説明

電気自動車のパワープラント搭載構造

【課題】電気自動車の前方または後方が衝突した場合であっても、電気モータ前方に設けられた電源に電気モータが衝突する事態を防ぐことが出来るようにする。
【解決手段】電源20の後方に配設された電気モータ23を有するパワープラント21を電気自動車10に搭載すべく、パワープラント21よりも後側で車幅方向に延在し車体11に固定される第1サブフレーム26と、第1サブフレーム26よりも前側で車長方向に延在し車体11に固定される第2サブフレーム28L,28Rと、パワープラント21と第1サブフレーム26との間に介装されるリアブラケット47と、パワープラント21の前側と第2サブフレーム28L,28Rとに接続されるフロントブラケット38と、その前端部66がパワープラント21に接続されるとともにその後端部67が第1サブフレーム26に接続されたワイヤ部材65とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータの前方に設けられたバッテリを有する電気自動車において、電気自動車のパワープラント搭載構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気自動車において、電気モータを電気自動車の車体にマウントする構造が知られている。
以下に示す特許文献1には、このような構造を示す技術の一例が示されている。
この特許文献1の技術においては、同文献の図1に開示されるように、部品搭載フレーム(8)にモータユニット(15)を固定することでユニットアッセンブリ(20)を形成し、このユニットアッセンブリ(20)をサイドメンバ(5,5)に固定することで、モータユニット(15)を電気自動車にマウントする際の作業を簡単にすることを狙っている。
【特許文献1】特開平8−310252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電気自動車には、電気モータに電力を供給するバッテリ或いはキャパシタといった電源が搭載されている。
このような電気自動車用の電源は重量物であり車両の下部に設けられることが好ましい。
また、電源は、小型化が進められているものの、依然として大型であり、電気自動車においてある程度の広さが確保された場所に搭載する必要がある。
【0004】
このため、電源は、電気自動車の中央近傍の床下に設けることが好ましい。
一方、電気モータを電気自動車の後部に設けると、電気自動車の車内スペースを効率よく使用することが出来るという利点があり、この場合、電源は、電気モータの前側に配設されることとなる。
しかしながら、このような電気自動車においては、電気自動車の前方或いは後方が衝突した場合であっても、電源と電気モータとが激しく衝突することを防ぐ必要がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、電気自動車の前方または後方が衝突した場合であっても、電気モータを有するパワープラントの前方に設けられた電源とパワープラントとが激しく衝突する事態を防ぐことが出来る、電気自動車のパワープラント搭載構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の電気自動車のパワープラント搭載構造(請求項1)は、電源の後方に配設された電気モータを有するパワープラントを電気自動車に搭載する、電気自動車のパワープラント搭載構造であって、該パワープラントを支持するサブフレームと、該サブフレームの一部であって該パワープラントよりも後側で該電気自動車の車体に固定される第1サブフレームと、該サブフレームの一部であって該第1サブフレームよりも前側で該車体に固定される第2サブフレームと、該パワープラントと該第1サブフレームとの間に介装されるリアブラケットと、該パワープラントの前側と該第2サブフレームとに接続されるフロントブラケットと、その一端部が該パワープラントに接続されるとともにその他端部が該第1サブフレームに接続されたワイヤ部材とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、請求項2記載の本発明の電気自動車のパワープラント搭載構造は、請求項1記載の内容において、該リアブラケットと該第1サブフレームとを防振可能に接続するリアインシュレータと、該フロントブラケットと該第2サブフレームとを防振可能に接続するフロントインシュレータとをさらに備え、該ワイヤ部材は、該リアインシュレータおよび該フロントインシュレータが許容する可動範囲内では撓んだ状態となり且つ該可動範囲を超えると張力が生じるように形成されていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項3記載の本発明の電気自動車のパワープラント搭載構造は、請求項1または2記載の内容において、該リアブラケットは、該パワープラントに固定されるパワープラント接続部と、該第1サブフレームに接続されるサブフレーム接続部とを有し、該パワープラント接続部の軸線と該サブフレーム接続部の軸線とが車幅方向にオフセットするように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気自動車のパワープラント搭載構造によれば、電気自動車の前方が衝突した場合であっても、後方が衝突した場合であっても、パワープラントの前方に設けられた電源とパワープラントとが激しく衝突する事態を防ぐことが出来る。(請求項1)
