説明

電着塗装用ハンガーフック

【課題】軽量物から重量のあるものまで、広い範囲の被塗装物を安定して吊すことができ、フックの変形や破損なく長期にわたって作業性良く使用でき、剛性が高く通電不良を生じない接点形状をもつようにした電着塗装用ハンガーフックを提供する。
【解決手段】鋭角な頂角を有する二等辺三角形状の部分を有する第1のフック片15と、第1フック片15の頂角から底辺に至る中心線にそって一辺が延びる三角形状の部分を有する第2のフック片16とから、T字形断面のハンガーフック本体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物を引っ掛けて、塗料槽内の塗料中に被塗装物を浸漬するために使用する電着塗装用ハンガーフックに関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、水溶性塗料が溶解した塗料のはいった塗料槽内で被塗装物を浸漬し、被塗装物と塗料槽内に設置した電極との間に直流電圧を印加することにより、被塗装物の表面に塗膜を形成する塗装法である。近年では、エポキシ樹脂を主展色剤としたカチオン電着塗料が主流になっており、耐食性、耐薬品性に優れ、塗膜の厚さを一定に保つことができ、複雑な形状の被塗装物でも良好な塗膜が得られるなど、数々の利点がある。
【0003】
この種の電着塗装では、被塗装物を移送したり、塗料槽中で浸漬したり、引き上げる操作を行うのに必要な治具として、ハンガーが不可欠になる。従来のハンガーは、フックで被塗装物を引っ掛けて吊る構造になっている。
【0004】
そこで、図10並びに図11に、電着塗装用ハンガーに用いられる従来のフックを示す。このうち、図10は、従来の一般的なフックで、フック2は、頂角が鋭角の三角形状の金属板からなるフックである。このフック2は、図10に示すように、ハンガー本体を構成するブリッジ3に上向きに傾斜した姿勢で支持されている。被塗装物5には、フック2に引っ掛けるためのラック穴4がついており、このラック穴4にフック2の先を通すようにして、被塗装物5をフック2に吊すことができる。
【0005】
これに対して、図11は、特許文献1で提案されているフック6である。このフック6では、先端の頂角をなす両辺に沿って鋸刃状エッジ7が形成されている。
【特許文献1】特許第3537593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10のフック2に、被塗装物5を引っ掛けた場合、フック2に対する被塗装物5の接触点は、2点の接触点になる。これに対して、図11の鋸状エッジを有するフックの場合は、図12に示すように、4点の接触点となり、図10のフック2に較べて被塗装物の姿勢が安定し、また、鋸刃状エッジの食い込みにより、通電不良が少なくなるという利点がある。
【0007】
しかしながら、図10、図11のフック2、6は共に、一枚の金属板からからなる平面構造であるため、剛性が不足し、被塗装物が重量物であると、曲がったり折れたりする欠点があった。
【0008】
また、図11のフック6は、接触点が4点であるものの、接点が狭い部位に集っており、特定の部位に荷重が集中する傾向がある。このため、重量のある被塗装物で何度も繰り返し使用すると、鋸歯が変形したり摩耗したりし、やがては通電不良の原因になるという問題点が指摘されていた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、軽量物から重量のあるものまで、広い範囲の被塗装物を安定して吊すことができ、フックの変形や破損なく長期にわたって作業性良く使用でき、剛性が高く通電不良を生じない接点形状をもつようにした電着塗装用ハンガーフックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は、電着塗装法による被塗装物を集合的に懸吊する電着塗装用ハンガーに用いられるハンガーフックにおいて、鋭角な頂角を有する二等辺三角形状の部分を有する第1のフック片と、前記第1フック片の頂角から底辺に至る中心線にそって一辺が延びる三角形状の部分を有する第2のフック片とから、T字形断面のハンガーフック本体を構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量物から重量のあるものまで広い範囲の被塗装物を安定した姿勢で吊すことができ、同じフックを通電不良や、変形、破損なく長期にわたって作業性良く使用でき、しかも剛性が高い接点構造とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明による電着塗装用ハンガーフックの一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1実施形態
