説明

高周波回路基材用フィルム及び高周波回路基材

【課題】高周波領域での電気特性、特に低誘電率、低誘電正接を有する高周波回路基材用フィルム及びハンダ耐熱性、導体との密接接合性に優れた高周波回路基材を提供する。
【解決手段】(A):ポリフェニレンエーテルと、(B):(A)以外の熱可塑性樹脂とを、含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、前記(A)ポリフェニレンエーテルの含有量が、前記(A)と前記(B)との合計量を100質量部としたとき、80質量部以上であり、76.5GHzにおける比誘電率が2.7以下で、誘電正接が0.003以下である高周波回路基材用フィルム、及び当該高周波回路基材用フィルムに厚み5〜50μmの銅層を積層した高周波回路基材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路基材用フィルム及び高周波回路基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、無線LAN、ETC(Electronic Toll Collection System)、さらには車間通信等の、電波を用いた通信機器の発達が目覚しく、特に、情報の大容量化に伴い、通信信号の高周波化、及び通信機器の小型化が進んでいる。
これら高周波帯域(ミリ波)で使用される通信機器の回路基板には、優れた低誘電損失特性が要求される。
回路基板に生じる誘電損失は、「信号の周波数」と「基板を構成する材料の比誘電率の平方根」と「誘電正接」との3者の積に比例するため、比誘電率、誘電正接ともに低い材料が要求される。
【0003】
従来、高周波帯域で使用される通信機器の回路基板には、高周波特性(低誘電損失特性)、ハンダ耐熱性等の観点から、フッ素樹脂、BTレジン(ビスマレイド・トリアジン)、熱硬化性ポリフェニレンエーテル等をベースとした基材が主に使用されている。
このような回路基板として、フッ素樹脂銅張り積層板が特許文献1に開示されているが、ガラスクロスにフッ素樹脂ディスパージョンを含浸、焼成させる工程を繰り返して行い、ガラスクロスにフッ素樹脂を充分に含浸させたプリプレグを作製した後、プリプレグ、フッ素樹脂シートを数枚重ね合わせ、最表面に銅箔を積層して、プレスにより高温加圧成形を行うものであり、成形工程が複雑な上、バッチ成形のため、コストが高く、生産性が悪い。
また、BTレジン、熱硬化性ポリフェニレンエーテルは熱硬化性樹脂のため、フッ素樹脂と同様に、熱硬化・賦形するために、熱プレスによるバッチ成形が必要であり、生産性に劣る。
【0004】
このような状況下、回路基板に要求される特性を保持しつつ、簡単に押出成形、射出成形で成形が可能な加工性(生産性)の良い熱可塑性樹脂材料が求められている。
優れた耐熱性、低誘電損失特性を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(例えば、特許文献2、3参照。)、ポリアリーレンサルファイド樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂のアロイ樹脂組成物(例えば、特許文献4参照。)、シンジオタック構造を有するスチレン系樹脂等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−26354号公報
【特許文献2】特開2004−231743号公報
【特許文献3】特開2005−306920号公報
【特許文献4】特開2002−289889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来提案されている材料は、いずれも高周波領域における電気特性、導体層を設けた回路基板を作製したときの導体との密接接合性及びハンダ耐熱性を全て満足するものではなかった。
【0007】
そこで本発明においては、高周波帯域、特に周波数30〜300GHzのミリ波領域での電気特性に優れている高周波回路基材を得るために好適な、低誘電率、低誘電正接を有する高周波回路基材用フィルム、さらには導体との密接接合性が良好で、優れたハンダ耐熱性を持つ高周波回路基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリフェニレンエーテルを特定量含有する樹脂組成物を用いることにより、高周波領域での電気特性に優れている高周波回路基材を得るために好適な、低誘電率、低誘電正接を有する高周波回路基材用フィルムが得られ、さらには高いハンダ耐熱性を有し、導体と密接に接合した高周波回路基材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕
(A):ポリフェニレンエーテルと、
(B):(A)以外の熱可塑性樹脂と、
を、含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、
前記(A)ポリフェニレンエーテルの含有量が、前記(A)と前記(B)との合計量を100質量部としたとき、80質量部以上であり、
76.5GHzにおける比誘電率が2.7以下で、誘電正接が0.003以下である高周波回路基材用フィルム。
【0010】
〔2〕