また、リアインシュレータおよびフロントインシュレータによる防振機能が妨げられる事態を防ぎながら、電気自動車の前方が衝突した場合に、パワープラントが過度に前進する事態を防ぐことが出来る。(請求項2)
また、パワープラント接続部の軸線と第1サブフレーム接続部の軸線とが車幅方向にオフセットするようにリアブラケットが形成されているので、リアブラケットに圧縮力が作用した際に、このリアブラケットを比較的容易に破断させることが出来ることができる。(請求項3)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面により、本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造について説明すると、図1は一実施形態に係る本発明が適用された車両を示す模式的な側面図、図2はその要部構成を示す模式的な斜視図、図3はその要部構成を示す模式的な上面図であって車両が衝突していない場合を示し、図4はその要部構成を示す模式的な上面図であって車両の前方が衝突している場合を示し、図5はワイヤフロント固定部を示す模式的な斜視図、図6はワイヤアッセンブリの外観を示す模式的な斜視図、図7は図2のV矢視における模式的なワイヤアッセンブリの部分断面図、図8はその要部構成を示す模式的な上面図であって車両の後方が衝突している場合を示し、図9はリアブラケットおよびワイヤアッセンブリに対する入力荷重と弾性変形量との関係を示す模式的なグラフである。
【0011】
図1に示すように、電気自動車(車両)10には、車長方向に延在し車体の一部を構成するサイドメンバ11が設けられている。なお、この図1においては、車両10左側のサイドメンバ11しか示していないが、実際には、車両10右側(図1の紙面奥方)においても、このサイドメンバ11と同様のものが設けられている。
一対のサイドメンバ11には、それぞれ、中央メンバ12と、後端メンバ13と、斜形メンバ14とが一体に形成されている。
【0012】
中央メンバ12は、車両10の中央近傍に形成された客室15において、車輪16の中心軸C16の高さと概ね同じ高さで水平に延在する部分である。
後端メンバ13は、車両10の後端近傍に形成された荷室16において、中央メンバ12よりも高い位置で水平に延在する部分である。
斜形メンバ14は、中央メンバ12と後端メンバ13とを接続し、斜めに延在する部分である。
【0013】
また、一対のサイドメンバ11の後端近傍(即ち、後端メンバ13)には、車幅方向(図1中奥行き方向)に延在し車体の一部を形成する後端クロスメンバ17が設けられ、この後端クロスメンバ17によって相互に接続されている。
パワープラント21は、車両10の動力源であって、主に、電気モータ22と減速機23とから構成されている。
【0014】
このパワープラント21の前方で且つ一対のサイドメンバ11,11の間には、バッテリ20を内蔵したバッテリケース24が設けられている。また、このバッテリケース24は、図示しないブラケットを介して、一対のサイドメンバ11,11に固定されている。
また、後端メンバ13の下面には、パワープラントマウントメンバ25を介してパワープラント21が固定されている。
【0015】
図2に示すように、このパワープラントマウントメンバ25は、鋼製のパイプを略U字形に曲げることで形成されたサブフレームである。
このパワープラントマウントメンバ25の後端部(第1サブフレーム)26は、パワープラント21よりも後側で車幅方向に延在した部分であって、後上方ブラケット27を介して後端クロスメンバ17に固定されている。
【0016】
また、一対の側端部(第2サブフレーム)28L,28Rは、それぞれ、後端部26よりも前側で且つパワープラント21の両側において車長方向に延在した部分であって、前上方ブラケット29L,29Rを介して一対のサイドメンバ11,11にそれぞれ固定されている。
後上方ブラケット27は、後端部26上に溶接され、ボルト31,31により後端クロスメンバ17に固定されている。
【0017】
左側の前上方ブラケット29Lは、左側の側端部28L上に溶接され、ボルト32により、図示しない後端メンバ13に溶接されたブラケットに固定されている。
同様に、右側の前上方ブラケット29Rは、右側の側端部28R上に溶接され、ボルト32により、図示しない後端メンバ13に溶接されたブラケットに固定されている。
また、パワープラントマウントメンバ25上には、車幅方向に延在し、一対の側端部28L,28R上にその両端が溶接されたクロスサポートメンバ34が設けられている。
【0018】
また、パワープラントマウントメンバ25およびクロスサポートメンバ34上には、電装品ブラケット35が溶接されている。これらの電装品ブラケット35上には、インバータユニット36(図1参照)が載置され、図示しないボルトによって固定されるようになっている。このインバータユニット36は、バッテリケース24内のバッテリ20および電気モータ22に対し図示しない高電圧ケーブルによって接続されている。
