手法によって行えばよく、好ましくは真空蒸着法により行われる。
【0038】
好ましいフッ化物膜としては、LiF、MgF2、CaF2、AlF3、Na3AlF6およびNaF6から選択される1種以上で構成される膜が挙げられる。フッ化物膜の形成はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の手法によって行えばよく、好ましくは真空蒸着法により行われる。
【0039】
バッファ層14の表面14aは好ましくは10.0nm以下、より好ましくは7.0nm以下、さらに好ましくは5.0nm、さらにより好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.8nm以下、特により好ましくは2.5nm以下の算術平均粗さRaを有する。前述のとおり、本発明の電極箔においては超平坦な金属箔に起因する超平坦な反射膜表面にバッファ層が形成されるため、バッファ層の表面においても算術平均粗さRaを小さくして高い平坦性を実現できる。これにより、過度な凹凸の発生に起因する有機EL層間における短絡のリスクを低減することができる。また、バッファ層表面の凹凸による影響を排除すべく正孔注入層および正孔輸送層あるいは電子注入層および電子輸送層を厚く設ける必要がないので、これらの層ならびにそれらを含む有機EL層を従来以上に薄くすることができる。その結果、極めて高価な有機原料の使用量を減らして製造コストを低減するとともに、有機EL層の薄膜化により発光効率を向上することができる。
【0040】
反射層13とバッファ層14との間には酸化膜(図示せず)が存在していてもよい。この酸化膜は、典型的にはアノード層が雰囲気中の酸素によって不可避的に酸化されることにより形成されることがある。このような酸化膜はできるだけ薄い方が好ましく、好ましい厚さは3.0nm以下であり、より好ましくは1.5nm以下である。このような酸化膜はエッチング等により除去してもよい。
【0041】
本発明による電極箔は、1〜300μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは25〜250μm、さらに好ましくは35〜150μm、最も好ましくは40〜100μmの厚さを有する。
【0042】
本発明の好ましい態様によれば、金属箔12の反射層13と反対側の表面12bが、1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、さらに好ましくは5.0μm以上の十点平均粗さRzを有する粗化面となるように加工してもよい。この十点平均粗さRzは、JIS B 0601−1994に準拠して市販の粗さ測定装置を用いて測定することができる。この表面を粗くする加工は、ドライアイスブラスト、サンドブラスト、ウェットエッチング、ドライエッチング等の公知の手法により好ましく行うことができる。この粗化面の表面に形成された凹凸により放熱特性を向上させることができる。
【0043】
本発明による電極箔は、金属箔をベースとしているため、支持基材を特に必要とすることなく、例えばロール・トゥ・ロール(roll-to-roll)プロセスによって効率的に製造することができる。
【0044】
本発明による電極箔は、各種フレキシブル電子デバイス用(特にフレキシブル発光または発電デバイス)のアノードまたはカソードとして好ましく用いることができ、それにより反射電極として機能することができる。そのようなフレキシブル電子デバイスの例としては、有機EL素子、有機EL照明、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、薄膜太陽電池、液晶ディスプレイ、無機EL素子、無機ELディスプレイ、LED照明、LEDディスプレイが挙げられるが、好ましくは有機EL素子、有機EL照明、有機ELディスプレイ、有機太陽電池、色素増感太陽電池であり、より好ましくは極薄で高輝度の発光が得られる点で有機EL照明である。また、有機太陽電池の場合、電極材料に求められる特性の多くが有機EL素子の場合に求められる特性と共通するため、本発明による電極箔は有機太陽電池のアノードまたはカソードとして好ましく用いることができる。すなわち、本発明による電極箔上に積層させる有機半導体層の種類を公知の技術に従い適宜選択することにより、有機デバイスを有機EL素子および有機太陽電池のいずれにも構成することが可能となる。また、同一電極上に発光素子および発電素子を同時に形成することも可能となり、それによって有機EL素子の機能と有機太陽電池の機能を併せ持った複合デバイスを作製することもできる。さらに、本発明による電極箔は、有機EL素子の電極のみならず、LEDの実装基板にも使用することができる。特に、本発明による電極箔は、LED素子を密に実装することができる点でLED照明用のアノードまたはカソードとして好ましく用いることができる。
【0045】
有機EL素子および有機EL照明
本発明による電極箔を反射電極として用いて、トップエミッション型有機EL素子および有機EL照明を構築することができる。
【0046】
