説明

黒色化成皮膜形成用組成物

【課題】有害な6価クロム化合物を用いることなく、亜鉛又は亜鉛合金の表面に、高耐食性を有し且つ意匠性の高い黒色化成皮膜を形成するために用いる化成皮膜形成用組成物及び黒色化成皮膜形成方法を提供する。
【解決手段】下記(1)〜(5)の条件を満足するpH1〜4の水溶液からなる、亜鉛又は亜鉛合金用の黒色化成皮膜形成用組成物:(1)3価クロム化合物とカルボン酸類とを反応させて得られる加熱反応生成物をクロム金属量として0.1〜10g/L含有する、(2)上記加熱反応生成物の生成後に添加されたリンの酸素酸類をリン元素量として、0.1〜10g/L含有する、(3)ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む化合物を金属量として0.1〜10g/L含有する、(4)有機イオウ化合物をイオウ元素量として、0.01〜5g/L含有する、(5)硝酸イオンをクロム金属1モルに対して2モル以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金の表面に対する黒色化成皮膜形成組成物、黒色化成皮膜形成方法、および黒色化成皮膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛、亜鉛合金などの金属表面には、耐食性の向上、意匠性の付与などを目的として、種々の防錆処理、着色処理などがなされている。
【0003】
近年、環境負荷物質削減を目的として6価クロムが規制される動きが強まり、6価クロムを用いたクロメート処理に代えて、6価クロムを含まない処理液を用いた化成処理法が種々提案されている。この様な処理方法としては、3価クロムを含有する処理液を用いた化成処理が代表的な方法であり、例えば、3価クロムとシュウ酸の水溶性錯体及びコバルトを含有する処理液を用いる方法(下記特許文献1参照)、シリコン化合物、3価クロムとシュウ酸の水溶性錯体及びコバルトを含有する処理液を用いる方法(下記特許文献2参照)、カルボキシル基を含む水溶性樹脂、3価クロムイオン及び硝酸イオンを含有する処理液を用いる方法(下記特許文献3参照)等が報告されている。
【0004】
しかしながら、上記した3価クロムを含む処理液を用いる化成処理方法では、無色透明皮膜、又は淡青色、淡黄色を有する干渉色外観の皮膜が形成されるだけであり、高耐食性で意匠性の高い黒色皮膜を形成することができない。
【0005】
黒色化成皮膜を形成する方法としては、3価クロム化合物、コバルト化合物、キレート形成能のある有機酸、リン酸及び硫酸イオンを含有する処理液を用いる方法(下記特許文献4参照)、硝酸イオン、3価クロム、キレート剤、及びコバルトイオン又はニッケルイオンを含有する処理液を用いる方法(下記特許文献5参照)、3価クロム、金属イオン及び有機イオウ化合物を含有する処理液を用いる方法(下記特許文献6参照)、3価クロム、アニオン群(硫酸イオン、塩素イオン、塩素の酸素酸、硝酸イオンの1種以上)、イオウ化合物を含有する処理液を用いる方法(下記特許文献7参照)、3価クロム化合物、カルボン酸類及びリンの酸素酸類の3成分の加熱反応物、ニッケル化合物又はコバルト化合物、及び硝酸イオンを含有する処理液を用いる方法(下記特許文献8参照)などが報告されている。
【0006】
しかしながら、これらの処理液を用いる黒色皮膜形成方法については、処理液の安定性が劣ることや、形成される皮膜の、外観や耐食性が6価クロメート皮膜に比べて劣る等の欠点があり、6価クロムを用いることなく黒色皮膜を形成する方法として満足のいく結果は得られていない。
【特許文献1】特許第3332373号公報
【特許文献2】特許第3332374号公報
【特許文献3】特開2001−107273号公報
【特許文献4】特許第3584937号公報
【特許文献5】特許第3774415号公報
【特許文献6】特開2005−187925号公報
【特許文献7】特開2005―206872号公報
【特許文献8】特開2004−346360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、有害な6価クロム化合物を用いることなく、亜鉛又は亜鉛合金の表面に、高耐食性を有し且つ意匠性の高い黒色化成皮膜を形成するために用いる化成皮膜形成用組成物及び黒色化成皮膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応物を含み、更に、その他の成分を特定の条件を満足するように含有する水溶液を亜鉛又は亜鉛合金に対する化成処理液として用いる場合には、耐食性及び外観の良好な黒色系の形成皮膜を形成することができ、しかも、この化成処理液は、安定性に優れ、長期間優れた性能を維持できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の黒色化成皮膜形成用組成物、黒色化成皮膜形成方法、及び黒色化成皮膜を有する物品を提供するものである。
下記(1)〜(5)の条件を満足するpH1〜4の水溶液からなる、亜鉛又は亜鉛合金用の黒色化成皮膜形成用組成物:
1.(1)3価クロム化合物とカルボン酸類とを、クロム金属1モルに対してカルボキシル基が1〜10モルとなる割合で50℃〜沸点未満の温度で反応させて得られる加熱反応生成物をクロム金属量として0.1〜10g/L含有する、
(2)上記加熱反応生成物の生成後に添加されたリンの酸素酸類をリン元素量として、0.1〜10g/L含有する、
(3) 上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加されたニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む化合物を金属量として0.1〜10g/L含有する、
(4)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加された有機イオウ化合物をイオウ元素量として、0.01〜5g/L含有する、