前記(B):(A)以外の熱可塑性樹脂が、液晶ポリエステル、芳香族ビニル重合体、芳香族ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選ばれる1種以上である前記〔1〕に記載の高周波回路基材用フィルム。
【0011】
〔3〕
前記(B):(A)以外の熱可塑性樹脂が、液晶ポリエステルである前記〔1〕又は〔2〕に記載の高周波回路基材用フィルム。
【0012】
〔4〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の高周波回路基板用フィルムに、厚み5〜50μmの銅層を、銅箔との接合により積層した高周波回路基材。
【0013】
〔5〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の高周波回路基材用フィルムの表面に、ニッケル−クロム合金のスパッタ層と、無電解銅メッキ層と、厚み5〜50μmの銅層である電解銅メッキ層とが、順次積層されている高周波回路基材。
【0014】
〔6〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の高周波回路基材用フィルムが、水素又はアルゴンプラズマ表面処理されており、
当該高周波回路基板用フィルム上に、無電解銅メッキ層と、厚み5〜50μmの銅層である電解銅メッキ層とが、順次積層されている高周波回路基材。
【0015】
〔7〕
前記高周波回路基材用フィルムと、前記厚み5〜50μmの銅層とのピール強度が、JIS C5012に準拠した方法において1.0kgf/cm以上である前記〔4〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の高周波回路基材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高周波領域での電気特性に優れている高周波回路基材を得るために好適な、低誘電率、低誘電正接を有する高周波回路基材用フィルムと、銅層を積層した際の、ピール強度及びハンダ耐熱性が十分な高周波回路基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
〔高周波回路基材用フィルム〕
本実施形態の高周波回路基材用フィルムは、(A):ポリフェニレンエーテルと、(B):前記(A)以外の熱可塑性樹脂とを、含有する熱可塑性樹脂組成物からなるものである。
【0019】
((A)ポリフェニレンエーテル)
(A)成分であるポリフェニレンエーテルとは、下記式(1)の構造単位からなる、ホモ重合体及び/又は共重合体が好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
前記式(1)中、Oは酸素原子、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級又は第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、又はハロ炭化水素オキシ(なお、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表わす。
【0022】
ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。
さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されている2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。
【0023】
ポリフェニレンエーテルとして、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合、各単量体ユニットの比率は、ポリフェニレンエーテル全量を100質量部としたときに、約80〜約90質量部の2,6−ジメチルフェノールと、約10〜約20質量部の2,3,6−トリメチルフェノールからなる共重合体が特に好ましい。
【0024】
ポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、又はこれらの混合物がより好ましい。
【0025】
(A)成分であるポリフェニレンエーテルの製造方法については、公知の方法を適用でき、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
【0026】
(A)成分であるポリフェニレンエーテルの還元粘度(ηsp/c:0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.15〜0.70dl/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.20〜0.60dl/gの範囲、さらに好ましくは0.40〜0.55dl/gの範囲である。
【0027】
(A)成分であるポリフェニレンエーテルは、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであってもよい。
【0028】
また、(A)成分であるポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであってもよい。