図2に、本発明の電極箔をアノードとして用いたトップエミッション型有機EL素子の層構成の一例を示す。図2に示される有機EL素子は、金属箔22、反射層23およびバッファ層24を備えたアノード電極箔20と、バッファ層24上に直接設けられる有機EL層26と、有機EL層26上に直接設けられる対向電極としてのカソード28とを備えてなる。バッファ層24は、アノードとして適するように導電性非晶質炭素膜または導電性酸化物膜で構成されるのが好ましい。
【0047】
有機EL層26としては、有機EL素子に使用される公知の種々のEL層構成が使用可能であり、所望により正孔注入層および/または正孔輸送層、発光層、ならびに所望により電子輸送層および/または電子注入層を、アノード電極箔20からカソード26に向かって順次備えてなることができる。正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層としては、それぞれ公知の種々の構成ないし組成の層が適宜使用可能であり特に限定されるものではない。
【0048】
前述のように、有機EL層26を公知の有機太陽電池活性層で置き換えることにより、有機太陽電池を構成することができる。本発明の電極箔をアノードとして用いる有機太陽電池の場合、バッファ層(例えばカーボンバッファ層)上に、正孔輸送層(PEDOT:PSS(30nm))、p型有機半導体層(例えばBP(ベンゾポルフィリン))、n型有機半導体とp型有機半導体のi型ミキシング層(例えばBP:PCBNB(フラーレン誘導体))、n型有機半導体層(例えばPCBM(フラーレン誘導体))、低い仕事関数を有するバッファ層(例えばMg−Ag)および透明電極層(例えばIZO)を順次積層させて太陽電池を構成することが可能である。これらの各層を構成する材料としては公知の材料を適宜使用することができ、特に限定されない。有機太陽電池に使用される電極は、有機EL素子に使用される電極と同じ材料および構造を有するものであってよい。本発明の電極箔は反射層を備えることで、キャビティー効果に起因する光の閉じ込めによる発電効率の向上が期待される。
【0049】
図3に、図2に示される有機EL素子が組み込まれたトップエミッション型有機EL照明の層構成の一例が示される。図3に示される有機EL照明において、有機EL素子はアノード電極箔20の金属箔22を介して電源30に電気的に接続可能とされる。バッファ層24上の、有機EL層26と非接触の領域は層間絶縁膜29で被覆される。層間絶縁膜29としては、CVD成膜したSi系絶縁膜が、有機層を劣化させる原因となる水分および酸素に対するバリア性が高いことから好ましく、より好ましくはSiN系絶縁膜である。さらに好ましい層間絶縁膜は、膜の内部応力が小さく、屈曲性に優れる点で、SiNO系絶縁膜である。
【0050】
カソード28の上方には有機EL素子と対向して封止材32が設けられ、封止材32と有機EL素子20との間には封止用樹脂が充填されて封止膜34が形成される。封止材32としては、ガラスやフィルムを用いることができる。ガラスの場合は、封止膜34上に疎水性粘着テープを用いて直接接着することができる。フィルムの場合は、両面及び端面をSi系絶縁膜で被覆して用いることが可能である。将来的にバリア性の高いフィルムが開発された場合には、被覆処理を行うことなく封止することが可能となり、量産性に優れたものになることが予想される。封止材32としては、フレキシブル性を付与する観点からはフィルムの方が望ましいが、厚さ20〜100μmの非常に薄いガラスにフィルムを接着させた封止材を使用して所望の性能を得ることも可能である。
【0051】
カソード28としてはトップエミッション型有機EL素子に使用される公知の種々のカソードが使用可能であり、光を透過する必要があるため透明または半透明のものであれば特に限定されないが、仕事関数の低いものが好ましい。好ましいカソードとしては、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜およびフッ化物膜が挙げられ、これらを2層以上に組み合わせるのがより好ましい。これらの膜は、電極箔のバッファ層で述べたものと同様のものが使用可能である。
【0052】
特に好ましいカソードは、導電性酸化物膜からなるカソード層としての透明酸化物層に、マグネシウム系合金膜および/またはフッ化物膜からなるバッファ層としての半透過金属層を積層させた2層構造であり、抵抗の観点からも実用性が高い。この場合、カソード28の半透過金属層(バッファ層)側を有機EL層26と接触させて用いることにより、高い光透過性と低い仕事関数がもたらされ、有機EL素子の輝度および電力効率を向上することができる。最も好ましい例としては、IZO(インジウム亜鉛酸化物)からなる透明酸化物層(カソード層)とMg−Agからなる半透過金属層(バッファ層)が積層されてなるカソード構造体が挙げられる。また、カソード構造体は、2層以上の透明酸化物層および/または2層以上の半透過金属層を備えるものであってもよい。こうして、有機EL層26で発生した光はカソード28および封止膜34および封止材32を通過して外部に放出される。
【0053】
なお、電極箔20の裏面には、使用形態に応じて補助的な基材を適宜設置してもよい。
