飛行時間型質量分析方法及び装置
【課題】イオンの垂直方向の収束性を向上させ、感度向上のため直交加速イオン源との接続を可能にすることができる飛行時間型質量分析装置を提供する。
【解決手段】複数のイオンをパルス的に出射できるイオン源10と、直進軌道とらせん型軌道を実現する分析計と、イオンを検出する検出器15とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、らせん軌道を実現するために分析計を複数の積層トロイダル電場で構成させる。
【解決手段】複数のイオンをパルス的に出射できるイオン源10と、直進軌道とらせん型軌道を実現する分析計と、イオンを検出する検出器15とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、らせん軌道を実現するために分析計を複数の積層トロイダル電場で構成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(a)飛行時間型質量分析計(TOFMS)
飛行時間型質量分析計(以下TOFMSと略す)は、一定の加速エネルギーで加速した試料イオンが質量電荷比(以下m/z)に応じた飛行速度を持つことに基づき、一定距離を飛行するのに要する飛行時間を計測してm/zを求めるものである。図26にTOFMSの動作原理を示す。図において、5はパルスイオン源であり、イオン生成部6とパルス電圧発生器7とで構成されている。
【0003】
加速電圧発生器7により電界中に存在するイオンiを加速する。ここで、加速する電圧は、パルス状電圧である。この加速電圧による加速と、イオン検出器9による時間測定とが同期している。イオン検出器9は、加速電圧発生器7による加速と同時に時間のカウントを開始する。そして、当該イオンがイオン検出器9に到達すると、イオン検出器9はイオンiの飛行時間を測定する。一般に、この飛行時間は、m/zが大きいほど長くなる。m/zの小さいイオンは早くイオン検出器9に到達するので、飛行時間は短くなる。
【0004】
この飛行時間型質量分析装置(TOFMS)の質量分解能は、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、
質量分解能=T/2ΔT (1)
で表される。即ち、スペクトル上のピーク幅ΔTの要因としては、大きく分けて時間収束性(ΔTf)と検出器の応答(ΔTd)がある。両者の応答が、ガウス分布のようであると仮定すると、(1)式は次式のように表される。
【0005】
質量分解能=T/√(ΔTf2+ΔTd2) (2)
ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させることができる。実際には検出器9の応答が、1〜2nsec(ナノ秒)程度あるため、ΔTはそれ以上小さくならない。
【0006】
直線型TOFMSは、非常に単純な構造であるが、総飛行時間Tが数10μsec(マイクロ秒)とそれほど大きくできないため、質量分解能はそれほど高くない。また、直線型の利点として飛行中に開裂したイオン(以下フラグメントイオンという)の速度が、開裂前のイオン(以下プレカーサイオンという)とほとんど変わらないため、マススペクトルからプレカーサイオンの情報のみを読み取れることが挙げられる。
【0007】
図27は反射型TOFMSの動作原理を示す図である。図26と同一のものは、同一の符号を付して示す。反射型TOFMSでは、パルスイオン源5と反射電場8との間に中間収束点を配し、一度時間収束をさせる。その後、反射電場8及び残りの自由空間でエネルギー収束性を実現することにより、スペクトルピーク幅ΔTを広げることなく、50μsec前後に総飛行時間を延ばすことが可能である。
【0008】
反射型TOFMSで注意しなければならないのは、飛行中に開裂したイオンの挙動である。フラグメントイオンとプレカーサイオンの速度はほぼ等しいため、フラグメントイオンの運動エネルギーはUp×Mf/Mpとなる(Mf:フラグメントイオンの質量、Mp:プレカーサイオンの質量、Up:プレカーサイオンの運動エネルギー)。そのためMfによってはイオンの初期運動エネルギーの分布に比べてはるかに大きな運動エネルギー差ができる。フラグメントイオンは、プレカーサイオンより運動エネルギーが小さいため、反射場でプレカーサイオンより早く折り返して検出器9に到達するため、マススペクトルを煩雑にさせる。
(b)多重周回型TOFMS
従来の直線型、反射型のTOFMSでは、総飛行時間Tを伸ばすこと、即ち総飛行距離を伸ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が多重周回型TOFMSである。多重周回型TOFMSは、複数の扇形電場で構成され、イオンを周回させることを特徴とする装置である。
【0009】
多重周回型TOFMSには、大きく分けて同一軌道を周回するタイプ(以下同一周回型TOFMSという)と軌道面を周回毎にずらし、イオンビームがらせん軌道を描くようにするタイプ(以下らせん軌道型TOFMSという)に分けることができる。1周回あたりの飛行距離や周回数により異なるが、総飛行時間Tを数ms〜数100ms(ミリ秒)に伸ばすことが可能であり、従来の直線型TOFMS、反射型TOFMSに比べて省スペースで高質量分解能を実現することができる。
【0010】
同一周回型は、閉じた周回軌道を多重周回させることを特徴とする。図28は多重周回型TOFMSの動作原理を示す図である。この装置は、パルスイオン源10から発射されたイオンを4個のトロイダル電場を8の字型の周回軌道を多重周回させ、多重周回の後、検出器15によりイオンを検出するようにしたものである(例えば非特許文献1参照)。この装置は、円筒電場にマツダプレートを組み合わせたトロイダル電場12を4個用いて8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを伸ばすことができる。
【0011】
更に、この装置では、1周回毎に初期位置・初期角度・初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことができるイオン光学系を採用している(特許文献1参照)。そのため、多重周回させることにより時間・空間収差を広げることなく飛行時間を延長できる。同一周回型は、省スペース化と高質量分解能を実現できる反面、同一周回を多重周回させるため、質量の小さいイオン(速度大)が質量の大きいイオン(速度小)を追い越す問題が起こり、質量範囲が狭められる欠点がある。
【0012】
らせん軌道型TOFMSは、1周回毎に周回軌道面に対して垂直方向に軌道をずらし、らせん軌道を実現することを特徴とする。らせん軌道型飛行時間型質量分析装置である。このらせん軌道型飛行時間型質量分析装置は、閉軌道の始点と終点を閉軌道面に対して垂直方向にずらすことを特徴としている。これを実現するために、イオンをはじめから斜めに入射する方法(例えば特許文献3参照)や、デフレクタを用いて閉軌道の始点と終点を垂直方向にずらす方法(例えば特許文献3参照)がある。らせん軌道型TOFMSはある方向から見ると同一軌道型TOFMSと同じであるが、1回周回する毎に下方向に降りていき、全体としてらせん軌道を実現するものである。この装置は、同一周回型TOFMSで問題となる追い越しは解決することができる反面、物理的に周回数が限定されるため、質量分解能に上限がある。
【0013】
飛行中の開裂により生成したフラグメントイオンは、扇形電場それぞれが運動エネルギーフィルタの役目を果たすため、検出器に到達することができない。そのため、フラグメントイオンの影響を全く受けないマススペクトルを取得することができる。
(c)MALDI法と遅延引き出し法
MALDI法は、使用するレーザ光波長に吸収帯を持つマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)に試料を混合溶解させて固化し、これにレーザ照射して試料を気化あるいはイオン化させる方法である。MALDI法に代表されるレーザによるイオン化では、イオン生成時の初期エネルギー分布が大きくこれを時間収束させるため、遅延引き延ばし法がほとんどの場合で用いられる。これはレーザ照射より数100ns程度遅れてパルサー電圧を印加する方法である。
【0014】
図29は一般的なMALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)イオン源と遅延引き出し法の概念図を示す。MALDI法は、使用するレーザ光波長に吸収帯をもつマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)にサンプルを混合溶解させて固化し、これにレーザ光を照射してサンプル30を気化或いはイオン化させる方法である。図において、20はサンプルプレート、30は該サンプルプレート20に付着されたサンプル(試料)である。23はレーザ光を受けるレンズ1、24は該レンズ1からの光を反射させるミラー、ミラー24の反射光はサンプル(試料)30に照射される。この結果、サンプル30は励起されてイオンが発生する。発生したイオンは、加速電極21と22で加速され、質量分析部に導入される。
【0015】
サンプル30の状態が観察できるように、ミラー25、レンズ2、CCDカメラ27を配置している。
サンプルプレート20上に、マトリックスに試料を混合溶解させて固化したサンプル30を乗せる。レンズ1、ミラー24によりレーザ光をサンプル30に照射し、サンプル30を気化あるいはイオン化する。生成したイオンは、加速電極1,2により加速され、TOFMSに導入される。加速電極2と加速電極1間には、図の(a)に示すような傾きの電位勾配が印加されている。遅延時間(数100ns)後の電位勾配は(b)に示すようなものとなる。
【0016】
図30は従来の遅延引き出し法を用いたタイムシーケンスを示す図である。(a)はレーザ、(b)は加速電極1の電位、(c)は飛行時間測定である。先ず、加速電極1とサンプルプレート20の電位を同電位にしておく。次に、時刻t0でレーザが発振すると、レーザ発振を知らせるレーザからの信号を受けてから、数100nsec後の時刻t1に、加速電極1の電圧をVsからV1に高速で変化させ、サンプルプレート20と加速電極1間に電位勾配を作り、加速させる。加速電極1の電位は時刻t2でV1からVsに戻る。飛行時間測定は、パルサーの立ち上がり時刻t1より開始される。そして、時刻t3で飛行時間測定が終了する。
(d)垂直加速法
MALDI法は、パルス的にイオンを生成するため、TOFMSとの相性が非常によい。しかしながら、質量分析法のイオン化法には、EI,CI,ESI,APCIといった連続的にイオンを生成するイオン化法も数多くある。これらイオン化法とTOFMSを組み合わせるために開発されたのがOrthogonal Acceleration((垂直加速法))である。
【0017】
図31に垂直加速法を用いたTOFMS(以降垂直加速型TOFMSという)の概念図を示す。連続的にイオンを生成するイオン源31から生成したイオンビームは、数10eVの運動エネルギーで垂直加速部33に連続的に輸送される。垂直加速部33では、パルス発生器32から数10kV程度のパルス電圧を印加し、イオンをイオン源31からの輸送方向に対して垂直方向に加速する。そして、反射場34に入射したイオンは該反射場34で反射される。このようにして、パルス電圧印加開始時間から検出器35までの到達時間が、イオンの質量により異なることから質量分離を行なう。
(e)MS/MS測定とTOF/TOF装置
一般的な質量分析では、イオン源で生成したイオンを質量分析計にて質量分離したマススペクトルを測定する。この時、得られる情報はm/zのみである。以下、この測定をMS/MS測定に対してMS測定と呼ぶ。これに対して、イオン源で生成した特定のイオン(プリカーサイオン)を自発的又は強制的に開裂させ、生成したプロダクトイオンを観測するMS/MS測定がある。
【0018】
この測定では、プリカーサイオンの質量と複数の経路で生成するプロダクトイオンの質量情報が得られるため、プリカーサイオンの構造情報を得ることができる。図32はMS/MS測定の説明図である。プレカーサイオンは、開裂してプロダクトイオン11,12,13…となる。これらプロダクトイオンを全て質量分析することによりプレカーサイオンの構造解析が可能となる。
【0019】
TOFMSを2台直列接続したMS/MS装置は、一般的にTOF/TOF装置と呼ばれ、おもにMALDIイオン源を採用した装置に使用されている。TOF/TOF装置は、直線型TOFMSと反射型TOFMSで構成される。図33はTOFMSを直列接続したMS/MS装置の概念図である。この例では、直線型TOFMS40(第1TOFMS)と反射型TOFMS45(第2TOFMS)から構成されている。
【0020】
第1TOFMS内のイオン源41から出射されたイオンは、プレカーサイオンを選択するためのイオンゲート42を通過する。該イオンゲート42付近には、第1TOFMSの時間収束点が配置される。プレカーサイオンは、衝突室43に入って強制的に開裂させられ、第2TOFMSに入る。開裂生成したプロダクトイオンの運動エネルギーは、プロダクトの質量に比例して配分され、
Up=Ui×m/M (3)
となる。ここで、Upはプロダクトイオンの運動エネルギー、Uiはプリカーサイオンの運動エネルギー、mはプロダクトの質量、Mはプリカーサイオンの質量である。反射場を含む第2TOFMSでは、質量及び運動エネルギーにより飛行時間が異なるため、プロダクトイオンを検出器46で検出して質量分析することができる。
【0021】
また、多重周回型TOFMSの特徴は、初期位置、初期角度、初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできる光学系が知られている(例えば特許文献1参照)
【非特許文献1】Journal of the Mass Spectromet ry Society of Japan Vol.No.2(No.218)2003 p349−353
【特許文献1】特開平11−195398号公報(第3頁、第4頁、図1)
【特許文献2】特開2000−243345号公報(第2頁、第3頁、図1)
【特許文献3】特開2003−86129号公報(第2頁、第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従来のらせん型飛行時間型質量分析装置には、以下に示すような問題がある。前記特許文献2には、垂直方向に収束する機能がないため、周回するイオンの垂直方向の速度分布によって、垂直方向の空間的・時間的収束性がなく、感度や質量分解能の低下につながる。また、垂直方向の速度分布が大きいと被検出面での周回数がずれる可能性もある。一方、特許文献2記載の発明では、垂直方向の広がりをデフレクタで収束させているが、垂直方向の収束性をあげるためには、イオン軌道上のデフレクタの数を増やす必要がある。しかしながら、デフレクタを増やすと、調整しなければならない要素が増え、複雑な装置になる。
【0023】
従って、本発明の第1の目的は、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させ、感度向上のため直交加速イオン源との接続を可能にする飛行時間型質量分析装置を提供することを目的としている。
【0024】
また、遅延引き出し法を使用したMALDI法の欠点は、以下の通りである。
1)時間収束点までの距離が長ければ長いほど質量分解能のm/z依存性が大きい。
2)広m/z範囲での質量精度が悪化する。
3)高電圧、高電圧精度、高時間精度パルス電圧が必要である。
【0025】
TOFMSの質量分解能は、前述の通り(2)式で表わされる。直線型TOFMSの場合、時間収束点に検出器を置く。そのため、時間収束点を短かくすることは、総飛行時間Tの短縮につながり質量分解能が低下する。そのため、上記問題を解決することはできない。
【0026】
反射型TOFMSの場合、イオン源の近くに一度時間収束点を作り、反射場において運動エネルギー収束を実現すれば、時間収束点までの距離を小さくでき、質量分解能の質量依存性や質量精度の問題はある程度解決できた。しかしながら、装置を大型にしなければ総飛行時間Tを長くとれないため、質量分解能の向上には検出面である程度の時間収束(ΔTfを0に近づける)が必要である。遅延引き出し法を使用しない場合、高質量のイオンでは初期エネルギー分布が大きくなり、イオン源からの中間収束点までの距離を短かくしても、ΔTfがΔTdと同等以上になる。そのため、現実的には遅延引き延ばし法を使用しなければならない状況にある。
【0027】
本発明の第2の目的は、イオン化法としてMALDI法を、質量分析部として多重周回型TOFMSを用いることにより遅延引き出し法を使用せずに小型・高質量分解能のMALDI−TOFMSを実現する方法を提供することである。
【0028】
多重周回型TOFMSの特徴は、初期位置、初期角度、初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用できることである(前記特許文献1参照)。即ち、多重周回軌道に入った時の初期時間幅を何周回させてもほぼ保存することができ、かつ周回数に比例してTを大きくすることができる(反射型TOFMSの10〜数100倍)。
【0029】
そのため、遅延引き出し法を使用しなくても、イオン源から多重周回型TOFMSまでの距離をできる限り短かくすれば、多少ΔTfが広がっていたとしても高質量分解能を達成することができる。しかも遅延引き出し法を使用しないため、パルス電圧を使用する必要がない。また、多重周回型TOFMSは、扇形電場を用いているため、フラグメントイオンの影響を受けない測定が可能である。
【0030】
