説明

駆動力伝達装置の試験方法及び製造方法

【課題】各クラッチプレートの軸ずれを排除して、より正確に回転アンバランスを測定することのできる駆動力伝達装置の試験方法を提供すること。
【解決手段】試験工程(ステップ102)は、本試験工程(ステップ102b)を実施するにあたり、事前に各クラッチプレート、並びにカム機構の軸ずれを排除すべく実施される予備工程(ステップ102a)を含む。この予備工程において、駆動力伝達装置は、その摩擦クラッチの各クラッチプレートが摺接された状態で、フロントハウジング及びインナシャフトが相対回転するように回転駆動される。そして、本試験工程においては、各クラッチプレートが、予備工程後、離間されることなく結合され、フロントハウジング及びインナシャフトが一体に回転駆動された状態で、その回転アンバランス測定が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置の試験方法及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、第1及び第2の回転体に対してスプライン嵌合されることにより軸方向移動可能且つ対応する第1の回転体又は第2の回転体とともに一体回転可能に設けられた第1及び第2のクラッチプレートを交互に複数配置してなる摩擦クラッチを備え、その作動により、第1及び第2の回転体をトルク伝達可能に連結する駆動力伝達装置がある。
【0003】
通常、このような駆動力伝達装置の製造過程には、その第1及び第2の回転体を一体的に回転させることにより回転アンバランスを測定する試験工程が含まれている。例えば、特許文献1に記載の製造方法では、当該駆動力伝達装置がディファレンシャル装置とともに一体に組み付けたデフアッシの状態でその回転アンバランスが測定される。具体的には、摩擦クラッチを摩擦係合させた状態でディファレンシャル装置側の出力軸を回転駆動することにより、第1及び第2の回転体を一体的に回転させ、その回転に伴う振動を検出することにより回転アンバランスを測定する。そして、その測定結果に基づき当該回転アンバランスを是正する仕上げ工程を経たものが完成品として出荷されるようになっている。
【特許文献1】特開2005−77297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、対応する各回転体に対して各クラッチプレートがスプライン嵌合される構成では、そのスプライン嵌合部分に「ガタ」が存在する。このため、その組付け状態においては、各クラッチプレートの軸心は必ずしも一致していない。従って、上記従来例に示されるような単に第1及び第2の回転体を一体的に回転させる構成では、正確にその回転アンバランスを測定できない可能性があり、その回転バランスを適正化するために、上記試験工程及び仕上げ工程を繰り返し行わなければならない場合があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、各クラッチプレートの軸ずれを排除して、より正確に回転アンバランスを測定することのできる駆動力伝達装置の試験方法及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、筒状をなす第1の回転体の内周にスプライン嵌合されることにより該第1の回転体とともに一体回転可能に設けられた第1のクラッチプレートと、前記第1の回転体の筒内において回転自在に支承された軸状をなす第2の回転体の外周にスプライン嵌合されることにより該第2の回転体とともに一体回転可能に設けられた第2のクラッチプレートとを交互に複数配置してなる摩擦クラッチを備え、該摩擦クラッチの作動により、前記第1及び第2の回転体をトルク伝達可能に連結する駆動力伝達装置の試験方法であって、前記各第1及び第2のクラッチプレートを摺接させた状態で、第1及び第2の回転体を相対回転させる第1のステップと、前記第1のステップ後、前記各第1及び第2のクラッチプレートを離間させることなく、該各第1及び第2のクラッチプレートを結合させた状態で、第1及び第2の回転体を一体回転させることにより回転アンバランスを測定する第2のステップと、を備えることを要旨とする。
【0007】