図1は、本発明が適用される電着塗装用ハンガーを示す。図1において、参照番号10は、電着塗装用ハンガーの本体部を示す。このハンガー本体部10は、縦枠11と横枠12とからフレームが構成され、このフレームには、上下に所定の間隔をとってブリッジ13が架け渡されている。それぞれブリッジ13には、左右方向に一定の間隔をとってハンガーフック14が配列されている。ハンガーフック14には、被塗装物を引っ掛けるようにして吊ることができる。
【0013】
図2は、単体のハンガーフック14を示す。この実施形態によるハンガーフック14は、第1フック片15と、第2フック片16とからなり、図3に示すようなT字形断面のハンガーフック本体が構成されている。
【0014】
第1フック片15は、ほぼ二等辺三角形状の金属片である。そして第1フック片15先端は尖った鋭角の頂角になっている。第2フック片16も、同様に鋭角の頂角をもつ三角形状の金属片からなっている。この実施形態では、第2フック片16は、直角三角形であるが、これに限定されるものではない。
【0015】
第2フック片16は、第1フック片15の頂角から底辺に至る中心線にそって溶接により固着されており、第1フック片15に対して第2フック片16は垂直に立ち上がるようになっている。第1フック片15と第2フック片16の各頂角の頂点はほぼ一致するようになっている。
【0016】
この第1実施形態のハンガーフック14では、第2フック片16の頂角に向かって傾斜する辺には、ナイフ形エッジ17が形成されている。このナイフ形エッジ17は、第2フック片16の傾斜辺全体に亘って延び、そのエッジの刃は直線をなすようになっている。なお、第1フック片15、第2フック片16の材料は、特に、限定されるものではないが、ステンレス(SUS301、SUS304等)、鋼材(SPCC、SK4等)が好適である。この場合、必要に応じて熱処理が施される。
【0017】
次に、以上のように構成されるハンガーフック14の作用並びに効果について説明する。
図4において、参照番号20は、被塗装物を示す。この被塗装物20は、金属製の部品であって、ラック穴21が形成されている。そして、図4に示すように、ハンガーフック14は、上側が第2フック片16になる姿勢で斜めに支持されており、ハンガーフック14の先端をラック穴21に通すことで、被塗装物20をハンガーフック14に引っ掛けて吊ることができる。
【0018】
この状態では、図3に示すように、被塗装物20は、ハンガーフック14と接点22a、22b、22cで接触している。すなわち、第2フック片16のナイフ形エッジ17に接点22aがあり、第1フック片15の両辺上にそれぞれ接点22b、22cがあり、これら接点22a、22b、22cによる3点支持構造となる。
【0019】
このうち、第2フック片16のナイフエッジ17上にある接点22aは、被塗装物20の重量を支える支点となるので、この接点22aには被塗装物20の重量荷重Wに相当する力が作用する。この場合、ナイフエッジ17が鋭利になっているので、荷重によって被塗装物20に食い込むことになる。そして、この接点22aは、被塗装物20をテコとする場合の支点にもなる。このため、第1フック片15の両辺上にある接点22b、22cにかかる荷重は、テコ原理により増幅されることになる。しかも、図10に示した従来の一枚板のハンガーフックと較べると、ハンガーフックが同じ取付姿勢にあっても、第2フック片16がある分だけ、吊られた被塗装物の姿勢において鉛直面とのなす角度θが大きくなり、その分だけモーメントが大きくなるので、テコ荷重原理をより強化した接点構造となる。
【0020】
このように、自重およびテコ荷重を利用して、被塗装物20は、接点22a、22b、22cでハンガーフック14にがっちりと接触する構造になっているので、電着塗装を実施するときに塗膜に起因する通電不良が発生するのを確実に防止できる。
