説明

養液栽培用培養液の調整方法

【課題】環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設において用いられる養液栽培用の培養液について、肥料成分を必要量以上に多く含むことのない培養液を簡易に調整する。
【解決手段】培養液に含まれる1種又は2種以上の肥料成分についての農作物の吸収特性を得るための第一の養液栽培試験と、実際に農作物を養液栽培する人工栽培施設において良好な生育状態が保持される最小培養液濃度を得るための第二の養液栽培試験とを実施し、これらの試験結果に基づいて培養液の調整を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工栽培施設において用いられる養液栽培用培養液の調整方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設、例えば植物工場等において用いられる養液栽培用培養液の調整に用いて好適な養液栽培用培養液の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設、例えば植物工場等は、栽培対象となる農作物を天候や病害虫等の自然の驚異から隔離し、安定に周年生産を行うことを可能とするものある。
【0003】
植物工場に関する研究は従来から各種行われており、例えば、本件出願人は、環境条件を人工的に制御して植物の栽培を可能とする植物工場に関する研究成果を非特許文献1において報告している。
【0004】
近年では、植物工場に関する研究がさらに進展しており、産業活動全体において求められている温室効果ガスの排出削減に関する取り組みも行われている。具体的には、エネルギー消費効率の高い農業用ヒートポンプの普及の拡大や、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、蛍光灯などの人工光源をLEDに代替することによって、温室効果ガスの排出削減を図ることが検討されている。
【0005】
このように、植物工場等の人工栽培施設を利用した農業形態は、温室効果ガスの排出削減について十分に考慮されたものとなりつつあり、次世代の低炭素型の農業形態として極めて有望なものであるとして期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電力中央研究所報告 U93014(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、植物工場等の人工栽培施設を利用した農業形態には、未解決の問題も残されている。その一つとして、養液栽培用の培養液の組成に起因する温室効果ガスの排出の問題が挙げられる。即ち、養液栽培用の培養液は、農作物の十分な生育を確保するために、必要量よりも多くの肥料成分が含まれていることが一般的である。したがって、培養液をある程度水で希釈して用いても、良好な生育は得られるが、この場合には肥料成分毎の含有割合を増減させることはできないため、必要量以上に含まれている肥料成分も存在し得るものと考えられる。
【0008】
培養液に必要量以上(つまり農作物に吸収される量以上)の肥料成分が含まれていると、肥料成分の生産のおいて生じる温室効果ガスの排出分が植物工場等の人工栽培施設を運用した場合に加算されてしまい、植物工場等の人工栽培施設の総合的な温室効果ガスの排出削減において不利となる。また、養液栽培においては、少なくとも養液栽培終了後には培養液が廃棄されることから、排水中に含まれる肥料成分濃度をできるだけ低減して、環境への負荷をできる限り低減したり、排水処理にかかる手間等を出来る限り削減することが望ましいと言える。そのためにも、必要量以上の肥料成分の含有は望ましいことではないと言える。
【0009】
このような問題点が存在するにもかかわらず、環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設において用いられる養液栽培用の培養液について、肥料成分を必要量以上に多く含むことのない培養液を簡易に調整する方法は未だ確立されていないのが現状である。
【0010】
そこで、本発明は、環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設において用いられる養液栽培用の培養液について、肥料成分を必要量以上に多く含むことのない培養液を簡易に調整する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するための本発明の養液栽培用培養液の調整方法は、環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設における養液栽培に用いられる基本培養液を水で希釈して各種培養液濃度の希釈培養液を準備し、各種培養液濃度の希釈培養液を用いて農作物の第一の養液栽培試験を実施し、第一の養液栽培試験に基づいて、基本培養液に含まれる1種又は2種以上の肥料成分について、農作物により吸収された吸収量と希釈培養液に元々含まれていた含有量との関係を希釈培養液の培養液濃度に対して求め、この関係に基づいて農作物の肥料成分毎の吸収特性を以下の(A)〜(D)のいずれか1つに分類する。
(A)希釈培養液の培養液濃度の増加と共に吸収量も増加し、全ての培養液濃度においてほぼ全て吸収されるタイプ、
(B)希釈培養液の培養液濃度がある特定の濃度に増加するまでは吸収量も増加してほぼ全て吸収されるが、ある特定の濃度よりも高濃度になると吸収量が一定となって含有量よりも小さくなるタイプ、
