説明

靴拭きマットの製造方法

【課題】 高度の合撚技術を必要とせず、任意のループ長のパイルを形成しうる靴拭きマットの製造方法を提供する。
【解決手段】 高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分とで構成された芯鞘型単フィラメントaが複数本集束したマルチフィラメント糸Aを準備する。一方、低融点重合体よりも融点の高い重合体よりなる単フィラメントbが複数本集束したマルチフィラメント糸Bを準備する。マルチフィラメント糸A及びBを合わせた合撚糸を、一次基布に刺し込んでループパイルを形成後、ループパイルを切断してカットパイルを形成し、パイル原布を得る。パイル原布を加熱処理して、低融点重合体を溶融し、マルチフィラメント糸Aを形成している芯鞘型単フィラメントa同士を固着し、マルチフィラメント糸Aをモノフィラメント糸化する。以上のようにして、カットパイル中にモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸Bとが併存する靴拭きマットを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事務所又は店舗等の入口に敷設して、靴底に付着した泥や塵埃を除去するための靴拭きマットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、事務所又は店舗等の入口には、靴底に付着した泥や塵埃を除去するための靴拭きマットが敷設されている。この靴拭きマットとしては、古くは金網、シュロ又は多数の凹凸と多数の開孔を有する合成樹脂製マットが用いられている。しかしながら、これらの靴拭きマットは、踏み心地が悪いという欠点や、比較的大きな泥や塵埃を除去しうるが微細な塵埃は除去しにくいという欠点があった。
【0003】
踏み心地を向上させるため、比較的細繊度の合成樹脂製単フィラメントが複数本集束されてなるマルチフィラメント糸を使用した靴拭きマットが用いられている。すなわち、この靴拭きマットは、マルチフィラメント糸を一次基布に刺し込んでループパイルを形成し、その後、このループパイルの頂上付近を切断してカットパイルとしたものである。この靴拭きマットは、靴底に当たるカットパイルが比較的細繊度の単フィラメントが複数本集束されたものであるため、踏み心地のよいものである。しかしながら、その反面、比較的細繊度の単フィラメントは剛直性に欠けると共に、腰が弱くへたりやすいため、靴底の泥や塵埃を除去する性能に劣るという欠点があった。
【0004】
このため、特許文献1には、比較的細繊度の単フィラメントが複数本集束されてなるマルチフィラメント糸と、比較的太繊度の剛直性の大きいモノフィラメント糸とを合撚した合撚糸を、一次基布に刺し込んでループパイルを形成し、その後、ループパイルの頂上付近を切断してカットパイルとした靴拭きマットが提案されている。このような靴拭きマットは、カットパイル中にマルチフィラメント糸とモノフィラメント糸が混在しているため、踏み心地が良く、しかもへたりにくく且つ靴底の泥や塵埃の除去性能に優れたものである。
【0005】
【特許文献1】特許第3844562号公報(特許請求の範囲の項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、比較的細繊度の単フィラメントが複数本集束されてなるマルチフィラメント糸と、比較的太繊度のモノフィラメント糸とを合撚するには、高度の合撚技術が必要となる。すなわち、マルチフィラメント糸とモノフィラメント糸とは、その剛直性に大きな差があるため、均一な合撚が困難であり、靴拭きマットの生産性に劣るという欠点があった。また、得られた合撚糸もモノフィラメント糸が存在しているため、剛直であり、一次基布に刺し込んでループパイルを形成する際にも、ループ長の短いパイルを形成しにくいという欠点もあった。
【0007】
本発明は上記欠点を解決することを課題とするものであり、高度の合撚技術を必要とすることなく、任意のループ長のパイルを形成することのできる靴拭きマットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、特定のマルチフィラメント糸を採用したものであり、これによって、高度の合撚技術を必要とすることなく合撚糸が得られるようにし、またループパイル形成時にも任意のループ長のパイルを形成することができるようにし、しかも、カットパイル形成後に当該特定のマルチフィラメント糸をモノフィラメント糸化することにより、カットパイル中にマルチフィラメント糸とモノフィラメント糸とを混在させた靴拭きマットが得られるようにしたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分とで構成された芯鞘型単フィラメントaが複数本集束してなるマルチフィラメント糸Aと、前記低融点重合体が溶融する温度では実質的に影響を受けない重合体よりなる単フィラメントbが複数本集束してなるマルチフィラメント糸Bとを合撚してなる合撚糸を、一次基布に刺し込んでループパイルを形成した後、前記ループパイルの頂上付近を切断してカットパイルを形成し、その後、前記低融点重合体を溶融して、前記マルチフィラメント糸Aを形成している前記芯鞘型単フィラメントa同士を固着し、前記マルチフィラメント糸Aをモノフィラメント糸化することを特徴とする靴拭きマットの製造方法に関するものである。このモノフィラメント糸化された糸は、芯鞘型単フィラメントa同士が固着されてなるものであるが、過剰な外力又は摩擦を負荷すると、糸の表面が一部毛羽立つこともある。