ここで言う変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、グリシジル基からなる群より選ばれるいずれかを有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。
【0029】
上述した変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、100℃以上〜ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられる。これらの方法のうち、前記(1)及び(2)の方法が好ましい。
【0030】
また、(A)成分であるポリフェニレンエーテルの安定化のために、公知となっている各種安定剤も好適に使用することができる。
安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤であり、これらの好ましい配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して5質量部以下である。
さらに、(A)ポリフェニレンエーテルに添加することが可能な公知の添加剤等もポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部以下の量で添加しても構わない。
【0031】
(A)成分の含有量は、当該(A)成分と後述する(B)成分との合計量を100質量部としたとき80質量部以上とする。好ましくは85質量部以上であり、より好ましくは90質量部以上である。
(A)成分の含有量を上記のようにすることは、本実施形態の高周波基材用フィルムにおいて、低誘電率と低誘電正接とを実現する観点から好ましい。
【0032】
((B):前記(A)以外の熱可塑性樹脂)
(A)以外の熱可塑性樹脂である(B)成分としては、液晶ポリエステル(LCP)、芳香族ビニル重合体、芳香族ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイドからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、液晶ポリエステルがより好ましい。
【0033】
(B)成分の含有量については、上述した(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、(A)ポリフェニレンエーテル80質量部以上であり、(B)成分は20質量部以下である。
目的とする高周波回路基材用フィルムの電気特性(低誘電率、低誘電正接)の観点から、前記(B)成分の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0034】
(B)成分として使用することができる液晶ポリエステル(LCP)としては、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルで、公知のものが使用できる。
例えば、p−ヒドロキシ安息香酸及びポリエチレンテレフタレートを主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルならびにテレフタル酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル等が挙げられ、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
上述した(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)成分として好ましい液晶ポリエステルとは、本来混和性が低い。
このため混和剤として、Zn及び/又はMg元素の酸化物、水酸化物等を用いることが好ましい。好ましい酸化物としては、ZnO、水酸化物としてはMg(OH)が挙げられる。
これら混和剤を加えることにより、目的とする高周波回路基材フィルムの強度が高くなる傾向にある。
混和剤の添加量は、上述した(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上2質量部以下である。
【0036】
(B)成分として使用することができる芳香族ビニル重合体としては、ポリスチレン(PS)やハイインパクトポリスチレン(HIPS)が好適に用いられる。
芳香族ビニル共重合体としては、ポリスチレンと共役ジエン化合物との共重合体、さらにはその水添物が好適に用いられる。ハンダ耐熱性から水添物がより好ましい。
共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれでもよいが、ポリフェニレンエーテルとの相溶性からブロック共重合体が好ましい。共役ジエン化合物としてはブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0037】
(無機充填材)
本実施形態の高周波回路基材用フィルムには、必要に応じて更に無機充填材を添加することができる。