(C)希釈培養液の培養液濃度の増加と共に吸収量も増加するが、全ての培養液濃度あるいは少なくとも高濃度側の培養液濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるタイプ、
(D)希釈培養液の培養液濃度に依らず一定の吸収量を示し、且つ吸収量が含有量よりも小さいタイプ、
【0012】
次いで、基本培養液を水で希釈して各種培養液濃度の希釈培養液を準備し、実際に農作物を栽培する人工栽培施設において農作物の第二の養液栽培試験を実施し、
第二の養液栽培試験に基づいて、農作物の生育状態が基本培養液を用いた場合と同等に保持される最小培養液濃度を決定し、肥料成分の量を以下の(1)〜(4)の通りに調整する工程を含むようにしている。
(1)(A)に分類された肥料成分を、最小培養液濃度における吸収量と等量となるように調整、
(2)(B)に分類された肥料成分を、最小培養液濃度がある特定の濃度以下の場合には吸収量と等量となるように調整、または最小培養液濃度がある特定の濃度よりも高濃度の場合にはある特定の濃度における吸収量以上で且つ最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整、
(3)(C)に分類された肥料成分を、最小培養液濃度における吸収量以上で且つ最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整、但し最小培養液濃度においてほぼ吸収される場合には吸収量と等量となるように調整、
(4)(D)に分類された肥料成分を、吸収量以上で且つ最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整
【発明の効果】
【0013】
本発明の養液栽培用培養液の調整方法によれば、環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設において用いられる養液栽培用の培養液について、肥料成分を必要量以上に多く含むことのない培養液を簡易に調整することが可能となる。
【0014】
また、本発明の養液栽培用培養液の調整方法によれば、培養液の肥料成分の使用量を低減して、温室効果ガス排出量を削減することが可能となる。また、培養液の肥料成分が環境へ流出することによる負荷を低減ないしは削減することや、培養液を排水処理して肥料成分の環境への流出を抑える手間等を低減ないしは削減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】栽培品目をミズナとした場合における栽培期間中の培養液の各種肥料成分濃度の変化を示す図である。
【図2】栽培品目をチンゲンサイとした場合における栽培期間中の培養液の各種肥料成分濃度の変化を示す図である。
【図3】栽培品目をホウレンソウとした場合における栽培期間中の培養液の各種肥料成分濃度の変化を示す図である。
【図4】栽培品目をシュンギクとした場合における栽培期間中の培養液の各種肥料成分濃度の変化を示す図である。
【図5】栽培品目をバジルとした場合における栽培期間中の培養液の各種肥料成分濃度の変化を示す図である。
【図6】栽培品目をネギとした場合における栽培期間中の培養液の各種肥料成分濃度の変化を示す図である。
【図7】栽培品目をミズナとした場合における培養液濃度とミズナ葉生重量との関係を示す図である。*は1.0試験区とのt検定の結果、有意差ありと判断された区に付された記号である(P<0.05)。
【図8】栽培品目をチンゲンサイとした場合における培養液濃度とチンゲンサイ葉生重量との関係を示す図である。*は1.0試験区とのt検定の結果、有意差ありと判断された区に付された記号である(P<0.05)。
【図9】栽培品目をチンゲンサイとした場合における培養液濃度とチンゲンサイ本葉数との関係を示す図である。*は1.0試験区とのt検定の結果、有意差ありと判断された区に付された記号である(P<0.05)。
【図10】栽培品目をホウレンソウとした場合における培養液濃度と生重量、乾重量及び葉長との関係を示す図である。*は1.0試験区とのt検定の結果、有意差ありと判断された区に付された記号である(P<0.05)。
【図11】栽培品目をシュンギクとした場合における培養液濃度と生重量及び葉長との関係を示す図である。
【図12】栽培品目をバジルとした場合における培養液濃度と生重量及び葉長との関係を示す図である。
【図13】栽培品目をネギとした場合における培養液濃度と生重量及び葉長との関係を示す図である。
【図14】栽培品目をミズナとした場合における肥料成分の吸収特性を示す図であり、■が肥料成分の吸収量を表し、●が肥料成分の含有量を表している。
【図15】栽培品目をチンゲンサイとした場合における肥料成分の吸収特性を示す図であり、■が肥料成分の吸収量を表し、●が肥料成分の含有量を表している。
【図16】栽培品目をホウレンソウとした場合における肥料成分の吸収特性を示す図であり、■が肥料成分の吸収量を表し、●が肥料成分の含有量を表している。
【図17】栽培品目をシュンギクとした場合における肥料成分の吸収特性を示す図であり、■が肥料成分の吸収量を表し、●が肥料成分の含有量を表している。
【図18】栽培品目をバジルとした場合における肥料成分の吸収特性を示す図であり、■が肥料成分の吸収量を表し、●が肥料成分の含有量を表している。
【図19】栽培品目をネギとした場合における肥料成分の吸収特性を示す図であり、■が肥料成分の吸収量を表し、●が肥料成分の含有量を表している。
【図20】栽培品目をチンゲンサイとした場合における栽培期間中の培養液のMgイオン濃度の変化を示す図である。