【0010】
本発明で用いるマルチフィラメント糸Aは、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成された芯鞘型単フィラメントaが複数本集束してなるものである。芯鞘型の具体例としては、同心芯鞘型、偏心芯鞘型又は海島型(島が芯成分で海が鞘成分)等が挙げられる。また、高融点重合体と低融点重合体の融点差は、一般的に10℃以上である。芯鞘型単フィラメントaを構成している高融点重合体(芯成分)と低融点重合体(鞘成分)の組み合わせとしては、高融点ポリオレフィンと低融点ポリオレフィン、高融点ポリエステルと低融点ポリエステル、高融点ポリアミドと低融点ポリアミドといった同系統の組み合わせであってもよいし、ポリエステルとポリオレフィン、ポリアミドとポリエステル、ポリアクリロニトリルとポリエステルといって異系統の組み合わせであってもよい。
【0011】
本発明で用いるマルチフィラメント糸Bは、単フィラメントbが複数本集束してなるものである。単フィラメントbを形成している重合体は、芯鞘型単フィラメントaの低融点重合体が溶融する温度では実質的に影響を受けないものが用いられる。具体的には、低融点重合体よりも融点の高い重合体であればよく、たとえば芯鞘型単フィラメントaの高融点重合体と同一の重合体であってもよいし、また高融点重合体の融点よりもさらに融点の高い重合体であってもよい。かかる重合体としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等が用いられる。
【0012】
芯鞘型単フィラメントa及び単フィラメントbの繊度は、5〜100デシテックス程度であるのが好ましい。また、マルチフィラメント糸A及びマルチフィラメント糸Bの繊度は、200〜5000デシテックスであるのが好ましい。単フィラメントの繊度及びマルチフィラメント糸の繊度が、両者共にこの範囲内であると、剛直性が小さく、合撚しやすいし、任意のループ長のパイルを形成しやすい。また、本発明においては、耐候性等の観点から、単フィラメントa及びbの両者共に、ポリエステルで形成されているのが好ましい。さらに、意匠性の観点から、芯鞘型単フィラメントa及び単フィラメントbは原着糸であるのが好ましく、特に両者が別異の色彩の原着糸であるのが好ましい。原着糸を採用するのは、染色等の後処理による着色糸と比べて、耐候性に優れているからである。なお、芯鞘型単フィラメントa及び単フィラメントb中に、抗菌剤、吸水剤又は難燃剤等を練り込んで、所望の性能を与えてもよい。
【0013】
マルチフィラメント糸Bに嵩高加工を施しておくのが好ましい。嵩高加工により、カットパイルに弾力性が与えられ、踏み心地が良くなる。嵩高加工としては、単フィラメントb相互間を交絡させるタスラン加工や、単フィラメントbに捲縮を施すBCF加工や仮撚加工が挙げられる。また、マルチフィラメント糸Aにも嵩高加工を施しても良い。マルチフィラメント糸Aは最終的にはモノフィラメント糸化されるものであるけれども、嵩高加工を施して径を太くしておくと、最終的により剛直性が大きくなる場合があるからである。また、嵩高加工をしておくと、タフティングした後、ループパイルを切断してカットパイルを形成する時に、パイル抜けを防止しうるからである。
【0014】
次に、マルチフィラメント糸Aとマルチフィラメント糸Bとを合撚して合撚糸を得る。合撚は従来公知の方法で行えばよい。また、合撚する際に使用するマルチフィラメント糸A及びマルチフィラメント糸Bの本数は任意であるが、一般的にマルチフィラメント糸A及びBを1〜3本用いる。撚数も任意であるが、一般的に50〜500回/mの範囲内である。撚り方向については、S方向でもZ方向であってもよく、下撚りと上撚りを行う際には、各撚り方向は逆方向とするのが一般的である。合撚糸を得る具体的方法を挙げれば、以下のとおりである。まず、マルチフィラメント糸A一本とマルチフィラメント糸B一本を合わせて合撚機に掛け、S方向に50〜500回/m撚って下撚糸を得る。そして、この下撚糸を二本合わせて合撚機に掛け、Z方向に50〜500回/m上撚りをかけて合撚糸を得るのである。
【0015】
