説明

食品の粘着防止剤

【課題】食品の味および外観に影響を与えず、かつ食品同士あるいは食品と容器との粘着を効果的に抑制する、食品の粘着防止剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、モモ樹脂からなる食品の粘着防止剤を提供する。本発明の粘着防止剤は、食品同士あるいは食品と容器との粘着を効果的に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の粘着を防止するために用いられる粘着防止剤、および該粘着防止剤を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミール・ソリューション、ホーム・ミール・リプレイスメントなどの観点から、加工米飯類、ゆで麺などの調理済み食品が注目されている。しかし、調理済み食品においては、製造時に加熱されること、および調理完了後、消費者が食するまでに時間がかかることなどにより種々の問題が生じる。
【0003】
例えば、麺類、特に茹で麺の場合、製麺して得られた麺線を水分と共に加熱することにより、麺線中に含まれるβ型の澱粉がα化されて可食状態にされる。このα化された澱粉は糊状を呈し、粘着性の強い状態となる。さらに時間の経過に伴って、麺線の表面の水分が、蒸発するあるいは麺線中に吸収されることによって減少するので、麺線表面の粘着力がより強くなる。さらに、低温での流通過程において澱粉の老化も進行するため、麺線表面の組織の柔軟性も失われる。そのため、麺線同士が粘着して団子状になる、団子状の麺線をほぐすのに手間がかかる、麺線が切れやすくなる、湯戻しに時間がかかる、湯戻しの時に加熱ムラを生じるなどの状態を引き起こし、食味を低下させるという問題がある。このような麺線同士の粘着は、即席麺類においても問題となる。即席麺類の製造においても、加熱により麺線中の澱粉がα化することによって麺線の粘着性が高まる。そのため、その後の成型工程および熱風乾燥または油揚げして水分を除去する工程の作業性が著しく低下する。さらに、麺線同士が付着したまま製品化されると、湯戻しした際に麺同士のほぐれ性が悪くなる。また、例えば、加工米飯(例えば、焼飯、ピラフなど)、団子などにおいても、時間の経過により食品同士が粘着するという問題がある。
【0004】
このような食品同士の粘着を防止するために、種々の食品の粘着防止剤が提案されている。例えば、特許文献1には、ゆで蕎麦、葛きり麺などの麺類の表面をアラビアガムでコーティングすることにより、冷蔵保存後においても麺同士の粘着が防止できることが開示されている。しかし、この方法を用いても、十分な粘着防止性が得られない場合がある。
【0005】
特許文献2には、炊飯水にポリフラクタン(イヌリンタイプの多糖)を添加して得られる白飯が、無添加白飯に比べて、米飯表面の粘着性が減少することが記載されている。しかし、この白飯は、ポリフラクタンの含有量が多く、さらに粘着減少効果が弱い。そのため、実用レベルとしては不十分である。
【0006】
このように、食品同士の粘着を効果的に防止する粘着防止剤が得られていない状況下において、本出願人は、すでに、油脂と、増粘多糖類と、水溶性ヘミセルロースとを乳化して得られる乳化物(特許文献3)およびこれらの各成分を特定割合で乳化して得られる乳化物(特許文献4)が優れたほぐれ改良剤として利用できることを提案している。これらの乳化物は、麺線同士の粘着を効果的に抑制し、つけ汁につけても油膜の形成を生じない。さらに、長期保存しても乳化状態が安定に保持されている。しかし、これらの麺ほぐれ剤は、若干粘度が高く、取り扱いにくい場合がある。さらに、麺以外の食品に対しても優れた粘着防止剤が望まれている。
【特許文献1】特許第3479575号明細書
【特許文献2】特開平6−133709号公報
【特許文献3】特開2003−265128号公報
