説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】 入手しやすい原料を用い、安価に、かつ収率よく、式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に(メタ)アクリロイル基を導入して式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を製造する。
【化1】


(式中、R1 〜R19は水素原子、または酸素原子を含んでもよい炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、R20は水素原子またはメチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環性脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等に用いられる樹脂の原料として有用である。特に、集積回路の分野では、0.20μm以下のレベルの微細加工が要求されるため、この製造工程で用いられる化学増幅型感放射線性レジスト用樹脂としては、ドライエッチング耐性の高いという理由から、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる樹脂が非常に有用である。
【0003】
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとして、特許文献1には、下記式(3−1)に示す化合物が提案されており、該化合物に由来する繰り返し単位を有する樹脂を含むレジストは、ドライエッチング耐性に優れ、基板密着性、アルカリ現像液に対し良好な溶解性を示し、高感度、高解像度であるとされている。
【0004】
【化1】

【0005】
また、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとして、特許文献1には、下記式(4−1)、(4−2)で表される化合物が開示され、該化合物に由来する繰り返し単位を有する樹脂を含むレジストは、透明性、感度、解像度、パターン形状、ドライエッチング耐性、露光後の加熱温度の変動に対する線幅安定性に優れるとされている。
【0006】
【化2】

【0007】
(式(4−1)および式(4−2)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
式(4−1)、(4−2)で表される化合物は、例えば、式(3−1)に示す化合物における脂環式炭化水素基に結合するカルボキシル基をエステル化することで得ることができる。
このように、式(3−1)に示す化合物は、それ自体がレジスト用樹脂の原料として有用であり、かつ式(4−1)、(4−2)で表される化合物のような他の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルの原料としても有用である。
【0008】
特許文献1において、式(3−1)に示す化合物は、下記式(3−2)で表されるノルボルネンカルボン酸tert−ブチルとメタクリル酸とを、硫酸および水の存在下で反応させることによって製造されている。
【0009】
【化3】

【0010】
しかしながら、この方法では、出発原料がノルボルネンカルボン酸tert−ブチルという一般に流通していない物質であり、また、入手できたとしても価格が高い等の問題がある。また、この方法では、式(3−1)に示す化合物の収率が低いという問題もある。
【特許文献1】特開平10−307400号公報
【特許文献2】特開2003−330192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、本発明の目的は、入手しやすい原料を用い、安価に、かつ収率よく、多環性脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、下記式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に(メタ)アクリロイル基を導入して下記式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を得ることを特徴とする。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
(式(1−1)、式(1−2)、式(2−1)および式(2−2)中、R1 〜R9 、R11〜R19はそれぞれ独立に水素原子、または酸素原子を含んでもよい炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、R20は水素原子またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によれば、入手しやすい原料を用い、安価に、かつ収率よく、上記式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、下記式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に(メタ)アクリロイル基を導入して下記式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を製造する方法である。本発明において「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸および/またはメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0018】
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
式中、R1 〜R9 、R11〜R19は、水素原子;または酸素原子を含んでもよい炭素数1〜4の1価の直鎖、分岐、環状の炭化水素基を表す。酸素原子を含んでもよい炭素数1〜4の1価の直鎖、分岐、環状の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基等が挙げられる。R1 〜R9 、R11〜R19は、式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の入手しやすさの点で、水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
式中、R20は、水素原子またはメチル基を表す。
【0021】
本発明においては、上記式(1−1)で表される化合物として、下記式(1−3)で表されるエキソ体の比率が50モル%以上であるものを用い、また、上記式(1−2)で表される化合物として、下記式(1−4)で表されるエキソ体の比率が50モル%以上であるものを用いることが好ましい。
【0022】
【化8】

【0023】
下記式(1−5)または式(1−6)で表されるエンド体にあっては、カルボキシル基が分子内の二重結合と反応し、下記式(1−7)または式(1−8)で表されるラクトン体を多く生成してしまう。式(1−3)または式(1−4)で表されるエキソ体からは、ほとんどラクトン体は生成しない。
【0024】
【化9】

