説明

食品搬送用コンベアベルト及びその製造方法

【課題】 耐熱性、耐薬品性、耐油性に優れた食品搬送用コンベアベルト及びその製造方法を提供ことにある。
【解決手段】 ポリエステル繊維からなる織布2、この織布2の両面に形成されたポリエステルエラストマー層3a,3bからなる基布4と、この基布4の両面に形成されたポリフッ化ビニリデン樹脂層6a,6bと、前記基布4のポリエステルエラストマー層3a,3bと前記ポリフッ化ビニリデン樹脂層6a,6b間に配置されたシランカップリング剤からなる接着剤層とを具備し、前記ポリエステル繊維からなる織布2が非吸液処理されていることを特徴とする食品搬送用コンベヤベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の搬送に使用される食品搬送用コンベアベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品搬送用コンベアベルトとしては、ポリエステル基布(芯体)の両面にTダイ押出装置などでポリウレタン樹脂からなる層をラミネートしたものが知られている。しかし、ポリウレタン樹脂は融点が低いため、120℃のスチームによるコンベアベルトの洗浄、殺菌ができないという欠点がある。そのため、80℃のスチームによる洗浄と次亜塩素酸による洗浄の2段階による洗浄が必要であった。また、ポリウレタン樹脂は耐油性に乏しく、油と接触すると膨潤により強度劣化を起こし易い。
【0003】
また、従来、ポリウレタンからなるベルト本体内にスチール製の心線を埋設し、スチール心線が芳香族イソシアネートを含む水性ポリウレタンエマルジョンからなる接着剤によって処理されたポリウレタン製ベルトが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−315317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、耐熱性、耐薬品性、耐油性に優れた食品搬送用コンベアベルト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る食品搬送用コンベアベルトは、ポリエステル繊維からなる織布、この織布の両面に形成されたポリエステルエラストマー層からなる基布と、この基布の両面に形成されたポリフッ化ビニリデン樹脂層と、前記基布のポリエステルエラストマー層と前記ポリフッ化ビニリデン樹脂層間に配置されたシランカップリング剤からなる接着剤層とを具備し、前記ポリエステル繊維からなる織布が非吸液処理されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性、耐薬品性、耐油性に優れた食品搬送用コンベアベルト及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例に係る無端状の食品搬送用コンベアベルトの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の食品搬送用コンベアベルトについて更に詳しく説明する。
本発明においては、上述したように、織布の両面に耐熱温度の高いPET系エラストマーとしてのポリエステルエラストマー層が形成されている。従って、120℃のスチーム洗浄に耐えることができる。また、前記基布の両面にポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)層が形成されているので、耐油性を有するとともに、120℃のスチーム洗浄に耐えることができる。更に、ポリエステルエラストマー層とPVDF層同士は直接接続するには密着力に欠けるが、両者間にシランカップリング剤を介在させることにより、強固な密着力を得ることができる。
【0010】
ここで、シランカップリング剤としては、官能基がエポキシ基,アミノ基,イソシアネート基,ビニル基,スチリル基,ウレイド基,メルカプト基,スルフィド基であるシランカップリング剤、好ましくは官能基がエポキシ基,アミノ基,イソシアネート基であるシランカップリング剤が挙げられる。
【0011】
本発明において、ベルト基材シートから無端状のベルトを得るには、ベルト基材シートの端部同士を加熱・加圧プレス装置の下盤と上盤間に設置し、シート間を加熱により融着一体化する必要がある。ここで、加熱手段としては、シースヒーター等による抵抗加熱、高周波加熱、誘電加熱、誘導加熱等が用いられるが、これらに限定されず、ベルト基材シートを加熱し所定の温度に昇温できれば良い。
【0012】
本発明において、食品搬送用コンベアベルトを構成する芯材としての織布、ポリエステルエラストマー層の厚みは強度や柔軟性の点から、また接着剤層の厚みは接着強度の点から、更にポリフッ化ビニリデンエラストマー層は耐油性及び柔軟性の点から適宜な範囲に設定されることが好ましい。
【0013】
本発明において、「非吸液処理」とは、液体がよこ糸,たて糸によって構成するポリエステル繊維からなる織布の切断面から吸液しないように、織布をPET系エマルジョン樹脂により下地処理をすることを意味する。
【0014】
次に、本発明の実施形態に係る無端状の食品搬送用コンベアベルトについて、図面を参照して説明する。なお、本実施形態は下記に述べることに限定されない。
(実施例)
図1を参照する。無端状の食品搬送用コンベアベルト1は、ポリエステル繊維製のたて糸2aとポリエステル繊維製のよこ糸2bを織った織布2を有している。ここで、織布のよこ糸2aとたて糸2bの切断面Sは、PET系エマルジョン樹脂を含浸することにより非吸液処理(下地処理)されている。前記織布2の両面にはポリエステルエラストマー層3a,3bが夫々形成され、織布2とポリエステルエラストマー層3a,3bにより基布4が構成されている。この基布4の両面には、接着剤層5を介してポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)層6a,6bが夫々形成されている。ここで、接着剤層5としては、ポリエステルエラストマー層3a,3bとPVDF層6a,6bとの接着性を良好に確保するために、エポキシ系シランカップリング剤を用いた。
