説明

食品改質剤

【課題】加工食品、特に穀粉を主成分とする加工食品の風味、食感、および外観を損なうことなく、含有される油脂を代替することが可能な食品改質剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、生グルテン100質量部に対して、油脂5〜8質量部を混練し、乾燥して得られる食品改質剤を提供する。上記油脂は、不飽和脂肪酸を50質量%以上含有する油脂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は、一般に劣化し易く、保存中に食品の外観および風味を著しく損なう原因となる。さらに、生活習慣病の予防、ダイエットなどの観点から、近年、加工食品中に油脂を多量に含むことは敬遠される傾向にある。そのため、加工食品に含まれる油脂量を減少させること、あるいは加工食品に油脂を全く用いないことが検討されている。しかし、加工食品、特に穀粉を主成分とする加工食品において、油脂は、風味、食感、および外観といった食品の本質的な部分に関与しているため、その代替は容易ではない。
【0003】
ところで、油脂の劣化を防止する観点から、油脂を粉末化することが提案されている。例えば、特許文献1には、液状脂肪油にアルブミンを結合させた粉末が保存安定性に優れていることが記載されている。特許文献2には、含水エタノール5L中に粉末活性グルテン1kgを加えた液1kgに対して、精製脱臭魚油50gを混合して乾燥して得られた油脂粉末が、含水食品中に添加した場合でも安定であることが記載されている。しかし、これらの油脂粉末は、食品中に油脂を含むことを前提としているため、結局、油脂の劣化による加工食品の風味および外観の低下の問題は残る。さらに、これらの油脂粉末を用いても油脂量は変わらないため、生活習慣病の予防、ダイエットなどの問題もある。
【0004】
加工食品の風味、食感、および外観を損なうことなく、含有される油脂を代替できるような食品改質剤が求められている。
【特許文献1】特開昭63−44844号公報
【特許文献2】特開平2−155990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工食品、特に穀粉を主成分とする加工食品の風味、食感、および外観を損なうことなく、含有される油脂を代替することが可能な食品改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、生グルテンと、少量の油脂とを混練して乾燥することによって得られる食品改質剤が、加工食品、特に穀粉を主成分とする加工食品中に含有される油脂と代替した場合においても、得られる加工食品の風味、食感、および外観を損なわず、むしろさらに良好な食感(しっとり感、軽い食感など)および外観を付与することができることを見出した。さらにこの食品改質剤を用いることによって、上記加工食品の老化(特に澱粉の老化)を抑制できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の食品改質剤は、生グルテン100質量部に対して、油脂5〜8質量部を混練し、乾燥して得られる。
【0008】
ある実施態様においては、上記油脂は、不飽和脂肪酸を50質量%以上含む。
【0009】
本発明はまた、上記食品改質剤からなる、食品の老化抑制剤を提供する。
【0010】
本発明はまた、穀粉を主成分とする食品を提供し、該食品は、上記食品改質剤を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食品改質剤は、得られる加工食品、特に穀粉を主成分とする加工食品に対して、良好な食感(しっとり感、軽い食感など)を付与することができる。特に、この食品改質剤は、穀粉を主成分とし、かつ油脂を含む加工食品において、該油脂の一部または全部と代替した場合にも、得られる加工食品の風味、食感、および外観を損なうことなく、さらにふんわりとした外観、および良好な食感(しっとり感、もちもち感、および軽い食感)を付与することができる。さらに得られる加工食品の老化(特に澱粉の老化)を抑制することができる。そのため、本発明の食品改質剤は、特に穀粉を主成分とする加工食品の油脂の代替に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の食品改質剤は、生グルテン100質量部に対して、油脂5〜8質量部を混練し、乾燥して得られる。必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。この食品改質剤は、主に穀粉を主成分とする加工食品に用いられる。
【0013】
(生グルテン)
本発明において、生グルテンとは、例えば、穀類から直接、洗浄法、抽出法などの当業者が通常行う方法によって得られるグルテンのうち、乾燥、粉末化などの処理を受けていないグルテンをいう。この生グルテンは、通常、水分を約60質量%〜70質量%含有する。
【0014】
本発明に用いられる生グルテンの原料としては、小麦、ライ麦などの穀類が用いられる。好ましくは小麦である。上記穀類には、タンパク質であるグルテンが豊富に含有される。グルテンは、S−S結合を含むため弾力性に富むことが知られており、種々の食品の食感に重要な役割を果たしている。
【0015】