【特許文献4】特開2005−13135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、食品の味および外観に影響を与えず、かつ食品同士あるいは食品と容器との粘着を効果的に抑制し得る、食品の粘着防止剤、および該粘着防止剤を含有する食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、モモ樹脂を用いることによって、食品同士あるいは食品と容器との粘着防止に優れた効果を発揮することを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の食品の粘着防止剤は、モモ樹脂からなる。
【0010】
本発明の食品の粘着防止剤はまた、モモ樹脂と、油脂と、水とを含む乳化物からなる。
【0011】
本発明の食品は、上記粘着防止剤を含む。
【0012】
ある実施態様においては、上記食品は、穀粒、穀粉、および澱粉からなる群より選択される少なくとも1種を主成分として含む。
【0013】
ある実施態様においては、上記食品は、麺類または米飯である。
【0014】
ある実施態様においては、上記食品は、動物性蛋白質または植物性蛋白質を主成分として含む。
【0015】
ある実施態様においては、上記麺類は、即席麺類である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の食品の粘着防止剤は、モモ樹脂からなる。このモモ樹脂は、食品同士あるいは食品と容器との粘着防止に優れた効果を発揮する。さらに、上記モモ樹脂と、油脂とを乳化して得られる乳化物もまた、優れた食品の粘着防止効果を有し、油脂を使用しているにもかかわらず、麺類のつけ汁あるいは出し汁などの水性液状物と接触した場合にも、油膜(油浮き)が少ないという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の食品の粘着防止剤に用いられるモモ樹脂は、バラ科モモ(Prunus persica BATSCH)の樹液から分離して得られる多糖類またはその加水分解処理物である。樹液からのモモ樹脂の分離方法および加水分解方法は、当業者が通常用いる方法で行われる。モモ樹脂は、アラビノースおよびガラクトースを主な構成糖として含む。モモ樹脂の水溶液は、粘度が他の増粘多糖類に比べて低く、pHは約5〜7である。モモ樹脂は単独で乳化作用を有することから、通常、乳化剤として用いられている。
【0018】
本発明の食品の粘着防止剤は、モモ樹脂からなる。この粘着防止剤は、モモ樹脂自体をそのまま用いてもよいが、モモ樹脂を水に溶解した水溶液、モモ樹脂と油脂と水とを混合した乳化物、該乳化物をさらに噴霧乾燥などの当業者が通常行う乾燥方法を用いることによって得られる粉末(乳化物粉末)などの形態で用いてもよい。モモ樹脂の水溶液または乳化物を調製する場合、モモ樹脂の含有量に特に制限はない。水溶液または乳化物中にモモ樹脂が0.05〜50質量%含まれることが好ましい。0.1〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、そして5〜10質量%がさらに好ましい。モモ樹脂が0.05質量%未満の場合、粘着防止効果が不十分となる場合がある。50質量%を超える場合、十分な粘着防止効果は得られるものの、粘度が高くなるため粘着防止剤の取り扱いが困難になる場合がある。
【0019】
本発明の食品の粘着防止剤において、モモ樹脂を、油脂と混合した乳化物の形態で用いる場合、油脂の種類に特に制限はない。例えば、サフラワー油、綿実油、大豆油、ごま油、オリーブ油、ヤシ油などの植物性油脂(植物油);豚脂、牛脂、魚油、鯨油などの動物性油脂;またはそれらに水素添加した硬化油などが挙げられる。これらの油脂は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。特に、うどん、そばなどの場合、食味への影響を避けるため、油脂の風味の強い調味油などは避けたほうがよい。
【0020】
上記乳化物中の油脂の含有量は特に制限されない。好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%である。油脂が0.01質量%未満の場合、粘着防止効果が不十分となる場合がある。油脂が30質量%を超える場合、乳化が不十分となり、得られる食品が油脂によりべたつく場合がある。
