説明

電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液

【課題】電気ニッケル−タングステン合金めっき浴用のタングステンの補給液、特に、陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を用いる電気ニッケル−タングステン合金めっき方法において、従来の問題点を解消し得るタングステンの補給液を提供する
【解決手段】三酸化タングステン、クエン酸又はそのアンモニウム塩、及びアンモニアを含有する水溶液からなる、電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気ニッケル−タングステンめっき浴用のタングステンの補給液、及びタングステンの補給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気ニッケル−タングステンめっき浴から形成されるニッケル−タングステン合金は、硬度、耐摩耗性などの機械的特性に優れており、更に、酸、アルカリ、溶剤等に対する耐薬品性にも優れているため、金型やローラー等に用いられている。
【0003】
ニッケル−タングステン合金を形成するための電気めっき方法としては、ニッケル塩及びタングステン酸塩を含有し、クエン酸を錯化剤として含むめっき浴を用いて電気めっきを行うHolt法、酒石酸を錯化剤として含むめっき浴を用いて電気めっきを行うBrenner法などが知られている。これらの電気めっき方法では、陽極としてニッケルとタングステンのいずれか一方が用いられており、長期間連続して電気めっきを行うと、めっき浴中のニッケルまたはタングステンの濃度が低下して適切なめっき浴組成を維持することができず、連続的にめっきすることが困難であった。
【0004】
ニッケルとタングステンの両方と不溶性陽極を陽極として用いて電気めっきを行う方法も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、多数の整流器を用いる等、極めて複雑な装置および設備が必要であり、また、電気めっきを行う際には、各陽極からの金属の溶解の制御が困難であり、めっき浴の組成維持のために非常に煩雑な管理が必要である。
【0005】
一方、陽極として、不溶性陽極とニッケル陽極を用いて電気ニッケル−タングステンめっきを行い、消費したタングステン成分とニッケル成分を補給する方法も知られている(下記特許文献2参照)。この方法では、ニッケルとタングステンの両方を陽極として用いる方法と比較すると、設備が簡素化され、めっき浴の制御も比較的容易である。しかしながら、この方法では、タングステン成分の補給には、パラタングステン酸アンモニウムが用いられており、タングステン濃度は最大で70g/L程度と低く、補給液量が多量に必要となる。このため、補給液の運搬が負担となる他、補給液の大量補給により、めっき浴そのものの体積が増大して、めっき浴組成が希釈されることや、めっき浴がめっき槽からあふれる等の問題が発生することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3104704号
【特許文献2】特許第1937949号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、電気ニッケル−タングステン合金めっき浴用のタングステンの補給液、特に、陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を用いる電気ニッケル−タングステン合金めっき方法において、従来の問題点を解消し得るタングステンの補給液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、タングステン化合物として三酸化タングステンを用い、更に、これにクエン酸又はそのアンモニウム塩とアンモニアを配合した水溶液を電気ニッケル−タングステン合金めっき浴のタングステン成分の補給液として用いる場合には、長期間継続して補給した場合にも、めっき浴の性能に悪影響を及ぼす成分が蓄積することなく、長期間継続して良好なニッケル−タングステン合金めっき皮膜を形成できることを見出した。しかも、この補給液では、従来の補給液と比較して、タングステン濃度を高くすることが可能であり、補給液の液量を低減することができる。本発明は、この様な知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液、及びタングステン補給方法を提供するものである。
