説明

電気化学装置を製造する方法

【課題】金属の用量を減少するために、ポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターからなる電気化学触媒層を用いて電極を形成し、当該電極を用いて電気化学装置を製造する方法する方法を提供する。
【解決手段】 触媒層を有する電極を形成する方法であって、表面に導電層を有する第一基板を提供する工程と、基板表面を調整する工程と、基板をポリマーで被覆するナノ貴金属クラスターを含有する第二溶液にディップすることにより、基板の調整された表面にポリマーで保護された電気化学触媒層を形成する工程と、約300℃より低い温度で、貴金属触媒層を熱処理する工程とを含む触媒層を有する電極を形成する方法を提供する。
また、前記電極を用いて電気化学装置を製造する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層を有する電極を形成する方法であって、特にポリマーで被覆された貴金属粒子からなる触媒層を用いて電極を形成する方法、及び前記電極を用いて電気化学装置を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、色素増感太陽電池(Dye−sensitized solar cell、DSSC)は低コストのエネルギー貯蔵素子になる可能性があるため、その発展が重視されてきた。通常、DSSCの陽極(photoanode)は、インジウム錫オキシド(Indium−tin oxide、ITO)またはフッ素ドープ酸化錫(Fluorine−doped tin oxide、FTO)のガラスに、色素増感ナノ結晶半導体層を沈積してなり、陰極には白金メッキ対極(counterelectrode)を用いる。一般的には、電解質は、適切な媒体の中にヨードと三ヨウ化物イオンを有する酸化還元対である。図1はDSSCの基本的な働きを示すものであり、それは(1)色素分子の中に光励起させることにより、電荷分離を発生させる工程(矢印1で示す)と、(2)電荷(ここでは電子)をメソ細孔(mesoporous)性チタニア(TiO2)の導電帯に注入する工程と、(3)電荷が、負荷(electronic load)により外付け回路に到達する工程(矢印2で示す)と、(4)電解質中の酸化還元対を介して、色素が基底状態に還元される工程(矢印3で示す)と、(5)外付け回路から得られた電荷によって、対極上に酸化還元対を還元する工程(矢印4で示す)という5つの工程に要約できる。
【0003】
DSSCの中で、対極上に酸化還元対を還元する反応は以下のように示すことができる。
3- + 2e- → 3I-
【0004】
ヨードイオンが酸化状態の色素分子を再生させる役を担うため、上記の還元反応は重要である。一旦、色素の再生速度が、酸化速度として電子が色素分子からTiO2の導電帯に進入する速度に追付くことができなくなると、電池全体の転換効率に大きく影響して、対極の表面にヨウ素の結晶を生じさせてしまうことさえある。
【0005】
従来技術において、直接にITOまたはFTOガラスの表面で、有機溶剤と接触して上記の還元反応を行うと、三ヨウ化物イオンの還元は非常に遅くなってしまう。故に、過電圧を下げるために、触媒材料はITOまたはFTOガラスの表面に塗布されて、反応の速度を上げる。
【0006】
今まで、最もよく使用される触媒材料は白金である。コストと効率を考慮して、現在、薄い白金層を形成する方法が、既に数多く発展している。最もよく採用されている方法は、スパッタリングである。この方法で製造される白金メッキ対極は、良好な効能を持つが、超高真空環境で行う必要があるので、コストが高くて、又下げられない。
【0007】
2004年、Papageorgiouらは、「Coord. Chem. Rev. 248」で「熱プラチナクラスター触媒(thermal cluster platinum catalyst)」という方法を発表した。この方法は、低い白金負荷量(約2〜10μg/cm2)、良好な動力学的効能(電荷移動抵抗、RCT<0.1Ωcm2)、及び従来のスパッタリング、電気化学的沈積のような白金を沈積する方法より優れた機械的安定性を提供している。王らが2004年に「Surf. Interface Anal. 36」で発表した文献は、更にX線光電子分光を利用して、熱プラチナクラスター触媒の安定性について研究し、プラチナクラスター触媒を加熱する間に、プラチナクラスター触媒の表面がヨードを少しずつ吸収して、プラチナクラスター触媒の効能を低下させることも発見した。再加熱処理により触媒の効能を再生できるが、この方法は380℃までに加熱する必要があるので、エネルギーを費やすだけでなく、量産にも向かない。
【0008】
他には、例えば、炭素と導電性高分子などの材料も、DSSCの中に三ヨウ化物イオン還元反応の触媒として提示されている。通常、これらの新たな材料は、より厚い空隙層を形成させてから基板に塗布する必要があり、そうして漸く何とか受け入れられる触媒効果を得ることができ、また、未だに研究開発の初歩段階にある。