【0021】
上記乳化物は、優れた粘着防止効果を得る観点から、さらにモモ樹脂と油脂との質量比は1:100〜20:1が好ましく、1:10〜20:1がより好ましく、そして1:1〜20:1がさらに好ましい。
【0022】
上記乳化物は、乳化安定性をさらに高める目的で、モモ樹脂以外の乳化剤を含んでもよい。この乳化剤は、例えば、脂肪酸エステルなどの化学合成物由来の乳化剤であってもよく、加工澱粉、デキストリン、レシチン、動植物蛋白質などの天然物由来の乳化剤であってもよい。
【0023】
上記脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセリン酢酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0024】
上記乳化剤の量は、油脂およびモモ樹脂の量に応じて適宜設定され得る。好ましくはモモ樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部である。
【0025】
上記乳化物は、例えば、モモ樹脂、油脂、水、および必要に応じてモモ樹脂以外の乳化剤を混合し、乳化機、ホモミキサーなどの当業者が通常用いる乳化装置を用いることによって得られる。
【0026】
本発明の食品の粘着防止剤は、食品同士あるいは食品と容器との粘着を効果的に防止する。本発明の粘着防止剤は、例えば、穀粒、穀粉、および澱粉からなる群より選択される少なくとも1種を主成分として含む食品、あるいは動物性蛋白質または植物性蛋白質を主成分として含む食品に適用される。
【0027】
上記穀粒、穀粉、および澱粉からなる群より選択される少なくとも1種を主成分として含む食品としては、例えば、麺類、米飯、団子状食品、シート状食品などが挙げられる。麺類としては、例えば、うどん、きしめん、日本そば、中華麺、素麺、パスタなどの小麦粉またはそば粉を主成分とする麺類、春雨などの緑豆澱粉を主成分とする麺類、およびビーフンなどの米粉またはジャガイモなどに由来する澱粉を主成分とする麺類が挙げられる。米飯としては、白飯、ピラフ、焼飯、およびおこわが挙げられる。団子状食品としては、例えば、わらび餅、かしわ餅などの餅類、および白玉団子が挙げられる。シート状食品としては、例えば、餃子の皮およびワンタンが挙げられる。なお、上記シート状食品に具材を包んだ食品、例えば、餃子、シュウマイなどについても、本発明の粘着防止剤が適用されることはいうまでもない。
【0028】
上記動物性蛋白質または植物性蛋白質を主成分として含む食品としては、例えば、焼豚、鶏のほぐし身、ミートボールなどの加工畜肉食品(レトルト食品またはその具材も含む)およびハム、ソーセージ、サラミ、蒲鉾、竹輪などの練り製品が挙げられる。
【0029】
これらの食品は、例えば、常温流通される調理済み食品(市販弁当の具材など)、乾燥食品(即席麺類など)、冷蔵食品(チルド食品)、冷凍食品などとして利用される。なお、即席麺類は、小麦粉またはそば粉を主原料とする乾燥麺類のことであり、通常、原料を混練し、麺線に加工する工程(製麺工程)、麺を水分と共に加熱する工程(蒸し工程)、容器に入るように麺線を適当な形、大きさに成型する工程(成型工程)、および水分除去工程を経て製造される。水分除去工程において、油揚げにより水分を除去した麺をフライ麺、熱風乾燥により水分除去した麺をノンフライ麺、凍結乾燥により水分除去した麺をフリーズドライ麺などという。この即席麺類は、例えば、麺を茹でる、炒める、または湯戻しすることによって簡便に食することができる。
【0030】