次に、TOF/TOF装置における複数の同位体ピークを選ぶ際の弊害について説明する。サンプルイオンを構成する炭素、酸素、窒素、水素等に同位体が存在するために、その組み合わせによって、サンプルイオンの質量が複数種存在することになる。質量スペクトルに現れる同じ分子で質量の違うピークの一群を一般に「同位体ピーク」と呼ぶ。
【0031】
図34は同位体ピークの説明図であり、Angiotensin I(C62H90N17O14)の例を示している。縦軸はピーク値、横軸はm/zである。図34より1ユニット(unitは12Cの質量を12unitと定義した質量単位)間隔でいくつかのピークが存在することが分かる。その中で一番質量の小さい、即ち12C、16O、14N、1H等、単一同位体のみで構成されるピークは「モノアイソトピックピーク」と呼ばれる。
【0032】
さて、従来のように第1TOFMSにリニア型TOFMSを採用した場合、その飛行距離数を数100mm程度しかとることができない。この程度の飛行距離では、同位体ピーク間の飛行時間差は10nsec以下であり、イオンゲートの切り替えスピードを考えると、高選択性を望むことは不可能であり、複数の同位体ピークを通過させることになる。しかしながら、複数の同位体ピークを選択すると大きな問題が起こる。以下にその説明を行なう。
【0033】
仮に反射電場を含む第2TOFMS(図33参照)が完全にエネルギー収束を満たす系(プロダクトイオンの運動エネルギーにより飛行時間が変化しない系)だとすると、第1TOFMSを通過する時間は、プリカーサイオンのm/zに、第2TOFMSの飛行時間はプロダクトイオンのm/zに依存した値となる。ここで、簡単のために、ある1価のプリカーサイオンから、それぞれ2種類の同位体を持つ1価の電荷を持つプロダクトイオンと中性粒子に開裂する場合を考える。
【0034】
図35はプロダクトイオンの同位体ピークの説明図、図36は中性粒子の同位体ピークの説明図である。図35では、プロダクトイオンの質量と強度比の関係が示され、図36では中性粒子の質量と強度比の関係が示されている。
【0035】
開裂前はプロダクトイオンと中性粒子が結合していたため、プリカーサイオンの組み合わせは4通りである。図37はプリカーサイオンの同位体ピークの説明図である。組み合わせが1)〜4)までの4通りであることが分かる。図37では、プリカーサイオンの質量と、組み合わせと、TOF1の飛行時間と、TOF2の飛行時間と、強度比が示されている。
【0036】
プリカーサイオンの組み合わせは4通りであるが、質量としては3通り(M,M+1,M+2:但しM=m+n)となる。それぞれの開裂経路の検出器への到達時間は、第1TOFMSにおける質量Xのプレカーサイオンの飛行時間をT1X、第2TOFMSにおける質量Yのプロダクトイオンの飛行時間T2Yの和となる。また、強度比はそれぞれの場合のプロダクトイオンと中性粒子の強度比の乗算で表わされる。
【0037】
これが、スペクトル上でどのように現れるかを図38に示す。図38は、TOF/TOF装置で複数の同位体ピークを選択することによる弊害の説明図である。図で、ΔT1はプリカーサイオンの同位体ピーク間の飛行時間差、ΔT2はプロダクトイオンの同位体ピーク間の飛行時間差である。プロダクトイオンk1、k2及びk3、k4間の飛行時間がずれることでなる。現実的には、ピークには幅があるため、ピークk2はピークk1の裾の広がりになる場合や、ピークk1とk3の間のベースラインの盛り上がりとなったりする。どちらにしても、プロダクトイオンの高い質量精度を得ることはできない。
【0038】
次に、TOF/TOF装置における選択の問題について説明する。従来のTOF/TOF装置では、プリカーサイオンの選択は、検出器でのプリカーサイオンの飛行時間からイオンゲートでの飛行時間を予想して行われる。しかしながら、直線型TOFMSのように飛行距離が短い場合、質量の違いによる飛行時間差が小さいため、その予想は非常に難しい。とりわけ、MALDI法と遅延引き出し法を採用する場合、遅延時間を調整するとイオンゲートでの飛行時間がずれる。そのため、従来装置ではイオンゲートを通過できる時間を長くとらなければならず、より選択性が悪い結果となる。
【0039】
本発明の第3の目的は、第1TOFMSにらせん軌道型TOFMSを採用し、上記問題を解決することである。問題1(TOF/TOF装置において複数の同位体ピークを選ぶ弊害)を解決する最も有効な方法は、モノアイソトピックイオンのみを選択することである。プリカーサイオンにモノアイソトピックイオンを選択すると、そこから開裂生成するイオンもモノアイソトピックイオンのみとなり、同位体ピークの影響を排除でき解釈が簡単になる上、質量精度も向上させることができる。
【0040】
らせん軌道型TOFMSは、1周回毎に時間及び空間収束性を有しているため、MALDI法、垂直加速法どちらの場合においても、らせん軌道型TOFMSの軌道内に一度中間収束点を作る。その距離は、直線型TOFMSの時の中間収束点までの距離に比べ同等以下であり、MALDI法の遅延時間のように、イオン源由来で中間収束点での時間収束性に影響を与える要因は同程度以下に抑えられる。
【0041】
更に、中間収束点での状態を周回数を増やしても中間収束点での状態を保持できるため、時間収束性を保ったまま第1TOFMSの飛行距離を50〜100倍程度伸ばすことができる。即ち、プリカーサイオンの同位体ピーク間の飛行時間差を50〜100倍程度伸ばすことができ、モノアイソトピックイオンを選択することができる。
【0042】
また、問題2(TOF/TOF装置における選択の問題)に関しても、上述の同位体ピーク間の間隔が広がることと、MS測定で使用する検出器をイオンゲート付近に配置することができるため、イオンゲートでの飛行時間を正確に予想することができ、より正確な質量分析を行なうことができる。
【0043】
本発明の第4の目的は、直線型TOFMSとらせん軌道型TOFMSを組み合わせることにより、両方の利点を生かした測定を可能にする質量分析装置を提供することを目的としている。
【0044】
直線型TOFMSは、フラグメントイオンとプリカーサイオンを原理上分離できないため、イオン源加速直後のイオンの状態を高感度で測定できるが、高分解能を得ることができない。反射型TOFMSは、直線型TOFMSの数倍の分解能を得られるが、反射場を折り返す時間がプロダクトイオンとプリカーサイオンで異なるため、スペクトルが煩雑になったり、開裂する割合が多いとプリカーサイオンの感度が悪くなったりするといった問題がある。従来の装置は、おもに直線型TOFMSと反射型TOFMSを組み合わせている。
【0045】
らせん軌道型TOFMSは、直線型TOFMSの10倍以上の分解能を得られる上、構成要素である扇形電場がエネルギーフィルタの役目を果たすため、フラグメントイオンが検出器に到達することはないので、イオン源で生成し検出器まで到達したイオンのみを観測することができる。
【0046】
また、従来技術の問題点を周回軌道(非特許文献1)を利用したらせん軌道型TOFMSで説明する。ここでは、トロイダル電場4個で8の字型の周回軌道を実現した多重周回型TOFMSについて説明する。トロイダル電場は、中心軌道50mm(内側電極半径45.25mm、外側電極面半径55.25mm、回転角157.1度)の円筒電場と2枚のマツダプレート(マツダプレート間40mm)を組み合わせて作られており、1周回の軌道は1.308mである。トロイダル電場の曲率を表わすc値(イオン中心軌道の回転半径/マツダプレート方向の電位の曲率半径)は、全てのトロイダル電場で0.0337である。
【0047】
しかしながら、この装置では前述のように追い越しの問題が存在する。そこで、多重周回型TOFMSの軌道を基に、1周回毎に周回軌道の始点と終点を周回軌道面とは垂直方向にずらすことにより、らせん軌道型のTOFMSを実現する方法が考えられる。
【0048】
図39はらせん軌道型TOFMSの全体構成例を示す図である。図28と同一のものは、同一の符号を付して示す。10はパルスイオン源、15は検出器、50は積層トロイダル電場1、51は積層トロイダル電場2、52は積層トロイダル電場3、53は積層トロイダル電場4である。54は周回軌道面、Y軸は垂直移動方向である。
【0049】
この場合、イオンは周回軌道面に対して入射角をもって入射し、一定の割合で垂直移動方向に進む。その入射角θは、1周回の軌道を周回軌道面に投影させた長さLtと1層あたりの垂直移動距離Lvを用い、
θ=tan−1(Lv/Lt) (4)
と表わすことができる。
【0050】
トロイダル電場は、円筒電場に複数のマツダプレートをLvの間隔で配置すればよく、このような円筒電場と複数枚のマツダプレートの組み合わせを「積層トロイダル」と呼ぶ。図40は積層トロイダル電場を示す図である。図39の積層トロイダル電場1に相当する。55,56は外側電極、57,58は内側電極である。59はシャント、60はマツダプレートである。マツダプレートの数は、一つの積層トロイダル電場あたり、らせん軌道の周回数(層の数)+1個である。図39,図40の場合は、周回数(層の数)が15であり、各積層トロイダル電場は、円筒電場と16枚のマツダプレートにより構成されている。
【0051】
多重周回型TOFMSの場合、トロイダル電場は中心軌道を含み、内外電極面と垂直な面で上下対称である。積層トロイダル電場でこれと同じ状況を実現するためには、全ての回転角の断面において、イオン中心軌道を含み、内外電極と垂直に交わる面に対して、マツダプレートを上下対称かつ平行に配置しなくてはならない。そのためには、マツダプレートは単純な円弧型や楕円型ではなく、ねじ型構造にしなくてはならない。
【0052】
マツダプレートをねじ型構造にした場合、トロイダル電場の全回転角での断面は図41に示すようなものとなる。このモデルは、マツダプレートの中間の線で上下対称である。図41のモデルでは、中心軌道80mmの円筒電場(内側電極面半径72.4mm、外側電極面半径88.4mm、回転角157.1度:MULTUMIIの周回軌道面を1.6倍に拡大)、マツダプレート面の間隔は54mmで、マツダプレートの厚さは6mmを想定した。図41において、55は内側電極、56は外側電極、60はマツダプレートである。このモデルの入射角θは(4)式より以下のように表わされる。
【0053】
θ=tan−1{(54+6)/1308×1.6}=1.642゜ (5)
これを2次元軸対称系で電位及び電場解析すると、図42のようになる。内側電極に−4kV、外側電極に+4kVに設定した場合、c値が0.0337となるマツダプレート電圧は+630Vであった。イオン中心軌道を含むマツダプレートの中間面で対称な場となる。
【0054】
しかしながら、このようなネジ型構造は、加工精度を出すことが困難であり、著しく高価である。そこで、本発明の第5の目的は、加工精度がよく、安価で大量生産可能な円弧型の電極を使用し、ねじ型構造の電極と同等の性能を達成する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0055】
(1)請求項1記載の発明は、1つのイオン源と、該イオン源で生成したイオンをパルス的に加速する手段と、複数の扇形電場で構成されイオンがらせん軌道を描くように飛行させることを特徴とする飛行時間型質量分析計と、2つ以上の検出器とで構成され、1つの検出器では、イオン源での生成、加速したイオンを直進飛行させてイオンの飛行時間を測定し、それ以外の検出器では、複数の扇形電場によりらせん軌道を描くように飛行させたイオンの飛行時間を測定することを特徴とする。
【0056】
(2)請求項2記載の発明は、前記イオン源でのイオン化法が、導電性のサンプルプレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することを特徴とする。
【0057】
(3)請求項3記載の発明は、前記イオン源でのイオン化法がMALDI法であることを特徴とする。
【0058】
(4)請求項4記載の発明は、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴とする。
【0059】
(5)請求項5記載の発明は、請求項21乃至24の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することを特徴とする。
【0060】
(6)請求項6記載の発明は、請求項21から24の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で同時に測定することを特徴とする。
【0061】
(7)請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6のらせん軌道型飛行時間型質量分析計において、1周回毎に空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0062】
(1)請求項1記載の発明によれば、直線型TOFMSとらせん軌道型TOFMSを組み合わせることにより、両方の特徴を生かした測定を可能にすることができる。
【0063】
(2)請求項2記載の発明によれば、サンプルプレート上のサンプルをレーザ照射してイオン化したイオンを質量分析することができる。
【0064】
(3)請求項3記載の発明によれば、MALDI法を用いてイオン化したイオンを質量分析することができる。
【0065】
(4)請求項4記載の発明によれば、遅延引き出し法を用いてイオンを加速することができる。
【0066】
(5)請求項5記載の発明によれば、サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することにより、より多くの情報を得ることができる。
【0067】
(6)請求項6記載の発明によれば、同サンプルから生成したイオン、中性粒子を直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型TOFで分析することにより多くの情報を得ることができる。
【0068】
(7)請求項7記載の発明によれば、請求項1〜6のらせん軌道型TOFMSにおいて、1周回毎に初期位置、初期角度、初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用し、時間収束性を保ったまま飛行時間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の構成概念図である。
【図2】本発明の電極の構成例を示す図である。
【図3】1図の矢印方向から装置を見た図である。
【図4】本発明の積層トロイダルを電場端面から見た図である。
【図5】イオン軌道展開図である。
【図6】トロイダル電場の説明図である。
【図7】本実施の形態例で用いられる多重電極プレートの構成例を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態例の動作説明図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態例の動作説明図である。
【図10】第2の発明の構成概念図である。
【図11】イオン源従来の多重周回型質量分析装置の概念図である。
【図12】第1の実施の形態例の動作シーケンスを示す図である。
【図13】第2の発明の一実施の形態例を示す図である。
【図14】第3の発明の一実施の形態例を示す図である。
【図15】第3の発明の他の実施の形態例を示す図である。
【図16】第4の発明の一実施の形態例を示す図である。
【図17】第5の発明の実施の形態例を示す図である。
【図18】円弧型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデル図である。
【図19】ねじ型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデル図である。
【図20】円弧型マツダプレートY軸方向電場解析図である。
【図21】マツダプレートずれRとLocとの関係を示す図である。
【図22】回転角φとLoc´の相関を示す図である。
【図23】回転角φとLocの相関を示す図である。
【図24】回転角φとLoc´,Loc,Loc´+Locの相関を示す図である。
【図25】入射角1.642度、マツダプレートと傾き3.1度の場合の回転角φと Loc´,Loc,Loc´+Locの相関を示す図である。
【図26】直線型TOFMSの動作原理を示す図である。
【図27】反射型TOFMSの動作原理を示す図である。
【図28】多重周回型TOFMSの動作原理を示す図である。
【図29】MALDIイオン源とイオン加速部及び遅延引き出し法概略図である。
【図30】従来の遅延引き出し法を用いたタイムシーケンスを示す図である。
【図31】垂直加速型TOFMSの概念図である。
【図32】MS/MS測定の説明図である。
【図33】TOFMSを直列に接続したMS/MS装置の概念図である。
【図34】同位体ピークの説明図である。
【図35】プロダクトイオンの同位体ピークの説明図である。
【図36】中性粒子の同位体ピークの説明図である。
【図37】プリカーサイオンの同位体ピークの説明図である。
【図38】TOF/TOF装置で複数の同位体ピークを選択することによる弊害の説 明図である。
【図39】らせん軌道型TOFMSの全体構成例を示す図である。
【図40】積層トロイダル電場を示す図である。
【図41】ねじ型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデルを示す図であ る。
