説明

高分子ファイバの合糸方法と装置

【課題】電子紡糸系にて作り出される高分子ファイバを太さむらのない優れた糸条に生産性よく合糸できるようにする。
【解決手段】電子紡糸系100から作り出される帯電した高分子ファイバ1を、これと電位差を有した周回面2にて回収しながら高分子ファイバ束3として先へ送り、引出して糸条4に合糸することにより、上記の目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子ファイバの合糸方法と装置、詳しくは、電子紡糸方法によって作り出される帯電した高分子ファイバの合糸方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子の溶融物あるいは溶液を材料として紡糸するのに、機械的な押し出しに代る方法として、電荷誘導により紡糸する電荷誘導紡糸方法(エレクトロスピニング法)ないしは電子紡糸方法(例えば、特許文献1、2参照。)が既に知られている。電子紡糸方法では、ノズルに高分子溶液を供給して線状に流出する高分子溶液がノズルを通じ帯電され、高分子溶液の溶媒の蒸発に伴ない帯電電荷間の距離が小さくなって作用するクーロン力が大きくなり、そのクーロン力が線状の高分子溶液の表面張力に勝った時点で線状の高分子溶液が爆発的に延伸される現象が得られ、しかも、この静電爆発と称される現象が一次、二次、三次と繰り返されることで、サブミクロンの直径を持った高分子ファイバ、いわゆるナノ繊維が作り出される。
【0003】
特許文献1は、バレルに貯蔵された高分子溶液をポンプにて帯電された多数のニードル状のノズルに供給し吐出させることで多量の高分子ファイバを作り出し、これをノズルと異なる極性に帯電されたコレクタの周回面にて回収し積層しながら搬送することで、直径数nm〜数千nmの高分子ファイバが3次元のネットワーク構造に積層した空隙率が非常に高い高多孔性の高分子ウエブを製造できる技術を開示しており、従来の実験的レベルから実用性レベルに高めている。
【0004】
一方、特許文献2は、電子紡糸によるナノ繊維が従来ウエブとして製造され、人造皮革、フィルター、おむつ、生理用ナプキン、癒着紡糸剤、ワイピングクロス、人造血管、骨固定器具など多様に活用されているが、10MPa以上の力学物性を得るのが困難で広範囲な用途への利用に限界があること、このように製造されたナノ繊維のウエブを連続したフィラメントにして力学物性を高めようとすると、ウエブを一定長さに切断して短繊維を製造し、この短繊維から紡績糸を製造する別途の紡績工程を経なければならない問題があることを指摘した上で、電子紡糸にて製造されたナノ繊維のウエブを用いて連続的にフィラメントを製造できる技術を開示している。具体的には、列をなして帯電されたノズルから、これらと逆極性に帯電されたコレクタ内の水または有機溶媒の静的な表面上に高分子ファイバを紡糸してウエブをなすように堆積させながら、この紡糸により堆積するウエブを、ノズルの列方向で見た一方の末端側より1cm以上離れた地点から一定の線速度で回転する回転ローラによって引き上げて連続状フィラメントとしながら、圧搾、延伸、乾燥および巻取りを行っている。このようにして得た連続状フィラメントによって、力学物性の高いウエブが得られその用途範囲をさらに拡大できるとしている。また、連続状フィラメントは撚糸することもできるとしている。
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【特許文献2】特開2006−507428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の技術は、各ノズルから真下に高分子ファイバを紡糸してコレクタ上のノズルに対応した多点へ静的に堆積さながら、その堆積域の広がりにより各ノズルからの高分子ファイバどうしが一連のウエブに絡み合うのを利用して、このウエブの末端側から高分子ファイバ群を引出しながら後続の高分子ファイバ群を連続に追随させながら連続状フィラメントに集束させるものであり、各ノズルから紡糸された高分子ファイバの多点への堆積が静的でほぼ同等であるのに対し、引き出し作用が引き出し側に近い堆積域に集中しやすくなる関係から、引き出し側に近い堆積域と遠い堆積域とで高分子ファイバの引出し量とに差が生じ、連続状フィラメントの太さや力学物性を適正に制御するのは困難で安定しない問題がある。また、多点域に堆積する高分子ファイバの引出しに伴なう消費量の差は堆積量の差を増大させることにもなる。さらに、引出し作用が引き出し側から遠い側の堆積域にもなるべく及びやすくするのに引出し速度を抑える必要があり大量に製造するのも困難である。
【0006】
そこで、本発明者等は種々に実験を繰り返し検討をかさねる中、電子紡糸系により作り出される高分子ファイバを移動するコレクタ面にて回収して先へ送りながらその送り方向に引出すことで、単位時間当りの紡糸量とコレクタ面の移動速度との関係から、移動面での高分子ファイバの堆積量を一定にし、しかもコレクタ面上に回収し堆積させる高分子ファイバの向きをコレクタ面の移動方向に引き揃える作用が得られ、そのまま移動方向、送り方向へ引き出すことで、繊維の引き揃え度の高い、従って特許文献2でいう連続状フィラメントを、高い引き揃え度、高い太さ制御性を持って優れた糸条に合糸できることを見出し、合糸の連続性、生産性も高められる合糸技術を実現するに至った。
