説明

高速振動する電場によるイオンの閉じ込め

本出願人の教示は、高周波(RF)および交流(AC)電流の両方のロッドまたは他の電極への同時印加を通して、正および負の電荷の両方のイオンを同時に収容するための多極ロッドセットまたは他の多電極デバイスを組み込む、質量分析計および他のデバイスの操作の際に有用な方法、システム、および装置を提供する。一実施形態において、多極電極セットは、複数の電極対、すなわち2N個の電極(Nは、1より大きい整数)を備える。そのような実施形態では、RF電圧は、第1の位相で1つおきのロッドに、反対の位相で残りのロッドに印加され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願人の教示は、質量分析に関する。
【背景技術】
【0002】
単一の容積内に正および負の極性の両方のイオンを同時にトラップし、互いに反応させるための質量分析計および他のデバイスを使用して、いくつかの種類の分析を実施することは有益である。そのような分析の方法は、例えば、電子移動解離(ETD)および陽子または電子の移動反応を含む。
【0003】
線形イオントラップ(LIT)において、正および負の極性の両方のイオンを同時にトラップする際のいくつかの成功は、LITの入口および出口の両方に高周波(RF)交流電流(AC)電圧を印加することによって達成されている。非特許文献1を参照されたい。また、特許文献1も参照されたい。しかしながら、本アプローチの不利点は、LITの両端へのRF場の印加が、例えば、開口、レンズ、質量分析計、または付加的ロッドセットなど分光計の隣接要素の領域内に及ぶことである。これは、例えば、影響が及ぶ要素内のイオンの操作を困難にさせ得る。
【0004】
線形イオントラップ(LIT)における正および負の極性の両方のイオンの同時トラップに対する別のアプローチは、適用される不平衡主要RF電圧を多極デバイス内のロッドセットに印加することである。非特許文献2を参照されたい。しかしながら、Xiaの刊行物(非特許文献2)の著者らは、例えば、73ページ"[t]he unbalanced [RF voltage] condition creates a barrier for transmission out of Q3 as well as into Q2. Presumably for this reason, transfer of anions from Q3 to Q2 was found to be highly inefficient."に記載されるように、本アプローチが、限定的成功をもたらすことを認識している。本アプローチの別の限界は、不平衡RF電圧によって生成される有効なポテンシャルバリアが、比較的に小さく、容易に制御可能ではないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/074004号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Syka et al.,"Peptide and Protein Sequence Analysis by Electron Transfer Dissociation Mass Spectrometry,"PNAS vol.101,no.26,p9528−9533,June 2004
【非特許文献2】Y. Xia et al.,"Mutual Storage Mode Ion/Ion Reactions in a Hybrid Linear Ion Trap,"Journ. Amer. Society of Mass Spectrometry,Vol.16,p.71,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人の教示は、高周波(RF)および交流(AC)電流の両方のロッドまたは他の電極への同時印加を通して、正および負の電荷の両方のイオンを同時に収容するための多極ロッドセットまたは他の多電極デバイスを組み込む、質量分析計および他のデバイスの操作の際に有用な方法、システム、および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面では、本出願人の教示は、例えば、細長多極ロッド電極セットであって、電極間またはそれによって画される領域を画定するように、互いに対向して配置される複数の電極を備える、電極セットを有する質量分析計を操作する際に有用な方法を提供する。そのような方法は、電極のうちの少なくとも2つに高周波(RF)電圧を提供するステップと、RF電圧に加えて、RF周波数と同一またはそれよりも低い周波数であって、実質的に単相かつ実質的に均一な電圧で、ロッドセットの全ロッドに印加される、交流電流(AC)電圧をロッドセットに提供するステップと、ロッドセットによって画される領域内に極性の異なるイオンを提供するステップとを備えることが可能である。
【0009】
