説明

顔料分散剤、着色剤組成物、及び着色熱可塑性樹脂の製造方法

【課題】直接添加法を用いた場合であっても、成型品の物性に影響を及ぼさないよう使用量を低減でき、かつ良好な顔料分散性を得ることができる顔料分散剤、着色剤組成物、及び着色熱可塑性樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式[1]等で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる顔料分散剤、該顔料分散剤と顔料と、場合により熱可塑性樹脂とを含む着色剤組成物、及び着色熱可塑性樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤、着色剤組成物、及び着色熱可塑性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の着色剤には、顔料と分散剤とを混合した粉末状のドライカラー、常温で液状の分散剤中若しくは液状のビヒクルを併用した中に顔料を分散させたペーストカラー又はリキッドカラー、顔料、分散剤及びベース樹脂を溶融混練したカラーマスターバッチがあり、カラーマスターバッチに使用するベース樹脂としては、一般に被着色熱可塑性樹脂への分散、分配性を考慮して被着色熱可塑性樹脂と同一の樹脂が使用されている。
これらの着色剤は、顔料を高濃度に含有しており着色熱可塑性樹脂を製造する際に被着色熱可塑性樹脂によって希望する濃度に希釈して使用されている。
熱可塑性樹脂の着色方法には、(1)着色剤を用いる方法と、(2)直接添加法がある。(1)着色剤を用いる方法とは、上述の着色剤と未着色の被着色熱可塑性樹脂及び樹脂劣化防止等の用途の添加剤とを溶融混練して着色熱可塑性樹脂を得る方法であり、取り扱いの容易さ、使用時の作業環境保全の面から、着色剤としてカラーマスターバッチを使用する方法が好んで用いられている。
(2)直接添加法とは、顔料、上記添加剤及び未着色の熱可塑性樹脂を直接混合、溶融混練して着色熱可塑性樹脂を得る方法である。直接添加法は、その製造方法の容易さから非常に経済性に優れるといった特徴がある。
【0003】
熱可塑性樹脂の着色は、顔料を樹脂に練り込むことによって行われるが、その顔料には有機物、無機物から構成される様々な種類が存在し、樹脂中の顔料の分散性に違いがあるため、顔料の種類や熱可塑性樹脂の着色方法により適正な分散剤が必要とされる。元来からの一般的な顔料分散剤としては、特許文献1及び特許文献2に挙げられているとおり、金属石鹸や低分子ポリエチレン等が使用され、コスト面を重視して、金属石鹸が通常使用されている。金属石鹸としては、通常ステアリン酸の金属塩(アルミニウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、カルシウム塩等)が用いられている。
【0004】
また、特許文献3では、高濃度の無機顔料を含有する熱可塑性樹脂中の無機顔料の分散性の改善のために、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩を用いて無機顔料を表面処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−152444号公報
【特許文献2】特開2005−15661号公報
【特許文献3】特開平9−104831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドライカラー、ペーストカラー、リキッドカラーは、常温の攪拌混合のみで製造可能であり、製造コストが安く熱可塑性樹脂用の着色剤、特に汎用着色剤として有用であるが、着色成型の際の顔料分散性に劣る傾向があり、成型品の品質安定性が低下する傾向にある。またドライカラーは、その製造の際に飛散・汚染性が大であり、貯蔵した際の安定性も充分とはいえない。
カラーマスターバッチを用いる方法は、着色成型の際の顔料分散性に優れるが、直接添加法と比べて工程数が多く、熱可塑性樹脂へ顔料分散するためのコストが大きいことが問題である。さらに特許文献3に開示される表面処理でも、工程数が増加し、製造コストが高くなる問題がある。
【0007】
そこで、このような問題を解決するためには、直接添加法を用いることが考えられる。しかし、従来の顔料分散剤を使用して、直接添加法により熱可塑性樹脂の着色を行った場合、色再現性が乏しく、成型品に色むらが出やすくなり、その着色性を改善するために顔料分散剤の使用量を増やす、混練時間を伸ばすといった対策をとらざるを得なかった。また、顔料分散剤の使用量が多いと、成型品の物性に影響を及ぼすおそれがあるため、直接添加法でかつ少ない使用量で顔料分散性、着色性を付与できる顔料分散剤が求められていた。さらに、着色熱可塑性樹脂の用途の一つである自動車分野においては、燃費向上を目的として成型品の厚さを小さくする要望が依然として強く、成型品が薄くなると顔料の凝集がより目立つことになり、こうした分野では特により高い顔料分散性の向上が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、直接添加法に用いた場合であっても、成型品の物性に影響を及ぼさないよう顔料分散剤の使用量を低減でき、低コストでかつ良好な顔料分散性を得ることができる顔料分散剤、着色剤組成物、及び着色熱可塑性樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み、直接添加法においても良好な着色性、顔料分散性を発現することができる新規な顔料分散剤について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明では、下記式[1]又は下記式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる顔料分散剤が提供される。
【0010】
【化1】