【0007】
本発明の目的は、このような開発結果から、電子紡糸系にて作り出される高分子ファイバから太さむらのない優れた糸条が生産性よく簡単かつ低コストに得られる高分子ファイバの合糸方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、電子紡糸系から作り出される帯電した高分子ファイバを、これと帯電やアースへの接続によって電位差を有した周回面にて回収して先へ送りながら、これを周回面から引き出し糸条に合糸することを特徴としている。
【0009】
このような合糸方法では、電子紡糸系から作り出される高分子ファイバの電位差を利用した静電的な回収が、周回面各部においてほぼ均等に連続して繰り返し行うことができる。このように連続に回収する高分子ファイバは周回面にてその移動方向に向かせながら堆積させて、ある程度集束し連続した分断されにくい高分子ファイバ束として先へ送り周回面上から確実に引出せるようにする。周回面から引出す高分子ファイバ束は引出し時の張力により集束度をさらに高めて、太さむらがなく引き揃え度の高い、力学物性に優れた糸条に合糸することができる。
【0010】
上記の方法は、本発明の第10の態様によれば、電子紡糸系から作り出される帯電した高分子ファイバを、これと電位差を有した周回面にて回収しながら先へ送る周回手段と、この周回手段が回収し先へ送る高分子ウエブをその周回面から引き出し糸条に合糸する引出し合糸手段とを備えたことを特徴とする高分子ファイバの合糸装置によって自動的に達成することができる。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、合糸が、撚糸処理を含むことを特徴としている。これにより、合糸した糸条の集束度、力学物性を高められる。
【0012】
これは、本発明の第12の態様によれば、引出し合糸手段は、高分子ファイバを引出す搬送部または巻取り部の上流側に撚糸手段を備えた高分子ファイバの合糸装置として実現し、周回面から引出し搬送部によって搬送されるか巻き取られる糸条が合糸状態に拘束されているのを利用して、非拘束に撚りを与えるだけで合糸を伴い撚糸できる。
【0013】
この装置での引出し合糸手段は、第11の態様によれば、周回面上から高分子ウエブを引出し集束を伴い先へ搬送するか巻取ることを特徴とする高分子ファイバの合糸装置に適用して実現する。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、高分子ファイバの回収は、周回面の周回方向に並ぶ連続域または複数域に対応して作り出される高分子ファイバにつき行うことを特徴としている。これにより、周回面での高分子ファイバの同時回収域が周回面の周回方向に増大し、周回面にて回収し先へ送る高分子ファイバの高分子ファイバの堆積量を高め、送り出す高分子ファイバの高分子ファイバの集束数を高められる。
【0015】
本発明の第4の態様によれば、1つまたは複数の電子紡糸系から周回面の移動方向に直交する方向に広域に作り出す高分子ファイバを、平行に並んだ複数の周回面上に個別に回収して引出し合糸することを特徴としている。これにより、1つまたは複数の電子紡糸系にて、高分子ファイバの作り出し域を周回面の移動方向に直交する方向に拡張するだけで、電子紡糸系を増設することなく、その拡張した作り出し域に見合う数の周回面を並設するだけで、それら周回面上への静電的な誘導にて分割回収して個別に送り出し、複数の糸条に合糸することが同時に行える。
【0016】
このような方法は、本発明の第14の態様によれば、周回手段と、引出し合糸手段とは複数組並んで設置されていることを特徴とする高分子ファイバの合糸装置により実現する。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、合糸した糸条は巻取ることを特徴としている。これにより、合糸した糸条を一次製品として取り扱いやすくし、また、撚糸、組紐、ウエブ、織物、編物などの二次製品の製造に供し、また使用しやすいものとすることができる。
【0018】
本発明の第6の態様によれば、高分子ファイバの周回面からの初期引出しは、周回面に予め巻き付けておいたリード材の引出しに追随させて行うことを特徴としている。これにより、リード材は周回面と同様な静電特性を持たせるか高分子ファイバとの親和性を高めるなどして、周回面上の高分子ファイバを付着、追随させて、高分子ファイバの初期引出しを容易かつ確実に達成することができる。
【0019】
本発明の第7の態様によれば、周回面は回転体の外周面であることを特徴としている。これにより、周回面は1本の糸条に合糸するだけの高分子ファイバ群を回収するのに適した周面域が得られる最小限の大きさの円板として実用し連続回収ができる。