【図21】栽培品目をチンゲンサイとした場合における培養液のMgイオン濃度と生重量との関係を示す図である。
【図22】栽培品目をシュンギクとした場合における栽培期間中の培養液のMgイオン濃度の変化を示す図である。
【図23】栽培品目をシュンギクとした場合における培養液のMgイオン濃度と生重量との関係を示す図である。
【図24】栽培品目をシュンギクとした場合における培養液のMgイオン濃度と葉の乾燥重量当たりのMg含有量(上)及びCa含有量(下)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本発明の養液栽培用培養液の調整方法は、大まかには、培養液に含まれる1種又は2種以上の肥料成分についての農作物の吸収特性を得るための第一の養液栽培試験と、実際に農作物を養液栽培する人工栽培施設において良好な生育状態が保持される最小培養液濃度を得るための第二の養液栽培試験とを実施し、これらの試験結果に基づいて行われる。
【0018】
本発明で利用できる養液栽培方法としては、例えば湛液式栽培方、NFT式栽培方、ロックウール栽培法、かけ流し式栽培法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明において農作物とできる植物種は、植物工場等の人工栽培施設における代表的な栽培品目である葉菜類とすることが好適であるが、これに限定されるものではなく、植物工場等の人工栽培施設にて養液栽培に供され得る各種植物に対して本発明を適用することもできる。
【0020】
培養液は、大塚A処方や大塚B処方等の園芸試験場標準処方準拠品や、片倉チッカリンなどの山崎処方準拠品等を用いることができ、好適には園芸試験場標準処方準拠品を用いることができるがこれらに限定されるものではない。本発明は、このような市販品の培養液を用いて、農作物に対する必要最小限の肥料成分量を、農作物を栽培する環境に応じて、簡易に決定することができる。但し、市販品の培養液を用いることは必須条件ではなく、園芸試験場標準処方準拠品や山崎処方準拠品等と同様に、アンモニア態窒素や硝酸態窒素等の窒素成分、リン酸等のリン成分、カリウム、マグネシウム、カルシウム等を各種濃度で含む培養液を用いるようにしてもよい。あるいは、市販品の培養液に各種肥料成分を添加して肥料成分組成を調整したものを用いるようにしてもよい。
【0021】
以下、第一の養液栽培試験と第二の養液栽培試験について詳細に説明する。尚、一般に、植物工場等の人工栽培施設においては、栽培品目、栽培品目の株数に対する培養液量、養液栽培を実施する栽培装置のサイズ以外のパラメータは、大きく変化することがない。そして、農作物の生育状態を良好に保持することのできる最も低い培養液濃度は、これらのパラメータに応じて変化する。一方、培養液に含まれる肥料成分の吸収特性については、これらのパラメータに依存することなく、農作物毎に定められる。したがって、第一の養液栽培試験については、植物工場等の人工栽培施設で実施する限り、環境は特に限定されないが、第二の養液栽培試験については、実際に栽培に使用する予定の植物工場等の人工栽培施設にて実施する。
【0022】
(第一の養液栽培試験)
第一の養液栽培試験では、培養液に含まれる1種又は2種以上の肥料成分についての農作物の吸収特性を得る。吸収特性の検討対象となる肥料成分は、例えば養液栽培用の培養液における代表的な成分であるアンモニア態窒素や硝酸態窒素等の窒素成分、リン酸等のリン成分、カリウム、マグネシウム、カルシウム等である。これらを1種又は2種以上、好ましくは全てについて吸収特性を検討する。
【0023】
まず、培養液を水で希釈して各種培養液濃度の希釈培養液を準備する。具体的には、農作物を養液栽培する際の培養液(基本培養液)を水で希釈して複数の希釈率(培養液濃度)の希釈培養液を準備する。
【0024】
そして、この希釈培養液を用いて、農作物の養液栽培試験を実施する。尚、培養対象植物は、幼苗の生長段階で養液栽培試験に供するのが好適であるが、この生長段階よりも前段階もしくは後段階から養液栽培試験を実施しても構わない。
【0025】
上記養液栽培試験は、基本培養液を用いたときに市販品と同等の重量(さらには形態)となるまでに要する日数で実施し、その後収穫する。
【0026】
次に、収穫した農作物について、肥料成分の吸収量を求める。肥料成分の吸収量は、定法により農作物から元素抽出し、これをICP等で元素分析することで求めることができる。あるいは、養液栽培試験終了後の希釈培養液の肥料成分濃度と、希釈培養液に元々含まれていた肥料成分濃度との差に基づいて決定することもできる。
【0027】
次に、培養液に含まれる肥料成分について、農作物により吸収された吸収量と希釈培養液に元々含まれていた含有量との関係を希釈培養液の培養液濃度に対して求める。そうすると、この関係が、以下の(A)〜(D)のいずれかに分類される。つまり、農作物についての肥料成分の吸収特性を、肥料成分毎に以下の4タイプに分類することができる。
(A)希釈培養液の培養液濃度の増加と共に吸収量も増加し、全ての培養液濃度においてほぼ全て吸収されるタイプ、
(B)希釈培養液の培養液濃度がある特定の濃度に増加するまでは吸収量も増加してほぼ全て吸収されるが、ある特定の濃度よりも高濃度になると吸収量が一定となって含有量よりも小さくなるタイプ、
(C)希釈培養液の培養液濃度の増加と共に吸収量も増加するが、全ての培養液濃度あるいは少なくとも高濃度側の培養液濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるタイプ、