【0021】
また、三点支持構造により、支点となる接点22a、22b、22cがバランスよく三角形の頂点位置に配置されるので、被塗装物20を安定した状態でハンガーフック14に吊ることができる上に、被塗装物20の取り外しが容易で、作業性が向上する利点がある。
【0022】
また、重量のある被塗装物20を吊った場合であっても、ハンガーフック14は、T字形の断面構造を有しており、第2フック片16が補強リブとしての機能を発揮するので、曲がりなどの変形や破損することなく、長期間にわたって使用することができる。
【0023】
さらに、被塗装物20のラック穴21には、円形のほか、楕円形や、長円形、矩形などのいろいろな形状のラック穴があるが、本実施形態のハンガーフック14のように、T字形の断面構造とすることにより、ラック穴の形状を選ばず、汎用的に吊れるようになる利点がある。
【0024】
第2実施形態
次に、図5を参照して、本発明の第2実施形態による電着塗装用ハンガーフックについて説明する。
この第2実施形態が、第1実施形態と異なる点は、ハンガーフック14の本体を構成する第1フック片15と第2フック片16のうち、第1フック片15の両辺に沿ってエッジを形成している点である。
図5に示すハンガーフック14では、第1フック片15の両辺に形成されるエッジは、共にナイフエッジ23である。
この図5に示すハンガーフック14では、第1フック片15の両辺のナイフエッジ23と第2フック片16のナイフエッジ17とでは、刃先が相反した方向を向くようになっている。
【0025】
以上のような図5の実施形態によれば、図6に示すように、接触点22aが第2フック片16のナイフエッジ17の刃先にあり、刃先が相反した向きになっていることで、接触点22b、22cはそれぞれ第1フック片15のナイフエッジ23の刃先にある三点支持となり、特に、被塗装物20を吊したときのテコ荷重によって、第1フック片15の両辺に設けたナイフエッジ23の刃が被塗装物20に食い込むことになり、より確実に通電不良を防止できる。実際に、電着塗装を行ったところ、図11に示した従来のハンガーフックを用いた場合、1〜5%の範囲で、通電不良が発生したのに対して、本実施形態のハンガーフックでは、軽量の被塗装物での通電不良を1%以下に抑えることができ、重量のある被塗装物(160グラム)では、通電不良は生じなかった。
【0026】
また、このように接点22a、22b、22cがバランスよく三角形の頂点位置に配置されるので、被塗装物20が安定する上に、荷重をバランス良く分散させることにより、ナイフエッジ17、23の刃先にかかる負荷が小さくなるので、摩耗、破損が生じ難い構造にすることができ、耐久性が向上する。
【0027】
さらに、図6に示すように、ナイフエッジ17とナイフエッジ23の刃先が相反した向きになっているので、第1フック片15の底辺の幅をWとすると、第2フック片16の底辺の幅がW/2以上の幅をもっていれば、Wよりも大きな直径2Rのラック穴21をもつ被塗装物に対しても対応可能となり、図10に示した従来のハンガーフックに較べて、より大きなラック穴をもつ被塗装物に対して適用範囲が拡がるという利点がある。
【0028】
第3実施形態
次に、図7は、本発明の第3実施形態による電着塗装用ハンガーフックを示す図である。
この第3実施形態では、図7に示すように、第1フック片15の両辺に形成されるエッジの形が異なっており、一方がナイフエッジ23で、他方が鋸刃エッジ24である。
【0029】
この図7に示すハンガーフック14では、第1フック片15の両辺のナイフエッジ23、鋸刃エッジ24と、第2フック片のナイフエッジ17とでは、刃先が相反した方向を向くようになっている。この点は、第2実施形態によるハンガーフック14と同様である。
【0030】
また、図8に示す実施形態では、第2フック片16のエッジが鋸刃エッジ25になっており、第1フック片15の両辺のエッジは、図7と同様である。
【0031】
以上のように、エッジの形態については、電着塗装条件、被塗装物の大きさ、重量等に応じて適宜選択すればよい。一般には鋸刃の場合、塗膜が厚くなっても、鋸刃が噛み付くので通電不良が生じにくい。このようにハンガーフック14を第1フック片15と第2フック片16とから構成することにより、バリエーションが増え、用途、条件に最適のものにすることができる。
