説明

高分子固体電解質およびその用途

【課題】形状安定性およびイオン伝導性に優れた固体電解質を工業的に効率良く提供する。
【解決手段】(i)式(1):


[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または−CH2O(CR1R2R3)である。R、R2、R3は水素原子または−CH2O(CH2CH2O)nR4であり、nおよびR4はR、R2、R3の間で異なっていても良い。Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、nは0〜12の整数である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜95モル%、およびエチレンオキサイドから誘導される繰り返し単位95〜5モル%を有する重量平均分子量が10〜10の範囲内であるポリエーテル共重合体、(ii)マレイミド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物から選ばれる少なくとも一つの架橋助剤、並びに(iii)光重合開始剤からなる高分子固体電解質用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子固体電解質用組成物およびその架橋体に関し、特に、電池、キャパシター、光電変換素子、センサー等の電気化学デバイス用材料として好適な架橋高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池、キャパシター、光電変換素子、センサーなどの電気化学デバイスを構成する電解質は、イオン伝導性の点から溶液またはペースト状のものが用いられている。しかし、液漏れによる機器の損傷の恐れがあること、また電解液を含浸させるセパレーターを必要とするので、デバイスの超小型化、薄型化に限界があることなどが問題視されている。
【0003】
これに対し無機結晶性物質、無機ガラス、有機高分子系物質などの固体電解質が提案されている。有機高分子系物質は一般に加工性、成形性に優れ、得られる固体電解質が柔軟性、曲げ加工性を有し、応用されるデバイスの設計の自由度が高くなることなどの点からその進展が期待されるが、溶液やペースト状の電解質に比べてイオン伝導性が劣るため、現状では実用化に至っていない。
【0004】
しかしながら、エチレンオキシドの単独重合体とアルカリ金属イオン系におけるイオン伝導性の発見より、高分子固体電解質の研究は活発に行われている。
【0005】
その結果、有機高分子系の固体電解質としては、ポリエチレンオキシドなどのポリエーテルが、その運動性の高さ及び金属カチオンの溶解性の点で最も有望と考えられている。
【0006】
ポリエーテル中でのイオンの移動はポリマーの結晶部ではなくアモルファス部分で起こると推測されている。そのため、ポリエチレンオキシドの結晶性を低下させるために、種々のエポキシドとの共重合が行われてきた。
【0007】
特許文献1には、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体からなる固体電解質、特許文献2にはエチレンオキシドとメチルグリシジルエーテルとの共重合体からなる固体電解質が示されている。しかしながら、いずれもイオン伝導度は必ずしも満足のいくものではなかった。
【0008】
また、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド共重合体と低分子量のポリエチレングリコール誘導体の混合物に特定のアルカリ金属塩を含有させて高分子固体電解質に応用する試みが特許文献3に提案されているが、実用的に充分な伝導度は得られていない。
【0009】
近年、イオン伝導度の高い共重合体として、特許文献4にはエチレンオキシドと側鎖にエチレンオキシド単位を有するオキシラン化合物との共重合体が記載されている。しかしながら、それらの重合体は重合未架橋体のために形状安定性に問題があり、特に高温ではフィルムとしての強度がなく、高分子固体電解質として使用することができなかった。
【0010】
イオン導電性と形状安定性を両立するためには重合体を架橋する必要がある。一般的な架橋の方法として、UV架橋と熱架橋が知られている。これらの方法は、目的や用途に応じて使い分けられているが、電解質フィルムを製造するにあたっては、熱架橋よりもUV架橋が好ましく用いられる。その理由として、熱架橋は反応に要する時間が数時間と長く、量産性が高いロール・ツー・ロール製法に適しておらず、電解質フィルムを効率的に製造することが出来ないことが挙げられる。また、架橋剤として過酸化物を使用した場合、リチウムイオン電池の集電体である銅が過酸化物により腐食され、電池性能の低下を招く恐れがある。
【0011】
一方、特許文献5には重合体を架橋させるための第3成分として反応性基を有するモノマーを用いた共重合体のUV架橋についての記載がある。しかしながら、第3成分の導入によって、この共重合体の高分子固体電解質としての性能が悪化し、電極と組み合わせた場合に電池のサイクル特性が著しく低下する。
【0012】
更に、反応性基がアリル基などのエチレン性の不飽和基では、熱や紫外線に不安定で、保管状態で溶媒に不溶なゲル化合物を生成し易い。また、反応性ケイ素基では空気中の水分との反応が起こり、やはり、溶媒に不溶なゲル化合物を生成するので、フィルムとして取り扱うことが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭62-249361号公報
【特許文献2】米国特許USP4,818,644号公報
【特許文献3】特開平2−235957号公報
【特許文献4】特開平9−324114号公報
【特許文献5】WO97/42251公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のような事情を鑑み、本発明の課題は、形状安定性およびイオン伝導性に優れた固体電解質を工業的に効率良く提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリエーテル共重合体、架橋助剤、光重合開始剤を適宜選択することにより、固体電解質フィルムの作製において、短時間に効率的に紫外線などの活性エネルギー線照射により架橋反応が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の(i)ないし(iii)の成分からなる高分子固体電解質用組成物、架橋高分子固体電解質、およびそれを用いてなるリチウムポリマー電池を提供する。