(5)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加された硝酸イオンをクロム金属1モルに対して2モル以上含有する。
2. ハロゲンイオン及び硫酸イオンの含有量がそれぞれ100ppm以下である上記項1に記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
3. 加熱反応生成物の生成後に添加された有機イオウ化合物を含む上記項1又は2に記載の亜鉛又は亜鉛合金用の黒色化成皮膜形成用組成物。
4. 更に、水溶性高分子化合物を固形分として0.01〜50g/L含有する上記項1〜3のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
5. 更に、コロイダルシリカ及びシリコン系ポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一種の珪素化合物を固形分量として0.1〜50g/L含有する上記項1〜4のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
6. 更に、W、V、Mn、Mo、Al、Sn、Ti、Zr、Te、Sr、Ce、Fe、Cu及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を、金属成分の量として0.001〜50g/L含有する上記項1〜5のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
7. 少なくとも表面部分が亜鉛又は亜鉛合金で形成された被処理物を、上記項1〜6のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物に接触させることを特徴とする黒色化成皮膜形成方法。
8. 上記項7に記載の方法により黒色化成皮膜を形成した後、オーバーコート処理を行うことを特徴とする防錆皮膜を形成する方法。
9. 上記項7又は8の方法によって形成された皮膜を有する物品。
【0010】
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物は、下記(1)〜(5)の条件を満足するpH1〜4の水溶液からなるものである。
(1)3価クロム化合物とカルボン酸類とを、クロム金属1モルに対してカルボキシル基が1〜10モルとなる割合で50℃〜沸点未満の温度で反応させて得られる加熱反応生成物をクロム金属量として0.1〜10g/L含有する、
(2)上記加熱反応生成物の生成後に添加されたリンの酸素酸類をリン元素量として、0.1〜10g/L含有する、
(3) 上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加されたニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む化合物を金属量として0.1〜10g/L含有する、
(4)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加された有機イオウ化合物をイオウ元素量として、0.01〜5g/L含有する、
(5)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加された硝酸イオンをクロム金属1モルに対して2モル以上含有する。
【0011】
上記した条件を満足する黒色化成皮膜形成用組成物を用いることによって、有害な6価クロムを使用することなく、亜鉛又は亜鉛合金の表面に耐食性、意匠性に優れた黒色系色調の化成皮膜を形成することができる。
【0012】
以下、本発明の黒色化成皮膜形成用組成物が満足すべき要件について具体的に説明する。
【0013】
(1)3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物:
本発明の組成物は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物を含有することが必要である。3価クロム化合物とカルボン酸類からなる加熱反応生成物は、例えば水を溶媒として、3価クロム化合物とカルボン酸類を混合して50℃〜沸点未満、好ましくは80〜95℃程度の温度範囲で撹拌混合することによって得ることができる。
【0014】
3価クロム化合物としては、特に限定的ではなく、カルボン酸類と共に加熱反応物を調製する際に、水溶液中に十分に溶解できる化合物であればよい。その具体例としては、硝酸クロム、酢酸クロム、リン酸クロム、水酸化クロム、酸化クロム等を挙げることができる。これらの内で、硝酸クロム、酢酸クロム等が使い易く、耐食性に優れた皮膜を形成できる点で特に好ましい。これらの3価クロム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0015】
カルボン酸類としては、所定の濃度の水溶液とするために必要な溶解度を有するものであれば特に限定することなく使用できる。例えば、総炭素数が1〜10程度の範囲内にあるカルボン酸類を好適に用いることができる。カルボン酸類の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸、これらのアルカリ金属(Na、K)塩、アンモニウム塩等;マロン酸、コハク酸、シュウ酸等のジカルボン酸、これらのアルカリ金属(Na、K)塩、アンモニウム塩等;トリカルバリル酸等のトリカルボン酸、これらのアルカリ金属(Na、K)塩、アンモニウム塩等;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸、これらのアルカリ金属(Na、K)塩、アンモニウム塩等;グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸等のアミノカルボン酸、これらのアルカリ金属(Na、K)塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。特に、ギ酸、酢酸、マロン酸、コハク酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、これらのアルカリ金属(Na、K)塩、アンモニウム塩等が好ましい。これらのカルボン酸類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0016】
