説明

高分子基材のプラズマ処理方法

【課題】高分子基材上に堆積物を発生させることなく、選択的に官能基を高分子基材表面に形成でき、かつプロセス適応性が高い高分子基材の処理方法を提供する。
【解決手段】大気圧またはその近傍の圧力下で、ガス成分を励起してプラズマ化することで活性種を発生させる第一の工程と、前記活性種を高分子基材の表面に輸送して、高分子基材の表面を処理する第二の工程と、を含んでなるプラズマ処理方法であって、前記ガス成分の中に、処理剤として一級アルコールであって、α−炭素ラジカルを有する構造が酸素ラジカルを有する構造より計算科学的手法により算出したギブスの自由エネルギーの小さい化合物が含まれ、かつ、前記第一の工程および第二の工程における雰囲気が水成分を実質的に含まない、プラズマ処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子基材の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子などの表面処理を行う手法として、プラズマ処理が従来から行われている。近年、さらに選択的に機能をフィルムに付与する試みがなされており、その一つが特定の官能基比率を他の官能基に比べて飛躍的に高める技術である。
【0003】
しかしながら、プラズマ処理によって、(C=O)−OH基やC=O基といった高次の酸化官能基の発生を抑制しつつ、C−OH基やC−O−C基といった低次の酸化官能基を選択的に高分子表面に形成することは困難であった。さらに酸化度が近いC−O−C基とC−OH基、又は(C=O)−OH基と(C=O)−O−C基の割合を制御することは非常に困難であった。一般的に用いられる酸素ガスや水蒸気を多く用いたプラズマ手法では、分子状酸素、原子状酸素、OHラジカルといった酸素原子を含む酸化力の強いラジカルが大量に発生する。これらが様々なルートで速やかに高分子表面を酸化するため、様々な官能基が同時に形成され、さらにC−OH基が生成してもそれだけに酸化が留まらず、C=O基や(C=O)−OH基といった高次の酸化官能基の生成やC−C分子鎖の切断が生じるからと考えられる。
【0004】
これに対し非特許文献1には、水中プラズマ処理により、C−O−C基、C−OH基の表面炭素原子に対する割合を高める発明を開示している。しかし、水中プラズマを用いているため、酸化力の強いOHラジカルを主因子とした酸化プロセスが優位となり、C=O基や(C=O)−OH基に対しC−OH基やC−O−C基を選択的に作成することは出来ていない。
【0005】
また非特許文献2には、アリルアルコールを用いてプラズマ処理することで、C−O−C基、C−OH基の表面炭素原子に対する割合を高める発明が開示されている。しかしこの方法は、毒性が高いアリルアルコールを用いる必要があるという問題があった。またプラズマ重合手法を用いているので、処理する高分子膜にアリルアルコールの重合物が堆積し、例えばフィルムの光線透過率が減少するなどの問題が生じる恐れがあった。また高価な真空プラズマプロセスを用いる必要があること、オンラインでの連続プロセスに適用することが困難であることなどの、プロセス上の問題もあった。
【0006】
以上のことから、高分子基材上に堆積物を発生させることなく、選択的に官能基を高分子基材表面に形成でき、かつプロセス適応性が高い高分子基材の処理方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Plasma Process and Polymers 第5巻、第695頁から第707頁 (2008年)
【非特許文献2】Plasma Process and Polymers 第1巻、第28頁から第50頁 (2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高分子基材上に堆積物を発生させることなく、選択的に官能基を高分子基材表面に形成でき、かつプロセス適応性が高い高分子基材の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の高分子基材のプラズマ処理方法に関する。
【0010】
具体的には、
[1]大気圧またはその近傍の圧力下で、ガス成分を励起してプラズマ化することで活性種を発生させる第一の工程と、前記活性種を高分子基材の表面に輸送して、高分子基材の表面を処理する第二の工程と、を含んでなるプラズマ処理方法であって、前記ガス成分の中に、処理剤として下記一般式(1)で表される化合物であって、下記一般式(2)で表されるラジカル構造が下記一般式(3)で表されるラジカル構造より計算科学的手法により算出したギブスの自由エネルギーの小さい化合物が含まれ、かつ、前記第一の工程および第二の工程における雰囲気が水成分を実質的に含まない、プラズマ処理方法。
【化1】