本発明の食品の粘着防止剤の使用方法は、特に制限されない。例えば、食品原料に予め上記粘着防止剤を練り込んでもよいし、あるいは食品を上記粘着防止剤でコーティングしてもよい。食品を上記粘着防止剤でコーティングすることが好ましい。コーティングは、例えば、食品に上記粘着防止剤を塗布、滴下、または噴霧することによって行われる、あるいは食品を上記粘着防止剤の水溶液または乳化物に浸漬し、水切りすることなどによって行われる。例えば、加熱食品(茹でる、蒸す、炊く、炒めるなどの加熱調理される加工食品)の場合、加熱調理前に予め上記練り込むことまたはコーティングすることにより使用するか、あるいは加熱処理後にコーティングすることにより使用し得る。即席麺類(ノンフライ麺およびフライ麺)の場合、食品原料に予め粘着防止剤を練り込んで製麺するか、あるいは製麺した麺線を蒸す前、あるいは蒸した後に粘着防止剤でコーティングすることにより使用される。即席麺類は、得られた麺線を、その後、必要に応じて蒸し、成型し、そして水分を除去することによって製造される。粘着防止剤によるコーティングは、製麺した麺線を蒸した後で、かつ水分を除去する前に行うことが好ましい。冷凍食品の場合は、食品に予め粘着防止剤を練りこむことまたはコーティングすることにより使用し、その後冷凍する、あるいは冷凍食品を解凍した後に、上記の塗布、滴下、噴霧、浸漬などの処理を行うことにより使用する。
【0031】
食品原料に本発明の粘着防止剤を練り込む場合、原料100質量部に対して、モモ樹脂量として好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部の割合となるように使用する。
【0032】
食品に上記粘着防止剤をコーティングする場合、モモ樹脂の水溶液、あるいは乳化物が好ましく用いられる。水溶液の場合、コーティングに際して、食品100質量部に対して、モモ樹脂量として好ましくは0.0015質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、さらに好ましくは0.015質量部以上となるように使用する。あるいは好ましくは5質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下となるように使用する。具体的には、モモ樹脂を0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上含有する水溶液を、食品100質量部に対して3質量部以上、好ましくは10質量部以上噴霧する。食品をモモ樹脂含有水溶液に浸漬させる場合は、目安として、モモ樹脂を0.025質量%以上含有する水溶液を用いれば、上記のモモ樹脂量で食品(約100質量部)をコーティングすることができる。乳化物の場合、安定な乳化物を得る観点から、食品100質量部に対して、モモ樹脂量として好ましくは0.003質量部以上、より好ましくは0.015質量部以上、さらに好ましくは0.15質量部以上、最も好ましくは0.3質量部以上となるように使用する。あるいは好ましくは5質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下となるように使用する。食品をコーティングするための乳化物の具体的な噴霧量または浸漬量は、上記水溶液の場合と同じである。モモ樹脂を乳化物として用いると、水溶液として用いる場合よりも低濃度で優れた粘着防止効果を発揮することがある。
【0033】
本発明の食品の粘着防止剤は、優れた粘着防止効果を有する。したがって、例えば、食品工場、レストラン、スーパーのバックヤード、家庭での調理時において、食品のハンドリング性の向上の目的で用いられる。これによって食品同士または食品と容器との粘着が抑制され、作業効率が改善される。特に、即席麺類の場合、麺に粘着性が生じた後に、さらに成型および水分除去などの工程を経ることになるため、これらの工程において麺同士の付着が防止され、作業性が容易になることは大きな利点である。さらに得られる即席麺類は、湯戻し時の麺の湯戻しムラが少なく、優れたほぐれ性を有している。また、喫食前において、食品の見栄え、食感を改善する目的で用いられる。例えば、喫食前の食品に塗布すれば、食品同士または食品と容器との粘着を取り除くことができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0035】
(実施例1〜4)