無機充填材は、添加により強度を付与することができれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭素繊維、炭化ケイ素、セラミック、窒化ケイ素、マイカ、ネフェリンシナイト、タルク、ウオラストナイト、スラグ繊維、フェライト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、石英ガラス、溶融シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機化合物が挙げられる。
特に、成形加工性と寸法精度・安定性の観点から、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルクがより好ましい。
これら無機充填材の形状は限定されるものではなく、繊維状、板状、球状等が任意に選択できるが、シート成形性と寸法精度・安定性の観点から板状、球状が好ましい。
また、これらの無機充填材は、2種類以上併用することも可能である。
さらに必要に応じて、シラン系、チタン系等のカップリング剤で予備処理して使用することができる。
【0038】
(付加的成分)
本実施形態の高周波回路基材用フィルムには、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の付加的成分、例えば、酸化防止剤、難燃剤( 有機リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等)、可塑剤( オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、各種着色剤を添加してもよい。
【0039】
〔高周波回路基材用フィルムの製造方法〕
先ず、上述した(A)成分、(B)成分、及び必要に応じて無機充填材、付加的成分を溶融混練し、樹脂組成物を製造する。
樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。
例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が好ましい。
この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常250〜350℃とする。
【0040】
本実施形態の高周波回路基材用フィルムは、上述した樹脂組成物を原料として、押出フィルム成形を行うことにより得られる。樹脂組成物を構成する原料成分を押出フィルム成形機に直接投入し、ブレンドとフィルム成形とを同時に実施して得ることもできる。
本実施形態の高周波回路基材用フィルムの成形は、例えば、Tダイ押出成形によって行うことができる。
この場合、無延伸のまま用いてもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸してもよい。
フィルムの強度、剛性を高めたい場合は、延伸することが効果的である。
さらには、押出しチューブラー法や、インフレーション法により製造してもよい。
【0041】
本実施形態の高周波回路基材用フィルムの厚みは、高周波回路基板用フィルムの要求される性能によって適宜選択することができるが、50μm〜500μmであることが好ましい。
【0042】
〔高周波回路基材用フィルムの特性〕
また、本実施形態の高周波回路基材用フィルムは、76.5GHzにおける比誘電率が2.7以下で、誘電正接が0.003以下である。
これらの電気特性(比誘電率、誘電正接)は、室温条件下で、空洞共振器法により測定することができる。
【0043】
〔高周波回路用基材〕
本実施形態の高周波回路基材は、上述した高周波回路基材用フィルム上に、厚み5〜50μmの銅層を具備している。
【0044】
(銅層)
前記厚み5〜50μmの銅層は、所定の銅箔を接合することにより、形成できる。
銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
銅箔の厚みは10〜50μmが好ましく、ピール強度の観点から、20〜40μmがより好ましい。
また、銅箔のラミネート面及びその反対面は、必要に応じて、粗化処理、防錆処理、コブ付け処理、易接着処理等が施されてもよい。
また、銅層は、電解銅メッキ法により形成することもできる。
銅層を電解メッキ法により形成する場合には、上述した高周波回路基材用フィルムの表面に、ニッケル−クロム合金のスパッタ層、当該スパッタ層上に無電解銅メッキ層を設け、当該無電解銅メッキ層上に、厚み5〜50μmの電解銅メッキ層(厚み5〜50μmの銅層に相当)を形成した構成とするか、あるいは上述した高周波回路基材用フィルムを、水素又はアルゴンプラズマにより表面処理した状態で無電解銅メッキ層を設け、当該無電解銅メッキ層上に、厚み5〜50μmの電解銅メッキ層を形成した構成とする。
【0045】
〔高周波回路基材の製造方法〕
<銅層を銅箔により形成する場合>
上述した高周波回路基材用フィルムに、前記銅箔を積層し、プレス成形、又は接着剤を介してラミネートすることにより、高周波回路基材が得られる。目的とする高周波回路基材において所望の電気特性を得るため、接着剤層の量を抑制することが好ましく、さらには使用しないことが好ましい。
また、高周波回路基材用フィルムと銅箔との引き剥がし強さを得る観点から、熱プレスによる方法が好ましい。熱プレス成形の温度条件としては、樹脂の熱劣化を防止する観点、及びピール強度の観点から、240℃以上320℃以下が好ましい。
