説明

電気配線部品の製造方法、電気配線部品および液体吐出ヘッド

【課題】 微細な電気配線を確実に形成すること。
【解決手段】 基板80に配線パターン状の溝81を形成する工程(a)〜(c)と、基板80の溝81の内部に光触媒層82(820)を形成する工程(d)、(e)と、金属イオン及び犠牲剤を含む溶液83に基板80を浸漬しつつ、基板80の光触媒層82に紫外線94を照射して、基板80の溝81の内部に金属84を析出させることにより、溝81の内部に電気配線を形成する工程(g)を備える。光析出する工程(g)の前に、溝81の内部に形成されている光触媒層82に紫外線94を照射して光触媒層82を親水化する工程(f)をさらに行うことが、好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気配線を有する電気配線部品の製造方法、電気配線部品および液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを吐出するノズルを有し、このノズルから紙などの記録媒体に向けてインクを吐出する液体吐出ヘッドが用いられている。
【0003】
このような液体吐出ヘッドとしては、例えば、アクチュエータとして圧電素子を用い、ノズルに連通する圧力室の容積を、この圧力室の一壁面を構成する振動板を介して圧電素子により変化させることにより、ノズルからインクを吐出するようにしたものが知られている。
【0004】
また、アクチュエータとしてヒータなどの発熱体を用い、この発熱体により圧力室内のインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でノズルからインクを吐出するようにした液体吐出ヘッドも知られている。
【0005】
これらの液体吐出ヘッドにおいて、アクチュエータに与える電気信号を伝送する電気配線の形成方法としては、例えばフォトリソグラフィー技術を用いて、銅などの導電性金属をエッチングする方法がある。
【0006】
また、特許文献1には、基板上に溝を形成し、この溝内部にインクジェット技術で無電解メッキ触媒含有液をパターニングした後、無電解メッキ又は無電解メッキに続く電解メッキにより、溝の開口部に導電性物質を析出させる方法が記載されている。
【0007】
無電解メッキにより電気配線を形成するには、例えば、Pd(パラジウム)とSn(スズ)の化合物を基板の表面に付着させた後、Snを溶解させるとともに触媒としてのPd層を基板の表面に生成する工程(いわゆるアクセレレーション)を行い、さらに目的の電気配線を形成するための導電性金属イオンを含有したメッキ溶液中で、メッキ溶液中の導電性金属を還元させてPd層の表面にメッキ皮膜を形成する工程を行う。これらの工程を経て、基板上に目的の電気配線が形成される。
【0008】
特許文献2には、非導電性物体の表面に光触媒粉末含有結合剤をパターン状に塗布し、ついで還元剤を含む金属イオンの水溶液に浸しつつ紫外線を照射することによって、前記パターン状に金属メッキを形成する方法が記載されている。ここで、光触媒粉末含有結合剤の実用的な塗布方法としては、パッド印刷、スクリーン印刷、または、ディスペンサ付属プロッタによる描画が用いられる。
【特許文献1】特開2005−50969号公報
【特許文献2】特開平2−205388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
液体吐出ヘッドにおいて、高解像度の画像を高速で形成するため、多数のノズルを高密度で配置することが求められている。ここで、多数のノズルを高密度で配置しようとすると、アクチュエータ駆動用の電気配線を、基板上で高密度に配設する必要が生じる。例えば配線ピッチが20μmであってL/S(ライン幅/スペース間隔)が10μm/10μmの電気配線、あるいはこれよりも微細な電気配線を形成することが求められている。一方で、電気配線は、低コストで形成することも求められている。
【0010】
また、フォトリソグラフィー技術を用いた方法では、電気配線の精細度を上げるにつれて、レジスト厚を薄くする必要があり、これに伴って電気配線となる導電体の厚みも薄くならざるを得ず、その結果として電気配線の抵抗値が上昇してしまうことになる。
【0011】
特許文献1に記載のように、無電解メッキ触媒としてPdなどの高価な貴金属を用いる方法では、製造コストが上がってしまうことになる。したがって、このような高価な貴金属を用いる方法はコストの観点から不利である。
【0012】
また、電気配線を微細化していくと、電気配線と基板との密着性が低下するという課題もある。
【0013】
なお、特許文献1に記載のように、溝を形成後にインクジェット技術で触媒含有液をパターニングする場合には、微細な溝の内部に無電解メッキ触媒含有液を打ち込む必要がある。例えば、幅10μm以下の溝の内部に打ち込むには、射出量をサブpLオーダにする必要があり、このように少量の液体を精細な溝の内部のみに正確に打ち込むことは困難である。