【0020】
この方法は、本発明の第13の態様によれば、周回手段が、回転駆動される回転体である合糸装置として実現できる。
【0021】
本発明の第8の態様によれば、合糸した糸条を複数本撚り合わせて撚糸にすることを特徴としている。これにより、糸条の拠り合わせ数に比例してより合わせ糸の太さ、力学物性が高まる。
【0022】
このような方法は、本発明の第15の態様によれば、周回手段および引出し合糸手段の各組で合糸した糸条を複数本撚り合わせて1本の糸にする撚り合わせ手段を備えたことを特徴とする高分子ファイバの合糸装置により実現する。
【0023】
本発明の第9の態様によれば、撚り合わせ糸も巻取ることを特徴としている。これにより、撚り合わせ糸をそのまま一次製品として取り扱いやすくし、また、ロープ、組紐、ウエブ、織物、編物などの二次製品の製造に供し、また使用しやすいものとすることができる。
【0024】
このような方法は、本発明の第16の態様によれば、撚り合わせた糸を巻取る巻取り手段を備えた高分子ファイバの合糸装置により実現する。
【0025】
さらに、第17の態様によれば、第10〜第15の態様の高分子ファイバの合糸装置のいずれか1つは、電子紡糸系との組み合わせた製糸装置とすることができる。
【0026】
この製糸装置において、第17の態様によれば、電子紡糸系は、回転駆動される周面に多数の紡糸穴ないしは紡糸ノズルを有し、供給される高分子紡糸液を荷電を伴い前記紡糸穴ないしは紡糸ノズルから流出させる紡糸容器を備えたものとすることができ、
紡糸容器に備えた多数の紡糸穴ないしは紡糸ノズルから、紡糸液の供給圧や容器が回転するときの遠心力によって線状流出性、延伸性を高めて単位時間当りの紡糸量、紡糸する高分子ファイバ径の微小化を高められる。
【0027】
また、第1〜9の態様の方法によって、上記のように特長ある品質の各種糸条を提供することができる。
【0028】
本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の具体的な説明および図面の記載によって明らかになる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電子紡糸系から作り出される高分子ファイバ群を周回面にて連続に回収しながらそれらを引き揃えある程度集束した追随性の高い高分子ファイバ束として先へ送り、そのまま高速度で引出しても分断無く確実に合糸でき、太さむらがなく引き揃え度の高い、力学物性に優れた糸条が、生産性よく簡単かつ低コストに得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態に係る高分子ファイバの合糸方法と装置につき図1〜図8を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0031】
本発明の高分子ファイバの合糸方法と装置は、既述の電子紡糸により作り出される高分子ファイバ全般を対象とするものであり、その回収過程を利用して連続した糸条に合糸する。従って、特許文献1、2などにより既に知られる電子紡糸用の各種高分子材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン(FVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル−コ−メタクリレ−ト、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ(塩化ビニリデン−コ−アクリレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系列,アラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリビニルアルコール、セルロ−ス、酢酸セルロ−ス、酢酸酪酸セルロ−ス、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリ(ビス−(2−メトキシ−エトキシエトキシ)) ホスファゼン(MEEP))、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリ(コハク酸エチレン)、ポリ(硫化エチレン)、ポリ(オキシメチレン−オリゴ−オキシエチレン)、ポリ(酸化プロピレン)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリアニリン、(ポリテレフタル酸エチレン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(酸化エチレン)、SBSコポリマー、ポリ乳酸、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などの様々な高分子が適用でき、これらの共重合体および混合物なども適用できる。また、溶媒はこれら高分子を溶解する任意の溶媒を適用できる。
【0032】
