説明

3価クロムめっき皮膜用電解処理液

【課題】6価クロム化合物を用いることなく、3価クロムめっき皮膜の耐食性を大きく向上させることが可能な、3価クロムめっき皮膜用の処理液及び処理方法を提供する。
【解決手段】水溶性3価クロム化合物を含有する水溶液からなる3価クロムめっき皮膜用電解処理液、及び該電解処理液中において3価クロムめっき皮膜を有する物品を陰極電解することを特徴とする3価クロムめっき皮膜の電解処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜用の電解処理液、及び該電解処理液を用いる電解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、装飾用、工業用など各種の分野で広く利用されており、従来から、主として、クロム成分として6価クロムを多量に含有するクロムめっき浴を用いてめっき処理が行われている。
【0003】
しかしながら、6価クロムを含有するめっき浴を用いる場合には、めっき時に発生する6価クロムを含有するミストの有害性が問題となっており、作業環境の改善や廃水処理の効率などを考慮して、毒性の少ない3価クロム化合物を用いた3価めっき浴が普及してきている(下記非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら,3価クロムめっき浴から得られるクロムめっき皮膜(3価クロムめっき皮膜)は、従来の6価クロムを含むめっき浴から得られるクロムめっき皮膜(6価クロムめっき皮膜)と比較した場合、耐食性については一般的にやや劣ることが知られている(下記特許文献1参照)。また,3価クロムめっき浴はそれ自身にクロメート皮膜を形成する働きがないため,パイプ内部などクロムめっきが析出しない部分の耐食性が6価クロムめっきに比較して劣るという問題点がある(下記非特許文献1参照)。
【0005】
このため,現状では、3価クロムめっき皮膜の耐食性を向上させる目的で、クロメート皮膜を形成する働きを有する6価のクロム塩であるクロム酸(CrO3)水溶液への浸漬処理や重クロム酸(K2Cr2O7)水溶液中での陰極電解処理(電解クロメート)等を行なうことが多い。
【0006】
しかしながら、これらの処理方法を採用する場合には、3価クロムを含むめっき液を用いてめっき皮膜を形成した場合であっても、後処理工程において6価クロムを含む処理液を用いるために、やはり作業環境上問題がある。
【非特許文献1】表面技術Vol.56,No.6,2005 302p「クロムめっきの発展と環境問題」
【特許文献1】特開2002−285375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、
6価クロム化合物を用いることなく3価クロムめっき皮膜の耐食性を大きく向上させることが可能な、新規な3価クロムめっき皮膜の処理液及び処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、3価クロムめっき皮膜を有する物品を3価クロム化合物を含有する水溶液中で比較的低い電流密度で陰極電解処理することによって、6価クロム化合物を用いることなく、3価クロムめっき皮膜の耐食性を大きく向上させることが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜用の電解処理液、及び該電解処理液を用いる電解処理方法を提供するものである。
1. 水溶性3価クロム化合物を含有する水溶液からなる、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜用電解処理液。
2. 水溶性3価クロム化合物を3価クロムイオン濃度として5〜50g/L含有するpH2〜8の水溶液である上記項1に記載の電解処理液。
3. 更に、pH緩衝能力を有する化合物を含有することを特徴とする上記項1又は2に記載の電解処理液。
4. 上記項1〜3のいずれかに記載の電解処理液中において、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜を有する物品を陰極電解することを特徴とする、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜の電解処理方法。
5. 陰極電流密度0.1〜5A/dmで陰極電解処理を行う上記項4に記載の方法。
【0010】
以下、本発明の電解処理液及び電解処理方法について具体的に説明する。
【0011】
電解処理液
本発明の電解処理液は、水溶性3価クロム化合物を含有する水溶液からなるものである。
水溶性3価クロム化合物としては、クロム成分として3価クロムを含む水溶液化合物であれば特に限定なく使用できる。このような 水溶液3価クロム化合物としては、硫酸クロム、塩基性硫酸クロム、硝酸クロム、酢酸クロム、塩化クロム、リン酸クロムなどを例示できる。これらの水溶性3価クロム化合物は、一種単独または二種以上混合して用いることができる。