(式[1]中、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22のアリールアルキル基、あるいはこれらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基を表す。)
【0011】
【化2】


(式[2]中、Rは直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22のアリールアルキル基、あるいはこれらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基を表す。)
【0012】
本発明の顔料分散剤によれば、直接添加法を用いた場合であっても、高い顔料分散性を有する着色熱可塑性樹脂を得ることができる。また、本発明の顔料分散剤は、金属石鹸や低分子ポリエチレン等の顔料分散剤と比較して、その高い顔料分散性により、熱可塑性樹脂の着色に要する顔料分散剤の使用量を低減でき、成型品の物性向上に寄与できる。
【0013】
また、本発明では、上記顔料分散剤及び顔料を含む着色剤組成物が提供される。
【0014】
また、上記着色剤組成物は、さらに熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明では、上記顔料分散剤、顔料及び熱可塑性樹脂を、溶融混練することを特徴とする着色熱可塑性樹脂の製造方法が提供される。本発明の製造方法によれば、スルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる顔料分散剤、顔料、及び熱可塑性樹脂を、原料のまま又は混合物として直接溶融混練した(直接添加法)場合であっても、着色熱可塑性樹脂の顔料分散性を高く維持できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の顔料分散剤によれば、金属石鹸や低分子ポリエチレン等の顔料分散剤と比較して優れた顔料分散性が得られ、熱可塑性樹脂を着色する際の顔料分散剤の使用量を減少させることができる。そして、顔料分散剤の使用量を少なくできることによって、成型品の物性低下を防ぐことが可能となる。これによって、成型品の厚さを小さくし、成型品ごとの色再現性の向上、不良率の低減をすることができるだけでなく、着色熱可塑性樹脂を構成する様々な顔料やその他の配合物の分散が容易になるため、成型品の意匠の多様化が可能となる。
本発明の着色熱可塑性樹脂の製造方法によれば、直接添加法を採用した場合であっても、高い顔料分散性と着色力を有する着色熱可塑性樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の顔料分散剤、着色剤組成物、及び着色熱可塑性樹脂の製造方法に関してその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
(顔料分散剤)
顔料分散剤は、下記式[1]又は下記式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる。
【化3】


(式[1]中、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22のアリールアルキル基、あるいはこれらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基を表す。)
【0019】
【化4】


(式[2]中、Rは直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22のアリールアルキル基、あるいはこれらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基を表す。)
【0020】
式[1]及び式[2]中の、R、R及びRのアルキル基の炭素数は、通常2〜22であるが、2〜18が好ましく、2〜12がより好ましい。こうしたアルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができ、好ましくオクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基である。
【0021】
アルケニル基の炭素数は3〜22であり、3〜18が好ましく、3〜12がより好ましい。こうしたアルケニル基としては、例えば、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、リノレイル基、ベヘニル基等が挙げられる。
【0022】
アリール基の炭素数は6〜22であり、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、4−メチルフェニル基等のアルキル若しくはアルケニルフェニル基、又はアルキル若しくはアルケニルナフチル基等が挙げられる。
【0023】
アリールアルキル基の炭素数は7〜22であり、アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、アルキル若しくはアルケニルベンジル基、又はアルキル若しくはアルケニルフェネチル基等が挙げられる。
【0024】
また、R、R及びRの「これらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基」は、換言すると一般式R’O(AO)−で表される基である。式中R’は末端に置換基を有していてもよい直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22アリールアルキル基であり、Aは炭素数2〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、nは2〜30の整数であり、繰り返し数を示す。ポリオキシアルキレン基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等が挙げられる。
顔料及び熱可塑性樹脂を溶融混練する際に、上記顔料分散剤を加えることにより、直接添加法においても均一着色が可能となる。