合撚糸には、吸水加工、嵩高加工、柔軟加工又は抗菌加工等の任意の加工を施してもよい。ポリエステル系のマルチフィラメント糸A及びBを用いたときには、ポリエステルは疎水性であるので吸水加工を施すのが好ましい。吸水加工は、高圧スチーム処理機中に合撚糸を入れ、そこにアニオン性のポリエステル系吸水剤を投入して行われる。高圧スチームによって芯鞘型単フィラメントaを形成している低融点重合体が軟化して、部分的に単フィラメントaが接着し、単フィラメントa同士がばらけるのを防止しうる。また、熱セット加工は、合撚糸に嵩高性を付与するために行われる。たとえば、合撚糸を連続スチームセット機(スペルバセット機)に押し込んで、高温高圧処理を行い、捲縮させて嵩高性を付与するフリーズセット加工、合撚糸を編み上げで熱セット加工を施し、その後解編することにより、捲縮させて嵩高性を付与するニットデニット加工、噛み合わせた加熱ギアに合撚糸を通すことにより、捲縮させて嵩高性を付与するギア加工等が用いられる。また、柔軟加工は、合撚糸に公知の柔軟剤を付与することにより行われる。また、抗菌加工は、合撚糸に公知の抗菌剤を付与することにより行われる。
【0016】
この合撚糸を一次基布に刺し込んでループパイルを形成する。一次基布としては、一般的に不織布が用いられる。不織布を構成する繊維は任意であるが、耐候性の観点からはポリエステル繊維を用いるのが好ましい。不織布の目付は10〜20g/m2程度である。また、合撚糸を一次基布に刺し込むには、公知のタフティング機が用いられる。そして、タフティング機によりループパイルが形成されるのである。合撚糸を一次基布に刺し込む際のステッチ数及びゲージ数は任意であるが、ループパイルを形成した後の基布が650〜750g/m2程度になるようにするのが好ましい。なお、ループパイル長も任意であるが、一般的に5〜20mm程度である。
【0017】
ループパイルを形成した後、その頂上付近を切断してカットパイルとする。カットパイルにするのは、マルチフィラメント糸A及びBの切断端面が靴底に当たるようにし、泥や塵埃の除去性を向上させるためである。また、カットパイルを形成した後、パイル抜けを防止するため、一次基布の裏面にアクリル系エマルジョン型接着剤等の接着剤を塗布するのが一般的である。
【0018】
カットパイルを形成した後、芯鞘型単フィラメントaの鞘成分を形成している低融点重合体の融点よりも高温で加熱処理して、鞘成分を溶融させる。そうすると、マルチフィラメント糸A中の芯鞘型単フィラメントaの鞘成分同士が溶融して融着し、芯鞘型単フィラメントa同士が固着して一体化され、マルチフィラメント糸Aはモノフィラメント糸化される。たとえば、低融点重合体の融点が160℃であれば、170〜200℃で2〜3分間加熱処理すれば、芯鞘型単フィラメントaの鞘成分が溶融し、単フィラメントa同士が融着し固着して、マルチフィラメント糸Aがモノフィラメント糸化される。モノフィラメント糸化された糸の繊度は、マルチフィラメント糸Aの繊度と同程度である。
【0019】
また、本発明においては、カットパイルが形成された一次基布の裏面側に、滑り止めを目的として、ゴムシートやポリ塩化ビニルシート等のシートを貼合することも好ましいことである。シートの貼合は、シートを軟化して行われるため、熱を与えられるが、この加熱温度は単フィラメントbを形成している重合体や芯鞘型単フィラメントaの高融点重合体が実質的に影響を受けない温度で行われる。すなわち、前記した各重合体の融点以下の温度で行われる。なお、低融点重合体の融点に対しては、その融点以下でも融点以上であってもよい。低融点重合体の融点以上の温度で貼合を行うと、シートの貼合工程でマルチフィラメント糸Aがモノフィラメント糸化される。したがって、モノフィラメント糸化のための独立した加熱工程が不要になる場合もあり、この場合には、シート貼合の際の加熱工程がモノフィラメント糸化の工程となる。
【0020】
以上のようにして、カットパイル中に、マルチフィラメント糸Bと、モノフィラメント糸化した糸とが混在することになり、踏み心地がよく、腰があって靴底の泥や塵埃を除去しやすい剛直性を持つ靴拭きマットが得られるのである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る靴拭きマットの製造方法は、マルチフィラメント糸Aとマルチフィラメント糸Bとを用いて合撚糸を得た後、カットパイル形成後に、マルチフィラメント糸A中の芯鞘型単フィラメントaの鞘成分を溶融させて、単フィラメントa同士を融着し固着させて、モノフィラメント糸化させたものである。すなわち、カットパイルを形成する迄は、マルチフィラメント糸として取り扱い、カットパイル形成後にモノフィラメント糸化するものである。したがって、マルチフィラメント糸とモノフィラメント糸が混在した靴拭きマットを得る際に、最終段階までモノフィラメント糸をマルチフィラメント糸として取り扱うことができるので、高度の合撚技術を必要とすることなく、任意のループ長のパイルを容易に得ることができ、これにより靴拭きマットの生産性が向上するという効果を奏する。
【実施例】