上記洗浄法は、例えば、小麦粉などの穀粉に少量の溶媒(例えば、水)を加えて練った生地(ドウ)を、上記溶媒で洗浄すること、あるいは多量の溶媒中でさらに練ることによって行われる。この方法により、澱粉が溶媒中に懸濁して除去され、グルテンが粘弾性の塊として得られる。上記溶媒としては、通常、水が用いられるが、希リン酸ナトリウム溶液、食塩水などを用いてもよい。
【0016】
上記抽出法は、例えば、上記ドウに希酢酸−エタノール混合液などを加えて、グルテンを溶解させ、澱粉を不溶物として分別することによって行われる。
【0017】
(油脂)
本発明に用いられる油脂は、一般に食品に使用される油脂であればよく、特に制限されない。例えば、サフラワー油、ひまわり油、とうもろこし油、アマニ油、米油、大豆油、綿実油、ごま油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、なたね油などの植物性油脂;豚脂、牛脂、魚油、鯨油などの動物性油脂;またはそれらに水素添加した硬化油などが挙げられる。これらの油脂の中でも、得られる食品改質剤の流動性が良好である点、およびこの食品改質剤を用いた場合に加工食品に優れた保湿性(しっとり感)および老化抑制効果を付与する点から、不飽和脂肪酸を50質量%以上含む油脂(例えば、サフラワー油、ひまわり油、とうもろこし油、アマニ油、米油、大豆油、綿実油などの植物性油脂)を用いることが好ましく、不飽和脂肪酸を70質量%以上含む油脂(例えば、サフラワー油、ひまわり油など)を用いることがより好ましい。油脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
(その他の成分)
本発明の食品改質剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、還元剤(ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、グルタチオン、システインなど)、酸化防止剤(ビタミンEなど)などのその他の成分を含有し得る。
【0019】
(食品改質剤)
本発明の食品改質剤は、上記生グルテン100質量部に対して、油脂5〜8質量部を混練し、乾燥して得られる。その他の成分については、その種類に応じて適宜含有され得る。例えば、上記混練時に合わせて添加してもよく、乾燥後に混合してもよい。
【0020】
混練工程において、生グルテンと油脂との割合は、上記のとおり、生グルテン100質量部に対して、油脂が5〜8質量部である。5質量部未満の場合、生グルテンと油脂との混合物の伸びが悪く、このような割合で調製された食品改質剤では、食品に十分なしっとり感または弾力性を付与することができない。8質量部を超える場合、生グルテンと油脂との混合物に油浮きが生じ、得られる食品改質剤では食品に十分なしっとり感を付与することができない。生グルテン中に油脂が良好に吸収される(例えば、生グルテンと油脂との混合物を遠心分離した場合においても分離しない)点、および得られる食品改質剤の流動性が良好である点から、生グルテン100質量部に対して、油脂を5〜7質量部とすることが特に好ましい。混練は、例えば、ニーダー、ミキサーなどを用いて行われる。
【0021】
次いで、上記混練物を乾燥する。乾燥は、例えば、混練物中の水分量が10質量%以下になるまで行われる。乾燥方法は、真空乾燥、凍結乾燥などの当業者が通常行う乾燥方法であれば特に制限はない。品質保持の点から、60℃以下の乾燥または凍結乾燥が好ましく用いられる。短時間で乾燥させる点からは真空乾燥が好ましく、例えば50℃〜60℃にて乾燥され得る。生グルテンを取り扱う作業性の点からは凍結乾燥が好ましい。凍結乾燥の場合、凍結させた後、予め粉砕機などで粉砕してから乾燥してもよい。このようにして、本発明の食品改質剤が得られる。
【0022】
得られた食品改質剤は、必要に応じて、粉砕される。粉砕は、例えば、ミル、ブレンダーなどの当業者が通常用いる機械または道具により行われ得る。粉砕物の粒径は、用いる食品に応じて適宜設定すればよく特に制限はない。粉砕後、粒径を均一にするために篩い分けなどを行ってもよい。
【0023】
本発明の食品改質剤は、加工食品中に含有される油脂と代替した場合にも、その加工食品本来の風味、食感、および外観を損なわず、さらにふんわりとした外観、および良好な食感(しっとり感、もちもち感、および軽い食感)を付与することができる。そのため、本発明の食品改質剤は、特に穀粉を主成分とする加工食品の油脂の代替に有用である。
【0024】
本発明の食品改質剤はさらに、加工食品中に含有される油脂と代替した場合に、優れた老化抑制効果を発揮する。例えば、本発明の食品改質剤は、加工食品中に含まれる澱粉の老化(β化)を抑制する。そのため、本発明の食品改質剤は、後述の穀粉を主成分とする加工食品、特に冷凍生地(冷凍パン生地、冷凍パイ生地)、製菓(スポンジケーキ、マフィンなど)、パンなどの食品の老化抑制剤として好適に使用することができる。例えば、本発明の食品改質剤を冷凍生地に用いる場合、解凍してから焼成することによって得られる加工食品の保存後においても、老化が顕著に抑制される。あるいは本発明の食品改質剤を製菓またはパンに用いる場合、食品改質剤を含む生地を予め焼成して冷凍保管しておき、使用時に解凍した後においても、従来の冷凍保管によって生じる生地のボリュームダウン、離水など(老化により生じる)が抑制され、良好な保型性および食感(しっとり感)を有している。