モモ樹脂を10質量%含有する水溶液(実施例1)、モモ樹脂を5質量%含有する水溶液(実施例2)、モモ樹脂を0.1質量%含有する水溶液(実施例3)、およびモモ樹脂を0.05質量%含有する水溶液(実施例4)をそれぞれ調製した(以下、モモ樹脂を含む水溶液を単にモモ樹脂含有水溶液という)。各水溶液を用いて、粘着防止性(麺ほぐれ性または付着防止性)を以下のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0036】
(粘着防止性1:麺ほぐれ性)
麺ほぐれ性を、以下のようにして評価した。まず、茹で麺(うどんおよび中華麺)を試作した。
【0037】
うどんは、小麦粉90質量部、タピオカ加工澱粉10質量部、食塩3質量部、および水37質量部をミキサーで捏ね、製麺し、茹でて得た。
【0038】
中華麺は、小麦粉(準強力粉)100質量部、食塩2質量部、およびかん水(ボーメ度6)34質量部をミキサーで捏ね、製麺し、茹でて得た。
【0039】
次いで、これらの茹で麺100質量部に、上記モモ樹脂含有水溶液3質量部を噴霧した。5℃にて24時間保存した後、箸で茹で麺をほぐした。麺ほぐれ性について、32名のパネラーにより以下の基準で官能的に評価し、平均点を算出した。なお、点数が高いほど、麺ほぐれ性が優れていることを示す。
【0040】
(評価基準)
5点:箸でほぐさずに、1本の麺線を容易に摘み上げることができる
(茹で上げ直後の麺のほぐれ性と同等である)
4点:箸でほぐすと、容易に麺全体がばらける
3点:箸でほぐすと、麺全体がばらけるが、時間がかかる
2点:箸でほぐすと、部分的にばらけるが、麺線同士が粘着している
1点:箸でほぐしても、麺塊がばらけない、あるいは麺線がちぎれる
(多糖類を噴霧せずに得られる保存茹で麺(後述の比較例7)と同等である)
【0041】
(粘着防止性2:付着防止性)
付着防止性を、以下のようにして評価した。まず、わらび餅粉30質量部と水70質量部との混合物を加熱し、混合物が透明になった時点で加熱をやめ、冷却成形してわらび餅を得た。次いで、このわらび餅を、上記モモ樹脂含有水溶液を水で2倍に希釈した希釈液に浸漬した。わらび餅を取り出して水切りした後、5℃にて24時間保存した。保存後、付着防止性ついて、32名のパネラーにより以下の基準で官能的に評価し、平均点を算出した。なお、点数が高いほど、付着防止性が優れていることを示す。
【0042】
(評価基準)
5点:わらび餅同士がほとんど付着していない
(冷却成形直後のわらび餅の付着性と同等である)
4点:わらび餅同士が付着しているが、箸で容易に外すことができる
3点:わらび餅同士が付着しており、箸で外すことができるが、やや粘着している
2点:わらび餅同士が密着しており、箸で一方のわらび餅を摘んでも外れ難い
1点:わらび餅同士が密着しており、形を保ったまま箸で外すことが困難である
(多糖類を噴霧せずに得られる保存わらび餅(後述の比較例7)と同等である)
【0043】
(比較例1〜7)
上記モモ樹脂含有水溶液の代わりに、アラビアガム、プルラン、またはコーンファイバーを表1に記載の割合で含む水溶液(比較例1〜6)または水のみ(比較例7)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着防止性(麺ほぐれ性または付着防止性)を評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、実施例1〜4のモモ樹脂含有水溶液を用いることによって、優れた食品の粘着防止効果が得られることがわかる。特にモモ樹脂を0.1質量%以上含む水溶液を用いる場合(実施例1〜3)は、いずれの食品についても3.9点以上の優れた粘着防止性を有していた。他方、アラビアガム、プルラン、またはコーンファイバーを5質量%含む水溶液(比較例2、4、および6)を用いる場合は、1.2点〜2.3点であった。これに対して、モモ樹脂は、上記アラビアガム、プルラン、またはコーンファイバーの1/100の濃度(0.05質量%)の場合(実施例4)においても評点が2.0〜2.2点であり、極めて低濃度においても、これらと同等の粘着防止効果を有していた。さらに、モモ樹脂を0.1質量%含む水溶液を用いた場合(実施例3)においても評点が3.9〜4.0点であり、その100倍濃度である10質量%濃度のアラビアガム、プルラン、またはコーンファイバーを用いた場合(比較例1、3、および4:評点1.4点〜2.8点)に比べて、はるかに高い粘着防止効果を有していた。