【0022】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、特定のマルチフィラメント糸Aと通常のマルチフィラメント糸Bとを用いて、最終段階で特定のマルチフィラメント糸Aをモノフィラメント糸化することにより、容易にモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸を混在させた靴拭きマットが得られるという技術的思想に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0023】
実施例1
[マルチフィラメント糸Aの準備]
高融点重合体として、融点225℃のポリエチレンテレフタレート100質量部に、着色顔料としてカーボンブラックを0.6質量%練り込んだポリエチレンテレフタレートチップを準備した。一方、低融点重合体として、テレフタル酸1モルに対してエチレングリコール1.13モルを縮重合してなるポリエステルオリゴマーと、ε−カプロラクトン015モルと、1,4−ブタンジオール1.07モルとを共重合してなる、融点160℃の低融点ポリエステルに、着色顔料として酸化チタンを0.4質量%練り込んだ低融点ポリエステルチップを準備した。そして、高融点重合体(芯成分):低融点重合体(鞘成分)=70:30の割合で芯鞘型複合紡糸孔に供給して、繊度約11.5デシテックスの芯鞘型単フィラメントaを複合溶融紡糸すると共に、芯鞘型単フィラメントaを48本集束して、繊度560デシテックスのマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸にタスラン加工による交絡加工を施して、マルチフィラメント糸Aを準備した。
【0024】
[マルチフィラメント糸Bの準備]
融点225℃のポリエチレンテレフタレート100質量部に、着色顔料としてフタロシアニン系緑色顔料を0.4質量%練り込んだポリエチレンテレフタレートチップを準備した。このチップを用いて溶融紡糸し、単フィラメントbを96本集束して、繊度1100デシテックスのマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸にタスラン加工による交絡加工を施して、マルチフィラメント糸Bを準備した。
【0025】
[合撚糸の準備]
マルチフィラメント糸Aとマルチフィラメント糸Bとを合わせダブルツイスター撚糸機にて、S方向に100T/Mの撚数で下撚りを施し、下撚糸を得た。この下撚糸を二本合わせ、ダブルツイスター撚糸機にて、Z方向に80T/Mの撚数で上撚りを施して、合撚糸を得た。この合撚糸を綛取りした後、ポリエステル系吸水剤を用い、高圧スチーム処理機にて100℃で50分間処理して、吸水加工を施した。以上のようにして、吸水加工された合撚糸を準備した。
【0026】
[靴拭きマットの製造]
吸水加工された合撚糸をタフティング機にかけて、一次基布である目付15g/m2のポリエステル不織布に、ステッチ数5個/インチでゲージ数32個/インチの条件で刺し込んで、ループパイルを形成した後、直ちにループパイルの頂上付近を切断してカットパイルを形成し、目付700g/m2のパイル原布を得た。このパイル原布の裏面(一次基布面)に、アクリル系エマルジョン型接着剤を塗布し、140℃で3分間乾熱処理して、パイル抜けを防止した。この後、180℃で3分間熱処理して、カットパイル中のマルチフィラメント糸Aの鞘成分を溶融させた後、パイル原布の裏面(接着剤塗布面)にゴムシートを160℃で10分間圧着して、ゴムシートを貼合した。この工程で、マルチフィラメント糸Aはモノフィラメント糸化された。以上のようにして、靴拭きマットを得た。
【0027】
実施例2
マルチフィラメント糸Bとして、市販のナイロン6BCFマルチフィラメント糸を用いた他は、実施例1と同一の方法により、靴拭きマットを得た。なお、市販のナイロン6BCFマルチフィラメント糸は、1670デシテックス/20フィラメントの嵩高マルチフィラメント糸であり、単フィラメントの融点は225℃である。
【0028】
従来例
実施例2で用いたナイロン6BCFマルチフィラメント糸を二本合わせ、ダブルツイスター撚糸機にて、S方向に180T/Mの撚数で下撚りを施し、下撚糸を得た。この下撚糸を二本合わせ、ダブルツイスター撚糸機にて、Z方向に180T/Mの撚数で上撚りを施して、撚糸を得た。この撚糸一本と350デシテックスのナイロン6モノフィラメント糸四本とを合わせ、リング撚糸機にて、S方向に50T/Mの撚数で加撚して合撚糸を得た。この合撚糸を用いて、実施例1と同一の方法で靴拭きマットを得た。
【0029】
実施例1及び2で得られた靴拭きマットと従来例の靴拭きマットを、通行人数約2000人/日の場所に3日間敷設した後、洗浄及び再利用を2ケ月間繰り返し行った。初回洗浄時、1ケ月後洗浄時、2ケ月後洗浄時のダスト量を求め、表1に示した。表1のダスト量は、従来例の靴拭きマットのダスト量を100とし、それとの比較で実施例1及び2のダスト量を示した。また、カットパイルの摩耗及びへたれの状態を目視により観察し、以下の3段階で評価し、この結果も表1に示した。