本実施の形態の高分子ファイバの合糸方法は、図1の摸式図で例示した電子紡糸系100、図2の模式図で例示した電子紡糸系200、図3の模式図で例示した電子紡糸系300、図4の模式図で例示した電子紡糸系400、図5の模式図で例示した電子紡糸系500、図6の模式図で例示した電子紡糸系600など各種の電子紡糸系から作り出される高分子ファイバ1を、これと帯電やアースへの接続によって電位差を有した周回面2にて回収し先へ送りながら、これを周回面2から引き出し糸条に合糸することを基本的な特徴としている。これにより、電子紡糸系100、200、300、400、500、600などから作り出される高分子ファイバ1の電位差を利用した静電的な回収が、周回面2各部においてほぼ均等に連続して繰り返し行うことができる。このように連続に回収する高分子ファイバ1は周回面2にて恰も足を掬うような形で移動方向に向かせながら堆積させて、ある程度集束し連続した分断されにくい高分子ファイバ束3として先へ送り周回面2上から確実に引出せるようにする。周回面2から引出す高分子ファイバ束3は引出し時の張力により集束度をさらに高めて、太さむらがなく引き揃え度の高い、力学物性に優れた糸条4に合糸することができる。この結果、電子紡糸系100、200、300、400、500、600などから作り出される高分子ファイバ1群を周回面2にて連続に回収しながらそれらを引き揃え作用を有してある程度集束した追随性の高い高分子ファイバ束3として先へ送り、そのまま高速度で引出しても分断無く確実に合糸でき、太さむらがなく引き揃え度の高い、力学物性に優れた糸条4が、生産性よく簡単かつ低コストに得られる。
【0033】
このような高分子ファイバ1の合糸方法の基本的な特徴は、図1〜図6に摸式的に示す各例のように、電子紡糸系100、200、300、400、500、600などから電子紡糸方式にて作り出される帯電した高分子ファイバ1を、これと電位差を持った周回面2にて静電的に回収しながら先へ送る周回手段101、201、301、401、501、601と、これら各周回手段101、201、301、401、501、601が先へ送る高分子ファイバ束3を、各周回手段101、201、301、401、501、601の周回面2から引き出して1本の糸条4に合糸する引出し合糸手段102、202、302、402、502、602とを備えたことを基本的な特徴とする高分子ファイバの合糸装置103、203、303、403、503、603などによって自動的に達成することができ、これら合糸装置103、203、303、403、503、603と、それに対応する電子紡糸系100、200、300、400、500、600などとの組み合わせによって製糸装置104、204、304、404、504、604となる。
【0034】
ここで、高分子ファイバ1の回収は、図1、図3〜図6の各例のように周回面2の周回方向に並ぶ連続域Aか、図2のように周回面2の周回方向に並ぶ複数域Bか、に対応して作り出される高分子ファイバ1につき行う。このようにすると、周回面2での高分子ファイバ1の同時回収域が周回面2の周回方向に増大し、周回面2にて回収し先へ送り引出しに供する高分子ファイバ束3の高分子ファイバ1の堆積量、重なり量を高め、回収し送り出す高分子ファイバ束3における高分子ファイバ1の集束数を高められる。従って、高速度な回収、引出しにてもデニール値を十分に上げられるし、その分力学物性を高められる。また、周回面2の図1の例にて代表して示す幅Cは合糸する糸条4のデニールに対し過大であると、幅広く回収した高分子ファイバ1群を所定のデニール値の糸条4にまで集束させる難度が高くなり、過小であると周回面2の周回方向における連続域Aまたは複数域Bを大きくして堆積量、重なり量を多くすればよいが安定して送り出す難度が高くなるので、合糸のための集束ができる範囲または集束が容易な範囲で周回面2の幅Cを合糸する糸条4の太さよりも大きくした上で、単位時間当りの紡糸量とコレクタ面の移動速度との関係を基に、連続域Aまたは複数域Bを必要範囲に設定するのが好ましい。
【0035】
ここに、周回面2をなす周回手段101、201、301、401、501、601は周回駆動されるベルトによる外周面であっても、回転駆動される回転体の外周面であってもよいが、図1〜図6に示す各例のように回転体とすることにより、周回面2は1本の糸条4に合糸するだけの高分子ファイバ1群を回収するのに適した周面域が得られる最小限の大きさの円板として実用し、回転駆動するモータなどを含めても極く小さなスペースにて連続回収することができる。
【0036】
一方、周回面2の幅Cは小さいほど静電的に回収する高分子ファイバ1の堆積量、重なり量を高めやすいので、電子紡糸される高分子ファイバ1側と周回面2側との電位差は通常、1〜100kVの高電圧を両者間に印加することによる逆極性間のものとして設定されるが、可能な限り高電位差となるように設定して、回収する高分子ファイバ1の堆積量、重なり量と、送り出しの安定度とを高めるのが好適であり、10kV以上とするのがより好適であるし、その方が高速化に対する安定度も向上する利点がある。もっとも、電子紡糸される高分子ファイバ1と周回面2との電位差を、図1〜図6に示す各例での帯電手段としての荷電電源108、208、308、408、508、608と、帯電手段としての荷電電源109、209、309、409、509、609とによる帯電にて与えてもよく、この場合図示する例のように逆極性の帯電とせず、同極性であっても、またアースへの接続によっても、所定の電位差を持たせることで帯電した高分子ファイバ1を帯電した周回面2の側に静電的に回収することができる。