【化2】

【化3】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に有機基または水素を表す。]
【0011】
[2]前記ガス成分が、処理剤として分子量が60〜500の2級アルコールを含む請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【0012】
[3]前記ガス成分が、処理剤として2−プロパノールまたは/およびcis-2−ブテン−1、4−ジオールを含む請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【0013】
[4]表面をX線光電子分光法(XPS)で測定した炭素1sスペクトルを、波形解析により求めた相対存在比において、全炭素数に対するC−OH基の割合 [C−OH]/[C]が5%以上であり、官能基数に対するC−OH基の割合が40%以上である、請求項1の方法により処理された高分子基材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高分子基材上に堆積物を発生させることなく、選択的に官能基を高分子基材表面に形成でき、かつプロセス適応性が高い高分子基材のプラズマ処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するにあたり用いられるプラズマ処理装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のプラズマ処理方法は、大気圧またはその近傍の圧力下で、ガス成分を励起してプラズマ化することで活性種を発生させる第一の工程と前記活性種を高分子基材の表面に輸送して、高分子基材の表面を処理する第二の工程とを含んでなる。
【0017】
以下、本発明のプラズマ処理方法について、上記第一と第二の工程について、詳細に説明するが、プラズマ処理方式としては、被処理基材を放電プラズマ空間内に配置して表面処理を行うことで上記第一の工程と第二の工程が実質的に一体となっている所謂ダイレクト方式でも良いし、被処理基材を放電プラズマ空間の外に配置して、プラズマ空間で生成した活性種を被処理基材表面に吹き付けて処理を行う所謂リモート方式でも良い。
【0018】
また、以下の説明では、「〜」を使用して数値範囲を規定するが、本発明の「〜」は、境界値を含む。例えば、「10〜100」とは、10以上100以下である。
【0019】
1.プラズマ処理装置について
本発明において、プラズマ化は、大気圧プラズマ装置によって行われる。具体的には、図1に本発明を実施するにあたり用いられるプラズマ処理装置の一例を示す。
【0020】
この図のプラズマ処理装置は、所謂ダイレクト方式の装置であり、電圧印加電極50と接地電極55が対向配置されている。電圧印加電極50および接地電極55の各電極対向面には、それぞれ誘電体70、75が配置されている。本発明では誘電体70、75に酸化アルミニウムを用いている。誘電体70と誘電体75は特定の距離(ギャップ)を開けて配置されており、この空間がプラズマ空間80となる。電圧印加電極50にはパルス電源60が接続されており、接地電極55は接地されている。電圧印加電極50はガス供給部40およびガス排気部45と接続されており一体となって可動するので、接地電極55の上に配置された被処理基材90の広い範囲を処理することも可能であるし、また狭い範囲を長時間処理することも可能である。
【0021】
バブリング装置30に入った処理剤20の液体原料に、バブリング用主ガス供給ライン11より主ガスを注入する。蒸気圧によりバブリング装置30の内部で気化した処理剤は、バブリング用主ガスに同伴し処理ガスとして処理ガス添加ライン12を通り、主ガス供給ライン10からの主ガスと混合する。さらにガス供給ライン13とガス供給部40を通り、プラズマ空間80に供給される。プラズマ空間80を通過したガスは、ガス排気部45とガス排気ライン14を通り、排気される。なお、ラインに流量計を設置し、ラインとバブリング装置にリボンヒーターを設置し温度を制御することにより、主ガスおよび前記処理剤の供給量を制御することができる。
