説明

高所点検装置

【課題】橋脚や建物等の垂直な壁面を昇りながら正確に近接点検を行うことができる高所点検装置を提供する。
【解決手段】静電引力により橋脚や建物等の壁面に吸着する吸着機構、及び壁面の近接点検用の検査機器を搭載した点検ロボット1と、地上にあって前記点検ロボット1を無線により遠隔操作する操作機器2と、前記検査機器から送信されたデータの記録や表示をするデータ処理機器3からなるものとした。前記吸着機構は、弾性絶縁材に炭素を混入した保持面材4を壁面との当接面としており、この保持面材4に電圧供給して保持面材表面と壁面表面との間に静電引力を作り出すよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚や建物等の垂直な壁面を昇りながら正確に近接点検を行うことができる高所点検装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、道路や鉄道等の橋梁を支承する橋脚は、車両等の通過により加わる荷重や雨水や塩分による内部の鉄筋腐食、経時変化によるコンクリートの劣化あるいは施工不良等により損傷が発生し進展するため、定期的に点検・保守を行う必要がある。また、建物の壁面でも風雨や紫外線等による劣化や、施工不良に起因する損傷を把握するため、同様に点検・保守を行う必要がある。
従来から、この点検作業は原則として、検査員が梯子をかけたり、高所作業車を使って昇ってゆき直接、検査対象箇所に接近し目視検査や打音空洞検査等を行っているが、梯子をかけたり、高所作業車を据えたりできない橋脚があり検査ができないという問題があった。また、高所での点検作業は危険であるという問題もあった。
【0003】
そこで、特許文献1や特許文献2に示されるように、伸縮自在な棒状アーム材を利用して、その先端にカメラ等の点検装置を取り付け、地上からの遠隔操作によりカメラを移動させるとともに、得られた映像データを地上のモニターに送信するようにした点検装置が提案されている。また、特許文献3に示されるように、橋梁の下部にレールを設け、このレール上に沿いカメラを配した台車を地上からの無線により移動させるとともに、得られた映像を地上のモニターに送信するようにした点検装置も提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の従来技術においては、安定性や重量等の関係からアーム材の長さに制限があり高い場所の点検ができないという問題や、アーム材の支持台を設置するのに平地面が必要となり場所的な制限を受けやすいという問題があった。また、特許文献3に記載の従来技術においては、レールを設置した橋梁の下部の点検ができるのみで、橋脚の壁面は点検することができないという問題や、設備費が高くなるという問題があった。
【0005】
一方、高所点検装置ではないが垂直な壁等の一般的な登攀ロボットとして、真空吸引式のものや磁石吸着式のものが知られている。ところが、真空吸引式の場合は滑らかで気密質な壁面にしか適用することができず、また磁石吸着式の場合は強磁性の壁面にしか適用することができないため、いずれもコンクリート製の橋脚等には適用できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−77653号公報
【特許文献2】特開2002−131234号公報
【特許文献3】特開平8−128015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決して、地上からの遠隔操作によって橋脚や建物等の垂直な壁面を昇りながら正確かつ安全に近接点検を行うことができ、また設置場所の制限を受けることもなく、またコンクリート、木材、鋼、ガラス等のあらゆる材質で、かつ表面に多少の凹凸がある材質であっても適用することができ、また設備費も安価なものとすることができる高所点検装置を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の高所点検装置は、静電引力により橋脚や建物等の壁面に吸着する吸着機構、及び壁面の近接点検用の検査機器を搭載した点検ロボットと、地上にあって前記点検ロボットを無線により遠隔操作する操作機器と、前記検査機器から送信されたデータの記録や表示をするデータ処理機器からなることを特徴とするものである。
【0009】
前記吸着機構は、弾性絶縁材に炭素を混入した保持面材を壁面との当接面としており、この保持面材に電圧供給して保持面材表面と壁面表面との間に静電引力を作り出すよう構成されているものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0010】