項1
(i)式(1):
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または−CH2O(CR1R2R3)である。R、R2、R3は水素原子または−CH2O(CH2CH2O)nR4であり、nおよびR4はR、R2、R3の間で異なっていても良い。Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、nは0〜12の整数である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜95モル%、および
式(2):
【化2】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位95〜5モル%
を有する重量平均分子量が10〜10の範囲内であるポリエーテル共重合体、
(ii) マレイミド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物から選ばれる少なくとも一つの架橋助剤、並びに
(iii)光重合開始剤
からなる高分子固体電解質用組成物。
項2 架橋助剤が、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N,N'−1,3−フェニレンジマレイミド、N,N'−1,4−フェニレンジマレイミド、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートから選ばれる少なくとも一つである架橋助剤である項1又は2に記載の高分子固体電解質用組成物。
項3 項1又は2に記載の高分子固体電解質用組成物および電解質塩化合物からなる高分子固体電解質を架橋して得られる架橋高分子固体電解質。
項4 非プロトン性有機溶媒が更に添加された高分子固体電解質を架橋して得られる項3に記載の架橋高分子固体電解質。
項5 電解質塩化合物がリチウム塩化合物である項3又は4記載の架橋高分子固体電解質。
項6 非プロトン性有機溶媒がエーテル類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも一つである項4又は5に記載の架橋高分子固体電解質。
項7 非プロトン性有機溶媒が数平均分子量で200〜5000の直鎖型又は分岐型のポリアルキレングリコールの誘導体又は該誘導体の金属塩からなる群より選ばれる項4又は5に記載の架橋高分子固体電解質。
項8 架橋高分子固体電解質の純水浸漬時の膨潤度が100〜1000%の範囲にある項3〜7のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質。
項9 項3〜8のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質、正極および負極を有してなる電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明を用いることにより、得られる架橋高分子固体電解質は良好なイオン伝導性を保持し、かつ、形状安定性に優れる。また、その架橋高分子固体電解質を用いて構成される電池はサイクル特性に優れている。
【0018】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
式(1)の化合物は市販品からの入手、またはエピハロヒドリンとアルコールからの一般的なエーテル合成法等により容易に合成が可能である。市販品から入手可能な化合物としては、例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ターシャリーブチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシヘプタン、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシへキサン、グリシジルフェニルエーテル、1,2−エポキシペンタン、グリシジルイソプロピルエーテルなどが使用できる。これら市販品のなかでは、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテルが好ましく、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテルが特に好ましい。合成によって得られる式(1)で表される単量体では、Rは−CH2O(CR1R2R3)が好ましく、R、R2、R3の少なくとも一つが−CH2O(CH2CH2O)nR4であることが好ましい。R4は炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4がより好ましい。nは2〜6が好ましく、2〜4がより好ましい。
【0020】
式(2)の化合物は基礎化学品であり、市販品を容易に入手可能である。
【0021】
本発明の共重合体は、(A):式(1)の単量体から誘導された繰り返し単位
【化3】

[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または−CH2O(CR1R2R3)である。R、R2、R3は水素原子または−CH2O(CH2CH2O)nR4であり、nおよびR4はR、R2、R3の間で異なっていても良い。Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、nは0〜12の整数である。]及び
(B):式(2)の単量体から誘導された繰り返し単位
【化4】

を有する。
【0022】
ここで繰り返し単位(A)は、2種以上のモノマーからなるものであってもよい。
【0023】
