説明

電気機械のステータ熱異常の診断

【課題】測温抵抗体(RTD)を用いたステータ巻線の熱異常の診断システムを提供する。
【解決手段】ステータ巻線内の少なくとも1つのセンサから長時間にわたりRTD読取り値を得る入力システム(19)と、各RTD読取り値を電機子電流に関して正規化する正規化システム(20)と、1組の正規化されたRTD読取り値における傾向を分析して、ステータ巻線の熱挙動を示す分析システム(24)とを含む、第1のシステム(10)が提供される。ステータ巻線内の共通の軸方向位置にある複数のセンサから、1組のRTD読取り値を得る入力システム(19)と、1組のRTD読取り値から、最大値と中間値との差値を計算する計算システム(22)と、1組の差値の長時間にわたる傾向を分析して、ステータ巻線の熱挙動を示す分析システム(24)とを含む、第2のシステムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、発電機などの電気機械のステータ巻線の熱異常の診断に関し、より具体的には、測温抵抗体(RTD)を用いたステータ巻線の熱異常の診断に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機のステータ巻線の熱異常は、例えば、過剰な振動、不十分な冷却など、いくつかの理由で生じ得る。こうした異常の結果、巻線の絶縁不良が生じることがある。この絶縁不良によって、ある領域が過剰に加熱することになり得、ステータに地絡が生じる結果となる恐れがあり、こうした地絡は、対処するのにコストがかかる。ステータ地絡を早期段階で診断し、回避できないと、しばしば損傷が深刻化し、停止期間が長引くことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第20070268023号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様では、電気機械の熱挙動を評価するシステムであって、ステータ巻線内の少なくとも1つのセンサから長時間にわたりRTD読取り値を得る入力システムと、各RTD読取り値を電機子電流に関して正規化する正規化システムと、1組の正規化されたRTD読取り値における傾向を分析して、ステータ巻線の熱挙動を示す分析システムとを備える、システムが提供される。
【0005】
本発明の別の態様では、電気機械の熱挙動を評価するシステムであって、ステータ巻線内の共通の軸方向位置にある複数のセンサから、1組の測温抵抗体(RTD)読取り値を得る入力システムと、1組のRTD読取り値から、最大値と中間値との差値を計算する計算システムと、1組の差値の長時間にわたる傾向を分析して、ステータ巻線の熱挙動を示す分析システムとを備える、システムが提供される。
【0006】
さらなる態様では、少なくとも1つのコンピュータ可読記憶媒体で実施されるプログラムコードを備えたコンピュータプログラムであって、実行すると、コンピュータシステムが、電気機械の熱挙動を評価する方法であって、ステータ巻線内の少なくとも1つのセンサから、長時間にわたり測温抵抗体(RTD)読取り値を得るステップと、各RTD読取り値を電機子電流に関して正規化するステップと、1組の正規化されたRTD読取り値における傾向を分析して、ステータ巻線の熱挙動を示すステップとを含む、方法を実施することが可能となる、コンピュータプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態による診断システムを有するコンピュータシステムの概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による熱異常を評価する工程の概略ブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による熱異常の検出を示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施形態による熱異常を評価する工程の概略ブロック図である。
【図5】本発明の例示的な一実施形態による発電機の平面図である。
【図6】3つのRTDが、共通の軸方向平面AA’沿って配置された、図5の発電機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の様々な実施形態は、測温抵抗体(RTD)を用いて、ステータ巻線の熱異常を評価し、診断することを対象とする。本発明の様々な実施形態の技術的効果には、熱異常を早期に識別する能力が含まれ、したがって、ステータワイヤの地絡に伴う、コストのかかる停止期間を回避することが可能となる。追加の技術的効果には、巻線の熱挙動を評価し、傾向を計り、予め規定された閾値を超えた場合に警告を与える能力が含まれる。
【0009】
発電機などの電気機械では、電流が巻線を通過した結果として熱が発生する。こうした熱問題に対処するために、冷却機構が発電機に組み込まれ、発電機、特にステータ巻線の温度が、確実に許容限界を下回るように、RTDが一般に利用されている。