【0025】
上記式[1]又は上記式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと塩を形成する2又は3価の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫、カドミウム、バリウム、アルミニウム、マンガン等の金属イオンを挙げることができる。式[2]中のカルボキシル基の水素原子は、上記金属イオンによって置換されていてもよい。
上記顔料分散剤には、上記式[1]又は式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩を単独で若しくは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
顔料分散剤は、様々な用途に適用するために、粉末状若しくはフレーク状等の固体、ペースト状又は液体といった形態をとることができ、それぞれにおいて高い顔料分散性を発揮することができるが、取り扱い、顔料との配合のし易さ、混合した際の均一性や顔料分散性の点から、粉末状であることが好ましい。また、各種形態の顔料分散剤を得るためにはそれぞれに適した既存の製造方法を採用することができる。
【0027】
顔料分散剤が粉末の場合には、その嵩密度は0.01〜1g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.8g/cmであり、特に好ましくは0.1〜0.6g/cmである。なお、嵩密度は、以下の方法により算出することができる。すなわち、100ml(cm)のメスシリンダーに顔料分散剤の粉末を、振動を与えずに徐々に加えて、メスシリンダーを顔料分散剤の粉末で満たす。顔料分散剤の粉末を入れる前後のメスシリンダーの質量の差を測定し、以下の式より嵩密度を算出することができる。
(嵩密度(g/cm))=(質量差(g))÷100(cm
【0028】
顔料分散剤の粉末の嵩密度が0.01g/cmより小さい場合には、添加、混合・溶融混練の際に飛散し易くなり、作業性、作業環境を悪くさせる傾向がある。一方、嵩密度が1g/cmより大きい場合には、混合・溶融混練の際、顔料分散剤の凝集が起こり易くなり、着色熱可塑性樹脂中の顔料分散性が上記範囲内にある場合と比べて低下する傾向がある。
【0029】
上記顔料分散剤には、各種添加剤を配合して用いてもよい。例えば、顔料分散剤を粉末化する場合の添加剤として安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム等が例示される。これら添加剤を用いると、より効率的に粉末状の顔料分散剤の嵩密度を上記好ましい範囲に調整することができ、また顔料分散性も向上する。
【0030】
(着色剤組成物)
着色剤組成物は、式[1]又は式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる顔料分散剤及び顔料を含有する。
【0031】
また、着色剤組成物は、式[1]又は式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる顔料分散剤、顔料及び熱可塑性樹脂(ベース樹脂)を含有していてもよい。着色剤組成物がカラーマスターバッチの場合に用いられる熱可塑性樹脂(ベース樹脂)としては、被着色熱可塑性樹脂の物性を損なわない限り特に制限はないが、被着色熱可塑性樹脂への分散性、分配性に優れるので、被着色熱可塑性樹脂と同一の樹脂を用いることが好ましい。着色剤組成物に用いられる熱可塑性樹脂(ベース樹脂)の配合量は、用いる顔料や熱可塑性樹脂(ベース樹脂)の種類、着色剤組成物の被着色熱可塑性樹脂に対する使用量、成型品の色濃度等によっても異なるが、着色剤組成物100質量部に対して通常20〜99質量部である。以下に、着色剤組成物を構成する材料について説明する。
【0032】
(顔料)
顔料は、熱可塑性樹脂の着色に使用される顔料であれば特に限定されず、対象とすることができる。顔料としては、例えば酸化チタン系、酸化鉄系、複合酸化物系等の金属酸化物;それ以外であるクロム酸塩系、硫化物系、ケイ酸塩系、炭酸塩系、フェロシアン化物、カーボンブラック等の金属酸化物以外の無機顔料;溶性アゾ系、不溶性アゾ系(モノアゾ、ジスアゾ)等のアゾ化合物;縮合アゾ系金属錯塩アゾ系、ベンズイミダゾロン系、多環系であるフタロシアニン系、アントラキノン系、インジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、金属錯塩系、メチン・アゾメチン系、ジケトピロロピロール系からなる有機顔料が挙げられる。また水溶性である塩基性、酸性系染料や油溶性であるアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系染料を用いることもできる。これらの中でも特に、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系あるいは銅フタロシアニン系等の有機顔料;赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、チタンブラック、チタンイエロー、群青、コバルトブルー、カーボンブラック等の無機顔料;タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料等が好ましい。
【0033】
顔料に対する顔料分散剤の配合量は、顔料100質量部に対して0.01〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜75質量部であり、さらに好ましくは0.1〜50質量部である。顔料分散剤の配合量が顔料100質量部に対して100質量部より多い場合、それ以上の顔料分散性の向上は認められない傾向があり、成型体としたときの物性の低下が起こるおそれがある。一方、顔料分散剤の配合量が顔料100質量部に対して0.01質量部より少ない場合には、十分な顔料分散性が得られないおそれがある。