Rは−CH2O(CR1R2R3)が好ましく、R、R2、R3の少なくとも一つが−CH2O(CH2CH2O)nR4であることが好ましい。R4は炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4がより好ましい。nは2〜6が好ましく、2〜4がより好ましい。
【0024】
重合反応は次のようにして行える。開環重合触媒として有機アルミニウムを主体とする触媒系、有機亜鉛を主体とする触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系などの配位アニオン開始剤、または対イオンにKを含むカリウムアルコキシド、ジフェニルメチルカリウム、水酸化カリウムなどのアニオン開始剤を用いて、各モノマーを溶媒の存在下又は不存在下、反応温度10〜120℃、撹拌下で反応させることによってポリエーテル共重合体が得られる。重合度、あるいは得られる共重合体の性質などの点から、配位アニオン開始剤が好ましく、なかでも有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系が取り扱い易く特に好ましい。
【0025】
本発明のポリエーテル共重合体においては、繰り返し単位(A)、および繰り返し単位(B)のモル比が、(A)5〜95モル%、及び(B)95〜5モル%が適当であり、好ましくは(A)10〜95モル%、及び(B)90〜5モル%、更に好ましくは(A)15〜95モル%、及び(B)85〜5モル%である。繰り返し単位(B)が95モル%を越えるとガラス転移温度の上昇とオキシエチレン鎖の結晶化を招き、結果的に固体電解質のイオン伝導性を著しく悪化させることとなる。一般にポリエチレンオキシドの結晶性を低下させることによりイオン伝導性が向上することは知られているが、本発明のポリエーテル共重合体はこの点において格段に優れている。
【0026】
ポリエーテル共重合体の分子量は、良好な加工性、成形性、機械的強度、柔軟性を得るために、重量平均分子量10〜10の範囲内、好ましくは5×10〜5×10の範囲内のものが適する。重量平均分子量が10未満の共重合体では、形状安定性を高めるために架橋密度を高くする必要があるために、プラスチック状のものしか得られず、伸びも殆どなく、イオン伝導度が低い。重量平均分子量が10より大きい共重合体では、著しく加工性が悪く取り扱いが困難である。
【0027】
本発明においてはポリエーテル共重合体のガラス転移温度は−40℃以下、融解熱量は90J/g以下のものが好ましい。ガラス転移温度及び融解熱量が上記値の範囲内でイオン伝導性がより良好である。ポリエーテル共重合体のガラス転移温度及び融解熱量は示差走査熱量計(DSC)により測定したものである。
【0028】
本発明の架橋前の共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体何れの共重合タイプでも良い。ランダム共重合体の方がよりポリエチレンオキシドの結晶性を低下させる効果が大きいので好ましい。
【0029】
本発明の架橋高分子固体電解質は、ポリエーテル共重合体、架橋助剤、光重合開始剤からなる高分子固体電解質用組成物に電解質塩化合物を共存させて高分子固体電解質を構成し、非プロトン性有機溶媒の存在下または不存在下に光架橋した架橋体である。紫外線などの活性エネルギー線を照射することによって短時間で架橋反応が進行するため、熱架橋に比べて効率的であり、加熱によるその他接合部材等の熱変形などの問題が生じない。本発明はイオン伝導性の高い共重合体を有する複合体の物性を維持しながら、形状安定性に優れた高分子固体電解質を効率よく提供することにある。
【0030】
この共重合体の架橋は、以下に示す架橋助剤を用いることで可能である。
【0031】
架橋助剤は、炭素−炭素不飽和結合を有する有機化合物であり、不飽和結合は二重結合が好ましく、マレイミド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物がより好ましく用いられる。
【0032】
マレイミド系化合物の具体例としては、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−ニトロフェニルマレイミド、N−アミノフェニルマレイミド、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、N−(1−ピレニル)マレイミド、N−ブロモメチル−2,3−ジクロロマレイミド、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドへキサン、4,4'−ビスマレイミドジフェニルメタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、N,N'−1,3−フェニレンジマレイミド、N,N'−1,4−フェニレンジマレイミド、6,7−メチレンジオキシ−4−メチル−3−マレイミドクマリン、2,4−ビスマレイミドトルエン、2,2'−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3−マレイミドプロピオン酸、N−サクシニミジル 3−マレイミドベンゾエート、N−サクシニミジル 3−マレイミドプロピオネート、N−サクシニミジル 4−マレイミドブチレート、N−サクシニミジル 4−マレイミドヘキサノエート、N−[4−(2−ベンズイミダゾリル)フェニル]マレイミド、ポリフェニルメタン マレイミドなどが挙げられる。好ましくは、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N,N'−1,3−フェニレンジマレイミド、N,N'−1,4−フェニレンジマレイミドが挙げられる。
【0033】
アクリル系化合物の具体例としては、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エトキシレーテッド グリセリン トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンメタノールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。好ましくは、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートが挙げられる。
