説明

香料付き衛生薄葉紙

【課題】やわからな感じのする香りが長期間維持され、紙質においても滑らかで柔らかい香料付き衛生薄葉紙を提供する。
【解決手段】沸点が170〜260℃の範囲にある特定のアルコールを5〜20質量%含み、バニリン、イソバニリンの何れか又はこれらの混合物であって、沸点が140〜230℃の範囲にある特定のアルデヒドを5〜20質量%含み、沸点が142〜230℃の範囲にあると特定のエステルを5〜70質量%含む香料が、基紙に対して0.02〜0.14質量%塗布されおり、かつ、その平滑性(MMD)が6.0〜14.0であり、ソフトネスが0.7〜4.5gである香料付き衛生薄葉紙により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティシュペーパーやトイレットペーパーなどに用いられる香料付き衛生薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
香料などの種々薬品を塗布等して含有せしめた、香料付きのティシュペーパー、トイレットペーパーなどの衛生薄葉紙はよく知られる。これらの衛生薄葉紙では、肌へ触れる用途に用いられることもあることから、ツンとする香り、きつい香りとも表現される刺激性の強い香りよりも、柔らかな香りとも表現される刺激性が少ない香りが好まれる傾向にあり、また、ほのかに香る程度の微香性が好まれる傾向にある。例えば、柔らかな感じのする香りの具体例等としては、下記の特許文献などに示されている。
【特許文献1】特開平8−245980
【特許文献2】特開平7−331278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来例においては、柔らかな香りや微香性にする余り、衛生薄葉紙への香りの含有が少なくなり、これにより香りの保持期間が短くなり、製品が製造された後に需要者の手に渡って使用されるまでの間に香りが非常に弱くなってしまう欠点があった。
特に、トイレットペーパーやティシュペーパーなどの衛生薄葉紙では、保管、流通などの関係上、製品が製造されてから使用者の手に渡るまでに最長、一年程度かかることがあり、このように使用者の手に渡るまでの期間が長期となった場合には、香りがほとんどない状態となっていることがあった。
また、トイレットペーパーなど箱内に収められず、使用時には暴露態様である製品では、製品を包装しているパッケージを開封して使用を開始した後に、短期間で急速に香りが弱くなり、使用末期まで香りが維持されないこともあった。
逆に、香りの含有量が多過ぎると、紙の紙質で硬くなったり、表面がざらつくという不具合が生じ、トイレットペーパーやティシュペーパーなどの衛生薄葉紙では、使用には不適であるという欠点があった。
そこで、本発明の主たる課題は、柔らかな香りが長期化にわたって保持される香料付き衛生薄葉紙を提供することにある。
さらに、香料付き衛生薄葉紙では、柔らかな香りというイメージと相俟って、香料のない衛生薄葉紙以上に柔らかな紙質が求められていた。
そこで、本発明の別の課題は、使用時における紙質が柔らかな香料付き衛生薄葉紙を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明およびその作用効果は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
基紙に香料が塗布された香料付き衛生薄葉紙であって、
平滑性(MMD)の値が6.0〜14.0であり、
ソフトネスの値が0.7〜4.5gであり、
香料の塗布量が0.02〜0.14質量%であり、
前記香料が、アルコール、アルデヒドおよびエステルを含み、
前記アルコールが、2−ベンジルシクロヘキサノール、3−ベンジルシクロヘキサノール、4−ベンジルシクロヘキサノール、4−(1,3,3)−シクロヘキセン−1−オール、5−ベンジル−ヘキサノール−2の何れか又はこれらの中から選択された2種以上の混合物であって沸点が170〜260℃の範囲にあるものを5〜20質量%含むものであり、
前記アルデヒドが、バニリン、イソバニリンの何れか又はこれらの混合物であって沸点が140〜230℃の範囲にあるものを5〜20質量%含むものであり、