【0046】
(実施例5〜17)
コーン油(油脂)、モモ樹脂、水、およびその他の添加剤としてデカグリセリンステアリン酸モノエステルおよびレシチンを表2に記載の割合で混合した。この混合物を、高速ホモミキサーを用いて10,000rpmにて5〜10分間処理した後、乳化粒子の状態を顕微鏡にて観察し、十分に乳化していることを確認した。得られた乳化物について、実施例1と同様にして粘着防止性を評価した。さらに、以下のようにしてつゆの油膜形成の有無を評価した。結果を表2に示す。
【0047】
(つゆの油膜形成の有無)
小麦粉70質量部、蕎麦粉30質量部、および水30質量部をミキサーで捏ね、製麺し、茹でて日本そばを得た。この日本そば100質量部に、乳化物3質量部を噴霧した。5℃にて24時間保存した後、乳化物が噴霧されたそば100質量部に、麺つゆ50質量部をかけてほぐした。ほぐした後の麺つゆの油膜形成の有無を目視にて観察し、以下の評価基準で評価した。
【0048】
(評価基準)
+++:液面全体が油膜で覆われている
++ :液面に油膜(油浮き)が多く認められる
+ :液面に油膜(油浮き)がわずかに認められる
− :液面に油膜(油浮き)が認められない
【0049】
(比較例8〜16)
モモ樹脂の代わりに、プルラン、アラビアガム、またはコーンファイバーを用いて表3に記載の割合で混合したこと以外は、上記実施例5と同様に操作して、それぞれ乳化物を得た。これらの乳化物のそれぞれについて、粘着防止性(麺ほぐれ性または粘着防止性)、およびつゆの油膜形成の有無を実施例5と同様にして評価した。結果を表3に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
表2に示すように、実施例の油脂とモモ樹脂とを含む乳化物(実施例5〜17)は、優れた粘着防止効果が得られ、さらにつゆの油膜形成がなかった。特に、実施例6のモモ樹脂を1質量%含む乳化物の粘着防止性の評価は4.3〜4.6点であり、例えば、表1の実施例2のモモ樹脂を5質量%含む水溶液の評価(4.3〜4.6点)と同等であった。このことから、乳化物の場合は、モモ樹脂が低濃度、例えば、水溶液の1/5の量であっても優れた粘着防止効果を発揮することがわかる。
【0053】
これに対して、表3の比較例の油脂とプルラン、アラビアガム、またはコーンファイバーとを含む乳化物は、十分な粘着防止効果が得られない、あるいはつゆにおける油膜形成が顕著であり実用的ではなかった。
【0054】
(実施例18)
醤油とみりんと砂糖とを、4:4:2の質量比で混合して調味液を調製した。この調味液に、さらに実施例1で得られたモモ樹脂含有水溶液(10質量%)を加えて、モモ樹脂含有水溶液を5質量%含む調味液(モモ樹脂0.5質量%含有)を調製した。
【0055】
加熱処理した鶏の胸肉のほぐし身を、上記のモモ樹脂を0.5質量%含有する調味液に浸漬した。液切りした後、100gを真空パックに入れ、120℃にて10分間レトルト処理した。冷却後、冷蔵庫で一晩保存した。保存後、肉のほぐれ易さについて、30名のパネラーによって以下の基準で評価し、平均点を算出した。なお、点数が高いほど、ほぐれ易い(粘着防止効果に優れている)ことを示す。結果を表4に示す。
【0056】
(評価基準)
5点:真空パックを開封したときにすでに肉がばらけている
4点:真空パックを開封後、皿に移すと肉がばらける
3点:皿に移した肉を箸でつかむと容易にばらける
2点:箸でばらすとばらける
1点:固まったままばらけない
【0057】
実施例1で得られたモモ樹脂含有水溶液(10質量%)の代わりに、実施例8で得られたモモ樹脂含有乳化物(10質量%)を用いたこと以外は、上記と同様にして肉のほぐれ易さを評価した。結果を表4に示す。