【0034】
メタクリル系化合物の具体例としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンメタノールジアクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。好ましくは、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。
【0035】
架橋反応に用いられる架橋助剤の量はポリマー100重量部に対して0.1〜6重量部の範囲内が好ましく、更に好ましくは0.5〜4重量部である。
【0036】
本発明に用いることができる光重合開始剤として、アルキルフェノン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン類、トリクロロメチルトリアジン、ビスイミダゾール類、オキシムエステル類などが挙げられる。好ましくは、アルキルフェノン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が用いられる。光重合開始剤として前述の化合物を2種類以上併用することは自由である。
【0037】
アルキルフェノン系光重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オンなどが挙げられる。2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンが好ましい。
【0038】
ベンゾフェノン系光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、メチル 2−ベンゾイルベンゾエートなどが挙げられる。ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが好ましい。
【0039】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の具体例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。
【0040】
本発明において用いることができる電解質塩化合物は、ポリエーテル共重合体又は該共重合体の架橋体、および必要なら非プロトン性有機溶媒からなる混合物に相溶することが好ましい。ここで相溶とは電解質塩が結晶化などして析出してこない状態を意味する。
【0041】
本発明においては、以下に挙げる電解質塩化合物が好ましく用いられる。
即ち、金属陽イオン、アンモニウムイオン、アミジニウムイオン、及びグアニジウムイオンから選ばれた陽イオンと、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6−、PF、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、XSO、[(XSO)(XSO)N]、[(X1SO2)(X2SO2)(X3SO2)C]、及び[(X1SO2)(X2SO2)YC]−から選ばれた陰イオンとからなる化合物が挙げられる。但し、X、X、X、およびYは電子吸引基である。好ましくはX1、X2、及びX3は各々独立して炭素数が1〜6のパーフルオロアルキル基又は炭素数が6〜18のパーフルオロアリール基であり、Yはニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基又はシアノ基である。X1、X2及びX3は各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0042】
金属陽イオンとしては遷移金属の陽イオンを用いる事ができる。好ましくはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn及びAg金属から選ばれた金属の陽イオンが用いられる。又、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca及びBa金属から選ばれた金属の陽イオンを用いても好ましい結果が得られる。電解質塩化合物として前述の化合物を2種類以上併用することは自由である。Liイオン電池においては電解質塩化合物としては、Li塩化合物が好ましく用いられる。
【0043】
本発明において、電解質塩化合物の使用量は、電解質塩化合物のモル数/エーテル共重合体のエーテル酸素原子の総モル数の値が0.0001〜5が好ましく、更に好ましくは0.001〜0.5の範囲がよい。
【0044】
本発明では非プロトン性有機溶媒を例えば可塑剤として添加してよい。高分子固体電解質に非プロトン性有機溶媒を混入すると、ポリマーの結晶化が抑制されガラス転移温度が低下し、低温でも無定形相が多く形成されるためにイオン伝導度が良くなる。非プロトン性有機溶媒は、本発明で使用できる高分子固体電解質と組み合わせることで、内部抵抗の小さい高性能の電池を得るのに適している。本発明の高分子固体電解質は、非プロトン性有機溶媒と組み合わせることでゲル状となってよい。ここで、ゲルとは溶媒によって膨潤したポリマーである。
【0045】
非プロトン性有機溶媒としては、非プロトン性のエーテル類及びエステル類が好ましい。具体的には、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、 1,2-ジメトキシエタン、 1,2-ジメトキプロパン、 3-メチル-2-オキサゾリドン、テトラヒドロフラン、 2-メチルテトラヒドロフラン、 1,3-ジオキソラン、 4,4-メチル-1 ,3-ジオキソラン、 tert-ブチルエーテル、 iso-ブチルエーテル、 1,2-エトキシメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングライム、エチレンジグライム、メチルテトラグライム、メチルトリグライム、メチルジグライム、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いても良い。特に好ましいのはプロピレンカーボネート、γブチロラクトン、ブチレンカーボネート、 3-メチル-2-オキサゾリンである。又トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルも特に好ましい非プロトン性有機溶媒である。