【0009】
そのため、DSSCに関する研究と開発は、更にコストを下げ、効能を上げようと全力で取り組んでいる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、貴金属の用量を減少するために、ポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターからなる電気化学触媒層を用いて電極を形成する方法を提供することを目的とする。
【0011】
又、本発明は、電気化学装置の効能を高めるために、上記の電極を用いて電気化学装置を製造する方法を提供することをもう一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様により、基板表面に導電層を形成する工程と、基板表面を調整する(condition)工程と、ポリマーで被覆したナノ貴金属クラスターを含有する第二溶液に、基板をディップする(dip)ことにより、基板の調整した表面にポリマーで保護された電気化学触媒層を形成する工程と、約300℃より低い温度で、ポリマーで保護された電気化学触媒層を熱処理する工程とを含む電気化学触媒層を有する電極を形成する方法を提供する。
【0013】
本発明のもう一つ態様により、第一電極と第二電極を製作する工程と、第一電極と第二電極を組み立てる工程と、電解質を第一電極と第二電極の間に注入する工程とを含む電気化学装置を製造する方法を提供することであって、前記第一電極を製作する工程は、導電層を有する基板を提供する工程と、基板の表面を調整する工程と、ポリマーで被覆したナノ貴金属クラスターを含有する第二溶液に、基板をディップすることにより、基板の調整した表面にポリマーで保護された電気化学触媒層を形成する工程と、約300℃より低い温度で、ポリマーで保護された電気化学触媒層を熱処理する工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提示する方法により、貴金属の用量を減少でき、電気化学装置の効能を高めるだけでなく、全体の製造プロセスも従来のコーティング方式より簡単であって、量産にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図2Aから図2Dまでは、本発明の実施例により電気化学触媒層を有する電極を形成する方法を示す流れ図である。先ず、図2Aを参照して、基板101を提供する。基板101の材料は特に限定しないが、太陽電池の電極とする場合、好ましくはガラス基板であり、プラスチック基板も使用できる。基板101の表面に、電荷を運ぶために用いる導電層102を形成している。導電層102は、一般的に、ITO導電性ガラス、石墨、またはニッケル、ステンレスのような金属の材質である。導電層102を形成する方法は、当該技術を熟知する者が知っている方法であり、例えば、蒸着法或いはスパッタ法、若しくは塗布法である。
【0017】
次いで、図2Bを参照して、導電層102の表面を調整する。調整の方式は、基板101を、界面活性材料を含有する第一溶液にディップして、導電層102の表面に界面活性層103を形成することを含む。界面活性材料は、カチオン界面活性剤が好ましく、最もよく使われるのは4級アンモニウムである。界面活性層103は、主に電極の導電層102の電気特性を変えるために用いて、後に形成する膜層と導電層102の間の粘着性を改善する。
【0018】
続いて、図2Cを参照して、再び基板101を第二溶液中にディップする。第二溶液はポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターを複数含有していて、且つ、第二溶液に懸濁して分散している。基板101上の界面活性層103は、第二溶液中のポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターを吸着して、界面活性層103の表面に貴金属触媒層104を形成する。通常、ポリマーで被覆された貴金属は、負電荷を帯びたクラスターであり、この場合、界面活性材料は、ポリマーで被覆された貴金属が基板に吸着されることができるように、カチオン界面活性剤を採用するのが最も好ましい。
【0019】
ここで、第二溶液の調製方法を説明する。この方法は、貴金属の周りの被覆層を構成する予定のポリマー溶液を提供することを含んでおり、そのポリマー溶液は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド(Polyacrylamide、PAM)、ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol、PVAL)、ポリアクリル酸(Polyacrylic acid、PAA)、或いはポリエチレンイミン(Polyethyleneimine、PEI)等のポリマーを含有してもよい。次いで、貴金属の塩類の前駆体を、ポリマー溶液中に入れる。