【0058】
さらに、モモ樹脂含有水溶液の代わりに水のみを5質量%含む調味液を用いたこと以外は、上記と同様にして肉のほぐれ易さを評価した。結果を表4に示す。
【0059】
(実施例19)
市販の焼豚をスライスし、実施例18で調製したモモ樹脂を0.5質量%含有する調味液に浸漬した。液切りした後、スライス10枚を重ねて真空パックに入れ、120℃にて10分間レトルト処理した。冷却後、冷蔵庫で一晩保存した。保存後、肉のほぐれ易さについて、実施例18と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0060】
実施例1で得られたモモ樹脂含有水溶液(10質量%)の代わりに、実施例8で得られたモモ樹脂含有乳化物(10質量%)を用いたこと以外は、上記と同様にして肉のほぐれ易さを評価した。結果を表4に示す。
【0061】
さらに、モモ樹脂含有乳化物の代わりに水のみを5質量%含む調味液を用いたこと以外は、上記と同様にして肉のほぐれ易さを評価した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4の結果から明らかなように、モモ樹脂含有水溶液または乳化物を用いた場合は、鶏のほぐし身および焼豚がいずれもほぐれ易くなった。特にモモ樹脂含有乳化物を用いた場合がよくほぐれた。
【0064】
(実施例20)
米500gを、モモ樹脂を0.3質量%含む水溶液700gを用いて炊いて米飯を得た。
【0065】
(比較例17および18)
米500gを、イヌリンを0.3質量%含む水溶液700gを用いて炊いて米飯を得た(比較例17)。これとは別に、米500gを、水700gを用いて炊いて米飯を得た(比較例18)。
【0066】
実施例20のモモ樹脂含有水溶液で炊いた米飯は、比較例のイヌリン含有水溶液で炊いた米飯(比較例17)または水のみで炊いた米飯(比較例18)に比べて、表面の付着が少なく、ピラフ様の物性を示した。
【0067】
(実施例21)
即席麺類の製造段階における麺ほぐれ性、および湯戻し時の麺ほぐれ性について、以下のようにして評価した。まず、中力粉70質量部、タピオカ加工澱粉30質量部、寒粉0.5質量部、食塩1質量部、および水40質量部をミキサーで捏ね、製麺し、蒸し器にて4分間蒸した。次いで、得られた麺100質量部に、実施例2で得られたモモ樹脂含有水溶液(5質量%)10質量部を噴霧した。蓋付き容器に入れ、噴霧したモモ樹脂を麺全体になじませるように攪拌しながら成型した。成型した麺(麺塊)について、熟練したパネラー10名により、以下の基準で官能的に評価し、平均点を算出した(この点数を即席麺類の製造段階における麺ほぐれ性の評価結果とする)。なお、点数が高いほど、麺ほぐれ性が優れていることを示す。
【0068】
(評価基準)
5点:箸を用いて、麺塊から1本の麺線を容易に摘み上げることができる
4点:箸でほぐすと、容易に麺塊全体がばらける
3点:箸でほぐすと、麺塊全体がばらけるが、時間がかかる
2点:箸でほぐしても、部分的な塊(麺塊の50%程度)が残る
1点:箸でほぐしても、麺塊がばらけない、あるいは麺線がちぎれる
【0069】
次いで、この成型した麺(麺塊)を90℃にて約40分間熱風乾燥してノンフライ麺(即席麺)を得た。ノンフライ麺の水分含量は10質量%以下であった。このノンフライ麺に熱湯を加えて1分間静置した後、上記と同様の方法で評価し、平均点を算出した(この点数を即席麺類の湯戻し時の麺ほぐれ性の評価結果とする)。即席麺類の製造段階における麺ほぐれ性、および湯戻し時の麺ほぐれ性の結果を表5に併せて示す。
【0070】
(実施例22〜24)
実施例2で得られたモモ樹脂含有水溶液(5質量%)の代わりに、モモ樹脂を1質量%含有する水溶液(実施例22)、モモ樹脂を0.5質量%含有する水溶液(実施例23)、およびモモ樹脂を0.05質量%含有する水溶液(実施例24)をそれぞれ用いたこと以外は、実施例21と同様にして、即席麺類の製造段階における麺ほぐれ性、および湯戻し時の麺ほぐれ性を評価した。結果を表5に併せて示す。