【0046】
非プロトン性溶媒は上記の他、直鎖型または分岐型のポリアルキレングリコールの誘導体又は該誘導体の金属塩を好ましく用いることができる。数平均分子量が200〜5000の直鎖型または分岐型のポリアルキレングリコールの誘導体又は該誘導体の金属塩がより好ましい。ポリアルキレングリコールとしてはポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール等が挙げられ、その誘導体としては炭素数1〜8のアルキル基からなるエステル誘導体又はエーテル誘導体がある。
【0047】
誘導体の内、エーテル誘導体としてはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のジエーテル類、エステル誘導体としてはポリアルキレングリコールジ酢酸エステル(例えば、ポリエチレングリコールジ酢酸エステル)などのエステル類を挙げることができる。
【0048】
金属塩としてはポリアルキレングリコールのナトリウム、リチウム、ジアルキルアルミニウム塩等を挙げることができる。
誘導体の金属塩としては、モノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル、モノヘキシルエーテル、モノ-2-エチル-ヘキシルエーテル等のモノエーテル類、及びモノ酢酸エステル等のモノエステル類のナトリウム、リチウム、ジアルキルアルミニウム塩(例えば、ジオクチルアルミニウム塩)等がある。ポリアルキレングリコール誘導体の金属塩の例は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルのジオクチルアルミニウム塩、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルのジオクチルアルミニウム塩である。
【0049】
使用するポリアルキレングリコールの数平均分子量の更に好ましい範囲は200〜2000である。
非プロトン性有機溶媒の配合割合は任意であるが、ポリエーテル共重合体100重量部に対して、0〜1000重量部、好ましくは1〜500重量部である。
【0050】
架橋高分子固体電解質を使用する際に難燃性が必要な場合には、難燃剤を使用できる。難燃剤として、臭素化エポキシ化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛から選択して有効量を添加する。
【0051】
本発明の架橋高分子固体電解質の製造方法は特に制約はないが、それぞれの成分を機械的に混合後、架橋させるなどの方法によって製造されるが、架橋後に非プロトン性有機溶媒に長時間浸漬して含浸させても良い。機械的に混合する手段としては、各種ニーダー類、オープンロール、押出機などを任意に使用できる。
光架橋に用いる活性エネルギー線は、紫外線、電子線等を用いることができる。紫外線が好ましい。
【0052】
電解質塩化合物および必要な非プロトン性有機溶媒をポリエーテル共重合体に混合する方法に特に制限はないが、電解質塩化合物および必要な非プロトン性有機溶媒を含む溶液にポリエーテル共重合体を長時間浸漬して含浸させる方法、電解質塩化合物および必要な非プロトン性有機溶媒をポリエーテル共重合体へ機械的に混合させる方法、ポリエーテル共重合体および電解質塩化合物を非プロトン性有機溶媒に溶かして混合させる方法あるいはポリエーテル共重合体を一度他の溶媒に溶かした後、非プロトン性有機溶媒を混合させる方法などがある。
他の溶媒を使用して製造する場合の他の溶媒としては各種の極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が単独、或いは混合して用いられる。他の溶媒は、ポリエーテル共重合体を架橋する前、架橋する間または架橋した後に除去できる。
【0053】
本発明で示された架橋高分子固体電解質は機械的強度と柔軟性に優れており、その性質を利用して大面積薄膜形状の固体電解質とすることが容易である。また高い電気伝導性を利用してアルカリ金属イオン、Cuイオン、Caイオン、及びMgイオン等の陽イオンのイオン電極の隔膜としての利用も考えられる。本発明の架橋高分子固体電解質は特に電池、キャパシター、センサー等の電気化学デバイス用材料として好適である。例えば本発明の架橋高分子固体電解質を用いた電池の作製が可能である。
【0054】
この場合、正極材料としてはLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物などが挙げられ、具体的には、LiCoO,LiNiO,MnO,LiMnO,LiMn,LiMn2−y,α−V,TiS、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリピレン、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリピロール、ポリフラン、ポリアズレン等が挙げられる。好ましくはLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiFeOである。
【0055】
負極材料としてはリチウムがグラファイトあるいはカーボンの層間に吸蔵された層間化合物、リチウム金属、リチウム-鉛合金等がある。好ましくはグラファイトあるいはカーボンの層間に吸蔵された層間化合物、リチウム金属である。
【0056】
架橋高分子固体電解質をフィルムとして取り扱う場合、そのフィルムの厚さは5〜100μmの範囲内が好ましく、更に好ましくは10〜50μmの範囲である。
【0057】
架橋高分子固体電解質の純水浸漬時の膨潤度は、100〜1000%の範囲内であり、好ましくは100〜800%の範囲のものが適する。膨潤度が100%未満のものは、プラスチック状となり、イオン伝導度が低い。また、1000%を超えるものは形状安定性が著しく悪く、電解質フィルムの形状維持が困難である。
【0058】
架橋して得られた高分子固体電解質の純水浸漬時の膨潤度は、以下の方法によって求めた。