この部分は、発光特性に影響を与えない為、材料選択の自由度は高い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルニトリル(PEN)等の樹脂フィルムを使用すればフレキシブル性を損なうことが無いので最適といえる。
【0054】
図4に、本発明の電極箔をカソードとして用いたトップエミッション型有機EL素子の層構成の一例を示す。図4に示される有機EL素子は、金属箔42、反射層43およびバッファ層44を備えたカソード電極箔40と、バッファ層44上に直接設けられる有機EL層46と、有機EL層46上に直接設けられる対向電極としてのアノード48とを備えてなる。有機EL層46は、図2に示される有機EL層26と同様に構成可能であり、バッファ層44は、図2に示されるカソード28と同様に構成可能であり、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、フッ化物膜、またはそれらの2層以上の組み合わせで構成されるのが好ましい。より好ましいバッファ層44は、マグネシウム系合金膜および/またはフッ化物膜からなる半透過金属層である。
【0055】
すなわち、図4に示されるカソード電極箔40を用いた有機EL素子は、図2に示されるアノード電極箔20を用いた有機EL素子において、バッファ層24とカソード28を入れ替え、かつ、有機EL層26内部のアノード側からカソード側への積層順序を逆転させた構成に相当する。例えば、カソード電極箔40のバッファ層44としてマグネシウム系合金膜またはフッ化物膜をスパッタリングまたは蒸着により形成する一方、アノード48として導電性非晶質炭素、MoO3またはV2O5の膜を蒸着法により形成するのが好ましい。特に、導電性非晶質炭素膜を有機EL層上に成膜する場合には、スパッタ時のプラズマダメージを避けるため真空蒸着法を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0056】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
【0057】
例1:Cu/Al合金/ITO電極箔の作製
金属箔として、厚さ64μmの市販の両面平坦電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。銅箔表面の粗さを走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して測定したところ、算術平均粗さRa:12.20nmであった。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。
【0058】
この銅箔を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パットおよびコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm2、液供給量:100cc/minの条件で行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の粗さを走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して測定したところ、算術平均粗さRaは0.7nmであった。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。CMP処理後の銅箔の厚さは48μmであった。
【0059】
CMP処理された銅箔の表面に、膜厚150nmのAl合金反射層をスパッタリング法により成膜した。このスパッタリングは、Al−0.2B−3.2Ni (at.%)の組成を有するアルミニウム合金ターゲット(直径203.2mm×8mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。
【0060】
こうして得られたアルミ合金反射層の表面に、膜厚10nmのITOバッファ層をスパッタリング法により成膜した。このスパッタリングは、Snを10重量%含有したITO(In2O3−SnO2)ターゲット(直径203.2mm×6mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):300W(0.9W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.35Pa、Ar流量:80sccm、O2流量:1.9sccm、基板温度:室温の条件で行った。膜厚の制御は、放電時間を制御することにより行った。こうして得られたバッファ層表面の粗さを上記同様にして測定したところ、算術平均粗さRaは2.0nmであった。得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。
【0061】
例2:Cu/Al合金/C電極箔の作製