【0025】
(食品改質剤を含む穀粉を主成分とする加工食品)
本発明の加工食品は、穀粉を主成分とし、さらに上記食品改質剤を含む。穀粉としては、麦類(小麦など)、米、とうもろこし、あわ、ひえ、いも類(地下茎を含む)、豆などの植物の澱粉質および蛋白質を主体とする粉末などが挙げられる。中でも、麦粉、特に小麦粉(例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉など)、米粉などが好ましく用いられる。このような穀粉を主成分とする加工食品としては、例えば、ピザ、中華饅頭、饅頭、どら焼、パンなどの生地、スポンジケーキ、ホットケーキ、クッキー、マフィン、ブッセ、シュー皮などが挙げられる。これらの食品に含有される食品改質剤の量は特に制限されないが、好ましくは得られる加工食品中に、0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜6質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%の割合で含有される。
【0026】
本発明の加工食品は、上記食品改質剤を含むため、従来に比べて、同等以上の外観を有し、かつしっとり感(保湿性)、もちもち感、軽い食感などの良好な食感を有している。特に、本発明の加工食品中に、油脂の代替として食品改質剤が含まれている場合、この加工食品は、油脂を含まないにもかかわらず、しっかり保型され、かつ従来の油脂を含む加工食品に比べてふんわりとした外観を有しており、そしてしっとり感に優れている。
【実施例】
【0027】
(実施例1:食品改質剤の調製)
小麦粉100質量部に、水70質量部を加えて混練して生地(ドウ)を得、このドウを水洗して澱粉を除去し、生グルテン(小麦グルテン)を得た。この生グルテン100gと、サフラワー油7gと、ピロ亜硫酸ナトリウム0.03gとをミキサーで混合した後、混合物を急速凍結して凍結乾燥を行った。得られた乾燥物を粉砕して粉末40gを得た(食品改質剤とする)。
【0028】
(実施例2:ピザ台の調製および評価)
実施例1で得られた食品改質剤と、表1に記載の各成分とを表1に記載の割合で混合し、ピザの生地を得た。この生地140gを薄く伸ばして半径約20cmの円形(厚さ0.2cm)に成形した後、オーブンを用いて200℃にて8分間加熱してピザ台を得た(実施例2とする)。このピザ台の質量は115gであり、厚みは1.5cmであった。
【0029】
食品改質剤を用いなかったこと以外は、上記実施例2と同様にしてピザ台を得た(比較試験例2−1とする)。このピザ台の質量は115gであり、厚みは0.7cmであった。
【0030】
水100gと、サフラワー油7gとを乳化機にて混合し乳化油脂を調製した。食品改質剤の代わりにこの乳化油脂2gを用いたこと以外は、上記実施例2と同様にしてピザ台を得た(比較試験例2−2とする)。
【0031】
実施例1の食品改質剤の調製において、サフラワー油の代わりに、水を用いて、グルテン粉末を得た。食品改質剤の代わりに、このグルテン粉末および乳化油脂を用いたこと以外は、上記実施例2と同様にしてピザ台を得た(比較試験例2−3とする)。
【0032】
得られた実施例2のピザ台および比較試験例2−1〜2−3のピザ台の食感(ふんわり感およびもちもち感)について、20名のパネラーに試食させ、以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。なお、ふんわり感およびもちもち感は、合計点が高い程、食感が良好であることを示す。
【0033】
(ふんわり感の評価基準)
ふんわり感がある :2点
ややふんわり感がある :1点
ぱさぱさする :0点
【0034】
(もちもち感の評価基準)
もちもち感がある :1点
もちもち感がない :0点
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、実施例2の食品改質剤を用いたピザ台は、ふんわり感およびもちもち感に優れ、軽い食感で口溶けがよかった。これに対して、比較試験例2−1の食品改質剤を用いない場合、比較試験例2−2の食品改質剤の代わりに乳化油脂を用いる場合、そして比較試験例2−3の食品改質剤の代わりに、グルテン粉末および乳化油脂をそれぞれ用いる場合は、上記食品改質剤を用いる場合(実施例2)に比べて、ふんわり感およびもちもち感が劣り、良好な食感が得られなかった。さらに乳化油脂を用いる場合(比較試験例2−2および2−3)は、重い食感であった。
【0037】
(実施例3:中華饅頭の調製および評価)
実施例1で得られた食品改質剤と、表2に記載の各成分とを表2に記載の割合で混合し、中華饅頭の生地を得た。この生地50gをほぼ球形に成形し、蒸して中華饅頭を得た(実施例3−1とする)。この中華饅頭の質量は40gであった。外観を図1(A)に示す。
【0038】
ラードの代わりに水を用いること以外は、上記実施例3−1と同様にして中華饅頭を得た(実施例3−2とする)。この中華饅頭の質量は40gであった。外観を図1(B)に示す。
【0039】
食品改質剤を用いないこと以外は、上記実施例3−1と同様にして中華饅頭を得た(比較試験例3−1とする)。この中華饅頭の外観を図1(C)に示す。
【0040】
