説明

高減衰組成物

【課題】良好な加工性を維持しつつ、またブルーム等の問題を生じることなく、現状よりもさらに減衰性能に優れた高減衰部材を製造しうる高減衰組成物を提供する。
【解決手段】ベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、3質量部以上、50質量部以下のロジン誘導体、0.1質量部以上、10質量部以下のイミダゾール系化合物、および0.1質量部以上、20質量部以下のヒンダードフェノール系化合物とを含有した高減衰組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする高減衰部材のもとになる高減衰組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をするために、ゴム等をベースポリマとして含む高減衰部材が用いられる。
前記高減衰部材は、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして前記振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰する減衰性能を高めるため、前記エラストマにカーボンブラック、シリカ等の充填剤や、あるいはロジン、石油樹脂等の粘着性付与剤等を含有させた高減衰組成物によって形成されるのが一般的である(例えば特許文献1〜3等参照)。
【0003】
しかしこれら従来の高減衰組成物では、高減衰部材の減衰性能を十分に高めることはできない。高減衰部材の減衰性能を現状よりもさらに高めるためには、例えば充填剤等の含有割合をさらに増加させること等が考えられるが、多量の充填剤や粘着性付与剤を含有させた高減衰組成物は加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり前記立体形状に成形加工したりするのが容易でなくなるという問題がある。
【0004】
特に工場レベルで高減衰部材を大量に生産する場合、前記加工性の低さは高減衰部材の生産性を低下させ、生産に要する消費エネルギーを増大させ、さらには生産コストを上昇させる原因となるため望ましくない。
そこで高減衰組成物に、減衰性付与剤としてヒンダードフェノール系化合物を含有させること、前記ヒンダードフェノール系化合物を、先に説明したシリカ等の充填剤や、あるいはロジン等の粘着性付与剤と併用することによって減衰性能を向上することが検討されている(例えば特許文献4〜7等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−2014号公報
【特許文献2】特開2007−63425号公報
【特許文献3】特開平7−41603号公報
【特許文献4】特開2000−44813号公報
【特許文献5】特開2009−138053号公報
【特許文献6】特許第3661180号公報
【特許文献7】特許第3675216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし現状よりも減衰性能をさらに向上するために、前記ヒンダードフェノール系化合物の含有割合を増加させた場合には、前記ヒンダーフェノール系化合物が高減衰部材の表面にブルームしやすくなるという問題があった。
本発明の目的は、良好な加工性を維持しつつ、またブルーム等の問題を生じることなく、現状よりもさらに減衰性能に優れた高減衰部材を製造しうる高減衰組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、3質量部以上、50質量部以下のロジン誘導体、0.1質量部以上、10質量部以下のイミダゾール系化合物、および0.1質量部以上、20質量部以下のヒンダードフェノール系化合物とを含有していることを特徴とする高減衰組成物である。
【0008】
本発明によれば、シリカ、ロジン誘導体、およびヒンダードフェノール系化合物に、さらにイミダゾール系化合物を含有させることにより、前記シリカ、ロジン誘導体、およびヒンダードフェノール系化合物の含有割合を増加させることなく、したがって高減衰組成物の加工性を低下させたりブルーム等の問題を生じたりすることなしに、前記高減衰組成物を用いて形成される高減衰部材の減衰性能を現状よりもさらに向上することができる。
【0009】
また本発明によれば、前記シリカ、ロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物として、それぞれ種類が異なるものを、前記所定の含有割合の範囲内で含有量を調整して含有させることにより、高減衰部材の減衰性能設計の自由度を向上でき、減衰性能を高減衰部材の設計に織り込む際に有利である。
ベースポリマとしては、シリカ、ロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を含有させることで高い減衰性能を発揮しうる種々のベースポリマがいずれも使用可能である。
【0010】
ただし、特に減衰性能の温度依存性を小さくして、広い温度範囲で安定した減衰性能を発揮しうる高減衰部材を形成することを考慮すると、前記ベースポリマとしては、極性基を有しないため室温付近での剛性等の特性の温度依存性が小さい天然ゴム、イソプレンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
イミダゾール系化合物としては、分子中にイミダゾール環を有する種々の化合物のうち、シリカ、ロジン誘導体、およびヒンダードフェノール系化合物を含む高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を向上する機能を有する種々のイミダゾール系化合物がいずれも使用可能である。ただし、高減衰部材の減衰性能をさらに向上することを考慮すると、イミダゾール系化合物としてはイミダゾールが好ましい。
【0011】
前記高減衰組成物は、さらに酢酸マグネシウム、およびアミン系老化防止剤を含有しているのが好ましい。前記両成分を含有させることにより、高減衰部材の減衰性能をさらに向上させることができる。
前記高減衰組成物は、前記各成分を適宜の順序で配合し、混練して調製することができる。ただしベースポリマに、先にロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を加えて混練後にシリカを加えて混練する工程を経て本発明の高減衰組成物を調製するのが好ましい。
【0012】
またベースポリマに、先にロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物とともにシリカの一部を加えて混練後にシリカの残部を加えて混練してもよい。
これによりロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物をベースポリマ中に十分に行き渡らせた状態でシリカと混練できるため、前記各成分をそれぞれより一層有効に機能させることができ、高減衰部材の減衰性能をさらに向上させることができる。
【0013】
前記高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の制震用ダンパを形成する場合には、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な加工性を維持しつつ、またブルーム等の問題を生じることなく、現状よりもさらに減衰性能に優れた高減衰部材を製造しうる高減衰組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と加重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の高減衰組成物は、ベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、3質量部以上、50質量部以下のロジン誘導体、0.1質量部以上、10質量部以下のイミダゾール系化合物、および0.1質量部以上、20質量部以下のヒンダードフェノール系化合物とを含有していることを特徴とするものである。
【0017】
前記各成分のうちベースポリマとしては、シリカ、ロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を含有させることで高い減衰性能を発揮しうる種々のベースポリマがいずれも使用可能であり、中でもゴムが好ましい。
前記ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0018】
特に、減衰性能の温度依存性を小さくして広い温度範囲で安定した減衰性能を示す高減衰部材を提供することを考慮すると、前記の中でも天然ゴム、イソプレンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴムが好ましい。
ゴムは2種以上を併用してもよいが、高減衰組成物の組成を簡略化して前記高減衰組成物、ならびに高減衰部材の生産性を向上し、さらには生産コストを低減することを考慮すると、いずれか1種を単独で用いるのが好ましい。
【0019】
シリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。またシリカとしては、充填剤として機能して高減衰部材の減衰性能を向上する効果を向上することを考慮すると、BET比表面積が100〜400m/g、特に200〜250m/gであるものが好ましい。BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定した値でもって表すこととする。
【0020】
シリカの含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり100質量部以上、180質量部以下である必要がある。含有割合が100質量部未満では、シリカを含有させることによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られない。また180質量部を超える場合には高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を、特に工場レベルで大量に生産するのが難しくなる。また試作レベルで少数の高減衰部材を形成することは可能であるが、形成した高減衰部材は硬く、かつ変形し難いため、特に大変形時に破壊されやすいという問題も生じる。
【0021】
なおシリカの含有割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも135質量部以上であるのが好ましい。
ロジン誘導体としては、例えばロジンと多価アルコール(グリセリン等)とのエステルやロジン変性マレイン酸樹脂等の、構成成分としてロジンを含む樹脂であって、粘着性付与剤として機能して高減衰部材の減衰性能を向上する効果を有する種々の誘導体が挙げられる。
【0022】
前記ロジン誘導体の軟化点は120℃以上であるのが好ましく、180℃以下、特に160℃以下であるのが好ましい。
軟化点が前記範囲未満では、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。一方、前記範囲を超える場合には加工性が低下して、高減衰組成物を調製するために各成分を混練したり、高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、あるいは任意の形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0023】
なお軟化点は、日本工業規格JIS K2207−1996「石油アスファルト」所載の軟化点試験方法(環球法)によって測定した値でもって表すこととする。
前記ロジン誘導体としては、例えば、いずれもハリマ化成(株)製の商品名ハリエスターシリーズのうちMSR−4(軟化点:127℃)、DS−130(軟化点:135℃)、AD−130(軟化点:135℃)、DS−816(軟化点:148℃)、DS−822(軟化点:172℃)、ハリマ化成(株)製の商品名ハリマックシリーズのうち145P(軟化点:138℃)、135GN(軟化点:139℃)、AS−5(軟化点:165℃)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
ロジン誘導体の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下である必要がある。含有割合が3質量部未満では、ロジン誘導体を含有させることによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られない。また50質量部を超える場合にはロジン誘導体による粘着性が増大して加工性が低下し、高減衰組成物を調製するために各成分を混練したり、高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、あるいは任意の形状に成形加工したりできなくなる。
【0025】
なおロジン誘導体の含有割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも10質量部以上であるのが好ましい。
イミダゾール系化合物としては、分子中にイミダゾール環を有する種々の化合物のうち、シリカ、ロジン誘導体、およびヒンダードフェノール系化合物を含む高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を向上する機能を有する種々のイミダゾール系化合物が挙げられる。
【0026】