【0022】
本発明に用いられる装置は、ガスのライン、プラズマ処理空間および被処理物表面を、室温から100℃程度に温度調節する温調手段を備えていることが望ましい。これにより、沸点の高い処理剤を結露させることなく、プラズマ処理空間に導入することができる。
【0023】
2.第一の工程について
本発明のプラズマ処理方法は、大気圧またはその近傍の圧力下で、ガス成分を励起してプラズマ化することで活性種を発生させる工程を含む。
【0024】
本発明において大気圧またはその近傍の圧力とは、本発明が、大気に開放して使用できるほか、密閉容器の中で使用し、大気圧に比べ、僅かに減圧にする場合や、僅かに加圧状態にする場合にも使用可能であるという意味で用いる。ここで、上記大気圧近傍の圧力とは、100〜800Torr(0.013〜0.105MPa)の圧力を指す。装置が簡便になる700〜780Torr(0.092〜0.103MPa)の範囲が好ましい。
【0025】
励起されプラズマ化されるガス成分とは、放電プラズマ形成に必須な主ガスと、上記処理剤の気化物を含む添加ガスを主ガスに加えた混合ガスを指す。
【0026】
ここで主ガスとは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガスおよび窒素ガスの中から選ばれる1種類以上の単独あるいは混合ガスを指す。放電の形成されやすさからヘリウムおよび/またはアルゴンが主体となることが望ましい。処理剤の添加量としては、周知の好ましい範囲とすればよく、通常、主ガスに対して0.0001〜5.0体積%が好ましい。
【0027】
本発明において、主ガスに添加する処理ガスに含まれる処理剤は、高分子表面に形成を所望する特定の官能基を分子内に有した化合物を含むことが望ましい。高分子表面に水酸基C−OH基を形成したい場合は、C−OH基を有するアルコールを選択することが好ましい。C−OH基を複数有するジオール(二価アルコール)、トリオール(三価アルコール)や糖などの多価アルコールも、効率的にC−OH基を付与できるため好ましい。また、高分子表面にカルボキシル基(C=O)−OH基を形成したい場合には、(C=O)−OH基を有する、例えばカルボン酸が好ましく、安全性の観点から、酢酸やアクリル酸がより好ましい。
【0028】
また処理剤は、プラズマ空間中で未結合手を持つラジカルとなった場合、所望する特定の官能基が維持される化合物を含むことも必要である。所望する特定の官能基が維持されたラジカルが、高分子表面の高分子鎖に生成したラジカルと終端反応で結合することにより、所望する特定の官能基の高分子表面への形成を達成することが出来る。
【0029】
上記処理剤がプラズマ空間中でラジカルとなった場合、所望する特定の官能基が維持されるか否かは、計算科学的手法により判断することができる。例えば、高分子表面にC−OH基を形成したい場合には、下記一般式(1)で表される化合物において、プラズマ空間中で活性種により水素を引き抜かれ、未結合手を持つラジカルとなった場合、Gaussian03rev.C.02 B3LYP/6−31G(d)(温度298K)により、OH基を保持した下記一般式(2)で表されるラジカル構造の自由エネルギー(G1)と、OとHが解離した下記一般式(3)で表されるラジカル構造の自由エネルギー(G2)の差(ΔG)を計算すれば良い。G1の方が小さく、ΔGの絶対値が大きいほど、C−OH基を保持した構造がより安定に存在できる事を意味するので、そのような化合物を処理剤として選択すれば良い。
【化1】