【0037】
電子紡糸される高分子ファイバ1の側の帯電は、例えば、高分子材料から高分子ファイバ1を作り出すための金属製の容器やノズルを帯電させて間接的に行えるし、周回面2側の帯電は、例えば周回手段101、201、301、401、501、601における周回面2を樹脂製の回転体101b、201b、301b、401b、501b、601bによって支持した金属板101a、201a、301a、401a、501a、601aにて形成して帯電させることで行えるし、周回手段101、201、301、401、501、601における高分子ファイバ1の静電的な回収を周回面2の部分に集中させ、他に回収が及ぶようなことを防止することができる。もっとも、周回面2の高分子ファイバ1に対する回収域から引出しに供する送り出し点までの間を帯電させて、それ以外の部分では帯電を中和ないしは消去して帯電域を必要範囲に限定することもできる。それには、周回面2による高分子ファイバ1の回収および集束を伴なう送り出しの連続性を損なわない範囲で金属板101a、201a、301a、401a、501a、601aを周回方向に絶縁間隔を持って配置し、必要な周回位置範囲の金属板部分にのみ帯電させればよい。なお、部分的な帯電保持、帯電除去ができる誘電体による周回面2を構成することでも対応できる。この場合誘電体は金属部材でバックアップするのが帯電保持に有効となり図示例とは金属体と誘電体との配置が逆になる。なお、周回手段101、201、301、401、501、601の非回収域表面は周回面2と絶縁を図った金属板で覆い高分子ファイバ1の回収極性とは逆極性に帯電させておくか電荷を除電ないしは中和しておくことで高分子ファイバ1が非回収域表面に付着するのを防止し、回収率を高められる。非回収域表面に高分子ファイバ1が付着することによるトラブルを回避することができる。
【0038】
図1の例の合糸装置103、図2の例の合糸装置203、図6の例の合糸装置603はいずれも、1つの周回面2を持った周回手段101、201、601と、これに対応する引出し合糸手段102、202、602を備えたものとし、図1の例の合糸装置103、図6の例の合糸装置603では1つの電子紡糸系100、600自体が周回面2の周回方向に並ぶ連続域Aに対応した範囲に向け高分子ファイバ1を図示しない例えば1mm間隔に配列するなどした多数の紡糸穴ないしは紡糸ノズルを通じて作り出す構成としているのに対し、図2の例の合糸装置203ではノズルタイプの複数の電子紡糸系200を周回面2の周回方向に配列して、周回方向に並ぶ複数域Bに向け個々の電子紡糸系200を通じて作り出すように構成している。
【0039】
一方、図3〜図5に示す各例の合糸装置303、403、503は、それぞれ1つの電子紡糸系300、400、500などから、周回面2の周回方向に直交する方向に広域に作り出す高分子ファイバ1群を、平行に並んだ複数の周回面2上に回収して個別に引き出し合糸するようにしている。これにより、電子紡糸系300、400、500などからの高分子ファイバ1の作り出し域を周回面2の周回方向に直交する方向に拡張するだけで、従って紡糸穴や紡糸ノズルの配列域を拡張するだけで、電子紡糸系300、400、500を増設することなく、その拡張した作り出し域に見合う数の周回面2を図2〜図5に示すように並設するだけで、それら周回面2上への静電的な荷電誘導にて分割回収して個別に送り、複数の糸条4に個別に合糸することが同時に行える。このために、図3〜図5に示す例の合糸装置303、403、503は、いずれも、周回面2を持った周回手段101、201、301、401、501、601と、これらに対応する引出し合糸手段102、202、302、402、502、602とを備えたものとしている。もっとも、複数並んだ周回面2のそれぞれに対応して図2の例のようなノズルタイプの電子紡糸系200を周回方向と直交する方向に個別に配列することもできる。
【0040】
図4に示す例の電子紡糸系400は、周面に直径が0.1〜2mm程度の紡糸穴400aを数mmピッチで設けた回転ドラム400bに高分子溶液を図示しないポンプなどにより連続に供給しながら、その供給圧と紡糸容器としての回転ドラム400bが回転することによる遠心力とでより広域によりスムーズにナノ繊維といったより細い高分子ファイバ1を作り出し、複数の周回面2の各連続域Aに十分に供給できるようにしている。
【0041】