【0014】
特許文献2に記載のように、パッド印刷、スクリーン印刷、または、ディスペンサ付属のプロッタで、基板表面に光触媒粉末含有結合剤を塗布する場合には、一般に基板表面に光触媒パターンが凸形状で形成されてしまうことになり、この凸形状部分を起点として等方的に金属の析出が進行するので、電気配線を微細化していくと電気配線間の絶縁が不確実になる。したがって、微細な電気配線を形成することは実際には困難である。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微細な電気配線を確実に形成することができる電気配線部品の製造方法、電気配線部品および液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基板に配線パターン状の溝を形成する溝形成工程と、前記基板の前記溝の内部に光触媒層を形成する光触媒層形成工程と、金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に前記基板を浸漬しつつ、該基板の前記光触媒層に紫外線を照射して、前記基板の前記溝の内部に金属を析出させることにより、該溝の内部に電気配線を形成する光析出工程を含むことを特徴とする電気配線部品の製造方法を提供する。
【0017】
光触媒は、紫外線の照射により触媒活性を示すものである。例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、タンタル酸カリウム、チタン酸ストロンチウム等が実際的である。紫外線の照射により触媒活性を示すものであれば他の光触媒を用いてもよい。
【0018】
また、犠牲剤(「犠牲試薬」ともいう)は、自身は酸化する一方で、金属イオンを還元させる物質である。例えば、ホルムアルデヒド、メタノール、エタノール、ギ酸等が挙げられる。金属を析出させるものであれば他の犠牲剤を用いてもよい。
【0019】
この発明によれば、基板に溝を形成し、この溝の内部に光析出により電気配線を形成するので、基板に形成する溝のピッチを小さくして電気配線を高密度化しつつ電気配線間の絶縁を確実にすることが可能となる。さらに、溝の内部に光触媒層を介して電気配線が形成されるので、基板に対する電気配線の密着性が向上するとともに、Pdなどの高価な貴金属を用いた触媒化工程を伴う無電解メッキで電気配線を形成する場合と比較して、低コストで電気配線を形成することができる。したがって、電気配線の高密度化と信頼性の向上と両立させて、かつ低コストで電気配線を形成できる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記溶液は無電解メッキ液であり、前記光析出工程で析出した前記金属を無電解メッキにより増膜する工程をさらに含むことを特徴とする電気配線部品の製造方法を提供する。
【0021】
この発明によれば、無電解メッキ液中で光析出した金属を、直接無電解メッキで増膜できるので工程を短縮できる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光析出工程で光析出した前記金属をシード層として電解メッキを行う工程をさらに含むことを特徴とする電気配線部品の製造方法を提供する。
【0023】
この発明によれば、環境適性が向上する等の電解メッキのメリットが得られる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記光析出工程の前に、前記溝の内部に形成されている前記光触媒層に紫外線を照射して該光触媒層を親水化する親水化工程をさらに含むことを特徴とする電気配線部品の製造方法を提供する。
【0025】
この発明によれば、光触媒層が親水化した後に光析出工程が行われることにより、光析出工程で光触媒層に気泡が付着することが防止されるので、金属の析出不良が抑制されて電気配線の信頼性が向上する。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記溝形成工程は、凸部を有する金型を用いて形状転写により前記溝を形成することを特徴とする電気配線部品の製造方法を提供する。
【0027】
この発明によれば、予め作成された金型を用いて形状転写により溝が形成されるので、フォトリソグラフィー技術を用いて溝を形成する場合と比較して、簡易に溝を形成できる。
【0028】
請求項6に記載の発明は、少なくてもひとつの面に配線パターン状の溝が形成され、該溝の内部に光触媒層を介して金属からなる電気配線が形成されていることを特徴とする電気配線部品を提供する。
【0029】
