説明

電気伝導性複合化合物の製造方法

【課題】12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成の化合物に簡便な方法によって電気伝導性を付与することを目的とする。
【解決手段】12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成の化合物を、炭素とともに、窒素を主成分とする雰囲気中で、700℃以上1500℃以下で、10分以上24時間以下で加熱して電子を包接させてなることを特徴とする電気伝導性複合化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
12CaO・7Al2 3 で表されるアルミナ・カルシヤ化合物(以下、適宜「C12A7」と略す。)の結晶が、高い電気伝導性を有することは既に知られており、その理由としては、C12A7で形成されたケージ内に電子が包接されているためと考えられている。
このようなケージ内に電子を包接するC12A7は、シリカガラス中にC12A7単結晶をアルカリ金属と共に真空封入し、加熱して、C12A7単結晶をアルカリ金属蒸気に数十〜数百時間さらすことで、作製可能であることが特許文献1に開示されている。
しかしながら、この方法は、結晶内部まで均一に電子を包接できるため電気伝導性の高い化合物を得ることができるが、真空プロセスで長時間の加熱を要するという工程上の制御の困難さが問題となっている。
【0002】
また、C12A7微粉末を2000kg/cm2 でプレス成形したC12A7プレス体をカーボン坩堝中に配し、カーボン蓋をして1550℃以上で加熱溶融することでケージ内に電子を包接できることが特許文献1に開示され、またC12A7粉末をカーボン坩堝中に配し、カーボン蓋をして1600℃で加熱溶融し、その後急冷固化してガラス状態にした後、再加熱することで、ケージ内に電子を包接できることも特許文献2に開示されている。
これら二つの方法は、真空プロセスを経ないものの、前者ではプレス成型が必須な上、加熱溶融するため1550℃以上の高温が必要であること、後者では、1600℃で加熱溶融した後に再度加熱する必要があるなど煩雑な操作を必要とするため工程上の制御の困難さが解消されたとはいえない。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号公報
【特許文献2】特開2005−314196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、出発物質の状態(単結晶、粉末、焼結体、プレス成型体、薄膜等)、反応時の状態(非溶融状態、溶融液状態等)に関係なく、さらに煩雑な操作(真空プロセス、複数回加熱等)を必要としないで高い電気伝導性を有する複合化合物を作製することを目的とするものであって、特に12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成の化合物に簡便な方法によって電気伝導性を付与することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成を有する化合物を、炭素と接触させ、窒素中で数時間加熱処理することで、電子が包接された高い電気伝導性を有する複合化合物を得ることが出来ることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成の化合物を、炭素とともに、窒素を主成分とする雰囲気中で、700℃以上1500℃以下で、10分以上24時間以下で加熱して電子を包接させてなることを特徴とする電気伝導性複合化合物の製造方法、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明による電気伝導性複合化合物は、出発物質の状態、反応時の状態に関係なく、さらに煩雑な操作を必要としないで合成することがが可能である。したがって、産業上プロセスの簡易化が可能であり、該電気伝導性複合化合物は、冷電子銃、電極、電子注入体、還元剤等の用途に応用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の出発物質である12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成を有する化合物は、以下の方法により得ることができる結晶構造を有する化合物である。
本発明における12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される化合物は、上記組成に相当するように混合した2種以上の原材料を用いて製造することができる。
具体的には原材料として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、これらの原材料群からカルシウム(Ca)量と、ストロンチウム(Sr)量の合計とアルミニウム(Al)量との原子当量比で12:14になるように選択すればよい。
【0008】
上記のように選択された原材料を用いて、公知の一般的な方法を用いて出発物質である12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)を作製することができる。例えば特に限定はしないが、選択された原料を湿式混合してその後700℃〜1400℃程度で3〜12時間程度焼成することで12SrO・7Al2 3 (以下、適宜「S12A7」と略す。)や、C12A7の粉末を得ることができる。さらに得られたS12A7や、C12A7の粉末をプレス成形してプレス成形体として、700℃〜1400℃程度で3〜12時間程度焼成することで焼結体を得ることができる。また一般的な成膜法であるパルスレーザーデポジシュン(PLD)法やスパッタ法を用いて得られた焼結体をターゲットとして薄膜を得ることができる。さらに白金るつぼ等に選択された原料を投入しチョクラルスキー法(Cz法)やフローティングゾーン法(FZ法)を用いて単結晶を得ることができる。以上のようにして本発明の出発物質である12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成を有する化合物を製造することができる。