【0019】
また、一対の側端部28L,28Rの前端近傍には、それぞれ、フロントブラケット固定部37L,37Rが設けられている。
これらのフロントブラケット固定部37L,37Rは、フロントブラケット38の両端を保持するものである。
フロントブラケット38は、車幅方向に延在するアルミニウム製の部材であって、その両端には、それぞれ、ゴム製の防振材であるフロントインシュレータ39L,39Rが設けられている。そして、これらのフロントインシュレータ39L,39Rは、ボルト41,41によって、フロントブラケット固定部37L,37Rに固定されている。
【0020】
さらに、このフロントブラケット38は、左側のフロントボルト42Lにより減速機23の前面に固定されるとともに、右側のフロントボルト42Rにより電気モータ22の前面に固定されている。
また、左側フロントボルト42Lとフロントブラケット38との間、および、右側フロントボルト42Lとフロントブラケット38との間には、それぞれ、大径ワッシャ43,43が介装されている。
【0021】
パワープラントマウントメンバ25の後端部26の下側には、リアブラケット後端固定部44と、ワイヤリア固定部45とが設けられている。
これらのうち、リアブラケット後端固定部44は、後端部26の下側に溶接され、且つ、下方に突出した一対のフランジ46,46を有している。これらのフランジ46,46間にはリアブラケット47の後端が介装されるようになっている。このリアブラケット47は、パワープラント21と後端部26との間に介装されたアルミニウム製のブラケットである。
【0022】
また、リアブラケット47の後端にはゴム製の防振材であるリアインシュレータ48が設けられ、このリアインシュレータ48がボルト49により、リアブラケット後端固定部44に固定されるようになっている。
また、ワイヤリア固定部45は、後端部26の下側に溶接され、且つ、前下方に突出した一対のフランジ45A,45Bを有している。そして、このワイヤリア固定部45は、これらのフランジ45A,45B間に、後述するワイヤアッセンブリ(ワイヤASSY;ワイヤ部材)65の後端部67を介装した上で、ワイヤボルト62およびナット69により固定出来るようになっている。
【0023】
パワープラント21には、電気モータ22と減速機23との境界近傍において、後上方に突出した壁状の固定フランジ51が形成されている。そして、図3に示すように、この固定フランジ51には、リアブラケット47の前端およびワイヤフロント固定部52がともにボルト53により固定されている。
リアブラケット47には、パワープラント接続部54,マウントメンバ接続部(第1サブフレーム接続部)55およびステム部56が形成されている。
【0024】
これらのうち、パワープラント接続部54は、パワープラント21の固定フランジ51に当接する部分であって、リアブラケット47の前端を形成している。また、このパワープラント接続部54には、ボルト53が挿通されるボルト穴(図示略)が3つ形成されている。
マウントメンバ接続部55は、リアインシュレータ48を備え、リアブラケット47の後端を形成している部分である。
【0025】
ステム部56は、パワープラント接続部55とパワープラント接続部54とを接続している部分である。
また、図4に示すように、パワープラント接続部54の軸線C54と、マウントメンバ接続部55の軸線C55とは、車幅方向にオフセットしている(図4中符号B参照)。
図5に示すように、ワイヤフロント固定部52は、固定壁部57,上側フランジ58および下側フランジ59により形成されている。
【0026】
固定壁部57は、リアブラケット47のパワープラント接続部54の右側に当接する鋼板であって、ボルト53が挿通されるボルト穴が3つ形成されている。
上側フランジ58は、ワイヤボルト62(図2参照)が挿通されるボルト穴が63穿設された鋼板であって、その一端が固定壁部57に溶接されている。
下側フランジ59は、上側フランジ58と同様に、ワイヤボルト62が挿通されるボルト穴64が穿設された鋼板であって、上側フランジ58の下側において、その一端が固定壁部57に溶接されている。
【0027】
そして、これらの上側フランジ58と下側フランジ59との間に、図6に示すワイヤASSY65の前端部66が介装されるようになっている。
そして、ワイヤASSY65の前端部66が上側フランジ58と下側フランジ59との間に介装された状態で、ワイヤボルト62が、上側フランジ58のボルト穴63および下側フランジ64のボルト穴64に挿入されるようになっている。
【0028】
図6に示すように、ワイヤASSY65は、主に、前端部(一端部)66,後端部(他端部)67およびワイヤ68により構成されている。なお、前端部66および後端部67は、構造において実質的な差異が無いので、ここでは、図7を用いて前端部66の構造を説明し、後端部67の構造の説明は省略する。