前記エステルが、o−tert−ブチルヘキシルアセタート、直鎖状の酢酸エステルの何れか又はこれらの混合物であって沸点が142〜230℃の範囲にあるものを5〜70質量%含むものである、ことを特徴とする香料付き衛生薄葉紙。
【0005】
(作用効果)
上記薬品種類の選択により、例えば果物、花の香り成分のような、甘さ、やさしさを感じる香りの質(香気)とすることができる。そして、当該薬品種類の選択とともに上記質量割合としたことによって低刺激性の柔らかな感じの香りとなる。さらに、各成分の薄葉紙との親和性の相違、各成分の揮発性とともに上記沸点としたことにより、製造時に柔らかな質の香りを適度な強さで長期間にわたって芳香させることが可能となる。
さらに、本発明の香料付き衛生薄葉紙は、かかる香りに関する効果のみならず、平滑性(MMD)及び柔らかさの指標となるソフトネスが、所定範囲であることにより、紙質においても、より滑らかであって柔らかいものとなる。
【0006】
<請求項2記載の発明>
直鎖状の酢酸エステルが、酢酸イソアミル、酢酸−n−ヘキシン又はこれらの混合物である請求項1記載の香料付き衛生薄葉紙。
【0007】
(作用効果)
直鎖状の酢酸エステルが、酢酸イソアミル、酢酸−n−ヘキシン又はこれらの混合物は、果物系の芳香成分であり、使用者の多くがより好ましいと感じる香気となり、請求項1の作用効果をさらに向上させるものとなる。
【発明の効果】
【0008】
以上、詳述のとおり本発明によれば、柔らかな香りが長期化にわたって保持され、しかも滑らかで柔らかい紙質の香料付き衛生薄葉紙が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次いで、本発明の実施の形態を以下に詳述する。
本発明にかかる衛生薄葉紙は、原料パルプを抄紙するなどして、原料素材から基紙を得た後、この基紙に香料を塗布するなどして製造することができる。
【0010】
衛生薄葉紙(基紙)の原料素材は、特に限定されず、キッチンペーパー、トイレットペーパー、ティシュペーパー等の用途に応じて、適宜のものを使用することができる。原料素材として、パルプ繊維を使用する場合、このパルプ繊維(原料パルプ)としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプ、などから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)等を原料とする合成パルプ、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0011】
パルプ繊維等の原料素材は、例えば、公知の抄紙工程、具体的には、ワイヤパート、プレスパート、ドライヤパート、サイズプレス、カレンダパート等を経るなどして、薄葉紙原紙とする。抄紙に際しては、既知の方法に従って、例えば、分散剤、苛性ソーダ、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動変性剤、歩留まり向上剤などの適宜の薬品を添加することができる。
【0012】
基紙の坪量は、薄葉紙の範囲であれば特に限定されない。トイレットペーパー、ティシュペーパー等の用途や、プライ数設計に応じて適宜の値にすることができる。例えば、ティシュペーパー、トイレットペーパー用途ならば、JIS P 8124の米坪測定方法において10〜35g/m2が望ましい。10g/m2未満では、強度を適正に確保することが困難であり、35g/m2超では硬くなりすぎて肌触りが悪化する。トイレット用紙管としての用途は100〜650g/m2とし、100g/m2未満だとトイレットペーパー・キッチンペーパーのロール形状を保持できず、650g/m2以上だと香料が紙に浸透しない。
【0013】
特徴的な本発明の香料はアルコール、アルデヒドおよびエステルを含む。そして、このアルコールは、2−ベンジルシクロヘキサノール、3−ベンジルシクロヘキサノール、4−ベンジルシクロヘキサノール、4−(1,3,3)−シクロヘキセン−1−オール、5−ベンジル−ヘキサノール−2の何れか又はこれらの中から選択された2種以上の混合物であって沸点が170〜260℃の範囲にあるものを5〜20質量%含むものであり、アルデヒドは、バニリン、イソバニリンの何れか又はこれらの混合物であって沸点が140〜230℃の範囲にあるものを5〜20質量%含むものであり、エステルは、o−tert−ブチルヘキシルアセタート、直鎖状の酢酸エステルの何れか又はこれらの混合物であって沸点が142〜230℃の範囲にあるものを5〜70質量%含むものである。