別の側面では、本出願人の教示は、質量分析計または質量分析計システムを提供する。そのような質量分析計および/または質量分析計システムは、複数の対向する電極のセットを含む、多極ロッドセットと、対向する電極のセットのうちの少なくとも2つに接続される、高周波(RF)電圧源と、電極のセットに接続される、交流電流(AC)電圧源とを備え、ACおよびRF電圧源は、独立に制御可能であって、AC電圧源は、実質的に均一な大きさの実質的に単相のAC電圧を電極セットに提供するように構成されることが可能である。
【0010】
いくつかの実施形態では、本出願人の教示による多極電極セットは、複数の電極対、すなわち、2N個の電極(Nは、1より大きい整数)を備える。そのような実施形態では、RF電圧は、第1の位相で1つおきのロッドに、反対の位相で残りのロッドに、印加可能である。
【0011】
同一および他の実施形態では、ACおよびRF電源は、供給される電力の周波数および電圧の独立制御のために適合可能である。制御は、例えば、電源に連結される好適に構成されたコントローラを使用する、手動または自動手段によるものであり得る。
【0012】
そのような方法およびシステムは、イオンおよび他の物質の分析において有用ないくつかの利点をもたらし、多くの種類の周知の質量分析計を通して利用可能な分析的可能性を大幅に向上させる。疑いなく、同様に、新規および未だ予想外の用途が、現在利用可能および未だ開発されていないMSデバイスの両方を使用する実装のために開発されるであろう。
【0013】
本出願人の教示は、添付の図面の図において例証されるが、限定ではなく、例示を意味するものであって、図中、同一参照番号は、同一または対応部分を指すものと意図される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1a】図1aは、本出願人の教示の実施形態を実装する際の使用に好適な、多極ロッドセットおよび付随する配線構成の概略図である。
【図1b】図1bは、本出願人の教示の実施形態を実装する際の使用に好適な、多極ロッドセットおよび付随する配線構成の概略図である。
【図2】図2は、本出願人の教示の実施形態を実装する際の使用に好適な、質量分析計のシステムブロック図である。
【図3】図3は、本出願人の教示の実施形態を実装する際の使用に好適な、質量分析計のシステムブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1aおよび1bは、本出願人の教示を実装する際の使用に好適な、多極ロッド電極セットの概略図である。
【0016】
図1aでは、ロッド電極セット100は、RF電源104およびAC電源106に電気的に接続される複数のロッド形状の電極(「ロッド」)102を備える。示される実施例では、複数のロッド102は、2Nロッド(Nは、2である)を備え、2Nロッドは、対向するセットで配置される。
【0017】
当業者には理解されるように、本開示に精通すると、多種多様の多極構成が、本出願人の教示を実装する際の使用に好適である。特に、ロッド電極セット100は、3より大きい任意の偶数のロッドを備え得ることを理解するであろう。今日では、本出願人の教示を実装する際の使用に好適な多くのロッド電極セットが市販されており、図1aに示されるような四重極配列は、恐らく、最も一般的である。他の構成は、6つ以上のロッドを備え、1つおきにロッドがRF電圧源の一端に接続され、残りは、RF電源の別端に接続される。
【0018】
電極セット100は、概して、図1aに示されるX−Y方向におけるイオンの移動を拘束し得る電磁(例えば、RFおよびAC)場を提供可能な任意の数のロッドを備え得る。例えば、いくつかの方法では、偶数の電極を備えるシステムを概念化および実装することが容易であり得る一方、他の実施形態では、奇数の電極が使用され得ることは、当業者には容易に理解されるであろう。そのような実施形態では、当業者には理解されるように、単純な反対位相整合の代わりに、電極全体に適切に分散されたRFおよびAC電圧の位相整合が使用され得る。
【0019】
当業者には理解されるように、イオン源によって提供されるイオンは、ロッド電極セット100によって画される領域200に導入され得る。半径方向閉じ込め(すなわち、X−Y座標方向に領域200から放出させないような拘束)のための2つのロッド対103、105への好適なRF電圧の印加と、入口および出口レンズ(図示せず)への好適なDC電圧の印加を通して、領域200に導入された単一極性のイオン(すなわち、正または負、陽イオンまたは陰イオン)は、ロッド電極セットによって画される領域200内に収容され、Z軸に略対応する軸方向のロッドセット長を横断するように誘発され得ると、長い間理解されている。本出願人は、例えば、図1aおよび1bに示される態様において、そのようなRF電圧に重畳されるAC電圧の付加を使用して、電極セットによって画される領域200内への両極性のイオン(すなわち、陽イオンおよび陰イオン)の収容を成功し得ると判断する。AC電圧の印加は、イオンを軸方向に閉じ込める有効ポテンシャルVeffを生成する。