ITOバッファ層の代わりに膜厚1.7nmまたは3.5nmのカーボンバッファ層をスパッタリング法により形成したこと以外は例1と同様にして電極箔を作製した。このスパッタリングのためのカーボンターゲットとしては、カーボン材料(IGS743材、東海カーボン社製)から作製された未処理の純度3N(99.9%)のカーボンターゲットと、このカーボン材料にハロゲンガスによる純化処理を施して作製された純度5N(99.999%)のカーボンターゲットの2種類を用意した。これらのターゲットの各々を用いてスパッタリング法によりカーボンバッファ層を成膜した。このスパッタリングは、各カーボンターゲット(直径203.2mm×8mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(マルチチャンバー枚葉式成膜装置MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):250W(0.8W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。膜厚の制御は、放電時間を制御することにより行った。こうして得られたバッファ層表面の粗さを例1と同様にして測定したところ、算術平均粗さRaは2.45nmであった。得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。
【0062】
例3:Cu/Ag合金/ITO電極箔の作製
Al合金反射層の代わりに膜厚150nmのAg合金反射層をスパッタリング法により形成したこと以外は例1と同様にして、バッファ層および反射層付き電極箔を作製する。
このスパッタリングは、Ag−1.0Cu−1.0Pd(at.%)の組成を有する銀合金ターゲット(直径101.6mm×5mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):150W(1.9W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:90sccm、基板温度:室温の条件で行う。膜厚の制御は、放電時間を制御することにより行う。
【0063】
例4:有機EL素子の作製
例1で作製された電極箔(Cu/Al合金/ITO)をアノードとして用いて図2および3に示されるような構造の有機EL素子を作製した。まず、電極箔20(5cm平方)の上にガラス基板(3cm平方×0.5mm厚)を載せてマスキングし、窒化ケイ素からなる層間絶縁膜29をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成した。このプラズマCVDは、メカニカルブースターポンプ(MBP)およびロータリーポンプ(RP)が接続されたプラズマCVD装置(PD−2202L、サムコ社製)を用い、成膜エリア:有効エリア直径8inch、投入パワー(RF):250W(0.8W/cm2)、 到達真空度:<5×10−3Pa、スパッタ圧力:80Pa、ガス:SiH4(H2希釈10%):NH3:N2=100:10: 200sccm、基板温度:250℃の条件で行った。その後、ガラスを電極箔20から除去して、3cm平方の開口部を有する層間絶縁膜29を電極箔上に得た。
【0064】
次に、層間絶縁膜が形成された電極箔の表面を以下のとおり洗浄した。まず、超純水(>18.0MΩ)で満たした槽内において、3分間の超音波洗浄を、超純水を入れ替えて2回行った。引き続き、窒素ガスを用いて水分を除去したのち、アフターキュアを100℃で3時間行った。こうして処理された表面をUV照射により洗浄した。
【0065】
こうして洗浄された電極箔上に、有機EL層26、カソード28、封止層34および封止材32の積層を行った。具体的には、電極箔のバッファ層表面に、銅フタロシアニンからなる厚さ50nmの正孔注入層、4,4’−ビス(N,N’−(3−トリル)アミノ)−3,3’−ジメチルビフェニル(HMTPD)からなる厚さ40nmの正孔輸送層、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体(Ir(ppy)3)がホスト材料中にドープされてなる厚さ30nmの発光層、Alq3からなる厚さ30nmの電子輸送層、厚さ10nmのMg−Ag半透過膜層(Mg:Ag=9:1)、厚さ100nmのIZO(In−Zn−O)透明酸化物層、厚さ300nmの窒化ケイ素パシベーション膜(封止層)、厚さ2000nmの接着層、厚さ200μmの封止ガラス(封止材)の順に積層した。なお、封止ガラス層の積層は両面テープで行い、この両面テープが接着層に相当する。
こうして、図3に示されるような、50mm平方×厚さ300μm、発光面積30mm平方の有機EL素子サンプルを得た。このサンプルを電源30に接続して5.0Vの電圧を加えたところ、図5に示されるような強い発光を確認することができた。また、印加電圧を変化させて、輝度(cd/m2)および電流密度(mA/cm2)の変化を測定したところ、図6および図7に示される結果を得た(図中、「ITO」と表記されるプロットを参照)。このように、本発明の電極箔を用いれば、低電圧で極めて高い輝度の発光を得ることができる。
【0066】
また、CMP処理時間を変えて銅箔表面の粗さをRa:6.8nmまたはRa:4.5nmとしたこと以外は例1と同様の条件により作製した電極箔を用いて、上記同様にして有機EL素子の作製および評価を行った。こうして得られた有機EL素子においても短絡を起こすことなく発光を確認することができた。
【0067】