【0010】
本発明の実施形態は、RTDを利用して、巻線の熱挙動を評価し、熱異常を早期に識別する。各RTDが監視する温度は、一般に、各RTDを通過する電流の量、巻線の抵抗率、および室温に比例する。RTDデータ内の傾向を分析することによって、異常を識別することができる。
【0011】
図1は、RTD値28、および他の運転データ30に基づいて、ステータ巻線の異常を検出する2つの可能な手法を実施する診断システム18を有するコンピュータシステム10を示す。診断システム18によって実現される第1の手法は、RTD値28を対応する室温で電流および抵抗率に関して正規化する正規化システム20を使用する。第2の手法は、軸方向に配置された1組のRTDについて、最大値と中間値との差を求める計算システム22を使用する。いずれの手法、または両手法とも、診断システム18内に含まれ、かつ/または診断システム18内で使用することができることが理解されよう。診断システム18は、RTD値28および運転データ30を得、フィルタリングする入力/フィルタリングシステム19と、長時間にわたり傾向を評価し、熱分析32を供給する傾向分析システム24と、巻線異常が検出された場合に警告34を発行する警告システム26とをさらに含む。これら2つの手法について、以下でさらに詳細に説明する。
【0012】
第1の手法では、RTD値の変動を、対応する室温で電流および抵抗率に関して正規化する。一般に、正規化とは、データに対する変数の影響を打ち消すために、複数組のデータを、1つまたは複数の共通変数によって除算することを指し、したがって、データ組の根底にある特性を比較することが可能となる。したがって、この正規化により、異なる尺度上のデータを、共通の尺度上とすることによって、それらのデータを比較することが可能となる。正規化すると、RTD値の上昇によって、一貫した運転条件下(すなわち、一定の運転圧力および冷却剤特性)で運転している電気機械で、一定の出力が得られることになる。したがって、正規化されたRTD値の傾向を用いて、巻線の熱挙動が示される。例えば、上昇(すなわち右上がり(positive))傾向は、巻線の異常を示す。上昇傾向が、予め規定された時間(例えば10時間)で、設定可能なパラメータを超えると(例えば15%の上昇)、警告を発することができる。
【0013】
図2は、この第1の手法の流れ図を示す。S1で、入力/フィルタリングシステム19が、ステータ巻線内の様々な位置にあるセンサiから、RTD温度Tiを読み取る。さらに、入力/フィルタリングシステム19によって、ユニット内の既知のセンサを用いて電機子電流Ia、運転圧力、運転純度(operating purity)、および冷却ガス温度/室温が読み取られる。S2で、データ点をフィルタリングして、安定した運転負荷(例えば15分間で負荷>XX%)、圧力+/−2psig、および読取り値が有効と考えられるように保証する。S3で、正規化システム20によって、以下の式に従い、異なる位置、例えば、タービン端部(i=1)、圧縮機端部(i=2)、および中心(i=3)における正規化されたRTD値Kiを計算する。
【0014】
【数1】

式中、ΔTiはRTD温度と室温との差、ρは巻線の抵抗率、Iaは電機子電流である。
【0015】
次に、S4で、傾向分析システム24によって、Kiが、基準線値に対して所定のパーセントよりも多く変動したか判定を行う。正規化された温度の基準線値は、例えば、温度上昇の1ヶ月平均として計算することができる。顕著な変動が検出されない場合、すなわちS4で「いいえ」の場合、異常が示されないので、どのような行為も取られない。変動が検出された場合、S5で、傾向分析システムによって、Kiの変動が、ある所定の時間量よりも長い間持続するか判定を行う。変動が持続しない、すなわちS5で「いいえ」の場合、どのような行為も取られない。「はい」の場合、S6で異常が示され、警告システム26によって、熱異常情報警告34が発せられる。
【0016】
図3は、正規化された巻線温度に関する例示的な傾向分析を示す。この例では、基準線値40、ならびに閾値限界42が確立されている。正規化されたRTD値44が、長時間にわたり追跡されており、時間T1で、この正規化RTD値44は、基準値40から逸脱し始めている。T2で、正規化RTD値44は閾値限界42と交差し、異常が存在し得ることを示している。
【0017】
図4は、軸方向に共通に配置された任意のRTD組について、最大RTD値と中間RTD値との差である差値を利用した第2の手法の流れ図を示す。例えば、図5および6は、発電機56の平面図、およびAA’に沿った断面図を表す。この例では、3つのRTD54a、54b、54cが、共通の軸方向平面AA’に沿って配置されている。これらのRTD54の最大値と中間値との差について、電気機械の電流の特定の範囲で傾向を計る。巻線に何らかの異常がある場合、この傾向は右上がりの斜線を有することになる。例えば、上昇傾向が、予め規定された時間量(例えば10時間)で、予め規定された閾値(例えば10℃)を超える場合、警告を発行することができる。ここでは、3つのRTD54a、54b、54cを使用していることに留意されたい。しかし、任意の個数(すなわち2個以上)のRTDを利用することができることが理解されよう。