【0034】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、オクテン等の重合体やEVA(エチレンビニルアセテート)、EEA(エチレンエチルアクリレート)等の共重合体を含むオレフィン系樹脂、スチレン、アクリル酸エステルの重合体やその共重合体、スチレンアクリロニトリル、スチレンアクリロニトリルブタジエン等の共重合体を含むスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリアミド6や66等のエンジニアリング樹脂等が挙げられる。
【0035】
顔料及び顔料分散剤を混合して着色剤組成物を製造する際に使用される混合機としては従来公知の機器でよく、例えば、水平円筒型、V型(攪拌羽根付)、二重円錐型、揺動回転型、単軸リボン型、複軸パドル型、回転鋤型、二軸遊星攪拌型、円錐スクリュー型、高速流動型(ヘンシェルミキサー等)、回転円盤型、ローラー付回転容器型(マラー型)、攪拌付回転容器型、高速楕円ロータ型、気流攪拌型、無攪拌型(重量型)等が挙げられる。また、別の混合方法として、顔料に顔料分散剤の溶液を噴霧し乾燥する、加熱乾燥させた顔料に顔料分散剤を混合する方法がある。しかし、混合方法はこれらに限定されるものではなく、既存の方法を採用することができる。混合時間、混合温度は特に限定されず、既存の混合機に適した公知の方法を採用することができる。
【0036】
着色剤組成物は、ドライカラー、ペーストカラー又はリキッドカラーといった形態をとることができ、それぞれにおいて高い顔料分散性を発揮することができる。また、それら形態を得るために、既存の製造方法を採用することができる。
【0037】
顔料、顔料分散剤及び熱可塑性樹脂(ベース樹脂)を溶融混練して着色剤組成物を製造する際に使用される混練機としては従来公知の機器でよく、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー等の通常の混練機を使用することができる。混練時間、混練温度は特に限定されず、既存の混練機及び熱可塑性樹脂(ベース樹脂)に適した公知の方法を採用することができる。着色剤組成物はカラーマスターバッチであり、被着色熱可塑性樹脂への顔料分散性やその取り扱い易さからペレット状、フレーク状、ビーズ状の形態にすることが好ましく、その形態を得るために既存の製造方法を採用することができる。
【0038】
(着色熱可塑性樹脂の製造方法)
本発明の着色熱可塑性樹脂の製造方法は、上述の顔料、顔料分散剤及び熱可塑性樹脂を、溶融混練することを特徴とする。本発明の製造方法は、直接添加法であっても、上述の着色剤組成物を作製し使用する製造方法であってもよい。
【0039】
また、着色熱可塑性樹脂には、上記成分以外に酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物からなるフォギング防止剤;脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、低分子量ポリオレフィン、スチレン系オリゴマー等の分散剤や滑剤、さらに紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤等の添加剤を適宜加えることができる。
また、着色熱可塑性樹脂は、顔料以外のタルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラス繊維等で改質複合化されていてもよい。
【0040】
本発明の製造方法では、原料を混合せずに直接混練機へ投入して溶融混練してもよいし、原料を混合する種々の工程を経た後に混練機へ投入してもよい。着色熱可塑性樹脂の製造方法としては、例えば、既存の混合機で熱可塑性樹脂、顔料及び顔料分散剤を混合し、顔料及び顔料分散剤を樹脂ペレット上に付着させた熱可塑性樹脂を溶融混練する方法、又は顔料及び顔料分散剤をあらかじめ既存の混合機で混合して、若しくは、顔料、顔料分散剤及び熱可塑性樹脂(ベース樹脂)をあらかじめ既存の混練機で溶融混練して着色剤組成物を得た後、該着色剤組成物と被着色熱可塑性樹脂とを混合し、溶融混練する方法等が挙げられる。
【0041】
着色熱可塑性樹脂は、顔料、顔料分散剤及び熱可塑性樹脂を原料として直接溶融混練して製造され、又はドライカラー、ペーストカラー、リキッドカラー、カラーマスターバッチといった着色剤組成物を使用しても製造される。つまり、着色剤組成物の違いを問わず、顔料分散性を損なうことなく、着色熱可塑性樹脂を製造することができる。
【0042】
着色熱可塑性樹脂は、通常の方法に従って加熱溶融して製造される。すなわち、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー等の通常の混練機を用いて製造することができる。
【0043】
成型品は、上記着色熱可塑性樹脂を製造した加熱溶融の状態で直接に、若しくは着色ペレットの状態を経て、通常の方法に従って加熱溶融して製造される。すなわち、押出成型、中空成型、射出成型、シート成型、熱成型、回転成型、積層成型等成型法の違いを問わず製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。本発明の顔料分散剤を使用して得られた着色熱可塑性樹脂の性能は、その顔料分散性によって以下のように評価される。実施例において使用される数値は特に断りのない限り質量基準である。
【0045】
(顔料分散性の評価)
実施例及び比較例で得られた着色熱可塑性樹脂を熱プレス機によって200℃で2分間溶融させ、その後同じ温度で1分間100kg/mの圧力でプレスを行い、0.1mmの厚さの着色熱可塑性樹脂の薄膜試料を得た。厚さの調整には、0.1mmの金属型を使用した。次にマイクロスコープで薄膜の拡大画像を撮影し、凝集している顔料を目視にて観察した。マイクロスコープにより倍率40倍で撮影を行い、1つの試料につき6カ所撮影した。その後、以下の評価基準に従って顔料分散性の評価を行った。
A:凝集物がない