膨潤度=(Wa−Wb)/ Wb×100
但し、純水浸漬24時間後の高分子固体電解質の重量:Wa
純水浸漬前の高分子固体電解質の重量:Wb
純水浸漬試験時の水温は23℃とする。
【0059】
実施例
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[合成例(ポリエーテル共重合用触媒の製造)]
撹拌機、温度計及び蒸留装置を備えた3つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10g及びトリブチルホスフェート35gを入れ、窒素気流下に撹拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ残留物として固体状の縮合物質を得た。以後、断りの無い限りこれを重合触媒として使用した。
【0061】
ポリエーテル共重合体のモノマー換算組成はH NMRスペクトルにより求めた。ポリエーテル共重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定を行い、標準ポリスチレン換算により数平均分子量および重量平均分子量を算出した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定は株式会社島津製作所の測定装置RID−6A、昭和電工(株)製カラムのショウデックスKD−807、KD−806、KD−806M及びKD−803、及び溶媒DMFを用いて60℃で行った。ガラス転移温度、融解熱量は理学電気(株)製示差走査熱量計DSC8230Bを用い、窒素雰囲気中、温度範囲−100〜80℃、昇温速度10℃/minで測定した。導電率σの測定は20℃、1mmHgで72時間真空乾燥したフィルムを白金電極ではさみ、電圧0.5V、周波数範囲5Hz〜1MHzの交流法を用い、複素インピーダンス法により算出した。
【0062】
[重合例1]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(a):
【化5】

50g及び溶媒としてn−ヘキサン1000gを仕込み、化合物(a)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド160gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー200gを得た。この共重合体のガラス転移温度は−66℃、重量平均分子量は180万、融解熱量は19J/gであった。H NMRスペクトルによるこの重合体のモノマー換算組成分析結果はエチレンオキシド:化合物(a)=84:16mol%であった。
【0063】
[重合例2]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(b):
【化6】

110g及び溶媒としてn−ヘキサン1000gを仕込み、化合物(b)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド130gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー210gを得た。この共重合体のガラス転移温度は−68℃、重量平均分子量は170万、融解熱量は16J/gであった。H NMRスペクトルによるこの重合体のモノマー換算組成分析結果はエチレンオキシド:化合物(b)=70:30mol%であった。
【0064】
[重合例3]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(c):
【化7】

150g及び溶媒としてn−ヘキサン1000gを仕込み、化合物(c)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド150gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー260gを得た。この共重合体のガラス転移温度は−72℃、重量平均分子量は180万、融解熱量は8J/gであった。H NMRスペクトルによるこの重合体のモノマー換算組成分析結果はエチレンオキシド:化合物(c)=80:20mol%であった。
【0065】
[重合例4]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(d):
【化8】

175g及び溶媒としてn−ヘキサン1000gを仕込み、化合物(d)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド60gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー210gを得た。この共重合体のガラス転移温度は−75℃、重量平均分子量は150万、融解熱量は14J/gであった。HNMRスペクトルによるこの重合体のモノマー換算組成分析結果はエチレンオキシド:化合物(d)=73:27mol%であった。
【0066】
[重合例5]
重合例3の触媒のかわりにt-BuOKを反応温度140℃で用いて重合例3と同様の操作で共重合体を得た。この共重合体のガラス転移温度は−75℃、重量平均分子量は5000、融解熱量は2J/gであった。H NMRスペクトルによるこの重合体のモノマー換算組成分析結果はエチレンオキシド:化合物(c)=73:27mol%であった。
【0067】
[重合例6]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(c):
【化9】

140gと水分10ppm以下に調整した第3成分として反応性基を有するグリシジルエーテル化合物(e):
【化10】

25g及び溶媒としてn−ヘキサン1000gを仕込み、化合物(c)(e)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド150gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。重合反応はメタノールで停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー290gを得た。この共重合体のガラス転移温度は−72℃、重量平均分子量は170万、融解熱量は10J/gであった。H NMRスペクトルによるこの重合体のモノマー換算組成分析結果はエチレンオキシド:化合物(c):化合物(e)=77:18:5mol%であった。