また、点検ロボットは、保持面材を無限軌道方式の履帯として利用し、壁面上を移動するよう構成されているものが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0011】
更に、点検ロボットは落下回収用のパラシュートを装備しているものが好ましく、これを請求項4に係る発明とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、静電引力により橋脚や建物等の壁面に吸着する吸着機構、及び壁面の近接点検用の検査機器を搭載した点検ロボットとしたので、コンクリート、木材、鋼、ガラス等のあらゆる材質で、かつ表面に多少の凹凸がある材質であっても確実に吸着することができ、橋脚や建物等の垂直な壁面の近接点検を行うことができることとなる。
【0013】
請求項2に係る発明では、吸着機構は弾性絶縁材に炭素を混入した保持面材を壁面との当接面としており、この保持面材に電圧供給して保持面材表面と壁面表面との間に静電引力を作り出すよう構成されているので、簡単な構造で強力な吸着力を得ることができ、また設備費も安価なものとすることができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、点検ロボットは保持面材を無限軌道方式の履帯として利用し、壁面上を移動するよう構成されているので、壁面に多少の凹凸があっても確実に移動することが可能となる。
【0015】
請求項4に係る発明では、点検ロボットは落下回収用のパラシュートを装備しているので、破壊することなく安全に点検ロボットの回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の使用状態を示す概略の説明図である。
【図2】点検ロボットの移動状態を示す説明図である。
【図3】静電引力による吸着原理を示す説明図である。
【図4】点検ロボットの一例を示す正面図である。
【図5】図4の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明の高所点検装置は、例えば道路や鉄道等の橋梁30(図2を参照)を支承する橋脚31等の点検に用いられるものであり、図1は、その使用状態を示す概略の説明図である。
本発明の高所点検装置は、少なくとも橋脚31等の壁面を自在に登攀・下降する点検ロボット1と、該点検ロボット1を無線により遠隔操作する操作機器2と、該点検ロボット1から送信されたデータのデータ処理機器3からなるものである。なお、点検ロボット1が登攀・下降する壁面は水平地表面に対して90度の垂直面を対象としているが、45度以上の傾斜面であれば同様に登攀・下降の対象である。
【0018】
この点検ロボット1は、少なくとも静電引力により橋脚や建物等の壁面に吸着する吸着機構、及び壁面の近接点検用の検査機器を搭載したものである。
この静電引力とは、従来の真空吸引や磁石吸着とは全く異なり、ロボットと壁面との間に作り出した静電気の引力をいい、本発明の点検ロボット1は、この静電引力を利用して両者を吸着させるという新しい発想を用いた吸着技術である。
【0019】
前記吸着機構としては、弾性絶縁材に炭素を混入した保持面材を壁面との当接面としており、この保持面材に電流を流して保持面材表面と壁面表面との間に静電引力を作り出すよう構成したものとすることができる。
弾性絶縁材を使うのは、種々の粗さの壁面に対して良好な粘着力を発現させ優れた形状追随性を得るためであり、例えばシリコンゴムのようなゴム材やエラストマーを用いることができる。また、この弾性絶縁材を電極として使うために炭素を混入する。
【0020】
図3に、この吸着機構の静電引力による吸着原理の概略を示す。
図において、4は壁面32に接する保持面材であり、弾性絶縁材であるリコンゴムからなる。端部にはアースが取り付けられており、また背面側には保持用の背面板5が装着されている。
この保持面材4に高電圧を付加すると、内部の物質が励起されて電荷を帯びた状態となる。なお、高電圧(1〜15KV)を付加するといっても、必要とする電流は10〜20ナノアンペア(横力1ニュートン当り)と微小であるため、電力供給装置としては1.5ボルトの電池で十分である。一方、これに伴って壁材内部表面も誘電されて電荷を帯びた状態となり、吸着界面を挟んで保持面材4の内部物質の+−電荷と壁材内部表面の+−電荷とが互いに引き合って強力な吸着力を発揮することとなる。