B:わずかに凝集物がある
C:部分的に凝集物がある
D:全体的に凝集物がある
【0046】
(顔料分散剤1の調製)
塩化バリウム10質量部を水100質量部に溶解させて、70〜80℃に加熱した溶液中に、この塩化バリウムの2倍モル量のスルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム塩を徐々に添加し、塩交換反応をさせて、スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルバリウム塩の沈殿物を得た。その後、この沈殿物をろ過、水洗、乾燥させて嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤1を得た。
【0047】
(顔料分散剤2の調製)
塩化バリウムを塩化カルシウムに変えた以外は、顔料分散剤1の調製と同様にして、スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルカルシウム塩からなる嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤2を得た。
【0048】
(顔料分散剤3の調製)
塩化バリウムを塩化マグネシウムに変え、スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム塩をスルホコハク酸ジステアリルナトリウム塩に変えた以外は、顔料分散剤1の調製と同様にして、スルホコハク酸ジステアリルマグネシウム塩からなる嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤3を得た。
【0049】
(顔料分散剤4の調製)
塩化バリウムを塩化マグネシウムに変え、スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム塩をスルホコハク酸ジベンジルナトリウム塩に変えた以外は、顔料分散剤1の調製と同様にして、スルホコハク酸ジベンジルマグネシウム塩からなる嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤4を得た。
【0050】
(顔料分散剤5の調製)
塩化アルミニウム10質量部を水100質量部に溶解させて、70〜80℃に加熱した溶液中に、この塩化アルミニウムの3倍モル量のスルホコハク酸モノ2−エチルヘキシルナトリウム塩を徐々に添加し、塩交換反応をさせて、スルホコハク酸モノ2−エチルヘキシルアルミニウム塩の沈殿物を得た。その後、この沈殿物をろ過、水洗、乾燥させて嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤5を得た。
【0051】
(顔料分散剤6の調製)
塩化バリウムを塩化亜鉛に変え、スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム塩をスルホコハク酸モノラウリルナトリウム塩に変えた以外は、顔料分散剤1の調製と同様にして、スルホコハク酸モノラウリル亜鉛塩からなる嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤6を得た。
【0052】
(顔料分散剤7の調製)
塩化バリウムを塩化カルシウムに変え、スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム塩をスルホコハク酸モノベンジルナトリウム塩に変えた以外は、顔料分散剤1の調製と同様にして、スルホコハク酸モノベンジルカルシウム塩からなる嵩密度0.2g/cmの粉末状の顔料分散剤7を得た。
【0053】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)(メルトフローレート:30g/10min(230℃))のペレット100質量部、顔料としてのカーボンブラック(Pigment Black 7)0.67質量部、及び顔料分散剤1(スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルバリウム塩)0.33質量部を、ヘンシェルミキサーにて混合して、表面に顔料及び顔料分散剤が付着したポリプロピレン樹脂ペレットを作製した。得られたポリプロピレン樹脂ペレットを2軸ニーダーに投入し、200℃で2分間溶融させ、その後同じ温度で1分間混練を行い、着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表1に示した。
【0054】
(実施例2〜17)
顔料、顔料分散剤の種類、及び量を1〜3のように変えた以外は、実施例1と同様にして着色熱可塑性樹脂を得た。なお、下記表中、カーボンブラックとしてはPigment Black 7を、フタロシアニングリーンとしてはPigment Green 7、鉄黒としてはPigment Black 11を、それぞれ使用した。顔料分散性の評価結果を表1〜3に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
(実施例18)
顔料としてのカーボンブラック(Pigment Black 7)67質量部、及び顔料分散剤1(スルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルバリウム塩)33質量部を、水平円筒型混合機で混合し、粉末状の着色剤組成物を得た。
【0059】
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)(メルトフローレート:30g/10min(230℃))のペレット100質量部と、得られた粉末状の着色剤組成物0.736質量部とをヘンシェルミキサーにて混合し、表面に顔料及び顔料分散剤が付着したポリプロピレン樹脂ペレットを作製した。得られたポリプロピレン樹脂ペレットを2軸ニーダーに投入し、200℃で2分間溶融させ、その後同じ温度で1分間混練を行い、着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表4に示した。