また、上記各場合の合糸が、撚糸処理を含むものとすることにより、合糸した糸条4の力学物性をさらに高められる。このために、図1〜図6に示す各合糸装置103、203、303、403、503、603の引出し合糸手段102、202、302、402、502、602は、高分子ファイバ束3を引出し合糸するための図1〜図4、図6に示す例の回転駆動される巻取り部105、205、305、405、605、あるいはこれらに代る図5の例に示す回転駆動される搬送部507の上流側に、それぞれ撚糸手段106、206、306、406、506、606を備えたものとすればよい。ここに、撚糸手段106、206、306、406、506、606は、周回面2から引出し搬送部507によって搬送されるか巻取り部105、205、305、405、605によって巻き取られる糸条4が合糸状態に拘束されているのを利用して、非拘束に撚りを与えるだけで合糸を伴い撚糸できる。従って、周回面2から引出した高分子ファイバ束3を通してまわりから回転により撚りを与えればよく、例えば図7に示すような中空軸モータ700の中空軸700a内に通して行える。中空軸700aによる回転は図1〜図7に示すように周回面2からの引出し位置と巻取り部105、205、305、405、605による巻取り点、または搬送部507による搬送点とを結ぶ線に対して少なくとも一端側が片寄って配置されるだけで、回転する内周面がそれに通されている高分子ファイバ束3にまわりから摺接して撚りを与え合糸することができる。
【0042】
また、図1〜図4、図6に示す例の引出し合糸装置103、203、303、403、603のように、合糸した糸条4を巻取り部105、205、305、405、605により巻取ることで、合糸した糸条4を一次製品として取り扱いやすくし、また、撚糸、組紐、ウエブ、織物、編物などの二次製品の製造に供し、また使用しやすいものとすることができる。
【0043】
また、図5に示す例の引出し合糸装置503では、複数並んだ周回面2から引出した複数の高分子ファイバ束3を個別の撚糸手段506によって撚糸した複数の糸条4とし、これを搬送部507を介して巻取り部505の上流にある次の撚り合わせ手段511に通して撚り合わせ1本の撚り合せ糸14に二次合糸し、巻取り部505にて巻取るようにしている。このように、合糸した糸条を複数本撚り合わせて撚り合せ糸14にすることにより、糸条4の拠り合わせ数に比例してデニールに併せ力学物性が高まる。この場合の撚り合せ手段511も、先の撚糸手段506の場合同様に図8に示すような中空軸モータ700の中空軸700aを同様に用いることができる。また、撚り合わせ糸14の巻取りにより、そのまま一次製品として取り扱いやすくし、また、ロープ、組紐、ウエブ、織物、編物などの二次製品の製造に供し、また使用しやすいものとすることができる。
【0044】
図6の例では特に、金属製の細線や糸などをリード材21として予め周回面2に巻き付けておき、このリード材21の引出しに周回面2上に回収し先へ送る高分子ファイバを追随させて周回面2上に回収する高分子ファイバ1の初期引出しを行うようにしている。これにより、リード材21は周回面2と同様な静電特性を持たせるか高分子ファイバ1との親和性や引っ掛かり性を高めるなどして、周回面2上の回収した高分子ファイバ1を付着、追随させて、高分子ファイバ1の初期引出しを容易かつ確実に達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
電子紡糸系にて作り出される高分子ファイバからの合糸に実用して、太さむらのない優れた糸条を生産性よく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る実施の形態の高分子ファイバの合糸方法と装置の1つの例を示す摸式図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の高分子ファイバの合糸方法と装置の別の例を示す摸式図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の高分子ファイバの合糸方法と装置の他の例を示す摸式図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の高分子ファイバの合糸方法と装置の今1つの例を示す摸式図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の高分子ファイバの合糸方法と装置のさらに別の例を示す摸式図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の高分子ファイバの合糸方法と装置のさらに他の例を示す摸式図である。
【図7】図1〜図6に示す例での撚糸手段による撚糸状態を示す斜視図である。
【図8】図5に示す例の撚り合せ手段による複数の糸条の撚り合せ状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 高分子ファイバ
2 周回面
3 高分子ファイバ束
4 糸条
14 撚り合わせ糸
21 リード材
100、200、300、400、500、600 電子紡糸系