【0068】
[実施例1]
重合例1で得た共重合体1g、架橋助剤ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート0.02g、及び光重合開始剤2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン0.015gをテトラヒドロフラン20mlに溶解し、モル比(電解質塩化合物のモル数)/(共重合体のエーテル酸素原子の総モル数)が0.05となるように過塩素酸リチウムのテトラヒドロフラン溶液を混合した。この混合液をポリテトラフルオロエチレン製モールド上にキャストして乾燥した後、高圧水銀灯(30mW/cm、GS YUASA社製、品名B400−C6−SM−U4CFW)を20秒照射して膜厚が50μmの架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験時の膨潤度は475%であり、電解質フィルムに破れや溶解部分は見られなかった。40℃における本フィルムの導電率は9.5×10−5S/cmであった。
【0069】
[実施例2]
重合例2で得た共重合体1g、架橋助剤ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート0.03g、及び光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン0.015gを用いた以外は実施例1と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験時の膨潤度は490%であり、電解質フィルムに破れや溶解部分は見られなかった。40℃における本フィルムの導電率は8.0×10−5S/cmであった。
【0070】
[実施例3]
重合例3で得た共重合体1g、架橋助剤N,N'−1,3−フェニレンジマレイミド0.03g、及び光重合開始剤ベンゾフェノン0.015gを用いた以外は実施例1と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験時の膨潤度は610%であり、電解質フィルムに破れや溶解部分は見られなかった。40℃における本フィルムの導電率は6.1×10−4S/cmであった。
【0071】
[実施例4]
重合例4で得た共重合体1g、架橋助剤N,N'−1,3−フェニレンジマレイミド0.03g、及び光重合開始剤ベンゾフェノン0.015gを用いた以外は実施例1と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験時の膨潤度は680%であり、電解質フィルムに破れや溶解部分は見られなかった。40℃における本フィルムの導電率は6.8×10-4S/cmであった。
【0072】
[比較例1]
架橋助剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で架橋フィルムの作製を試みた。フィルム表面はスティッキーな状態のままで、純水浸漬試験においてはフィルムが速やかに溶解したため、膨潤度を測定することは出来なかった。
【0073】
[比較例2]
架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート0.02gを用いた以外は実施例2と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験において、フィルムが糊状に溶解し膨潤度を測定することは出来なかった。
【0074】
[比較例3]
架橋助剤として架橋助剤アジピン酸ジビニル0.06gを用いた以外は実施例3と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験において、フィルムが糊状に溶解し膨潤度を測定することは出来なかった。
【0075】
[比較例4]
架橋助剤として架橋助剤ジアリルフタレート0.03gを用いた以外は実施例4と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験において、フィルムが糊状に溶解し膨潤度を測定することは出来なかった。
【0076】
[比較例5]
重合例5で得られた共重合体1gを用いた以外は、実施例3と同様の操作により架橋フィルムを得た。40℃における本フィルムの導電率は3.2×10−5S/cmであった。
【0077】
電解質として高分子固体電解質、負極としてリチウム金属箔、及び正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO2 )を用いて二次電池を構成し、電池の充放電特性を評価した。
【0078】
[実施例5]
(正極の作製)
コバルト酸リチウムは所定量の炭酸リチウム及び炭酸コバルト粉体を混合した後、900℃で5時間焼成する事により調製した。次にこれを粉砕し、得られたコバルト酸リチウム85重量部に対してアセチレンブラック15重量部と実施例3で得られた高分子固体電解質3重量部を加えロールで混合した後、300kgw/cmの圧力で10mm×10mm×2mmにプレス成形して電池の正極とした。
【0079】
(電池の作製)
実施例3で得られた高分子固体電解質を10mm×10mm×0.05mm、負極のリチウム金属箔を10mm×10mm×0.1mmの大きさに作製し、負極と上記の正極で高分子固体電解質をはさみ、界面が密着するように10kgw/cmの圧力をかけ、二次電池を構成した。
【0080】
(電池の評価)
上記作製した電池を60℃の恒温槽で一晩保持した後、電池の充放電特性を調べた。端子電圧4.3Vでの初期の放電電流は0.1mA/cmであり、0.1mA/cmで充電可能であった。また、サイクル特性試験として、電圧3.3V〜4.3Vの間で電流密度0.1mA/cmでCC−CV充電を行った後、CC放電を行った。初期容量は130mAh/gを示し、100サイクル後の放電容量は、初期容量の95%を維持した。