図7に示すように、前端部66は、防振ゴム72が設けられている。防振ゴムの挿通穴72A内にはワイヤボルト62が挿通され、且つ、このワイヤボルト62はナット69により固定されるようになっている。
【0029】
また、この防振ゴム72は、ワイヤケース73の内面に設けられている。
このワイヤケース73は鋼製で、内部で鋼製のワイヤ68をかしめによって固定している。
また、上側フランジ58及び下側フランジ59とワイヤケース73との間には、隙間G,Gが形成されている。これにより、防振ゴム72がボルト62の廻りを摺動可能になっている。
【0030】
また、ワイヤASSY65の全長は、図3に示すように、ワイヤ68が所定の撓み量Aを有するように設定されている。
この所定の撓み量Aは通常の車両走行時にモータの振動、路面の凹凸、車両の旋回等によって生じるパワープラント21の揺動を阻害しない程度の長さに設定されている。
また、図4に示すように、パワープラント21が、フロントインシュレータ39L,39Rおよびリアインシュレータ48の可動範囲を超えて前方へ変位しようとした場合、ワイヤ68の撓み量Aがゼロとなって、ワイヤ68に張力が生じて張り詰めた状態になるよう、ワイヤASSY65の全長は設定されている。
【0031】
本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
まず、図1中矢印CFで示すように、前進していた車両10の前方が衝突した(即ち、前突が生じた)場合を想定する。
この場合、車両10は急激に減速することになり、図4中矢印Dで示すように、重量物であるパワープラント21は慣性により前進しようとする。しかしながら、このパワープラント21の前方にはバッテリ20を内蔵したバッテリケース24が配設されており、このバッテリケース24とパワープラント21とが激しく衝突する事態を回避する必要がある。
【0032】
通常時、即ち、車両10に衝突が生じていない場合、図3に示すように、パワープラント21は、フロントブラケット38とリアブラケット47とによってパワープラントマウントメンバ25に固定されている。
このため、従来であれば、これらのフロントブラケット38およびリアブラケット47の強度を増大させることで、パワープラント21が慣性によって前進することを防ぐ手法を採ることが一般的であろう。
【0033】
しかしながら、図1中矢印CRで示すように、車両10の後方から他の車両(図示略)が追突してきた場合、あるいは、後退していた車両10が障害物(図示略)にぶつかったような場合、即ち、後突が生じた場合、単純にフロントブラケット38およびリアブラケット47の強度を増大させてしまうと問題が生じてしまう。
つまり、図8に示すように、車両10で後突が生じると、パワープラントマウントメンバ25には後方から前方へ向けて衝撃力PRが入力され、パワープラントマウントメンバ25は前進する。
【0034】
この場合、仮に、フロントブラケット38およびリアブラケット47の強度が十分であるとすれば、パワープラント21は、パワープラントマウントメンバ25とともに前進し、バッテリケース24に衝突してしまうのである。
そこで、発明者らは、前突発生時にはパワープラント21をパワープラントマウントメンバ25に対して確実に固定しながら、一方、後突発生時にはパワープラント21がパワープラントマウントメンバ25から解放される構造、即ち、本発明を完成させるに至ったのである。
【0035】
つまり、前突発生時には、図4に示すように、フロントブラケット38,リアブラケット47のみならずワイヤASSY65によっても、パワープラント21がパワープラントマウントメンバ25に確実に固定されるようになっている。
一方で、後突発生時には、図8に示すように、ワイヤASSY65がパワープラント21の固定になんら寄与しないようにすることで、フロントブラケット38およびリアブラケット47の破断が妨げられないようになっている。
【0036】
ここで、図9のグラフを参照し、前突発生時において、リアブラケット47とワイヤASSY65とが協働し、パワープラント21の前進距離が増大することを抑制していることについて説明する。
この図9中、一点鎖線A1は、リアブラケット47を用いず、ワイヤASSY65によってパワープラント21をパワープラントマウントメンバ25に固定した場合の特性を示している。
【0037】
また、二点鎖線A2は、ワイヤASSY65を用いず、リアブラケット47を用いてパワープラント21をパワープラントマウントメンバ25に固定した場合の特性を示している。
そして、実線A3は、ワイヤASSY65とリアブラケット47とを用いてパワープラント21をパワープラントマウントメンバ25に固定した場合の特性を示している。
【0038】
前突発生により、ワイヤASSY65および/またはリアブラケット47に入力されたパワープラント21の慣性力がWであったと仮定する。
また、パワープラント21の前面に固定されたフロントブラケット38とバッテリケース24との間の距離がL2であったと仮定する。
つまり、この場合、入力荷重がWであった場合に、パワープラント21の前進距離はL2以下になる必要がある。
【0039】