貴金属は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)或いは金(Au)等、還元反応の触媒として好適な材料が好ましい。そして、貴金属の塩類がナノ貴金属クラスターに還元できるように、貴金属の塩類の還元剤を、貴金属の塩類を含有するポリマー溶液に入れる。この場合、貴金属がポリマーに被覆されるので、ナノ貴金属クラスターが溶液に均一に分散されることができる。従って、基板101が第二溶液にディップされているとき、基板101に均一に分散しているポリマーで被覆したナノ貴金属クラスターからなる電気化学触媒層が形成できる。ポリマーで金属を被覆する製作方法に関しては、Hidefumi Hiraiらが2001年に、「ポリマー先端技術(Polymers for Advanced Technologies)」で発表した「金属ナノ粒子の懸濁液におけるプロテクトポリマー(Protecting Polymers in suspension of metal nanoparticles)」を参看できる。
【0020】
上記方法の第二溶液に用いる溶剤は特に限定しないが、ポリマーを溶解でき、且つ、沸点が低いものが最も好ましい。
【0021】
注意すべき事として、第二溶液の中に、ポリマーの占める重量(PW)と、貴金属の占める重量(MW)との比率(即ち、PW/MW)は、一般的に、0.5〜6の間にあるのが好ましい。その原因は、ポリマーの含有量が少なすぎる場合には、第二溶液が懸濁粒子を安定させることができなくなり、沈積する恐れがある一方、ポリマーの含有量が多すぎる場合には、触媒としての効能が低くなり、即ち、貴金属が触媒としての機能を発揮できない。この点について、後の実施例において詳しく説明する。
【0022】
貴金属粒子の粒径分布は、一般的に、約10ナノメートル(nm)から約50ナノメートルまでである。均一に分散しているナノポリマーで被覆された貴金属は、より薄い電気化学触媒層を形成でき、言い換えれば、より少量の貴金属を使用しても、触媒として受け入れられる効果が得られる。
【0023】
基板101を第二溶液にディップする操作の温度は、約50℃より低い。基板101を第二溶液にディップする工程を室温で行うことが好ましい。従って、ここで提出する触媒層を有する電極を形成する方法は、高温の製造プロセスが必要ないので、製作するときに基板101上の導電層102の電気特性に対する影響を減らすことができ、また、電池の効能も効果的に制御できる。又、従来のスパッタリング等のコーティング方式と比べると、本発明の実施例の方法により使用する設備と、その操作及び制御の方式は、全てが、より容易であるので、コストがより低い。
【0024】
次いで、図2Dを参照し、図2Cの電極を熱処理して、電極表面の全部又は部分の界面活性剤及びポリマーを熱分解させ、ナノ貴金属クラスター104aを暴露させる。ここで行う熱処理の温度は、公知の電気化学触媒の効能を再生する温度(即ち、380℃)より低く、熱処理の温度は約300℃より低いのがより好ましく、熱処理の時間は約30分より少ないのがより好ましい。例えば、約270℃で図2Cの触媒層を有する電極を約10分間熱処理する。なお、熱処理の温度と時間は、界面活性剤の種類、ポリマーの種類、貴金属の種類、基板の種類、電極の構造、電池の仕組み等により調整することができる。熱処理を施した電極は、より優れた効能を有し、これは、後の実施例において詳しく説明する。
【0025】
図3は、本発明の実施例により、上記の電極を用いて作った電気化学装置を示す図である。図3に示すように、前記電気化学装置は、陰極201、陽極202、陰極201と陽極202の間における封止膜204、及び電解質203を含む。電気化学装置は、あらゆる化学反応を起こさせる装置を含んでおり、特別な例として、あらゆる種類の燃料電池、又は太陽電池等を挙げることができる。
【0026】
陰極201或いは陽極202、若しくは両者は、色素増感太陽電池を例として、上記図2A〜2Dの方法により形成する触媒層を有する電極である。好ましくは、陰極201が電気化学触媒層208を有する電極である。即ち、電極は表面に導電層を有する基板を含み、導電層上には界面活性層を有すると共に、界面活性層はポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターと繋がっており、これらの貴金属粒子を熱処理して電極の電気化学触媒層208にする。導電層は、ITO導電性ガラス、石墨、あるいはニッケル若しくはステンレス等の金属が好ましい。ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリアクリル酸(PAA)、或いはポリエチレンイミン(PEI)等であり、ポリマーで被覆される貴金属は、パラジウム、白金、ルテニウム、銀又は金等である。
【0027】