前記イミダゾール系化合物としては、例えばイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−イミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等の1種または2種以上が挙げられる。
特に高減衰部材の減衰性能を向上する効果の点でイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールが好ましく、中でもイミダゾールが最も好ましい。
【0027】
イミダゾール系化合物の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部以上、10質量部以下である必要がある。含有割合が0.1質量部未満では、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られない。また10質量部を超える場合には焼けを生じやすくなって加工性が低下し、高減衰組成物を調製するために各成分を混練したり、高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、あるいは任意の形状に成形加工したりできなくなる。
【0028】
なおイミダゾール系化合物の含有割合は、高減衰組成物の良好な加工性を維持しつつ、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
ヒンダードフェノール系化合物としては、分子中の水酸基がシリカ表面の水酸基と相互作用することによって、前記シリカの、ベースポリマを始めとする有機系の各成分に対する親和性、相溶性を向上させて、高減衰部材の減衰性能をさらに向上させる働きをする種々のヒンダードフェノール系化合物がいずれも使用可能である。
【0029】
前記ヒンダードフェノール系化合物としては、前記水酸基を2つ以上有する種々のヒンダードフェノール系化合物、特にビスフェノール系防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、チオビスフェノール系老化防止剤、ヒドロキノン系老化防止剤等の老化防止剤の1種または2種以上が好ましい。
【0030】
前記のうちビスフェノール系老化防止剤としては、例えば1,1−ビス(3−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)]−p−クレゾール、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
ポリフェノール系老化防止剤としては、例えばテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
チオビスフェノール系老化防止剤としては、例えば4,4−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4′−チオビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
さらにヒドロキノン系老化防止剤としては、例えば2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルアミルヒドロキノン等の1種または2種以上が挙げられる。
ヒンダードフェノール系化合物の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部以上、20質量部以下である必要がある。含有割合が0.1質量部未満では、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られない。また20質量部を超える場合には、過剰のヒンダードフェノール系化合物が、先に説明したように高減衰部材の表面にブルームしやすくなるという問題がある。
【0033】
なおヒンダードフェノール系化合物の含有割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも1質量部以上であるのが好ましい。
本発明の高減衰組成物は、前記各成分に加えて、さらに酢酸マグネシウム、およびアミン系老化防止剤を含有してもよい。前記両成分を含有させることにより、高減衰部材の減衰性能をさらに向上させることができる。
【0034】
前記のうち酢酸マグネシウムとしては、酢酸に酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを作用させた水溶液から得られる四水塩、および前記四水塩を加熱脱水して得られる無水塩のいずれを用いてもよく、特に製造に要する工程数が少なく安価な酢酸マグネシウム・四水塩が好ましい。
酢酸マグネシウムの含有割合は、前記四水塩の場合、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部以上、20質量部以下であるのが好ましい。含有割合が0.1質量部未満では、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られないおそれがある。また20質量部を超える場合には、過剰の酢酸マグネシウムが高減衰部材の表面にブルームしやすくなる。
【0035】
またアミン系老化防止剤としては、例えばN−フェニル−1−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニル等のアルキル化ジフェニルアミン、4,4′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン等の芳香族第二級アミン系老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
前記アミン系老化防止剤は、酢酸マグネシウム量の1〜2倍量で、かつベースポリマ100質量部あたり20質量部以下の割合で含有させるのが好ましい。
含有割合が、酢酸マグネシウム量の1倍量未満では、ベースポリマがゴムである場合に高減衰組成物の加硫速度が遅くなって、高減衰部材の生産性が低下するおそれがある。また酢酸マグネシウム量の2倍量を超えるか、または20質量部を超える場合には、過剰のアミン系老化防止剤が高減衰部材の表面にブルームしやすくなるおそれがある。
本発明の高減衰組成物は、前記各成分に加えて、さらにシラン化合物を含有してもよい。前記シラン化合物としては、式(a):
【0037】
【化1】

【0038】
〔式中、R、R、R、およびRのうちの少なくとも一つはアルコキシ基を示す。ただしR、R、R、およびRが同時にアルコキシ基であることはなく、他派アルキル基またはアリール基を示す。〕
で表され、シランカップリング剤やシリル化剤等の、シリカの分散剤として機能しうる種々のシラン化合物が挙げられる。特にヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のアルコキシシランの1種または2種以上が好ましい。