【化2】

【化3】

【0030】
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に有機基または水素を表す。]
上述したような観点から、処理剤としては2−プロパノールなどの2級アルコールやcis−2−ブテン−1,4−ジオールなどが好ましく用いられる。
【0031】
処理剤を主ガスに加える手段としては、例えば処理剤を含む液体中に主ガスの一部を注入し、液体原料の温度と主ガスの注入量により、処理ガスとして主ガスへの添加される処理剤の量を制御する、所謂バブリング方式が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0032】
処理ガスおよび/または主ガスを放電プラズマ空間へ導入する手段としては、例えば、バルブ、チューブ、継手等の配管部材、マスフローコントローラ等から構成されるものが挙げられる。導入するガスの流量は、特に限定されず適宜設定することができるが、通常1L/min〜100L/minが好ましい。
【0033】
本発明における電圧の印加手段には、種々の形式の電圧印加手段を用いることができ、その形式に制限されない。好ましくは、電圧の印加手段が、少なくとも、パルス変調された高周波電圧を印加する手段、もしくは周期的なパルス電圧を印加する手段を備えることである。
【0034】
上記のプラズマ空間に導入されたガスは、電圧の印加によりプラズマ化され、ラジカルを形成し活性種となる。
【0035】
3.第二の工程について
本発明のプラズマ処理方法は、活性種を高分子基材の表面に輸送して、高分子基材の表面を処理する第二の工程を含む。
【0036】
本発明における被処理基材の高分子材料としては、例えば次のような樹脂を例示できる。すなわち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂や、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリアセタール、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホンなどである。これらの1種あるいは2種以上を組み合わせた材料からなる高分子材料の表面を本発明により処理することができる。
【0037】
活性種を高分子表面に輸送する方法としては、具体的には、活性種を発生させた後、活性種を主ガスと同伴させて移動させる方法や、活性種の拡散により移動させる方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0038】
前記第一の工程および第二の工程の雰囲気は、特定の官能基の高分子表面比率を高めるため、水成分を実質的に含まないことが好ましい。前記雰囲気へ水が混入すると、プラズマによりOHラジカルが生成する。OHラジカルは、高分子表面の高分子鎖に生成したラジカルと終端反応で結合することにより、C−OH基を高分子表面に形成することができるが、プラズマ空間中で生成する新たなOHラジカルが速やかにC−OH末端の水素を引き抜き、アルコキシラジカルを形成してしまう。アルコキシラジカルは分子鎖の切断を誘発し、さらにC=O基、(C=O)−OH基などの高次の酸化官能基も形成してしまう。このため、OHラジカルが生成する水を化合物として用いる場合や、化合物中に水が含まれる場合、および大気中の水分がプラズマ空間に混入する場合には、高分子表面にC−OH基を選択的に多量に形成することは困難と考えられる。
【0039】
第一の工程および第二の工程の雰囲気がOHラジカルを実質的に含んでいないことを確認するには、例えば、プラズマ空間を発光分光測定し、OHラジカルのAΣ→XΠ(0,0)バンドの発光ピーク強度が、最大強度を持つ希ガスの発光ピーク強度に対して十分低いことから確認できるが、これに限定されるものではない。
【0040】
また前記第一の工程および第二の工程の雰囲気は、大量の酸素を含まないことが好ましい。これは酸素が酸化力の強い活性種を発生し、処理剤との反応により所望する官能基が維持されなくなることや、高分子表面を侵食することなどからである。このような観点から、前記雰囲気中の酸素濃度は10000ppm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0042】
(基材重量変化の測定方法)
プラズマ処理した基材の重量変化は、処理前後の基材重量を電子天秤で測定することにより求めた。被処理基材は、純水で超音波洗浄を行ったものをプラズマ処理に供した。プラズマ処理後は、純水で超音波洗浄を行い、重量を測定した。
【0043】
(基材表面官能基の定量方法)
プラズマ処理した基材表面の官能基は、X線光電子分光法(XPSまたはESCAとも呼ばれる)から得られるスペクトルのピーク分離法により定量を行った。装置はVG製ESCALAB220iXLを用いた。
【0044】
(基材表面トリフルオロ酢酸化)
上記XPSのピーク分離法ではC−OH基とC−O−C基の判別ができないため、C−OH基に選択的に反応するトリフルオロ酢酸無水物(TFAA)により被処理基材表面を気相化学修飾し、これをXPS分析して得られるフッ素量、炭素量から、C−OH基濃度を定量化した。
【0045】
炭素Cに対するC−OH基濃度は、以下の計算式により求めた。
[C−OH]/[C]=[F]/(3kF1s[C]−2[F])
[C−OH]:C−OH基量
[C]:炭素量
[F]:フッ素量
F1s:F1sのC1sに対する感度係数
【0046】
炭素Cに対するC−O−C基濃度は、TFAA未処理品のXPS分析から得られるC−OH基、C−O−C基濃度の合算と、上記で求めたC−OH基濃度の差から求めた。
【0047】
反応は、湿度を0.3〜0.7%RHに維持した窒素グローブボックス内で行った。プラズマ処理した高分子基材をPFA製の60mlの反応容器に入れ、0.34ccのTFAAを加えて密封し、室温で2時間放置し反応させた。このようにして処理した試料についてXPSにより元素分析を行った。
【0048】
(実施例1)
実施例1において、放電プラズマ処理は積水化学工業(株)製常圧プラズマ表面処理装置(AP−T02−L)を用いて行った。電極の種類は平行平板ダイレクト型を用いた。電極間距離は1mmとした。接地電極上に2cm×8cm、厚さ230μmのポリエチレン(PE)製の被処理基材を、電圧印加電極の長手方向と基材の長手方向が平行になるように固定保持した。電圧印加電極は、被処理基材上で固定してプラズマ処理を行った。
【0049】
主ガスはアルゴンガスを用い、その流量は20L/minとした。処理剤は和光純薬工業(株)製2−プロパノール(脱水)を用いこれを気化したものを添加ガスとして用いた。処理剤が気化したもののアルゴンガスに対する23℃、圧力760Torrでの体積混合比は2.0%とした。2−プロパノールの体積混合比は、バブリング装置に導入するアルゴンガスの流量とバブリング装置の温度を制御することにより、バブリング装置で気化しアルゴンに同伴されて電極に供給される2−プロパノール量を制御して調整した。
【0050】
パルス電源の時間変調の条件は周波数30kHz、印加電圧を40Vとし、1分間放電プラズマ処理を行った。放電プラズマ処理を行った基材は、純水中にて被処理面を超音波洗浄することにより、プラズマ処理によって表面に生成した水溶性低分子量成分を除去したあと、XPSによる表面官能基定量評価を行った。結果を表1に示す。
【化2−1】