電気化学触媒層がない、もう一つの電極である陽極は、透明導電ガラス層205を含める基板が好ましく、透明導電ガラス層205は、インジウム錫オキシド(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO)、又はインジウムドープ酸化亜鉛(IZO)が可能である。色素増感太陽電池の陽極は、一般的に、導電ガラス層205の表面にTiO2層206を含んでおり、そのTiO2層206の表面の近くには、更に色素207を有する。色素増感太陽電池の陽極の製作方法に関しては、既に諸々の公知技術に開示されており、ここでは、ただ理解し易いように、一部の例を挙げる。
【0028】
太陽電池によく用いられる色素は、例えば、下記化学式1、化学式2、化学式3、及び化学式4に示す化合物を含めて、Nazeeruddinらが2003年に「J. Phys. Chem.」で発表した文献「色素増感ナノ結晶TiO2太陽電池における増感剤の吸着調査及びプロトンの電流と電圧に対する影響(Investigation of Sensitizer Adsorption and the Influence of Protons on Current and Voltage of a Dye−Sensitized Nanocrystalline TiO2 Solar Cell)」で、色素に関する特性及び構成を更に詳しく述べており、それも参考のために一緒に添付する。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0029】
陰極201と陽極202を完成した後、当業者が知る方法によって、電極を組み立て、電気化学装置を構成することができる。本実施例では、陰極201と陽極202の間に粘着剤(例えば、封止膜204)でラミネートしたから、電解質203をその中に注入する。本発明の実施例は、封止膜204について特に制限はないが、好ましくは低温下でも熱縮合反応を行えるポリマー膜である。特に、電気化学装置を製造する過程において、最終製品の製造プロセスと希望される品質により、電解質を注入する時機を決めることができる。即ち、電解質は、電気化学装置を組み立てる間に、又は電気化学装置を組み立てる最後の段階に注入することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の最良の実施例について詳しく説明するが、これら実施例は本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の精神と範囲をなんら限定するものではない。
【0031】
(実施例1)電気化学触媒層を有する電極及び前記電極を有する太陽電池の製作
[陰極/対極の製作]
ポリビニルピロリドン(Poly(N−vinyl−2−pyrrolidone、PVP)で被覆するナノ白金クラスターの合成は、先ず、PVP分子(分子量(MW)=8000)0.1gを脱イオン水44mlに溶解して、室温下でかき混ぜた。次に、H2PtCl6 0.2gを前駆体として、前に調製したPVP溶液に入れたため、溶液に含有されるポリマーの重量と貴金属の重量の比率は約1.1になった。その後、還元剤(0.5M NaBH4溶液)5mlを徐々に入れた。この場合に、ビーカー内の溶液は、手早く薄い黄色から黒くなって、ナノ白金クラスターが生成されたことを示した。全ての製作過程は室温下で行って、約30分が必要であった。
【0032】
なお、界面活性剤(ML−371:Rockwood Electrochemicals Asia Ltd.製)1%を含有する浴中に、清潔なITOガラス板(20Ω/□)を浸入して、温度60℃で、5分間、ITOガラス板上に界面活性層を形成させた。前記界面活性剤は既にプリント回路板産業に広く適用され、グラフト剤として用いられている。ここで、界面活性剤の機能は、主に、ITOガラス板の表面の電気特性を変えて、ITOガラス板の表面に正電荷を持たせることである。脱イオン水でリンスした後、上記の調製したPVPで被覆されたナノ白金クラスターの懸濁液に、界面活性層が形成されたITOガラス板を5分間浸入して、負電荷を帯びたPVPで被覆されたナノ白金クラスターをITOガラス板に吸着させ、界面活性層上にて電気化学触媒層を形成した。最後に、脱イオン水でリンスして、空気中にて乾燥させた。
【0033】
[陽極/作用電極の製作]
色素(N−719:Solaronix会社製、上記化学式2のように示す)0.036gを、アセトニトリル50ml、t−ブタノール25ml及びエタノール25mlの混合液(acetonitril:t−butanol:ethanol==2:1:1)に溶解して、濃度が3mMの色素溶液を調製した。
【0034】
TiO2/ITOガラス板(オーストラリアのDyesol会社製)を2cm×2cmに切って、そのうちのTiO2の表面積を0.5cm×0.5cmとした。電熱炉の中に550℃で10分間焼成して、ITOの内部結合性を増強させた。次に、上記の調製した色素溶液を40℃にてかき混ぜながら、TiO2/ITOガラス板を1時間浸漬して、TiO2の表面に色素を吸着させた。最後に、アセトニトリルでリンスした。
【0035】
[電池を組み立てる]