Gerlich(Dieter Gerlich, "Inhomogeneous RF Fields: a Versatile Tool for the Study of Processes with Slow Ions", in State− selected and state−to−state ion−molecule reaction dynamics, Part J, Edited by Cheuk−Yiu Ng and Michael Baer, Advances in Chemical Physics, v. LXXXII, John Wiley & Sons, 1992)によると、振動電場が、振幅E(R)および角周波数Ωによって印加される場合、有効ポテンシャルは、以下のように計算可能である。
eff=qE(R)/4mΩ (式1)
式中、qおよびmは、電場内の電荷とイオンの質量である。有効ポテンシャルの符号は、イオン電荷のものと同一であるため、両極性のイオンは、印加されるAC電圧によって生成される同一の有効ポテンシャルバリアによって閉じ込め可能である。一方、有効ポテンシャルは、AC電圧振幅ではなく、電場に依存するため、Syka et al.,2004によって教示されるように、同一有効ポテンシャルバリアは、AC電圧がロッドセット100に印加されるか隣接電極に印加されるかどうかにかかわらず、イオンを軸方向に閉じ込めるように生成可能である。Sykaのアプローチと本明細書に開示されるものとの間の差異は、ここで提案される方法では、AC場が、局所化され、システムの残りに拡散しないことである。
【0020】
図1aに示される実施形態では、RF電源104は、ロッドセット100の4つのポール102にRF電流を印加し、RF電流は、反対の位相において、2つのロッド対103、105((+)および(−)記号の使用によって示される)に印加される。
【0021】
両極性のイオン(すなわち、陽イオンおよび陰イオン)のロッドセット100内の領域200への同時閉じ込めを提供するために、図1aのAC電源106が、図示されるように、ロッド対103、105が、電源104によって提供される反対の位相のRF電流に重畳された同位相のAC電圧を提供するように、単相のAC電圧をロッドセット100の全ロッド102に提供するように適合される。
【0022】
明確にするために、電源104、106は、図1aでは、別個のデバイスとして示される。しかしながら、当業者には理解されるように、単一の好適に構成された電源ユニットによって提供され得る。概して、電源104、106は、本出願人の教示の実施形態を実装する際に、直流電流(DC)、交流電流(AC)、および/または高周波(RF)電流電圧のうちの任意の1つ以上を電極102のうちの1つ以上に提供するように適合可能である。
【0023】
同一結果として得られる重畳された均一位相AC電力と反対位相RF電力示す代替方式が、図1bに概略的に示される。
【0024】
式1に示されるように、有効ポテンシャルバリアの強度は、イオンの質量に反比例する。換言すると、イオンが重いほど、有効バリアは小さくなる。したがって、トラップされるイオンの質量範囲に応じて、AC電圧振幅を調節することが必要である。
【0025】
本出願人は、本明細書に記載の態様における電圧および周波数の印加によって、ロッドセット100の領域200内に「サドル形状」の有効ポテンシャル場を誘発可能であって、ロッドセットの両端近傍よりも中央において、概して、低いポテンシャルを含むことを確認した。RFおよびAC場の組み合わせは、ロッドセット内の単一の容積内に同時に収容され得るように、軸方向および半径方向の両方に(すなわち、図1aの全3つのx、y、z座標方向)、両電荷状態のイオンをロッドセットの中心に向かってプッシュする傾向にあることが認められている。
【0026】
概して、当業者に理解されるように、高周波電流は、約10,000サイクル/秒(cps)、すなわち、ヘルツ(Hz)より高い周波数を有するAC電流である。本出願人の教示は、約10,000Hz乃至約100メガHz(Mhz)の範囲のRF電流と、印加されるRF電流の周波数の約半分(1/2)の周波数におけるAC電流とを印加することによって、本明細書によるシステムの初期版を実装する際、改良結果をもたらした。本出願人は、例えば、約1対2(1/2)の比率でACおよびRF周波数を印加することによって、結果として得られる陽イオン−陰イオン閉じ込め場のスペクトルの「穴」の存在を低減可能であって、したがって、正および負の電荷の両方のイオン状態の閉じ込めを改善することを確認した。
【0027】
さらに、当業者には明白なように、本開示に精通すると、また、本明細書に記載されるACおよびRF電圧の印加は、典型的には、本明細書に記載される質量分析計の衝突チャンバ、分離オリフィス、および他の部分内に提供されるような、イオンの閉じ込めおよび制御を補助するガス圧と併用され得る。
【0028】
本出願人の教示が有益に実装され得る、現在利用可能なMSデバイスの実施例は、四重極、TOF(QqTOFおよび他の標準TOFシステムを含む)、ならびに線形イオントラップ質量分析計を含む。概して、多極要素が採用される任意のMSデバイス、特に、正および負の極性のイオンを同時に収容または操作することが想定あるいは所望されるものは、本出願人の教示を実装する際の使用に好適である。現在市販の好適なMSデバイスの実施例は、Applied Biosystems/MDS Sciexから市販のAPITM、QTrap(登録商標)、およびQStar(登録商標)システムを含む。
【0029】
図2および3は、本出願人の教示を実装する際の使用に好適な質量分析計のシステムブロック図10、10'である。図2および3に示される質量分析計10、10'は、それぞれ、QqTOFおよび三連四重極構成を備える。
【0030】
図2および3に示される実施形態における質量分析計10、10'はそれぞれ、陽イオン(正イオン)または陰イオン(負イオン)源12を備え、本出願人の教示を実装する際の使用に好適な、例えば、エレクトロスプレイ、イオンスプレイ、液体クロマトグラフィ(LC)、またはコロナ放電デバイス、あるいは任意の他の周知またはその後開発される源を含み得る。多種多様の好適なイオン源が、現在市販されており、疑いなく、今後、他のものも開発されるであろう。現在利用可能な好適な源の実施例は、Applied Biosystems/MDS Sciexから市販のIonSprayTM、Turbo VTM、DuoSprayTM、NanoSpray(登録商標)、およびPhotoSpray(登録商標)デバイスを含む。
【0031】
源12からのイオンは、開口プレート16内の開口14を通して、カーテンガスチャンバ18内に誘導され得る。カーテンガスチャンバ18は、ガス源(図示せず)からのアルゴン、窒素、またはその他、好ましくは、不活性ガス等のカーテンガスを供給され得る。カーテンガスおよびカーテンガスチャンバ18の導入および採用のための好適な方法は、周知である。
【0032】
イオンは、カーテンガスチャンバ18から、オリフィスプレート20内のオリフィス19を通して、差動排気される真空チャンバ21内に通され得る。当業者には理解されるように、カーテンガスチャンバ18、電場、およびチャンバ18、21内のガス圧差の使用を利用して、源12から放出されるイオンの所望のセットを所望の態様で質量分析計10'を通して移動させ得る。次いで、そのようなイオンは、スキマープレート24内の開口22を通して、第2の差動排気される真空チャンバ26内に通され得る。典型的には、従来通り実装されるシステムでは、チャンバ21内の圧力は、約1または2Torrに維持される一方、チャンバ26内の圧力は、従来、質量分析計の第1のチャンバとして、適切であると説明される場合が多かった、約7または8mTorrの圧力に真空化される。
【0033】
チャンバ26では、従来のRFイオンガイドとしての使用のために構成され得る、多極ロッドセットQ0、100が提供され得る。イオンガイドのいくつかの変形例が、現在提供されており、当業者には理解されるように、本開示に精通すると、本出願人の教示を実装する際の使用に好適である。イオンガイドロッドセットQ0は、例えば、質量分析計内に存在するイオンストリームを冷却および集束させる機能を果たし得、チャンバ26内に存在する比較的高ガス圧によって、そのような機能を補助し得る。また、チャンバ26は、典型的には、大気圧で動作し得るイオン源12と、より低い圧力の真空チャンバ21、26との間のインターフェースを提供する機能を果たし、それによって、さらなる処理に先立って、イオンストリームから受容するガスを制御する機能を果たす。
【0034】
図2および3に示される実施形態では、四重極間の開口IQ1が、チャンバ26から、第2の主要真空チャンバ30内に、イオン流を提供する。第2のチャンバ30では、RFのみの多極ロッドセット100(「stubbies(短く太い)」を表すSTと標識され、短軸範囲のロッドを示す)が提供され得、例えば、Brubakerレンズとして機能し得る。
【0035】
また、多極ロッドセット100、Q1が、真空チャンバ30内に提供され得、約1乃至3x10−5Torrに真空化され得る。また、チャンバ30は、衝突セル32内に第2の多極ロッドセット100、Q2を備え得、34で衝突ガスが供給され得、例えば、米国特許第6,111,250号においてThomsonおよびJolliffeによって教示されるように、出口端に向かって偏向された軸方向電場を提供するように設計され得る。セル32は、チャンバ30内に提供され得、両端に四重極間の開口IQ2、IQ3を含み得る。従来通り実装されるシステムでは、セル32は、典型的には、5x10−4乃至8x10−3Torrの範囲の圧力、より好ましくは、約5x10−3Torrの圧力に維持される。
【0036】
三連四重極MS分析計10'を表す、図3に示される実施形態では、源12からのイオンは、次いで、チャンバ32からの退出に伴って、出口レンズ40を介して、第3の多極ロッドセット100、35、Q3、例えば、四重極ロッドセット内に通され得る。Q3領域内の圧力は、Q1の場合と同一、すなわち、1乃至3x10−5Torrであり得る。例証される実施形態では、検出器76が、出口レンズ40を通して流出するイオンを検出するために提供される。
【0037】
したがって、多極ロッドセット100、Q3、35またはQ2内に提供される正イオンは、負イオン源150からの負イオンによって結合され、例えば、J.Wu et al.,"Positive Ion Transmission Mode Ion/Ion Reactions in a Hybrid Linear Ion Trap",Analytical Chemistry 2004,76,5006−5015、およびS.McLuckey et al.,"Atmospheric Sampling Glow−Discharge Ionization Source for the Determination of Trace Organic−Compounds in Ambient Air,Analytical Chemistry 1988,60,2220−2227(それぞれ、参照することによって本明細書に組み込まれる)に詳述されるように、例えば、大気サンプリンググロー放電イオン源(ASGDI)から、Q3またはQ2ロッドセット35/32の側面から導入される。
【0038】
多極ロッドセットQ3またはQ2(35または32)は、本明細書に記載されるACおよびRF電流/電圧が提供されるために、AC/RF電源104、106に連結され、それによって、陰イオンおよび陽イオンの両方を同時に収容するように操作され得る。反応は、Q3および/またはQ2のいずれかで生じ得る。実際は、後者が、いくつかの理由で望ましい場合がある。例えば、Q2内で衝突冷却が存在する場合があり、そこでイオンを停止および冷却することが、比較的容易であり得、例えば、ロッドセットQ3、35は、例えば、質量フィルタまたは質量選択軸方向放出を伴う線形イオントラップ(LIT)として用いるために構成され得る。
【0039】
QqTOF機器を表す、図2に示される実施形態では、質量分析計10は、レンズ129と、TOF質量分析計130と、をさらに備える。イオンのチャンバ30からの退出に伴って、集束レンズ129および開口128を通して、TOF分析計130の下方プレート137および窓135によって画定される抽出ゾーン134内に通される。抽出ゾーン134を通してゆっくりと移動するイオンは、プレート138およびグリッド136に印加される電気パルスの使用によって、ならびに加速カラム38に印加される電圧によって、窓135を通して、主要チャンバまたは飛行管144内にプッシュされる。イオンミラー140が、TOF分析計130の遠位端に、検出器142が、図示されるように、提供され得る。
【0040】
グリッド135、136および加速カラム138に提供される電場の影響下、イオンパケット146が、矢印150によって示されるように、イオンミラー140に向かって、次いで、検出器142内に加速され得る。当業者には理解されるように、パケット146内のイオンの質量−電荷(m/z)比は、検出器142へのその到着時間を測定することによって判定され得る。
【0041】
TOF質量分析計のために本出願人の教示によってもたらされる特定の利点は、本明細書に記載されるRFおよびAC場の印加を使用して、対応するロッドセット(例えば、図2のロッドセット100、Q2)からの出口を超えた領域内の振動ポテンシャルの存在を防止し、イオンのエネルギー拡散およびTOF質量分析計にイオンを移動させる際の関連する困難点を防止可能であることである。
【0042】
図3では、多極ロッドセットQ3、35は、本明細書に記載されるACおよびRF電流/電圧が提供されるために、AC/RF電源104、106に連結され、それによって、陰イオンおよび陽イオンの両方を同時に収容するように操作され得る。したがって、ロッドセットQ3、35は、例えば、質量フィルタまたは質量選択軸方向放出を伴う線形イオントラップ(LIT)として用いるために構成され得る。
【0043】
図2および3に示される実施形態では、質量分析計10、10'は、コントローラ160をさらに備える。コントローラ160は、質量分析計10、10'および付随デバイスによって取得または提供されるデータ信号を受信、格納、および処理するために適合され得る。コントローラ160は、例えば、システムのユーザから受け取り、システムコマンドを実装するための好適な入/出力デバイスを含む、MSシステム10、10'を制御するために好適なユーザインターフェースをさらに提供し得る。特に、コントローラ160は、検出器142、76によって取得されるデータを処理し、そのようなデータの処理によって、少なくとも部分的に決定されたコマンド信号を質量分析計10、10'に提供するために適合され得る。
【0044】
電源36、37、38、104、106のうちの任意の1つ以上、したがって、デバイス100の電極Q0、ST、Q1、Q2、Q3と、IQ1、IQ2、およびIQ3における電流/電圧、18で提供されるカーテンガス圧、チャンバ21、26、30、および32で提供される圧力、ならびに質量分析計130、76の任意の1つ以上の構成要素は、本明細書に記載されるように、コントローラ160によって、全体的または部分的に、自動的に制御され、本明細書に記載の目的を達成し得る。
【0045】
当業者には理解されるように、コントローラ160は、本明細書に記載の目的を達成するために好適な、任意のデータ取得および処理システムまたはデバイスを備えることが可能である。コントローラ160は、例えば、好適にプログラムされた、あるいはプログラム可能な汎用または特定用途コンピュータ、もしくは他の自動データ処理デバイスを備えることが可能である。コントローラ160は、本明細書に記載されるように、例えば、質量分析計10、10'によって実行されるイオン検出走査を制御および監視するため、質量分析計10、10'による、源13および衝突チャンバ32から提供されるイオンのそのような検出を表すデータを取得および処理するために、適合可能である。故に、コントローラ160は、1つ以上のアプリケーションおよびオペレーティングシステムを含む、適切にコード化された構造化プログラミングによって、および任意の必要または所望の揮発性あるいは永続記憶媒体によって、自動および/または双方向制御のために適合される1つ以上の自動データ処理チップを備えることが可能である。当業者には理解されるように、本出願人の教示を実装するために好適な多種多様のプロセッサおよびプログラミング言語が、現在市販されており、疑いなく、今後も開発されるであろう。好適なプロセッサおよびプログラミングを備える、好適なコントローラの実施例は、Applied Biosystems/MDS Sciexから市販のAPI 5000TMまたはAPI 4000TM MSシステム内に組み込まれるものである。
【0046】
電源37、36、38、104、106は、本明細書に開示されるように、種々のRF、AC、およびDC電圧を提供される種々の四重極に提供するために提供される。例えば、Q0は、例えば、米国特許第4,963,736号において教示されるように、RFのみの多極イオンガイドQ0として作動され、イオンを冷却および集束する機能を果たし得る。Q1は、標準的分解RF/DC四重極として採用可能である。電源37、36によって提供されるRFおよびDC電圧は、着目前駆体イオンまたはm/zの所望の範囲のイオンのみQ2内に移動させるように選択され得る。Q2は、源34からの衝突ガスが供給され、前駆体イオンを解離または分裂し、第1世代または後続世代の断片イオンを産生させ得る。また、DC電圧は、(上述の電源または異なる源のうちの1つ以上を使用して)電極IQ1、IQ2、IQ3および出口レンズ40に印加され得る。さらに、RFおよびAC電圧/電流が、本明細書に記載されるように、両方の電荷状態のイオンを収容および/または誘導するために、ロッドセット100、Q0、ST、Q1、Q2、Q3のいずれかに印加され得る。
【0047】
種々のロッドセット100、Q0、ST、Q1、Q2、Q3に印加されるDC、AC、およびRF電圧はすべて、コントローラ160および適切な入/出力デバイスを使用して、MSシステム10、10'の人間のユーザによって制御され得る。コントローラ160は、完全または半自動的態様で、そのようなユーザから受信される命令を実装するように適合され得る。
【0048】
当業者には理解されるように、本開示に精通すると、ロッドセット100、Q0、ST、Q1、Q2、Q3のうちの任意の1つ以上は、本明細書に記載されるように、RFおよびAC電流/電圧の好適な印加によって、両電荷状態のイオンの閉じ込めのために採用可能である。そのような当業者にはさらに理解されるように、陰イオンおよび陽イオンのための導入点および源12、150は、本出願人の教示に従って、逆に、または修正され得る。
【0049】
本出願人の教示は、好ましい実施形態に関連して説明および例証されたが、当業者には明白であるように、多くの変形例および修正例が、その精神および範囲から逸脱することなく成され得、本出願人の教示は、上述の方法または構成の精密な詳細に限定されず、そのような変形例および修正例は、その教示の範囲内に含まれることが意図される。必要範囲内またはプロセス自体に固有の場合を除き、図面を含み、本開示に記載される方法またはプロセスのステップあるいは段階に対する特定の順番は意図されない。多くの場合、プロセスステップの順番は、記載される方法の目的、作用、重要性を変更することなく、可変であり得る。
【0050】
当業者は、本開示を熟読することによって、添付の請求項内の発明の真の範囲から逸脱することなく、形態または詳細において、種々の変更が成され得ることを理解するであろう。
【0051】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、編成目的のために提供されるものであって、説明される主題を限定するものとしていかようにも解釈されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の容積内に極性の異なるイオンを閉じ込める方法であって、
複数の2N個の電極(Nは、1より大きい整数)と、高周波(RF)電圧であって、第1の位相で1つおきのロッドに、反対の位相で残りのロッドに印加される、RF電圧とを含む、細長多極ロッドセットを提供するステップと、
該RF電圧に加えて、該RF周波数と同一またはそれよりも低い周波数であり、実質的に単相で該ロッドセットの全ロッドに印加される、交流電流(AC)電圧を該ロッドセットに提供するステップと、
該ロッドセットによって画される領域内に極性の異なるイオンを提供するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
複数の対向する電極のセットを含む細長多極ロッドセットを有する、質量分析計を操作する方法であって、
該電極のうちの少なくとも2つに高周波(RF)電圧を提供するステップと、
該RF電圧に加えて、該RF周波数と同一またはそれよりも低い周波数であり、実質的に単相かつ実質的に均一な電圧で、該ロッドセットの全ロッドに印加される、交流電流(AC)電圧を該ロッドセットに提供するステップと、
該ロッドセットによって画される領域内に極性の異なるイオンを提供するステップと
を包含する、方法。
【請求項3】
前記AC周波数は、前記RF周波数よりも低い、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記AC周波数は、前記RF周波数の半分以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多極ロッドセットは、偶数のロッドを備える、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記RF電圧は、反対の位相で前記対向する電極のセットのうちの少なくとも2つに印加される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
質量分析計システムであって、
複数の2N個の電極(Nは、1より大きい整数)を含む、多極ロッドセットと、
第1の位相で1つおきのロッドに、反対の位相で残りのロッドにRF電圧を印加するように構成される、高周波(RF)電圧源と、
該電極セットに接続される、交流電流(AC)電圧源と
を備え、該ACおよびRF電圧源は、独立に制御可能であって、該AC電圧源は、実質的に均一な大きさの実質的に単相のAC電圧を該電極セットに提供するように構成され、該AC周波数は、該RF周波数と同一またはそれよりも低い周波数である、システム。
【請求項8】
質量分析計システムであって、
複数の対向する電極のセットを含む、多極ロッドセットと、
該対向する電極のセットのうちの少なくとも2つに接続される、高周波(RF)電圧源と、
該電極のセットに接続される、交流電流(AC)電圧源と
を備え、該ACおよびRF電圧源は、独立に制御可能であって、該AC電圧源は、実質的に単相のAC電圧を該電極セットに提供するように構成される、システム。
【請求項9】
前記AC電圧源は、前記RF電圧の周波数よりも低い周波数で、ACを前記電極セットに提供するように適合される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記ACは、前記RF周波数の半分以下の周波数で提供される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記多極ロッドセットは、偶数のロッドを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記多極ロッドセットは、偶数の対向するロッドのセットを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
前記RF電圧源は、反対の位相のRF電圧を前記少なくとも2つの対向する電極のセットに提供するように適合される、請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
前記RFおよびAC電圧源は、同一の電源デバイスによって駆動される、請求項8に記載のシステム。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−532867(P2010−532867A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515327(P2010−515327)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001170
【国際公開番号】WO2009/006726
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(500069057)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】