【0018】
図4を再度参照すると、例示的なアルゴリズムが示されている。S11で、入力/フィルタリングシステム19が、共通の軸方向位置、例えば平面にある少なくとも2つのRTDについて、RTD温度Tiを読み取る。さらに、電機子電流Ia、運転圧力、および運転純度もやはり、システム19によって適切なセンサから読み取る。S12で、システム19によって、安定した運転負荷(例えば15分間で負荷>XX%)、圧力+/−2psig、およびセンサ有効性が得られるようにデータ点をフィルタリングする。S13で、計算システム22によって、共通の軸方向平面に沿ったRTD値の最大値と中間値との差として、差値Kiを計算する。次に、S14で、傾向分析システムによって、Kiが所定の温度よりも高いか判定を行う。S14で「いいえ」の場合、いかなる行為も取られない。「はい」の場合、S15で、S14で検出された変動が、所定の時間量よりも長い間持続するか判定が行われる。S15で「いいえ」の場合、いかなる行為も取られない。「はい」の場合、S16で、警告システム26によって、熱挙動情報警告を発することができる。
【0019】
両手法とも、入力/フィルタリングシステム29によって行われる入力、およびフィルタリングは、単一の機能として、または別個の機能として実施することができる。したがって、入力およびフィルタリングは、単一の機能として示されているが、別々に行うこともできることが理解されよう。フィルタリング工程のうちの1つには、RTDセンサの有効性を確認するステップが含まれ得る。この確認は、例えば、以下によって行うことができる。
(1)RTDセンサが、最大許容限界(例えば150℃)を超える温度を示しているか確認する。
(2)RTDセンサが、発電機の標準運転の間、室温よりも低い温度を示しているか確認する。
(3)RTD値が平坦か(例えば、標準偏差が非常に低いか)確認する。
(4)RTDセンサが、所与の任意の電流について、設定可能な限界を超えた変動値を示しているか(または標準偏差が高いか)確認する。
(5)RTDセンサが、機械の停止中、相当の時間量の間、右上がりの傾向を示しているか、または右下がり(negative)の傾向を示しているか確認する。
(6)任意の軸方向位置/空間に配置された1組のRTDが、所与の電流に関して、設定可能な限界よりも高い温度を示しているか確認する。
【0020】
本発明の様々な実施形態では、本明細書に記載のシステムおよび方法の態様は、完全にハードウェアの実施形態、完全にソフトウェアの実施形態、またはハードウェア要素およびソフトウェア要素の両方を含んだ実施形態の形で実施することができる。一実施形態では、処理機能は、ソフトウェアで実施することができ、ソフトウェアには、それだけに限られるものではないが、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどが含まれる。
【0021】
さらに、処理機能は、コンピュータもしくは任意の命令実行システム(例えば処理ユニット)によって、またはそれらと共に使用するプログラムコードを供給する、コンピュータ使用可能、またはコンピュータ可読媒体からアクセスできるコンピュータプログラム製品の形を取ることができる。上記を説明する目的で、コンピュータ使用可能、またはコンピュータ可読媒体は、コンピュータ、命令実行システム、装置によって、またはそれらと共に使用するプログラムを含む、または記憶することができるいかなるコンピュータ可読記憶媒体でもよい。追加の実施形態を、コンピュータ、命令実行システム、装置、もしくはデバイスによって、またはそれらと共に使用するプログラムを通信、伝搬、または転送することができるコンピュータ可読伝送媒体(または伝搬媒体)で実施することができる。
【0022】
コンピュータ可読媒体は、電子システム、磁気システム、光システム、電磁システム、赤外システム、または半導体システム(または装置、もしくはデバイス)でよい。コンピュータ可読媒体の例には、半導体または固体メモリ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読取り専用メモリ(ROM)、剛性磁気ディスク、および光ディスクが含まれる。光ディスクの現時点での例には、コンパクトディスク(読取り専用メモリ(CD−ROM))、コンパクトディスク(読取り/書込み(CD−R/W))、およびデジタルビデオディスク(DVD)が含まれる。
【0023】
いずれにせよ、コンピュータシステム10(図1)は、インストールされたプログラムコードを実行することが可能な1つまたは複数の汎用コンピューティング製品(例えば、コンピュータデバイス)を備えることができる。本明細書では、「プログラムコード」とは、情報処理能力を有するコンピューティングデバイスに、特定の機能を直接、あるいは(a)別の言語、コード、または記号への変換、(b)異なる素材形態(material form)への再生、および/または(c)復元、の任意の組合せ後に実施させる任意の言語、コード、または記号の命令のいかなる集合も意味することが理解されよう。この点で、診断システム18は、システムソフトウェアおよび/またはアプリケーションソフトウェアのいかなる組合せとしても実施することができる。いずれにせよ、コンピュータシステム10の技術的効果は、ステータ巻線の熱異常を評価し、診断することである。