【0046】
<銅層を電解銅メッキ法により形成する場合>
上述した高周波回路基材用フィルムの表面に、ニッケル−クロムの合金のスパッタ層、その上に1000〜5000Åの無電解銅メッキ層を形成し、さらにその上に、5〜50μmの電解銅メッキ層(厚さ5〜50μmの銅層に相当)を積層することにより高周波回路基材が得られる。
ニッケル−クロムの合金のスパッタ層の厚みは50〜300Åが好ましく、ピール強度の観点から、より好ましくは100〜200Åである。
前記無電解銅メッキ層の厚みは1000〜5000Åが好ましく、より好ましくは、その後の工程において形成される電解銅メッキ層との密着性を確保するため、2000〜4000Åとする。
また、上述した高周波回路基材用フィルムを、プラズマにより表面処理し、その後、1000〜5000Åの無電解銅メッキ層を形成し、さらにその上に、厚み5〜50μmの電解銅メッキ層を積層することにより、高周波回路基材が得られる。
プラズマ処理としては、水素又はアルゴンプラズマ処理がより好ましい。銅層のピール強度の観点から、アルゴンプラズマ処理が特に好ましい。
【0047】
なお、厚み5〜50μmの銅層を、高周波回路基材用フィルムに積層する方法としては、上述した電解銅メッキを用いる方法が好ましい。
銅層の厚みは、ピール強度及びその後の工程の回路形成、エッチング性を考慮した場合、10〜30μmが好ましい。
【0048】
〔高周波回路基材の特性〕
本実施形態の高周波回路基材は、フィルムと銅層とのピール強度が、JISC5012に準拠した方法で、1.0kgf/cm以上となり十分なピール強度を持つ。
また、本実施形態の高周波回路基材は、高周波回路基材用フィルムの材料として耐熱性に優れるポリフェニレンエーテルの含有量を80質量部以上用いているため、優れたハンダ耐熱性が実現できる。
【実施例】
【0049】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例及び比較例において用いる原料を下記に示す。
<(A)ポリフェニレンエーテル>
2,6−キシレノールを酸化重合し、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)のポリフェニレンエーテル(以下、単にPPEと略記する。)を得た。
<((B)−1)液晶ポリエステル>
窒素雰囲気下において、p−ヒドロキシ安息香、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、無水酢酸を仕込み、加熱溶融し、重縮合することにより、以下の理論構造式を有する液晶ポリエステル(以下、単にLCPと略記する。)を得た。なお、組成の成分比はモル比を表す。
【0051】
【化2】

【0052】
<((B)−2) HIPS >
PSジャパン社製 PSJポリスチレン「9405」を用いた。
【0053】
<相溶化剤>
ZnO、特級グレード、和光純薬(株)製(以下、単にZnOと略記する。)
【0054】
高周波回路基材用フィルムの電気特性(誘電率、誘電正接)、高周波回路基材のピール強度、及びハンダ耐熱性の測定方法を下記に示す。
<(1)電気特性(誘電率、誘電正接)>
空洞共振器法により、室温、76.5GHzにおける誘電率、誘電正接を測定した。
空洞共振器としては、「Vector network analyzer HP8510C」(アジレント・テクノロジー((株)製)を用いた。
<(2)ピール強度>
実施例、比較例で得られた高周波回路基材から幅10mmのサンプルを切り出し、JIS C5012(8.1)に準拠した方法でピール強度を測定した。
ピール強度は、1.0kgf/cm以上であれば、良好であると判断した。
<(3)ハンダ耐熱性>
実施例、比較例で得られた高周波回路基材を、260℃のハンダ槽に1分間浮かべ、その後引き上げた高周波回路基材の外観を目視で観察した。
○:全く外観の変化が認められなかった。
×:表面の膨れが認められた。
【0055】
樹脂組成物の製造方法を説明する。
〔製造例1:実施例及び比較例の高周波回路基材用フィルム作製用の樹脂組成物〕
L/D=48の同方向回転二軸押出機(ZSK25:コペリオン社製、12の温度調節ブロックを有する)を用い、供給口より、各原料を、下記表1記載の割合で混合したものを供給し、溶融混練してペレットを得た。この時のシリンダー温度は、上流側供給口に位置する温度調節ブロック1は水冷とし、温度調節ブロック2〜12は310℃、ダイは320℃に設定した。
吐出量は12kg/hになるように各フィーダーを調節した。
スクリュー回転数は300rpmで実施し、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を製造し、ペレットを得た。各組成を下記表1に示した。
【0056】
高周波回路基材用フィルムの製造方法(Tダイ押出成形法)を説明する。
〔製造例2:実施例及び比較例の高周波回路基材用フィルム〕
上記〔製造例1〕で得られた樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度300℃、Tダイ温度300℃に設定したスクリュー径65mmのベント付き単軸押出機を用いて、吐出量60kg/hr、Tダイスリットの厚み0.15mm、ダイスリットの幅650mm、圧延ローラ表面温度130℃、厚みが所定(125μm)になるように、引き取り速度を制御し、押出フィルム成形を実施し、高周波回路基材用フィルムを得た。