【0071】
(比較例19〜28)
実施例2で得られたモモ樹脂含有水溶液(5質量%)の代わりに、アラビアガム、プルラン、またはコーンファイバーを表5に記載の割合で含む水溶液(比較例19〜27)または水のみ(比較例28)を用いたこと以外は、実施例21と同様にして即席麺類の製造段階における麺ほぐれ性、および湯戻し時の麺ほぐれ性を評価した。結果を表5に併せて示す。
【0072】
【表5】

【0073】
表5の結果から、実施例21〜24のモモ樹脂含有水溶液を用いて得られる即席麺類は、製造段階および湯戻し時のいずれにおいても4.0点以上の優れた麺ほぐれ性を有していることがわかる。特にモモ樹脂を0.5質量%以上含む水溶液を用いる場合(実施例21〜23)は、4.8点以上の優れた麺ほぐれ性を有していた。他方、アラビアガム、プルラン、またはコーンファイバーを含む水溶液(比較例19〜27)を用いる場合、各多糖類の水溶液中の濃度が高いほど、麺ほぐれ性がよくなる傾向にあったが、最も高濃度の水溶液(5質量%)であっても、得られる即席麺の麺ほぐれ性は3.8点程度であった。この点数は、1/100の濃度のモモ樹脂含有水溶液(0.05質量%)を用いた場合(実施例24)に得られる点数(4.0点)に比べて劣った。これらの結果は、モモ樹脂が、他の多糖類に比べて優れた麺ほぐれ性を有することを示す。
【0074】
このように、モモ樹脂は、即席麺類の製造段階における麺のほぐれ性を向上させるため、製造工程において作業性が容易になることが期待される。さらに得られた即席麺類は、湯戻し時の麺の湯戻しムラが少なく、優れたほぐれ性を有するため、モモ樹脂は、即席麺類の商品価値の向上にも役立つものと期待される。さらに、モモ樹脂は、低濃度においても優れた麺ほぐれ性を発揮するため、多糖類の使用量を低く抑えることができ、食味、食感への影響が少なく、多糖類の焦げ付きによる麺の品質低下も防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の食品の粘着防止剤は、モモ樹脂からなる。このモモ樹脂は、食品同士あるいは食品と容器との粘着防止に優れた効果を発揮する。そのため、他の多糖類に比べて少ない使用量で食品の粘着を防止することができ、食品本来の風味、食感に影響を与えにくい。また、多糖類の焦げ付きによる食品の品質低下も少ない。さらに、上記モモ樹脂と、油脂とを乳化して得られる乳化物もまた、優れた食品の粘着防止効果を有し、油脂を使用しているにもかかわらず、麺類のつけ汁あるいは出し汁などの水性液状物と接触した場合にも、油膜(油浮き)が少ないという効果を有する。本発明の粘着防止剤は、穀粒、穀粉、澱粉、およびゲル化可能な多糖類の少なくとも1つを主成分として含む粘着性を有する食品、あるいは動物性蛋白質または植物性蛋白質を主成分として含む食品の粘着防止に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モモ樹脂からなる、食品の粘着防止剤。
【請求項2】
モモ樹脂と、油脂と、水とを含む乳化物からなる、食品の粘着防止剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着防止剤を含む、食品。
【請求項4】
前記食品が、穀粒、穀粉、および澱粉からなる群より選択される少なくとも1種を主成分として含む、請求項3に記載の食品。
【請求項5】
前記食品が、麺類または米飯である、請求項3に記載の食品。
【請求項6】
前記食品が、動物性蛋白質または植物性蛋白質を主成分として含む、請求項3に記載の食品。
【請求項7】
前記麺類が、即席麺類である、請求項5に記載の食品。

【公開番号】特開2008−5830(P2008−5830A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10775(P2007−10775)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】