【0009】
以上のようにして得られた12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)に電気伝導性を付与するために、本発明では以下のような処理をすることを特徴とするものであり、以下にその処理方法を詳説する。
先ず、出発物質である12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)の形態は、単結晶、焼結体、プレス成型体、粉末、薄膜、またそれらの混合形態など多様な形態を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
本発明では、上記の12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)とそれに添加される炭素とを窒素を主成分とする雰囲気下で、特定の温度条件で特定時間加熱することを特徴とするが、ここに用いることができる炭素とは、炭素を主成分とする材料のことであり、炭素を主成分とする材料としては、12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)と接触可能で炭素を含有しているものであれば特に材料、純度、形状、形態は問わない。
【0010】
例えば、試薬で販売されているカーボン、グラファイト、ダイアモンド、活性炭、炭等の炭素とそれ以外の不純物を含むもの、石炭、さらには有機物質等、またそれらの混合物等を用いることができる。ここで有機物質とは、本発明の要件である窒素を主成分とする雰囲気中での加熱により、炭化するため炭素としての使用が可能なものであり、特に、沸点の高い溶媒、ポリマー等が好適である。
本発明における炭素の形態は、粉末、平板状・シート状、坩堝状、ボート状、液状等が挙げられる。坩堝状、ボート状に加工して容器にすることで、炭素との接触と容器を同時に兼ねることが可能であり、効率がよい。
【0011】
そして、加熱雰囲気である窒素を主成分とする雰囲気とは、加熱炉に窒素を主成分とするガスを導入して加熱できるものであれば如何なるものでああっても構わず、本発明の窒素を主成分とするガスとは、窒素ガスボンベや液体窒素を気化して得られる窒素ガスから供給されるガス、またそれらのガスをその他のガスで希釈して得られる混合ガスのことをいう。本発明における混合ガスとは、主成分が窒素であれば、希釈ガスは特に制限されるものではないが、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、水素、塩素等を挙げることができる。
本発明において、窒素を主成分とするとは、窒素の含有量が体積比で70vol%以上100vol%以下のことをいい、好ましくは80vol%以上100vol%以下、さらに好ましくは95vol%以上100vol%以下である。窒素の含有量が体積比で70vol%以下になると、反応が進行せず、または反応速度が非常に遅くなるため好ましくない。
【0012】
本発明は、以上の条件の下で加熱処理を行うが、本発明での加熱処理温度は、700℃以上1500℃以下が好ましい。700℃以下では、反応が進行せず、電子が包接されない。一方、1500℃以上では加熱炉に使用される発熱体の制限が大きく加わることやエネルギー的に非効率であるため好ましくない。
また、本発明における加熱時間は、10分以上24時間以下が好ましく、より好ましくは30分以上18時間以下、さらに好ましくは、30分以上12時間以下であり、最も好ましくは1時間以上8時間以下である。加熱時間が短すぎると均一な電気伝導体複合化合物が得られにくく、加熱時間が長すぎるとプロセス上好ましくない。
以上、本発明の12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成を有する化合物を出発原料として、電子を包接させた電気伝導性複合化合物を製造するための製造条件を説明したが、本発明の製造方法によって、出発物質である12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成を有する化合物は、その主たるケージ状の構造中に電子を包接することとなり高い電気伝導性を得ることができる。
【実施例】
【0013】
以下に、本発明を実施例などにより更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら制限されるものではない。
本発明に用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
〔X線解析(XRD)〕
理学電気(株)製RINT2000において、CuのKα線を用いて測定する。測定条件は、加速電圧50KV、加速電流は200mA、受光スリット幅0.15mm、走査速度4°/分、サンプリング0.02°である。なお回折線はグラファイトのモノクロメーターにより単色化されてカウントされる。構造は、Materials Data社製のJADEを用いて同定を行う。
【0014】
〔電気特性〕
電子濃度は、光吸収スペクトルから算出し、薄膜については吸収スペクトルを、それ以外については拡散反射スペクトルからクベルカ−ムンク法により求めた光吸収スペクトルを用いた。
電気抵抗は、移動度および電子濃度より求めた。
電子濃度測定および電気抵抗測定の詳細は、先記した特許文献1及び2に開示された方法を用いて行った。
【0015】
[実施例1]
Cz法により作製したC12A7単結晶(12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0))をカーボンボート上に配し、200cc/minの窒素ガスをフローした電気炉で1350℃、2時間加熱して電気伝導性複合化合物を得た。
得られた電気伝導性複合化合物は、加熱により溶融しておらず、電子濃度1020/cm3 で、10S/cmと高い伝導性を示した。
【0016】
[実施例2]