【0039】
シラン化合物の含有割合は、シリカ100質量部あたり5質量部以上、25質量部以下であるのが好ましい。
本発明の高減衰組成物は、さらに石油樹脂、クマロン樹脂等の、ロジン誘導体以外の他の粘着性付与剤を含有してもよい。前記他の粘着性付与剤の含有割合は、ロジン誘導体の含有割合や高減衰部材の減衰特性等に応じて適宜設定できる。
【0040】
ベースポリマがゴムである場合、本発明の高減衰組成物には加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の添加剤を、それぞれ適宜の割合で含有させてもよい。また前記高減衰組成物には、ヒンダードフェノール系、アミン系以外の他の老化防止剤を適宜の割合で含有させてもよい。
さらに本発明の高減衰組成物には、例えばカーボンブラック、炭酸カルシウム等の充填剤や、液状ゴム、オイル等の軟化剤等を、それぞれ適宜の割合で含有させてもよい。
【0041】
本発明の高減衰組成物は、前記各成分を適宜の順序で配合し、任意の混練機を用いて混練して調製することができ、前記高減衰組成物を所望の形状に成形するとともに、ベースポリマがゴムである場合には加硫することによって、所定の減衰特性を有する高減衰部材を製造することができる。
例えばベースポリマをニーダー等の密閉式混練機を用いて1〜2分間程度素練りし、次いで素練りを続けながらシリカ、ロジン誘導体、イミダゾール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物その他の各成分を一度に、あるいは数回に分けて投入したのちさらに混練して高減衰組成物を調製するのが一般的である。
【0042】
ただしベースポリマに、先にロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を加えて混練後にシリカと、その他の各成分とを加えて混練する工程を経て前記高減衰組成物を調製するのが好ましい。
例えばベースポリマを、密閉式混練機を用いて1〜2分間程度素練りし、次いで素練りを続けながらまずロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を加えて混練し、次いでシリカその他の残りの成分を一度に、あるいは数回に分けて投入したのちさらに混練して高減衰組成物を調製する。
【0043】
これによりロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物をベースポリマ中に十分に行き渡らせた状態でシリカと混練できるため、前記各成分をそれぞれより一層有効に機能させることができ、高減衰部材の減衰性能をさらに向上させることができる。
またベースポリマにロジン誘導体等を加える際に、例えばベースポリマ100質量部あたり5〜10質量部程度の少量のシリカであれば、前記ロジン誘導体等とともにベースポリマに先に加えることができる。すなわちベースポリマに、先にロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物とともにシリカの一部を加えて混練後にシリカの残部を加えて混練してもよい。
【0044】
またロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を加えて混練した混練物を一旦、混練機から取り出し、次いで所定量の前記混練物を再び密閉式混練機等に投入したのちシリカその他の成分を加えて混練してもよい。
酢酸マグネシウム、およびアミン系老化防止剤を含む系では、前記両成分を、ロジン誘導体等とともにシリカより先にベースポリマに加えてもよいし、シリカ等とともにあとからベースポリマに加えてもよい。
【0045】
本発明の高減衰組成物を用いて形成できる高減衰部材としては、例えばビル等の建造物の基礎に組み込まれる免震用のダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用のダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0046】
本発明によれば、前記シリカ、ロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物の種類とその組み合わせおよび含有割合を前記範囲内で調整することにより、前記それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有する高減衰部材を得ることができる。
特に本発明の高減衰組成物を用いて建築物の構造中に組み込まれる制震用ダンパを形成した場合には、前記制震用ダンパが振動の減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む制震用ダンパの数量を減らすことができる。また温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができる。
【実施例】
【0047】
以下の実施例、比較例における高減衰組成物の調製、および試験を、特記した以外は温度20±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
ベースポリマとしての天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕100質量部に、シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipsil(ニップシール)KQ〕150質量部、ロジン誘導体〔ロジン変性マレイン酸樹脂、軟化点139℃、ハリマ化成(株)製のハリマック135GN〕10質量部、イミダゾール系化合物としての1,2−ジメチルイミダゾール〔四国化成工業(株)製の1,2DMZ〕2.5質量部、およびヒンダードフェノール系化合物としての4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)〔大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)NS−30〕2.5質量部と、下記表1に示す各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1中の各成分は下記のとおり。
フェニルトリエトキシシラン:信越化学工業(株)製のKBE−103
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のエスクロン(登録商標)G-90
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製
スルフェンアミド系加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラック(登録商標)G