請求項7に記載の発明は、液体を吐出する液体吐出口と、前記液体吐出口から吐出される液体を収容する圧力室と、前記圧力室内の圧力を変化させることにより前記圧力室内の液体に吐出力を与える吐出力付与手段と、前記吐出力付与手段に与える電気信号を伝送する前記電気配線が形成された請求項6に記載の電気配線部品を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッドを提供する。
【0030】
この発明によれば、液体吐出用の電気配線を高密度で配設できるので、液体吐出口を高密度化することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、微細かつ確実に電気配線を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、添付図面に従って、本発明を実施の形態について詳細に説明する。
【0033】
[液体吐出ヘッド]
図1は、液体吐出ヘッドの一例の全体構造について、図中の左半分を透視して示す平面図である。
【0034】
図1に示す液体吐出ヘッド50は、いわゆるフルライン型のヘッドであり、被吐出媒体としての記録媒体116の搬送方向(図中に矢印Sで示す副走査方向である)と直交する方向(図中に矢印Mで示す主走査方向である)において、記録媒体116の幅Wmに対応する長さにわたり、記録媒体116に向けて液体を吐出する多数のノズル51(液体吐出口)を配列させた構造を有している。
【0035】
液体吐出ヘッド50は、具体的には、ノズル51と、ノズル51に連通し、ノズル51から吐出される液体を収容する圧力室52と、圧力室52内に液体が供給されるように形成された開口部としての液体供給口53とを含んでなる複数の圧力室ユニット54が、主走査方向Mおよび主走査方向Mに対して所定の鋭角(θ:0度<θ<90度)をなす斜め方向の2方向に沿って2次元配列されて構成されている。なお、図1では、図示の便宜上、一部の圧力室ユニット54のみ描かれている。
【0036】
複数のノズル51は、詳細には、主走査方向Mに対して鋭角(θ)をなす方向に沿って一定のピッチ(d)で複数配列されており、主走査方向Mに沿った一直線上に所定のピッチ(d×cosθ)で配列されたものと等価に取り扱うことができる。このようなノズル配列によれば、主走査方向Mに沿って例えば1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)に及ぶような高密度のノズル配列と実質的に同等の構成にできる。すなわち、液体吐出ヘッド50の長手方向(主走査方向M)に沿った直線上に並べられるように投影される実質的なノズルの間隔(投影ノズルピッチ)を小さくでき、高解像度にできる。
【0037】
本例では、複数の圧力室52にインクを供給する共通液室55は、複数の圧力室52の全てを覆うようにひとつの空間をなす流路として共通液室形成板506に形成されている。
【0038】
共通液室55の端部には、液体吐出ヘッド50の外部の図示を省略した液体タンクから共通液室55にインクが導入される液体導入口553が形成されている。
【0039】
図1の2−2線に沿った断面図を図2に示し、図1の3−3線に沿った断面図を図3に示す。
【0040】
図2および図3に示すように、液体吐出ヘッド50は、ノズル形成板501、圧力室形成板502、振動板503、中間板504、電気配線基板505、共通液室形成板506、および、封止板507を含む、複数のプレートが積層されて形成されている。
【0041】
ノズル形成板501には、液体を吐出する複数のノズル51が2次元配列されて形成されている。
【0042】
ノズル形成板501の上(すなわちノズル面510とは反対側)には、ノズル51に連通する複数の圧力室52が形成された圧力室形成板502が接着されている。
【0043】
圧力室形成板502の上には、圧力室52の一方の壁面(振動面)を構成するとともにアクチュエータ58が形成されている振動板503が接着されている。
【0044】
アクチュエータ58は、圧電材料からなる圧電体580と、この圧電体580を厚さ方向において挟む導電性材料からなる振動板503および個別電極57によって構成されている。
【0045】
アクチュエータ58は、振動板503上の各圧力室52に対応する位置に設けられており、振動板503を振動させて、圧力室52内の圧力を変化させることにより圧力室52内の液体に吐出力を付与する吐出力付与手段として機能する。
【0046】
振動板503は、グランドに接続されており、アクチュエータ58の一方の電極(共通電極)を構成している。アクチュエータ58の他方の電極は、個別電極57によって構成されており、この個別電極57にはアクチュエータ駆動用の電気配線84が接続されている。
【0047】
また、振動板503には、図1に示した液体供給口53が形成されている。
