説明

高性能で耐高温性のワイヤまたはケーブル

コア(10)、ならびにポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の巻き付けフィルム(16)およびシリコーンのようなポリマーマトリックスに分散しているマイカ粒子を含んで成る防炎層(14)を包含するシースを、有して成るワイヤまたはケーブル。PEEKまたは別のポリマーの外側コーティング(18)を提供してよく、それを焼結させて、丈夫な外側保護カバーを設けてよい。PEEKおよびマイカ層は、相乗的に組み合わさって、向上した耐燃性ならびに高い可撓性および機械的応力に対する高い耐性を有し、同時に重量を減少させおよび直径を縮小させた、シースを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削または採鉱、商業用または軍事用の航空宇宙用途および海上用途、ならびに自動車、鉄道および大量輸送機関などにおける、要求の多いまたは厳しい条件で使用するための、高性能で、耐高温性および好ましくは耐火性のワイヤならびにケーブルに関する。そのようなケーブルは、厳しい温度だけでなく、腐食性の物質もしくは雰囲気または火に暴露される可能性がある。高性能ワイヤは、電導体または光ファイバのような機能性コア、ならびに1つもしくはそれより多くの絶縁および/または保護コーティングを一般的に含む。多くの場合において、ワイヤは小さな直径を要求されるため、これらのコーティングは、可撓性を有し、かつ分厚すぎない必要がある。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような、ワイヤおよびケーブルのシースに使用するための多様な種類のポリマーが既知である。PTFEは、非常に丈夫であるだけでなく、化学的に無害であり、高い軟化点、低い摩擦係数および良好な電気絶縁特性も有するという利点を有する。
【0003】
PEEKは、良好な耐燃性を有し、非常に少ない煙で自己消火するため、PEEKは、ワイヤおよびケーブルの被覆における使用が増えている。PEEKは、良好な伸張、フィルムのような薄片での良好な可撓性、および動力学的な切断および部分的な摩耗に対する良好な機械抵抗も有する。しかしながら、PEEKは、アークトラッキング被ることがあり、アセトンおよび強酸による攻撃を受けることもある。
【0004】
EP-A-527 177は、多孔質PTFEおよびPEEKの電気絶縁ラミネートを開示する。この目的は、高い機械的強度、耐熱性および耐薬品性ならびに減少させた誘電率を有する軽量な、機体のワイヤ絶縁のための可撓性を有する電気絶縁材料を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非常に高い温度だけでなく、火炎に対する耐性も有する、ワイヤおよびケーブル絶縁体に対する要求が残っている。そのような耐燃性を付与する1つの方法は、ポリマーマトリックスに分散させたマイカ粒子、一般的にはプレートレットを含んで成るコーティングを適用することである。例えば、JP-A-2003100149は、耐火性ケーブルを被覆するために、シリコーン樹脂への微細なマイカ粉末およびガラスフリットの分散の使用を開示する。しかしながら、マイカは、コストを上げ、その結果、ケーブルシースのマイカ含有量を減少させる必要がある。例えば、JP-A-2006120456は、引張強度および寸法安定性を付与するガラステープを、耐熱性、電気特性および接着性を付与するシリコーンテープと組み合わせることによって、マイカの使用を避けようとしている。
【0006】
JP-A-2000011772は、水酸化アルミニウムおよびマイカ粉末を混合した架橋シリコーンゴムで作った耐火性コーティングを開示する。
【0007】
厚さを減少させたシースを用いることによって達成できる、直径を小さくしたワイヤおよびケーブルに対する要求もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、高性能で耐高温性のワイヤは、コアおよびシースを有して成り、そのシースは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から作られた、あるいは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のPEEKを含有する別のポリマーとのPEEKのブレンドもしくはアロイから作られた、巻き付けフィルムを含む。巻き付けフィルムは、他のポリマー成分を含んでよく、他のポリマー層、特に防炎層(flameproofing)または耐火層(fire-resistant)と組み合わされてよい。
【0009】
本発明の特定の実施形態において、PEEKテープは、耐火層、または例えばシリコーン、シリカ系ポリマーマトリックス、もしくはシロキサンポリマーのようなポリマーマトリックス内に分散されたマイカを含む耐火層と組み合わされる。この耐火層は、PEEK層の半径方向内側または外側にある独立した層の形態であってもよい。別の実施形態において、耐火層は、PEEKテープの形態であるフィルムと結合していてよい。
【0010】
耐火層は、裏打層を有してよく、例えばガラス繊維の支持層またはポリオレフィンのような別のポリマーの層である。
【0011】
もう1つの実施形態において、PEEKフィルムは、間にマイカ層を有する2つのPEEK層を有して成ってよい。マイカ層は、シートもしくは箔または粒子の層を含んでよい。マイカ層は、30〜200μm、好ましくは100μm以下の厚さを適当に有してよい。
【0012】
追加の外側層は、更なる強度、可撓性および/または耐燃性(flame resistance)を提供してよい。例えば、この外側層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、PEEK、ポリオレフィン、ポリアミド、シロキサンポリエーテルイミド(SILTONE)、ウルテムのような熱可塑性ポリエーテルイミド、ポリエステル、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、またはこれらいずれかの共重合体もしくはブレンドもしくはアロイを含んで成ってよい。この外側層を焼結させてよい。
【0013】
PEEKフィルムおよびマイカ含有フィルムは、相乗的に組み合わさって、耐燃性だけでなく曲げ、伸張および摩耗のような機械的応力に対する耐性も増加させた、ワイヤまたはケーブルのシースを提供できることが分かった。このことは、比較的薄いフィルムを用いて、外径を縮小させたワイヤを形成できることを意味する。本発明に基づいて用いられるPEEKテープは、10〜100μmの厚さであることが好ましい。