食品改質剤を用いないこと、およびラードの代わりに水を用いること以外は、上記実施例3−1と同様にして中華饅頭を得た(比較試験例3−2とする)。この中華饅頭の外観を図1(D)に示す。
【0041】
得られた実施例3−1および3−2の中華饅頭、ならびに比較試験例3−1および3−2の中華饅頭の外観について、比較試験例3−1の中華饅頭(一般のラード入り中華饅頭)に比べて、大きい(ふんわりしている)場合を◎、同等の大きさの場合を○、そして小さい(しぼんでいる)場合を×として評価した。結果を表2に示す。
【0042】
さらに、これらの中華饅頭の食感(しっとり感)について、以下の評価基準にしたがって点数化し、その合計点が高い程、食感が良好であると判断した。結果を表2に併せて示す。
【0043】
(しっとり感の評価基準)
しっとりしている :2点
ややしっとりしている :1点
ぱさぱさする :0点
【0044】
【表2】

【0045】
表2の結果から、実施例3−1および3−2の食品改質剤を含む中華饅頭は、食品改質剤を含まない一般のラード入り中華饅頭(比較試験例3−1)と同等以上の大きさを有しており(ふんわりしている)、外観が良好であった。なお、食品改質剤およびラードを含まない場合(比較試験例3−2)は外観が著しく劣った。さらに食感については、食品改質剤を含む実施例3−1は、食品改質剤を含まない比較試験例3−1に比べて、しっとり感(保湿性)に優れていた。実施例3−2と比較試験例3−2との対比においても、食品改質剤を含む方がしっとり感に優れていることがわかる。特に、実施例3−2の中華饅頭は軽い食感であり、ラードを含まないにもかかわらず、上記の優れた外観および食感を有していた。このことは、本発明の食品改質剤が油脂の代替に有用であることを示す。
【0046】
(実施例4:スポンジケーキの調製および評価)
実施例1で得られた食品改質剤と、表3に記載の各成分とを、当業者が通常用いるスポンジケーキの調理方法にしたがって混合し、オーブンで加熱してスポンジケーキを得た(実施例4−1とする)。スポンジケーキの質量は320gであった。
【0047】
NSM(液体マーガリン、株式会社カネカ)の代わりに水を用いること以外は、上記実施例4−1と同様にしてスポンジケーキを得た(実施例4−2とする)。スポンジケーキの質量は320gであった。
【0048】
食品改質剤を用いないこと以外は、上記実施例4−1と同様にしてスポンジケーキを得た(比較試験例4−1とする)。
【0049】
食品改質剤を用いないこと、およびNSMの代わりに水を用いること以外は、上記実施例4−1と同様にしてスポンジケーキを得た(比較試験例4−2とする)。
【0050】
実施例4−1および4−2のスポンジケーキ、ならびに比較試験例4−1および4−2のスポンジケーキの外観について、比較試験例4−1(一般のマーガリン入りスポンジケーキ)に比べて、大きい(ふんわりしている)場合を◎、同等の大きさの場合を○、そして小さい(しぼんでいる)場合を×として評価した。結果を表3に示す。
【0051】
さらに、これらのスポンジケーキの食感(しっとり感)について、実施例3と同様にして評価した。結果を表3に併せて示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の結果から、実施例4−1および4−2の食品改質剤を含むスポンジケーキは、食品改質剤を含まない一般のマーガリン入りスポンジケーキ(比較試験例4−1)と同等以上の大きさを有しており(ふんわりしている)、外観が良好であった。なお、食品改質剤およびラードを含まない場合(比較試験例4−2)は外観が著しく劣った。さらに食感については、食品改質剤を含む実施例4−1は、食品改質剤を含まない比較試験例4−1に比べて、しっとり感(保湿性)に優れ、口溶けが良好であった。実施例4−2と比較試験例4−2との対比においても、食品改質剤を含む方がしっとり感に優れ、かつ口溶けが良好であった。特に、実施例4−2のスポンジケーキは軽い食感であり、マーガリンを含まないにもかかわらず、上記の優れた外観および食感を有していた。このことは、本発明の食品改質剤が油脂の代替に有用であることを示す。
【0054】
(実施例5:ホットケーキの調製および評価)
実施例1で得られた食品改質剤と、表4に記載の各成分とを、当業者が通常用いるホットケーキの調理方法にしたがって混合して生地を得た。この生地70gをフライパンで加熱してホットケーキを得た(実施例5−1とする)。ホットケーキの質量は65gであった。
【0055】
粉末油脂を用いないこと以外は、上記実施例5−1と同様にしてホットケーキを得た(実施例5−2とする)。ホットケーキの質量は65gであった。
【0056】
食品改質剤を用いないこと以外は、上記実施例5−1と同様にしてホットケーキを得た(比較試験例5−1とする)。
【0057】
食品改質剤および粉末油脂を用いないこと以外は、上記実施例5−1と同様にしてホットケーキを得た(比較試験例5−2とする)。
【0058】
実施例5−1および5−2のホットケーキ、ならびに比較試験例5−1および5−2のホットケーキの外観について、比較試験例5−1(一般の油脂入りホットケーキ)に比べて、大きい(ふんわりしている)場合を◎、同等の大きさの場合を○、そして小さい(しぼんでいる)場合を×として評価した。結果を表4に示す。
【0059】