【0048】
振動板503の上には、アクチュエータ58の周囲に空隙581を形成してアクチュエータの動作を阻害しないようにするとともに、アクチュエータ58全体を保護する中間板504および電気配線基板505が接着されている。
【0049】
振動板503、中間板504および電気配線基板505を挟んで、圧力室形成板502が配置されている側とは反対側には、共通液室形成板506が配置されている。この共通液室形成板506には、圧力室52に液体を供給する共通液室55が形成されている。
【0050】
共通液室形成板506の上には、共通液室55の天面を構成する封止板507が形成されている。電気配線基板505と封止板507との間の空間は、共通液室55となっており、ここにはインクが充満する。
【0051】
共通液室55は、圧力室52に対してノズル51を下として見たとき、複数の圧力室52の直上に形成されており、共通液室55の底部に形成された開口部としての連通口530から電気配線基板505および中間板504を貫通して振動板503に形成された液体供給口53まで至る液体供給流路531を介して、各圧力室52に連通している。すなわち、共通液室55内のインクは、液体供給流路531を介して、共通液室55の直下に位置する複数の圧力室52に対して真っ直ぐに流動するので、各圧力室52にインクがリフィル性良く供給されることになる。
【0052】
アクチュエータ58を駆動するための電気配線84は、電気配線基板505に水平方向(アクチュエータ58の配置面に平行な方向である)に沿って配設されている。具体的には、電気配線基板505の溝内部に電気配線84が形成されている。この電気配線基板505および電気配線84の詳細については、後に詳細に説明する。
【0053】
電気配線84を介してアクチュエータ58の個別電極57に駆動信号が与えられると、アクチュエータ58を構成する圧電体580が変位して、振動板503を介して圧力室52の容積が変化する。これにより圧力室52に連通するノズル51から液体が吐出される。
【0054】
本例では、共通液室55を振動板503の上に配置したため、圧力室52からノズル51まで至るノズル流路511の長さを短くすることができ、高粘度インク(例えば20cp〜50cp程度)の吐出が可能となる。また、本例では、共通液室55が、複数の圧力室52の全てを覆うようにひとつの空間をなす流路として共通液室形成板506に形成されているので、共通液室55のサイズを大きくすることができるとともに、共通液室55中の流路抵抗を低減できることになり、高粘度の液体の吐出に適している、なお、本発明はこのような場合に特に限定されない。例えば、本流と、この本流から分岐して形成された支流からなる構造として共通液室形成板506に形成されていてもよい。
【0055】
図1、図2および図3に示した液体吐出ヘッド50では、共通液室55を振動板503の上に、且つ、全ての圧力室52を覆うように、共通液室55を形成したが、図4に示す液体吐出ヘッド500のように、圧力室52よりも下(すなわち圧力室52よりもノズル面510に近い方)に共通液室55を設けてもよい。なお、図4に示す液体吐出ヘッド500において、図2および図3に示した液体吐出ヘッド50の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付してあり、既に説明したので詳細な説明は省略する。
【0056】
[電気配線基板の製造方法]
電気配線基板(以下単に「基板」という)の製造方法の一例について、図5の工程図を用いて説明する。なお、図5では、図2〜図4に示した基板505に符号80を付してある。
【0057】
まず、基板80に、配線パターン状の溝81を形成する。
【0058】
溝81の具体的な形成方法としては、第1に、図5(a)に示すように、絶縁性の樹脂からなる板材を基板80として用意するとともに、目的の電気配線のパターン(配線パターン)に対応した凸部91を有する金型90を用意し、図5(b)および(c)に示すように、金型90から基板80への形状転写により、基板80に配線パターンに対応する凹形状の溝81を形成する方法がある。第2に、基板80として感光性樹脂を用い、選択露光により溝81を形成する方法がある。工程の単純化のためには、前者の第1の方法が好ましい。
【0059】
次に、溝81の内部に光触媒分散液を付着させて、溝81の内部に光触媒層を形成する。
【0060】
光触媒は紫外線の照射により触媒活性を示すものであれば特に限定されない。例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、タンタル酸カリウム、チタン酸ストロンチウム等が実際的である。
【0061】