3価クロム化合物とカルボン酸類の混合割合は、3価クロム化合物におけるクロム金属1モルに対してカルボン酸類におけるカルボキシル基が1〜10モル程度となる量、好ましくは2〜6モル程度となる量とすればよい。即ち、クロム原子を1個含む3価クロム化合物を用いる場合には、モノカルボン酸類については、3価クロム化合物1モルに対して1〜10モル程度、ジカルボン酸類については、3価クロム化合物1モルに対して0.5〜5モル程度用いればよい。
【0017】
カルボン酸類の使用量が少なすぎる場合には、3価クロム化合物が十分に安定化されず、3価クロム化合物とカルボン酸類の加熱反応中に沈殿、固化する場合があり、形成される化成皮膜の外観、耐食性などが劣るものとなりやすい。また、カルボン酸類の使用量が多すぎる場合は、被処理物の表面を過剰に溶解するため、形成される化成皮膜の外観、耐食性などが劣るものとなり、経済的にも不利である。
【0018】
3価クロム化合物とカルボン酸類の加熱混合時間については、特に限定的ではないが、通常5分〜600分程度、好ましくは30分〜500分程度の範囲とすればよい。加熱混合時間は、加熱温度が低い場合は長く、高い場合は短くすることで調節することが可能である。
【0019】
上記化合物を混合する際の水溶液中の濃度については特に限定的ではなく、3価クロム化合物とカルボン酸類を均一に溶解できる濃度範囲であればよい。通常、3価クロム化合物濃度が、クロム金属量として0.1〜100g/L程度の範囲内となるようにすればよく、濃厚溶液となる場合は、化成処理組成物を調製する際に適宜希釈して用いればよい。
【0020】
この様な方法で3価クロム化合物とカルボン酸類を加熱混合することにより、安定な反応物が形成されて、水溶液中において加熱反応物が安定に存在することができる。これに対して、これらの成分を予め加熱混合することなく、水溶液中に直接添加する場合には、沈殿が生じ易いために処理液の寿命が短くなり、しかも良好な外観の黒色化成皮膜を形成することができない。
【0021】
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物において、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の濃度は、クロム金属量として0.1〜10g/L程度とすればよく、1〜5g/L程度とすることが好ましい。該加熱反応物の濃度が低すぎる場合には、被処理物の表面に十分な化成皮膜が形成されないために、耐食性が不十分となりやすく、外観についても満足いくものとならない。また、濃度が高すぎる場合には、被処理物の表面を過剰に溶解するため、形成される化成皮膜の外観、耐食性などが劣るものとなり、経済的にも不利である。
【0022】
(2)リンの酸素酸類:
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物は、リンの酸素酸類を含有することが必要である。リンの酸素酸類の種類については特に限定的ではなく、所定の濃度の水溶液とするために必要な溶解度を有するリンの酸素酸、その塩などを用いることができる。例えば、正リン酸、そのアルカリ金属塩(Na、K)、アンモニウム塩等;縮合リン酸、そのアルカリ金属塩(Na、K)、アンモニウム塩等;次亜リン酸、そのアルカリ金属塩(Na、K)、アンモニウム塩等;亜リン酸、そのアルカリ金属塩(Na、K)、アンモニウム塩等を挙げることができる。特に、亜リン酸、次亜リン酸、これらのアルカリ金属塩(Na、K)、アンモニウム塩等が好ましい。これらのリンの酸素酸類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0023】
リンの酸素酸類は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の生成反応の終了後に、該生成物に対して添加することが必要である。該加熱反応生成物の生成後にリンの酸素酸類を添加することによって、形成される黒色化成皮膜の黒色度が向上して、非常に優れた意匠性を有する化成皮膜を形成することができる。更に、室温付近の比較的低温において化成処理を行った場合にも皮膜の外観、耐食性が良好になり、室温付近の比較的低い処理温度において良好な黒色化皮膜を形成することが可能となる。
【0024】
リンの酸素酸類の添加量は、リン元素量として0.1〜10.0g/L程度とし、0.5〜5g/L含有程度とすることが好ましい。リンの酸素酸類の使用量が少なすぎる場合には、化成皮膜の形成が不十分となり耐食性が低下する。また、濃度が高すぎる場合には、大きな弊害はないが経済的に不利である。
【0025】
(3)ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む化合物:
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物は、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を含有することが必要である。この様な化合物としては、ニッケル及び/又はコバルトを含み、本発明組成物中に可溶性の化合物であれば特に限定なく使用できる。この様な化合物としては、例えば、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化コバルト等の無機塩、酢酸ニッケル、酢酸コバルト等の有機酸塩等を用いることができる。また、ニッケルとコバルトを同時に含む化合物を用いても良い。特に、適度な溶解度を有する硝酸塩、有機酸塩などが好ましい。これらの化合物は、一種のみ用いても良く、二種以上混合して用いても良い。