【0025】
【化10】

【0026】
式(1−3)で表されるエキソ体の比率が50モル%以上であり、また、式(1−4)で表されるエキソ体の比率が50モル%以上であれば、副生成物であるラクトン体の生成を少なく抑えることができ、収率が上がる。また、式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の蒸留精製の際に副生成物がコンデンサー部分に析出しにくくなる。
【0027】
また、あらかじめ式(1−3)または式(1−4)で表されるエキソ体の比率を高めておくこと、および式(1−5)または式(1−6)で表されるエンド体がラクトン体となることの相乗効果によって、式(2−1)または式(2−2)で表される化合物のうち、下記式(2−3)または式(2−4)で表される化合物の比率が高くなる。式(2−3)または式(2−4)で表される化合物のカルボキシル基をエステル化したものは、下記式(2−5)または式(2−6)で表される化合物のカルボキシル基をエステル化したものに比べ、エステル基が酸により脱離しやすいことを本発明者らは見出しており、結果、式(2−3)または式(2−4)で表される化合物の比率が高い式(2−1)または式(2−2)で表される化合物のカルボキシル基をエステル化したものに由来する繰り返し単位を有する樹脂をレジスト用樹脂に用いた場合、高い感度が得られる。
【0028】
【化11】

【0029】
【化12】

【0030】
式(1−1)または式(1−2)で表される化合物は、シクロペンタジエン誘導体とアクリル酸誘導体とのディールス・アルダー反応によって得られる。例えば、シクロペンタジエンとアクリル酸とのディールス・アルダー反応によって下記式(5)で表されるノルボルネンカルボン酸が得られる。
【0031】
【化13】

【0032】
該反応で得られる式(1−1)または式(1−2)で表される化合物は、式(1−5)または式(1−6)で表されるエンド体の比率が高くなる。したがって、式(1−3)または式(1−4)で表されるエキソ体の比率を50モル%以上にする操作を行うことが好ましい。
式(1−3)または式(1−4)で表されるエキソ体の比率を50モル%以上にする方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0033】
下記式(6)で表されるノルボルネンカルボン酸エステルに、ナトリウムアルコキシド、アルキルリチウム、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を作用させ、ノルボルネンカルボン酸エステルを異性化させた後、水を加えエステルを加水分解することでエキソ体の比率を50モル%以上にする。
【0034】
【化14】

【0035】
(式(6)中、R21は、炭化水素基を表す。)
さらに、エステルの加水分解を行う際に、ノルボルネンカルボン酸エステルのモル数と同モル数の水をゆっくり滴下して加水分解を行うことで、エキソ体の比率をさらに上げることができる。
なお、式(1−3)または式(1−4)で表されるエキソ体の比率を51モル%以上にする方法は、この方法に限定されるものでない。
【0036】
式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に(メタ)アクリロイル基を導入する方法は、特に限定されない。該方法としては、例えば、(A):式(1−1)または式(1−2)で表される化合物を、酸の存在下、メタクリル酸またはアクリル酸と反応させる方法、(B):式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に、酸の存在下、ギ酸、酢酸等を付加させた後、Ti系またはSn系のエステル交換触媒存在下、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルとエステル交換反応させる方法が挙げられる。これらのうち、反応工程が短いことから、(A)の方法が好ましい。(A)の方法の場合、原料の投入順序は、式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に酸を添加してからメタクリル酸またはアクリル酸を一括して投入または徐々に加えてもよいし、メタクリル酸またはアクリル酸に対し、酸と式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の混合物を一括して投入または徐々に添加してもよい。なお、原料の投入順序はこれらに限定されるものではない。
【0037】
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、強酸性のイオン交換樹脂、BF3 、りんタングステン酸等が挙げられる。
反応温度は、通常、10℃〜250℃であり、30℃〜160℃が好ましい。反応温度を10℃以上にすることで、エステル化反応が進行しやすくなり、250℃以下とすることで、収率が低下しない。
【0038】
式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の量は、(メタ)アクリル酸(1モル)に対し、通常、0.1〜30モルであり、1〜10モルが好ましい。式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の量を0.1モル以上とすることで、反応収率が向上する。式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の量を30モル以下とすることで、未反応の(メタ)アクリル酸を減らすことができる。
【0039】
式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に(メタ)アクリロイル基を導入する際には、必要に応じて、不活性溶媒等の、反応に影響を及ぼさない適当な溶媒、添加剤を用いてもよい。
また、(メタ)アクリル酸、または式(1−1)または式(1−2)で表される化合物の不都合な重合反応を制御すべく、適当な重合禁止剤を適量添加することが好ましい。重合禁止剤としては、公知の各種のものが充当可能であり、具体的には、ヒドロキノン、メトキノン、フェノチアジン、銅塩等が挙げられる。
【0040】
式(2−1)または式(2−2)で表される化合物は、有機溶媒および水を用いた抽出、水または有機溶媒による洗浄等によって、反応液から粗体として回収される。該粗体は、溶媒分別法、カラムクロマトグラフィ、蒸留等の公知の方法により精製することができる。
式(1−1)または式(1−2)で表される化合物として、ノルボルネンカルボン酸を用いた場合、式(2−1)または式(2−2)で表される化合物としては、下記式(2−a)〜(2−h)で表される位置異性体および立体異性体、さらには、これらの光学異性体(構造式略)が存在しうる。
【0041】
【化15】