しかしながら、一点鎖線A1で示すように、ワイヤASSY65のみによってパワープラント21の前進距離をL2以下にすることは出来ない。同様に、二点鎖線A2で示すように、リアブラケット47のみによってパワープラント21の前進距離をL2以下にすることも出来ない。
これに対して、実線A3で示すように、ワイヤASSY65とリアブラケット47とを用いてパワープラント21をパワープラントマウントメンバ25に固定すれば、パワープラント21の前進距離をL2以下にすることが出来るのである。つまり、パワープラントマウントメンバ25に対するパワープラント21の取り付け剛性を高めることが出来るのである。
【0040】
また、この図9中、二点鎖線A1で示すように、パワープラント21の前進距離がL1に至るまでワイヤASSY65は弾性変形していない。これは、図3に示すように、通常時、ワイヤASSY65の撓み量Aが所定の長さに設定され、且つ、図9に示すように、パワープラント21が、フロントインシュレータ39L,39Rおよびリアインシュレータ48の可動範囲L1を超えて前方へ変位しようとした場合に、ワイヤ68の撓み量Aがゼロとなるよう、ワイヤASSY65の全長が設定されていることによるものである。
【0041】
これにより、フロントインシュレータ39L,39Rおよびリアインシュレータ48による、パワープラント21の振動吸収機能が妨げられないようになっている。
一方、前突発生時に、パワープラント21がパワープラント21が、フロントインシュレータ39L,39Rおよびリアインシュレータ48の可動範囲L1を超えて前方へ変位しようとした場合に、ワイヤASSY65には張力が生じ、リアブラケット47と協働してパワープラント21を支持し、パワープラント21が過度に前進する事態を防ぐことが出来る。
【0042】
また、リアブラケット47は、図4中符号Bに示すように、パワープラント接続部54の軸線C54と、マウントメンバ接続部55の軸線C55とが、車幅方向にオフセットするように形成されている。リアブラケット47をこのような形状にすることで、後突発生時にリアブラケット47に入力される圧縮力により、リアブラケット47に比較的大きな剪断応力を生じさせることが可能となり、リアブラケット47を比較的容易に破断させることが出来る。
【0043】
一方、前突発生時、リアブラケット47に入力される力は引張力であり、リアブラケット47に生じる剪断応力はきわめて小さい。したがって、前突発生時におけるリアブラケット47の強度低下を防ぐことが出来る。
このように、後突発生時、パワープラント21をパワープラントマウントメンバ25から脱落させることで、パワープラント21とバッテリケース54とが激しく衝突する事態を回避することが出来るのである。
【0044】
また、前突発生時、パワープラント21とパワープラントマウントメンバ25との接続強度を高めることで、パワープラント21とバッテリケース54とが衝突する事態を回避することが出来るのである。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが出来る。その一例を以下に示す。
【0045】
上述の実施形態において、ワイヤASSY65の全長は、図3に示すように、ワイヤ68の撓み量Aがパワープラント21の揺動を阻害しない程度になるように設定されていたが、これに限定するものではない。例えば、ワイヤ68の撓み量Aをパワープラント21が、フロントインシュレータ39L,39Rおよびリアインシュレータ48の可動範囲を超えて前方へ変位しようとした場合、ワイヤ68の撓み量Aがゼロとなって、ワイヤ68に張力が生じて張り詰めた状態になるように、ワイヤASSY65の全長を設定してもよい。
【0046】
また、上述の実施形態において、パワープラント21が電気モータ22および減速機23により構成されている場合を例にとって説明したが、これに限定されるものではない。例えば、パワープラント21が減速機23を有さず、電気モータ22のみを有している仕様であってもよい。
また、上述の実施形態において、バッテリ20が電源として用いられている場合を例にとって説明したが、これに限定されるものではない。例えば、バッテリ20に代えて、キャパシタを用いるようにしてもよい。
【0047】
また、上述のワイヤリア固定部45とワイヤアッセンブリ65とをワイヤボルト62およびナット69により固定する場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、このワイヤリア固定部45を主に示す模式的に示す斜視図である図10や、図10の要部を示す模式的な断面図である図11に示すように、ジョイントピン81と割りピン82とを用いて、ワイヤリア固定部45とワイヤアッセンブリ65とを固定するようにしてもよい。
【0048】
また、上述の実施形態において、アルミニウムや鋼が用いられている場合を例にとって説明したが、これに限定されるものではなく、重量や強度について同程度の性能を得ることができるのであれば、他の材料に変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造が適用された車両を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造の全体構成を示す模式的な斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造の要部構成を示す模式的な上面図であって、車両が衝突していない場合を示す。