1. 三酸化タングステン、クエン酸又はそのアンモニウム塩、及びアンモニアを含有する水溶液からなる、電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液。
2. 三酸化タングステン濃度が90g/L以上であって、三酸化タングステン1モルに対してクエン酸又はそのアンモニウム塩を0.1〜1.3モル含有し、アンモニアでpH7以上に調整された水溶液である上記項1に記載のタングステン補給液。
3. 陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際に、電気ニッケル−タングステン合金めっき浴のタンググステンの補給用として用いられる、上記項1又は2に記載のタングステン補給液。
4. 電気ニッケル−タングステンめっき浴が、ニッケル塩、タングステン酸塩、及びクエン酸類を含有し、pHが7.0±1.0に調整されためっき浴である上記項3に記載のタングステン補給液。
5. 陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際に、電気ニッケル−タングステン合金めっき浴中の消費されたタングステンを、上記項1〜4のいずれかに記載の補給液を用いて補給することを特徴とする、電気ニッケル−タングステンめっき浴中のタングステンの補給方法。
6. 上記項5に記載のタングステンの補給方法において、不溶性陽極が陽イオン交換樹脂製の隔膜を有する陽極室中に収容されためっき装置を用いて電気ニッケル−タングステン合金めっきが行われる、タングステン成分の補給方法。
【0010】
以下、本発明の電気ニッケル−タングステンめっき浴用補給液について具体的に説明する。
【0011】
電気ニッケル−タングステン合金めっき浴用タングステン補給液
本発明の電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液は、三酸化タングステン、クエン酸のアンモニウム塩及びアンモニアを含有する水溶液である。この補給液は、本来不溶性の三酸化タングステンをクエン酸又はそのアンモニウム塩、及びアンモニアと共に用いることによって、タングステン金属を高濃度で含む水溶液とすることを可能としたものである。しかも、該補給液に含まれる成分は、いずれも、電気めっきを行う際に分解又は蒸発によって消費される成分であり、めっき浴中にほとんど蓄積しない。このため、タングステン成分を繰り返し補給する場合にも、長期間安定して良好なニッケル−タングステン合金めっき皮膜を形成できる。
【0012】
本発明では、クエン酸又はクエン酸のアンモニウム塩を用いることができ、クエン酸のアンモニウム塩としては、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム等を例示できる。
【0013】
本発明の補給液の組成については、特に限定的ではないが、好ましい補給液は、タングステン金属量として71g/L程度以上含む水溶液、即ち、三酸化タングステンを90g/L程度以上の高濃度で含む水溶液である。三酸化タングステンの濃度の上限については、その溶解度までとすることができ、例えば、後述する量のクエン酸のアンモニウム塩及びアンモニアと組み合わせて用いることによって、三酸化タングステン400g/L程度まで含む水溶液とすることができる。
【0014】
クエン酸又はそのアンモニウム塩の濃度は、三酸化タングステン1モルに対して、0.1〜1.3モル程度とすることが好ましい。また、アンモニアの添加量は、該補給液のpHが7以上となる量とすればよく、好ましくはpHが7〜14程度となる量とすればよい。
【0015】
電気ニッケル−タングステン合金めっき浴
本発明のタングステン補給液によって補給する対象となる電気ニッケル−タングステン合金めっき浴の種類については、特に限定的ではないが、特に、補給対象として適切なめっき浴は、ニッケル塩、タングステン酸塩、及びクエン酸類を含有し、pHが7.0±1.0に調整されためっき浴である。
【0016】