【0014】
上記のコーティングを、多数の種々の種類のコアに適用してよく、そのコアは、とりわけ導電性を有するワイヤまたはケーブルであって、例えば銅(ニッケルもしくはスズで被覆したもの、または銀メッキしたものであってよい)、アルミニウム(一般的には銅クラッドアルミニウム)、銀またはスチールである。他の目的のために、炭素繊維のような非金属コア、またはポリマーもしくはセラミックのコアを用いてもよい。ケーブルは、単芯またはマルチコアであってよく、あるいはツイストペアのワイヤ、マルチストランドコアまたはブレイドを含んでよい。これらのいずれのコアも、銅、ニッケル、スズまたは銀で被覆してよい。
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に基づく絶縁ワイヤを、PEEKおよび他のポリマーのテープを巻き付けることによってどのように作ることができるかを示す。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態のマルチ被覆したワイヤの断面図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態の被覆したワイヤの断面図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施形態の断面図である。
【図5】図5は、本発明の第4の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず図1を参照して、例えば、被覆していないまたはニッケル、銀もしくはスズで被覆した、銅、アルミニウム(銅クラッドであってよい)、スチールのものであってよい、あるいは炭素繊維、ポリマー繊維またはセラミック繊維のような非金属ケーブルであってよい、マルチストランドケーブル10は、巻き付けるおよび押出成形することによってそれに適用された3層シースを有する。例えば、内部にマイカプレートレットが分散しているシリコーンの第1テープ12は、らせん状に巻き付けられて、第1巻き付けコーティング14を形成する。次に、例えばポリエーテルエーテルケトンの第2テープ15は、らせん状に巻き付けられて、第2コーティング16を形成する。最後に、例えば押出成形によって、もう1つのポリマーの外側層を適用する。
【0018】
図2は、例えば図1と関連させて説明するように、3層シースを適用したケーブルの断面図を示す。ケーブル20を直接取り囲む最内層24は、マイカ含有シースであり、耐燃性を付与する。これは、例えば、ガラス繊維および/またはポリエチレン層で強化されうるマイカ含有シリコーンテープであってよい。この層を、単層または同じもしくは異なる厚さのマルチ層で適用してよい。
【0019】
第2層26は、10〜100μmの厚さを有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)巻き付けテープを含んでよい。PEEKは、単独で用いられてよく、あるいは好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%のPEEKを含有する他のポリマーとのブレンドもしくはアロイであってよい。
【0020】
外側層28は、本発明に基づく随意的なものであるが、用いる場合、押出成形されてまたは巻き付けられてよい。外側層28は、カプセル層を提供して、ケーブルへの追加の保護層を形成する。この層のために、先に列挙したポリマー、ポリマーブレンドまたはポリマーアロイのいずれかを用いてよい。航空宇宙マーケットで必要とされるような並はずれた耐薬品性を提供するために、PTFEを例えば焼結させてよい。それ自体で丈夫な外側層を提供するために、PEEK層それ自体を焼結させてよい。
【0021】
この実施形態における、マイカ含有ポリマーおよびPEEKの相乗的な組み合わせは、潜在的に軽量かつ外径が小さい、耐高温性かつ耐火性のワイヤを提供することができる。マイカは、絶縁性および1000℃までの耐火性を提供することができ、PEEKと組み合わせて、非常に良好な動力学的カットスルー抵抗を含む機械的特性、高温であっても燃えない特性、および非常に少ない煙の排出を提供する。PEEK層を焼結または融着させて、それ自体で外側層を提供してもよい。
【0022】
次に、図3の実施形態を参照して、ケーブルまたはワイヤのコア30は、図2のそれと類似してよいが、シースの第1層32は、PEEKフィルムまたはテープ上のマイカの単層または二重層から形成された、組み合わせられた巻き付け層である。マイカ構成要素は、例えば、ポリエチレン層を有するまたは有しないマイカ/シリコーンテープを含んで成ってよい。この実施形態は、随意的な外側層34を含んでもよく、その含有量の範囲は、図2の実施形態のものと同じであってよい。この場合も同様に、この外側層を焼結させてよい。
【0023】
図4の実施形態において、コア40は、PEEK、または別のポリマーとのPEEKブレンドもしくはアロイの巻き付けフィルムでできている内側層42によって、まず覆われる。この周囲には外側層があって、その外側層は、巻き付けるまたは押出成形することによって適用されてよく、かつその外側層は、マイカおよび/もしくはアルミナの粒子がシリコーンのようなポリマー内に分散している防炎層、または図2および図3に示したワイヤまたはケーブルの外側層のために用いられるいずれかのポリマーの保護層を含んでよい。この場合も同様に、この外側層を焼結させて、丈夫な外側層を設けてよい。
【0024】
図5に示すように、巻き付けPEEKフィルム54、または1つもしくはそれより多くの他のポリマーとのPEEKブレンドもしくはアロイの巻き付けフィルムを、多種多様なワイヤまたはケーブル構造体の外側保護層として用いてもよい。これには、別のポリマー絶縁体を有する導体、ツイストペア(twisted pair、撚り対線)のような、ブレイドを有するもしくは有さない完成したケーブル構造体、またはカテゴリー7ケーブル(Cat 7 cable)のようなツイストペアクォードケーブルが含まれる。図5に示す実施形態において、PEEK外側ジャケットは、マイカ粒子がシリカまたは同様のもののマトリックス内にある防炎性または耐火性の絶縁層52を有して、3芯ケーブル50の周囲に形成されている。PEEK外側ジャケットを融着させる、あるいは焼結させてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアおよびポリマーシースを有して成るワイヤまたはケーブルであって、該シースが、5〜150μmの厚さを有し、かつポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、または少なくとも30重量%のPEEKおよび別のポリマーを含有するPEEKのポリマーブレンドもしくはポリマーアロイの巻き付けフィルムを含む、ワイヤまたはケーブル。