即ち、第1及び第2のクラッチプレートが摺接した状態で第1及び第2の回転体を相対回転させることにより、各クラッチプレートにその回転トルクを印加することができ、これにより、該各クラッチプレートと、これに対応する第1及び第2の回転体とのスプライン嵌合部分の「ガタ」を除去することができる。そして、各クラッチプレートを結合させて、該各クラッチプレートの軸ずれが排除された状態を維持したまま回転アンバランス測定を行うことで、より正確な測定結果を得ることができる。また、特に、当該スプライン形状がインボリュートスプライン等である場合には、そのセルフアライメント作用により、各クラッチプレートは、自律的にセンタリングされる。その結果、各クラッチプレートの軸ずれを効果的に排除することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記摩擦クラッチは、電磁石を駆動源として前記第1及び第2のクラッチプレート間の摩擦係合力を制御可能な電磁クラッチであって、前記第1のステップは、前記第2のステップにおいて通電する電流量よりも小さな電流量を前記電磁石に通電した状態で行われ、前記第2のステップは、前記電磁石への通電を停止することなくその電流量を増加させて行われること、を要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、簡素な構成にて、軸ずれを排除するための第1のステップと回転アンバランスを測定する第2のステップとで、摩擦クラッチの摩擦係合状態を切り替えることができる。そして、その切り替えに際して、電磁石への通電を停止することなく、その電流量を増加させることにより、軸ずれを排除した状態を維持したまま回転アンバランス測定を実施することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、筒状をなす第1の回転体の内周にスプライン嵌合されることにより該第1の回転体とともに一体回転可能に設けられた第1のクラッチプレートと、前記第1の回転体の筒内において回転自在に支承された軸状をなす第2の回転体の外周にスプライン嵌合されることにより該第2の回転体とともに一体回転可能に設けられた第2のクラッチプレートとを交互に複数配置してなる摩擦クラッチを備え、該摩擦クラッチの作動により、第1及び第2の回転体をトルク伝達可能に連結する駆動力伝達装置の製造方法であって、前記各第1及び第2のクラッチプレートを摺接させた状態で、前記第1及び第2の回転体を相対回転させる第1のステップと、前記第1のステップ後、前記各第1及び第2のクラッチプレートを離間させることなく、該各第1及び第2のクラッチプレートを結合させた状態で、第1及び第2の回転体を一体回転させることにより回転アンバランスを測定する第2のステップと、前記第2のステップにおける測定結果に基づいて、前記回転アンバランスを是正する第3のステップと、を備えることを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、回転バランスに優れた駆動力伝達装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各クラッチプレートの軸ずれを排除して、より正確に回転アンバランスを測定することが可能な駆動力伝達装置の試験方法及び製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の駆動力伝達装置1は、有底筒状に形成された第1回転体としてのフロントハウジング3と、中空軸状に形成されてフロントハウジング3の筒内に回転自在に同軸配置された第2回転体としてのインナシャフト4とを備えている。
【0014】
フロントハウジング3の底部3aには、外周にスプラインを有する軸状の連結部5が立設されており、同フロントハウジング3は、この連結部5においてプロペラシャフト(図示略)に連結されることにより、駆動源であるエンジン(図示略)の発生する駆動力に基づき回転する。
【0015】
また、フロントハウジング3の開口端3bには、環状のリヤハウジング7が嵌着されており、インナシャフト4は、その一端がリヤハウジング7の中央孔7aに挿通された状態で、同中央孔7aに設けられたすべり軸受8及びフロントハウジング3の筒内に設けられたボール軸受9により回転自在に支承されている。そして、そのリヤハウジング7側(同図中、右側)の軸端内周には、図示しないリヤディファレンシャルとの連結部(スプライン嵌合部)13が形成されている。
【0016】
また、フロントハウジング3の筒内には、フロントハウジング3とインナシャフト4とをトルク伝達可能に連結可能なメインクラッチ14と、このメインクラッチ14の軸方向、リヤハウジング7側に並置されたパイロットクラッチ15と、これらメインクラッチ14とパイロットクラッチ15との間に介在されたカム機構16とが設けられている。
【0017】
本実施形態では、メインクラッチ14には、軸方向に移動可能に設けられた複数のアウタクラッチプレート17及びインナクラッチプレート18を交互に配置してなる多板式の摩擦クラッチが採用されている。具体的には、各アウタクラッチプレート17はフロントハウジング3の内周に、各インナクラッチプレート18はインナシャフト4の外周にスプライン嵌合されることにより、それぞれ軸方向に移動可能、且つ対応するフロントハウジング3又はインナシャフト4と一体回転可能に設けられている。