該めっき浴中のニッケル塩は、特に限定的ではないが、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ふっ化ニッケル、硝酸ニッケル、クエン酸ニッケル、タングステン酸ニッケル等を例示でき、硫酸ニッケルが最も好ましい。タングステン酸塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム等を例示でき、タングステン酸ナトリウムが最も好ましい。クエン酸類としては、クエン酸の他、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム等を例示でき、クエン酸二アンモニウムが最も好ましい。
【0017】
上記した各成分の浴中濃度としては、ニッケル塩とタングステン酸塩の合計濃度は0.1〜1.0mol/L程度が好ましく、0.2〜0.4mool/L程度がより好ましい。このとき、タングステン酸塩濃度(モル濃度)はニッケル塩濃度(モル濃度)よりも高い方が好ましく、モル濃度比率でタングステン酸塩濃度:ニッケル塩濃度=1:1〜4:1程度とすることが好ましい。
【0018】
クエン酸類の濃度は、ニッケル塩とタングステン酸塩の合計モル濃度(mol/L)に対して、0.5倍〜2.0倍とすることが好ましく、0.9倍〜1.3倍程度とすることがより好ましい。
【0019】
本発明の補給液の補給対象として適切なめっき浴として、下記の組成範囲のめっき浴を例示できる。
硫酸ニッケル(ニッケル塩) 26.3g/L(0.10mol/L) ±10%
タングステン酸ナトリウム(タングステン酸塩) 66.0g/L (0.20mol/L)±10%
クエン酸二アンモニウム(クエン酸塩) 74.6g/L (0.33mol/L)±10%
pH7.0±1.0(硫酸又はアンモニア水で調整)
【0020】
めっき方法及び補給方法
本発明の補給液は、電気ニッケル−タングステン合金めっき浴用のタングステンの補給液として用いられるものであり、特に、陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際のタングステンの補給用として適したものである。
【0021】
この場合の不溶性陽極としては、特に限定はないが、ステンレス板、白金をコーティングした陽極板、酸化イリジウム及び酸化タンタルの一方又は両方をコーティングした陽極板等を用いることができる。
【0022】
電気ニッケル−タングステン合金めっき方法については、特に限定はなく、常法に従って電気めっき処理を行えばよい。電気めっきの条件については、公知のめっき条件の範囲において適宜決定すればよいが、例えば、上記した組成範囲のめっき浴を用いる場合には、浴温40℃〜80℃程度、好ましくは50℃〜70℃程度、陰極電流密度1A/dm〜20A/dm程度、好ましくは5A/dm〜15A/dm程度とすればよい。
【0023】
尚、不溶性陽極とニッケル陽極を併用する場合には、不溶性陽極とニッケル陽極の陽極面積の比率、電流の比率などについて、予め試験を行って適正な値を設定すればよい。
【0024】
本発明の補給液は、上記した方法で電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際に、タングステンの補給用として用いることができる。
【0025】
タングステンの補給量については、ニッケル−タングステン合金めっき浴中のタングステンの濃度を定期的に分析して、消耗量を加えればよい。また、ニッケル陽極を用いることなく、不溶性陽極のみを用いる場合には、一定のタングステンとニッケルの比率の合金めっき皮膜が形成されるとして、ニッケル濃度を分析することによって、タングステン濃度の減少量を推定して、本発明の補給液を補給してもよい。この場合、ニッケルの濃度測定は、例えば、キレート滴定法などによって簡単に行うことができる。
【0026】
本発明の補給液によれば、従来用いられていたパラタングステン酸アンモニウムをタングステン成分とする補給液と比べて、タングステン濃度を高くすることができる。このため、補給に要する液量を減少させることができ、補給液の運搬の負担が軽減され、補給液の大量補給によるめっき浴量の増大を防止することができる。
【0027】
めっき浴中のニッケル成分については、不溶性陽極とニッケル陽極を併用する場合には、ニッケル陽極から溶出するニッケルイオンによって供給することができる。また、不溶性陽極のみを用いる場合、或いは、ニッケル陽極を併用する場合であっても、ニッケルの供給量が不足する場合には、ニッケルについても、補給剤を用いて補給すればよい。ニッケルの補給剤については特に限定はないが、例えば、炭酸ニッケルのペーストを好適に用いることができる。炭酸ニッケルペーストは浴温が50℃以上の場合に良好な溶解性を示し、更に、めっき浴に溶解後、炭酸イオンはめっき浴中から大気中に飛散し、他のニッケル塩類を用いたときのような、陰イオン成分の蓄積がない。