【請求項2】
巻き付けPEEKフィルムは、10〜100μmの厚さを有する、請求項1に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項3】
巻き付けPEEKフィルムは、少なくとも50重量%のPEEKを含有するブレンドまたはアロイでできている、請求項1または請求項2に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項4】
巻き付けPEEKフィルムは、少なくとも80重量%のPEEKを含有するブレンドまたはアロイでできている、請求項3に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項5】
巻き付けPEEKフィルムは、間に1つのマイカ層が存在する2つのPEEK層を有して成る、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項6】
PEEKフィルムは、別のポリマーの層と組み合わされている、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項7】
PEEKフィルムを組み合わせる層は、内部にマイカ粒子が分散しているポリマーマトリックスの耐火層である、請求項6に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項8】
耐火層のマトリックスは、シリコーンゴム、シリカ系ポリマーマトリックスまたはシロキサンポリマーを含んで成る、請求項7に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項9】
耐火層は、巻き付けられたテープの形態である、請求項7または請求項8に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項10】
耐火材料の巻き付けテープは、支持層または裏打層を有する、請求項9に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項11】
耐火材料の巻き付け層は、ガラス繊維で裏打ちされたテープである、請求項10に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項12】
耐火層は、内側層としてコアの周囲に形成され、その耐火層の周囲にPEEKフィルムが巻き付けられている、請求項7〜請求項11のいずれか1つに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項13】
PEEKフィルムおよび内部にマイカ粒子が分散しているポリマーテープでできた、コアの周囲にある、組み合わせられた内側層を有して成る、請求項6〜請求項12のいずれか1つに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項14】
組み合わせられた内側層は、ポリオレフィンフィルムを含む、請求項13に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項15】
外側保護ポリマー層を更に有する、請求項1〜請求項14のいずれかに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項16】
前記外側層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、PEEK、ポリオレフィン、ポリアミド、シロキサンポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、ポリエステル、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ樹脂もしくはアクリル樹脂、またはこれらいずれかのブレンドもしくはアロイから選択されるポリマーで形成されている、請求項15に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項17】
外側保護ポリマー層は、焼結されている、あるいは融着している、請求項15または請求項16に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項18】
PEEKフィルムは、少なくとも部分的に焼結されている、あるいは融着している、請求項1〜請求項17に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項19】
コアは、ポリマー炭素繊維またはセラミックのコアである、請求項1〜請求項18のいずれかに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項20】
コアは、導電性の金属コアである、請求項1〜請求項18のいずれか1つに記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項21】
コアは、銅、アルミニウム、銀またはスチールである、請求項20に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項22】
コアは、銅、ニッケル、スズまたは銀で被覆されている、請求項19〜請求項21のいずれか1つに記載のワイヤまたはケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−530139(P2011−530139A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512206(P2011−512206)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050504
【国際公開番号】WO2009/147417
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(501106735)タイコ・エレクトロニクス・ユーケイ・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】TYCO ELECTRONICS UK LIMITED
【Fターム(参考)】