【図4】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造の要部構成を示す模式的な上面図であって、車両の前方が衝突している場合を示す。
【図5】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造に用いられる、ワイヤフロント固定部を示す模式的な斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造に用いられる、ワイヤアッセンブリの外観を示す模式的な斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造に用いられる、ワイヤアッセンブリの一部を示す模式的な部分断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造の要部構成を示す模式的な上面図であって、車両の後方が衝突している場合を示す。
【図9】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造に用いられるリアブラケットおよびワイヤアッセンブリに対する入力荷重と弾性変形量との関係を示す模式的なグラフである。
【図10】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造の変形例に用いられる、ワイヤアッセンブリの一部を示す模式的な斜視図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る電気自動車のパワープラント搭載構造の変形例に用いられる、ワイヤアッセンブリの一部を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 車両(電気自動車)
11 サイドメンバ(車体)
17 後端クロスメンバ(車体)
21 パワープラント
20 バッテリ(電源)
23 電気モータ
25 パワープラントマウントフレーム(サブフレーム)
26 後端部(第1サブフレーム)
28L,28R 側端部(第2サブフレーム)
38 フロントブラケット
65 ワイヤASSY(ワイヤ部材)
66 ワイヤASSYの前端部(ワイヤ部材の前端部)
67 ワイヤASSYの後端部(ワイヤ部材の後端部)
39L,39R フロントインシュレータ
47 リアブラケット
48 リアインシュレータ
54 パワープラント接続部
55 マウントメンバ接続部(サブフレーム接続部)
54 パワープラント接続部の軸線
55 第1サブフレーム接続部の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源の後方に配設された電気モータを有するパワープラントを電気自動車に搭載する、電気自動車のパワープラント搭載構造であって、
該パワープラントを支持するサブフレームと、
該サブフレームの一部であって該パワープラントよりも後側で該電気自動車の車体に固定される第1サブフレームと、
該サブフレームの一部であって該第1サブフレームよりも前側で該車体に固定される第2サブフレームと、
該パワープラントと該第1サブフレームとの間に介装されるリアブラケットと、
該パワープラントの前側と該第2サブフレームとに接続されるフロントブラケットと、
その一端部が該パワープラントに接続されるとともにその他端部が該第1サブフレームに接続されたワイヤ部材とを備える
ことを特徴とする、電気自動車のパワープラント搭載構造。
【請求項2】
該リアブラケットと該第1サブフレームとを防振可能に接続するリアインシュレータと、
該フロントブラケットと該第2サブフレームとを防振可能に接続するフロントインシュレータとをさらに備え、
該ワイヤ部材は、
該リアインシュレータおよび該フロントインシュレータが許容する可動範囲内では撓んだ状態となり且つ該可動範囲を超えると張力が生じるように形成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気自動車のパワープラント搭載構造。
【請求項3】
該リアブラケットは、
該パワープラントに固定されるパワープラント接続部と、
該第1サブフレームに接続されるサブフレーム接続部とを有し、
該パワープラント接続部の軸線と該サブフレーム接続部の軸線とが車幅方向にオフセットするように形成されている
ことを特徴とする、請求項1または2記載の電気自動車のパワープラント搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−227083(P2009−227083A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74327(P2008−74327)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】