【0014】
なお、上記含有割合(質量%)は香料の総質量に対する割合である。また、香料中には、溶媒、香りに影響を与えない各種の薬剤が含有されていてもよい。
【0015】
本発明の香料において、各薬品の沸点、含有割合が上記範囲を外れると、柔らかで、適度な強さの香りを長期間保持させることが困難となる。
【0016】
残香性、柔らかさ感、香りの強さの点から、前記アルコールのより好ましい沸点範囲は200〜230℃であり、より好ましい含有割合は5〜10質量%である。アルデヒドのより好ましい沸点範囲は170〜200℃、より好ましい含有割合は5〜10質量%である。エステルのより好ましい沸点範囲は170〜230℃であり、より好ましい含有割合は10〜15質量%である。
【0017】
ここで、アルコール、アルデヒド、エステルの各薬品の沸点および含有割合は、何れかの薬品の沸点、割合のみを変更しても香気(香りの質)、特に長期間経過後の香気、刺激性、残香性、強さに影響を与える。従って、何れかの薬品のみの数値範囲の変更が与える影響を傾向づけることは困難であるが、共通する傾向としては、各薬品のいずれかでも本発明で規定した沸点よりも低くすると香りの質としての柔らかさに欠けたり、香りの強さが弱くなる傾向が見られる。反対に、沸点を高くすると残香性が悪くなる。また、各薬品のいずれかでも本発明で規定した含有割合よりも多くすると、初期の香りが強くなるとともに刺激が強くなり柔らかさ感に劣るようになる。また、各薬品のいずれかでも本発明で規定した含有割合よりも少なくすると、残香性が悪化する。
【0018】
アルコールの沸点が170℃未満であると香りの強さが弱い。260℃を越えると香りの強さは高くなるが残香性が極めて悪化する。また、アルコールの含有量が5質量%未満であると香りの残香性が悪化し、20質量%を超えると香りの質が柔らかでなくなる。
【0019】
アルデヒドの沸点が140℃未満であると香り質が柔らかではなくしかも香りが強すぎるものとなり、230℃を越えると香りの柔らかさがなくなるとともに残香性が悪化する。また、アルデヒドの含有量が5質量%未満であっても、20質量%を超えてもと香りの質が柔らかではなくなる。
【0020】
エステルの沸点が142℃未満であっても230℃を超えても、香り質が柔らかではなく、しかも香りに強さがない。また、エステルの含有量が5質量%未満であると香りの柔らかさ・強さがなくなり、70質量%を超えると残香性がなくなる。
【0021】
他方、本発明の香り付薄葉紙は、平滑性(MMD)の測定値が6.0〜14.0であるのが好ましく、特に6.0〜11.0であるのが好ましい。6.0未満であると、使用における拭き取り性において劣る。14.0を越えると、ザラツキ感が生じてしまう。なお、MMDは数値が小さいほど滑らかであることを示す。ここで、本発明および本明細書においていう平滑性(MMD)とは、KES試験機を使用した表面特性における摩擦係数の平均偏差で表される平滑性(MMD)であり、特にカトーテック株式会社製の摩擦感テスター KES SEにて、横断面直径0.5mmのピアノ線からなりその接触面積が10mm四方である摩擦子を100mm四方に切った本件薄葉紙1枚の紙試料に10gの接触圧で接触させながら、移動方向に20g/cmの張力を紙試料に与えつつ、0.1cm/秒の速度で2cm移動させたときの摩擦係数を測定して算出される値である。
【0022】
他方、本発明の香料付き薄葉紙は、ソフトネスの値が、0.7〜4.5gであるの好ましく、特に好ましくは0.7〜1.5gである。0.7g未満であると、コシがなく使用における拭き取り性において劣る。4.5gを越えると、硬くなってしまう。なお、ソフトネスは数値が小さいほど柔らかいことを示す。ここで、本発明および本明細書においていうソフトネスとは、「幅10cmの衛生薄葉紙を端子によって幅20mmの隙間に押し込んだときの抵抗値を、縦方向及び横方向について、ハンドルオメータ法(JIS L 1096:1999 E法)によって測定し、これらを平均した値」をいう。