(D)希釈培養液の培養液濃度に依らず一定の吸収量を示し、且つ吸収量が含有量よりも小さいタイプ、
【0028】
尚、「ほぼ全て吸収される」とは、第一の養液栽培試験終了後の培養液の肥料成分濃度がイオンクロマトグラフィー(DIONEX社 ICS 1500、AS12A(陰イオンカラム)、CS16A(陽イオンカラム))における検出下限以下の濃度となることを意味している。あるいは、肥料成分の含有量と農作物による該肥料成分の吸収量とが一致していることを意味している。
【0029】
以上、第一の養液栽培試験によって、農作物の肥料成分の吸収特性が得られる。そして、この吸収特性と以下に説明する第二の養液栽培試験により得られる最小培養液濃度とに基づいて、養液栽培用の培養液が調整される。
【0030】
(第二の養液栽培試験)
第二の養液栽培試験では、農作物の生育状態が良好に保持される希釈培養液の最小濃度(最小培養液濃度)を検討する。第二の養液栽培試験によって得られる最小培養液濃度の希釈培養液に含まれる肥料成分量と、第一の養液栽培試験によって得られる吸収特性とを比較することによって、最小培養液濃度の希釈培養液からさらに減量可能な肥料成分を見出すことができ、これによって、農作物の良好な生育が保持され得る最小限の肥料成分を含む培養液の調整が可能になる。
【0031】
まず、培養液を水で希釈して各種培養液濃度の希釈培養液を準備する。ここで用いる培養液は、第一の養液培養試験で用いた培養液と同じものとする。具体的には、第一の養液培養試験と同様、農作物を養液栽培する際の培養液を水で希釈して複数の希釈率(培養液濃度)の希釈培養液を準備する。
【0032】
そして、この希釈培養液を用いて、実際に農作物を栽培する予定の人工栽培施設にて養液栽培試験を実施する。尚、培養対象植物は、第一の養液栽培試験と同じ生育段階にて養液栽培試験に供するのが好適であるが、生育段階が多少前後していても構わない。
【0033】
上記養液栽培試験を、基本培養液を用いたときに市販品と同等の重量(さらには形態)となるまでに要する日数で実施する。即ち、第一の養液栽培試験とほぼ同じ日数で実施する。
【0034】
第二の養液栽培試験の結果、基本培養液を用いた場合と重量(さらには形態)が同等となる最も低い希釈培養液の培養液濃度が明らかとなる。これを最小培養液濃度とする。
【0035】
次に、第二の養液栽培試験の結果明らかとなった最小培養液濃度に基づいて、培養液をどのように調整するかを決定する。より詳細には、第二の養液栽培試験にて明らかとなった最小培養液濃度と第一の養液栽培試験にて明らかとなった肥料成分の4タイプの吸収特性に基づいて、培養液をどのように調整するかを以下の通り決定する。
【0036】
(1).(A)タイプに分類された肥料成分
(A)タイプに分類された肥料成分は、希釈培養液の培養液濃度の増加と共に吸収量も増加し、全ての培養液濃度においてほぼ全て吸収されるタイプの肥料成分である。
このタイプに分類される肥料成分については、最小培養液濃度における吸収量と等量となるように調整する。
【0037】
(2).(B)タイプに分類された肥料成分
(B)タイプに分類された肥料成分は、希釈培養液の培養液濃度がある特定の濃度に増加するまでは吸収量も増加してほぼ全て吸収されるが、ある特定の濃度よりも高濃度になると吸収量が一定となって含有量よりも小さくなるタイプの肥料成分である。
このタイプに分類される肥料成分については、最小培養液濃度が上記ある特定の濃度(α)以下の場合には、最小培養液濃度における吸収量と等量となるように調整する。
最小培養液濃度が上記ある特定の濃度(α)よりも高濃度の場合には、ある特定の濃度(α)における吸収量以上で且つ最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整する。これにより、(B)タイプに分類された肥料成分の減量化を図ることができる。好ましくは、最小培養液濃度が上記ある特定の濃度(α)よりも高濃度の場合、ある特定の濃度(α)における吸収量と等量となるように調整する。これにより、(B)タイプに分類された肥料成分のさらなる減量化を図ることができる。
【0038】
(3).(C)タイプに分類された肥料成分
(C)タイプに分類された肥料成分は、希釈培養液の培養液濃度の増加と共に吸収量も増加するが、全ての培養液濃度あるいは少なくとも高濃度側の培養液濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるタイプの肥料成分である。
このタイプに分類される肥料成分については、最小培養液濃度における吸収量以上で且つ最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整する。これにより、(C)タイプに分類された肥料成分の減量化を図ることができる。好ましくは、最小培養液濃度における吸収量と等量となるように調整する。これにより、(C)タイプに分類された肥料成分のさらなる減量化を図ることができる。但し、最小培養液濃度においてほぼ吸収される場合には吸収量と等量となるように調整する。
【0039】
(4).(D)タイプに分類された肥料成分
(D)タイプに分類された肥料成分は、希釈培養液の培養液濃度に依らず一定の吸収量を示し、且つ吸収量が含有量よりも小さいタイプの肥料成分である。
このタイプに分類される肥料成分については、吸収量以上で且つ最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整する。これにより、(D)タイプに分類された肥料成分の減量化を図ることができる。好ましくは、吸収量と等量となるように調整する。これにより、(D)タイプに分類された肥料成分のさらなる減量化を図ることができる。