電池の組み立て方式には、上記の製作した陰極、陽極、及び陽極と陰極の間に挟まれた封止膜を重ね、その後、約100℃まで加熱し、しかも加圧して粘着させることを含む。封止膜の中央は、電解質を充填するための、中空スペースである。前記封止膜は、Solaronix会社が提供するSX−1170−25熱可塑性フィルムであって、厚さは25μmであった。その後、電解質を陰極と陽極の間の中空スペースに注入し、こうして電池を提供した。電解質は3−メトキシプロピオニトリル(3−methoxypropionitrile;MPN)を溶剤として、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(1−propyl−2,3−dimethylimidazolium;DMPII)0.6M、ヨウ化リチウム(LiI)0.1M、ヨウ素0.05M、及び4−tert−ブチルピリジン(4-tert−butylpyridine;TBP)0.5Mを溶解したものである。
【0036】
(実施例2)電気化学触媒層を有する電極及び前記電極を有する太陽電池の製作
本実施例では、陰極を製作した時に、PVP 0.5ggとH2PtCl6 0.2gにより、PVPで被覆するナノ白金の懸濁液を調製した以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を製作した。
【0037】
(実施例3)電気化学触媒層を有する電極及び前記電極を有する太陽電池の製作
本実施例では、陰極を製作した時に、PVP 2gとH2PtCl6 0.2gにより、PVPで被覆するナノ白金クラスターの懸濁液を調製した以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を製作した。
【0038】
(実施例4)電気化学触媒層を有する電極及び前記電極を有する太陽電池の製作
本実施例では、陽極を製作した時に、二酸化チタンゾル(オーストラリアのDyesol会社製)をATO上にスクリーン印刷をして、そのTiO2の表面積を1cm×0.5cmとした以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を製作した。
【0039】
(実施例5)電気化学触媒層を有する電極及び前記電極を有する太陽電池の製作
本実施例では、陰極を製作した時に、更に約270℃で約10分間、電極を熱処理した以外は、実施例4と同様にして色素増感太陽電池を製作した。
【0040】
(対照例1)
本実施例では、陰極の製作が従来のスパッタ法を利用して電気化学触媒層を得た以外は、同様にして色素増感太陽電池を製作した。即ち、対極を製作する時に、清潔なITOガラス板(20Ω/□)には、直接スパッタ機の中で、厚さが少なくとも100nmである白金の金属薄膜が沈積された。
【0041】
(実験例1)
本実験例は、電極の電気化学触媒層の負荷量を分析するために用いるものであり、サンプルとして実施例2により得た電極と、対照群として従来の方法で得た対照例1の電極を使った。
【0042】
誘導結合プラズマ原子発光分光分析(Inductively coupled plasma−atomic emission spectroscopy、ICP−AES)を利用して、単位面積当りの白金含有量を分析したところ、実施例2により得た電極の負荷量は4.89μg/cm2であり、対照例1により得た電極の負荷量は200μg/cm2であることが分かった。本発明の実施例により提示した方法で使用された白金金属量は、明らかに従来の方法より少なかった。その原因は、基板を調整する工程により、基板表面にポリマーで被覆した貴金属クラスターを効果的に沈積でき、超薄層が形成されるためであり、即ち、界面活性処理の工程でITOガラスの表面を変えることができ、ITOガラスとPVPで被覆した白金クラスターとの間の粘着効果を促進するためである。
【0043】
(実験例2)
本実験例は、電極中の三ヨウ化物イオンを還元する触媒効果を評価するために行うものであり、サンプルとして実施例2により得た電極と、対照群として従来の方法で得た対照例1の電極を使用した。測定する前に対称の測定ユニットを製作する必要があり、その製作は、陽極の代わりに陰極を使った以外は実施例2の電池の製作とほぼ同じである。従って、測定ユニットは二つの完全に同じ対極からなり、対極の製作方法は実施例2の陰極の製作方法と同じである。
【0044】
5mVの交流電圧においての、ポテンショスタット(potentiostat)であるAUTOLAB P10を利用して、範囲が50kHzから0.1Hzまでの電気化学インピーダンススペクトロスコピー(electrochemical impedance spectroscopy;EIS)を測量した。Nyquistプロット(Nyquist plot)は3段の抵抗を明らかに示し、左から右に順番に、直列抵抗(RS)、電荷移動抵抗(RCT)、及びネルンスト拡散抵抗(RD)であって、RCT値は電極の触媒効果を表した。図4は、PVPで被覆した白金粒子を有する電極のPCT値が5.66Ωcm2、対照例1のRCT値が10.8Ωcm2(図示せず)であることを示す図である。故に、従来のスパッタ法と比べると、本発明の提示する方法の実施例により形成した電気化学触媒層の触媒効果がより優れている。