【0028】
尚、めっき浴のpHについては、変動が小さく、頻繁な調整は不要であるが、めっき処理を継続するとpHが低下する傾向がある。この場合には、例えば、アンモニア水を用いてpH調整を行えばよい。
【0029】
不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用する電気ニッケル−タングステン合金めっき方法では、不溶性陽極において、電気エネルギーは金属溶解に利用されず、水素発生や浴成分の化学変化に用いられる。このため、不溶性陽極の使用は、めっき浴組成に対して悪影響を及ぼす可能性があり、特に、クエン酸イオンの濃度低下が生じ易くなる。このため、不溶性陽極は、陽イオン交換樹脂を隔膜とする陽極室に収容することが好ましい。これにより、浴中のクエン酸イオンの不溶性陽極への接近および接触が阻害され、クエン酸イオン濃度の低減を大きく緩和することができる。
【0030】
陽極室中の陽極液としては、希硫酸などの酸が好ましい。一般的にアルカリ性を有するタングステン補給液や炭酸ニッケルペーストをめっき浴に添加することによって、浴のpHがアルカリ側へ変動し易くなるが、陽極室中の酸濃度を適切に設定することにより、隔膜を通じて水素イオンが陽極液よりめっき浴に移動してpHが低下し、pHの変動を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液は、従来の補給液と比べて、タングステン濃度を高くすることが可能であり、補給に要する液量を減少させることができる。このため、補給液の運搬の負担が軽減され、補給液の大量補給によるめっき浴量の増大を防止することができる。更に、本発明の補給液中に含まれる成分は、めっき処理時に分解、蒸発などによって消耗するものであり、めっき液中への不純物の蓄積が抑制される。
【0032】
従って、本発明の補給液を用いることによって、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際に、タングステンの補給が容易となり、ニッケルとタングステンの両方を陽極として用いる方法と比較して、簡素化された設備を用いて、長期間連続して安定な組成の電気ニッケル−タングステン合金めっき皮膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で用いためっき装置の概略図。
【図2】実施例2で用いためっき装置の概略図。
【図3】比較例2で用いためっき装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0035】
実施例1
図1に示すめっき装置を用いて下記のめっき処理を行った。図1の装置では、めっき槽本槽(1a)中に、陰極(3)として、脱脂、酸活性、及び電気ニッケルストライクめっきを行った50×50×0.3mmの鉄板が懸吊され、これと対向する位置に陽イオン交換樹脂を隔膜(4)として、約1.8mol/Lの硫酸を陽極液(5)とする陽極室(6)中に不溶性陽極(7)が懸吊され、これらの電極はリード線(9)により電源(8)に接続されている。
【0036】
めっき槽本槽(1a)は、仕切り板(1b)により2槽に分割されており、オーバーフロー槽(1c)と本槽(1a)は、ポンプ(10a)と配管(10b)により、ろ過器(11)を経由して接続されており、めっき処理中は、この経路によって、めっき液が循環される。
【0037】
上記しためっき装置のめっき槽本槽(1a)に、下記組成の電気ニッケル−タングステンめっき浴を入れて、浴温60℃で5A(陰極電流密度10A/dm2)の電流を通電して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行った。
めっき浴組成
硫酸ニッケル 26.3g/L
タングステン酸ナトリウム 66.0g/L
クエン酸二アンモニウム 74.6g/L
pH 7.0(硫酸又はアンモニア水により調整)
【0038】