1:変化なく良好である。
2:摩耗及びへたれが見られる。
3:摩耗及びへたれが著しく見られる。
【0030】
[表1]
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ダ ス ト 量 外 観
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初回 1ケ月後 2ケ月後 初回 1ケ月後 2ケ月後
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実施例1 110 90 80 1 2 2
実施例2 115 95 90 1 1 2
従来例 100 90 85 1 2 2
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【0031】
表1の結果から分かるように、実施例1及び2の靴拭きマットは、従来の靴拭きマットに比べて、泥や塵埃の除去性、摩耗及びへたれの状態が同等であった。したがって、実施例に係る方法によれば、モノフィラメント糸を合撚したりタフティングせずに、従来と同等の靴拭きマットが得られる。よって、実施例に係る方法は、高度な合撚技術を要することなく、タフティング時の制約もなく、効率良く靴拭きマットが得られるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分とで構成された芯鞘型単フィラメントaが複数本集束してなるマルチフィラメント糸Aと、前記低融点重合体が溶融する温度では実質的に影響を受けない重合体よりなる単フィラメントbが複数本集束してなるマルチフィラメント糸Bとを合撚してなる合撚糸を、一次基布に刺し込んでループパイルを形成した後、前記ループパイルの頂上付近を切断してカットパイルを形成し、その後、前記低融点重合体を溶融して、前記マルチフィラメント糸Aを形成している前記芯鞘型単フィラメントa同士を固着し、前記マルチフィラメント糸Aをモノフィラメント糸化することを特徴とする靴拭きマットの製造方法。
【請求項2】
マルチフィラメント糸A及びマルチフィラメント糸Bが交絡加工されたものである請求項1記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項3】
合撚糸が、マルチフィラメント糸Aとマルチフィラメント糸Bを合わせてS方向又はZ方向に下撚りして下撚糸を形成した後、前記下撚糸を二本合わせて前記下撚糸の撚り方向とは逆方向に上撚りして形成されたものである請求項1記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項4】
芯鞘型単フィラメントa及び単フィラメントbの繊度は5〜100デシテックスであり、マルチフィラメント糸A及びマルチフィラメント糸Bの繊度は200〜5000デシテックスである請求項1記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項5】
芯鞘型単フィラメントa及び単フィラメントbは、ポリエステル系単フィラメントである請求項1記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項6】
合撚糸にポリエステル系吸水剤を付与して吸水加工する請求項5記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項7】
カットパイルを形成した後、一次基布の裏面に接着剤を塗布して前記カットパイルを固定する工程を付加する請求項1記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項8】
マルチフィラメント糸Aをモノフィラメント化した後、一次基布の裏面にゴムシートを貼合する工程を付加する請求項1記載の靴拭きマットの製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の靴拭きマットの製造方法に用いるパイル形成用糸であって、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分とで構成された芯鞘型単フィラメントaが複数本集束してなるマルチフィラメント糸Aと、前記低融点重合体が溶融する温度では実質的に影響を受けない重合体よりなる単フィラメントbが複数本集束してなるマルチフィラメント糸Bとを合撚してなる合撚糸よりなるパイル形成用糸。

【公開番号】特開2011−172775(P2011−172775A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39659(P2010−39659)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】