【化3−1】

(式2−1)と(式3−1)の構造の自由エネルギーは(式2−1)のほうが小さく、
ΔGは、−25.4kJ/molであった。また[OHラジカルのAΣ→XΠ(0,0)バンドにおける発光ピーク強度]/[最大強度を持つ活性種の発光ピーク強度]は、0.05であった。
【0051】
XPSによる表面官能基定量評価では、全炭素数に対するC−OH基の割合が6.4%、C−O−C基が5.1%、C=O基及びO−C−O基が0.5%、(C=O)−OH基及び(C=O)−O−C基が0%であった。官能基数に対するC−OH基の割合は、53%であった。重量変化速度は0.9μg/(cm・min)であり、プラズマ処理により増加した。
【0052】
(実施例2)
処理剤としてcis−2−ブテン−1,4−ジオールを用い、処理剤を気化したもののアルゴンガスに対する80℃、圧力760Torrでの体積混合比は0.06%、基板表面温度を80℃、化合物を含んだガスによるプラズマ処理を行う前に化合物を含まないArのみによるプラズマ処理(周波数1kHz、印加電圧40V)を行い、化合物を含んだガスによるプラズマ処理は周波数1kHz、印加電圧40Vで行った以外は実施例1と同様に放電プラズマ処理を行った。結果を表1に示す。
【化2−2】

【化3−2】

【0053】
(式2−2)と(式3−2)の構造の自由エネルギーは(式2−2)のほうが小さく、ΔGは、−42.2kJ/molであった。また[OHラジカルのAΣ→XΠ(0,0)バンドにおける発光ピーク強度]/[最大強度を持つ活性種の発光ピーク強度]は、0.07であった。
【0054】
XPSによる表面官能基定量評価では、全炭素数に対するC−OH基の割合が10.7%、C−O−C基が6.3%、C=O基及びO−C−O基が5.0%、(C=O)−OH基及び(C=O)−O−C基が1.0%であった。官能基数に対するC−OH基の割合は、47%であった。重量変化速度は0.4μg/(cm・min)であり、プラズマ処理により増加した。
【0055】
(実施例3)
プラズマ空間中に酸素を添加し、基材を処理する空間中の酸素濃度を100ppmとした以外は、実施例1と同様に放電プラズマ処理を行った。
【0056】
[OHラジカルのAΣ→XΠ(0,0)バンドにおける発光ピーク強度]/[最大強度を持つ活性種の発光ピーク強度)は、0.05であった。またXPSによる表面官能基定量評価では、全炭素数に対するC−OH基の割合が9.8%、C−O−C基が7.2%、C=O基及びO−C−O基が0.2%、(C=O)−OH基及び(C=O)−O−C基が0%であった。官能基数に対するC−OH基の割合は、57%であった。重量変化速度は1.0μg/(cm・min)であり、プラズマ処理により増加した。
【0057】
(比較例1)
処理剤として2−メチル−3−ブテン−2−オールを用い、周波数を10kHzとした以外は実施例1と同様に放電プラズマ処理を行った。
【化2−3】