なお、比較のため、例1で用いた算術平均粗さRa:12.20nmの両面平坦電解銅箔を用いて上記同様に有機EL素子を作製して通電したところ、電極間で短絡が起きてしまい、点灯しなかった。
【0068】
例5:有機EL素子の作製
例2で作製された、以下の3種類のカーボンバッファ層を有する電極箔(Cu/Al合金/C)を用いたこと以外は、例4と同様にして、3種類の有機EL素子サンプルを作製した。
・サンプル「5N−C 35Å」:純度5Nのカーボンターゲットを用いて形成された厚さ3.5nmのカーボンバッファ層を用いた有機EL素子、
・サンプル「3N−C 17Å」:純度3Nのカーボンターゲットを用いて形成された厚さ1.7nmのカーボンバッファ層を用いた有機EL素子、および
・サンプル「5N−C 17Å」:純度5Nのカーボンターゲットを用いて形成された厚さ1.7nmのカーボンバッファ層を用いた有機EL素子。
【0069】
上記サンプルの各々を図3に示されるように電源30に接続した。印加電圧を変化させて、輝度(cd/m2)および/または電流密度(mA/cm2)の変化を測定したところ、図6〜8に示される結果を得た。このように、本発明の電極箔を用いれば、低電圧で極めて高い輝度の発光を得ることができる。
【0070】
例6:Cu/Al合金/Al合金/ITO電極箔の作製
上層および下層からなる2層構造のAl合金反射層を、真空中放置を介した2段階スパッタリングにより形成したこと以外は、例1と基本的に同様にして電極箔を作製した。この2段階スパッタリングは、金属箔上に厚さ50nmの下層を例1のAl合金反射層と同様の条件で成膜してスパッタリングを一時的に停止し、そのまま金属箔を真空引きされたチャンバ内に約30秒間放置し、スパッタリングを上記同様の条件で再開して下層上に厚さ100nmの上層を成膜することにより行った。こうして得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。このようにして得られた電極箔の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、図10に示される顕微鏡写真が得られた。この図から明らかなように、反射層は厚さ約1nmのアモルファス状と見受けられる界面によって仕切られた2つの層からなる積層構造を有し、2つの層は界面を境に互いに異なる結晶方位(下層は概ね横方向、上層は概ね縦方向)を有していることが観察された。また、得られた反射層中の界面に対してエネルギー分散型X線分析(EDX分析)を行ったところ、図11に示されるようにAlに由来するピークを有するスペクトルが得られた。なお、このスペクトルにはCuに由来するピークも存在するが、これはサンプルの支持体に起因するものであり、サンプル自体に関するピークではない。
【0071】
例7:Cu/Al合金/Al合金/ITO電極箔の作製
上層および下層からなる2層構造のAl合金反射層を、大気中放置を介した2段階スパッタリングにより形成したこと以外は、例1と同様にして電極箔を作製した。この2段階スパッタリングは、金属箔上に厚さ50nmの下層を例1のAl合金反射層と同様の条件で成膜してスパッタリングを一時的に停止し、金属箔をチャンバから取り出して大気中に約30秒間放置し、金属箔をチャンバ内に再度戻し、スパッタリングを上記同様の条件で再開して下層上に厚さ100nmの上層を成膜することにより行った。こうして得られた電極箔の全体としての厚さは48μmであった。このようにして得られた電極箔の断面をTEMで観察したところ、図12に示される顕微鏡写真が得られた。この図から明らかなように、反射層が界面によって仕切られた2つの層からなる積層構造を有し、2つの層が界面を境に互いに異なる結晶方位を有していることが観察された。また、得られた反射層の界面に対してEDX分析を行ったところ、図13に示されるようにAlおよびOに由来するピークを有するスペクトルが得られた。このように界面から酸素成分が検出されたことから、自然酸化膜が界面を構成しているものと解される。なお、このスペクトルにはCuに由来するピークも存在するが、これはサンプルの支持体に起因するものであり、サンプル自体に関するピークではない。
【0072】
例8:Cu/Al合金電極箔の作製
図14に示されるように、例1と同様の条件で作製した銅箔142上に、膜厚150nmのAl合金反射層143をスパッタリング法により成膜した。このスパッタリングは、Al−4Mg(at.%)の組成を有するアルミニウム合金ターゲット(直径203.2nm×8mm厚)をクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm2)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。こうして、有機EL素子においてカソード電極として用いることができる電極箔140を得た。
【0073】
例9:有機EL素子の作製
