説明

非接触給電コイル

【課題】作製の手間を簡素化し、商用周波数より高い周波数(数kHz以上)帯域において、渦電流損失を低減できる、非接触給電コイルを提供する。
【解決手段】非接触給電コイルにおいて、絶縁されていない複数本の素線2からなる導体3を巻回し、絶縁体4によりモールドしたこと、あるいは、絶縁されていない複数本の素線を絶縁体でケーブル化して導体とし、この導体を巻回した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触給電装置の非接触給電コイルに係り、特に、商用周波数より高い周波数(数kHz以上)により電力を伝送する非接触給電コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気支持された装置や医療器具、湿潤な環境で使用する装置などでは、移動体や回転体に電線やケーブルを接続して、又は接触により給電をすることは難しい。また、通常の移動体や回転体でも、接触による給電では摩耗の問題や感電の危険があり、非接触で効率よくエネルギーを伝達する手段が求められている。
かかる非接触で電力を伝達する手段には、(1)電磁誘導を利用した変圧器方式、(2)移動体や回転体の運動エネルギーを利用した発電機方式、(3)電磁波を利用した方式、などが考えられる。
【0003】
上記した三つの方式の中では、(1)の変圧器方式が効率や空隙の広さ等で優れており、数十cm程度の空隙に対して、数kW程度の電力を供給する例が示されている(下記非特許文献1〜非特許文献3参照)。
一方で、変圧器方式の非接触給電では、通常の変圧器のような磁気回路が閉じている装置に比べて、大きな空隙が必ず存在するため、変圧器の励磁電流を一次側から送る必要がある。
【0004】
このため、効率よく電力を伝達するためには、電源周波数を数kHz以上と高くする必要がある(高周波変圧器方式非接触給電装置)。
図6〜図8は従来の非接触給電コイルの構成図であり、図6(a)〜8(a)は非接触給電コイルを示す図、図6(b)〜8(b)はそれぞれ図6(a)〜8(a)のE部拡大図である。
【0005】
従来、非接触給電装置では、非接触給電コイル101で発生する渦電流損失を低く抑えるため、図6に示すように、導線102の素線一本一本をエナメルなどの絶縁体103で絶縁したもの〔リッツ線(Litz Wire):個々に絶縁された線からなる多くの線を撚って編んだ線〕を導体104とし、この導体104を巻回して絶縁体105でモールドし、非接触給電コイル101としていた。
【0006】
または、図7に示すように、非接触給電コイル201は、渦電流損失を低く抑えるために、素線202一本一本をエナメルなどの絶縁体204でケーブル化した導体205を巻回して形成していた。
また、図8に示すように、非接触給電コイルの一種として、単芯線302を導体として用いた非接触給電コイル301がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Bauer,P.Becker,Q.Zheng,“Inductive Power Supply(IPS) for the Transrapid”,Maglev 2006,Vol.2,pp.471(2006)
【非特許文献2】紙屋雄史,中村幸司,中村達,大聖泰弘,高橋俊輔,山本喜多男,佐藤剛、松木英敏、成澤和幸,「電動車両用非接触急速誘導充電装置の開発と性能評価(第1報)−送電部と受電部の設計最適化ならびに機器の性能評価−」,自動車技術会春季学術講演会前刷集,2007
【非特許文献3】谷澤秀一,内藤信吾,「無接触給電搬送システムの技術と新市場」,DAIFUKU NEWS,No.161,pp.10(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の非接触給電コイルは、素線一本一本を絶縁するため、費用や手間がかかり、また、導体全体として占積率が低くなってしまうといった問題があった。
また、素線一本一本を絶縁すると、コイル口出し部の処理、特に絶縁をはがす作業が大変であった。
本発明は、上記状況に鑑みて、製作の手間を簡素化し、商用周波数より高い周波数(数kHz以上)帯域において、渦電流損失を低減できる、非接触給電装置の非接触給電コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕非接触給電コイルにおいて、絶縁されていない複数本の素線からなる導体を巻回し、絶縁体によりモールドしたことを特徴とする。
〔2〕非接触給電コイルにおいて、絶縁されていない複数本の素線を絶縁体でケーブル化して導体とし、この導体を巻回したことを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔1〕記載の非接触給電コイルにおいて、前記導体は、前記素線間の空隙に絶縁体を配置して形成されることを特徴とする。
〔4〕上記〔3〕記載の非接触給電コイルにおいて、前記素線間の空隙に配置される絶縁体が、所定温度で溶解することを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕から〔4〕記載の非接触給電コイルにおいて、商用周波数より大きく、数kHz以上の高周波数で使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、素線一本一本は絶縁することなく、製作の手間を簡素化してその費用を低減し、かつ商用周波数より高い周波数(数kHz以上)帯域において、渦電流損失を低減した非接触給電コイルを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示す非接触給電コイルの構成図である。
【図2】本発明の非接触給電コイルと従来の非接触給電コイルの周波数−渦電流損失特性を示す図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す非接触給電コイルの構成図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す非接触給電コイルの構成図である。
【図5】本発明の第4実施例を示す非接触給電コイルの構成図である。
【図6】従来の非接触給電コイル(その1)の構成図である。