溝81の内部に光触媒分散液を付着させる方法としては、第1に、図5(d−1)に示すように、光触媒分散液820が滴下された基板80の表面上でスキージ92を摺動させることにより、溝81の内部に光触媒分散液820を残す一方で、基板80の表面上の余分な光触媒分散液820を取り除く方法がある。第2に、図5(d−2)に示すように、光触媒分散液820が滴下された基板80を回転させて、溝81の内部には光触媒分散液820を引っ掛けて残す一方で、基板80の表面上の余分な光触媒分散液820を遠心力により飛ばして除去する方法(いわゆるスピンコート)がある。溝81以外の部分への光触媒分散液820の付着を確実になくすため、さらにワイプ等の工程を入れてもよい。
【0062】
溝81の内部に光触媒分散液820を付着させた後、図5(e)に示すように、基板80を加熱し、光触媒分散液820からなる光触媒層82を乾燥させることにより、光触媒層82を基板80に固着させる。
【0063】
次に、図5(f)に示すように、基板80の溝81内部の光触媒層82に対して紫外線94を照射し、光触媒層82を親水化する。
【0064】
図6(a)〜(c)は、光触媒層82の親水化の説明に用いる模式図である。なお、図6(a)〜(c)は、光触媒層82として酸化チタンからなる薄膜(「酸化チタン層」という)を形成した場合を示している。
【0065】
図6(a)に示すように、酸化チタン層82の表面では、チタン(Ti)と酸素(O)とが架橋して安定化している。この状態では、酸化チタン層82の表面は疎水性である。このような安定化した状態の酸化チタン層82に、紫外線UVが照射されると、チタン(Ti)に架橋していた一部の酸素(O)が離脱して、酸素欠陥が生じる。この酸素欠陥に大気中の水(HO)が結合して酸化チタン層82の表面に水酸基(OH)が生じ、水酸基が酸化チタン層82を覆うことにより、酸化チタン層82に親水性が発現する。このように酸化チタン層82を親水化しておくことにより、次工程において溝81構造ゆえに懸念される溝81内の気泡残りが防止されることになる。
【0066】
凹形状の溝81内部に形成されている光触媒層82を均質に親水化する方法としては、基板80に対して斜め方向から紫外線を照射しつつ、基板80および紫外線光源のうちで少なくとも一方を回転運動(あるいは才差運動)させる方法や、基板80に対する紫外線の照射角度を変化させる方法がある。
【0067】
例えば、図7(a)に示すように、水平面に配置された基板80に対して、斜め方向から紫外線94を発射する紫外線光源96を用意し、紫外線光源96を回転運動させる。あるいは、基板80を回転運動させるように構成してもよい。また、例えば、図7(b)に示すように、紫外線光源96から垂直方向に紫外線を発射しつつ、基板80の傾斜角θiを変化させるようにしてもよい。
【0068】
次に、図5(g)に示すように、溝81内部に光触媒層82が形成された基板80を、導電体として使用したい金属のイオンおよび犠牲剤を少なくとも含む溶液83に浸漬しつつ、光触媒層82に対して紫外線を照射する。そうすると溝81内部の光触媒層82上に電気配線としての金属84が光析出する。
【0069】
使用する金属としては、Cu、Ag、Au、Pt等が挙げられる。
【0070】
犠牲剤としては、ホルムアルデヒド、メタノール、エタノール、ギ酸等が挙げられる。
【0071】
溶液83中の金属イオン及び犠牲剤の濃度は、金属イオン:0.05〜0.5mol/L、犠牲剤:0.3〜3mol/L、の範囲が好ましく用いられる。
【0072】
ここで、犠牲剤は、自身は酸化する一方で、他の物質を還元する物質である。犠牲試薬ともいう。
【0073】
具体的には、光触媒層82に紫外線94が照射されると、電子および正孔が生ずる。ついで、犠牲剤が正孔を捕捉する一方で、金属イオンに電子が与えられることにより、金属が析出する。
【0074】
ここで、金属84を均質に析出させる方法としては、基板80に対して斜め方向から紫外線を照射しつつ、基板80および紫外線光源のうちで少なくとも一方を回転運動(あるいは才差運動)させる方法や、基板80に対する紫外線の照射角度を変化させる方法がある。
【0075】
次に、図5(h)に示すように、溝81内に光析出した金属84をシード層として、電解メッキで増膜する。電解メッキで増膜する代りに、溝81内で光析出した金属84を触媒として、無電解メッキで増膜してもよい。
【0076】
なお、光析出用の溶液を専用に用意してもよいが、目的の電気配線を構成する金属のイオンおよび犠牲剤を含む無電解メッキ液に基板80を浸漬して、紫外線を照射してもよい。この場合、光析出した金属を触媒核としてその上に無電解メッキ反応が連続的に進行するので、工程を短縮することができる。無電解メッキ後に電解メッキをかけることもできるが、工程の短縮の観点からは、無電解メッキ液中で光析出と増膜とを連続して行うことが、好ましい。
【0077】