【0024】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本開示を限定するものではない。本明細書では、単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈において別段の明白な指示がない限り、その複数形も同様に含むものである。さらに、用語「含む(comprise)」および/または「含んでいる(comprising)」は、本明細書では、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を明示するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないことが理解されよう。
【0025】
本開示を、特にその好ましい実施形態に関して示し、説明してきたが、変形形態、および改変形態が当業者には想起されることが理解されよう。したがって、添付の特許請求の範囲は、かかる改変形態および変更を、全て本開示の真の趣旨の範囲内に含まれるものとして対象とするものである。
【符号の説明】
【0026】
10 コンピュータシステム
12 プロセッサ
14 I/O
18 診断システム
19 入力/フィルタリングシステム
20 正規化システム
22 計算システム
24 傾向分析システム
26 警告システム
28、44 RTD値
30 運転データ
32 熱分析
34 警告
40 基準線値
42 閾値限界
50 ロータ
54a、54b、54c RTD
56 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械(56)の熱挙動を評価するシステム(10)であって、
ステータ巻線内の少なくとも1つのセンサから長時間にわたり測温抵抗体(RTD)(28、54a、54b、54c)読取り値を得る入力システム(19)と、
各RTD(28、54a、54b、54c)読取り値を電機子電流に関して正規化する正規化システム(20)と、
1組の正規化されたRTD読取り値における傾向を分析して、前記ステータ巻線の熱挙動を示す分析システム(24)と
を備える、システム(10)。
【請求項2】
前記分析システム(24)が、上昇傾向の検出に応答して異常を示す、請求項1記載のシステム(10)。
【請求項3】
RTD(28、54a、54b、54c)読取り値が、基準線値(40)を所定の量超えると、前記分析システム(24)が上昇傾向を検出する、請求項2記載のシステム(10)。
【請求項4】
前記RTD(54a、54b、54c)読取り値が、所定の時間量よりも長い間持続すると、前記分析システム(24)が上昇傾向を検出する、請求項3記載のシステム(10)。
【請求項5】
前記入力システム(19)が、電機子電流、運転圧力、運転純度、および室温をさらに得る、請求項1記載のシステム(10)。
【請求項6】
入力データが、安定した運転負荷の間、かつ予め規定された圧力範囲で、有効なセンサによって収集されることを保証するフィルタシステム(19)をさらに備える、請求項1記載のシステム(10)。
【請求項7】
前記正規化システム(20)が、以下の式を用いてセンサiの正規化されたRTD値Kiを計算し、
【数1】

式中、ΔTiはRTD温度と室温間の差、ρは前記ステータ巻線の抵抗率、Iaは電機子電流である、請求項1記載のシステム(10)。
【請求項8】
電気機械(56)の熱挙動を評価するシステム(10)であって、
ステータ巻線内の共通の軸方向位置にある複数のセンサから、1組の測温抵抗体(RTD)(54a、54b、54c)読取り値を得る入力システムと、
前記1組のRTD(54a、54b、54c)読取り値から、最大値と中間値との差値を計算する計算システム(22)と、
1組の差値の長時間にわたる傾向を分析して、前記ステータ巻線の熱挙動を示す分析システム(24)と
を備える、システム(10)。
【請求項9】
前記分析システム(24)が、上昇傾向の検出に応答して異常を示す、請求項8記載のシステム(10)。
【請求項10】
前記分析システム(24)が、上昇差値が基準線値(40)を所定の量超えると、前記上昇傾向を検出する、請求項9記載のシステム(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−93356(P2012−93356A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233558(P2011−233558)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】