【図7】従来の非接触給電コイル(その2)の構成図である。
【図8】従来の非接触給電コイル(その3)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の非接触給電コイルは、絶縁されていない複数本の素線からなる導体を巻回し、絶縁体によりモールドした。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す非接触給電コイルの構成図であり、図1(a)はその非接触給電コイルを示す図、図1(b)は図1(a)のA部拡大図である。
この図において、1は非接触給電コイル、2は素線、3は複数本の素線2からなる導体、4は絶縁体である。
【0015】
本発明の非接触給電コイルは、導体3を構成する複数本の素線2それぞれを絶縁することなく用いる。この実施例では、一本一本が絶縁されていない複数本の素線2からなる導体3を巻回し、それを絶縁体4でモールドして非接触給電コイル1としている。
このように構成することにより、複数本の素線2それぞれを絶縁することなく、非接触給電コイル1を形成しているので、従来の図6及び図7に示すコイルのように素線一本一本を絶縁したものよりも、製作の手間が大幅に簡素化され、また、その費用も低減することができる。
【0016】
図2は本発明の非接触給電コイルと従来の非接触給電コイルの周波数−渦電流損失特性を示す図である。なお、縦軸の渦電流損失は、直流の損失を1とした場合に規格化した数値を示している。
この図において、aは図8に示した単芯線、つまり、大きい径の単一の線からなる非接触給電コイル、bは図6に示した従来の非接触給電コイル、cは図1に示す本発明の非接触給電コイルの特性をそれぞれ示している。
【0017】
この図から、本発明の非接触給電コイルcは、従来の非接触給電コイルbに比べて、50kHz以上の高い周波数の領域では渦電流損失が増加するものの、単芯線の非接触給電コイルaに比べては格段に小さい値を示していることがわかる。非接触給電に使用する周波数は20kHz以下である場合が殆どであり、実質的には、本発明の非接触給電コイルの渦電流損失は、従来の非接触給電コイルに比べて遜色がないことがわかる。
【0018】
図3は本発明の第2実施例を示す非接触給電コイルの構成図であり、図3(a)はその非接触給電コイルを示す図、図3(b)は図3(a)のB部拡大図である。
この図において、11は非接触給電コイル、12は素線、13は複数本の素線12をケーブル化する絶縁体、14は絶縁体13によりケーブル化された導体である。
この実施例では、一本一本が絶縁されていない複数本の素線12を絶縁体13によってケーブル化して導体14とし、その導体14を巻回して非接触給電コイル11としている。
【0019】
図4は本発明の第3実施例を示す非接触給電コイルの構成図であり、図4(a)はその非接触給電コイルを示す図、図4(b)は図4(a)のC部拡大図である。
この図において、21は非接触給電コイル、22は素線、23は素線22と共に巻き込まれる絶縁体、24は複数の素線22と絶縁体23とからなる導体、25は巻回した導体24をモールドする絶縁体である。
【0020】
この実施例では、一本一本が絶縁されていない複数本の素線22の間に一定温度で溶解する絶縁体23を配置して導体24とし、この導体24を巻回して絶縁体25でモールドして非接触給電コイル21としている。
図5は本発明の第4実施例を示す非接触給電コイルの構成図であり、図5(a)はその非接触給電コイルを示す図、図5(b)は図5(a)のD部拡大図である。
【0021】
この図において、31は非接触給電コイル、32は素線、33は素線32と共に巻き込まれる、所定温度で溶解する絶縁体、34は複数本の素線32と絶縁体33とからなる導体、35は巻回した導体34をモールドする絶縁体である。
この実施例では、一本一本が絶縁されていない複数本の素線32の間に一定温度で溶解する絶縁体33を配置して導体34とし、この導体34を巻回して絶縁体35でモールドして非接触給電コイル31としている。
【0022】
上記各実施例で説明した本発明の非接触給電コイルは、素線一本一本を絶縁しないため、絶縁を行う手間やコイル口出し部の処理、特に絶縁をはがす作業を省くことができ、製作の費用も低減することができる。
また、素線一本一本を絶縁せずに導体にすることで、導体全体の占積率を高くすることができる。
【0023】
このようにして構成された本発明の非接触給電コイルは、商用周波数より高い周波数帯域でも渦電流損失を低減した非接触給電コイルとして、鉄道車両用非接触給電装置などに適用することができる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の非接触給電コイルは、商用周波数より高い周波数(数kHz以上)帯域において、渦電流損失を低減した非接触給電コイルとして利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1,11,21,31 非接触給電コイル
2,12,22,32 素線
3,24,34 導体
4,13,23,25,35 絶縁体
14 ケーブル化された導体
33 所定温度で溶解する絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁されていない複数本の素線からなる導体を巻回し、絶縁体によりモールドしたことを特徴とする非接触給電コイル。
【請求項2】
絶縁されていない複数本の素線を絶縁体でケーブル化して導体とし、該導体を巻回したことを特徴とする非接触給電コイル。
【請求項3】
請求項1記載の非接触給電コイルにおいて、前記導体は、前記素線間の空隙に絶縁体を配置して形成されることを特徴とする非接触給電コイル。
【請求項4】
請求項3記載の非接触給電コイルにおいて、前記素線間の空隙に配置される絶縁体が所定温度で溶解することを特徴とする非接触給電コイル。
【請求項5】
請求項1から4記載の非接触給電コイルにおいて、商用周波数より大きく、数kHz以上の高周波数で使用されることを特徴とする非接触給電コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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