【化3−3】

(式2−3)と(式3−3)の構造の自由エネルギーは(式2−3)のほうが大きく、ΔGは、+20.3kJ/molであった。
【0058】
[OHラジカルのAΣ→XΠ(0,0)バンドにおける発光ピーク強度]/[最大強度を持つ活性種の発光ピーク強度]は、0.06であった。またXPSによる表面官能基定量評価では、全炭素数に対するC−OH基の割合が3.0%、C−O−C基が12.0%、C=O基及びO−C−O基が4.0%、(C=O)−OH基及び(C=O)−O−C基が0%であった。官能基数に対するC−OH基の割合は、16%であった。重量変化速度は8.1μg/(cm・min)であり、プラズマ処理により増加した。
【0059】
(比較例2)
処理剤として水を用いた以外は実施例1と同様に放電プラズマ処理を行った。[OHラジカルのAΣ→XΠ(0,0)バンドにおける発光ピーク強度]/[最大強度を持つ活性種の発光ピーク強度)は、0.36であった。またXPSによる表面官能基定量評価では、全炭素数に対するC−OH基の割合が2.6%、C−O−C基が5.4%、C=O基及びO−C−O基が4.0%、(C=O)−OH基及び(C=O)−O−C基が5.0%であった。官能基数に対するC−OH基の割合は、15%であった。重量変化速度は−0.9μg/(cm・min)であり、プラズマ処理により減少した。
【0060】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、高分子基材上に堆積物を発生させることなく、選択的に官能基を高分子基材表面に形成でき、かつプロセス適応性が高い高分子基材の処理方法を提供することを目的とする。
【符号の説明】
【0062】
10 主ガス供給ライン
11 バブリング用主ガス供給ライン
12 処理ガス添加ライン
13 ガス供給ライン
14 ガス排気ライン
20 処理剤
30 バブリング装置
40 ガス供給部
45 ガス排気部
50 電圧印加電極
55 接地電極
60 パルス電源
70 誘電体
75 誘電体
80 プラズマ空間
90 被処理基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧またはその近傍の圧力下で、ガス成分を励起してプラズマ化することで活性種を発生させる第一の工程と、
前記活性種を高分子基材の表面に輸送して、高分子基材の表面を処理する第二の工程と、
を含んでなるプラズマ処理方法であって、
前記ガス成分の中に、処理剤として下記一般式(1)で表される化合物であって、下記一般式(2)で表されるラジカル構造が下記一般式(3)で表されるラジカル構造より計算科学的手法により算出したギブスの自由エネルギーの小さい化合物が含まれ、
かつ、前記第一の工程および第二の工程における雰囲気が水成分を実質的に含まない、
プラズマ処理方法。
【化1】

【化2】

【化3】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に有機基または水素を表す。]
【請求項2】
前記ガス成分が、処理剤として分子量が60〜500の2級アルコールを含む請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記ガス成分が、処理剤として2−プロパノールまたは/およびcis-2−ブテン−1、4−ジオールを含む請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
表面をX線光電子分光法(XPS)で測定した炭素1sスペクトルを、波形解析により求めた相対存在比において、全炭素数に対するC−OH基の割合 [C−OH]/[C]が5%以上であり、官能基数に対するC−OH基の割合が40%以上である、請求項1の方法により処理された高分子基材。





【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−215776(P2010−215776A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63743(P2009−63743)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】