【0045】
(実験例3)
本実験例は、色素増感太陽電池の効能を評価するために行うものであり、サンプルとして実施例1〜3により得た電池と、対照群として従来の方法で得た対照例1の電池を使用した。
【0046】
ポテンショスタットであるAUTOLAB P10を利用し、擬似太陽光(Newport solar simulator AM1.5、100mW/cm2)を使用して、照射走査することにより、色素増感太陽電池における1秒ごと5mVの走査速度で、電池の開路電圧VOCから零電圧までの電流・電圧の図が得られた。走査結果は図5のように示した。データ結果は、表1に示して、FFは曲線因子(Fill Factor)、ηeffは光電変換効率であり、両者はそれぞれ式1と式2により計算して得た。
【数1】

【0047】
そのうちPMAXは走査電圧において最大な仕事率であり、VOCは開路電圧、ISCは短絡電流であった。
【数2】

【0048】
そのうちPINは擬似太陽光のインプット仕事率であって、100mW/cm2であった。
表1から分かるように、実施例1の効能は従来のスパッタ法の90%以上に達しており、触媒効果がより優れたため、そのVOCとISCは両方とも、従来のスパッタ法の値と同じ、又は一層高かった。しかしながら、過量のポリマーは電池の内部抵抗を上昇させ、FFを低減させてしまうので、電池の変換効率に影響した。
【表1】

【0049】
(実験例4)
本実験例の目的と実施方式は、実施例4〜5により得た電極をサンプルとする以外にも、実験例2と類似しており、そのNyquistプロット(Nyquist plot)を図6に示す。図に示すように、実施例4の電極のRCT値は38.3Ωcm2、実施例5の電極のRCT値は0.56Ωcm2であった。これは、本発明の実施例により電極に低温熱処理(実質上約300℃より低い温度)を行うと、触媒層の触媒効果を増進できることを示した。
【0050】
(実験例5)
本実験例の目的と実施方式は、サンプルとして実施例4〜5により得た電池を使用する以外にも、実験例3と類似している。走査の結果は図7に示すが、そのうち開路電圧、短絡電流及び光電変換効率を表2に示した。このデータにより、大体に於いて、熱処理した電極で製作する電池がより優れた効能を有することがわかった。
【0051】
【表2】

【0052】
各種の色素増感太陽電池に用いられる対極の比較は表3に示した。文献1は、Hauchらが2001年に「電気化学学報(Electrochim. Acta)、第46号、第3457頁」で発表した論文「色素増感太陽電池における電解質の拡散及び白金電極の電荷移動反応(Diffusion in the electrolyte and charge−transfer reaction at the platinum electrode in dye−sensitized solar cells)」にて提供したデータであり、その条件が白金触媒層のスパッタ厚さが3nmである以外は、対照例1と同じであった。表3からわかるように、本発明の実施例2の電極は、より低いPt負荷量と受け入れられるRCT値があった。
【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
上記から分かるように、本発明が提示したディップする方式により、ポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターからなり、電極とする電気化学触媒層を形成する方法は、貴金属の用量を減少でき、更に熱処理を施すと、電気化学装置の効能を一層高める。他にも、全体のプロセスでは、高温の工程が必要なく(ディップする工程は約50℃より低い温度で行え、熱処理は約300℃より低い温度で行える)、操作が簡単なだけでなく、コストも低減できる。量産を望む場合、この技術の優勢は明らかである。
【0055】
本発明は既に最良の実施例によって上記のように示したが、これら実施例により本発明を限定するのではなく、当該技術を熟知する者なら誰でも、本発明の精神と範囲から逸脱せずに各種の変動や潤色を加えることができることから、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】従来技術により色素増感太陽電池の基本的な働きを示す模式図である。
【図2A】本発明の実施例により触媒層を有する電極を形成する流れを示す模式的な断面図である。
【図2B】本発明の実施例により触媒層を有する電極を形成する流れを示す模式的な断面図である。
【図2C】本発明の実施例により触媒層を有する電極を形成する流れを示す模式的な断面図である。