さらに、これらのホットケーキの食感(しっとり感)について、実施例3と同様にして評価した。結果を表4に併せて示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4の結果から、実施例5−1および5−2の食品改質剤を含むホットケーキは、食品改質剤を含まない一般の油脂入りホットケーキ(比較試験例5−1)と同等以上の大きさを有しており(ふんわりしている)、外観が良好であった。なお、食品改質剤および粉末油脂を含まない場合(比較試験例5−2)は外観が著しく劣った。さらに食感については、食品改質剤を含む実施例5−1は、食品改質剤を含まない比較試験例5−1に比べて、しっとり感(保湿性)に優れ、口溶けが良好であった。実施例5−2と比較試験例5−2との対比においても、食品改質剤を含む方がしっとり感に優れ、かつ口溶けが良好であった。特に、実施例5−2は軽い食感であり、油脂を含まないにもかかわらず、上記の優れた外観および食感を有していた。このことは、本発明の食品改質剤が油脂の代替に有用であることを示す。
【0062】
(実施例6)
(1)種々の油脂を用いた食品改質剤の調製
まず、生グルテン(水分含量60質量%)100gと、油脂(サフラワー油、ひまわり油、パーム油、またはなたね油)7gとをミキサーで混合してグルテン生地を調製した。なお、サフラワー油は、不飽和脂肪酸を約89質量%(オレイン酸14質量%およびリノール酸75質量%)含有し、ひまわり油は、不飽和脂肪酸を88質量%(オレイン酸19質量%、リノール酸68質量%、およびリノレン酸1質量%)含有し、パーム油は、不飽和脂肪酸を約49質量%(オレイン酸42質量%およびリノール酸7質量%)含有し、そしてなたね油は、不飽和脂肪酸を約34質量%(オレイン酸17質量%およびリノール酸17質量%)含有している。
【0063】
これらの各生地を両手で掴み、左右に約60cm伸ばしてみたところ、いずれも生地が切れることなく伸展した。サフラワー油を用いた生地を伸ばした状態を図2に示し、ひまわり油を用いた生地を伸ばした状態を図3に示し、パーム油を用いた生地を伸ばした状態を図4に、そしてなたね油を用いた生地を伸ばした状態を図5に示す。特に、サフラワー油またはひまわり油を用いた場合、得られる生地が均一に伸展していた。これらに対して、油脂を含まないグルテン生地は、約30cm伸ばしたところで切れた。
【0064】
さらに、上記のサフラワー油を用いた生地、ひまわり油を用いた生地、パーム油を用いた生地、およびなたね油を用いた生地をそれぞれ乾燥して食品改質剤を得た(それぞれ食品改質剤6−1〜6−4という)。
【0065】
(2)スポンジケーキの調製および評価
上記で得られた食品改質剤6−1(サフラワー油含有)と、表5に記載の各成分とを、当業者が通常用いるスポンジケーキの調理方法にしたがって混合し、オーブンで加熱してスポンジケーキを得た(実施例6−1とする)。スポンジケーキの質量は320gであった。このスポンジケーキの食感(しっとり感)について、実施例3と同様にして評価した。結果を表5に併せて示す。
【0066】
食品改質剤6−1の代わりに、食品改質剤6−2(ひまわり油含有)を用いたこと以外は、上記実施例6−1と同様にしてスポンジケーキ(320g)を得(実施例6−2とする)、食感(しっとり感)について評価した。結果を表5に併せて示す。
【0067】
食品改質剤6−1の代わりに、食品改質剤6−3(パーム油含有)を用いたこと以外は、上記実施例6−1と同様にしてスポンジケーキ(320g)を得(実施例6−3とする)、食感(しっとり感)について評価した。結果を表5に併せて示す。
【0068】
食品改質剤6−1の代わりに、食品改質剤6−4(なたね油含有)を用いたこと以外は、上記実施例6−1と同様にしてスポンジケーキ(320g)を得(実施例6−4とする)、食感(しっとり感)について評価した。結果を表5に併せて示す。
【0069】
さらに、上記食品改質剤を含まない、一般のマーガリン入りスポンジケーキとして、比較試験例4−1と同様の方法でスポンジケーキを得た(比較試験例6−1)。上記と同様にして食感(しっとり感)について評価した。結果を表5に併せて示す。
【0070】
【表5】

【0071】
表5の結果から、実施例6−1〜6−4の食品改質剤を含むスポンジケーキは、マーガリン(油脂)を含まないにもかかわらず、食品改質剤を含まない一般のマーガリン入りスポンジケーキ(比較試験例6−1)に比べて、しっとり感(保湿性)に優れ、口溶けが良好であった。このことは、本発明の食品改質剤が油脂の代替に有用であることを示す。特に、食品改質剤6−1(サフラワー油含有)または食品改質剤6−2(ひまわり油含有)を用いた場合(実施例6−1および6−2)は、しっとり感に優れ、軽い食感であった。なお、表には示さないが、実施例6−1〜6−4において、全卵の量を140gから144gに増加させると、得られるスポンジケーキの風味がよくなった。
【0072】
(実施例7:スポンジケーキの調製および評価)
実施例6と同様の方法で、生グルテン(水分含量60質量%)と、サフラワー油とを混合し、乾燥して食品改質剤を調製した(これを生グルテン含有食品改質剤という)。この生グルテン含有食品改質剤を用いて、実施例6と同様の方法でスポンジケーキ(320g)を得(実施例7−1とする)、食感(しっとり感)について評価した。結果を表6に示す。
【0073】