【0060】
(実施例19〜34)
顔料、顔料分散剤の種類、及び量を表4〜6のように変えた以外は、実施例18と同様にして着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表4〜6に示した。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
(比較例1)
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)(メルトフローレート:30g/10min(230℃))のペレット100質量部、顔料としてのカーボンブラック(Pigment Black 7)0.67質量部、及び顔料分散剤としてのステアリン酸カルシウム0.067質量部を、ヘンシェルミキサーにて混合して、表面に顔料及び顔料分散剤が付着したポリプロピレン樹脂ペレットを作製した。得られたポリプロピレン樹脂ペレットを2軸ニーダーに投入し、200℃で2分間溶融させ、その後同じ温度で1分間混練を行い、着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表7に示した。
【0065】
(比較例2〜3)
顔料の種類を表7のように変えた以外は、比較例1と同様にして着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表7に示した。
【0066】
【表7】

【0067】
(比較例4)
顔料としてのカーボンブラック(Pigment Black 7)91質量部、及びステアリン酸カルシウム9質量部を、水平円筒型混合機で混合し、粉末状の着色剤組成物を得た。
【0068】
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)(メルトフローレート:30g/10min(230℃))のペレット100質量部と、得られた粉末状の着色剤組成物0.736質量部とをヘンシェルミキサーにて混合し、表面に顔料及び顔料分散剤が付着したポリプロピレン樹脂ペレットを作製した。得られたポリプロピレン樹脂ペレットを2軸ニーダーに投入し、200℃で2分間溶融させ、その後同じ温度で1分間混練を行い、着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表8に示した。
【0069】
(比較例5〜6)
顔料の種類を表8のように変えた以外は、比較例4と同様にして着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表8に示した。
【0070】
【表8】

【0071】
(比較例7)
顔料としてのカーボンブラック(Pigment Black 7)91質量部、及び顔料分散剤としてのスルホコハク酸ジ2−エチルヘキシルNa塩9質量部をエタノール150質量部に添加し、30〜60分攪拌することにより顔料分散液を作製した。その後得られた顔料分散液を連続流動造粒装置内蔵式スプレードライヤで噴霧乾燥し、着色剤組成物を得た。
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)(メルトフローレート:30g/10min(230℃))のペレット100質量部と、得られた着色剤組成物0.736質量部とをヘンシェルミキサーにて混合し、表面に顔料及び顔料分散剤が付着したポリプロピレン樹脂ペレットを作製した。得られたポリプロピレン樹脂ペレットを2軸ニーダーに投入し、200℃で2分間溶融させ、その後同じ温度で3分間混練を行い、着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表9に示した。
【0072】
(比較例8〜9)
顔料の種類を表9のように変えた以外は、比較例7と同様にして着色熱可塑性樹脂を得た。顔料分散性の評価結果を表9に示した。
【0073】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]又は下記式[2]で表されるスルホコハク酸エステルと2又は3価の金属イオンとの塩からなる顔料分散剤。
【化1】


(式[1]中、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22のアリールアルキル基、あるいはこれらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基を表す。)
【化2】


(式[2]中、Rは直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数2〜22のアルキル基、炭素数3〜22のアルケニル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜22のアリールアルキル基、あるいはこれらの基のいずれかが繰り返し数2〜30のポリオキシアルキレン基の末端に結合した基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の顔料分散剤及び顔料を含む着色剤組成物。
【請求項3】
さらに熱可塑性樹脂を含む、請求項2に記載の着色剤組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の顔料分散剤、顔料及び熱可塑性樹脂を、溶融混練することを特徴とする着色熱可塑性樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−168725(P2011−168725A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35287(P2010−35287)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(501016984)ローディア日華株式会社 (6)
【Fターム(参考)】