【図42】ねじ型マツダプレート電位・電場解析等高線を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は第1の発明の構成概念図で、電極構造を上から見た図である。上から見た図は図28のそれと変わらない。しかしながら、ここで用いる電極は図の垂直方向に電極が多層に形成されている点で図28のそれと異なる(図2参照)。図28と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、10はパルスイオン源、16は該パルスイオン源10からのイオン軌道を調整するためのデフレクタ、17は図に示すように対称に配置された電極である。該電極17で形成される電場をそれぞれ積層トロイダル電場1〜4とする。
【0071】
図2は本発明の電極の構成例を示す図である。17A,17Bは対として動作する第1の電極である。18は電極17A,17Bで構成される空間に設けられた第2の電極である。該第2の電極18は、電極17A,17Bに対してこれと垂直方向に傾けられて取り付けられている。15は最終周回されたイオンを検出する検出器である。図1のA部は、周回開始点であり、周回終点でもある。
【0072】
図3は図1に示す矢印方向から装置を見た図である。図1,図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、17は第1の電極、18は該第1の電極17内にある角度をもって取り付けられた第2の電極である。図の太い実線は積層トロイダル層の端面を示している。破線で示す矢印はイオンの軌道を示す。Aは1周目の始点、Bは2周目始点(1周目終点)、Cは最終周目終点である。
【0073】
このように構成された装置において、パルスイオン源10にてイオンを生成し、パルス電圧発生器で加速する。加速されたイオンは、デフレクタ16で軌道が調整される。この時のイオンの傾き角は、電極18の傾き角に合わせる。ここで、イオンが積層トロイダル電場1に入る直前にパルス状の加速電圧で加速される。この加速電圧で加速された時間をt0とする。積層トロイダル電場1に引き込まれたイオンは、加速電圧により加速され、図に示すように、各積層トロイダル電場1〜4を8の字型に周回しながら、らせん状に下の方に下っていく。そして、最終の積層トロイダル電場1から検出器15に到達する。検出器15に到達した時間をt1とすると、該当イオンの飛行時間はt1−t0となり、経過時間が測定され、質量分析が行なわれる。
【0074】
図5はイオン軌道展開図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図に示すように、積層トロイダル電場1〜積層トロイダル電場4が図に示すように配置されている。パルスイオン源10から出射されたイオンは、続くデフレクタ16で軌道が調整され、積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整される。このように軌道が修正されたイオンは、積層トロイダル電場に入射される。図のA点が1周目の始点になる。
【0075】
積層トロイダル電場1を通過したイオンは、自由空間を通過して積層トロイダル電場2に入る。積層トロイダル電場2を通過したイオンは積層トロイダル電場3に入る。そして、積層トロイダル電場3を通過したイオンは積層トロイダル電場4に入る。積層トロイダル電場4を通過したイオンは、2層目積層トロイダル電場1の開始点Bから積層トロイダル電場1に入り、該電場を通過する。このようにして、らせん状に周回軌道を周回したイオンはN周目の始点Nから積層トロイダル電場1に入射する。そして、積層トロイダル電場4を通過したイオンは、検出器15で検出される。
【0076】
以上説明したように、第1の発明によれば、イオンを垂直方向にらせん軌道を描きながら下降させ、イオンの飛行距離を長くすることで、正確な質量分析を行なうことができる。
【0077】
第1の実施の形態例は、円筒電場内側表面に実現したいトロイダル電場形状に合わせた曲率を層状に付けるようにしたものである。図4は本発明の積層トロイダルを電場端面から見た図で、第1の実施の形態例を示している。(a)が積層トロイダルを電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルを横から見た図である。(b)において、破線はイオンの軌跡である。積層トロイダル電場のX方向の配置は図1に示すものと同じである。
【0078】
(a)に示すように、第1層から第N層までのそれぞれに対して、電極面に図に示すような曲率Rをつける。このように、電極面に曲率Rをつけることにより、形成される電場がこの曲率に合わせて曲率をもつものになり、この結果、電界を通過するイオンの収束性を向上させることができる。
【0079】
ここで、曲率Rをもつ波状の層はY方向に対して傾ける。積層トロイダル電場1と2の空間的な配置は、積層トロイダル電場1から出射したイオンが自由空間(電場1から電場2までの空間)を経て、積層トロイダル電場2の同じ階層に入射できるようにY方向にずらす。以下、積層トロイダル電場3、積層トロイダル電場4も同様にずらす。そして、積層トロイダル電場4を出射したイオンが積層トロイダル電場1の次の階層に入射するように配置する(積層トロイダル電場1〜4の配置は図1に示すそれと同じである)。
【0080】
そして、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速する。加速されたイオンをデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、各積層トロイダル電場1の最上層に入射させるために調整する。最終周回終了後、検出器15でイオンを検出する。
【0081】
この実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
図6は積層トロイダル電場の説明図で、第2の実施の形態例を示している。積層トロイダル電場1〜4の配置は、図1に示すものと同じである。(a)は積層トロイダルで電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルで横から見た図である。図において、22は円筒電場内に設けられた電極である。図中、太い実線は電極、破線はイオン軌道である。電極の代わりに多重極プレートを用いてもよい。図7は本実施の形態例で用いる多重極プレートの構成例を示す図である。図中、23は同心円状電極、24はその端部に設けられた絶縁体プレートである。
【0082】
この実施の形態例では、積層トロイダル電場1〜4は、積層多重極電場により実現する。積層多重極電場は、円筒電場内に絶縁体プレート24上に同心円状の電極(多重極プレート)を複数枚組み込み実現する。この実施の形態例では、必要なトロイダル電場形状を作り出せるように、多重極電場に電圧を印加する。多重極プレート22は、Y方向に対して傾けて構成する。
【0083】
このように構成された装置において、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速させる。次に、イオンの軌道がデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、積層トロイダル電場1の最上部に入射させるように偏向する。そして、各層を8の字状に周回し、最終の層からのイオンを検出器15で検出する。
【0084】
この発明の実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
図8は第1の発明の第3の実施の形態例の動作説明図である。図において、40は連続してイオンを出射する連続イオン源である。この実施の形態例は、連続イオン源40と本発明を組み合わせたものである。41は電極30,31に加速電圧を印加するパルス電圧発生器である。32はイオン溜である。Aは積層トロイダル電場1で、第1層だけを拡大したものである。33は積層トロイダル層の端面、破線の矢印はイオンビームの軌道を示す。積層トロイダル電場としては、前述した実施の形態例1〜3までの何れかを採用するものとする。
【0085】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンをイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30,31に印加されるパルス電圧で加圧する。この時、連続したイオン源40からの輸送運動エネルギーとパルス電圧による加速エネルギーによりイオンは必然的に斜め方向に打ち出される。この傾きを積層トロイダル電場の傾きと一致させる。積層トロイダル電場を周回したイオンは最終的に検出器15で検出される。この実施の形態例では、あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、イオンを検出する。
【0086】
この実施の形態例によれば、積層トロイダル電場で構成される垂直加速型らせん軌道飛行時間型質量分析計を実現することにより、感度向上を実現することができる。
(第4の実施の形態例)
図9は本発明の第4の実施の形態例の動作説明図である。図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の形態例は、図8に示す構成に加えて、イオン溜32から入射されるイオンを更に偏向して角度調整ができるようにしたものである。図において、50は入射されるイオンの角度を調整するために設けられたデフレクタである。該デフレクタは、積層トロイダル電極の傾き角と打ち出されたイオンの傾きが異なる場合に、イオンの傾き角を積層トロイダル電極の傾き角に合わせるように動作する。
【0087】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンを加速方向と直交するようにイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30,31からのパルス電圧で加圧する。この時、パルス電圧より得た速度と連続イオン源40からの輸送速度により、イオンは必然的に軌道面に対して図に示すように斜めに飛行する。この傾きを角度調整用のデフレクタ50で更に調整する。この結果、イオンは積層トロイダル電場1の傾きに合わせた角度で入射される。積層トロイダル電場を周回したイオンは最終的に検出器15で検出される。あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、イオンを検出する。
【0088】
この実施の形態例によれば、デフレクタにより積層トロイダル電場に入射するイオンビームを調整することができる。
図10は第2の発明の構成概念図、図11はイオン源及びイオン加速部を示す図である。図10において、図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図11において、図29と同一のものは、同一の符号を付して示す。サンプルプレート20上に、マトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)に試料を混合溶解させて固化したサンプル30を乗せる。そして、該サンプル30の状態が観察できるように、レンズ2、ミラー25、CCDカメラ27を配置している。
【0089】
レンズ1、ミラー24、によりレーザをサンプル30に照射し、サンプルを気化あるいはイオン化する。MALDIイオン源19より生成されたイオンは、加速電極1,2に印加された一定電圧により加速され、図10に示す同一周回型TOFMSに導入される。一般的なTOFMSでは、飛行時間測定のため、パルス電圧により生成したイオン群をパルス化する必要があるが、レーザ照射自体がパルス的に行われるため、第2の発明では必要がない。飛行時間計測の開始トリガはレーザからの信号を用いる。
【0090】
同一軌道型TOFMSは、扇形電場1から4により構成される。イオンの入射は、扇形電場4を、出射は扇形電場1をオフにすることにより行なう。1回の飛行時間測定のシーケンスを図12に示す。図12は第1の実施の形態例の動作シーケンスを示す図である。(a)はレーザ、(b)は扇形電場1、(c)は扇形電場4、(d)は飛行時間測定をそれぞれ示している。
【0091】
扇形電場1,4の電圧切り替えは、レーザからの信号を基準とする。扇形電場4の電圧は、イオン入射時にオフにしてイオンを入射させ、周回中はオンになっている。扇形電場1の電圧は、周回時オンであり、オフにするとイオンは検出器15に向かって飛行する。質量分解能に関係する周回数は、扇形電場1をオンにする時間を調整することにより変更可能である。
【0092】
このように第1の実施の形態例によれば、多重周回型TOFMSを用いることにより、遅延引き出し法を小型・高質量分解能のMALDI−TOFMSを提供することができる。また、同一軌道を多重周回することで、イオンの飛行距離をかせぐことができる。
(第2の実施の形態例)
図13は第2の発明の一実施の形態例を示す図である。図10と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)は装置をY方向から見た図、(b)は(a)の下図→方向から見た図である。サンプルプレート20(図11参照。以下、同様)上に、マトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)に試料を混合溶解させて固化したサンプル30を乗せる。サンプル30の状態が観察できるようにレンズ2、ミラー25、CCDカメラ27を配置している。
【0093】
レンズ1、ミラー24によりレーザ光をサンプル30に照射し、サンプルを気化あるいはイオン化する。生成したイオンは、加速電極21,22に印加された電圧により加速され、らせん軌道型TOFMSに導入される。一般的なTOFMSでは、飛行時間測定のために、パルス電圧により生成したイオン群をパルス化する必要があるが、レーザ照射自体がパルス的に行われるため、本発明では必要ない。飛行時間計測の開始トリガはレーザからの信号を用いる。
【0094】
らせん軌道型TOFMSは、扇形電場1〜4により構成される。扇形電場に対して角度を持たせてイオンを入射させるため、扇形電場1〜4を順次通過した後、軌道が周回軌道面(XZ面)に対して垂直方向(Y方向)にずれる。周回数は、イオン源かららせん軌道型TOFMSに入射する角度と扇形電場のY方向の長さにより決まる。そして、最後の周回を終えた後、検出器15に到達する。
【0095】
この実施の形態例によれば、イオンをらせん軌道を描くように飛行させることでイオンの飛行距離をかせぐことができ、しかもイオンの追い越しが発生しない。
以上、説明した第2の発明の実施の形態例によれば、遅延引き出し法を使用することなく、MALDI法に代表されるレーザ脱離イオン化法を用いた質量分析法において、広質量範囲で高質量分解能、高質量精度の測定が可能となる。
【0096】
図14は第3の発明の第1の実施の形態例を示す図である。図10と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)は装置をZ方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。図において、19はMALDIイオン源、19aはデフレクタ、15aはイオンを検出する第1のイオン検出器(以下、イオン検出器1という)、52はイオン検出器1を通過したイオンを受けて、プレカーサイオンを選択するイオンゲート、53はイオンを開裂させる衝突室、54は開裂したイオンが入射される反射場、15は反射場54を反射したイオンが検出される検出器(以下、イオン検出器2という)である。イオン検出器1は(b)に示すように移動が可能である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0097】
MALDIイオン源19にてサンプルをイオン化し、パルス電圧にて加速する。ここまでは、従来技術と同様である。MALDIイオン源19から出射したイオンは、デフレクタ19aにより角度調整がされ、扇形電場1に入射する。イオンは、扇形電場1〜4を順次通過し、1周回する。この時、Z方向の位置が前周回とずれているため、周回を重ねながら、Z方向に移動していく。
【0098】
MS測定の場合は、軌道上に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、イオン検出器1をイオン軌道から外し、イオンを直進させ、イオンゲート52に向かって飛行させる。イオンゲート電圧がオフの時、イオンはイオンゲート52を通過でき、オンの時は通過できない。
【0099】
最終周回を終えたイオンの中で選択したいプリカーサイオンが通過する時間のみイオンゲート52をオフにし、プリカーサイオンの特定の同位体ピークを選択する。選択されたプリカーサイオンは、衝突室53に進入して内部の衝突ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかったプリカーサイオン及び開裂生成したプロダクトイオンは、反射場54を通過し、検出器2にて検出される。反射場54を折り返す時間は、イオンの質量及び運動エネルギーにより異なるので、プリカーサイオンと各開裂経路のプロダクトイオンを質量分析することができる。また、この実施の形態例によれば、同位体ピークの影響を排除することができ、解釈が簡単になり、質量分析精度を向上させることができる。
【0100】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、イオン源でのイオン化法が、導電性のサンプルレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することができる。これによれば、MALDI法でイオン化したイオンを分析することができる。
【0101】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、イオン源でのイオン化法がMALDI法であるようにすることができる。これによれば、MALDI法でイオン化したイオンを分析することができる。