【0026】
これらの金属化合物の濃度は、金属量として0.1〜10g/L程度、特に0.3〜5g/L程度とすることが好ましい。これらの金属化合物が上記した濃度範囲で存在することによって、被処理物の表面に耐食性が良好な黒色化成皮膜を形成することができる。これに対して濃度が低すぎる場合には、均一な黒色外観を得ることができない。また、濃度が高すぎる場合には、化成皮膜の密着性が低下するため耐食性が低下する。さらに、経済的に不利である。
【0027】
上記したニッケル及び/又はコバルトを含む化合物は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の生成前又は生成後の任意の時期に添加することができる。
【0028】
(4)有機イオウ化合物:
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物は、有機イオウ化合物を含有することが必要である。有機イオウ化合物は、黒色化成皮膜形成用組成物の水溶液中で他の成分とともに被処理物の表面の亜鉛又は亜鉛合金と反応することにより黒色化成皮膜を形成するために有効な成分である。
【0029】
有機イオウ化合物の種類については特に限定的ではなく、少なくとも一個のイオウ原子を有する有機化合物であって、所定の濃度の水溶液とするために必要な溶解度を有するものであればよい。有機イオウ化合物としては、メルカプト化合物類、ジスルフィド化合物類、チオ尿素類などを例示できる。これらの内で、メルカプト化合物類としては、チオ酢酸、ジチオ酢酸、3,3'-チオジプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、チオジグリコール酸、これらの塩;チオセミカルバジド、2-メルカプトエタノール、チオジグリコール、ジチオグリコール、1-チオグリセロール、チオアセトアミド等が好適であり、ジスルフィド化合物類としては、ジチオジグリコール酸、その塩等が好適であり、チオ尿素類としては、チオ尿素、2-メルカプトイミダゾリン等が好適である。
【0030】
これらの有機イオウ化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。本発明組成物中における有機化合物の濃度は、イオウ元素量として0.01〜5g/L程度とすることが必要であり、0.05〜1g/L含有程度とすることが好ましい。有機イオウ化合物の使用量が少なすぎる場合には、黒色外観が低下して淡色化するため意匠性が低下する。また、濃度が高すぎる場合には、大きな弊害はないが経済的に不利である。
【0031】
有機イオウ化合物は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の生成前又は生成後の任意に時期に添加することが可能であるが、特に、加熱反応生成物の生成後に添加する場合には、形成される皮膜の黒色度が増加して良好な外観の皮膜が形成される。
【0032】
(5)硝酸イオン:
本発明の組成物には、更に、硝酸イオンが含まれることが必要である。該組成物中に硝酸イオンが存在することによって、被処理物の表面を溶解、活性化でき、均一で安定した黒色外観の化成皮膜を形成することが可能となる。
【0033】
硝酸イオンの供給源となる化合物については特に限定はなく、本発明の組成物中で硝酸イオンを生じ得る化合物であれば良い。例えば、硝酸;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。また、3価クロムの供給源として硝酸クロムを用いる場合や、ニッケル又はコバルトの供給源として硝酸塩を用いる場合等には、これらの硝酸塩が硝酸イオンの供給源となるので、その他の硝酸イオンの供給源となる化合物を添加しないことも可能である。硝酸イオンの供給源となる化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0034】
硝酸イオンの供給源となる化合物の量は、本発明組成物中の硝酸イオン濃度として、クロム金属1モルに対して2モル以上とすることが好ましい。硝酸イオン濃度が低すぎる場合には、処理品の表面に十分な化成皮膜が形成されないために、耐食性が不十分となり、外観についても満足いくものとならない。尚、pH調整を硝酸で行う場合、長期使用時には硝酸イオン濃度が上昇するが、この様な場合であっても、本発明組成物の安定が阻害されることがなく、形成される化成皮膜の外観や特性に悪影響は生じない。このため、硝酸イオン濃度の上限については特に限定はなく、例えば、本発明組成物中の硝酸イオン濃度の合計量が300g/l程度であっても、良好な黒色化成皮膜を形成することができる。
【0035】
硝酸イオンの供給源となる化合物は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の生成前又は生成後の任意に時期に添加することができる。
【0036】
尚、本願明細書では、硝酸イオン量は、本発明組成物中に含まれる硝酸イオンの供給源となる化合物が、全て硝酸イオンに解離しているとした量である。
【0037】
(6)その他の成分:
(i)高分子化合物:
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物には、更に、必要に応じて水溶性高分子化合物を配合することができる。水溶性高分子化合物を配合することによって、化成皮膜が均一且つ強固に形成され、擦れキズに強く、外観が良好な黒色化成皮膜を得ることができる。
【0038】