以上説明した電気配線基板80の製造方法によれば、電気配線基板80に溝81を形成した後に、この溝81の内部に光析出により電気配線84を形成するので、電気配線基板80に形成する溝81のピッチを小さくして電気配線84を高密度化しつつ電気配線84間の絶縁を確実にすることが可能となる。
【0078】
さらに、溝81の内部に光触媒層82を介して電気配線84が形成されるので、電気配線基板80に対する電気配線84の密着性が向上するとともに、Pd(パラジウム)などの高価な貴金属を用いたいわゆる触媒化を行なう場合と比較して、低コストで電気配線84を形成することができる。したがって、電気配線84の高密度化と信頼性の向上と両立させて、かつ低コストで電気配線84を形成できる。
【0079】
また、光触媒層82が親水化した後に光析出が行われることにより、光析出で光触媒層82に気泡が付着することが防止されるので、析出不良が抑制されて電気配線84の信頼性が向上する。
【0080】
[画像形成装置]
図8は、画像形成装置110の一例の全体構成を示すブロック図である。
【0081】
図8において、画像形成装置110は、主として、液体吐出ヘッド50、通信インターフェース210、システムコントローラ212、メモリ214、252、搬送部220、給液部222、ヘッドコントローラ250、および、アクチュエータ駆動部254を含んで構成されている。
【0082】
本画像形成装置110には、K(黒)、C(シアン)、M(マゼンタ)およびY(イエロ)の各色別のインクをそれぞれ吐出する複数の液体吐出ヘッド50が設けられている。この液体吐出ヘッド50は、図1乃至図3に示したものである。図4に示した液体吐出ヘッド500を用いてもよい。
【0083】
通信インターフェース210は、ホストコンピュータ300から送信される画像データを受信する画像データ入力手段である。通信インターフェース210には、有線、又は、無線のインターフェースを適用することができる。この通信インターフェース210によって画像形成装置110に取り込まれた画像データは、画像データ記憶用の第1のメモリ214に一旦記憶される。
【0084】
システムコントローラ212は、マイクロコンピュータおよびその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従って画像形成装置110の全体を制御する主制御手段である。すなわち、システムコントローラ212は、通信インターフェース210、搬送部220、ヘッドコントローラ250等の各部を制御する。
【0085】
搬送部220は、紙などの記録媒体を搬送する搬送用のモータおよびそのドライバ回路を含んで構成されている。すなわち、システムコントローラ212によって制御された搬送部220により、液体吐出ヘッド50と記録媒体とが相対的に移動する。
【0086】
給液部222は、液体吐出ヘッド50へ供給される液体を貯蔵するインクタンク、このインクタンクから液体吐出ヘッド50までインクを流動させる管路、この管路上に設けられたポンプなどを含んで構成されている。
【0087】
アクチュエータ駆動部254は、液体吐出ヘッド50のアクチュエータ58に対して電気信号を与えるものである。
【0088】
ヘッドコントローラ250は、マイクロコンピュータおよびその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従って給液部222およびアクチュエータ駆動部254を制御する制御手段である。
【0089】
ヘッドコントローラ250は、画像形成装置110に入力される画像データに基づいて、液体吐出ヘッド50が記録媒体に向けて液体の吐出を行って記録媒体上にドットを形成するために必要なデータ(ドットデータ)を生成する。すなわち、ヘッドコントローラ250は、システムコントローラ212の制御に従い、第1のメモリ214内の画像データからドットデータを生成するための各種の加工、補正などの画像処理を行う画像処理手段として機能し、生成したドットデータをアクチュエータ駆動部254に与える。このようにしてドットデータがアクチュエータ駆動部254に与えられると、ドットデータに基づいてアクチュエータ駆動部254から、図2および図3に示す電気配線84を介して、液体吐出ヘッド50のアクチュエータ58に対して電気信号が与えられ、液体吐出ヘッド50のノズル51から記録媒体に向けて液体が吐出される。
【0090】
なお、図8において第2のメモリ252はヘッドコントローラ250に付随する態様で示されているが、第1のメモリ214と兼用することも可能である。また、ヘッドコントローラ250とシステムコントローラ212とを統合して1つのマイクロプロセッサで構成する態様も可能である。
【0091】
また、電気配線部品としてアクチュエータ58を駆動する電気配線84が形成された電気配線基板について説明したが、本発明の電気配線部品はこのような場合に特に限定されない。