液状ポリイソプレンゴム:軟化剤、(株)クラレ製のLIR50
【0050】
混練の手順は、まずベースポリマとしての天然ゴムを、密閉式混練機を用いて1〜2分間程度素練りし、次いで素練りを続けながら前記天然ゴムを除く他の各成分を数回に分けて投入したのちさらに10〜40分間程度混練して高減衰組成物を得た。
〈実施例2〜4〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するシリカの含有割合を100質量部(実施例2)、135質量部(実施例3)、180質量部(実施例4)とし、かつシリカに対するフェニルトリエトキシシランの含有割合が実施例1と同じ(シリカ:フェニルトリエトキシシラン=150:25)となるように、前記ベースポリマ100質量部あたりのフェニルトリエトキシシランの含有割合を16.7質量部(実施例2)、22.5質量部(実施例3)、30質量部(実施例4)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0051】
〈比較例1〉
イミダゾール系化合物とヒンダードフェノール系化合物とをいずれも含有させなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
〈比較例2、3〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するシリカの含有割合を80質量部(比較例2)、190質量部(比較例3)とし、かつシリカに対するフェニルトリエトキシシランの含有割合が実施例1と同じ(シリカ:フェニルトリエトキシシラン=150:25)となるように、前記ベースポリマ100質量部あたりのフェニルトリエトキシシランの含有割合を13.3質量部(比較例2)、31.7質量部(比較例3)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0052】
〈減衰特性評価〉
(試験体の作製)
実施例、比較例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに、前記円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0053】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0054】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0055】
測定は、前記操作を3サイクル行って3回目の値を求めた。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの100%、または300%となるように設定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線L1の傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(1):
【0056】
【数1】

【0057】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。なお等価せん断弾性率Geq(N/mm)は、前記ずれ量が100%のときの等価せん断弾性率Geq100(N/mm)と、ずれ量が300%のときの等価せん断弾性率Geq300(N/mm)とを求めた。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線L1と、グラフの横軸と、直線L1とヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線L2とで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(2):
【0058】
【数2】

【0059】
により等価減衰定数Heqを求めた。なお等価減衰定数Heqは、前記ずれ量が100%のときの等価減衰定数Heq100と、ずれ量が300%のときの等価減衰定数Heq300とを求めた。このうち等価減衰定数Heq100が大きいほど、試験体3は減衰性能に優れていると判定できる。実施例、比較例の場合は等価減衰定数Heqが0.38以上であるものを減衰性能良好、0.38未満であるものを減衰性能不良として評価した。
【0060】
以上の結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2の比較例1と実施例1〜4の結果を比較すると、イミダゾール系化合物もヒンダードフェノール系化合物も含有させなかった比較例1の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、等価減衰定数Heq100が0.38未満であって減衰性能が不十分であるのに対し、本発明の構成である実施例1〜4の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、いずれも前記等価減衰定数Heq100が0.38以上であって減衰性能に優れていることが判った。
【0063】
そしてこのことからベースポリマに、シリカ、ロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物をそれぞれ所定の含有割合で含有させることで、減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物が得られることが確認された。
また、比較例2と実施例1〜4の結果を比較すると、シリカを、ベースポリマ100質量部あたり100質量部未満の範囲で含有させた比較例2の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、等価減衰定数Heq100が0.38未満であって減衰性能が不十分であることが判った。そしてこのことからシリカの含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり100質量部以上である必要があることが確認された。
【0064】
また、比較例3と実施例1〜4の結果を比較すると、シリカを、ベースポリマ100質量部あたり180質量部を超えて含有させた比較例3の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、ずれ量が300%である大変形時に破壊されてしまうことが判った。そしてこのことからシリカの含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり180質量部以下である必要があることが確認された。
【0065】
さらに実施例1〜4の結果を比較すると、シリカの含有割合は、前記範囲内でもベースポリマ100質量部あたり135質量部以上であるのが好ましいことが確認された。