水溶性高分子化合物としては、本発明組成物中に溶解するものであればよく、例えば、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を含む高分子化合物、ペプチド結合を含む高分子化合物、ポリアルキレンオキシド結合を含む高分子化合物、多糖類などを用いることができる。これらの高分子化合物の具体例としては、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を含む高分子化合物としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、アルギン酸グリコールエステル、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等を例示でき、ペプチド結合を含む高分子化合物としては、ゼラチン、ペプタイド等を例示でき、ポリアルキレンオキシド結合を含む高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤等を例示でき、多糖類としては、ペクチン等を例示できる。
【0039】
水溶性高分子化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの高分子化合物の濃度は、固形分として0.01〜50g/L程度とすることが好ましく、0.05〜20g/L程度とすることがより好ましい。高分子化合物の配合量が上記範囲を下回ると、高分子化合物の添加による効果を十分に発揮することができない。一方、該高分子化合物の配合量が多すぎると、大きな弊害はないが経済的に不利である。
【0040】
水溶性高分子化合物は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応物の生成前又は生成後の任意に時期に添加することができる。
【0041】
(ii)珪素化合物:
本発明の組成物には、更に、必要に応じて、コロイダルシリカ及びシリコン系ポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一種の珪素化合物を配合することができる。これらの珪素化合物を配合することによって、形成される化成皮膜中に珪素化合物が適度に取り込まれて、化成皮膜の耐食性を向上させることができる。
【0042】
珪素化合物の内で、コロイダルシリカは、粒子径が1〜100nm程度のものが好ましい。この範囲の粒子径のコロイダルシリカを用いる場合には、処理液中において凝集や沈降を生じることなくコロイダルシリカが安定に存在して、化成皮膜中に均一に分散、共析し、良好な耐食性を有する保護皮膜を形成できる。コロイダルシリカの配合量は、固形分量として0.1〜50g/L程度とすることが好ましく、1〜30g/L程度とすることがより好ましい。コロイダルシリカの配合量が少なすぎると、コロイダルシリカの添加による効果が十分には発揮されず、一方、コロイダルシリカの配合量が多すぎても、液だまり部などに余分な成分が残留するため形成される皮膜の外観が低下し、しかも、余分な成分が水洗により洗い流されるので経済的に好ましくない。
【0043】
シリコン系ポリマーとしては、シロキサン結合を有し、且つ側鎖に炭素数1〜5程度の低級脂肪族炭化水素、フェニル基等の芳香族炭化水素などの有機性官能基を有する数平均分子量が500〜10000程度のものが好ましい。また、数平均分子量が50000以上で、粒子径が1〜100nm程度の微粒子化したものを使用することもできる。これらのシリコン系ポリマーを配合する場合には、水溶性高分子化合物を分散剤として使用すると、処理液中において凝集や沈降を生じることなくシリコン系ポリマーが安定に存在して、化成皮膜中に均一に分散、共析し、良好な耐食性を有する保護皮膜を形成できる。
【0044】
珪素化合物の配合量は、固形分量として0.1〜50g/L程度とすることが好ましく、1〜30g/L程度とすることがより好ましい。珪素化合物の配合量が少なすぎると、珪素化合物の添加による効果が十分には発揮されず、一方、珪素化合物の配合量が多すぎても、液だまり部などに余分な成分が残留するため形成される皮膜の外観が低下し、しかも、余分な成分が水洗により洗い流されるので経済的に好ましくない。
【0045】
珪素化合物は、3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の生成前又は生成後の任意に時期に添加することができる。
【0046】
(iii)金属化合物
本発明の組成物には、更に、必要に応じて、W、V、Mn、Mo、Al、Sn、Ti、Zr、Te、Sr、Ce、Fe、Cu及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を添加することができる。
【0047】
この様な金属化合物を用いることによって、形成される化成皮膜の耐食性を更に向上させることができる。これは、該化合物を添加することによって化成皮膜の成長が促進され、強固な厚い化成皮膜が形成されることによるものと考えられる。
【0048】
この様な金属化合物としては、本発明組成物に可溶性の化合物であれば特に限定なく使用できる。例えば、上記した金属成分を含む酸素酸、酸素酸塩、硝酸塩、有機酸塩、水酸化物、酸化物等を用いることができる。これらの化合物は、一種のみ用いても良く、二種以上混合して用いても良い。また、二種以上の金属成分を同時に含む化合物を用いることもできる。上記した化合物の内で、特に、W、V、Mn、Mo、Al、Ti、Zr、Sr、Znからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む化合物が好ましい。
【0049】
上記した金属化合物の濃度は、金属成分の量として、0.001〜50g/L程度であることが好ましく、0.05〜20g/L程度であることがより好ましい。これらの化合物の濃度が低すぎる場合には、耐食性を向上させる効果を十分には得ることができない。一方、これらの化合物の濃度が高すぎる場合には、大きな弊害はないが、経済的に不利である。