【0040】
以上、第一の養液栽培試験と第二の養液栽培試験により得られた知見に基づいて、農作物の生育を良好に保持しながらも、不必要な肥料成分が大幅に減量化された培養液を調整することができる。
【0041】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、培養液をエアレーションしたり、流速を向上させたりすることにより、肥料成分を農作物の根と良好に接触させることを考慮に入れて、さらなる肥料成分の削減を図るようにしてもよい。つまり、人工栽培施設における農作物の栽培において、培養液をエアレーションすることや流速を向上させることを考慮に入れて、培養液をエアレーションしたり流速を向上させたりしながら第二の養液栽培試験を実施し、肥料成分と農作物の根の接触確率を高めて最小培養液濃度をより小さなものとし、この最小培養液濃度と、第一の養液栽培試験により得られる肥料成分の吸収特性とに基づいて、肥料成分のさらなる減量化を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0043】
<農作物>
定植から収穫までの期間が短い以下の6品目を供試した。
(1)ミズナ(Brassica rapa var. nipposinica、品種:京みぞれ)
(2)チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis、品種:青梗)
(3)ホウレンソウ(Spinacia oleracea、品種:ミラージュ)
(4)シュンギク(Glebionis coronaria、品種:菊次郎)
(5)スイートバジル(Ocimum basilicum)
(6)ネギ(青ネギ、品種:浅黄色九条)
【0044】
<栽培方法及び養液組成>
水になじませたスポンジに上記(1)〜(6)の種を播種した後、水を張ったトレイに入れ、温室で1週間かけて発芽させた。その後、水を培養液に置換して、さらに1週間育苗した。培養液には1/2濃度(体積)に水で希釈した大塚B処方(大塚化学)を用いた。
【0045】
育苗して得られた幼苗は発泡スチロール板に差し込み、培養液16L(シュンギクの場合のみ15L)が入ったプラスチックケース(41.5×29.5×18cm)の上に載せ、湛液栽培を開始した。栽培期間中は24時間、エアーポンプにて培養液に空気を送り込んだ。
【0046】
多岐にわたる品目間での比較を行うため、培養液は共通のものを使用した。即ち、培養液は、大塚B処方(大塚化学)の未希釈品(試験区:×1.0)を基本として、段階的に水で希釈した培養液(試験区:×0.1(1/10濃度)〜×0.8(4/5濃度))を用いた。
【0047】
培養液のpH調整には、1NのHClとNaOHを使用し、培養液のpHが5〜7となるように毎日pH調整を行った。
【0048】
また、培養液の液量が一定となるように、水位を予めプラスチックケースに記しておき、水位が下がったときには適宜水を補給した。
【0049】
栽培期間は、高濃度(低希釈率)の培養液を用いて予備試験を行い、市販品と同程度の重量となる日数とした。具体的には、以下の通りとした。
(1)ミズナ :24日間
(2)チンゲンサイ :21日間
(3)ホウレンソウ :21日間
(4)シュンギク :27日間
(5)スイートバジル:22日間
(6)ネギ :31日間
【0050】
栽培は、室温を20℃〜28℃に制御したガラス温室で行い、日長がおよそ12時間となるようにメタルハライドランプで補光した。
【0051】
<測定>
培養液のイオン濃度(NO−N、NH−N、PO−P、K、Mg、Ca)は、イオンクロマトグラフィー(DIONEX社 ICS 1500、AS12A(陰イオンカラム)、CS16A(陽イオンカラム))で測定した。
【0052】
培養液のpHは、ハンディタイプの計測器(横河電気 SC82、Mettler社 MP125)で測定した。
【0053】
栽培終了後、生重量、葉数、葉長を測定した。その後、全量を通風乾燥し、乾燥重量を測定した。
【0054】
植物の葉中の元素含有量については、乾燥した植物を粉砕し、定法によって元素抽出を行い、ICP(Perkin Elmer 社 Optima 5300DV)で元素分析を行った。なお、ICPのための試料調整は河野ら(河野吉久. (1989)水耕栽培ホウレンソウ地上部の元素含有量に及ぼす栽培条件の影響. 電力中央研究所報告U89013.)の方法に拠った。
【0055】
<CO排出量の算定>
培養液中の肥料成分の製造に伴って排出されるCO量を推定するため、CO排出原単位、9g−CO/円(農業環境技術研究所(2003) LCA手法を用いた農作物栽培の環境影響評価実施マニュアル.)を用いた。これは、使用した肥料文の価格から排出されるCO量を推定するための方法である。例えば、20000gで5000円の肥料を100g使用したとすると、この肥料に由来するCO量は、以下の通りとなる。
5000(円)/20000(g)×100(g)=25(円)
25(円)×9(g−CO/円)=225(g−CO
【0056】
<栽培期間における培養液の肥料成分濃度変化>