【0081】
[実施例6]
(高分子ゲル電解質の作製)
実施例3で得られた支持塩(LiClO4 )を含む架橋フィルムに、架橋フィルム80重量部に対して20重量部の分岐型エーテル化合物(f):
【化11】

を含浸させて、高分子ゲル電解質を得た。
【0082】
(正極の作製)
実施例5と同様の方法で正極を作製した。
【0083】
(電池の作製)
実施例3で得られた高分子固体電解質に分岐型エーテル化合物(f)を含浸させて得た高分子ゲル電解質を用いた以外は実施例5と同様の操作で二次電池を構成した。
【0084】
(電池の評価)
上記作製した電池を30℃の恒温槽で一晩保持した後、電池の充放電特性を調べた。端子電圧4.3Vでの初期の放電電流は0.2mA/cmであり、0.2mA/cmで充電可能であった。また、サイクル特性試験として、電圧3.3V〜4.3Vの間で電流密度0.2mA/cmでCC−CV充電を行った後、CC放電を行った。初期容量は120mAh/gを示し、100サイクル後の放電容量は、初期容量の85%を維持した。
【0085】
[比較例6]
(電解質の作製)
重合例6で得た第3成分として反応性基を有する共重合体を用いた以外は実施例3と同様の方法で架橋フィルムを作製した。純水浸漬試験時の膨潤度は590%であり、電解質フィルムに破れや溶解部分は見られなかった。40℃における本フィルムの導電率は5.9×10-4S/cmであった。
(正極の作製)
実施例5と同様の方法で正極を作製した。
【0086】
(電池の作製)
第3成分として反応性基を有する共重合体より作製した高分子固体電解質を用いた以外は実施例5と同様の方法で二次電池を構成した。
【0087】
(電池の評価)
上記作製した電池を60℃の恒温槽で一晩保持した後、電池の充放電特性を調べた。端子電圧4.3Vでの初期の放電電流は0.1mA/cmであり、0.1mA/cmで充電可能であった。また、サイクル特性試験として、電圧3.3V〜4.3Vの間で電流密度0.1mA/cmでCC−CV充電を行った後、CC放電を行った。初期容量は125mAh/gを示し、100サイクル後の放電容量は、初期容量の78%と大幅に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の架橋高分子固体電解質は加工性、成形性、機械的強度、柔軟性や耐熱性などに優れ、かつ優れたイオン伝導性を維持しているため、固体電池(特に、二次電池)をはじめ、大容量コンデンサー、光電変換素子、表示素子、例えばエレクトロクロミックディスプレイなど電子機器への応用、更にゴムやプラスチック材料用の帯電防止剤又は制電材料への応用がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式(1):
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または−CH2O(CR1R2R3)である。R、R2、R3は水素原子または−CH2O(CH2CH2O)nR4であり、nおよびR4はR、R2、R3の間で異なっていても良い。Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、nは0〜12の整数である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位5〜95モル%、および
式(2):
【化2】

で示される単量体から誘導される繰り返し単位95〜5モル%
を有する重量平均分子量が10〜10の範囲内であるポリエーテル共重合体、
(ii) マレイミド系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物から選ばれる少なくとも一つの架橋助剤、並びに
(iii)光重合開始剤
からなる高分子固体電解質用組成物。
【請求項2】
架橋助剤が、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N,N'−1,3−フェニレンジマレイミド、N,N'−1,4−フェニレンジマレイミド、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートから選ばれる少なくとも一つである架橋助剤である項1又は2に記載の高分子固体電解質用組成物。
【請求項3】
項1又は2に記載の高分子固体電解質用組成物および電解質塩化合物からなる高分子固体電解質を架橋して得られる架橋高分子固体電解質。
【請求項4】
非プロトン性有機溶媒が更に添加された高分子固体電解質を架橋して得られる項3に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項5】
電解質塩化合物がリチウム塩化合物である項3又は4記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項6】
非プロトン性有機溶媒がエーテル類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも一つである項4又は5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項7】
非プロトン性有機溶媒が数平均分子量で200〜5000の直鎖型又は分岐型のポリアルキレングリコールの誘導体又は該誘導体の金属塩からなる群より選ばれる項4又は5に記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項8】
架橋高分子固体電解質の純水浸漬時の膨潤度が100〜1000%の範囲にある項3〜7のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質。
【請求項9】
項3〜8のいずれかに記載の架橋高分子固体電解質、正極および負極を有してなる電池。

【公開番号】特開2011−174019(P2011−174019A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40838(P2010−40838)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】