【0050】
これらの金属化合物を使用する場合は、この化合物を3価クロム化合物とカルボン酸類との加熱反応生成物の生成時又は生成後の任意に時期に添加することができる。
【0051】
(iv)銀化合物
本発明組成物には、更に、必要に応じて、銀化合物を添加することができる。上記した各成分を含む組成物を用いることにより、被処理物の表面に黒色化成皮膜を形成することが可能であるが、被処理物表面が亜鉛合金の場合などには、黒色化が不十分となる場合がある。この様な場合には、該組成物に、更に、銀塩を添加することによって、形成される化成皮膜をより黒色化することができる。銀塩としては、本発明の組成物に可溶性のものであれば良く、例えば、硝酸銀などを用いることができる。銀塩の濃度としては、銀塩に含まれる銀の濃度として、0.01〜1g/L程度とすることが好ましい。
【0052】
(v)ハロゲンイオン及び硫酸イオン:
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物では、該組成物中にハロゲンイオン及び硫酸イオンが存在すると、処理液の寿命が短くなり、黒色外観が低下して淡色化するため良好な外観の黒色化成皮膜を形成することが困難となる。このため、本発明の組成物中では、ハロゲンイオン及び硫酸イオンの含有量は、それぞれ100ppm以下であることが好ましく、全く存在しないことが特に好ましい。従って、本発明組成物の原料としては、ハロゲンイオン及び硫酸イオンのイオン源となる金属塩、塩化物、フッ化物、硫酸塩、これらのイオンを含む遊離の酸(塩酸、フッ化水素酸、硫酸)等を使用しないことが好ましい。
【0053】
(7)pH
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物は、上記したいずれの場合にも、pHが1〜4程度の範囲内であることが必要であり、1.5〜3程度の範囲内であることが好ましい。この様なpH範囲とすることによって、被処理物表面の金属分が適度に溶出して良好な化成皮膜を形成することができる。これに対して、pHが低すぎる場合には、素材金属が過度に溶解されて良好な化成皮膜の形成が難しく、一方、pHが高すぎると、素材金属の溶解量が不足し、化成皮膜の形成が遅くなり、耐食性も低下するので好ましくない。
【0054】
本発明の組成物では、上記した各成分を水に溶解した状態で上記pH範囲にある場合には、特にpH調整を行うことなくそのまま使用できるが、pHが高すぎる場合には、硝酸を添加して上記pH範囲に調整すれば良い。また、pHが低すぎる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ性化合物を添加して、上記pH範囲に調整すればよい。また、予め、各成分を混合した混合物中に、所定のpH値に調整するために必要な成分を添加しておき、この混合物を同時に水に溶解してもよい。更に、加熱反応生成物を作製する前に、予め所定のpHとするために必要な酸又はアルカリ性化合物を添加しておいてもよく、加熱反応の途中で添加してもよい。
【0055】
黒色化成皮膜形成用組成物
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物は、上記した各成分を所定の割合で含有する水溶液である。例えば、上記した加熱反応物を形成した水溶液中に他の成分を添加し、必要に応じて、水を加えて濃度を調整し、pH調整してもよく、或いは、加熱反応物の必要量を水溶液の状態で採取し、他の成分と混合し、必要に応じて、水を加えて濃度を調整し、pH調整してもよい。この場合、各成分を別個に溶解させても良く、或いは各成分を予め混合したものを添加しても良い。また、全成分を含有する濃厚溶液として調整しておき、使用時に希釈して用いても良い。
【0056】
また、リンの酸素酸類以外の成分については、加熱反応生成物の生成反応前又は反応の際に添加して、3価クロム化合物とカルボン酸の加熱反応時に存在させてもよい。
【0057】
黒色化成皮膜形成方法:
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物を用いて化成処理を行う方法については、特に限定的ではなく、被処理物の表面と本発明組成物とが十分に接触できる方法であれば良く、例えば、浸漬法、スプレー法、塗布法等を適用できる。通常は、本発明の組成物中に被処理物を浸漬することによる効率の良い処理が可能となる。
【0058】
本発明組成物の液温については、通常、10〜50℃程度とすればよいが、特に良好な耐食性と黒色外観を有する皮膜を形成するためには、20〜40℃程度の範囲内とすることが好ましい。処理液の液温が低すぎる場合には、処理液の反応性が低下するため、良好な化成皮膜を形成することが困難となり、また、液温が高すぎる場合には、素材金属が過度に溶解されて良好な化成皮膜を形成できず、しかも処理作業時の熱的損失が大きくなるために経済的に好ましくない。
【0059】
処理時間については、10〜300秒程度の広い範囲とすることができ、処理液の液温が高い場合は処理時間を短くし、液温が低い場合には処理時間を長くすればよい。例えば、均一な外観を有し、且つ耐食性が良好な化成皮膜を形成するためには、液温20〜40℃程度の温度範囲で、処理時間を30〜120秒程度とすればよい。
【0060】
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物による化成処理を行うため被処理物は、処理対象となる表面部分が亜鉛又は亜鉛合金で形成されている物品であればよく、亜鉛又は亜鉛合金自体を素材とする物品の他、湿式めっき法などによって、各種素材上に亜鉛又は亜鉛合金による皮膜を形成した物品も被処理物とすることができる。亜鉛合金の種類については、特に限定的ではなく、例えば、亜鉛を50重量%程度以上含む各種合金を処理対象物とすることができる。具体例としては、亜鉛−鉄合金、亜鉛−ニッケル合金等を挙げることができる。