得られた高周波回路基材用フィルムの電気特性(誘電率、誘電正接)の測定結果を下記表1に示した。
ポリフェニレンエーテルが80質量部未満である比較例1は、誘電率が2.7よりも大きく、誘電正接が0.003を超えており、電気特性の要件を満たしていないことが分かった。
【0057】
〔実施例1、2〕
前記〔製造例2〕で得られた高周波回路基材用フィルムに、銅箔(電解銅箔SF F2−WS、古河サーキットフォイル社製、12μm厚み)を両面に設置し、真空プレス機により、280℃、10MPaの圧力条件で熱プレスを行い、両面に銅層を設けた高周波回路基材を得た。
上述した方法により、ピール強度、ハンダ耐熱性を測定し、結果を下記表1に示した。
【0058】
〔実施例3、5〕、〔比較例1〕
前記〔製造例2〕で得られた高周波回路基材用フィルムの両面に、厚さ150Åのニッケル−クロム合金をスパッタリングしてスパッタ層を形成し、その上に、無電解銅メッキ法に厚さ2500Åの無電解銅メッキ層を形成し、さらに、その上に、電解銅メッキ法によって、厚さ18μmの電解銅メッキ層を積層し、両面銅層の高周波回路基材を得た。
ピール強度、ハンダ耐熱性の測定結果を表1に示した。
【0059】
〔実施例4〕
前記〔製造例2〕で得られた高周波回路基材用フィルムの両面に、アルゴンプラズマによる表面処理を行い、その上に、無電解メッキ法により厚さ2500Åの無電解銅メッキ層を付着させて形成し、さらにその上に、電解銅メッキ法によって、厚さ18μmの電解銅メッキ層を積層形成し、両面銅層の高周波回路基材を得た。
強度、ハンダ耐熱性の測定結果を下記表1に示した。
【0060】
〔比較例2〕
前記〔製造例2〕で得られた高周波回路基材用フィルムの表面を、表面処理を施さず、直接電解銅メッキによって、厚さ18μmの銅層を積層し、両面銅層の高周波回路基材を得た。
ピール強度、ハンダ耐熱性の測定結果を表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、実施例1〜5の高周波回路基材においては、いずれも実用上十分なピール強度を有し、かつハンダ耐熱性にも優れていることが分かった。
比較例1はハンダ耐熱性について、比較例2はピール強度に関して、それぞれ実用上不十分な評価であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の高周波回路基材用フィルム及び高周波回路基材は、高周波帯域の特に周波数30〜300GHzのミリ波領域で使用される通信機器の回路基板として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A):ポリフェニレンエーテルと、
(B):(A)以外の熱可塑性樹脂と、
を、含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、
前記(A)ポリフェニレンエーテルの含有量が、前記(A)と前記(B)との合計量を100質量部としたとき、80質量部以上であり、
76.5GHzにおける比誘電率が2.7以下で、誘電正接が0.003以下である高周波回路基材用フィルム。
【請求項2】
前記(B):(A)以外の熱可塑性樹脂が、
液晶ポリエステル、芳香族ビニル重合体、芳香族ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の高周波回路基材用フィルム。
【請求項3】
前記(B):(A)以外の熱可塑性樹脂が、液晶ポリエステルである請求項1又は2に記載の高周波回路基材用フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高周波回路基板用フィルムに、厚み5〜50μmの銅層を、銅箔との接合により積層した高周波回路基材。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高周波回路基材用フィルムの表面に、ニッケル−クロム合金のスパッタ層と、無電解銅メッキ層と、厚み5〜50μmの銅層である電解銅メッキ層とが、順次積層されている高周波回路基材。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高周波回路基材用フィルムが、水素又はアルゴンプラズマ表面処理されており、
当該高周波回路基板用フィルム上に、無電解銅メッキ層と、厚み5〜50μmの銅層である電解銅メッキ層とが、順次積層されている高周波回路基材。
【請求項7】
前記高周波回路基材用フィルムと、前記厚み5〜50μmの銅層とのピール強度が、JIS C5012に準拠した方法において、1.0kgf/cm以上である請求項4乃至6のいずれか一項に記載の高周波回路基材。

【公開番号】特開2011−253958(P2011−253958A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127208(P2010−127208)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】