【0102】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることができる。これによれば、中間収束点での時間収束性を向上させることができ、質量分析の精度を高めることができる。
【0103】
図15は第3の発明の他の実施の形態例を示す図である。図14と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)の矢印方向から見た図である。図において、57はイオン源、58はイオン輸送部、59は垂直加速部、60はデフレクタである。他の構成は、図14と同様である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0104】
イオン源57にてサンプルをイオン化し、イオン輸送部58により垂直加速部59に輸送する。ここまでは、従来技術と同じである。垂直加速部59から出射したイオンは、デフレクタ60により角度調整がなされ、扇形電場1に入射する。イオンは扇形電場1〜4を順次通過し、1周回する。この時、Y方向の位置が前周回とずれているため、周回を重ねながらZ方向に移動していく。
【0105】
MS測定の場合は、軌道上に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、イオン検出器1をイオン軌道から外し、イオンを直進させ、イオンゲート52に向かって飛行させる。イオンゲート電圧がオフの時、イオンはイオンゲート52を通過でき、オンの時は通過できない。最終周回を終えたイオンの中で選択したいプリカーサイオンが通過する時間のみイオンゲートをオフにし、プリカーサイオンの特定の同位体ピークを選択する。
【0106】
選択されたプリカーサイオンは、衝突室53に進入し内部の衝突ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかったプリカーサイオン及び開裂したプロダクトイオンは、反射場54を通過し、イオン検出器2にて検出される。反射場54を折り返す時間は、プリカーサイオンの質量及び運動エネルギーにより異なるので、プリカーサイオンと各開裂経路のプロダクトイオンを質量分析することができる。
【0107】
この実施の形態例によれば、イオンをらせん軌道で飛行させることにより、プレカーサイオンの選択性の高い質量分析を行なうことができる。
また、第3の発明の実施の形態例によれば、開裂させる手段が、衝突室にガスを充填して行なうCID法であるようにすることができる。この実施の形態例によれば、イオンの開裂を効率よく行なうことができる。
【0108】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、前述したような飛行時間型質量分析計を使用し、らせん軌道型飛行時間型質量分析計にてプリカーサイオンのある特定の同位体ピークのみを選択するようにすることができる。この実施の形態例によれば、プリカーサイオンのある特定の同位体ピークのみを選択することができる。
【0109】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、ある特定の同位体ピークが、プリカーサイオンのモノアイソトピックイオンであるようにすることができる。この実施の形態例によれば、特定の同位体ピークがプリカーサイオンのモノアイソトピックイオンであることにより、質量分析を正確に行なうことができる。
【0110】
以上、説明した第3の発明によれば、第1TOFMSにらせん軌道型TOFMSを用いることにより、プリカーサイオンの選択性を従来技術よりも向上させ、モノアイソトピックイオンを選択することができる。その結果、TOF/TOF装置において、プロダクトイオンのスペクトルの解釈が簡単になり、質量精度も向上させることができる。
【0111】
図16は第4の発明の一実施の形態例を示す図である。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。図において、57はMALDIイオン源、15aはイオン検出器1、17は扇形電場1〜4である。(a)において、Eは周回部始点及び終点である。(b)において、太い破線は直線型TOFMS、細い破線はらせん軌道型TOFMSのイオンの軌跡を示している。15はイオンの最終回を検出するイオン検出器2である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0112】
MALDIイオン源57にてイオンを生成し、遅延引き出し法を用いてパルス的に加速する。ここまでは、従来技術と同様である。イオン検出器1は、直線型TOFMS用の検出器である。直線型TOFMSとして測定する場合、扇形電場1及び4の電圧をオフにし、イオンを直進させ、イオン検出器1で検出させる。
【0113】
らせん軌道型TOFMSとして測定する場合、扇形電場1及び4の電圧をオンにする。イオンはらせん軌道を描き飛行し、イオン検出器2に到達する。それぞれの場合で、パルス電圧印加開始時間とイオン検出器1及び2への到達時間が質量により違うことから質量分離を行なう。
【0114】
第4の発明によれば、直線型TOFMSとらせん軌道型TOFMSを組み合わせることで、両方の特徴を生かした測定を可能にすることができる。
第4の発明の実施の形態例によれば、導電性のサンプルプレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することができる。このようにすれば、サンプルプレート上のサンプルをレーザ照射によりイオン化し、分析することができる。
【0115】
また、第4の発明の実施の形態例によれば、イオン源でのイオン化法としてMALDI法を用いることができる。このように構成すれば、MALDI法でイオン化したイオンを分析することができる。
【0116】
また、第4の発明の実施の形態例によれば、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることができる。このようにすれば、遅延引き出し法を用いて中間収束点での時間収束性を向上させることができる。
【0117】
また、第4の発明の実施の形態例によれば、前記装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することができる。このように構成すれば、サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することで、質量分析の測定の精度を向上させることができる。また、第4の発明の実施の形態例によれば、前記装置を使用し、同サンプルを直線型、らせん軌道型TOFMSで同時に測定することができる。この場合、らせん軌道型TOFMSでは開裂しなかったイオンを測定し、直線型TOFMSでは途中で開裂し生成した中性粒子を測定する。
【0118】
次に、第5の発明について説明する。第5の発明の外観構成は、図39と同様である。ただし、マツダプレートは円弧型である。構成要件は、パルスイオン源、積層トロイダル電場1〜4とイオン検出器である。図17は第5の発明の実施の形態例を示す図で、積層トロイダル電場のある1層の図を示している。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0119】
第5の発明によれば、パルスイオン源にて同じ運動エネルギーで加速されたイオン群を、その速度が質量により異なることを利用して検出器に到達する時間の違いにより質量分離する。イオン源を出射したイオン群は積層トロイダル電場第1層にある入射角をもって入射し、順次積層トロイダル電場2〜4の第1層を通過する。1周回したイオンは、入射角に応じて第1層よりも垂直移動方向にずれた位置を通過する。このように、順次積層トロイダル電場1〜4の1層から15層目までも通過し検出器で検出される。
【0120】
第5の発明の実施の形態例の装置概略図は、ほぼ従来の技術のものと同じであるが、マツダプレートにねじ型電極ではなく、円弧型電極を用いる。積層トロイダル電場の各層に形成されるトロイダル電場は、それを構成するマツダプレートが、ねじ型電極か円弧型電極により異なる。以下にその違いを説明し、円弧型電極を用いた場合どのように配置すればよいかを述べる。以下では、従来技術で説明したモデルを基にして、中心軌道80mmの円筒電場(内側電極面半径72.4mm、外側電極面半径88.4mm、回転角157.1度、MULTUM11の周回軌道面を1.6倍に拡大)にマツダプレート面の間隔は54mmで厚さは6mmの円弧型マツダプレートを入れ込むことを想定する。また、電圧も内側電圧−4kV、外側電極+4kV、マツダプレート電圧+630Vを想定した。
【0121】
それぞれのマツダプレートは回転角の中間面(電極端面から78.55度の面)とマツダプレート厚さの中間面の交線であるマツダプレート回転軸でイオンの入射角だけ傾ける。次に、マツダプレート回転軸に垂直な面である投影面Aを想定する。積層トロイダル電場は、円筒電場内に円弧型電極を複数枚平行に傾けて配置する。図17は、1つの積層トロイダル電場のある1層を形成する2つのマツダプレートを周回軌道面と後述の投影面Aに投影させた図である。この面Aは、周回軌道面と垂直になる。円弧型電極を傾けているので、投影面Aに投影されるマツダプレートのトロイダル電場を形成する面は直線になる。
【0122】
ここで、図17のように円筒電場の回転角の中間面(電極端面から78.55度の面)を基準に回転角φを定義する。以下では、φが正の場合(即ち電極の片側半分)を例にイオンの中心軌道と、円筒電極を用いた場合のイオンの中心軌道なるべき位置ずれを検証するが、φが負の場合には、そのずれが正の場合と極性が逆になる。また、8の字型の軌道では、積層トロイダル電場1と4を順回転すると、積層トロイダル電場2と3は逆回転であるが、逆回転の場合は順回転の場合に対して位置のずれの極性が逆になる。
【0123】
最後にφ=0度におけるマツダプレート中間を通り、周回軌道面に平行な面Bを定義する。マツダプレートに円弧型電極とねじ型電極を用いた場合で、円筒電極端面での中心軌道80mm線上のマツダプレートの中間位置が一致するための円弧型電極の傾きを考える。入射角1.642度の場合、端面でのイオン中心軌道と面Bとの距離Lfは、
Lf=2×80×π×(78.55/360)×tan1.642=3.144(mm)
である。図17から中心軌道は80mmであるので、円弧型電極の傾きθaは、
θa=tan−1(3.144/80)=2.25(度)
となる。
【0124】
円弧型電極を傾ける場合、中心軌道までの距離は回転角φにより異なる。φ=0度の場合は80mmであるが、端面(φ=±87.55度)では、最大80.06mm=80/cos2.25である。この違いは、回転角φによるマツダプレートと電極間の違いや、マツダプレート間距離に影響するが、入射角が十分小さい場合、この違いは非常に小さいため無視できる。
【0125】
図17からある角度φにおいては、マツダプレート面と面Bの距離は内線と外側で異なることが分かる。即ち、φ=0度以外では、マツダプレートと円筒電極のなす角度が直角ではなく、図18のようなモデルで表される断面となる。図18は、円弧型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデル図である。図において、70(+630V),71はマツダプレート、72は内側電極(−4kV)、73は外側電極(+4kV)である。
【0126】
ただし、マツダプレートと内側及び外側電極に1mm程度の間隔ができるようにマツダプレートの幅を14mmに設定した。ある断面における円筒電場面と平行な外側と内側の差Kは、マツダプレートTmp(=14mm)、マツダプレートの傾きをθmp(=2.25度)、回転角をφとすると、
K=Tmp×tanφ×sinθmp=0.40×tanφ (6)
と表される。図18のモデルを元に、Kを0.1mmずつ変更し、トロイダル電場内の垂直移動方向の電場(EY)解析を行なった。
【0127】
図19のねじ型電極モデル同様、図18のモデルを2次元軸対称系で計算したものである。実際は軸対称ではないが、電位及び電位分布の傾向はつかめる。その結果を図20に示す。先ず、ある角度φの断面で、イオン中心軌道半径80mmの線上でマツダプレートの中間に位置する点を中間点Cと定義した。電場は、EY=0となる線は、周回軌道にほぼ平行であり、Y方向の電場はEY=0の線でほぼ対称であった。
【0128】
しかしながら、EY=0の線は、中間点Cとはずれた位置にあった(図20参照)。cとc´の距離をLcc´とし、Rとの相関を調べたところ、ほぼRに比例し、その係数は2であった。図21はマツダプレートずれRとLoc´との関係を示す図である。
【0129】
イオンの中心軌道は、従来技術で説明したように、Y軸方向に対称な位置であるべきであり、それはEY=0となる線とイオン中心軌道半径80mmの線が交差する点c´と考えてよい。図21の関係を基に、マツダプレートの傾きが2.25度の場合の回転角φとLoc´の関係を図22に示す。図22は、回転角φとLoc´の関係を示す図である。縦軸はLoc´、横軸は回転角φである。
【0130】
次に、ある回転角φにおけるマツダプレートの中間点cと中心軌道位置とのずれを検証する。イオンは常に周回軌道面に対して入射角と同じ傾きで運動するので、中心軌道は回転角に比例する。そのため、面Bからの距離Loは、
Lo=−Lf×φ/φf (7)
である。ただし、φfは端面での回転角φ(157.1/2=78.55)であり、Lfは電極の端面での中心軌道位置
(=(2×80×π×78.55/360)×tan1.642)である。そのため、今回の場合
Lo=((2×80×π×78.55/360)×tan1.642)
×φ/78.55
=−0.04φ
となる。
【0131】
これに対して、中間点Cの面Bからの距離Lcは、図17に示すように中間点Cを結んだ線を面Aに投影すると直線になり、更に端面での位置は中心軌道とほぼ同じになるので、
Lc=−Lf×sinφ/sinφf (8)
となる。よって、
Lp=((2×80×π×78.55/360)×tan1.642)×
sinφ/sin78.55
=−3.208sinφ
となる。回転角φとマツダプレート中間点Cと中心軌道のずれLoc(=Lc−Lo)を図23に示す。図23において、縦軸はLocを、横軸は回転角φを示す。
【0132】
さて、Loc´とLocを足し合わせたものが、ある回転角φの断面におけるイオン中心軌道半径80mmの線上でのEY=0となる点と実際のイオン中心軌道とのずれとなる。それを図24に示す。図24において、縦軸は距離(mm)、横軸は回転角φ(度)である。回転角度が40度程度までは、Loc´とLocが相殺するため、ずれは小さいが、40度を超えたあたりから回転角φの増加に伴ってずれが大きくなる。
【0133】
このずれを全て相殺することはできないが、マツダプレートの傾きを入射角とは変えることにより、平均的に小さくすることはできる。イオンの入射角は、1.642度のままで、マツダプレートの傾きを3.1度に設定した場合の回転角φとLoc´とLocとの相関を図25に示す。図25において、縦軸は距離(mm)、横軸は回転角φである。この場合、中心軌道の位置であるべきEY=0を回転角毎に結んだ線の中心軌道からずれが±0.3mm以内に入っており、総合的にみて影響は小さいと考えられる。
【0134】
今回のモデルでは、周回軌道面に対する入射角が1.642度であるのに対して、マツダプレートの傾きは周回軌道面から3.0度程度にするとよいと考えられる。しかしながら、基となる周回軌道が異なると、マツダプレートを傾けるべき角度は変わるので、それぞれの系に合わせてマツダプレートの傾きを最適化すればよい。
【0135】
以上、詳細に説明したように、第5の発明によれば、加工精度がよく、安価で大量生産可能な円弧型電極を使用した積層トロイダル電場を用いて、らせん軌道型TOFMSを実現することができる。
【0136】
また、第5の発明において、上記要件を満たし、イオンの入射角が1.0度から2.5度の範囲でマツダプレートの角度を最適化することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(a)飛行時間型質量分析計(TOFMS)
飛行時間型質量分析計(以下TOFMSと略す)は、一定の加速エネルギーで加速した試料イオンが質量電荷比(以下m/z)に応じた飛行速度を持つことに基づき、一定距離を飛行するのに要する飛行時間を計測してm/zを求めるものである。図26にTOFMSの動作原理を示す。図において、5はパルスイオン源であり、イオン生成部6とパルス電圧発生器7とで構成されている。
【0003】
加速電圧発生器7により電界中に存在するイオンiを加速する。ここで、加速する電圧は、パルス状電圧である。この加速電圧による加速と、イオン検出器9による時間測定とが同期している。イオン検出器9は、加速電圧発生器7による加速と同時に時間のカウントを開始する。そして、当該イオンがイオン検出器9に到達すると、イオン検出器9はイオンiの飛行時間を測定する。一般に、この飛行時間は、m/zが大きいほど長くなる。m/zの小さいイオンは早くイオン検出器9に到達するので、飛行時間は短くなる。
【0004】
この飛行時間型質量分析装置(TOFMS)の質量分解能は、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、
質量分解能=T/2ΔT (1)
で表される。即ち、スペクトル上のピーク幅ΔTの要因としては、大きく分けて時間収束性(ΔTf)と検出器の応答(ΔTd)がある。両者の応答が、ガウス分布のようであると仮定すると、(1)式は次式のように表される。
【0005】
質量分解能=T/√(ΔTf2+ΔTd2) (2)
ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させることができる。実際には検出器9の応答が、1〜2nsec(ナノ秒)程度あるため、ΔTはそれ以上小さくならない。
【0006】
直線型TOFMSは、非常に単純な構造であるが、総飛行時間Tが数10μsec(マイクロ秒)とそれほど大きくできないため、質量分解能はそれほど高くない。また、直線型の利点として飛行中に開裂したイオン(以下フラグメントイオンという)の速度が、開裂前のイオン(以下プレカーサイオンという)とほとんど変わらないため、マススペクトルからプレカーサイオンの情報のみを読み取れることが挙げられる。
【0007】
図27は反射型TOFMSの動作原理を示す図である。図26と同一のものは、同一の符号を付して示す。反射型TOFMSでは、パルスイオン源5と反射電場8との間に中間収束点を配し、一度時間収束をさせる。その後、反射電場8及び残りの自由空間でエネルギー収束性を実現することにより、スペクトルピーク幅ΔTを広げることなく、50μsec前後に総飛行時間を延ばすことが可能である。
【0008】
反射型TOFMSで注意しなければならないのは、飛行中に開裂したイオンの挙動である。フラグメントイオンとプレカーサイオンの速度はほぼ等しいため、フラグメントイオンの運動エネルギーはUp×Mf/Mpとなる(Mf:フラグメントイオンの質量、Mp:プレカーサイオンの質量、Up:プレカーサイオンの運動エネルギー)。そのためMfによってはイオンの初期運動エネルギーの分布に比べてはるかに大きな運動エネルギー差ができる。フラグメントイオンは、プレカーサイオンより運動エネルギーが小さいため、反射場でプレカーサイオンより早く折り返して検出器9に到達するため、マススペクトルを煩雑にさせる。
(b)多重周回型TOFMS
従来の直線型、反射型のTOFMSでは、総飛行時間Tを伸ばすこと、即ち総飛行距離を伸ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が多重周回型TOFMSである。多重周回型TOFMSは、複数の扇形電場で構成され、イオンを周回させることを特徴とする装置である。
【0009】
多重周回型TOFMSには、大きく分けて同一軌道を周回するタイプ(以下同一周回型TOFMSという)と軌道面を周回毎にずらし、イオンビームがらせん軌道を描くようにするタイプ(以下らせん軌道型TOFMSという)に分けることができる。1周回あたりの飛行距離や周回数により異なるが、総飛行時間Tを数ms〜数100ms(ミリ秒)に伸ばすことが可能であり、従来の直線型TOFMS、反射型TOFMSに比べて省スペースで高質量分解能を実現することができる。
【0010】
同一周回型は、閉じた周回軌道を多重周回させることを特徴とする。図28は多重周回型TOFMSの動作原理を示す図である。この装置は、パルスイオン源10から発射されたイオンを4個のトロイダル電場を8の字型の周回軌道を多重周回させ、多重周回の後、検出器15によりイオンを検出するようにしたものである(例えば非特許文献1参照)。この装置は、円筒電場にマツダプレートを組み合わせたトロイダル電場12を4個用いて8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを伸ばすことができる。
【0011】
更に、この装置では、1周回毎に初期位置・初期角度・初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことができるイオン光学系を採用している(特許文献1参照)。そのため、多重周回させることにより時間・空間収差を広げることなく飛行時間を延長できる。同一周回型は、省スペース化と高質量分解能を実現できる反面、同一周回を多重周回させるため、質量の小さいイオン(速度大)が質量の大きいイオン(速度小)を追い越す問題が起こり、質量範囲が狭められる欠点がある。
【0012】
らせん軌道型TOFMSは、1周回毎に周回軌道面に対して垂直方向に軌道をずらし、らせん軌道を実現することを特徴とする。らせん軌道型飛行時間型質量分析装置である。このらせん軌道型飛行時間型質量分析装置は、閉軌道の始点と終点を閉軌道面に対して垂直方向にずらすことを特徴としている。これを実現するために、イオンをはじめから斜めに入射する方法(例えば特許文献3参照)や、デフレクタを用いて閉軌道の始点と終点を垂直方向にずらす方法(例えば特許文献3参照)がある。らせん軌道型TOFMSはある方向から見ると同一軌道型TOFMSと同じであるが、1回周回する毎に下方向に降りていき、全体としてらせん軌道を実現するものである。この装置は、同一周回型TOFMSで問題となる追い越しは解決することができる反面、物理的に周回数が限定されるため、質量分解能に上限がある。
【0013】
飛行中の開裂により生成したフラグメントイオンは、扇形電場それぞれが運動エネルギーフィルタの役目を果たすため、検出器に到達することができない。そのため、フラグメントイオンの影響を全く受けないマススペクトルを取得することができる。
(c)MALDI法と遅延引き出し法
MALDI法は、使用するレーザ光波長に吸収帯を持つマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)に試料を混合溶解させて固化し、これにレーザ照射して試料を気化あるいはイオン化させる方法である。MALDI法に代表されるレーザによるイオン化では、イオン生成時の初期エネルギー分布が大きくこれを時間収束させるため、遅延引き延ばし法がほとんどの場合で用いられる。これはレーザ照射より数100ns程度遅れてパルサー電圧を印加する方法である。
【0014】
図29は一般的なMALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)イオン源と遅延引き出し法の概念図を示す。MALDI法は、使用するレーザ光波長に吸収帯をもつマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)にサンプルを混合溶解させて固化し、これにレーザ光を照射してサンプル30を気化或いはイオン化させる方法である。図において、20はサンプルプレート、30は該サンプルプレート20に付着されたサンプル(試料)である。23はレーザ光を受けるレンズ1、24は該レンズ1からの光を反射させるミラー、ミラー24の反射光はサンプル(試料)30に照射される。この結果、サンプル30は励起されてイオンが発生する。発生したイオンは、加速電極21と22で加速され、質量分析部に導入される。
【0015】
サンプル30の状態が観察できるように、ミラー25、レンズ2、CCDカメラ27を配置している。
サンプルプレート20上に、マトリックスに試料を混合溶解させて固化したサンプル30を乗せる。レンズ1、ミラー24によりレーザ光をサンプル30に照射し、サンプル30を気化あるいはイオン化する。生成したイオンは、加速電極1,2により加速され、TOFMSに導入される。加速電極2と加速電極1間には、図の(a)に示すような傾きの電位勾配が印加されている。遅延時間(数100ns)後の電位勾配は(b)に示すようなものとなる。
【0016】
図30は従来の遅延引き出し法を用いたタイムシーケンスを示す図である。(a)はレーザ、(b)は加速電極1の電位、(c)は飛行時間測定である。先ず、加速電極1とサンプルプレート20の電位を同電位にしておく。次に、時刻t0でレーザが発振すると、レーザ発振を知らせるレーザからの信号を受けてから、数100nsec後の時刻t1に、加速電極1の電圧をVsからV1に高速で変化させ、サンプルプレート20と加速電極1間に電位勾配を作り、加速させる。加速電極1の電位は時刻t2でV1からVsに戻る。飛行時間測定は、パルサーの立ち上がり時刻t1より開始される。そして、時刻t3で飛行時間測定が終了する。
(d)垂直加速法
MALDI法は、パルス的にイオンを生成するため、TOFMSとの相性が非常によい。しかしながら、質量分析法のイオン化法には、EI,CI,ESI,APCIといった連続的にイオンを生成するイオン化法も数多くある。これらイオン化法とTOFMSを組み合わせるために開発されたのがOrthogonal Acceleration((垂直加速法))である。
【0017】
図31に垂直加速法を用いたTOFMS(以降垂直加速型TOFMSという)の概念図を示す。連続的にイオンを生成するイオン源31から生成したイオンビームは、数10eVの運動エネルギーで垂直加速部33に連続的に輸送される。垂直加速部33では、パルス発生器32から数10kV程度のパルス電圧を印加し、イオンをイオン源31からの輸送方向に対して垂直方向に加速する。そして、反射場34に入射したイオンは該反射場34で反射される。このようにして、パルス電圧印加開始時間から検出器35までの到達時間が、イオンの質量により異なることから質量分離を行なう。
(e)MS/MS測定とTOF/TOF装置
一般的な質量分析では、イオン源で生成したイオンを質量分析計にて質量分離したマススペクトルを測定する。この時、得られる情報はm/zのみである。以下、この測定をMS/MS測定に対してMS測定と呼ぶ。これに対して、イオン源で生成した特定のイオン(プリカーサイオン)を自発的又は強制的に開裂させ、生成したプロダクトイオンを観測するMS/MS測定がある。
【0018】
この測定では、プリカーサイオンの質量と複数の経路で生成するプロダクトイオンの質量情報が得られるため、プリカーサイオンの構造情報を得ることができる。図32はMS/MS測定の説明図である。プレカーサイオンは、開裂してプロダクトイオン11,12,13…となる。これらプロダクトイオンを全て質量分析することによりプレカーサイオンの構造解析が可能となる。
【0019】
TOFMSを2台直列接続したMS/MS装置は、一般的にTOF/TOF装置と呼ばれ、おもにMALDIイオン源を採用した装置に使用されている。TOF/TOF装置は、直線型TOFMSと反射型TOFMSで構成される。図33はTOFMSを直列接続したMS/MS装置の概念図である。この例では、直線型TOFMS40(第1TOFMS)と反射型TOFMS45(第2TOFMS)から構成されている。
【0020】
第1TOFMS内のイオン源41から出射されたイオンは、プレカーサイオンを選択するためのイオンゲート42を通過する。該イオンゲート42付近には、第1TOFMSの時間収束点が配置される。プレカーサイオンは、衝突室43に入って強制的に開裂させられ、第2TOFMSに入る。開裂生成したプロダクトイオンの運動エネルギーは、プロダクトの質量に比例して配分され、
Up=Ui×m/M (3)
となる。ここで、Upはプロダクトイオンの運動エネルギー、Uiはプリカーサイオンの運動エネルギー、mはプロダクトの質量、Mはプリカーサイオンの質量である。反射場を含む第2TOFMSでは、質量及び運動エネルギーにより飛行時間が異なるため、プロダクトイオンを検出器46で検出して質量分析することができる。
【0021】
また、多重周回型TOFMSの特徴は、初期位置、初期角度、初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできる光学系が知られている(例えば特許文献1参照)
【非特許文献1】Journal of the Mass Spectromet ry Society of Japan Vol.No.2(No.218)2003 p349−353
【特許文献1】特開平11−195398号公報(第3頁、第4頁、図1)
【特許文献2】特開2000−243345号公報(第2頁、第3頁、図1)
【特許文献3】特開2003−86129号公報(第2頁、第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従来のらせん型飛行時間型質量分析装置には、以下に示すような問題がある。前記特許文献2には、垂直方向に収束する機能がないため、周回するイオンの垂直方向の速度分布によって、垂直方向の空間的・時間的収束性がなく、感度や質量分解能の低下につながる。また、垂直方向の速度分布が大きいと被検出面での周回数がずれる可能性もある。一方、特許文献2記載の発明では、垂直方向の広がりをデフレクタで収束させているが、垂直方向の収束性をあげるためには、イオン軌道上のデフレクタの数を増やす必要がある。しかしながら、デフレクタを増やすと、調整しなければならない要素が増え、複雑な装置になる。
【0023】
従って、本発明の第1の目的は、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させ、感度向上のため直交加速イオン源との接続を可能にする飛行時間型質量分析装置を提供することを目的としている。
【0024】
また、遅延引き出し法を使用したMALDI法の欠点は、以下の通りである。
1)時間収束点までの距離が長ければ長いほど質量分解能のm/z依存性が大きい。
2)広m/z範囲での質量精度が悪化する。
3)高電圧、高電圧精度、高時間精度パルス電圧が必要である。
【0025】
TOFMSの質量分解能は、前述の通り(2)式で表わされる。直線型TOFMSの場合、時間収束点に検出器を置く。そのため、時間収束点を短かくすることは、総飛行時間Tの短縮につながり質量分解能が低下する。そのため、上記問題を解決することはできない。
【0026】
反射型TOFMSの場合、イオン源の近くに一度時間収束点を作り、反射場において運動エネルギー収束を実現すれば、時間収束点までの距離を小さくでき、質量分解能の質量依存性や質量精度の問題はある程度解決できた。しかしながら、装置を大型にしなければ総飛行時間Tを長くとれないため、質量分解能の向上には検出面である程度の時間収束(ΔTfを0に近づける)が必要である。遅延引き出し法を使用しない場合、高質量のイオンでは初期エネルギー分布が大きくなり、イオン源からの中間収束点までの距離を短かくしても、ΔTfがΔTdと同等以上になる。そのため、現実的には遅延引き延ばし法を使用しなければならない状況にある。
【0027】
本発明の第2の目的は、イオン化法としてMALDI法を、質量分析部として多重周回型TOFMSを用いることにより遅延引き出し法を使用せずに小型・高質量分解能のMALDI−TOFMSを実現する方法を提供することである。
【0028】
多重周回型TOFMSの特徴は、初期位置、初期角度、初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用できることである(前記特許文献1参照)。即ち、多重周回軌道に入った時の初期時間幅を何周回させてもほぼ保存することができ、かつ周回数に比例してTを大きくすることができる(反射型TOFMSの10〜数100倍)。
【0029】
そのため、遅延引き出し法を使用しなくても、イオン源から多重周回型TOFMSまでの距離をできる限り短かくすれば、多少ΔTfが広がっていたとしても高質量分解能を達成することができる。しかも遅延引き出し法を使用しないため、パルス電圧を使用する必要がない。また、多重周回型TOFMSは、扇形電場を用いているため、フラグメントイオンの影響を受けない測定が可能である。
【0030】
次に、TOF/TOF装置における複数の同位体ピークを選ぶ際の弊害について説明する。サンプルイオンを構成する炭素、酸素、窒素、水素等に同位体が存在するために、その組み合わせによって、サンプルイオンの質量が複数種存在することになる。質量スペクトルに現れる同じ分子で質量の違うピークの一群を一般に「同位体ピーク」と呼ぶ。
【0031】
図34は同位体ピークの説明図であり、Angiotensin I(C62H90N17O14)の例を示している。縦軸はピーク値、横軸はm/zである。図34より1ユニット(unitは12Cの質量を12unitと定義した質量単位)間隔でいくつかのピークが存在することが分かる。その中で一番質量の小さい、即ち12C、16O、14N、1H等、単一同位体のみで構成されるピークは「モノアイソトピックピーク」と呼ばれる。
【0032】
さて、従来のように第1TOFMSにリニア型TOFMSを採用した場合、その飛行距離数を数100mm程度しかとることができない。この程度の飛行距離では、同位体ピーク間の飛行時間差は10nsec以下であり、イオンゲートの切り替えスピードを考えると、高選択性を望むことは不可能であり、複数の同位体ピークを通過させることになる。しかしながら、複数の同位体ピークを選択すると大きな問題が起こる。以下にその説明を行なう。
【0033】
仮に反射電場を含む第2TOFMS(図33参照)が完全にエネルギー収束を満たす系(プロダクトイオンの運動エネルギーにより飛行時間が変化しない系)だとすると、第1TOFMSを通過する時間は、プリカーサイオンのm/zに、第2TOFMSの飛行時間はプロダクトイオンのm/zに依存した値となる。ここで、簡単のために、ある1価のプリカーサイオンから、それぞれ2種類の同位体を持つ1価の電荷を持つプロダクトイオンと中性粒子に開裂する場合を考える。
【0034】
図35はプロダクトイオンの同位体ピークの説明図、図36は中性粒子の同位体ピークの説明図である。図35では、プロダクトイオンの質量と強度比の関係が示され、図36では中性粒子の質量と強度比の関係が示されている。
【0035】
開裂前はプロダクトイオンと中性粒子が結合していたため、プリカーサイオンの組み合わせは4通りである。図37はプリカーサイオンの同位体ピークの説明図である。組み合わせが1)〜4)までの4通りであることが分かる。図37では、プリカーサイオンの質量と、組み合わせと、TOF1の飛行時間と、TOF2の飛行時間と、強度比が示されている。
【0036】
プリカーサイオンの組み合わせは4通りであるが、質量としては3通り(M,M+1,M+2:但しM=m+n)となる。それぞれの開裂経路の検出器への到達時間は、第1TOFMSにおける質量Xのプレカーサイオンの飛行時間をT1X、第2TOFMSにおける質量Yのプロダクトイオンの飛行時間T2Yの和となる。また、強度比はそれぞれの場合のプロダクトイオンと中性粒子の強度比の乗算で表わされる。