【図2D】本発明の実施例により触媒層を有する電極を形成する流れを示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の実施例により得られた電気化学装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例2により得られた陰極からなる測定ユニットのNyquistプロットを示す説明図である。
【図5】本発明の実施例1〜3と対照例1により得られた電池の電流密度と電圧との関係を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例4〜5により得られた陰極からなる測定ユニットのNyquistプロットを示す説明図である。
【図7】本発明の実施例4〜5により得られた電池の電流密度と電圧との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
101:基板、102:導電層、103:界面活性層、104:ポリマーで被覆する貴金属、104a:ナノ貴金属クラスター、201:陰極、202:陽極、203:電解質、204:封止膜、205:導電ガラス層、206:TiO2層、207:色素、208:電気化学触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学装置を製造する方法であって、
第一導電層を有する第一基板を提供する工程、
前記第一基板を、ポリマーで被覆されたナノ貴金属クラスターを複数含有する第二溶液にディップすることにより、前記第一基板の表面にポリマーで保護された電気化学触媒層を形成する、前記第一基板を第二溶液にディップする工程、及び
前記第一基板上の前記ポリマーで保護された電気化学触媒層を熱処理する工程、を有する第一電極を製作する工程と、
第二電極を製作する工程と、
封止膜を設けることにより、前記第一電極と前記第二電極をラミネートする工程と、
電解質を前記第一電極と前記第二電極の間に注入する工程と、を含むことを特徴とする電気化学装置を製造する方法。
【請求項2】
前記第一電極を製作する工程が、更に、界面活性材料を含有する第一溶液に前記第一基板をディップして、前記第一導電層上に界面活性層を形成する工程を含み、
前記第一基板を前記第二溶液にディップする工程が、前記ポリマーで被覆された前記ナノ貴金属クラスターを前記界面活性層に吸着させることにより、ポリマーで保護された電気化学触媒層を前記界面活性層上に形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項3】
前記第一電極を製作する工程で、前記第一基板を前記第二溶液にディップする工程を、50℃より低い温度で行うことを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項4】
前記第一電極を製作する工程で、前記ポリマーで保護された前記電気化学触媒層を熱処理する工程において、前記第一基板を加熱する時間が30分以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項5】
前記第一電極を製作する工程で、前記ポリマーで保護された電気化学触媒層を熱処理する工程が、300℃より低い温度で熱処理する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項6】
前記第一電極を製作する工程で、更に、
貴金属を被覆するポリマー溶液を提供することと、
貴金属の塩類の前駆体を、前記ポリマー溶液の中に入れることと、
還元剤を、前記貴金属の塩類を含有する前記ポリマー溶液に入れ、前記貴金属の塩類を貴金属粒子に還元させることと、を有する前記第二溶液を調製する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項7】
前記第二電極を製作する工程が、
第二基板を提供する工程と、
前記第二基板上に色素を有する二酸化チタン層を形成することと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項8】
前記ポリマーで保護された電気化学触媒層では、パラジウム、白金、ルテニウム、銀又は金よりなる群から選択する貴金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。
【請求項9】
前記貴金属が、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、又はポリエチレンイミンよりなる群から選択する前記ポリマーに被覆されることを特徴とする請求項1に記載の電気化学装置を製造する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−266798(P2009−266798A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319767(P2008−319767)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(508369881)健鼎科技股▲分▼有限公司 (4)
【Fターム(参考)】