例8で作製された電極箔140(Cu/Al合金)をカソードとして用いて、図14および図15に示されるような構造の有機EL素子を作製した。まず、電極箔140(5cm平方)の上にガラス基板(3cm平方×0.5mm厚)を載せてマスキングし、窒化ケイ素からなる層間絶縁膜29をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成した。このプラズマCVDは、メカニカルブースターポンプ(MBP)およびロータリーポンプ(RP)が接続されたプラズマCVD装置(PD−2202L、サムコ社製)を用い、成膜エリア:有効エリア直径8inch、投入パワー(RF):250W(0.8W/cm2)、 到達真空度:<5×10−3Pa、スパッタ圧力:80Pa、ガス:SiH4(H2希釈10%):NH3:N2=100:10: 200sccm、基板温度:250℃の条件で行った。その後、ガラスを電極箔140から除去して、3cm平方の開口部を有する層間絶縁膜129を電極箔上に得た。
【0074】
こうして洗浄された電極箔上に、有機EL層146、アノード148、封止層134および封止材132の積層を行った。具体的には、電極箔の反射層143表面に、厚さ50nmのα−NPD層146b、厚さ50nmのAlq3層146a、厚さ20nmのMoO3層148b、厚さ100nmのIZO(In−Zn−O)透明酸化物層148a、厚さ300nmの窒化ケイ素パシベーション膜(封止層134)、厚さ2000nmの接着層、厚さ200μmの封止ガラス(封止材132)の順に積層した。なお、封止ガラス層の積層は両面テープで行い、この両面テープが接着層に相当する。こうして、図15に示されるような、50mm平方×厚さ300μm、発光面積30mm平方の有機EL素子サンプルを得た。このサンプルを電源130に接続して10Vの電圧を加えたところ、Alq3に起因する緑色の発光を確認することができた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、前記金属箔上に直接設けられる反射層とを備えてなり、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードまたはカソードとして用いられる、1〜100μmの厚さを有する電極箔。
【請求項2】
ロール・トゥ・ロール・プロセスによって製造可能な、請求項1に記載の電極箔。
【請求項3】
前記フレキシブル電子デバイスが有機EL素子または有機太陽電池である、請求項1または2に記載の電極箔。
【請求項4】
少なくとも前記反射層側に絶縁層を有しない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項5】
前記電極箔の前記反射層側の最表面が、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、10.0nm以下の算術平均粗さRaを有する超平坦面である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項6】
前記算術平均粗さRaが3.0nm以下である、請求項5に記載の電極箔。
【請求項7】
前記金属箔が、25〜100μmの厚さを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項8】
前記金属箔が、非磁性金属箔である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項9】
前記金属箔が、銅箔である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項10】
前記反射層が、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜、銀膜、銀系合金膜からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項11】
前記反射層上に直接設けられる透明又は半透明のバッファ層をさらに備えてなり、前記バッファ層の表面が前記超平坦面を構成する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項12】
前記バッファ層が、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、およびフッ化物膜からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項10に記載の電極箔。
【請求項13】
前記電極箔が、25〜100μmの厚さを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項14】
前記金属箔の前記反射層と反対側の表面が、JIS B 0601−1994に準拠して測定される、1.0μm以上の十点平均粗さRzを有する粗化面である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の電極箔と、
前記電極箔の前記反射層側の最表面に直接設けられる有機EL層および/または有機太陽電池活性層からなる有機半導体層と、
前記有機半導体層上に設けられる、透明又は半透明の対向電極と、
を備えた、有機EL素子および/または有機太陽電池である、有機デバイス。
【請求項16】