【0032】
なお、特に、図示は省略するが、図7、図8の実施形態において、ハンガーフック14の第1フック片の両辺のエッジを共に鋸刃エッジとするバリエーションも可能なことはもちろんである。また、図9に示すように、第1フック片15の形状は完全な二等三角形ではなく、主要部が三角形の矢尻形であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による電着塗装用ハンガーフックが適用されるハンガーを示す斜視図。
【図2】本発明の第1実施形態による電着塗装用ハンガーフックを示す斜視図。
【図3】図2のハンガーフックの被塗装物との接触点を示す図。
【図4】本発明の電着塗装用ハンガーフックのテコ原理の作用説明図。
【図5】本発明の第2実施形態による電着塗装用ハンガーフックを示す斜視図。
【図6】図5のハンガーフックの被塗装物との接触点を示す図。
【図7】本発明の第3実施形態による電着塗装用ハンガーフックを示す斜視図。
【図8】本発明の第3実施形態による他の例の電着塗装用ハンガーフックを示す斜視図。
【図9】本発明の変形例による電着塗装用ハンガーフックを示す平面図。
【図10】従来の電着塗装用ハンガーフックを示す斜視図。
【図11】従来の電着塗装用ハンガーフックを示す平面図。
【図12】図11のハンガーフックの被塗装物との接触点を示す図。
【符号の説明】
【0034】
10 ハンガーの本体
11 縦枠
12 横枠
13 ブリッジ
14 ハンガーフック
15 第1フック片
16 第2フック片
17 ナイフ形エッジ
20 被塗装物
21 ラック穴
22a〜22c 接触点
23 ナイフエッジ
24 鋸刃エッジ
25 鋸刃エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装法による被塗装物を集合的に懸吊する電着塗装用ハンガーに用いられるハンガーフックにおいて、
鋭角な頂角を有する二等辺三角形状の部分を有する第1のフック片と、前記第1フック片の頂角から底辺に至る中心線にそって一辺が延びる三角形状の部分を有する第2のフック片とから、T字形断面のハンガーフック本体を構成したことを特徴とする電着塗装用ハンガーフック。
【請求項2】
前記第2フック片の頂角に向かって傾斜する辺には、エッジが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電着塗装用ハンガーフック。
【請求項3】
前記第1のフック片の頂角をなす両辺および前記第2フック片の頂角に向かって傾斜する辺には、それぞれエッジが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電着塗装用ハンガーフック。
【請求項4】
前記第1フック片の両辺に形成されるエッジは、共にナイフ形のエッジからなることを特徴とする請求項3に記載の電着塗装用ハンガーフック。
【請求項5】
前記第1フック片の両辺に形成されるエッジは、一方がナイフ形のエッジで、他方が鋸歯形のエッジからなることを特徴とする請求項3に記載の電着塗装用ハンガーフック。
【請求項6】
前記第2フック片のエッジは、ナイフ形のエッジからなることを特徴とする請求項4または5に記載の電着塗装用ハンガーフック。
【請求項7】
前記第2フック片のエッジは、鋸歯形のエッジからなることを特徴とする請求項4または5に記載の電着塗装用ハンガーフック。
【請求項8】
前記第1フック片のエッジと前記第2フック片のエッジとでは、刃先が相反した方向を向いていることを特徴とする請求項4または5に記載の電着塗装用ハンガーフック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−239046(P2007−239046A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64500(P2006−64500)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(501146823)有限会社蓮沼塗装工業所 (2)
【出願人】(598028051)株式会社 日本ハネック (16)