【0018】
図2は、回転軸に垂直な断面におけるアウタクラッチプレート17及びフロントハウジング3のスプライン部の断面図である。同図に示すように、アウタクラッチプレート17の各スプライン歯S1は根元部よりも先端部の周方向長さが短い略台形状であり、根元部と先端部との間の側面は、先端部へ近づくにつれて回転方向に対する角度θが徐々に浅くなる曲線で構成されている。この図2では、その曲線がインボリュート曲線で構成されたインボリュートスプラインの場合を例示しているが、インボリュート曲線に限らずトロコイド曲線あるいはサイクロイド曲線であっても良い。一方、フロントハウジング3側にも同様の形状のスプライン歯S2が形成されており、フロントハウジング3のスプライン歯S2の間にアウタクラッチプレート17のスプライン歯S1が噛み合わされて嵌合している。また、インナクラッチプレート18とインナシャフト4とのスプライン形状もこれと同様である。
【0019】
本実施形態のメインクラッチ14は、これら各アウタクラッチプレート17及びインナクラッチプレート18が軸方向に押圧され、互いに摩擦係合することにより、フロントハウジング3とインナシャフト4とを結合、即ちトルク伝達可能に連結するように構成されている。
【0020】
一方、カム機構16は、インナシャフト4に支承されることにより回転自在に設けられた第1カム19と、インナシャフト4の外周にスプライン嵌合されることにより同インナシャフト4と一体回転可能且つ軸方向に移動可能に設けられた第2カム20と、これら第1カム19と第2カム20との間に介在されたボール部材21とを備えてなる。
【0021】
本実施形態では、第1カム19及び第2カム20は、ともに円盤状に形成され、第1カム19はリヤハウジング7側に、第2カム20はメインクラッチ14側に配置されている。第1カム19の外周面はインナクラッチプレート24の内周端とスプライン嵌合し、第2カム20はインナシャフト4の外周にスプライン嵌合している。これら両スプライン嵌合部の形状もまたインボリュートスプラインである。これら第1カム19及び第2カム20の対向面には、複数のU字溝(符号略)が互いに対向するように形成されており、ボール部材21は、これら対向する各U字溝内に配置された状態で第1カム19及び第2カム20により挟持されている。そして、本実施形態のカム機構16は、第1カム19と第2カム20とが相対回転することにより、これら第1カム19と第2カム20との間が離間、即ちカム部材としての第2カム20がメインクラッチ14側に軸方向移動するように構成されている。
【0022】
また、第2クラッチとしてのパイロットクラッチ15には、上記メインクラッチ14と同様に、軸方向に移動可能に設けられた複数のアウタクラッチプレート23及びインナクラッチプレート24を交互に配置してなる多板式の摩擦クラッチが採用されている。具体的には、各アウタクラッチプレート23は、フロントハウジング3の内周に、インナクラッチプレート24は第1カム19の外周にスプライン嵌合されることにより、それぞれ軸方向に移動可能、且つ対応するフロントハウジング3又は第1カム19と一体回転可能に設けられている。尚、このパイロットクラッチ15におけるスプライン形状もまた、上記メインクラッチ14と同様のインボリュートスプラインとなっている。そして、本実施形態のパイロットクラッチ15は、これら各アウタクラッチプレート23及びインナクラッチプレート24が軸方向に押圧され、互いに摩擦係合することにより、フロントハウジング3と第1カム19とをトルク伝達可能に連結するように構成されている。
【0023】
即ち、第2カム20との間にボール部材21を挟持した第1カム19は、パイロットクラッチ15の非作動時、同第2カム20、即ちインナシャフト4とともに一体回転する状態となっており、フロントハウジング3と第1カム19との間には、同フロントハウジング3とインナシャフト4との回転差に相当する回転差が生ずることとなる。そして、パイロットクラッチ15は、その作動により、フロントハウジング3と第1カム19とをトルク伝達可能に連結することで、フロントハウジング3とインナシャフト4(第1カム19)との回転差に基づくトルクをカム機構16に伝達するようになっている。
【0024】
つまり、本実施形態の駆動力伝達装置1では、パイロットクラッチ15の作動により、フロントハウジング3とインナシャフト4との回転差に基づくトルクがカム機構16に伝達され、カム機構16は、そのトルクにより生ずる第1カム19と第2カム20との間の回転差に基づいて同第2カム20を軸方向メインクラッチ側に移動させる。即ち、カム機構16は、パイロットクラッチ15を介して伝達されたフロントハウジング3とインナシャフト4との回転差に基づくトルクを軸方向の押圧力に変換する。そして、その第2カム20がメインクラッチ14を押圧することにより、同メインクラッチ14が作動、即ちフロントハウジング3とインナシャフト4とがトルク伝達可能に連結されるように構成されている。