【0061】
本発明の組成物を用いて化成処理を行うことによって、被処理物の表面には耐食性に優れ、黒色度の高い良好な外観の化成皮膜が形成される。化成皮膜の膜厚は、処理液の温度、処理時間などを適宜設定することによって、調節することが可能であるが、通常、0.05〜2μmの厚さが適当であり、0.1〜1μm程度の厚さが好ましい。化成皮膜の膜厚が薄すぎる場合は、耐食性が不十分であり、更に、色調が淡くなり均一な黒色外観を得ることが困難となる。また、化成皮膜が厚すぎる場合は、化成皮膜と被処理物との密着性が低下するため化成皮膜が脱落して、外観が低下し易いので好ましくない。
【0062】
本発明の組成物を用いて形成される化成皮膜は、クロム、コバルト及び/またはニッケル、並びにリンを主成分とするものとなる。
【0063】
通常、これらの成分の単位面積(dm)当たりの濃度は、クロム量としては、0.05〜5mg/dm、好ましくは0.3〜2mg/dm、コバルト及び/またはニッケル量としては、0.01〜0.5mg/dm、好ましくは0.05〜0.3mg/dm、リン量としては、0.05〜5mg/dm、好ましくは0.3〜2mg/dmとなる。また、各元素の比率としては、通常、クロムが30〜70質量%、好ましくは40〜50質量%、コバルト及び/またはニッケルが2〜20質量%、好ましくは5〜10質量%、リンが30〜70質量%、好ましくは40〜50質量%である。
【0064】
本発明の組成物によれば、処理対象となる、表面部分が亜鉛または亜鉛合金で形成された被処理物に対して、良好な黒色化成皮膜を形成できる。化成皮膜の色調は、被処理物の材質などによって、黒緑色から黒褐色を呈する場合があるが、いずれの場合にも黒色度の高い優れた意匠性を有する皮膜となる。また、形成される化成皮膜は、優れた耐食性を有し、外観も良好であり、後処理を行うことなく、そのままで各種製品の最終処理として利用できる。
【0065】
また、必要に応じて、形成された化成皮膜にオーバーコート処理を施しても良い。この場合のオーバーコートとしては、特に限定はなく、例えば、シリコン系皮膜、金属石けんなどを形成する市販の防錆剤皮膜、塗装を含む有機物皮膜、有機物成分と無機物成分の複合皮膜などを例示することができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の黒色化成皮膜形成用組成物によれば、下記の様な顕著な効果が奏される。
(1)本発明の組成物は、有害な6価のクロム化合物を含有しない安全性の高い化成処理液であり、亜鉛または亜鉛合金により形成された表面を有する各種被処理物に対して、外観及び耐食性に優れた黒色の化成皮膜を形成できる。
(2)本発明の組成物は、安定性が良好であり、長期間優れた性能を維持できる。
(3)本発明の組成物を用いて形成される化成皮膜は、優れた耐食性を有するものであり、保護皮膜を形成しない場合であっても、長期間良好な性能を維持できる。このため、6価クロム化合物を含む処理液を用いる従来の処理方法と同様の工程で処理を行うことが可能であり、既存設備を変更することなくそのまま使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0068】
製造例1
35%硝酸クロム溶液400g/Lとクエン酸一水和物200g/Lをイオン交換水に溶解し、90℃において120分間加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物1とする。
【0069】
製造例2
35%硝酸クロム溶液400g/L、グリコール酸150g/L及びマロン酸50g/Lをイオン交換水に溶解し、80℃において60分間加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物2とする。
【0070】
製造例3
45%酢酸クロム溶液300g/L、DL−リンゴ酸150g/L、クエン酸一水和物50g/L及び酢酸コバルト40g/Lをイオン交換水に溶解し、90℃において120分間加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物3とする。
【0071】
製造例4
45%酢酸クロム溶液150g/L、シュウ酸二水和物100g/L及び硝酸ナトリウム60g/Lをイオン交換水に溶解し、90℃において300分間加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物4とする。
【0072】
製造例5
45%酢酸クロム溶液150g/L、クエン酸一水和物100g/L、DL−リンゴ酸50g/L及び亜リン酸15g/Lをイオン交換水に溶解し、80℃において180分間加熱反応させた。得られた生成物を加熱反応物5とする。
【0073】
実施例1〜7及び比較例1
軟鋼板(50×100×0.5mm)の表面に、アルカリ性亜鉛めっき浴(ジンケート浴)(奥野製薬工業(株)、商標名NCジンク90)を用いて厚さ10μmの亜鉛めっき皮膜を形成した。得られた亜鉛めっき品を被処理物として用い、1%硝酸水溶液(25℃)に15秒間浸漬し水洗した後、下記表1に示す各組成の化成処理液を用いて表1に記載の処理条件で浸漬処理を行い、水洗した後、60℃の温風で5分間乾燥した。尚、各化成処理液は、表1に示す各成分をイオン交換水に溶解したものである。また、表1において、加熱反応物1〜5の配合量の単位は、ml/Lであり、その他成分の配合量の単位は、g/Lである。
【0074】
【表1】

【0075】
※1 ゼラチン AU−P ゼライス株式会社
※2 Cataloid−SN 触媒化成工業株式会社 (配合量:ml/L)
※3 pH調整は、何れも硝酸または水酸化ナトリウムを使用した。