【0092】
例えば、圧力室52内の圧力を検出する圧力センサを液体吐出ヘッド50内に設け、この圧力センサから出力された電気信号を伝送する電気配線用の基板として、本発明の電気配線部品を適用してもよい。
【0093】
また、アクチュエータ(吐出力付与手段)として、圧電素子を用いた場合を例に説明したが、他のアクチュエータを用いてもよい。例えば、ヒータなどの発熱体を用いて液体を吐出させる場合にも、本発明を適用できる。
【0094】
また、吐出される液体がインクである場合を例に説明したが、本発明は、基板に導電配線を形成する際に基板材料に向けて吐出される導電性の液体や、色フィルタを製造する際に光学材料に向けて吐出される液体等にも適用できる。
【0095】
その他、本発明は、本明細書において説明した例や図面に示された例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の設計変更や改良を行ってよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】液体吐出ヘッドの一例の全体構造を示す平面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った断面図である。
【図4】液体吐出ヘッドの他の例を示す断面図である。
【図5】電気配線基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図6】光触媒層の親水化の説明に用いる模式図である。
【図7】紫外線の照射方法の説明に用いる模式図である。
【図8】画像形成装置の一例の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0097】
50…液体吐出ヘッド、51…ノズル(液体吐出口)、52…圧力室、55…共通液室、58…アクチュエータ、80、505…電気配線基板(電気配線部品)、81…溝、82…光触媒層、84…電気配線、90…金型、91…金型の凸部、110…画像形成装置、210…通信インターフェース、212…システムコントローラ、214、252…メモリ、220…搬送部、222…給液部、250…ヘッドコントローラ、254…アクチュエータ駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に配線パターン状の溝を形成する溝形成工程と、
前記基板の前記溝の内部に光触媒層を形成する光触媒層形成工程と、
金属イオン及び犠牲剤を含む溶液に前記基板を浸漬しつつ、該基板の前記光触媒層に紫外線を照射して、前記基板の前記溝の内部に金属を析出させることにより、該溝の内部に電気配線を形成する光析出工程と、
を含むことを特徴とする電気配線部品の製造方法。
【請求項2】
前記溶液は無電解メッキ液であり、前記光析出工程で析出した前記金属を無電解メッキにより増膜する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の電気配線部品の製造方法。
【請求項3】
前記光析出工程で光析出した前記金属をシード層として電解メッキを行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の電気配線部品の製造方法。
【請求項4】
前記光析出工程の前に、前記溝の内部に形成されている前記光触媒層に紫外線を照射して該光触媒層を親水化する親水化工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気配線部品の製造方法。
【請求項5】
前記溝形成工程は、凸部を有する金型を用いて形状転写により前記溝を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気配線部品の製造方法。
【請求項6】
少なくてもひとつの面に配線パターン状の溝が形成され、該溝の内部に光触媒層を介して金属からなる電気配線が形成されていることを特徴とする電気配線部品。
【請求項7】
液体を吐出する液体吐出口と、
前記液体吐出口から吐出される液体を収容する圧力室と、
前記圧力室内の圧力を変化させることにより前記圧力室内の液体に吐出力を与える吐出力付与手段と、
前記吐出力付与手段に与える電気信号を伝送する前記電気配線が形成された請求項6に記載の電気配線部品と、
を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−173399(P2007−173399A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366940(P2005−366940)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】