前記対向電極が、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、およびフッ化物膜からなる群から選択される少なくとも一種を備えてなる、請求項15に記載の有機デバイス。
【請求項17】
請求項15または16に記載の有機デバイスを有機EL素子として備えてなる、有機EL照明。
【請求項1】
金属箔と、前記金属箔上に直接設けられる反射層とを備えてなり、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねたアノードまたはカソードとして用いられる、1〜100μmの厚さを有する電極箔。
【請求項2】
ロール・トゥ・ロール・プロセスによって製造可能な、請求項1に記載の電極箔。
【請求項3】
前記フレキシブル電子デバイスが有機EL素子または有機太陽電池である、請求項1または2に記載の電極箔。
【請求項4】
少なくとも前記反射層側に絶縁層を有しない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項5】
前記電極箔の前記反射層側の最表面が、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、10.0nm以下の算術平均粗さRaを有する超平坦面である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項6】
前記算術平均粗さRaが3.0nm以下である、請求項5に記載の電極箔。
【請求項7】
前記金属箔が、25〜100μmの厚さを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項8】
前記金属箔が、非磁性金属箔である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項9】
前記金属箔が、銅箔である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項10】
前記反射層が、アルミニウム膜、アルミニウム系合金膜、銀膜、銀系合金膜からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項11】
前記反射層上に直接設けられる透明又は半透明のバッファ層をさらに備えてなり、前記バッファ層の表面が前記超平坦面を構成する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項12】
前記バッファ層が、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、およびフッ化物膜からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項10に記載の電極箔。
【請求項13】
前記電極箔が、25〜100μmの厚さを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項14】
前記金属箔の前記反射層と反対側の表面が、JIS B 0601−1994に準拠して測定される、1.0μm以上の十点平均粗さRzを有する粗化面である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の電極箔。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の電極箔と、
前記電極箔の前記反射層側の最表面に直接設けられる有機EL層および/または有機太陽電池活性層からなる有機半導体層と、
前記有機半導体層上に設けられる、透明又は半透明の対向電極と、
を備えた、有機EL素子および/または有機太陽電池である、有機デバイス。
【請求項16】
前記対向電極が、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、およびフッ化物膜からなる群から選択される少なくとも一種を備えてなる、請求項15に記載の有機デバイス。
【請求項17】
請求項15または16に記載の有機デバイスを有機EL素子として備えてなる、有機EL照明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図10】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2012−212675(P2012−212675A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119754(P2012−119754)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【分割の表示】特願2011−536655(P2011−536655)の分割
【原出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【分割の表示】特願2011−536655(P2011−536655)の分割
【原出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】
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