2.00gのCaCO3 (高純度化学)と2.17gのγ−Al2 3 (高純度化学)をエタノール(和光純薬)中で湿式混合して、均一に混合された試料を得た。得られた試料を1300℃、6時間焼成した。得られた化合物は、XRDによりC12A7に帰属できた。得られたC12A7の粉末をカーボンボート上に配し、200cc/minの窒素ガスをフローした電気炉で1480℃、2時間加熱して電気伝導性複合化合物を得た。
得られた電気伝導性複合化合物は、加熱により溶融状態を経ており、電子濃度1019/cm3 で、1S/cmと高い伝導性を示した。
【0017】
[実施例3]
実施例2と同様の方法で得られたC12A7の粉末をΦ15mmの大きさに錠剤成型機を用いて200kg/cm2 でプレスしてC12A7ペレットを得た。C12A7ペレットを再度1300℃、6時間焼成してC12A7焼結体を得た。C12A7焼結体を厚さ5mmのPETフィルム上に配し、200cc/minの窒素ガスをフローした電気炉で1350℃、4時間加熱して電気伝導性複合化合物を得た。
得られた電気伝導性複合化合物は、加熱により溶融しておらず、電子濃度1020/cm3 で、6S/cmと高い伝導性を示した。
【0018】
[実施例4]
2.00gのCaCO3 (高純度化学)と2.17gのγ−Al2 3 (高純度化学)をエタノール(和光純薬)中で湿式混合して、均一に混合された試料を得た。得られた試料をカーボン坩堝中に入れ、200cc/minの窒素ガスをフローした電気炉で1480℃、1時間加熱して電気伝導性複合化合物を得た。得られた電気伝導性複合化合物は、加熱により溶融状態を経ており、電子濃度1019/cm3 で、3S/cmと高い伝導性を示した。
尚、上記条件下、電気炉温度が950℃の時の反応生成物を取り出してXRDで確認したところC12A7に帰属できた。
【0019】
[実施例5]
2.43gのSr(OH)2 (高純度化学)と2.17gのγ−Al2 3 (高純度化学)をエタノール(和光純薬)中で湿式混合して、均一に混合された試料を得た。得られた混合物をカーボン坩堝上に入れ、200cc/minの窒素をフローした電気炉で900℃、12時間加熱した。得られた化合物は、XRDによりS12A7に帰属でき、加熱により溶融しておらず、電子濃度1019/cm3 で、2S/cmと高い伝導性を示す電気伝導性複合化合物であった。
尚、上記条件下、電気炉温度が700℃の時の反応生成物を取り出してXRDで確認したところS12A7に帰属できた。
【0020】
[実施例6]
0.74gのCa(OH)2 (高純度化学)と1.215gのSr(OH)2 (高純度化学)と2.17gのγ−Al2 3 (高純度化学)をエタノール(和光純薬)中で湿式混合して、均一に混合された試料を得た。得られた混合物をカーボン坩堝上に入れ、200cc/minの窒素をフローした電気炉で1000℃、4時間加熱した。得られた化合物は、XRDによりC12A7とS12A7の混晶体に帰属でき、加熱により溶融しておらず、電子濃度1019/cm3 で、1S/cmと高い伝導性を示す電気伝導性複合化合物であった。
尚、上記条件下、電気炉温度が900℃の時の反応生成物を取り出してXRDで確認したところC12A7とS12A7の混晶体に帰属できた。
【0021】
[実施例7]
2.00gのCaCO3 (高純度化学)と2.17gのγ−Al2 3 (高純度化学)および1.00gのカーボン粉末(高純度化学)をエタノール(和光純薬)中で湿式混合して、均一に混合された試料を得た。得られた試料をアルミナボート上に配し、200cc/minの窒素ガスをフローした電気炉で1480℃、1時間加熱して電気伝導性複合化合物を得た。
得られた電気伝導性複合化合物は、加熱により溶融状態を経ており、電子濃度1019/cm3 で、1S/cmと高い伝導性を示した。
尚、上記条件下、電気炉温度が950℃の時の反応生成物を取り出してXRDで確認したところC12A7とカーボンに帰属できた。
【0022】
[実施例8]
実施例3と同様の方法で得られたC12A7焼結体を用いて、パルスレーザーデポジション(PLD)法によりMgO基板上にC12A7を堆積させ、該薄膜を1100℃、1時間焼成して厚さ300nmのC12A7薄膜を得た。得られたC12A7薄膜上をカーボン粉末(高純度化学)で覆い、200cc/minの窒素をフローした電気炉で1350℃、1時間加熱して電気伝導性複合化合物を得た。
得られた電気伝導性複合化合物は、加熱により溶融しておらず、電子濃度1020/cm3 で、6S/cmと高い伝導性を示した。
【0023】
[比較例1]
200cc/minの窒素をフローするかわりに200cc/minのヘリウムをフローする以外は、実施例1と同様に操作して、複合化合物を得た。
得られた複合化合物は、絶縁体であった。
[比較例2]
200cc/minの窒素をフローするかわりに200cc/minのアルゴンをフローする以外は、実施例2と同様に操作して、複合化合物を得た。
得られた複合化合物は、絶縁体であった。
[比較例3]
厚さ5mmのPETフィルムのかわりにアルミナ板にC12A7焼結体を配する以外は実施例3と同様に操作して、複合化合物を得た。
得られた複合化合物は、絶縁体であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の電気伝導性複合化合物は、高い電気伝導性を有しかつプロセス性にも優れるため、冷電子銃、電極、電子注入体、還元剤等の分野に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
12Ca1-X SrX O・7Al2 3 (x=0〜1)で示される組成の化合物を、炭素とともに、窒素を主成分とする雰囲気中で、700℃以上1500℃以下で、10分以上24時間以下で加熱して電子を包接させてなることを特徴とする電気伝導性複合化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−266105(P2008−266105A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115159(P2007−115159)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】