【0037】
これが、スペクトル上でどのように現れるかを図38に示す。図38は、TOF/TOF装置で複数の同位体ピークを選択することによる弊害の説明図である。図で、ΔT1はプリカーサイオンの同位体ピーク間の飛行時間差、ΔT2はプロダクトイオンの同位体ピーク間の飛行時間差である。プロダクトイオンk1、k2及びk3、k4間の飛行時間がずれることでなる。現実的には、ピークには幅があるため、ピークk2はピークk1の裾の広がりになる場合や、ピークk1とk3の間のベースラインの盛り上がりとなったりする。どちらにしても、プロダクトイオンの高い質量精度を得ることはできない。
【0038】
次に、TOF/TOF装置における選択の問題について説明する。従来のTOF/TOF装置では、プリカーサイオンの選択は、検出器でのプリカーサイオンの飛行時間からイオンゲートでの飛行時間を予想して行われる。しかしながら、直線型TOFMSのように飛行距離が短い場合、質量の違いによる飛行時間差が小さいため、その予想は非常に難しい。とりわけ、MALDI法と遅延引き出し法を採用する場合、遅延時間を調整するとイオンゲートでの飛行時間がずれる。そのため、従来装置ではイオンゲートを通過できる時間を長くとらなければならず、より選択性が悪い結果となる。
【0039】
本発明の第3の目的は、第1TOFMSにらせん軌道型TOFMSを採用し、上記問題を解決することである。問題1(TOF/TOF装置において複数の同位体ピークを選ぶ弊害)を解決する最も有効な方法は、モノアイソトピックイオンのみを選択することである。プリカーサイオンにモノアイソトピックイオンを選択すると、そこから開裂生成するイオンもモノアイソトピックイオンのみとなり、同位体ピークの影響を排除でき解釈が簡単になる上、質量精度も向上させることができる。
【0040】
らせん軌道型TOFMSは、1周回毎に時間及び空間収束性を有しているため、MALDI法、垂直加速法どちらの場合においても、らせん軌道型TOFMSの軌道内に一度中間収束点を作る。その距離は、直線型TOFMSの時の中間収束点までの距離に比べ同等以下であり、MALDI法の遅延時間のように、イオン源由来で中間収束点での時間収束性に影響を与える要因は同程度以下に抑えられる。
【0041】
更に、中間収束点での状態を周回数を増やしても中間収束点での状態を保持できるため、時間収束性を保ったまま第1TOFMSの飛行距離を50〜100倍程度伸ばすことができる。即ち、プリカーサイオンの同位体ピーク間の飛行時間差を50〜100倍程度伸ばすことができ、モノアイソトピックイオンを選択することができる。
【0042】
また、問題2(TOF/TOF装置における選択の問題)に関しても、上述の同位体ピーク間の間隔が広がることと、MS測定で使用する検出器をイオンゲート付近に配置することができるため、イオンゲートでの飛行時間を正確に予想することができ、より正確な質量分析を行なうことができる。
【0043】
本発明の第4の目的は、直線型TOFMSとらせん軌道型TOFMSを組み合わせることにより、両方の利点を生かした測定を可能にする質量分析装置を提供することを目的としている。
【0044】
直線型TOFMSは、フラグメントイオンとプリカーサイオンを原理上分離できないため、イオン源加速直後のイオンの状態を高感度で測定できるが、高分解能を得ることができない。反射型TOFMSは、直線型TOFMSの数倍の分解能を得られるが、反射場を折り返す時間がプロダクトイオンとプリカーサイオンで異なるため、スペクトルが煩雑になったり、開裂する割合が多いとプリカーサイオンの感度が悪くなったりするといった問題がある。従来の装置は、おもに直線型TOFMSと反射型TOFMSを組み合わせている。
【0045】
らせん軌道型TOFMSは、直線型TOFMSの10倍以上の分解能を得られる上、構成要素である扇形電場がエネルギーフィルタの役目を果たすため、フラグメントイオンが検出器に到達することはないので、イオン源で生成し検出器まで到達したイオンのみを観測することができる。
【0046】
また、従来技術の問題点を周回軌道(非特許文献1)を利用したらせん軌道型TOFMSで説明する。ここでは、トロイダル電場4個で8の字型の周回軌道を実現した多重周回型TOFMSについて説明する。トロイダル電場は、中心軌道50mm(内側電極半径45.25mm、外側電極面半径55.25mm、回転角157.1度)の円筒電場と2枚のマツダプレート(マツダプレート間40mm)を組み合わせて作られており、1周回の軌道は1.308mである。トロイダル電場の曲率を表わすc値(イオン中心軌道の回転半径/マツダプレート方向の電位の曲率半径)は、全てのトロイダル電場で0.0337である。
【0047】
しかしながら、この装置では前述のように追い越しの問題が存在する。そこで、多重周回型TOFMSの軌道を基に、1周回毎に周回軌道の始点と終点を周回軌道面とは垂直方向にずらすことにより、らせん軌道型のTOFMSを実現する方法が考えられる。
【0048】
図39はらせん軌道型TOFMSの全体構成例を示す図である。図28と同一のものは、同一の符号を付して示す。10はパルスイオン源、15は検出器、50は積層トロイダル電場1、51は積層トロイダル電場2、52は積層トロイダル電場3、53は積層トロイダル電場4である。54は周回軌道面、Y軸は垂直移動方向である。
【0049】
この場合、イオンは周回軌道面に対して入射角をもって入射し、一定の割合で垂直移動方向に進む。その入射角θは、1周回の軌道を周回軌道面に投影させた長さLtと1層あたりの垂直移動距離Lvを用い、
θ=tan−1(Lv/Lt) (4)
と表わすことができる。
【0050】
トロイダル電場は、円筒電場に複数のマツダプレートをLvの間隔で配置すればよく、このような円筒電場と複数枚のマツダプレートの組み合わせを「積層トロイダル」と呼ぶ。図40は積層トロイダル電場を示す図である。図39の積層トロイダル電場1に相当する。55,56は外側電極、57,58は内側電極である。59はシャント、60はマツダプレートである。マツダプレートの数は、一つの積層トロイダル電場あたり、らせん軌道の周回数(層の数)+1個である。図39,図40の場合は、周回数(層の数)が15であり、各積層トロイダル電場は、円筒電場と16枚のマツダプレートにより構成されている。
【0051】
多重周回型TOFMSの場合、トロイダル電場は中心軌道を含み、内外電極面と垂直な面で上下対称である。積層トロイダル電場でこれと同じ状況を実現するためには、全ての回転角の断面において、イオン中心軌道を含み、内外電極と垂直に交わる面に対して、マツダプレートを上下対称かつ平行に配置しなくてはならない。そのためには、マツダプレートは単純な円弧型や楕円型ではなく、ねじ型構造にしなくてはならない。
【0052】
マツダプレートをねじ型構造にした場合、トロイダル電場の全回転角での断面は図41に示すようなものとなる。このモデルは、マツダプレートの中間の線で上下対称である。図41のモデルでは、中心軌道80mmの円筒電場(内側電極面半径72.4mm、外側電極面半径88.4mm、回転角157.1度:MULTUMIIの周回軌道面を1.6倍に拡大)、マツダプレート面の間隔は54mmで、マツダプレートの厚さは6mmを想定した。図41において、55は内側電極、56は外側電極、60はマツダプレートである。このモデルの入射角θは(4)式より以下のように表わされる。
【0053】
θ=tan−1{(54+6)/1308×1.6}=1.642゜ (5)
これを2次元軸対称系で電位及び電場解析すると、図42のようになる。内側電極に−4kV、外側電極に+4kVに設定した場合、c値が0.0337となるマツダプレート電圧は+630Vであった。イオン中心軌道を含むマツダプレートの中間面で対称な場となる。
【0054】
しかしながら、このようなネジ型構造は、加工精度を出すことが困難であり、著しく高価である。そこで、本発明の第5の目的は、加工精度がよく、安価で大量生産可能な円弧型の電極を使用し、ねじ型構造の電極と同等の性能を達成する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0055】
(1)請求項1記載の発明は、1つのイオン源と、該イオン源で生成したイオンをパルス的に加速する手段と、複数の扇形電場で構成されイオンがらせん軌道を描くように飛行させることを特徴とする飛行時間型質量分析計と、2つ以上の検出器とで構成され、1つの検出器では、イオン源での生成、加速したイオンを直進飛行させてイオンの飛行時間を測定し、それ以外の検出器では、複数の扇形電場によりらせん軌道を描くように飛行させたイオンの飛行時間を測定することを特徴とする。
【0056】
(2)請求項2記載の発明は、前記イオン源でのイオン化法が、導電性のサンプルプレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することを特徴とする。
【0057】
(3)請求項3記載の発明は、前記イオン源でのイオン化法がMALDI法であることを特徴とする。
【0058】
(4)請求項4記載の発明は、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴とする。
【0059】
(5)請求項5記載の発明は、請求項21乃至24の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することを特徴とする。
【0060】
(6)請求項6記載の発明は、請求項21から24の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で同時に測定することを特徴とする。
【0061】
(7)請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6のらせん軌道型飛行時間型質量分析計において、1周回毎に空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0062】
(1)請求項1記載の発明によれば、直線型TOFMSとらせん軌道型TOFMSを組み合わせることにより、両方の特徴を生かした測定を可能にすることができる。
【0063】
(2)請求項2記載の発明によれば、サンプルプレート上のサンプルをレーザ照射してイオン化したイオンを質量分析することができる。
【0064】
(3)請求項3記載の発明によれば、MALDI法を用いてイオン化したイオンを質量分析することができる。
【0065】
(4)請求項4記載の発明によれば、遅延引き出し法を用いてイオンを加速することができる。
【0066】
(5)請求項5記載の発明によれば、サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することにより、より多くの情報を得ることができる。
【0067】
(6)請求項6記載の発明によれば、同サンプルから生成したイオン、中性粒子を直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型TOFで分析することにより多くの情報を得ることができる。
【0068】
(7)請求項7記載の発明によれば、請求項1〜6のらせん軌道型TOFMSにおいて、1周回毎に初期位置、初期角度、初期エネルギーによらず、空間収束条件及び時間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用し、時間収束性を保ったまま飛行時間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の構成概念図である。
【図2】本発明の電極の構成例を示す図である。
【図3】1図の矢印方向から装置を見た図である。
【図4】本発明の積層トロイダルを電場端面から見た図である。
【図5】イオン軌道展開図である。
【図6】トロイダル電場の説明図である。
【図7】本実施の形態例で用いられる多重電極プレートの構成例を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態例の動作説明図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態例の動作説明図である。
【図10】第2の発明の構成概念図である。
【図11】イオン源従来の多重周回型質量分析装置の概念図である。
【図12】第1の実施の形態例の動作シーケンスを示す図である。
【図13】第2の発明の一実施の形態例を示す図である。
【図14】第3の発明の一実施の形態例を示す図である。
【図15】第3の発明の他の実施の形態例を示す図である。
【図16】第4の発明の一実施の形態例を示す図である。
【図17】第5の発明の実施の形態例を示す図である。
【図18】円弧型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデル図である。
【図19】ねじ型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデル図である。
【図20】円弧型マツダプレートY軸方向電場解析図である。
【図21】マツダプレートずれRとLocとの関係を示す図である。
【図22】回転角φとLoc´の相関を示す図である。
【図23】回転角φとLocの相関を示す図である。
【図24】回転角φとLoc´,Loc,Loc´+Locの相関を示す図である。
【図25】入射角1.642度、マツダプレートと傾き3.1度の場合の回転角φと Loc´,Loc,Loc´+Locの相関を示す図である。
【図26】直線型TOFMSの動作原理を示す図である。
【図27】反射型TOFMSの動作原理を示す図である。
【図28】多重周回型TOFMSの動作原理を示す図である。
【図29】MALDIイオン源とイオン加速部及び遅延引き出し法概略図である。
【図30】従来の遅延引き出し法を用いたタイムシーケンスを示す図である。
【図31】垂直加速型TOFMSの概念図である。
【図32】MS/MS測定の説明図である。
【図33】TOFMSを直列に接続したMS/MS装置の概念図である。
【図34】同位体ピークの説明図である。
【図35】プロダクトイオンの同位体ピークの説明図である。
【図36】中性粒子の同位体ピークの説明図である。
【図37】プリカーサイオンの同位体ピークの説明図である。
【図38】TOF/TOF装置で複数の同位体ピークを選択することによる弊害の説 明図である。
【図39】らせん軌道型TOFMSの全体構成例を示す図である。
【図40】積層トロイダル電場を示す図である。
【図41】ねじ型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデルを示す図であ る。
【図42】ねじ型マツダプレート電位・電場解析等高線を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は第1の発明の構成概念図で、電極構造を上から見た図である。上から見た図は図28のそれと変わらない。しかしながら、ここで用いる電極は図の垂直方向に電極が多層に形成されている点で図28のそれと異なる(図2参照)。図28と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、10はパルスイオン源、16は該パルスイオン源10からのイオン軌道を調整するためのデフレクタ、17は図に示すように対称に配置された電極である。該電極17で形成される電場をそれぞれ積層トロイダル電場1〜4とする。
【0071】
図2は本発明の電極の構成例を示す図である。17A,17Bは対として動作する第1の電極である。18は電極17A,17Bで構成される空間に設けられた第2の電極である。該第2の電極18は、電極17A,17Bに対してこれと垂直方向に傾けられて取り付けられている。15は最終周回されたイオンを検出する検出器である。図1のA部は、周回開始点であり、周回終点でもある。
【0072】
図3は図1に示す矢印方向から装置を見た図である。図1,図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、17は第1の電極、18は該第1の電極17内にある角度をもって取り付けられた第2の電極である。図の太い実線は積層トロイダル層の端面を示している。破線で示す矢印はイオンの軌道を示す。Aは1周目の始点、Bは2周目始点(1周目終点)、Cは最終周目終点である。
【0073】
このように構成された装置において、パルスイオン源10にてイオンを生成し、パルス電圧発生器で加速する。加速されたイオンは、デフレクタ16で軌道が調整される。この時のイオンの傾き角は、電極18の傾き角に合わせる。ここで、イオンが積層トロイダル電場1に入る直前にパルス状の加速電圧で加速される。この加速電圧で加速された時間をt0とする。積層トロイダル電場1に引き込まれたイオンは、加速電圧により加速され、図に示すように、各積層トロイダル電場1〜4を8の字型に周回しながら、らせん状に下の方に下っていく。そして、最終の積層トロイダル電場1から検出器15に到達する。検出器15に到達した時間をt1とすると、該当イオンの飛行時間はt1−t0となり、経過時間が測定され、質量分析が行なわれる。
【0074】
図5はイオン軌道展開図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図に示すように、積層トロイダル電場1〜積層トロイダル電場4が図に示すように配置されている。パルスイオン源10から出射されたイオンは、続くデフレクタ16で軌道が調整され、積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整される。このように軌道が修正されたイオンは、積層トロイダル電場に入射される。図のA点が1周目の始点になる。