定植した日を0日として培養液の肥料成分(NO−N、NH−N、PO−P、K、Mg及びCa)濃度を測定した結果を図1〜図6に示す。図1は栽培品目をミズナとした場合の測定結果である。図2は栽培品目をチンゲンサイとした場合の測定結果である。図3は栽培品目をホウレンソウとした場合の測定結果である。図4は栽培品目をシュンギクとした場合の測定結果である。図5は栽培品目をバジルとした場合の測定結果である。図6は栽培品目をネギとした場合の測定結果である。いずれの栽培試験結果においても、肥料成分毎に濃度変化が異なる傾向が見られた。以下、栽培品目毎の栽培試験方法と各種測定結果を示す。
【0057】
<ミズナ>
培養液濃度を×0.2、×0.3、×0.4、×0.5とした試験区に5株づつ定植して湛液栽培を行った。栽培開始後10日目あたりから肥料成分の吸収が始まり、その後、非常に旺盛な生育を示した。栽培開始後24日目で収穫したときの平均重量は、培養液濃度を×0.2とした場合を除いて100gを超えていた(図7)。また、主要肥料成分であるNO−N、NH−N、PO−P及びKはいずれの試験区においても収穫時の24日目まで吸収され、ほぼ0mg/lとなった(図1)。ミズナは、市場において1袋200g(2株)で取引されていることから、1株が100gあれば、市場性は確保される。本実施例では、最小培養液濃度を×0.3と決定した。
【0058】
<チンゲンサイ>
培養液濃度を×0.2、×0.3、×0.4、×0.5とした試験区に5株づつ定植して湛液栽培を行い、21日後に収穫した。収穫時には、NO−N、NH−N及びKが全ての試験区でほぼ0mg/lとなった。PO−Pについては培養液濃度×0.2と×0.3の試験区で0mg/lとなった。また、MgやCaも他の品目に比べて比較的多く吸収されていた(図2)。生重量を比較すると培養液濃度×0.2の試験区で劣っていたが、その他の試験区の間では有意差は認められず、およそ90gから110g程度であった(図8)。本葉の枚数については、試験区間で差は無かった(図9)。市場で流通しているチンゲンサイは、2株で200g前後である。本実施例では、最小培養液濃度を×0.3と決定した。
【0059】
<ホウレンソウ>
培養液濃度を×0.2、×0.3、×0.4、×0.5とした試験区に5株づつ定植して湛液栽培を行い、21日後に収穫した。生重量、乾重量及び葉長を測定した結果、乾重量と葉長には試験区間の差は認められなかった(図10)。葉長はいずれの試験区においても平均で250mm前後であった。しかし、生重量に関しては、培養液濃度×0.2の試験区においては他の試験区よりも劣っており、培養液濃度×0.2の試験区における平均生重量は約30gであったのに対して、その他の試験区における平均生重量は36g〜44gであった。市場では、数株が入って1袋200gで販売されており、また、葉長250gはLサイズに相当していることから、培養液濃度×0.2試験区での栽培には問題がないと考えられた。したがって、本実施例では、最小培養液濃度を×0.2と決定した。肥料成分の吸収に関しては、他の栽培品目に比べてNH−Nの吸収が遅く、培養液濃度×0.4以上の試験区では、収穫日においても培養液中に残存していた。Caは殆ど吸収されていなかった。Mgはある程度吸収されていた(図3)。
【0060】
<シュンギク>
培養液濃度を×0.2、×0.3、×0.4、×0.5とした試験区に5株づつ定植して湛液栽培を行い、27日後に収穫した。地上部の生重量と葉長には試験区間の差は認められなかった(図11)。したがって、本実施例では、最小培養液濃度を×0.2と決定した。肥料成分の吸収に関しては、NH−Nは培養液濃度×0.2試験区で栽培開始18日目にほぼ全量がシュンギクに吸収され、×0.5試験区においても24日目にはほぼ全量がシュンギクに吸収された。PO−PとKについては×0.2試験区では栽培終了時にほぼ全量がシュンギクに吸収されていたが、×0.3以上の試験区では残存していた。MgとCaは試験区に依らず濃度変化が殆ど見られなかった(図4)。
【0061】
<バジル>
培養液濃度を×0.2、×0.4、×0.6、×0.8とした試験区に5株づつ定植して湛液栽培を行い、22日後に収穫した。地上物の生重量と葉長を測定した結果、試験区間での有意な差は見られなかった(図12)。また、×0.2以外の試験区では、栽培最終日においても全ての肥料成分が残存していた(図5)。したがって、本実施例では、最小培養液濃度を×0.2と決定した。
【0062】
<ネギ>
培養液濃度を×0.1、×0.2、×0.3、×0.4とした試験区に27株づつ定植して湛液栽培を行い、31日目に収穫した。定植は、1つのスポンジ当たり3株植えとして、このスポンジを9つ栽培装置に充填した。地上部の生重量と長さを市販のネギと比較した。市販ネギの平均重は5.90gであり、平均長は55cmであった。一方、今回栽培したネギの収穫時の地上部の長さは50cm程度であり、培養液濃度による違いは見られなかったが、生重量に関しては有意差は無いものの、×0.1試験区では他の試験区より低い傾向にあった(図13)。したがって、本実施例では、最小培養液濃度を×0.2と決定した。また、NH−Nは、×0.1試験区で21日目、×0.4試験区で24日目、×0.3試験区で27日目、×0.4試験区で30日目にほぼ全量が吸収されていた。その他の肥料成分は×0.1試験区以外では残存していた。×0.1試験区では、NO−N、PO−P及びKは収穫時には殆ど吸収されていた。MgとCaについては、培養液濃度に関係なく殆ど吸収されていなかった(図6)。
【0063】
<ミズナの吸収特性>
ミズナの吸収特性を図14に示す。肥料成分の吸収特性は以下の通りに分類されることが明らかとなった。
・NO−N :A
・NH−N :A
・PO−P :A
・K :A
・Mg :C
・Ca :C