これとは別に、生グルテンを一旦乾燥させて粉末グルテンにした後、さらに加水して水分を60質量%含むドウを得た。生グルテンの代わりに、上記ドウを用いたこと以外は上記実施例7−1と同様の方法で、食品改質剤を調製した(これを含水粉末グルテン含有食品改質剤という)。この食品改質剤を用いて、上記実施例7−1と同様の方法でスポンジケーキを得(比較試験例7−1とする)、食感(しっとり感)について評価した。結果を表6に併せて示す。
【0074】
さらに、上記食品改質剤を含まない、一般のマーガリン入りスポンジケーキとして、比較試験例4−1と同様の方法でスポンジケーキを得(比較試験例7−2とする)、上記と同様にして食感(しっとり感)について評価した。結果を表6に併せて示す。
【0075】
【表6】

【0076】
表6の結果から、実施例7−1の生グルテン含有食品改質剤を含むスポンジケーキは、含水粉末グルテン含有食品改質剤を含むスポンジケーキ(比較試験例7−1)または食品改質剤を含まない、一般のマーガリン入りスポンジケーキ(比較試験例7−2)に比べて、しっとり感(保湿性)に優れ、口溶けが良好であった。さらに外観も良好であった。
【0077】
(実施例8:どら焼の調製および評価)
実施例7で用いた生グルテン含有食品改質剤と、表7に記載の各成分とを表7に記載の割合で混合し、どら焼の生地を得た。この生地30gを用いて、当業者が通常用いる方法でどら焼を得た(実施例8−1とする)。得られたどら焼の皮部分(生地に相当する部分)のみの質量は25gであった。実施例3と同様の方法で食感(しっとり感)について評価した。結果を表7に示す。
【0078】
生グルテン含有食品改質剤の代わりに、実施例7で用いた含水粉末グルテン含有食品改質剤を用いたこと以外は、上記実施例8−1と同様にしてどら焼を得た(比較試験例8−1とする)。実施例3と同様の方法で食感(しっとり感)について評価した。結果を表7に示す。
【0079】
さらに、食品改質剤を含まないこと、および油脂を含有すること以外は、上記と同様にして、一般の油脂入りどら焼を得た(比較試験例8−2とする)。
【0080】
実施例8−1、比較試験例8−1、および比較試験例8−2のどら焼の食感(しっとり感)について、実施例3と同様の方法で評価した。結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
表7の結果から、実施例8−1の生グルテン含有食品改質剤を含むどら焼は、含水粉末グルテン含有食品改質剤を含むどら焼(比較試験例8−1)または食品改質剤を含まない、一般の油脂入りどら焼(比較試験例8−2)に比べて、しっとり感(保湿性)に優れ、口溶けが良好であった。さらに外観(保型性)も良好であった。
【0083】
(実施例9:保湿性の評価)
実施例1で得られた食品改質剤と、表8に記載の各成分とを、当業者が通常用いるスポンジケーキの調理方法にしたがって混合し、オーブンで加熱してスポンジケーキを得た(実施例9−1とする)。スポンジケーキの質量は320gであった。なお、表8の配合において、グルテンを添加するとスポンジケーキの生地が硬くなる傾向があるため、食品改質剤1質量部に対して水を2質量部多く配合している。すなわち実施例9−1において、食品改質剤2gに対して水4gを配合している。
【0084】
NSM(液体マーガリン、株式会社カネカ)の代わりに水を用いること以外は、上記実施例4−1と同様にしてスポンジケーキを得た(実施例9−2とする)。スポンジケーキの質量は320gであった。
【0085】
食品改質剤を用いないこと以外は、上記実施例9−1と同様にしてスポンジケーキを得た(比較試験例9−1とする)。
【0086】
食品改質剤を用いないこと、およびNSMの代わりに水を用いること以外は、上記実施例9−1と同様にしてスポンジケーキを得た(比較試験例9−2とする)。
【0087】
実施例9−1および9−2のスポンジケーキ、ならびに比較試験例9−1および9−2のスポンジケーキの保湿性について、20名のパネラーに試食させ、「しっとりしている」および「ぱさぱさする」のいずれかで回答してもらった。「しっとりしている」と回答した人数が多い程、保湿性に優れているとして官能評価を行った。さらに、これらのスポンジケーキの水分活性をEZ−100(フロイント産業株式会社製)を用いて測定した。水分活性が高いほど、しっとり感(保湿性)に優れていると判断した。結果を表8に示す。なお、表8の評価結果の欄において、上段には官能評価の結果(「しっとりしている」と回答した人数)を示し、下段には水分活性の測定値を示す。
【0088】
さらに、これらのスポンジケーキをそれぞれ常温にて保存し、保存開始から5日目、8日目、15日目、21日目、および30日目に、上記と同様にして、保湿性の官能評価および水分活性の測定を行った。結果を表8に併せて示す
【0089】
【表8】

【0090】