〈実施例5〜8、比較例4〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するロジン誘導体の含有割合を2質量部(比較例4)、3質量部(実施例5)、20質量部(実施例6)、30質量部(実施例7)、50質量部(実施例8)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0066】
〈比較例5〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するロジン誘導体の含有割合を55質量部としたところ粘着性が強すぎて、各成分の混合物を混練して高減衰組成物を調製することができなかった。
そこで比較例5を除く各実施例、比較例の高減衰組成物について先に説明した各試験を行って特性を評価した。結果を、実施例1の結果と併せて表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3の比較例4と実施例1、5〜8の結果を比較すると、ロジン誘導体を、ベースポリマ100質量部あたり3質量部未満の範囲で含有させた比較例4の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、等価減衰定数Heq100が0.38未満であって減衰性能が不十分であることが判った。そしてこのことからロジン誘導体の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり3質量部以上である必要があることが確認された。
【0069】
また比較例5と実施例1、5〜8の結果を比較すると、ロジン誘導体を、ベースポリマ100質量部あたり50質量部を超えて含有させた比較例5は、先に説明したように粘着性が高すぎて高減衰組成物を調製できなかった。そしてこのことから、ロジン誘導体の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり50質量部以下である必要があることが確認された。
【0070】
さらに実施例1、5〜8の結果を比較すると、ロジン誘導体の含有割合は、前記範囲内でもベースポリマ100質量部あたり10質量部以上であるのが好ましいことが確認された。
〈実施例9〜12、比較例6〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するイミダゾール系化合物の含有割合を0.05質量部(比較例6)、0.3質量部(実施例9)、1質量部(実施例10)、5質量部(実施例11)、10質量部(実施例12)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0071】
〈比較例7〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するイミダゾール系化合物の含有割合を13質量部としたところ、各成分の混合物の混練時に焼けが発生したため高減衰組成物の調製を断念した。
そこで比較例7を除く各実施例、比較例の高減衰組成物について先に説明した各試験を行って特性を評価した。結果を、実施例1の結果と併せて表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
表4の比較例6と実施例1、9〜12の結果を比較すると、イミダゾール系化合物を、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部未満の範囲で含有させた比較例6の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、等価減衰定数Heq100が0.38未満であって減衰性能が不十分であることが判った。そしてこのことからイミダゾール系化合物の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部以上である必要があることが確認された。
【0074】
また比較例7と実施例1、9〜12の結果を比較すると、イミダゾール系化合物を、ベースポリマ100質量部あたり10質量部を超えて含有させようとした比較例7は、先に説明したように焼けを生じやすく高減衰組成物を調製できなかった。そしてこのことから、イミダゾール系化合物の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり10質量部以下である必要があることが確認された。
【0075】
さらに実施例1、5〜8の結果を比較すると、イミダゾール系化合物の含有割合は、前記範囲内でもベースポリマ100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましいことが確認された。
〈実施例13〜16、比較例8〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するヒンダードフェノール系化合物の含有割合を0.05質量部(比較例8)、0.3質量部(実施例13)、1質量部(実施例14)、10質量部(実施例15)、20質量部(実施例16)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0076】
〈比較例9〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するヒンダードフェノール系化合物の含有割合を23質量部としたところ、高減衰部材の表面にブルームが発生した。
前記各実施例、比較例の高減衰組成物について先に説明した各試験を行って特性を評価した。結果を、実施例1の結果と併せて表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5の比較例8と実施例1、13〜16の結果を比較すると、ヒンダードフェノール系化合物を、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部未満の範囲で含有させた比較例8の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、等価減衰定数Heq100が0.38未満であって減衰性能が不十分であることが判った。そしてこのことからヒンダードフェノール系化合物の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部以上である必要があることが確認された。
【0079】
また比較例9と実施例1、13〜16の結果を比較すると、ヒンダードフェノール系化合物を、ベースポリマ100質量部あたり20質量部を超えて含有させた比較例9は、先に説明したようにブルームを生じた。そしてこのことから、ヒンダードフェノール系化合物の含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり20質量部以下である必要があることが確認された。