本実施例におけるミズナの最小培養液濃度は×0.3であったことから、Cタイプに分類され、×0.3において吸収量が含有量よりも小さくなるMgとCaについては、さらなる減量が可能であると考えられた。
【0064】
<チンゲンサイの吸収特性>
チンゲンサイの吸収特性を図15に示す。肥料成分の吸収特性は以下の通りに分類されることが明らかとなった。
・NO−N :A
・NH−N :A
・PO−P :B
・K :A
・Mg :D
・Ca :C
本実施例におけるチンゲンサイの最小培養液濃度は×0.3であったことから、Dタイプに分類されるMgについては、さらなる減量が可能であると考えられた。
また、Cタイプに分類され、×0.3において吸収量が含有量よりも小さくなるCaについても、さらなる減量が可能であると考えられた。
尚、チンゲンサイの最小培養液濃度が×0.4であると仮定した場合、Bタイプに分類され、×0.3よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるPO−Pについても、さらなる減量が可能である。
【0065】
<ホウレンソウの吸収特性>
ホウレンソウの吸収特性を図16に示す。肥料成分の吸収特性は以下の通りに分類されることが明らかとなった。
・NO−N :B
・NH−N :B
・PO−P :C
・K :C
・Mg :D
・Ca :D
本実施例におけるホウレンソウの最小培養液濃度は×0.2であったことから、Dタイプに分類されるMgとCaについては、さらなる減量が可能であると考えられた。
尚、ホウレンソウの最小培養液濃度が×0.3であると仮定した場合、Bタイプに分類され、×0.2よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるNO−N、NH−N、についてもさらなる減量が可能である。また、Cタイプに分類され、×0.3では吸収量が含有量よりも小さくなるPO−P、Kについてもさらなる減量が可能である。
【0066】
<シュンギクの吸収特性>
シュンギクの吸収特性を図17に示す。肥料成分の吸収特性は以下の通りに分類されることが明らかとなった。
・NO−N :B
・NH−N :A
・PO−P :B
・K :B
・Mg :D
・Ca :D
本実施例におけるシュンギクの最小培養液濃度は×0.2であったことから、Dタイプに分類されるMgとCaについては、さらなる減量が可能であると考えられた。
尚、シュンギクの最小培養液濃度が×0.3であると仮定するした場合、Bタイプに分類され、×0.2よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるNO−N、PO−Pについてもさらなる減量が可能である。
さらには、シュンギクの最小培養液濃度が×0.4であると仮定した場合、Bタイプに分類され、×0.3よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるKについてもさらなる減量が可能である。
【0067】
<バジルの吸収特性>
バジルの吸収特性を図18に示す。肥料成分の吸収特性は以下の通りに分類されることが明らかとなった。
・NO−N :B
・NH−N :B
・PO−P :C
・K :B
・Mg :D
・Ca :D
本実施例におけるバジルの最小培養液濃度は×0.2であったことから、Dタイプに分類されるMgとCaについては、さらなる減量が可能であると考えられた。
尚、バジルの最小培養液濃度が×0.4であると仮定した場合、Bタイプに分類され、×0.2よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるNO−N、Kについてもさらなる減量が可能である。また、Cタイプに分類され、×0.4では吸収量が含有量よりも小さくなるPO−Pについてもさらなる減量が可能である。
さらには、バジルの最小培養液濃度が×0.6であると仮定した場合、Bタイプに分類され、×0.4よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるNH−Nについてもさらなる減量が可能である。
【0068】
<ネギの吸収特性>
ネギの吸収特性を図19に示す。肥料成分の吸収特性は以下の通りに分類されることが明らかとなった。
・NO−N :B
・NH−N :A
・PO−P :C
・K :B
・Mg :D
・Ca :D
本実施例におけるネギの最小培養液濃度は×0.2であったことから、Dタイプに分類されるMgとCaについては、さらなる減量が可能であると考えられた。
また、Cタイプに分類され、×0.2において吸収量が含有量よりも小さくなるPO−Pについても、さらなる減量が可能であると考えられた。
尚、ネギの最小培養液濃度が×0.3であると仮定した場合、Bタイプに分類され、×0.2よりも高濃度では吸収量が含有量よりも小さくなるNO−N、Kについてもさらなる減量が可能である。
【0069】
<Mgの減量化の検討>
多くの品目で、培養液濃度に関係なくMgの吸収が少ない傾向であったことから、チンゲンサイとシュンギクについて、Mgの減量化を検討した。
【0070】
(1)チンゲンサイ
×0.4試験区を基準とし、Mgのみを1/2濃度(重量)、1/4濃度(重量)として、上記と同様の湛液栽培試験を行った。その結果、Mgは収穫までには若干吸収されたものの、1/4濃度区においても80%以上は培養液中に残存していた(図20)。また、地上部の生重量はいずれの区においても1株が120g程度はあった(図21)。このことから、Mg濃度は1/4濃度でも有効であることが分かった。
【0071】
(2)シュンギク