1時間経過毎に、めっき浴中のニッケルイオン濃度をエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液を滴定液としてキレート滴定法により測定し、建浴時の濃度と比較したときの不足分を炭酸ニッケルペースト(昭和化学製、Ni 13wt%)により補給した。タングステン成分については、補給したニッケル重量の1.1倍重量のタングステン量となるように、下記組成の補給液を用いて、オーバーフロー槽より補給した。めっき浴のpH調整もめっき1時間毎に実施し、アンモニア水および硫酸水溶液を使用した。
タングステン補給液組成
三酸化タングステン 126g/L(タングステン量として100g/L)
クエン酸二アンモニウム 80g/L
25%アンモニア水 90g/L
pH 8.5〜9.5
【0039】
上記した方法で100AH/L以上の連続使用を行ったが、タングステン濃度が43〜53wt%のニッケル−タングステン合金めっき皮膜を安定して得ることができた。また、めっき浴中への老廃物の蓄積も認められず、めっき作業によるめっき浴への悪影響は認められなかった。
【0040】
実施例2
図2に示すめっき装置を用いて下記のめっき処理を行った。図2の装置では、陽極として、不溶性陽極(7a)と溶解性ニッケル陽極(7b)を用い、不溶性陽極(7a)は、陽イオン交換樹脂を隔膜(4)として、約1.8mol/Lの硫酸を陽極液(5)とする陽極室(6a)に収容し、ニッケル陽極(7b)は布製のアノードバック(6b)に収容されて、それぞれ、めっき浴中に懸吊されている。これらの陽極は、リード線(9a、9b)により電源(8a、8b)と結合されている。その他の構造は、図1のめっき装置と同様である。
【0041】
めっき槽本槽(1a)には、下記組成の電気ニッケル−タングステンめっき液を供給した。このめっき浴は、ニッケル陽極の溶解を促すために、ニッケル塩の一部として臭化ニッケルを用いるものである。
めっき浴組成
硫酸ニッケル 25.0g/L
臭化ニッケル 1.4g/L
タングステン酸ナトリウム 66.0g/L
クエン酸二アンモニウム 74.6g/L
pH 7.0(硫酸又はアンモニア水により調整)
【0042】
上記しためっき装置を用いて、浴温60℃において総電流5A(陰極電流密度 10A/dm2)で電気ニッケル−タングステン合金めっきを行った。
【0043】
タングステン成分の補給はめっき1時間毎に実施し、めっき処理の初期は、補給に先だって、めっき浴中のタングステン成分濃度をICP発光分析法により測定し、建浴時の濃度と比較したときの不足分を実施例1で用いたものと同じタングステン補給液を用いて補給し、途中からは初期の結果に基づいて、目安で補給を行った。
【0044】
ニッケル成分は、ニッケル陽極の溶解により補給されたが、めっき処理の初期に頻繁にニッケルイオンの分析を行い、総電流は5A(陰極電流密度 10A/dm2)で一定とし、溶解性ニッケル陽極の電流と不溶性陽極の電流を変化させて、溶解性ニッケルへの電流を5%〜25%とし、残りを不溶性陽極として、ニッケルイオン濃度を初期濃度に近い値に維持した。
【0045】
めっき浴のpH調整もめっき1時間毎に実施し、アンモニア水および硫酸水溶液を使用した。
【0046】
上記した方法で100AH/L以上の連続使用を行ったが、タングステン濃度が43〜53wt%のニッケル−タングステン合金めっき皮膜を安定して得ることができた。また、めっき浴中への老廃物の蓄積も認められず、めっき作業によるめっき浴への悪影響は認められなかった。
【0047】
比較例1
ニッケル成分の補給に硫酸ニッケル水溶液(Ni量として100g/L)を用い、タングステン成分の補給にタングステン酸ナトリウム(W量として100g/L)用いたこと以外は、実施例1と同じめっき装置とめっき浴を用いて、実施例1と同じ方法で電気ニッケル−タングステン合金めっき処理と、ニッケル及びタングステン成分の補給を行った。
【0048】
その結果、めっき浴中の硫酸イオン、ナトリウムイオンおよびアンモニウムイオンの老廃物が、連続使用により急激に増加し、それにより、めっき皮膜中のタングステン濃度も低下する傾向が認められ、めっき皮膜の特性が低下した。従って、このまま継続してめっきを行うと、老廃物がめっき浴中で飽和して、再結晶を起こし、めっき浴として使用不可能になると思われた。
【0049】
比較例2