【0015】
次に、図1の食品搬送用コンベアベルトの製造方法について説明する。
まず、厚さ420μmの織布2の両面に厚みが150μmのポリエステルエラストマーシートを配置した後、これらを200℃の加熱下で加圧し、織布2とポリエステルエラストマー層3a,3bからなる基布4を得た。次に、この基布4の両面にPVDFディスパージョンを10μm塗布し、乾燥した後、160〜180℃の温度範囲で焼成して基布4の両面にPVDF層6a,6bを形成した。これにより、基布4の両面に接着剤層5を介してPVDF層6a,6bが形成されたベルト基材シートを得た。つづいて、このベルト基材シートの両端の端部を突合わせ又は重ね合せた状態で、抵抗加熱(シースヒーター)を熱源とする加熱・加圧プレス装置の下盤と上盤に設置した。更に、加熱温度180℃下で90秒間保持し、PVDF層6a,6b間を融着して一体化することにより、無端状の食品搬送用コンベアベルトを製造した。
【0016】
上記実施例によれば、織布2の両面に耐熱温度の高いPET系エラストマーとしてのポリエステルエラストマー層3a、3bが形成されているので、得られたコンベアベルトは120℃のスチーム洗浄に耐えることができる。また、前記基布4の両面にPVDF層6a,6bが形成されているので、耐油性を有するとともに、120℃のスチーム洗浄に耐えることができる。更に、ポリエステルエラストマー層3a、3bとPVDF層6a,6b間にエポキシ系シランカップリング剤からなる接着剤層5が介在するため、ポリエステルエラストマー層3a、3bとPVDF層6a,6b間の接着性を良好に確保することができる。事実、ポリエステルエラストマー層3a,3bとPVDF層6a,6b間の密着強さは、10.0N/cmであった。更には、織布2のよこ糸2aとたて糸2bの切断面Sは、PET系エマルジョン樹脂により非吸液処理されているので、切断面Sからの吸液を抑制することができる。
【0017】
(比較例)
比較例に係る無端状の食品搬送用コンベアベルトは、実施例のコンベアベルトと比べ、接着剤層をポリエステルエラストマー層とPVDF層間に使用しない点が異なる。比較例に係る食品搬送用コンベアベルトによれば、ポリエステルエラストマー層とPVDF層間の満足いく接着性を得ることができない。事実、比較例の場合、ポリエステルエラストマー層とPVDF層間の密着強さは0.5N/cmであった。また、コロナ表面処理しても同様な密着強さであった。
【0018】
上記実施例及び比較例に係る食品搬送用コンベアベルトについて、耐熱性、耐薬品性及び耐油性を比較した場合について説明する。
(耐熱性)
まず、120℃のスチーム洗浄について、120℃のスチーム洗浄機を用いて数分間スチームをサンプルに当てた後の外観を、目視で確認することにより判断した。また、使用温度可能範囲について、各温度環境下(−30℃、−20℃、−10℃、0℃、常温、50℃、80℃、120℃)におけるサンプルの引張強度を測定した。
【0019】
(耐薬品性)
コンベアベルトを、0.25%の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液、5%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、30%の硫酸の各溶液に40℃×400時間浸漬後の強度保持率(%)を測定することにより、サンプルの耐薬品性を判断した。
【0020】
(耐油性)
船型に成型したサンプルに食用油を入れ、120℃×24時間後のサンプルの重量変化(%)を測定した。
【0021】
なお、上記実施例では、接着剤としてエポキシ基を有するシランカップリング剤(エポキシ系シランカップリング剤)を用いた場合について述べたが、これに限らず、アミノ基又はイソシアネート基を有するシランカップリング剤でもよい。アミノ基又はイソシアネート基を有するシランカップリング剤を用いた場合、ポリエステルエラストマー層とPVDF層間の密着強さは5.0N/cmであった。また、ポリエステルエラストマー層の表面をプラズマ処理した後、PVDF層を形成することもできる。
【0022】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1…食品搬送用コンベヤベルト、2…織布、2a…たて糸、2b…よこ糸、3a,3b…ポリエステルエラストマー層、4…基布、5…接着剤層、6a,6b…ポリフッ化ビニリデン樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維からなる織布、この織布の両面に形成されたポリエステルエラストマー層からなる基布と、
この基布の両面に形成されたポリフッ化ビニリデン樹脂層と、
前記基布のポリエステルエラストマー層と前記ポリフッ化ビニリデン樹脂層間に配置されたシランカップリング剤からなる接着剤層とを具備し、
前記ポリエステル繊維からなる織布が非吸液処理されていることを特徴とする食品搬送用コンベヤベルト。
【請求項2】
前記シランカップリング剤は、エポキシ基シランカップリング剤,アミノ基シランカップリング剤,イソシアネート基シランカップリング基のいずれかであることを特徴とする請求項2記載の食品搬送用コンベヤベルト。
【請求項3】
ポリエステル繊維からなる織布の両面にポリエステルエラストマー層を加熱下で加圧することにより基布を形成する工程と、この基布をPET系エマルジョン樹脂で非吸液処理する工程と、前記基布の両面にポリフッ化ビニリデンディスパージョンを塗布し、乾燥後、焼成することによりポリフッ化ビニリデン樹脂層を形成する工程とを具備することを特徴とする食品搬送用コンベヤベルトの製造方法。
【請求項4】
前記基布の両面にエポキシ系シランカップリング剤を塗布、乾燥してポリフッ化ビニリデン樹脂層を形成した後、前記基布の両面にポリフッ化ビニリデンディスパージョンを塗布し、乾燥後、焼成することを特徴とする請求項3記載の食品搬送用コンベヤベルトの製造方法。

【図1】
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