表8の結果から、実施例9−1および9−2の食品改質剤を含むスポンジケーキは、比較試験例9−1および9−2の食品改質剤を含まないスポンジケーキに比べて、保存開始0日目(調理当日)の官能評価において「しっとりしている」と回答した人数が多く、保湿性が向上していることがわかる。さらに、官能評価の結果から、これらの実施例9−1および9−2のスポンジケーキは、30日間保存した場合においても良好な保湿性を維持していることがわかる。この良好な保湿性は、保存期間(30日間)中において、スポンジケーキの水分活性が0.93〜0.96と高い値で安定していることからも確認された。このように、本発明の食品改質剤を用いて得られる加工食品は、優れた保湿性を有し、かつこの保湿性が長期間維持される。他方、比較試験例9−1および9−2の食品改質剤を含まないスポンジケーキは、保存開始15日目の官能評価において、しっとりしているとの保湿性を示す回答は全く得られなくなった。水分活性についても30日間保存した場合、0.89以下と低い値であった。
【0091】
(実施例10:硬さ、弾力性の評価)
実施例1の生グルテン100質量部に、サフラワー油5質量部を添加した後、混練した。次いで、この混練物を遠心チューブに入れて脱気し、(真空)凍結乾燥して食品改質剤Aを得た。この食品改質剤Aを蒸し器に入れ、85℃にて50分間蒸してゲルを得た(実施例10−1とする)。
【0092】
還元処理したグルテン100質量部に、サフラワー油7質量部を添加したこと以外は、上記実施例10−1と同様にして食品改質剤Bを得、ゲルを調製した(実施例10−2とする)。
【0093】
これとは別に、比較のために3種類のゲルを以下のようにして調製した。上記食品改質剤の代わりに、実施例1の生グルテンのみを用いたこと以外は、上記実施例10−1と同様にしてゲルを得た(比較試験例10−1とする)。還元処理したグルテン100質量部に、サフラワー油3質量部を添加したこと以外は、上記実施例10−1と同様にして食品改質剤Cを得、ゲルを調製した(比較試験例10−2とする)。そして還元処理したグルテン100質量部に、サフラワー油10質量部を添加したこと以外は、上記実施例10−1と同様にして食品改質剤Dを得、ゲルを調製した(比較試験例10−3とする)。
【0094】
得られた5種類のゲル(実施例10−1および10−2、ならびに比較試験例10−1〜10−3)について以下の試験を行い、硬さおよび弾力性を評価した。
【0095】
まず、ゲルを直径2.5cmおよび高さ1.5cmの円柱状にカットし、テキソグラフ(株式会社日本食品開発研究所)にセットした。円柱状のゲルをプランジャーで圧縮し、ゲルの高さが0.6cmになったときの荷重を測定した。
【0096】
その後、プランジャーを戻し、ゲルの高さ(圧縮終了後の高さ)を測定した。試験前のゲルの高さ(1.5cm)に対する圧縮終了後の高さの割合を回復率として算出した。この試験を10回繰り返して荷重および回復率の平均値をそれぞれ求め、荷重の平均値から硬さを、回復率の平均値から弾力性を評価した。結果を図6および図7に示す。
【0097】
図6および図7から明らかなように、実施例10−1および10−2の食品改質剤AおよびBを用いた場合は、適度な硬さ(20000Pa以上)を有し、かつ優れた弾力性(回復率はそれぞれ73%および76%)を有していた。他方、比較試験例10−1の生グルテンのみ、あるいは比較試験例10−2の食品改質剤Cを用いる場合は、十分な硬さは得られるものの、弾力性の点で劣った(回復率はそれぞれ65%および71%)。比較試験例10−3の食品改質剤Dを用いる場合は、弾力性はあるものの(回復率77%)、十分な硬さが得られなかった。
【0098】
さらに、実施例10−2の食品改質剤B、比較試験例10−1の生グルテンのみ、および比較試験例10−3の食品改質剤Dをそれぞれ用いて、各種食品(スポンジケーキ、中華饅頭、コッペパン、および食パン)を常法により調製し、外観および風味について評価した。その結果、実施例10−2の食品改質剤Bを用いる場合は、いずれの食品も適度なボリューム感を有し、かつしっとり感、ふんわり感が良好であった。他方、比較試験例10−1の生グルテンのみを用いる場合、得られる食品はいずれも硬く、口溶けが悪く、しっとり感がなかった。そして比較試験例10−3の食品改質剤Dを用いる場合は、いずれの食品も、風味に油っぽさを感じ、生地にべたつきがあった。
【0099】
(実施例11:老化抑制効果の評価1(スポンジケーキ))
卓上ミキサー5DM型(株式会社品川工業所)を用いて、実施例10−2で調製された食品改質剤Bと、表9に記載の各成分とを、表9の割合で、オールインミックス法により混合して(高速攪拌2分)、スポンジケーキ生地1および2を得た(実施例11−1および11−2)。なお、対照例として、食品改質剤Bの代わりに、市販の液体油脂のみを用いてスポンジケーキ生地3を調製した。これらの生地1〜3の比重は、いずれも0.46〜0.48であった。
【0100】
【表9】

【0101】
各生地(生地1〜3)120gを直径12cmのケーキ型に流し込み、170℃にて30分間焼成してスポンジケーキ1〜3(デコ台)を得た。得られたスポンジケーキ1〜3について、β−アミラーゼ・プルラナーゼ法(BAP法)を用いて糊化度(α化度:製造直後の糊化度)を測定した。BAP法は、試料中の澱粉をアルカリ処理により完全糊化したα化澱粉の量を100%として、試料を酵素分解したもののα化澱粉の量の割合を測定する方法である。糊化度(%)は、その値が低い程、澱粉のβ化が進み、老化していることを示す。なお、測定にはスポンジケーキの中心部分を用いた。
【0102】
さらに、各スポンジケーキ1〜3を常温にて保存し、保存してから20日目および30日目に、各スポンジケーキの糊化度を測定した。結果を図8に示す。
【0103】