図3に示すめっき装置を用いて下記のめっき処理を行った。図3の装置では、陽極として、不溶性陽極(7a)、溶解性ニッケル陽極(7b)及び溶解性タングステン陽極(7c)を用い、不溶性陽極(7a)は、陽イオン交換樹脂を隔膜(4)として、約1.8mol/Lの硫酸を陽極液(5)とする陽極室(6a)に収められ、ニッケル陽極(7b)とタングステン陽極(7c)は、それぞれ布製のアノードバック(6b、6c)に収められて、それぞれ、めっき浴中に懸吊されている。これらの陽極は、リード線(9a、9b、9c)により電源(8a、8b、8c)に結合されている。その他の構造は、図1のめっき装置と同様である。
【0050】
めっき槽本槽(1a)には、実施例2と同じ組成の電気ニッケル−タングステンめっき浴を入れ、浴温60℃において、総電流5A(陰極電流密度 10A/dm2)にて電気ニッケル−タングステン合金めっきを行った。
【0051】
めっき1時間毎にめっき浴中のタングステン成分濃度をICP発光分析法、ニッケル成分をエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを用いたキレート滴定によりそれぞれ測定し、その結果を基にして3つの電源(8a)、(8b)、(8c)の電流値を調整した。めっき浴のpH調整もめっき1時間毎に実施し、アンモニア水および硫酸水溶液を使用した。
【0052】
その結果、めっき浴中のニッケル濃度、タングステン濃度を一定に維持する3つの整流器の電流値の設定が困難であった。また、錯化剤であるクエン酸濃度の低下が認められ、これにより、浴中に沈殿が発生し、形成される合金皮膜の組成が大きく変動して、安定した性能の析出皮膜が得ることができなかった。
【0053】
比較例3
タングステン化合物としてパラタングステン酸アンモニウムを用い、クエン酸と組み合わせて、タングステン金属量として100g/Lの補給液を調製したが、パラタングステン酸アンモニウムの溶解性が不十分であり、不溶解分が生じて、均一な補給液を調製することができなかった。
【符号の説明】
【0054】
1a:めっき槽本槽
1b :仕切り
1c:オーバーフロー槽
2:めっき浴
3:陰極
4:陽イオン交換樹脂
5:陽極液
6, 6a:陽極室
6b : 溶解性ニッケル陽極用アノードバック
6c:溶解性タングステン用アノードバック
7, 7a:不溶性陽極
7b:溶解性ニッケル陽極
7c:溶解性タングステン陽極
8, 8a, 8b, 8c:電源
9, 9a, 9b, 9c:リード線
10a:ポンプ
10b:配管
11:ろ過器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酸化タングステン、クエン酸又はそのアンモニウム塩、及びアンモニアを含有する水溶液からなる、電気ニッケル−タングステンめっき浴用タングステン補給液。
【請求項2】
三酸化タングステン濃度が90g/L以上であって、三酸化タングステン1モルに対してクエン酸又はそのアンモニウム塩を0.1〜1.3モル含有し、アンモニアでpH7以上に調整された水溶液である請求項1に記載のタングステン補給液。
【請求項3】
陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際に、電気ニッケル−タングステン合金めっき浴のタンググステンの補給用として用いられる、請求項1又は2に記載のタングステン補給液。
【請求項4】
電気ニッケル−タングステンめっき浴が、ニッケル塩、タングステン酸塩、及びクエン酸類を含有し、pHが7.0±1.0に調整されためっき浴である請求項3に記載のタングステン補給液。
【請求項5】
陽極として、不溶性陽極を単独で用いるか、或いは、不溶性陽極とニッケル陽極を併用して、電気ニッケル−タングステン合金めっきを行う際に、電気ニッケル−タングステン合金めっき浴中の消費されたタングステンを、請求項1〜4のいずれかに記載の補給液を用いて補給することを特徴とする、電気ニッケル−タングステンめっき浴中のタングステンの補給方法。
【請求項6】
請求項5に記載のタングステンの補給方法において、不溶性陽極が陽イオン交換樹脂製の隔膜を有する陽極室中に収容されためっき装置を用いて電気ニッケル−タングステン合金めっきが行われる、タングステン成分の補給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184785(P2011−184785A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54188(P2010−54188)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)