なお、保持面材4として弾性絶縁材を使うので、壁面32と密着した状態となり、表面全体にわたり電極(+−電位)を近接させた状態に維持することができ、強力な吸着力を発揮する。また、吸着作用を電気的に制御するため、吸着と非吸着の交代を10〜50ミリ秒の短時間の反応で行うことができる。
【0021】
図4は点検ロボット1を示す正面図、図5はその平面図である。この点検ロボット1は、保持面材4を無限軌道方式の履帯として用い壁面上を移動するよう構成されている。図4では水平に描かれているが、使用時には左側を上部、右側を下部として垂直な壁面に密着した状態で移動する。
図中、6は駆動輪であり、この駆動輪6の回動により無限軌道を形成した保持面材4を回転させ壁面上を吸着状態を維持しつつ移動する。6aは転輪であり、図示のものでは、中央部の履帯の他に左右両側にも転輪6aで支持された無限軌道方式の履帯が設けられている。そして、駆動輪6を回動させつつ吸着機構の吸着と非吸着とを短時間で切り替えることにより、点検ロボット1を落下させずに自由に移動することができる。
なお、移動方式としては無限軌道方式の履帯の他、タイヤによる移動方式や疑似生物方式の移動方式も適用可能である。
【0022】
また、点検ロボット1には、種々の近接点検用の検査機器7が搭載されている。検査機器7としては、例えば高解像度カメラ7aやモニターカメラ7bがある。これらは、高所からでしか視認できない画像を検査することにより、橋脚壁面の点検を行うものである。その他、収納ボックス8内には壁面を点検ハンマで叩いて内部空洞を探査する打音型内部空洞検査機なども搭載されている。
また、この収納ボックス8内には、電力供給装置(バッテリー)や、検査機器7で得られたデータを記録するメモリー、及びこのデータを送信する発信機や、地上からの操作信号を受信する受信機、またこれらの制御機器等も搭載されている。更に、この点検ロボット1は、落下回収用のパラシュート(図示せず)を装備しており、点検作業終了後の高所からの回収を容易にしている。
【0023】
一方、地上側には前記点検ロボット1を無線により遠隔操作する操作機器2と、前記検査機器7から送信されたデータの記録や表示をするデータ処理機器3が設置されている。
前記操作機器2は、地上から操縦者が点検ロボット1を無線により遠隔操作して所定の位置へ移動操作するものでる。また、データ処理機器3は検査機器7から送信される画像データ、発生音データ、位置データ等を受信して即座に映し出すモニター、及びそれらのデータを記録する記録装置を有している。
【0024】
以上のように構成した高所点検装置では、新たな方式である静電引力により橋脚や建物等の壁面に吸着する吸着機構を利用しているので、コンクリート、木材、鋼、ガラス等のあらゆる材質で、かつ表面に多少の凹凸がある材質であっても確実に吸着することができ、橋脚や建物等の垂直な壁面の近接点検を安全・確実に行うことができることとなる。また、地上からの遠隔操作によって橋脚や建物等の垂直な壁面を昇りながら正確かつ安全に近接点検を行うことができ、また設置場所の制限を受けることもなく、更に設備費も安価なものとすることができる等の種々の効果を有している。
【符号の説明】
【0025】
1 点検ロボット
2 操作機器
3 データ処理機器
4 保持面材
5 背面板
6 駆動輪
6a 転輪
7 検査機器
7a 高解像度カメラ
7b モニターカメラ
8 収納ボックス
30 橋梁
31 橋脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電引力により橋脚や建物等の壁面に吸着する吸着機構、及び壁面の近接点検用の検査機器を搭載した点検ロボットと、地上にあって前記点検ロボットを無線により遠隔操作する操作機器と、前記検査機器から送信されたデータの記録や表示をするデータ処理機器からなることを特徴とする高所点検装置。
【請求項2】
吸着機構は、弾性絶縁材に炭素を混入した保持面材を壁面との当接面としており、この保持面材に電圧供給して保持面材表面と壁面表面との間に静電引力を作り出すよう構成されている請求項1に記載の高所点検装置。
【請求項3】
点検ロボットは、保持面材を無限軌道方式の履帯として用い壁面上を移動するよう構成されている請求項2に記載の高所点検装置。
【請求項4】
点検ロボットは、落下回収用のパラシュートを装備している請求項1〜3のいずれかに記載の高所点検装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate