説明

魚肉すり身加工食品およびその製造方法

【課題】魚肉すり身加工食品における品質を向上するとともに、製造コストを下げる、魚肉すり身加工食品およびその製造法の提供。
【解決手段】魚肉すり身および/または魚肉落とし身を主成分とする原材料からの成形、坐り、加熱の各工程を含む製造方法により得られる魚肉すり身加工食品であって、該製造方法が、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有すること、原材料が、魚肉すり身および/または魚肉落とし身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えること、ならびに、置き換え量が魚肉すり身および/または魚肉落とし身に対して10〜60重量%であることを特徴とする魚肉すり身加工食品およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有する魚肉すり身加工食品の製造方法において、原料材料としてタンパク質を魚肉すり身の代替物(品質向上剤としての機能をも有する)として配合することを特徴とする方法および得られた魚肉すり身加工食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒲鉾、カニ風味蒲鉾(蟹風蒲鉾)、揚げ蒲鉾などの魚肉すり身加工食品において、魚肉すり身は主成分として用いられている。従来の蒲鉾を例にとると、スケソウダラ等の主として白身の原魚を水洗し、骨と皮と肉に分ける身とり工程、余分な油分とか水溶性蛋白を水中に逃すさらし工程、余分な水分を除いて水分含有量を約75〜80%程度にするしぼり工程、冷凍変性を防ぐために糖分と重合リン酸塩を練り込んで冷凍する冷凍すり身作成工程、真空カッターを利用して2%〜4%の塩を添加し、塩溶性蛋白を引き出す塩ずり工程、水を入れて塩分と堅さを調整して粘調性のあるペースト状にする調味工程、副資材として澱粉や調味料、砂糖、卵白、防腐剤、安定剤等を添加する仕上げ工程、所定の形状に加工する成形工程を行ってから得られたすり身の凝固化と殺菌処理を行う加熱工程を行い、製品としての蒲鉾が完成する。そして、従来の魚肉練製品は魚肉中の塩溶性蛋白からアミノ酸(アクトミオシン)が溶けだし、網状組織を形成し、該網状組織が幾重にも重なり合ってゲル化したものを加熱処理することによって強固に凝固化させて製品としている。上記の加熱工程は、通常85〜90℃で20〜40分間程度の処理を実施している。
このような魚肉すり身加工食品における品質は、ゲル剛性(=破断強度/破断凹み)などにより評価することができ、例えば、用いるスケトウダラの冷凍すり身においては、品質順にSA級、FA級、AA級、A級、KA級、陸上2級の等級が設定されており、一般には高位の等級のものを用いた方が低位の等級のものを用いた場合と比べ製品のゲル剛性が高いとされる。しかしながら、等級の高いすり身は当然に価格も高く、製造コストの高騰に直結する。近年、魚肉すり身自体が高騰化の傾向にあり、製造コストを下げることは切迫した課題である。
【0003】
原材料から従来技術を見ると、水産練製品は、原料であるすり身の種類により、塩ずり、成型、加熱、冷却、包装の各工程でのすり身の物性に差異が生じる。練製品製造時にはこの物性をコントロールすることが重要な要素となっている。こうした、すり身原料の魚種や漁区、品質の優劣に起因する、坐りの程度の強弱や、加熱工程における戻り現象による物性のばらつきを、坐り促進剤であるトランスグルタミナーゼや、戻り抑制剤である卵白等で調節することが行われている。また、成形工程を困難にするとされる、坐り易いすり身の物性制御には、砂糖、リン酸塩などをすり身に添加する方法などが知られているが、共に添加量に限界があることや、最終製品の味に影響を及ぼす可能性があることなどから一般的ではない。
魚肉よりも安価な卵白やデンプンなどを主成分とした添加材を、魚肉の代替物として蒲鉾の原料に加えて増量することは検討されており、例えば、特許文献1には、主成分として卵白、デンプン及び水を含み、湯や蒸気で加熱凝固されてなる混練添加用凝固卵白食品が開示されており、この加熱凝固した卵白食品を魚肉すり身などの水産練製品の主原料に混練することも開示されている。そこに開示される混練添加用凝固卵白食品は、それ自体は、弾力はなく、加熱凝固した卵白のような食感がして蒲鉾の食感とは程遠いものであり、該凝固卵白食品を魚肉すり身に添加後、さらに加熱した製品(蒲鉾)のゲル強度は、添加しないものに比し格別優れるものではなかった。
【0004】
また、特許文献2には、魚肉を全く含まずに蒲鉾の食感(弾力及び歯ごたえ)を有する加熱凝固食品、すなわち、主成分として加熱凝固性タンパク原料、タピオカデンプン及び/又は加工タピオカデンプン、増粘多糖類、食用油脂及び水を含み、蒸煮により加熱凝固してあることを特徴とする蒲鉾様加熱凝固食品が開示されており、それが、魚肉すり身に加える蒲鉾の増量を目的とした添加材として用いられることも開示されている。しかし、そこに開示される加熱凝固食品は、魚肉を全く含まずに蒲鉾の食感(弾力及び歯ごたえ)を出すために、カラギーナン又はサイリウムなどの増粘多糖類一定量以上配合すること及び食用油脂を併用することが必須であり、しかもそれらの配合割合によっては、目的とする弾力が得られないなど、新たな成分の追加、量割合の調整などによる手間やコスト等の問題を有するものであった。
【0005】
また、特許文献3には、カルシウム塩、トランスグルタミナーゼ等は、坐り能力の高いスケトウタラ洋上特級すり身に使用するとその坐りは増強されるが、坐り能力の弱い陸上2級すり身ではその効果はほとんど認められず、また血漿、卵白、牛乳等は戻り防止効果はあるが、その他の品質特性、例えば保水力、乳化力、坐り促進効果は弱く、一方、大豆たん白は保水力はあるが、坐り増強、戻り防止効果は弱い等、このように、現在、練り製品を製造するにあたり、かかる種々の問題に対処するには不充分な点が多く、満足出来る製品は得られていないとして、魚肉に対し、無水物換算で30TIU/mg以上のトリプシンインヒビター活性を有する全脂大豆粉および/または大豆ホエーと、粉末状大豆たん白と、カルシウム塩とを同時に添加して魚肉すり身また魚肉練り製品を製造する技術が開発され、簡便な操作で、添加物の相乗的作用により、坐りの増強および、戻りの抑制が達成され、また、最終加熱ゲルが増強され、ゼリー強度および弾力が増強せしめられたこと、保水性、色調および風味の点でも優れた安価な魚肉すり身および魚肉練り製品が得られたことが記載されている。
【0006】
製造方法や装置から従来技術を見ると、加熱はいずれも、湯や蒸気などの外部加熱を用いている。蒸気噴射装置が設けられた蒸煮室を備える帯状練製品の連続加熱装置としては、例えば、特許文献4に記載のものがある。
また、通電加熱(ジュール加熱)を用いた帯状食品の製造装置およびそれを用いた帯状食品の製造方法としては、出願人に係る特許文献5に記載のものがある。また、蒲鉾、はんぺん、その他の加熱が必要とされる材料をジュール加熱により目的温度に達温する方法であって、ジュール加熱前またはジュール加熱中の材料の温度と電気抵抗に応じてジュール加熱時間を制御することを特徴とする方法(特許文献6)が開発されている。なお、蒲鉾、はんぺんの材料は通常の材料が用いられている。
その他、特許文献7には、ちくわ等の魚肉練製品の製造方法において、ジュール加熱を昇温させるためにのみ利用し、製造方法全体としての迅速化を可能とした。食塩を加えて撹拌・混合された魚肉すり身からの成型、坐り、加熱の各工程を含む魚肉練成品の製造方法において、被処理物の昇温にジュール加熱を利用することを特徴とする魚肉練成品の製造方法が記載されている。上記魚肉練成品は、好ましくは筒状に成形された魚肉練製品である。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−137663号公報
【特許文献2】特許第3176108号公報
【特許文献3】特開平8−9929号公報
【特許文献4】特開平3−254663号公報
【特許文献5】特許第3169512号公報
【特許文献6】特開平2003−31340号公報
【特許文献7】特開2001−22434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、魚肉すり身加工食品における品質を向上するとともに、製造コストを下げる、魚肉すり身加工食品およびその製造法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、タンパク質を魚肉すり身の代替物および品質向上剤として魚肉すり身に配合した、魚肉すり身、タンパク質、デンプン、水を必須成分として含む魚肉すり身加工食品用混練物をジュール加熱装置で通電加熱することによりえられる魚肉すり身加工食品が、増粘多糖類などを配合しなくても弾力・しなやかさ(破断凹み)に優れ、しかも、従来の湯や蒸気加熱などの外部加熱によるものより、ゲル強度(破断強度)が優れ、それらを総合したゲル剛性(=破断強度/破断凹み)が優れるものとなることの知見を得、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、タンパク質を単に魚肉すり身の代替物(増量材)として使用するのではなく、製品の物性向上に使用することに特徴を有する。本発明は、タンパク(例えば大豆タンパク)のゲル化機構、結着力、乳化力を積極的に利用するものである。
【0010】
本発明は、次の(1)ないし(4)の魚肉すり身加工食品を要旨とする。
(1)魚肉すり身および/または魚肉落とし身を主成分とする原材料からの成形、坐り、加熱の各工程を含む製造方法により得られる魚肉すり身加工食品であって、該製造方法が、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有すること、原材料が、魚肉すり身および/または魚肉落とし身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えること、並びに、置き換え量が魚肉すり身および/または魚肉落とし身に対して10〜60重量%であることを特徴とする魚肉すり身加工食品。
(2)魚肉以外のタンパク質が、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、および卵白の少なくとも一種から選ばれるものである、(1)に記載の魚肉すり身加工食品。
(3)原材料が、魚肉すり身、タンパク質、デンプンおよび水を必須成分として含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の魚肉すり身加工食品。
(4)魚肉すり身加工食品が、蒲鉾、カニ風味蒲鉾、および揚げ蒲鉾の少なくとも一種である、(1)、(2)又は(3)に記載の魚肉すり身加工食品。
【0011】
また、本発明は、次の(5)ないし(8)の魚肉すり身加工食品の製造方法を要旨とする。
(5)魚肉すり身および/または魚肉落とし身を主成分とする原材料からの成型、坐り、加熱の各工程を含む魚肉すり身加工食品の製造方法であって、該製造方法が、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有すること、原材料が、魚肉すり身および/または魚肉落とし身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えること、並びに、置き換え量が魚肉すり身および/または魚肉落とし身に対して10〜60重量%であることを特徴とする魚肉すり身加工食品の製造方法。
(6)魚肉以外のタンパク質が、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、および卵白の少なくとも一種から選ばれるものである、(5)に記載の魚肉すり身加工食品の製造方法。
(7)原材料が、魚肉すり身、タンパク質、デンプンおよび水を必須成分として含むことを特徴とする(5)又は(6)に記載の魚肉すり身加工食品の製造方法。
(8)魚肉すり身加工食品が、蒲鉾、カニ風味蒲鉾、および揚げ蒲鉾の少なくとも一種である、(5)、(6)又は(7)に記載の魚肉すり身加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、タンパク質を魚肉すり身の代替物および品質向上剤として魚肉すり身に配合し、原料混練物を通電加熱(ジュール加熱)することにより、ゲル強度(破断強度)、および弾力・しなやかさ(破断凹み)が優れ、それらを総合したゲル剛性が優れる魚肉すり身加工食品を得ることができるので、魚肉すり身加工食品の品質を向上するとともに、製造コストを下げることができるという、産業上有用な効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従来の魚肉すり身加工食品においては、原材料として魚肉すり身を主成分として用いる。最良の形態の本発明は、この主原料である魚肉すり身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えることを特徴とするものである。
本発明で用いる魚肉すり身としては、練り製品などの魚肉すり身加工食品において通常用いられる生または冷凍のすり身が使用できる。原料魚は、すり身として利用するものであれば魚種は問わないが、例えばスケソウダラ、グチ、イトヨリ、エソ、南だら、キンメ、ホッケ、ニシン、アジ、イワシ、ワラヅカ、トビウオ、サケなどが挙げられる。これらの単独あるいは混合したもののすり身に上記の原料魚の落し身(ミンチ状に高鮮度の加工した魚肉)を混ぜ合わせることもできる。本発明では、特に、スケトウダラのような坐りゲル能を持つ魚種のすり身を使用することが好ましい。このような原料魚を含むすり身を利用した場合、実施例で裏付けするように、置き換えたタンパク質(増量剤)の量が特定の範囲にある場合、すり身の坐りゲル能を発現する効果を阻害せず、かつ、全体的に物性値を増加させることに寄与するからである。
本発明では、このような魚肉すり身の一部分を置き換えたタンパク質(増量剤)の機能に加え、製造工程にジュール加熱装置で通電加熱する工程を有することにより、例えば陸上2級のすり身を用いても、製品として流通させるのに充分なゲル剛性を得ることが可能である。実施例で示されるように、大豆タンパク質は変性したすり身または陸上2級に加える方が、未変性のものに加えるよりかまぼこの弾力増強効果は大きい。このことから、すり身に落し身を混ぜ合わせることも可能となったものである。
【0014】
本発明で用いる魚肉すり身の一部分を置き換えるタンパク質として、魚肉由来の蛋白質以外の、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、卵白など、加熱により凝固するタンパク質を主体とするものであればどのようなものを用いてもよく、その形態は粉末のものが取り扱いが便利である。魚肉すり身と混合するには、あらかじめタンパク質を適量の水に懸濁または乳化しておいて、それに所定量の魚肉すり身を塩摺りして混合するのが有利である。
【0015】
大豆タンパク質や小麦タンパク質などのタンパク質のゲル化機構においては、かまぼこの坐り抑制効果(ミオシン重鎖の架橋重合反応を阻害する作用)もあるので、魚肉すり身への配合量が小さいと、全体としての物性の向上は少ない。例えば大豆タンパク添加量が5重量%以下の場合、坐り抑制効果が働き、ゲルの物性は変化しない。他方、大豆タンパク添加量が10%以上のときは坐り抑制効果よりも、物性の補強効果が大きく働き、物性は上昇する。
以上より、タンパク質の配合量(魚肉すり身の置き換え量)は、魚肉すり身の5重量%を超える量とすること、好ましくはタンパク質を10〜60重量%とすることが有利であり、タンパク質を10〜30重量%することがさらに有利である。
【0016】
本発明で用いる必須の副原料としてのデンプンは、タピオカ、バレイショ、サツマイモ、トウモロコシ、小麦などの各種原料から常法により得られるデンプン、あるいはこれらのデンプンに酸、アルカリ、酵素、又は熱を加えるなど加工処理を施して得られる加工デンプンなど、どのようなデンプンを用いてもよいが、冷凍耐性が高いものとしては小麦デンプンや馬鈴薯デンプンが例示される。
【0017】
本発明の目的を損なわないかぎり、本発明の魚肉すり身を主成分とする原材料には、さらに、練り製品等の魚肉すり身加工食品に配合されることが周知の添加成分、例えば、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、油脂、調味料、甘味料、酸味料、苦味調整剤、pH調整剤、品質安定剤等を単独、あるいは併用して配合しても良い。
例えば、大豆タンパク質に油(大豆油等)を混ぜることでクリーム状となり、食感をソフトにすること、大豆臭を軽減すること(風味が良くなること)、色の白色化を実現することが可能である。
【0018】
本発明の魚肉すり身加工食品は、例えば、蒲鉾、カニ風味蒲鉾等の帯状食品、さつまあげ等の揚げ蒲鉾の少なくとも一種である。魚肉すり身加工食品用混練物の具体的な配合例は以下の実施例において示す。
【0019】
本発明の魚肉すり身原料から、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有する魚肉すり身加工食品の製造方法について説明する。
魚肉すり身加工食品の基本的な製造工程は、(1)魚を調理して精肉を採取し、(2)食塩、調味料、副原料を加えて擂潰し、(3)所定の形に成形してから、(4)加熱してゲル化させるという4工程からなるが、現在は上記の(1)と(2)の工程の間に採取した肉を水晒しする工程が、また最終工程の後に冷却して包装する工程が加わるのが普通である。上記の(2)の工程で、必要に応じて氷を加えたり、冷却環境下で行うようにして、摺り上がり温度を10℃以下にする。ここで用いる装置としては、通常の練製品で使用される擂摺機、カッティングミキサー、ステファンカッター、ボールカッター、カプセルカッター等が用いられる。また、塩摺り工程中に調味料、澱粉、水等の副原料を食塩と同時に添加してもよいし、塩摺り工程後にそれら副原料を添加混合してもよい。
魚肉すり身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えるのは、あらかじめタンパク質を適量の水に懸濁または乳化しておいて、それに所定量の魚肉すり身を塩摺りして混合するのが有利である。
【0020】
すり身の能力を100%活かすために、低温で摺りあげた塩摺り身を、すみやかに且つ均一に最適坐り温度帯に昇温させる必要がある。本発明においてはこの段階で魚肉すり身の一部分の魚肉以外のタンパク質での置き換えが終了している。とくに成形時の厚みが大きい場合には外縁部と中心部の温度差が大きくなり、すべての部位で均一に坐りが進行することは困難である。このような場合、短時間で最適坐り温度帯に昇温させるのに、材料中の塩類を抵抗にして、電気を通電することで、材料の電気抵抗を利用したジュール加熱を行う。このジュール加熱により塩ずり身の摺り上がり温度を速やかに均一に加熱でき、坐りのときには25〜40℃に昇温させ、ダレが生じないようにして坐りを行う。通常の坐りは25〜40℃の保温室に保持させるため、昇温自体に時間を要するので坐り効果にバラツキが生じたりダレが生じ易いが、このジュール加熱では短時間で昇温させることができ、ダレが生じ難い。
【0021】
すり身の成形は、常法通りに、揚げもの、笹蒲鉾など希望する形に成形する。通常は、この成形後に所定の加熱工程に入って行くが、この加熱工程中に徐々に当所の形が崩れてくる。そこで、予備加熱(第1次ジュール加熱)は、成形中のすり身に通電してすり身内部の電気抵抗により加熱を行う。得られた魚肉すり身を予め定められた形状に成形する際に、成型機のなかにある成形されたすり身に通電してすり身内部の電気抵抗によって、速やかに均一に加熱するものである。坐り加熱処理を施された成形すり身はすでに、保形されており、坐り温度帯の昇温でも、その後の工程中にも形状が崩れることはない。このときの条件として、坐り温度帯としては25〜40℃を目安として昇温する。ジュール加熱処理は、摺り上がり温度を25〜40℃まで昇温させるのみとして、その後坐り温度帯域に10分間保持されて坐り処理が行われる。
【0022】
坐り工程の直後でもジュール加熱を行い次工程に必要な温度帯域まで昇温する。本加熱(第2次ジュール加熱)は、板付蒲鉾用、ちくわ用、揚げもの、カニ風味蒲鉾などに適合したジュール加熱装置を用いる。これにより、魚肉すり身がゲル化温度帯に速やかに均一に昇温され、迅速な製造が可能で、ダレが少なく、すり身の品質の低下を招くことがない。その後は、常法通りの蒸煮、焼き、湯煮、油で揚げるなどの加熱をする。この加熱においても、内部から急速に加熱されるため、練製品の戻り温度帯を速く通過するため、弾力のある練製品が得られる効果もある。本加熱(第2次ジュール加熱)は、通電性を高めるため加湿下で行い加熱効果を高めることができる。この場合、次工程に入る前に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0023】
例えば、カニ風味蒲鉾などの魚肉練製品の製造方法としては、一般に魚肉すり身に調味料等を添加して調整、混練した後、これを帯状に成形し、得られた帯状中間製品の段階で蒸し機により高温水蒸気によって加熱し、その後、帯状中間製品に多数の切れ目(スリット)を入れるのが通常である。このようなかに蒲鉾製造のためのかに蒲鉾用ジュール加熱装置(ローラー電極式)について説明する。通常、カニ風味蒲鉾の製造ラインは、厚さ2mmから3mm程度の帯状に成形した調味すり身を約10m近いスチールベルトの上にのせて加熱を行う。通電加熱の場合は、加熱長さ約2mのローラー電極の上に搬送用ベルトを巻き、帯状に成形した調味すり身を20秒程度で加熱を終了させる。短時間加熱のため補形成がよく水分が多い調味すり身でも、弾力が強い製品ができる。
【0024】
例えば、蒲鉾などの魚肉練製品の製造方法としては、塩摺りにより摺り上ったすり身を、蒲鉾型に成型して、材料中の塩類を抵抗にして、電気を通電することにより材料の電気抵抗を利用し、ジュール加熱を行う。このジュール加熱により、塩摺り身の摺り上がり温度を速やかに均一に加熱でき、坐りの時には25〜40℃に昇温させ、ダレが生じないようにして坐りを行う。ジュール加熱処理によって、坐り温度帯に昇温された成形すり身は、この坐り温度帯域に15〜30分間保持されて坐り処理が行われる。この場合、ジュール加熱を引続き行って坐りを行ってもよいが、ジュール化熱処理は、摺り上がり温度を25〜40℃に昇温させるのみとして、その後は25〜40℃の保温室に移して、そこで坐り加熱を行ってもよい。坐り加熱処理を施された成形すり身は既に、保形されており、坐り温度帯の昇温でも、その後の工程中にも形状が崩れることはない。その後は、常法通りの蒸煮、焼き、湯煮、油で揚げる等の加熱か、引続いてジュール加熱で、中心温度が約75〜85℃まで加熱してゲル化を行う。この加熱においても、好ましくはジュール加熱を行うことにより、内部から急速に加熱されるため、練製品の戻りの温度帯を速く通過するため、弾力のある練製品が得られる効果もある。このようにして得られた製品は、高速撹拌機で低温摺り上げを実施し、且つジュール加熱で保形されているため、「足」が強く、なおかつ希望する形状になった極めて優れた製品となる。坐り温度への昇温時間経過が一定化されるため、坐り効果が安定し、均一な品質の最終製品が得られる。
【0025】
これまでに説明してきた板蒲鉾、カニ風味蒲鉾、揚げ蒲鉾の製造工程で調味すり身を加熱する工程はすべて成形後に行うのが通常であった。成形前のすり身は擂潰時から低い温度にて管理され、調味すり身の品温が上昇しないように成型器に送られていた。成形前にすり身の温度が上がってしまうと、製品の弾力劣化をまねくなどの物性低下が認められるので、成形前の調味すり身への加熱は水産練業界の中ではタブーとされていた。しかし、ジュール加熱装置を使用して、今までタブーとされてきた成形前の加熱を行うことで、製品品質向上につながる加熱条件を見いだし別途特許出願をした(上記特許文献6;魚肉などの水産物のすり身をすり潰して練り製品ペーストを製造するすり潰し工程と、前記練り製品ペーストが供給された容器から練り製品ペーストを搬送しながらジュール熱により加熱して前記練り製品ペーストの粘度を高める予備加熱工程と、粘度が高められた練り製品ペーストを所定の形状に成形機により成形する成形工程と、前記成形機により所定の形状に成形された練り製品ペーストを加熱機により加熱して練り製品を仕上げる本加熱工程とを有することを特徴とする練り製品の製造方法。)。すり身ポンプにて調味すり身を連続的にジュール加熱部に送り込み、2秒から5秒程度の時間で約30秒程度(すり身の魚種により異なる)の温度まで加熱を行う。通常、調味すり身は、品音が30℃まで上がるには時間がかかり、すり身は坐ってしまい弾力低下などの製品品質低下の原因となる。しかし、ジュール加熱装置にて加熱した場合は、急速加熱のため坐りが起きる前に加熱がおわるため、すり身は固化せず粘りだけが増す。
【0026】
本発明の好ましい態様は、タンパク質を魚肉すり身の代替物および品質向上剤として魚肉すり身の10〜60重量%(より好ましくは10〜30重量%)配合した、魚肉すり身、タンパク質、デンプン、水を必須成分として含む魚肉すり身加工食品用混練物をジュール加熱装置で60℃〜85℃まで15秒〜30分の範囲で、好ましくは10秒〜180秒の範囲で通電加熱(ジュール加熱)することによりえられる魚肉すり身加工食品およびその製造方法に関するものである。
【0027】
[作用]
本発明の魚肉すり身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えた原材料からの魚肉すり身加工食品用混練物は、通電加熱(ジュール加熱)により、瞬時に加熱融解されるので、混合物中のタンパク質の分子間結合(イオン結合、水素結合、疎水結合、ジスルフィド結合等)が均一に形成されるために、魚肉すり身加工食品の物性値や保水性が増強されると考えられる。また、ジュール加熱では加熱が均一であり、混練物全体が一度に膨張するため、より物性の増強につながる。
【実施例】
【0028】
(1)配合例
かまぼこ(蒲鉾)、カニカマ(カニ風味蒲鉾)、さつま揚げ用のそれぞれの原料成分配合例を表1に示す。
配合においては、同一製品における「すり身+大豆タンパク」の量は一定になるようにした、大豆タンパク質を魚肉すり身の0重量%、10重量%、20重量%、30重量%配合したもの用意し、他の成分の分量は、大豆タンパク質0重量%の配合(すなわち、すり身のみの場合)と同じ値にした。すり身は、洋上すり身FA級を使用した。
【0029】
【表1】

【0030】
(2)通電加熱(ジュール加熱)加工食品
表1の配合からなる、それぞれの混練物をジュール加熱装置により85℃で1〜2分通電加熱して、加工食品を得た。
なお、かまぼこについては、30℃で30分間予備加熱を行った後に本加熱(通電加熱)を行った。
この通電加熱による加工食品(実施例)を、それぞれ、かまぼこ(ジ)、カニカマ(ジ)、さつま揚げ(ジ)と表記した。
(但し、大豆タンパク質が魚肉すり身の0重量%(すなわち、すり身のみの場合)のかまぼこ(ジ)、カニカマ(ジ)、さつま揚げ(ジ)は比較例である。)
【0031】
(3)蒸気加熱加工食品
表1の配合からなる、それぞれの混練物を蒸気加熱により90℃で30分加熱して、加工食品を得た。
なお、かまぼこについては、30℃で30分間予備加熱を行った後に本加熱(蒸気加熱)を行った。
この蒸気加熱による加工食品(比較例)を、それぞれ、かまぼこ(蒸)、カニカマ(蒸)、さつま揚げ(蒸)と表記した。
【0032】
(4)物性値の測定
上記の各実施例、比較例の物性値;破断強度(g)、破断凹み(mm)、ゲル剛性=破断強度/破断凹み(g/cm)を以下の条件で測定した。
【0033】
試験片:高さ25mm直径30mm円柱試験片(測定時品温25℃)
測定機器:レオメーター
(i)5mm球形プランジャー 進入速度60mm/min
(ii)8mm円柱プランジャー 進入速度60mm/min
【0034】
結果を、表2、表3及び図1、2に示す。
なお、表2、3での、大豆タンパク質が魚肉すり身の40〜60重量%である加工食品の物性値は30重量%までの実測値の外挿値(推定値)である。
【0035】
【表2】

なお、表左欄の%は、大豆タンパク質の魚肉すり身に対する重量%値である。
【0036】
【表3】

なお、表左欄の%は、大豆タンパク質の魚肉すり身に対する重量%値である。
【0037】
(5)効果の検討
表2、3及び図1、2に示されるように、大豆タンパク質を魚肉すり身の10重量%〜60重量%配合したものにおいて、さつま揚げ以外の食品で、通電加熱(ジュール加熱)による加工食品のほうが、蒸気加熱による加工食品に比し、破断強度値が向上し、破断凹み値も向上した。さつま揚げにおいても通電加熱のほうが破断強度値およびゲル剛性値が向上し、破断凹み値も大豆タンパク質の配合量が増えると通電加熱のほうが向上した。特に、ゲル強度(破断強度)と弾力・しなやかさ(破断凹み)を要求される、かまぼこにおいては、通電加熱のほうが破断強度値および破断凹み値が向上し、ゲル剛性値も向上した。そして、魚肉すり身加工食品の品質の指標の一つといわれるゲル剛性値は、いずれの加工食品においても、大豆タンパク質の配合量が増えると向上することが認められた。これらのことから、タンパク質を配合し、通電加熱することによる品質向上の効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、タンパク質を魚肉すり身の代替物および品質向上剤として魚肉すり身に配合し、原料混練物を通電加熱(ジュール加熱)することにより、ゲル強度(破断強度)、および弾力・しなやかさ(破断凹み)が優れ、それらを総合したゲル剛性が優れる魚肉すり身加工食品を得ることができる。したがって、本発明は、製造コストが低く、かつ品質の向上した魚肉すり身加工食品を提供できるという、産業上有用な効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】は5mm球形プランジャーを用いた物性値である、表2;物性値(i)のゲル剛性値の変化に対応するグラフである。
【図2】は8mm円柱プランジャーを用いた物性値である、表3;物性値(ii)のゲル剛性値の変化に対応するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉すり身および/または魚肉落とし身を主成分とする原材料からの成形、坐り、加熱の各工程を含む製造方法により得られる魚肉すり身加工食品であって、該製造方法が、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有すること、原材料が、魚肉すり身および/または魚肉落とし身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えること、並びに、置き換え量が魚肉すり身および/または魚肉落とし身に対して10〜60重量%であることを特徴とする魚肉すり身加工食品。
【請求項2】
魚肉以外のタンパク質が、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、および卵白の少なくとも一種から選ばれるものである、請求項1に記載の魚肉すり身加工食品。
【請求項3】
原材料が、魚肉すり身、タンパク質、デンプンおよび水を必須成分として含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の魚肉すり身加工食品。
【請求項4】
魚肉すり身加工食品が、蒲鉾、カニ風味蒲鉾、および揚げ蒲鉾の少なくとも一種である、請求項1、2又は3に記載の魚肉すり身加工食品。
【請求項5】
魚肉すり身および/または魚肉落とし身を主成分とする原材料からの成型、坐り、加熱の各工程を含む魚肉すり身加工食品の製造方法であって、該製造方法が、ジュール加熱装置で通電加熱する工程を有すること、原材料が、魚肉すり身および/または魚肉落とし身の一部分を魚肉以外のタンパク質で置き換えること、並びに、置き換え量が魚肉すり身および/または魚肉落とし身に対して10〜60重量%であることを特徴とする魚肉すり身加工食品の製造方法。
【請求項6】
魚肉以外のタンパク質が、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、および卵白の少なくとも一種から選ばれるものである、請求項5に記載の魚肉すり身加工食品の製造方法。
【請求項7】
原材料が、魚肉すり身、タンパク質、デンプンおよび水を必須成分として含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の魚肉すり身加工食品の製造方法。
【請求項8】
魚肉すり身加工食品が、蒲鉾、カニ風味蒲鉾、および揚げ蒲鉾の少なくとも一種である、請求項5、6又は7に記載の魚肉すり身加工食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−68786(P2010−68786A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243182(P2008−243182)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000136642)株式会社フロンティアエンジニアリング (30)
【Fターム(参考)】