【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
ノルボルネンカルボン酸のエキソ体の比率は、FIDガスクロマトグラフィを用い、下記式により決定した。ここで、GC面積とは、ガスクロマトグラフィチャートのベースラインと各物質のピークで囲まれた面積のことである。
【0043】
【数1】

【0044】
反応液中の目的物および副生成物(ラクトン体)の比率は、FIDガスクロマトグラフィにより測定されたGC面積比とした。
蒸留精製時のコンデンサー部への副生成物(ラクトン体)の付着の有無を目視で確認した。
【0045】
[実施例1]
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、エキソ体比率70モル%のノルボルネンカルボン酸69.0g(0.50モル)、メタクリル酸129.0g(1.5モル)、メタンスルホン酸4.8g(0.05モル)、を仕込み、攪拌しながら130℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を130℃に保ったまま、2時間反応させた。反応終了後の反応液のガスクロマトグラフィ分析より下記式(7)で表される化合物が生成していることを確認した。また、わずかにラクトン体も確認され、式(7)で表される化合物とラクトン体とのGC面積比は93:7であった。
【0046】
【化16】

【0047】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン200ml、水100mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、式(7)で表される化合物の粗体が110.0g得られた。110.0gの粗体を減圧蒸留(4mHg、100〜110℃)したところ、コンデンサー部分への副生成物の付着は確認されなかった。78.4g(0.35mol)の式(7)で表される化合物の精製物が得られた。
【0048】
[実施例2]
原料のノルボルネンカルボン酸として、エキソ体比率50モル%のノルボルネンカルボン酸を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
反応終了後の反応液のガスクロマトグラフィ分析より下記式(7)で表される化合物が生成していることを確認した。また、ラクトン体も確認され、式(7)で表される化合物とラクトン体とのGC面積比は85:15であった。
【0049】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン200ml、水100mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、式(7)で表される化合物の粗体が103.5g得られた。103.5gの粗体を減圧蒸留(4mHg、100〜110℃)したところ、コンデンサー部分への副生成物の付着は確認されなかった。69.0g(0.31mol)の式(7)で表される化合物の精製物が得られた。
【0050】
[比較例1]
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、エキソ体比率30モル%のノルボルネンカルボン酸tert−ブチル97.1g(0.50モル)、メタクリル酸129.0g(1.5モル)、メタンスルホン酸4.8g(0.05モル)、を仕込み、攪拌しながら130℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を130℃に保ったまま、2時間反応させた。反応終了後の反応液のガスクロマトグラフィ分析より上記式(7)および下記式(8)で表される化合物が生成していることを確認した。また、ラクトン体も確認され、式(7)で表される化合物とラクトン体とのGC面積比は60:40であった。
【0051】
【化17】

【0052】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン200ml、水100mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、式(7)で表される化合物の粗体が98.6g得られた。98.6gの粗体を減圧蒸留(4mHg、100〜110℃)したところ、コンデンサー部分へ副生成物が多量に付着した。30.1g(0.13mol)の式(7)で表される化合物の精製物が得られた。
【0053】
[比較例2]
原料のノルボルネンカルボン酸tert−ブチルとして、エキソ体比率50モル%のノルボルネンカルボン酸tert−ブチルを用いた以外は、比較例1と同様に行った。
反応終了後の反応液のガスクロマトグラフィ分析より式(7)および式(8)で表される化合物が生成していることを確認した。また、ラクトン体も確認され、式(7)で表される化合物とラクトン体とのGC面積比は75:25であった。
【0054】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン200ml、水100mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、式(7)で表される化合物の粗体が101.4g得られた。101.4gの粗体を減圧蒸留(4mHg、100〜110℃)したところ、コンデンサー部分へ副生成物が多量に付着した。55.0g(0.25mol)の式(7)で表される化合物の精製物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によれば、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等に用いられる樹脂の原料として有用である式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を、入手しやすい原料を用い、安価に、かつ収率よく製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1−1)または式(1−2)で表される化合物に(メタ)アクリロイル基を導入して下記式(2−1)または式(2−2)で表される化合物を得ることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】

【化2】

(式(1−1)、式(1−2)、式(2−1)および式(2−2)中、R1 〜R9 、R11〜R19はそれぞれ独立に水素原子、または酸素原子を含んでもよい炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表し、R20は水素原子またはメチル基を表す。)

【公開番号】特開2006−137727(P2006−137727A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330588(P2004−330588)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】