【0023】
香料の基紙への塗布形態としては、例えば、当該外添用の溶液を抄紙後の基紙(薄葉紙)に印刷、塗工、散布することが挙げられる。ただし、薄葉紙は坪量が低いことから、コーター等の既知の塗工機による塗工よりも、スプレー散布および印刷機による印刷がより好適であり、印刷であればグラビヤロールまたはフレキソロールを用いたグラビヤ印刷、フレキソ印刷による転写が特に好適である。また、トイレットロール・キッチンロールであれば香料塗布装置を用いて紙管に対して香料を塗布しておいてもよい。
【実施例】
【0024】
次いで、本発明の実施例および比較例を作成し、[MMD]、[ソフトネス]の物性測定をするとともに、[柔らかさ感]、[強さ]、[残香性]について官能試験を行った結果を下記表1に示す。なお、各例は、トイレットペーパーの基紙(坪量16.2g/m2)の2枚重ね品(114mm×114mm)に対し、スプレーを用いて香料成分を塗布した。各例にかかる香料の成分割合は、表1に示されるとおりである。その他の成分は、溶媒としての水および香りに影響を与えない種々の薬品である。また、表中における記号は次記の薬品種を表す。
【0025】










【0026】
柔らかさ感、強さ感、残香感の官能試験は、被験者に実際に実施例および比較例にかかるトイレットペーパーの香りを嗅いでもらうことにより行い、評価は、各例について点数を付けることにより行った。被験者数は10人であり、評価にかかる点数は0〜3までの0.5刻みとした。表中の値は平均値である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかであるように、本発明の実施例については、製造直後から1年経過した後における残香性に優れ、また、香りの質が柔らかでありしかも微香性であるにもかかわらず十分に香りの質が感じられる強さがある。
それに対して、比較例は、製造直後の強さが微香の限界を超えてほとんど香らないもの、香りの質がはっきりしないものや、残香性のないものなど、何れかの評価で不満足な結果となった。なお、1年経過した後における残香性の評価は、短期間での評価を可能とすべく、擬似的に50℃の恒温条件で2週間保管したものを評価することにより行っている。これらの官能試験の結果からして、本願発明にかかるトイレットペーパーは他の比較例と明確な相違をもって、やわらかな香りが長期化にわたって保持されることが知見された。
また、本発明の実施例は比較例と比較して、MMD、ソフトネスの測定結果より、紙質についても滑らかで柔らかいことが知見された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、トイレットロール、ティシュペーパーなどの衛生薄葉紙そのものを利用する態様のほか、例えば、衛生薄葉紙を一部に利用して製造される吸収性物品など、各種の衛生薄葉紙使用製品にも利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙に香料が塗布された香料付き衛生薄葉紙であって、
平滑性(MMD)の値が6.0〜14.0であり、
ソフトネスの値が0.7〜4.5gであり、
香料の塗布量が0.02〜0.14質量%であり、
前記香料が、アルコール、アルデヒドおよびエステルを含み、
前記アルコールが、2−ベンジルシクロヘキサノール、3−ベンジルシクロヘキサノール、4−ベンジルシクロヘキサノール、4−(1,3,3)−シクロヘキセン−1−オール、5−ベンジル−ヘキサノール−2の何れか又はこれらの中から選択された2種以上の混合物であって沸点が170〜260℃の範囲にあるものを5〜20質量%含むものであり、
前記アルデヒドが、バニリン、イソバニリンの何れか又はこれらの混合物であって沸点が140〜230℃の範囲にあるものを5〜20質量%含むものであり、
前記エステルが、o−tert−ブチルヘキシルアセタート、直鎖状の酢酸エステルの何れか又はこれらの混合物であって沸点が142〜230℃の範囲にあるものを5〜70質量%含むものである、ことを特徴とする香料付き衛生薄葉紙。
【請求項2】
直鎖状の酢酸エステルが、酢酸イソアミル、酢酸−n−ヘキシン又はこれらの混合物である請求項1記載の香料付き衛生薄葉紙。