101、201、301、401、501、601 周回手段
101a、201a、301a、401a、501a、601a 金属板
101b、201b、301b、401b、501b、601b 回転体
102、202、302、402、502、602 引出し合糸手段
103、203、303、403、503、603 合糸装置
104、204、304、404、504、604 製糸装置
105、205、305、405、505、605 巻取り部
106、206、306、406、506、606 撚糸手段
507 搬送部
108、208、308、408、508、608 荷電電源
109、209、309、409、509、609 荷電電源
511 撚り合わせ手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子紡糸系から作り出される帯電した高分子ファイバを、これと電位差を有した周回面にて回収して先へ送りながら、これを周回面から引き出し糸条に合糸することを特徴とする高分子ファイバの合糸方法。
【請求項2】
合糸は、撚糸処理を含む請求項1に記載の高分子ファイバの合糸方法。
【請求項3】
高分子ファイバの回収は、周回面の周回方向に並ぶ連続域または複数域に対応して作り出される高分子ファイバにつき行う請求項1、2のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸方法。
【請求項4】
1つまたは複数の電子紡糸系から周回面の移動方向に直交する方向に広域に作り出す高分子ファイバを、平行に並んだ複数の周回面上に個別に回収して引出し合糸する請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸方法。
【請求項5】
糸条は巻取る請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸方法。
【請求項6】
高分子ファイバの周回面からの初期引出しは、周回面に予め巻き付けておいたリード材の引出しに追随させて行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の合糸方法。
【請求項7】
周回面は回転体の外周面である請求項1〜6のいずれか1項に記載の合糸方法。
【請求項8】
個別に合糸した糸条を複数本撚り合わせて撚り合わせ糸にする請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸方法。
【請求項9】
撚り合わせ糸は巻取る請求項8に記載の高分子ファイバの合糸方法。
【請求項10】
電子紡糸系から作り出される帯電した高分子ファイバを、これと電位差を有した周回面にて回収しながら先へ送る周回手段と、この周回手段が回収し先へ送る高分子ウエブをその周回面から引き出し糸条に合糸する引出し合糸手段とを備えたことを特徴とする高分子ファイバの合糸装置。
【請求項11】
引出し合糸手段は、周回面上から高分子ウエブを引出して集束させて合糸し先へ搬送するか巻取る請求項10に記載の高分子ファイバの合糸装置。
【請求項12】
引出し合糸手段は、高分子ファイバを引出す搬送部または巻取り部の上流側に撚糸手段を備えている請求項10、11のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸装置。
【請求項13】
周回手段は、回転駆動される回転体である請求項10〜12のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸装置。
【請求項14】
周回手段と、引出し合糸手段とは周回手段の移動方向に直交する方向に複数組並んで設置されている請求項10〜13のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸装置。
【請求項15】
周回手段および引出し合糸手段の各組で合糸した糸条を複数本撚り合わせて1本の撚り合わせ糸にする撚り合わせ手段を備えた請求項14に記載の高分子ファイバの合糸装置。
【請求項16】
撚り合わせた糸を巻取る巻取り手段を備えた請求項15に記載の高分子ファイバの合糸装置。
【請求項17】
電子紡糸系と、請求項10〜16のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸装置とを備えたことを特徴とする製糸装置。
【請求項18】
電子紡糸系は、回転駆動される周面に多数の紡糸穴ないしは紡糸ノズルを有し、供給される高分子紡糸液を荷電を伴い前記紡糸穴ないしは紡糸ノズルから流出させる紡糸容器を備えている請求項17に記載の製糸装置。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の高分子ファイバの合糸方法によって合糸された糸条。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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