【0075】
積層トロイダル電場1を通過したイオンは、自由空間を通過して積層トロイダル電場2に入る。積層トロイダル電場2を通過したイオンは積層トロイダル電場3に入る。そして、積層トロイダル電場3を通過したイオンは積層トロイダル電場4に入る。積層トロイダル電場4を通過したイオンは、2層目積層トロイダル電場1の開始点Bから積層トロイダル電場1に入り、該電場を通過する。このようにして、らせん状に周回軌道を周回したイオンはN周目の始点Nから積層トロイダル電場1に入射する。そして、積層トロイダル電場4を通過したイオンは、検出器15で検出される。
【0076】
以上説明したように、第1の発明によれば、イオンを垂直方向にらせん軌道を描きながら下降させ、イオンの飛行距離を長くすることで、正確な質量分析を行なうことができる。
【0077】
第1の実施の形態例は、円筒電場内側表面に実現したいトロイダル電場形状に合わせた曲率を層状に付けるようにしたものである。図4は本発明の積層トロイダルを電場端面から見た図で、第1の実施の形態例を示している。(a)が積層トロイダルを電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルを横から見た図である。(b)において、破線はイオンの軌跡である。積層トロイダル電場のX方向の配置は図1に示すものと同じである。
【0078】
(a)に示すように、第1層から第N層までのそれぞれに対して、電極面に図に示すような曲率Rをつける。このように、電極面に曲率Rをつけることにより、形成される電場がこの曲率に合わせて曲率をもつものになり、この結果、電界を通過するイオンの収束性を向上させることができる。
【0079】
ここで、曲率Rをもつ波状の層はY方向に対して傾ける。積層トロイダル電場1と2の空間的な配置は、積層トロイダル電場1から出射したイオンが自由空間(電場1から電場2までの空間)を経て、積層トロイダル電場2の同じ階層に入射できるようにY方向にずらす。以下、積層トロイダル電場3、積層トロイダル電場4も同様にずらす。そして、積層トロイダル電場4を出射したイオンが積層トロイダル電場1の次の階層に入射するように配置する(積層トロイダル電場1〜4の配置は図1に示すそれと同じである)。
【0080】
そして、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速する。加速されたイオンをデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、各積層トロイダル電場1の最上層に入射させるために調整する。最終周回終了後、検出器15でイオンを検出する。
【0081】
この実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
図6は積層トロイダル電場の説明図で、第2の実施の形態例を示している。積層トロイダル電場1〜4の配置は、図1に示すものと同じである。(a)は積層トロイダルで電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルで横から見た図である。図において、22は円筒電場内に設けられた電極である。図中、太い実線は電極、破線はイオン軌道である。電極の代わりに多重極プレートを用いてもよい。図7は本実施の形態例で用いる多重極プレートの構成例を示す図である。図中、23は同心円状電極、24はその端部に設けられた絶縁体プレートである。
【0082】
この実施の形態例では、積層トロイダル電場1〜4は、積層多重極電場により実現する。積層多重極電場は、円筒電場内に絶縁体プレート24上に同心円状の電極(多重極プレート)を複数枚組み込み実現する。この実施の形態例では、必要なトロイダル電場形状を作り出せるように、多重極電場に電圧を印加する。多重極プレート22は、Y方向に対して傾けて構成する。
【0083】
このように構成された装置において、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速させる。次に、イオンの軌道がデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、積層トロイダル電場1の最上部に入射させるように偏向する。そして、各層を8の字状に周回し、最終の層からのイオンを検出器15で検出する。
【0084】
この発明の実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
図8は第1の発明の第3の実施の形態例の動作説明図である。図において、40は連続してイオンを出射する連続イオン源である。この実施の形態例は、連続イオン源40と本発明を組み合わせたものである。41は電極30,31に加速電圧を印加するパルス電圧発生器である。32はイオン溜である。Aは積層トロイダル電場1で、第1層だけを拡大したものである。33は積層トロイダル層の端面、破線の矢印はイオンビームの軌道を示す。積層トロイダル電場としては、前述した実施の形態例1〜3までの何れかを採用するものとする。
【0085】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンをイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30,31に印加されるパルス電圧で加圧する。この時、連続したイオン源40からの輸送運動エネルギーとパルス電圧による加速エネルギーによりイオンは必然的に斜め方向に打ち出される。この傾きを積層トロイダル電場の傾きと一致させる。積層トロイダル電場を周回したイオンは最終的に検出器15で検出される。この実施の形態例では、あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、イオンを検出する。
【0086】
この実施の形態例によれば、積層トロイダル電場で構成される垂直加速型らせん軌道飛行時間型質量分析計を実現することにより、感度向上を実現することができる。
(第4の実施の形態例)
図9は本発明の第4の実施の形態例の動作説明図である。図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の形態例は、図8に示す構成に加えて、イオン溜32から入射されるイオンを更に偏向して角度調整ができるようにしたものである。図において、50は入射されるイオンの角度を調整するために設けられたデフレクタである。該デフレクタは、積層トロイダル電極の傾き角と打ち出されたイオンの傾きが異なる場合に、イオンの傾き角を積層トロイダル電極の傾き角に合わせるように動作する。
【0087】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンを加速方向と直交するようにイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30,31からのパルス電圧で加圧する。この時、パルス電圧より得た速度と連続イオン源40からの輸送速度により、イオンは必然的に軌道面に対して図に示すように斜めに飛行する。この傾きを角度調整用のデフレクタ50で更に調整する。この結果、イオンは積層トロイダル電場1の傾きに合わせた角度で入射される。積層トロイダル電場を周回したイオンは最終的に検出器15で検出される。あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、イオンを検出する。
【0088】
この実施の形態例によれば、デフレクタにより積層トロイダル電場に入射するイオンビームを調整することができる。
図10は第2の発明の構成概念図、図11はイオン源及びイオン加速部を示す図である。図10において、図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図11において、図29と同一のものは、同一の符号を付して示す。サンプルプレート20上に、マトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)に試料を混合溶解させて固化したサンプル30を乗せる。そして、該サンプル30の状態が観察できるように、レンズ2、ミラー25、CCDカメラ27を配置している。
【0089】
レンズ1、ミラー24、によりレーザをサンプル30に照射し、サンプルを気化あるいはイオン化する。MALDIイオン源19より生成されたイオンは、加速電極1,2に印加された一定電圧により加速され、図10に示す同一周回型TOFMSに導入される。一般的なTOFMSでは、飛行時間測定のため、パルス電圧により生成したイオン群をパルス化する必要があるが、レーザ照射自体がパルス的に行われるため、第2の発明では必要がない。飛行時間計測の開始トリガはレーザからの信号を用いる。
【0090】
同一軌道型TOFMSは、扇形電場1から4により構成される。イオンの入射は、扇形電場4を、出射は扇形電場1をオフにすることにより行なう。1回の飛行時間測定のシーケンスを図12に示す。図12は第1の実施の形態例の動作シーケンスを示す図である。(a)はレーザ、(b)は扇形電場1、(c)は扇形電場4、(d)は飛行時間測定をそれぞれ示している。
【0091】
扇形電場1,4の電圧切り替えは、レーザからの信号を基準とする。扇形電場4の電圧は、イオン入射時にオフにしてイオンを入射させ、周回中はオンになっている。扇形電場1の電圧は、周回時オンであり、オフにするとイオンは検出器15に向かって飛行する。質量分解能に関係する周回数は、扇形電場1をオンにする時間を調整することにより変更可能である。
【0092】
このように第1の実施の形態例によれば、多重周回型TOFMSを用いることにより、遅延引き出し法を小型・高質量分解能のMALDI−TOFMSを提供することができる。また、同一軌道を多重周回することで、イオンの飛行距離をかせぐことができる。
(第2の実施の形態例)
図13は第2の発明の一実施の形態例を示す図である。図10と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)は装置をY方向から見た図、(b)は(a)の下図→方向から見た図である。サンプルプレート20(図11参照。以下、同様)上に、マトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉等)に試料を混合溶解させて固化したサンプル30を乗せる。サンプル30の状態が観察できるようにレンズ2、ミラー25、CCDカメラ27を配置している。
【0093】
レンズ1、ミラー24によりレーザ光をサンプル30に照射し、サンプルを気化あるいはイオン化する。生成したイオンは、加速電極21,22に印加された電圧により加速され、らせん軌道型TOFMSに導入される。一般的なTOFMSでは、飛行時間測定のために、パルス電圧により生成したイオン群をパルス化する必要があるが、レーザ照射自体がパルス的に行われるため、本発明では必要ない。飛行時間計測の開始トリガはレーザからの信号を用いる。
【0094】
らせん軌道型TOFMSは、扇形電場1〜4により構成される。扇形電場に対して角度を持たせてイオンを入射させるため、扇形電場1〜4を順次通過した後、軌道が周回軌道面(XZ面)に対して垂直方向(Y方向)にずれる。周回数は、イオン源かららせん軌道型TOFMSに入射する角度と扇形電場のY方向の長さにより決まる。そして、最後の周回を終えた後、検出器15に到達する。
【0095】
この実施の形態例によれば、イオンをらせん軌道を描くように飛行させることでイオンの飛行距離をかせぐことができ、しかもイオンの追い越しが発生しない。
以上、説明した第2の発明の実施の形態例によれば、遅延引き出し法を使用することなく、MALDI法に代表されるレーザ脱離イオン化法を用いた質量分析法において、広質量範囲で高質量分解能、高質量精度の測定が可能となる。
【0096】
図14は第3の発明の第1の実施の形態例を示す図である。図10と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)は装置をZ方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。図において、19はMALDIイオン源、19aはデフレクタ、15aはイオンを検出する第1のイオン検出器(以下、イオン検出器1という)、52はイオン検出器1を通過したイオンを受けて、プレカーサイオンを選択するイオンゲート、53はイオンを開裂させる衝突室、54は開裂したイオンが入射される反射場、15は反射場54を反射したイオンが検出される検出器(以下、イオン検出器2という)である。イオン検出器1は(b)に示すように移動が可能である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0097】
MALDIイオン源19にてサンプルをイオン化し、パルス電圧にて加速する。ここまでは、従来技術と同様である。MALDIイオン源19から出射したイオンは、デフレクタ19aにより角度調整がされ、扇形電場1に入射する。イオンは、扇形電場1〜4を順次通過し、1周回する。この時、Z方向の位置が前周回とずれているため、周回を重ねながら、Z方向に移動していく。
【0098】
MS測定の場合は、軌道上に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、イオン検出器1をイオン軌道から外し、イオンを直進させ、イオンゲート52に向かって飛行させる。イオンゲート電圧がオフの時、イオンはイオンゲート52を通過でき、オンの時は通過できない。
【0099】
最終周回を終えたイオンの中で選択したいプリカーサイオンが通過する時間のみイオンゲート52をオフにし、プリカーサイオンの特定の同位体ピークを選択する。選択されたプリカーサイオンは、衝突室53に進入して内部の衝突ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかったプリカーサイオン及び開裂生成したプロダクトイオンは、反射場54を通過し、検出器2にて検出される。反射場54を折り返す時間は、イオンの質量及び運動エネルギーにより異なるので、プリカーサイオンと各開裂経路のプロダクトイオンを質量分析することができる。また、この実施の形態例によれば、同位体ピークの影響を排除することができ、解釈が簡単になり、質量分析精度を向上させることができる。
【0100】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、イオン源でのイオン化法が、導電性のサンプルレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することができる。これによれば、MALDI法でイオン化したイオンを分析することができる。
【0101】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、イオン源でのイオン化法がMALDI法であるようにすることができる。これによれば、MALDI法でイオン化したイオンを分析することができる。
【0102】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることができる。これによれば、中間収束点での時間収束性を向上させることができ、質量分析の精度を高めることができる。
【0103】
図15は第3の発明の他の実施の形態例を示す図である。図14と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)の矢印方向から見た図である。図において、57はイオン源、58はイオン輸送部、59は垂直加速部、60はデフレクタである。他の構成は、図14と同様である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0104】
イオン源57にてサンプルをイオン化し、イオン輸送部58により垂直加速部59に輸送する。ここまでは、従来技術と同じである。垂直加速部59から出射したイオンは、デフレクタ60により角度調整がなされ、扇形電場1に入射する。イオンは扇形電場1〜4を順次通過し、1周回する。この時、Y方向の位置が前周回とずれているため、周回を重ねながらZ方向に移動していく。
【0105】
MS測定の場合は、軌道上に配置したイオン検出器1を使用してイオンを検出する。MS/MS測定の場合は、イオン検出器1をイオン軌道から外し、イオンを直進させ、イオンゲート52に向かって飛行させる。イオンゲート電圧がオフの時、イオンはイオンゲート52を通過でき、オンの時は通過できない。最終周回を終えたイオンの中で選択したいプリカーサイオンが通過する時間のみイオンゲートをオフにし、プリカーサイオンの特定の同位体ピークを選択する。
【0106】
選択されたプリカーサイオンは、衝突室53に進入し内部の衝突ガスとの衝突で開裂する。開裂しなかったプリカーサイオン及び開裂したプロダクトイオンは、反射場54を通過し、イオン検出器2にて検出される。反射場54を折り返す時間は、プリカーサイオンの質量及び運動エネルギーにより異なるので、プリカーサイオンと各開裂経路のプロダクトイオンを質量分析することができる。
【0107】
この実施の形態例によれば、イオンをらせん軌道で飛行させることにより、プレカーサイオンの選択性の高い質量分析を行なうことができる。
また、第3の発明の実施の形態例によれば、開裂させる手段が、衝突室にガスを充填して行なうCID法であるようにすることができる。この実施の形態例によれば、イオンの開裂を効率よく行なうことができる。