図8から明らかなように、実施例11−1の食品改質剤を含むスポンジケーキ1(液体油脂非含有)の糊化度は、製造直後で78%、保存30日後で41%であり、30日間の保存により38%低下した。実施例11−2の食品改質剤を含むスポンジケーキ2(液体油脂含有)の糊化度は、製造直後で74%、保存30日後で38%であり、30日間の保存により36%低下した。他方、対照例の食品改質剤を含まないスポンジケーキ3の糊化度は、製造直後で72%、保存30日後で22%であり、30日間の保存により50%低下した。このように、実施例11−1および11−2の食品改質剤を含むスポンジケーキ1および2は、対照例の食品改質剤を含まないスポンジケーキ3に比べて、澱粉の老化が抑制されていることがわかる。さらに実施例11−1および2から明らかなように、食品改質剤を含む場合は、液体油脂の有無に関わらず、澱粉の老化が抑制されていた。このような澱粉の老化抑制効果は、得られる加工食品の食感(しっとり感)の維持に反映されることが期待される。
【0104】
(実施例12:老化抑制効果の評価2(コッペパン))
卓上ミキサー5DM型(株式会社品川工業所)に、実施例10−2で調製された食品改質剤Bと、表10に記載のマーガリン以外の各成分とを表10の割合で投入し、低速で4分間および高速で4分間攪拌して混合した。次いで、マーガリンを表10の割合で投入し、さらに低速で4分間および高速で4分間攪拌して混合し、生地を得た。この生地を、湿度80%の条件下で28℃にて20分間1次発酵を行った。次いで、この生地を50gに分割し、ベンチタイムを20分間確保した。さらに、湿度80%の条件下で38℃にて50分間2次発酵(ホイロ)を行い、200℃にて14分間焼成した。冷却後、コッペパン1を得た。なお、対照例として、食品改質剤を使用しないこと以外は、上記と同様にしてコッペパン2を得た。
【0105】
【表10】

【0106】
得られたコッペパン1および2について、β−アミラーゼ・プルラナーゼ法(BAP法)を用いて糊化度(製造直後の糊化度)を測定した。なお、測定にはコッペパンの中心部分を用いた。その後、各コッペパン1および2をポリエチレン袋に入れ、常温にて保存し、保存してから2日目および3日目に、コッペパン1および2の糊化度をさらに測定した。結果を図9に示す。
【0107】
図9から明らかなように、食品改質剤を含むコッペパン1(実施例12)の糊化度は、製造直後で80%、保存3日後で67%であり、3日間の保存により13%低下した。他方、食品改質剤を含まないコッペパン2(対照例)の糊化度は、製造直後で79%、保存3日後で56%であり、3日間の保存により23%低下した。このように、食品改質剤を含むコッペパン1は、食品改質剤を含まないコッペパン2に比べて、澱粉の老化が抑制されていることがわかる。このような澱粉の老化抑制効果は、得られる加工食品の食感(しっとり感)の維持に反映されることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、加工食品、特に穀粉を主成分とする加工食品に対して、しっとり感および軽い食感を付与することができる食品改質剤が提供される。特に、穀粉を主成分とし、かつ油脂を含む加工食品において、該油脂の一部または全部を、上記食品改質剤と代替した場合、得られる加工食品の風味、食感、および外観を損なうことなく、さらにふんわりとした外観、および良好な食感(しっとり感、もちもち感、および軽い食感)を付与することができる。さらに、得られる加工食品の老化(特に澱粉の老化)を抑制することができる。したがって、本発明の食品改質剤は、特に穀粉を主成分とする加工食品の油脂の代替に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】中華饅頭の平面を示す写真である。
【図2】グルテン生地の伸ばした状態を示す写真である。
【図3】グルテン生地の伸ばした状態を示す写真である。
【図4】グルテン生地の伸ばした状態を示す写真である。
【図5】グルテン生地の伸ばした状態を示す写真である。
【図6】ゲルの強度を示すグラフである。
【図7】ゲルの回復率を示すグラフである。
【図8】スポンジケーキの糊化度の経時変化を示すグラフである。
【図9】コッペパンの糊化度の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生グルテン100質量部に対して、油脂5〜8質量部を混練し、乾燥して得られる、食品改質剤。
【請求項2】
前記油脂が、不飽和脂肪酸を50質量%以上含む、請求項1に記載の食品改質剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の食品改質剤からなる、食品の老化抑制剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の食品改質剤を含む、穀粉を主成分とする加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−136481(P2008−136481A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276981(P2007−276981)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】