×0.3試験区を基準とし、Mgのみを1/2濃度(重量)、1/4濃度(重量)として栽培した。その結果、栽培終了時にいずれの濃度区においても培養液中のMg濃度が3−4mg/l程度低下したものその傾向には違いが無かった(図22)。また、栽培終了時の生重量にも差は認められなかった(図23)。収穫した地上部に含まれるMgを測定してみると、培養液中のMg濃度が低くなるにつれて、含有量が低くなる傾向が見られた。一方、Ca含有量は逆に増加する傾向が見られた(図24)。
【0072】
以上のことから、培養液中のMgのさらなる削減が可能であり、Mg以外の他の肥料成分についても同様にさらなる削減が可能であるものと考えられた。
【0073】
<栽培途中における主要肥料成分の吸収量に関する検討>
主要な肥料成分であるNO−N、K、PO−Pについて、低濃度区において肥料成分が未だ吸収され尽くしていない段階(定植後15日目または21日目)における吸収量を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示される結果から、上記肥料成分の吸収量が試験区(培養液濃度)に殆ど依存していないことが明らかとなった。即ち、表1に示される結果の測定日までの平均吸収速度が培養液濃度とは関連していない、換言すれば植物に吸収される肥料分は培養液の濃度とは関係なく一定であることが明らかとなった。この傾向は、ホウレンソウ、バジル、ネギにおいても同様に見られた。
【0076】
<温室効果ガス排出削減効果に関する検討>
培養前後の培養液に含まれる肥料成分の分析から、植物への肥料分の吸収率を求め、製造する際に排出されるCOの削減効果を試算した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
シュンギクの場合、×0.5培養液では、肥料分の吸収率が約53%であったが、培養液濃度を×0.2とすることにより吸収率を約71%に高められることが明らかとなった。ネギについても、培養液濃度を低下させることで、吸収率を高められることが明らかとなった。
【0079】
シュンギクの結果について、CO排出量に換算すると、×0.5培養液に含まれる肥料成分から、栽培終了時には、1株当り7.74gのCOが排出されることになるが、×0.2培養液では、2.17g−CO/株となった。以上のことから、標準培養液濃度(×0.5)から×0.2濃度に替えることによって、5.57g−CO/株が削減され、その率は72%となった。
【0080】
以上の結果から、培養液濃度を低濃度とし、且つ肥料成分濃度を必要最低限の濃度とすることで、CO排出量を大きく削減できることが明確となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境条件を人工的に制御して農作物の栽培を行う人工栽培施設における養液栽培に用いられる基本培養液を水で希釈して各種培養液濃度の希釈培養液を準備し、
前記各種培養液濃度の希釈培養液を用いて前記農作物の第一の養液栽培試験を実施し、
前記第一の養液栽培試験に基づいて、前記基本培養液に含まれる1種又は2種以上の肥料成分について、前記農作物により吸収された吸収量と前記希釈培養液に元々含まれていた含有量との関係を前記希釈培養液の培養液濃度に対して求め、この関係に基づいて前記農作物の肥料成分毎の吸収特性を以下の(A)〜(D)のいずれか1つに分類し、
(A)前記希釈培養液の培養液濃度の増加と共に前記吸収量も増加し、全ての培養液濃度においてほぼ全て吸収されるタイプ、
(B)前記希釈培養液の培養液濃度がある特定の濃度に増加するまでは前記吸収量も増加してほぼ全て吸収されるが、前記ある特定の濃度よりも高濃度になると前記吸収量が一定となって前記含有量よりも小さくなるタイプ、
(C)前記希釈培養液の培養液濃度の増加と共に前記吸収量も増加するが、全ての培養液濃度あるいは少なくとも高濃度側の培養液濃度では前記吸収量が前記含有量よりも小さくなるタイプ、
(D)前記希釈培養液の培養液濃度に依らず一定の吸収量を示し、且つ前記吸収量が前記含有量よりも小さいタイプ、
次いで、前記基本培養液を水で希釈して各種培養液濃度の希釈培養液を準備し、実際に前記農作物を栽培する人工栽培施設において前記農作物の第二の養液栽培試験を実施し、
前記第二の養液栽培試験に基づいて、前記農作物の生育状態が前記基本培養液を用いた場合と同等に保持される最小培養液濃度を決定し、肥料成分の量を以下の(1)〜(4)の通りに調整する工程を含むことを特徴とする養液栽培用培養液の調整方法。
(1)前記(A)に分類された肥料成分を、前記最小培養液濃度における前記吸収量と等量となるように調整、
(2)前記(B)に分類された肥料成分を、前記最小培養液濃度が前記ある特定の濃度以下の場合には前記吸収量と等量となるように調整、または前記最小培養液濃度が前記ある特定の濃度よりも高濃度の場合には前記ある特定の濃度における前記吸収量以上で且つ前記最小培養液濃度における前記含有量未満の量となるように調整、
(3)前記(C)に分類された肥料成分を、前記最小培養液濃度における前記吸収量以上で且つ前記最小培養液濃度における前記含有量未満の量となるように調整、但し前記最小培養液濃度においてほぼ吸収される場合には前記吸収量と等量となるように調整、
(4)前記(D)に分類された肥料成分を、前記吸収量以上で且つ前記最小培養液濃度における含有量未満の量となるように調整

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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