【0076】
比較例2
製造例1において用いた加熱反応物1の生成用原料と同一組成の成分を含む水溶液について、加熱反応を行うことなく、室温で1時間撹拌して混合物を得た。得られた混合物を反応生成物1に代えて用いる以外は、上記表1に記載した実施例1と同一の配合量の化成処理液を調製した。
【0077】
得られた化成処理液を用いて、実施例1と同様の方法で化成処理を行った。
【0078】
比較例3
製造例4において用いた加熱反応物4の生成用原料と同一組成の成分を含む水溶液について、加熱反応を行うことなく、室温で1時間撹拌して混合物を得た。得られた混合物を反応生成物4に代えて用いる以外は、上記表1に記載した実施例4と同一の配合量の化成処理液を調製した。
【0079】
得られた化成処理液を用いて、実施例4と同様の方法で化成処理を行った。
【0080】
性能評価試験
上記した実施例1〜7及び比較例1〜3で用いた各化成処理液及び形成された化成皮膜について、以下の方法で性能評価を行った。結果を下記表2に示す。
(評価方法)
(外観)
形成された化成皮膜の色調及び均一性を目視によって評価した。
(耐食性試験)
JIS H 8502に基づく中性塩水噴霧試験法によって、48時間後、96時間後、192時間後の耐食性を評価した。錆発生が無い状態を「○印」、試料面積の5%以内に白錆が発生したものを「△印」、試料面積の10%以上に錆が発生したものを「×印」と表示した。
(安定性試験)
調製した化成処理液に、所定のpHを維持した状態で亜鉛を10g/L溶解させた後、40℃で30日間放置し、処理液の変化と形成された化成皮膜の外観を確認した。
【0081】
安定性の評価については、放置試験後の処理液を用いて形成された化成皮膜の外観が、放置試験前の処理液を用いて形成された化成皮膜の外観と同様である場合を良好とし、化成皮膜の外観が異なる場合を不安定とした。また、処理液の変化について目視で確認した。
【0082】
【表2】

【0083】
以上の結果から明らかなように、3価クロム化合物とカルボン酸類の加熱反応生成物を含む本発明の化成処理用組成物は安定性が良好であり、該組成物を用いて化成処理を行う場合には、黒色度の高い良好な外観を有し、耐食性にも優れた化成皮膜が形成されることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(5)の条件を満足するpH1〜4の水溶液からなる、亜鉛又は亜鉛合金用の黒色化成皮膜形成用組成物:
(1)3価クロム化合物とカルボン酸類とを、クロム金属1モルに対してカルボキシル基が1〜10モルとなる割合で50℃〜沸点未満の温度で反応させて得られる加熱反応生成物をクロム金属量として0.1〜10g/L含有する、
(2)上記加熱反応生成物の生成後に添加されたリンの酸素酸類をリン元素量として、0.1〜10g/L含有する、
(3)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加されたニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む化合物を金属量として0.1〜10g/L含有する、
(4)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加された有機イオウ化合物をイオウ元素量として、0.01〜5g/L含有する、
(5)上記加熱反応生成物の生成前又は生成後に添加された硝酸イオンをクロム金属1モルに対して2モル以上含有する。
【請求項2】
ハロゲンイオン及び硫酸イオンの含有量がそれぞれ100ppm以下である請求項1に記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
【請求項3】
加熱反応生成物の生成後に添加された有機イオウ化合物を含む請求項1又は2に記載の亜鉛又は亜鉛合金用の黒色化成皮膜形成用組成物。
【請求項4】
更に、水溶性高分子化合物を固形分として0.01〜50g/L含有する請求項1〜3のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
【請求項5】
更に、コロイダルシリカ及びシリコン系ポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一種の珪素化合物を固形分量として0.1〜50g/L含有する請求項1〜4のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
【請求項6】
更に、W、V、Mn、Mo、Al、Sn、Ti、Zr、Te、Sr、Ce、Fe、Cu及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を、金属成分の量として0.001〜50g/L含有する請求項1〜5のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物。
【請求項7】
少なくとも表面部分が亜鉛又は亜鉛合金で形成された被処理物を、請求項1〜6のいずれかに記載の黒色化成皮膜形成用組成物に接触させることを特徴とする黒色化成皮膜形成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により黒色化成皮膜を形成した後、オーバーコート処理を行うことを特徴とする防錆皮膜を形成する方法。
【請求項9】
請求項7又は8の方法によって形成された皮膜を有する物品。

【公開番号】特開2008−255407(P2008−255407A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98185(P2007−98185)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【出願人】(595056871)株式会社石実メッキ工業所 (3)
【Fターム(参考)】