【0080】
〈実施例17〉
イミダゾール系化合物として、1,2−ジメチルイミダゾールに代えてイミダゾール〔日本合成化学工業(株)製〕を同量用いたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
〈実施例18〉
さらに酢酸マグネシウム・四水塩〔キシダ化学(株)製〕2.5質量部、およびアミン系老化防止剤としてのN−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン〔大内新興化学工業(株)製のノクラック6C〕5質量部とを加えたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0081】
〈実施例19〉
実施例1で用いたのと同じ各成分を同じ割合で用いて、下記の手順で高減衰組成物を調製した。
すなわちベースポリマとしての天然ゴムを、密閉式混練機を用いて1〜2分間程度素練りし、次いで素練りを続けながらロジン誘導体、イミダゾール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、およびシリカの一部(天然ゴム100質量部あたり10質量部)を投入してさらに1〜2分間程度混練した後、混練物を一旦機外へ取り出した。
【0082】
次に前記混練物の所定量を計量して再び密閉式混練機を用いて1〜2分間程度素練りし、次いで素練りを続けながらシリカの残部(天然ゴム100質量部あたり140質量部)と表1に示す各成分とを数回に分けて投入したのちさらに10〜40分間程度混練して高減衰組成物を得た。
前記各実施例の高減衰組成物について先に説明した各試験を行って特性を評価した。結果を、実施例1の結果と併せて表6に示す。
【0083】
【表6】

【0084】
表6の実施例1、17の結果より、イミダゾール系化合物としてイミダゾールを用いることにより、高減衰部材の減衰性能を向上できることが判った。また実施例1、18の結果より、高減衰組成物にさらに酢酸マグネシウム、およびアミン系老化防止剤を含有させることにより、高減衰部材の減衰性能を向上できることが判った。さらに実施例1、19の結果より、ベースポリマに先にロジン誘導体等を加えて混練した後にシリカ等を加えて混練することにより、高減衰部材の減衰性能を向上できることが判った。
【0085】
〈実施例20〜23、比較例10〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するイミダゾールの含有割合を0.05質量部(比較例10)、0.3質量部(実施例20)、1質量部(実施例21)、5質量部(実施例22)、10質量部(実施例23)としたこと以外は実施例17と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0086】
〈比較例11〉
ベースポリマとしての天然ゴム100質量部に対するイミダゾールの含有割合を13質量部としたところ、各成分の混合物の混練時に焼けが発生したため高減衰組成物の調製を断念した。
そこで比較例11を除く各実施例、比較例の高減衰組成物について先に説明した各試験を行って特性を評価した。結果を、実施例17の結果と併せて表7に示す。
【0087】
【表7】

【0088】
表7の比較例10と実施例17、20〜23の結果を先の表4の結果と比較すると、全体的に等価減衰定数Heq100が向上しているものの、イミダゾールを、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部未満の範囲で含有させた比較例10の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、前記含有割合を0.1質量部以上とした実施例17、20〜23に比べて前記透過減衰定数Heq100が低く減衰性能が不十分であることが判った。そしてこのことからイミダゾールの含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり0.1質量部以上である必要があることが確認された。
【0089】
また比較例11と実施例17、20〜23の結果を比較すると、イミダゾールを、ベースポリマ100質量部あたり10質量部を超えて含有させようとした比較例11は、先に説明したようにやけを生じやすく高減衰組成物を調製できなかった。そしてこのことから、イミダゾールの含有割合は、ベースポリマ100質量部あたり10質量部以下である必要があることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、3質量部以上、50質量部以下のロジン誘導体、0.1質量部以上、10質量部以下のイミダゾール系化合物、および0.1質量部以上、20質量部以下のヒンダードフェノール系化合物とを含有していることを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
前記ベースポリマは、天然ゴム、イソプレンゴム、およびブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
前記イミダゾール系化合物はイミダゾールである請求項1または2に記載の高減衰組成物。
【請求項4】
さらに酢酸マグネシウム、およびアミン系老化防止剤を含有している請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項5】
ベースポリマに、先にロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物を加えて混練後にシリカを加えて混練する工程を経て調製されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項6】
ベースポリマに、先にロジン誘導体、イミダゾール系化合物、およびヒンダードフェノール系化合物とともにシリカの一部を加えて混練後にシリカの残部を加えて混練する請求項5記載の高減衰組成物。
【請求項7】
建築物の制震用ダンパの形成材料として用いる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の高減衰組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−116931(P2011−116931A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86254(P2010−86254)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】