【0025】
ここで、本実施形態のパイロットクラッチ15は、電磁石25を駆動源とする電磁クラッチとして構成されている。具体的には、リヤハウジング7には、フロントハウジング3の筒外(反フロントハウジング側、図1中右側)に開口する環状溝26が形成されており、電磁石25は、この環状溝26内に収容されている。尚、本実施形態では、リヤハウジング7には、その中央孔7aから軸方向、反フロントハウジング側に延びる円筒部7bが設けられており、電磁石25は、この円筒部7bに設けられたボール軸受27によりリヤハウジング7(及びフロントハウジング3)と相対回転可能に支承されている。
【0026】
また、フロントハウジング3の筒内には、円環状に形成されたアーマチャ28が、同アーマチャ28とリヤハウジング7との間に上記アウタクラッチプレート23及びインナクラッチプレート24を挟む位置において、軸方向に摺動可能にスプライン嵌合されている。そして、本実施形態のパイロットクラッチ15は、このアーマチャ28が、電磁石25の電磁力に吸引され、リヤハウジング7との間に各アウタクラッチプレート23及びインナクラッチプレート24を挟み込むように移動することにより、該各アウタクラッチプレート23及びインナクラッチプレート24が摩擦係合するように構成されている。
【0027】
このように、本実施形態の駆動力伝達装置1では、電磁石25に対する電力供給を通じてパイロットクラッチ15の作動(摩擦係合力)を制御することが可能である。そして、このパイロットクラッチ15の作動を通じてメインクラッチ14の作動、即ち、フロントハウジング3とインナシャフト4との間で伝達可能な駆動力を自在に制御可能な構成となっている。
【0028】
(駆動力伝達装置の製造方法、及び回転アンバランス測定方法)
次に、上記のように構成された駆動力伝達装置の製造方法、及びその回転アンバランス測定方法について説明する。
【0029】
図3のフローチャートに示すように、本実施形態の駆動力伝達装置1は、一次組付け工程(ステップ101)の後、その回転アンバランスを測定する試験工程(ステップ102)を実施し、続く仕上げ工程(ステップ103)において、当該試験結果に基づきその偏重を修正して回転アンバランスを是正することにより製造される。そして、本実施形態では、上記ステップ102の試験工程は、実際にその回転アンバランスを測定する本試験工程(ステップ102b)を実施するにあたり、事前に各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24、並びにカム機構16の軸ずれを排除すべく実施される予備工程(ステップ102a)を含んで構成されている。
【0030】
詳述すると、図4に示すように、本実施形態の試験機30は、駆動力伝達装置1を軸周りに回転自在に支承可能な支持装置31、フロントハウジング3を回転駆動可能な第1回転駆動装置32、インナシャフト4を回転駆動可能な第2回転駆動装置33、及びフロントハウジング3を回転不能に保持可能なクランプ装置34を備えて構成されている。
【0031】
図5(a)に示すように、本実施形態では、支持装置31は、回転自在に平行配置された一対のローラ35、36によって構成されており、試験対象となる駆動力伝達装置1は、その軸線がこれらのローラ35,36と平行となるように該各ローラ35,36上に載置される。第1回転駆動装置32は、図示しない駆動源により回転駆動される一対のローラ37,38と、該各ローラ37,38に掛け渡された駆動ベルト39とからなり、その駆動ベルト39をフロントハウジング3の外周に押し当てることにより同フロントハウジング3を回転駆動することが可能な構成となっている。また、図4に示すように、第2回転駆動装置33は、外周にスプライン嵌合部40が形成された軸状の駆動シャフト41を有しており、この駆動シャフト41をインナシャフト4内に挿入し、その筒内に形成された連結部13(図1参照)にスプライン嵌合させることにより、同インナシャフト4を回転駆動可能な構成となっている。そして、図5(b)に示すように、クランプ装置34は、一対のアーム42,43によりフロントハウジング3の外周を把持することによって、同フロントハウジング3を回転不能に保持(固定)することが可能となっている。
【0032】
また、本実施形態の試験機30は、回転アンバランスを測定するための回転アンバランス測定装置45に加え、支持装置31上に載置された駆動力伝達装置1に対してその電磁石25を駆動するための駆動電力を供給可能な給電装置46を備えている。尚、本実施形態の回転アンバランス測定装置45は、周知の構成を有するものであるため、その具体的特徴の説明は省略するが、その構成の概要及び測定方法の原理についての詳細は、例えば上記特許文献1の記述を参照されたい。そして、本実施形態の試験工程(図3参照、ステップ102)は、この試験機30を用い、駆動力伝達装置1におけるフロントハウジング3及びインナシャフト4相互の回転状態、並びにメインクラッチ14及びパイロットクラッチ15の摩擦係合状態を切り替えることにより、その予備工程及び本試験工程(ステップ102a,102b)が実施される。
【0033】
具体的には、予備工程(ステップ102a)において、駆動力伝達装置1は、そのメインクラッチ14及びパイロットクラッチ15の各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24が摺接された状態で、フロントハウジング3及びインナシャフト4が相対回転するように回転駆動される。そして、本試験工程(ステップ102)においては、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24が、予備工程後、離間されることなく結合され、フロントハウジング3及びインナシャフト4が一体に回転駆動された状態で、その回転アンバランス測定が行われる。
【0034】
さらに詳述すると、図6のフローチャートに示すように、支持装置31上に試験対象の駆動力伝達装置1を載置すると(ステップ201)、先ずクランプ装置34を作動させて当該駆動力伝達装置1のフロントハウジング3を回転不能に保持(固定)する(ステップ202)。次に、摩擦クラッチ機構を構成するメインクラッチ14及びパイロットクラッチ15が、フロントハウジング3とインナシャフト4とが相対回転可能な程度の緩やかな摩擦係合力を発生するように比較的小さな電流量を電磁石25に通電する(ステップ203)。そして、その低電流通電を維持したまま、インナシャフト4の筒内に第2回転駆動装置33の駆動シャフト41を挿入し、同インナシャフト4を回転駆動する(ステップ204)。尚、上記ステップ202〜ステップ204の処理は、所定時間継続して実行される。この所定時間とは、軸ずれを排除するのに必要な時間であり、例えばフロントハウジング3とインナシャフト4が30°相対回転するのに要する時間である。そして、これにより、駆動力伝達装置1は、メインクラッチ14及びパイロットクラッチ15の各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24が摺接された状態で、フロントハウジング3及びインナシャフト4が相対回転する。
【0035】
即ち、本実施形態では、予備工程は、上記ステップ202〜ステップ204の処理により構成され、このとき、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24が摺接することで、インナシャフト4から入力される回転トルクは、インナクラッチプレート18,24から各アウタクラッチプレート17,23へと伝達される。そして、回転不能に保持されたフロントハウジング3に対してインナシャフト4が相対回転することにより、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24と、これに対応するフロントハウジング3及びインナシャフト4(第1カム19)とのスプライン嵌合部分の「ガタ」が除去される。加えて、上述のように、本実施形態では、そのスプライン形状がインボリュートスプラインとなっていることから、そのセルフアライメント作用により、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24は、自律的にセンタリングされる。その結果、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24の軸ずれを効果的に排除することが可能となっている。また、カム機構16のカム部材(第1及び第2カム19,20)についても、軸ずれを修正可能な緩やかな結合状態でスプライン嵌合部のスプライン歯の側面が互いに当接するので軸ずれが解消される。
【0036】
次に、所定時間の経過により、上記ステップ202〜ステップ204に示す予備工程が終了すると、先ず、第2回転駆動装置33の駆動シャフト41をインナシャフト4の筒内から抜脱し(ステップ205)、クランプ装置34によるフロントハウジング3の保持を解除する(固定解除、ステップ206)。そして、これに引き続いて、以下に示す本試験工程(ステップ207〜ステップ209)を実行する。具体的には、先ず電磁石25に通電する電流量を増加し、その摩擦係合力を増大させて各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24を結合させる(ステップ207)。尚、上記ステップ204からこのステップ207までの間、電磁石25への通電は停止されない。そして、第1回転駆動装置32の駆動ベルト39(図5(a)参照)をフロントハウジング3の外周に当接させ、同フロントハウジング3を回転駆動する(ステップ208)。ここで、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24は、上記ステップ205において既に結合状態とされているため、インナシャフト4は、フロントハウジング3とともに一体回転する。そして、この状態を維持したまま、回転アンバランス測定を実施することにより(ステップ209)、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24の軸ずれを排除して正確な測定結果を得ることが可能になっている。
【0037】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)試験工程(ステップ102)は、本試験工程(ステップ102b)を実施するにあたり、事前に各クラッチプレート(アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24)、並びにカム機構16の軸ずれを排除すべく実施される予備工程(ステップ102a)を含む。この予備工程において、駆動力伝達装置1は、そのメインクラッチ14及びパイロットクラッチ15の各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24が摺接された状態で、フロントハウジング3及びインナシャフト4が相対回転するように回転駆動される。そして、本試験工程においては、各アウタクラッチプレート17,23及びインナクラッチプレート18,24が、予備工程後、離間されることなく結合され、フロントハウジング3及びインナシャフト4が一体に回転駆動された状態で、その回転アンバランス測定が行われる。
【0038】
即ち、各クラッチプレートが摺接した状態でフロントハウジング3とインナシャフト4とが相対回転することにより、各クラッチプレートに回転トルクが印加される。そして、その回転トルクに基づいて、各クラッチプレートと、これに対応するフロントハウジング3及びインナシャフト4(第1カム19)とのスプライン嵌合部分の「ガタ」が除去される。そして、各クラッチプレートを結合させて、その状態を維持したまま回転アンバランス測定を行うことにより、各クラッチプレートの軸ずれを排除して、より正確な測定結果を得ることができる。また、特に、当該スプライン形状がインボリュートスプライン等である場合には、そのセルフアライメント作用により、各クラッチプレートは、自律的にセンタリングされる。その結果、各クラッチプレートの軸ずれを効果的に排除することができる。
【0039】
(2)予備工程においては、電磁石25に対し、フロントハウジング3とインナシャフト4とが相対回転可能な程度の緩やかな摩擦係合力を発生する程度の比較的小さな電流量が通電される。そして、本試験工程は、電磁石25への通電を停止することなく、その通電電流量を増加させることにより行われる。
【0040】
上記構成によれば、簡素な構成にて、予備工程と本試験工程とで、摩擦クラッチ(マインクラッチ14及びパイロットクラッチ15)の摩擦係合状態を切り替えることができる。そして、その切り替えに際して、その通電を停止することなく電流量を増加させることにより、軸ずれを排除した状態を維持したまま本試験工程を実施することができる。
【0041】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、図4に示される試験機30を用いて、その試験工程(図3参照ステップ102)を実施することとした。しかし、これに限らず、当該試験工程において、上述の予備工程(ステップ102a)と本試験工程(102b)と連続的に実施可能なものであれば、どのような試験装置を用いて行ってもよい。具体的には、例えば、上記特許文献1に記載の試験装置を用いて実施してもよい。
【0042】
・本実施形態では、相対回転する二部材間をトルク伝達可能に連結する駆動力伝達装置に本発明を適用したが、これに限らず、一入力二出力のディファレンシャル装置の差動制限装置に適用してもよい。また、エンジンとトランスミッションとの間に配置されるクラッチに適用することも可能である。
【0043】
・本実施形態では、本発明を、電磁石25を駆動源とする電磁クラッチを備えた駆動力伝達装置の試験方法に具体化した。しかし、これに限らず、摩擦クラッチを有するものであれば、例えば、その駆動方式が油圧によるものについて具体化してもよい。
【0044】
・本実施形態では、スプライン嵌合する両部材のスプライン歯がともにインボリュート曲線である場合について説明したが、スプライン嵌合する一方の部材のスプライン歯の側面の曲線がスプライン歯の先端部へ近づくにつれて回転方向に対する角度が徐々に浅くなる曲線であれば、他方の部材のスプライン歯は、側面が直線の台形状であっても一応の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】駆動力伝達装置の概略構成を示す断面図。
【図2】アウタクラッチプレート及びフロントハウジングのスプライン部の断面図。
【図3】駆動力伝達装置の製造過程を示すフローチャート。
【図4】試験機の概略構成を示す模式図。
【図5】(a)(b)試験機の概略構成を示す模式図。
【図6】試験工程の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0046】
1…駆動力伝達装置、3…フロントハウジング、4…インナシャフト、14…メインクラッチ、15…パイロットクラッチ、16…カム機構、17,23…アウタクラッチプレート、18,24…インナクラッチプレート、25…電磁石、30…試験機、31…支持装置、32…第1回転駆動装置、33…第2回転駆動装置、34…クランプ装置、45…回転アンバランス測定装置、46…通電装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなす第1の回転体の内周にスプライン嵌合されることにより該第1の回転体とともに一体回転可能に設けられた第1のクラッチプレートと、前記第1の回転体の筒内において回転自在に支承された軸状をなす第2の回転体の外周にスプライン嵌合されることにより該第2の回転体とともに一体回転可能に設けられた第2のクラッチプレートとを交互に複数配置してなる摩擦クラッチを備え、該摩擦クラッチの作動により、第1及び第2の回転体をトルク伝達可能に連結する駆動力伝達装置の試験方法であって、
前記各第1及び第2のクラッチプレートを摺接させた状態で、前記第1及び第2の回転体を相対回転させる第1のステップと、
前記第1のステップ後、前記各第1及び第2のクラッチプレートを離間させることなく、該各第1及び第2のクラッチプレートを結合させた状態で、第1及び第2の回転体を一体回転させることにより回転アンバランスを測定する第2のステップと、
を備えることを特徴とする駆動力伝達装置の試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置の試験方法において、
前記摩擦クラッチは、電磁石を駆動源として前記第1及び第2のクラッチプレート間の摩擦係合力を制御可能な電磁クラッチであって、
前記第1のステップは、前記第2のステップにおいて通電する電流量よりも小さな電流量を前記電磁石に通電した状態で行われ、前記第2のステップは、前記電磁石への通電を停止することなくその電流量を増加させて行われること、
を特徴とする駆動力伝達装置の試験方法。
【請求項3】
筒状をなす第1の回転体の内周にスプライン嵌合されることにより該第1の回転体とともに一体回転可能に設けられた第1のクラッチプレートと、前記第1の回転体の筒内において回転自在に支承された軸状をなす第2の回転体の外周にスプライン嵌合されることにより該第2の回転体とともに一体回転可能に設けられた第2のクラッチプレートとを交互に複数配置してなる摩擦クラッチを備え、該摩擦クラッチの作動により、第1及び第2の回転体をトルク伝達可能に連結する駆動力伝達装置の製造方法であって、
前記各第1及び第2のクラッチプレートを摺接させた状態で、前記第1及び第2の回転体を相対回転させる第1のステップと、
前記第1のステップ後、前記各第1及び第2のクラッチプレートを離間させることなく、該各第1及び第2のクラッチプレートを結合させた状態で、第1及び第2の回転体を一体回転させることにより回転アンバランスを測定する第2のステップと、
前記第2のステップにおける測定結果に基づいて、前記回転アンバランスを是正する第3のステップと、を備えることを特徴とする駆動力伝達装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−39416(P2008−39416A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210053(P2006−210053)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】