【0108】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、前述したような飛行時間型質量分析計を使用し、らせん軌道型飛行時間型質量分析計にてプリカーサイオンのある特定の同位体ピークのみを選択するようにすることができる。この実施の形態例によれば、プリカーサイオンのある特定の同位体ピークのみを選択することができる。
【0109】
また、第3の発明の実施の形態例によれば、ある特定の同位体ピークが、プリカーサイオンのモノアイソトピックイオンであるようにすることができる。この実施の形態例によれば、特定の同位体ピークがプリカーサイオンのモノアイソトピックイオンであることにより、質量分析を正確に行なうことができる。
【0110】
以上、説明した第3の発明によれば、第1TOFMSにらせん軌道型TOFMSを用いることにより、プリカーサイオンの選択性を従来技術よりも向上させ、モノアイソトピックイオンを選択することができる。その結果、TOF/TOF装置において、プロダクトイオンのスペクトルの解釈が簡単になり、質量精度も向上させることができる。
【0111】
図16は第4の発明の一実施の形態例を示す図である。(a)は装置をY方向に見た図、(b)は(a)図の矢印方向から見た図である。図において、57はMALDIイオン源、15aはイオン検出器1、17は扇形電場1〜4である。(a)において、Eは周回部始点及び終点である。(b)において、太い破線は直線型TOFMS、細い破線はらせん軌道型TOFMSのイオンの軌跡を示している。15はイオンの最終回を検出するイオン検出器2である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0112】
MALDIイオン源57にてイオンを生成し、遅延引き出し法を用いてパルス的に加速する。ここまでは、従来技術と同様である。イオン検出器1は、直線型TOFMS用の検出器である。直線型TOFMSとして測定する場合、扇形電場1及び4の電圧をオフにし、イオンを直進させ、イオン検出器1で検出させる。
【0113】
らせん軌道型TOFMSとして測定する場合、扇形電場1及び4の電圧をオンにする。イオンはらせん軌道を描き飛行し、イオン検出器2に到達する。それぞれの場合で、パルス電圧印加開始時間とイオン検出器1及び2への到達時間が質量により違うことから質量分離を行なう。
【0114】
第4の発明によれば、直線型TOFMSとらせん軌道型TOFMSを組み合わせることで、両方の特徴を生かした測定を可能にすることができる。
第4の発明の実施の形態例によれば、導電性のサンプルプレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することができる。このようにすれば、サンプルプレート上のサンプルをレーザ照射によりイオン化し、分析することができる。
【0115】
また、第4の発明の実施の形態例によれば、イオン源でのイオン化法としてMALDI法を用いることができる。このように構成すれば、MALDI法でイオン化したイオンを分析することができる。
【0116】
また、第4の発明の実施の形態例によれば、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることができる。このようにすれば、遅延引き出し法を用いて中間収束点での時間収束性を向上させることができる。
【0117】
また、第4の発明の実施の形態例によれば、前記装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することができる。このように構成すれば、サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することで、質量分析の測定の精度を向上させることができる。また、第4の発明の実施の形態例によれば、前記装置を使用し、同サンプルを直線型、らせん軌道型TOFMSで同時に測定することができる。この場合、らせん軌道型TOFMSでは開裂しなかったイオンを測定し、直線型TOFMSでは途中で開裂し生成した中性粒子を測定する。
【0118】
次に、第5の発明について説明する。第5の発明の外観構成は、図39と同様である。ただし、マツダプレートは円弧型である。構成要件は、パルスイオン源、積層トロイダル電場1〜4とイオン検出器である。図17は第5の発明の実施の形態例を示す図で、積層トロイダル電場のある1層の図を示している。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0119】
第5の発明によれば、パルスイオン源にて同じ運動エネルギーで加速されたイオン群を、その速度が質量により異なることを利用して検出器に到達する時間の違いにより質量分離する。イオン源を出射したイオン群は積層トロイダル電場第1層にある入射角をもって入射し、順次積層トロイダル電場2〜4の第1層を通過する。1周回したイオンは、入射角に応じて第1層よりも垂直移動方向にずれた位置を通過する。このように、順次積層トロイダル電場1〜4の1層から15層目までも通過し検出器で検出される。
【0120】
第5の発明の実施の形態例の装置概略図は、ほぼ従来の技術のものと同じであるが、マツダプレートにねじ型電極ではなく、円弧型電極を用いる。積層トロイダル電場の各層に形成されるトロイダル電場は、それを構成するマツダプレートが、ねじ型電極か円弧型電極により異なる。以下にその違いを説明し、円弧型電極を用いた場合どのように配置すればよいかを述べる。以下では、従来技術で説明したモデルを基にして、中心軌道80mmの円筒電場(内側電極面半径72.4mm、外側電極面半径88.4mm、回転角157.1度、MULTUM11の周回軌道面を1.6倍に拡大)にマツダプレート面の間隔は54mmで厚さは6mmの円弧型マツダプレートを入れ込むことを想定する。また、電圧も内側電圧−4kV、外側電極+4kV、マツダプレート電圧+630Vを想定した。
【0121】
それぞれのマツダプレートは回転角の中間面(電極端面から78.55度の面)とマツダプレート厚さの中間面の交線であるマツダプレート回転軸でイオンの入射角だけ傾ける。次に、マツダプレート回転軸に垂直な面である投影面Aを想定する。積層トロイダル電場は、円筒電場内に円弧型電極を複数枚平行に傾けて配置する。図17は、1つの積層トロイダル電場のある1層を形成する2つのマツダプレートを周回軌道面と後述の投影面Aに投影させた図である。この面Aは、周回軌道面と垂直になる。円弧型電極を傾けているので、投影面Aに投影されるマツダプレートのトロイダル電場を形成する面は直線になる。
【0122】
ここで、図17のように円筒電場の回転角の中間面(電極端面から78.55度の面)を基準に回転角φを定義する。以下では、φが正の場合(即ち電極の片側半分)を例にイオンの中心軌道と、円筒電極を用いた場合のイオンの中心軌道なるべき位置ずれを検証するが、φが負の場合には、そのずれが正の場合と極性が逆になる。また、8の字型の軌道では、積層トロイダル電場1と4を順回転すると、積層トロイダル電場2と3は逆回転であるが、逆回転の場合は順回転の場合に対して位置のずれの極性が逆になる。
【0123】
最後にφ=0度におけるマツダプレート中間を通り、周回軌道面に平行な面Bを定義する。マツダプレートに円弧型電極とねじ型電極を用いた場合で、円筒電極端面での中心軌道80mm線上のマツダプレートの中間位置が一致するための円弧型電極の傾きを考える。入射角1.642度の場合、端面でのイオン中心軌道と面Bとの距離Lfは、
Lf=2×80×π×(78.55/360)×tan1.642=3.144(mm)
である。図17から中心軌道は80mmであるので、円弧型電極の傾きθaは、
θa=tan−1(3.144/80)=2.25(度)
となる。
【0124】
円弧型電極を傾ける場合、中心軌道までの距離は回転角φにより異なる。φ=0度の場合は80mmであるが、端面(φ=±87.55度)では、最大80.06mm=80/cos2.25である。この違いは、回転角φによるマツダプレートと電極間の違いや、マツダプレート間距離に影響するが、入射角が十分小さい場合、この違いは非常に小さいため無視できる。
【0125】
図17からある角度φにおいては、マツダプレート面と面Bの距離は内線と外側で異なることが分かる。即ち、φ=0度以外では、マツダプレートと円筒電極のなす角度が直角ではなく、図18のようなモデルで表される断面となる。図18は、円弧型マツダプレート使用時の任意の回転角での断面モデル図である。図において、70(+630V),71はマツダプレート、72は内側電極(−4kV)、73は外側電極(+4kV)である。
【0126】
ただし、マツダプレートと内側及び外側電極に1mm程度の間隔ができるようにマツダプレートの幅を14mmに設定した。ある断面における円筒電場面と平行な外側と内側の差Kは、マツダプレートTmp(=14mm)、マツダプレートの傾きをθmp(=2.25度)、回転角をφとすると、
K=Tmp×tanφ×sinθmp=0.40×tanφ (6)
と表される。図18のモデルを元に、Kを0.1mmずつ変更し、トロイダル電場内の垂直移動方向の電場(EY)解析を行なった。
【0127】
図19のねじ型電極モデル同様、図18のモデルを2次元軸対称系で計算したものである。実際は軸対称ではないが、電位及び電位分布の傾向はつかめる。その結果を図20に示す。先ず、ある角度φの断面で、イオン中心軌道半径80mmの線上でマツダプレートの中間に位置する点を中間点Cと定義した。電場は、EY=0となる線は、周回軌道にほぼ平行であり、Y方向の電場はEY=0の線でほぼ対称であった。
【0128】
しかしながら、EY=0の線は、中間点Cとはずれた位置にあった(図20参照)。cとc´の距離をLcc´とし、Rとの相関を調べたところ、ほぼRに比例し、その係数は2であった。図21はマツダプレートずれRとLoc´との関係を示す図である。
【0129】
イオンの中心軌道は、従来技術で説明したように、Y軸方向に対称な位置であるべきであり、それはEY=0となる線とイオン中心軌道半径80mmの線が交差する点c´と考えてよい。図21の関係を基に、マツダプレートの傾きが2.25度の場合の回転角φとLoc´の関係を図22に示す。図22は、回転角φとLoc´の関係を示す図である。縦軸はLoc´、横軸は回転角φである。
【0130】
次に、ある回転角φにおけるマツダプレートの中間点cと中心軌道位置とのずれを検証する。イオンは常に周回軌道面に対して入射角と同じ傾きで運動するので、中心軌道は回転角に比例する。そのため、面Bからの距離Loは、
Lo=−Lf×φ/φf (7)
である。ただし、φfは端面での回転角φ(157.1/2=78.55)であり、Lfは電極の端面での中心軌道位置
(=(2×80×π×78.55/360)×tan1.642)である。そのため、今回の場合
Lo=((2×80×π×78.55/360)×tan1.642)
×φ/78.55
=−0.04φ
となる。
【0131】
これに対して、中間点Cの面Bからの距離Lcは、図17に示すように中間点Cを結んだ線を面Aに投影すると直線になり、更に端面での位置は中心軌道とほぼ同じになるので、
Lc=−Lf×sinφ/sinφf (8)
となる。よって、
Lp=((2×80×π×78.55/360)×tan1.642)×
sinφ/sin78.55
=−3.208sinφ
となる。回転角φとマツダプレート中間点Cと中心軌道のずれLoc(=Lc−Lo)を図23に示す。図23において、縦軸はLocを、横軸は回転角φを示す。
【0132】
さて、Loc´とLocを足し合わせたものが、ある回転角φの断面におけるイオン中心軌道半径80mmの線上でのEY=0となる点と実際のイオン中心軌道とのずれとなる。それを図24に示す。図24において、縦軸は距離(mm)、横軸は回転角φ(度)である。回転角度が40度程度までは、Loc´とLocが相殺するため、ずれは小さいが、40度を超えたあたりから回転角φの増加に伴ってずれが大きくなる。
【0133】
このずれを全て相殺することはできないが、マツダプレートの傾きを入射角とは変えることにより、平均的に小さくすることはできる。イオンの入射角は、1.642度のままで、マツダプレートの傾きを3.1度に設定した場合の回転角φとLoc´とLocとの相関を図25に示す。図25において、縦軸は距離(mm)、横軸は回転角φである。この場合、中心軌道の位置であるべきEY=0を回転角毎に結んだ線の中心軌道からずれが±0.3mm以内に入っており、総合的にみて影響は小さいと考えられる。
【0134】
今回のモデルでは、周回軌道面に対する入射角が1.642度であるのに対して、マツダプレートの傾きは周回軌道面から3.0度程度にするとよいと考えられる。しかしながら、基となる周回軌道が異なると、マツダプレートを傾けるべき角度は変わるので、それぞれの系に合わせてマツダプレートの傾きを最適化すればよい。
【0135】
以上、詳細に説明したように、第5の発明によれば、加工精度がよく、安価で大量生産可能な円弧型電極を使用した積層トロイダル電場を用いて、らせん軌道型TOFMSを実現することができる。
【0136】
また、第5の発明において、上記要件を満たし、イオンの入射角が1.0度から2.5度の範囲でマツダプレートの角度を最適化することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのイオン源と、
該イオン源で生成したイオンをパルス的に加速する手段と、
複数の扇形電場で構成されイオンがらせん軌道を描くように飛行させることを特徴とする飛行時間型質量分析計と、
2つ以上の検出器とで構成され、1つの検出器では、イオン源での生成、加速したイオンを直進飛行させてイオンの飛行時間を測定し、
それ以外の検出器では、複数の扇形電場によりらせん軌道を描くように飛行させたイオンの飛行時間を測定することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記イオン源でのイオン化法が、導電性のサンプルプレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することを特徴とする請求項1記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
前記イオン源でのイオン化法がMALDI法であることを特徴とする請求項2記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴とする請求項2又は3記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することを特徴とする飛行時間型質量分析方法。
【請求項6】
請求項1から4の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で同時に測定することを特徴とする飛行時間型質量分析方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のらせん軌道型飛行時間型質量分析計において、1周回毎に空間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項1】
1つのイオン源と、
該イオン源で生成したイオンをパルス的に加速する手段と、
複数の扇形電場で構成されイオンがらせん軌道を描くように飛行させることを特徴とする飛行時間型質量分析計と、
2つ以上の検出器とで構成され、1つの検出器では、イオン源での生成、加速したイオンを直進飛行させてイオンの飛行時間を測定し、
それ以外の検出器では、複数の扇形電場によりらせん軌道を描くように飛行させたイオンの飛行時間を測定することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記イオン源でのイオン化法が、導電性のサンプルプレート上のサンプルをレーザ照射しイオン化することを特徴とする請求項1記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
前記イオン源でのイオン化法がMALDI法であることを特徴とする請求項2記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴とする請求項2又は3記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で交互に測定することを特徴とする飛行時間型質量分析方法。
【請求項6】
請求項1から4の装置を使用し、同サンプルを直線型飛行時間型質量分析計、らせん軌道型飛行時間型質量分析計で同時に測定することを特徴とする飛行時間型質量分析方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のらせん軌道型飛行時間型質量分析計において、1周回毎に空間収束条件を完全に満たすことのできるイオン光学系を採用することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【公開番号】特開2011−181504(P2011−181504A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86863(P2011−86863)
【出願日】平成23年4月9日(2011.4.9)
【分割の表示】特願2005−131106(P2005−131106)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月9日(2011.4.9)
【分割の表示】特願2005−131106(P2005−131106)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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