【0012】
本発明の電解処理液では、3価クロムイオン濃度が低すぎる場合には、後述する条件で電解処理を行った場合であっても3価クロムめっき皮膜の耐食性を十分に向上させることができない。また、3価クロムイオン濃度を高くすることにより、電解処理によって良好な耐食性を付与することが可能となるが、濃度が高すぎると、クロムめっき皮膜の表面が黄色の変色が生じて外観が損なわれることがある。よって、この様な観点から、水溶性3価クロム化合物の濃度は、3価クロムイオンの濃度として、5〜50g/L程度とすることが好ましく、10〜30g/L程度とすることがより好ましい。
【0013】
本発明の電解処理液は、pHが2〜8程度の範囲内にあることが好ましい。pHがこの範囲内にある場合には、後述する条件で陰極電解処理を行うことによって、めっき皮膜の外観などを損なうことなく、良好な耐食性を付与できる。これに対して、pHが低すぎると、3価クロムめっき皮膜が処理液中に溶解する可能性があるので好ましくない。一方、pHが高すぎる場合には、陰極電解によって被処理物の表面に緑色のクロム酸化物が付着することがあるので、やはり好ましくない。
【0014】
本発明の電解処理液には、必要に応じて、所定のpH範囲においてpH緩衝能力を有する化合物を添加することによって、電解処理液のpH変動を抑制することができる。この様なpH緩衝能力を有する化合物としては、水溶性脂肪族カルボン酸、ホウ酸、硼砂、リン酸、リン酸2水素カリウム、グリシン、酒石酸、フタル酸等を例示できる。特に、水溶性脂肪族カルボン酸類は、pH緩衝剤としての作用と同時に、3価クロムイオンの錯化剤として作用してpH調整の際の水酸化物の生成を抑制できる。この様な脂肪族カルボン酸類としては、例えばギ酸,酢酸などの脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸などの脂肪族ジカルボン酸;グルコン酸などの脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸;リンゴ酸などの脂肪族ヒドロキシジカルボン酸;クエン酸などの脂肪族ヒドロキシトリカルボン酸などのカルボン酸;これらカルボン酸の水溶性塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩などを例示できる。これらの水溶液脂肪族カルボン酸類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0015】
pH緩衝能力を有する化合物の添加量については特に限定的ではないが、通常、10〜200g/L程度とすることができ、20〜100g/L程度とすることが好ましい。
【0016】
更に、本発明の電解処理液は、弱酸性領域(pHが2.0〜8.0の範囲)で陰極電解を行うことから、浴電圧の上昇を抑制するために、電導性塩、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどを添加してもよい。これらの導電性塩の添加量については、特に限定的ではないが、通常、5〜100g/L程度とすることが好ましく、10〜50g/L程度とすることがより好ましい。
【0017】
電解処理方法
本発明の電解処理方法では、被処理物としては、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜を有する物品を用いる。
【0018】
処理対象の物品にクロムめっき皮膜を形成するために用いる3価クロムめっき液としては、クロム成分として3価クロム化合物を含むクロムめっき浴であればよく、具体的な組成については特に限定はない。3価クロムめっき浴の一例を挙げると、クロム成分として、硫酸クロム,塩基性硫酸クロム,塩化クロム,酢酸クロムなどの水溶液3価クロム化合物を含み、電導性塩として、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどを含み、錯化剤として、ギ酸,酢酸等のモノカルボン酸又はその塩,シュウ酸、マロン酸、マレイン酸等のジカルボン酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸などのヒドロキシカルボン酸又はその塩等、尿素、チオシアン、シアン酸などの無機化合物等を含むめっき浴を例示できる。更に、pH緩衝剤として、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、塩化アルミニウムなどを含んでいても良い。これらの各成分の濃度については、特に限定的ではないが、例えば、3価クロム化合物については、10〜100g/L程度、電導性塩については、30〜300g/L程度、錯化剤については、5〜50g/L程度、pH緩衝剤については、10〜100g/L 程度の3価クロムめっき浴を例示できる。クロムめっき皮膜を形成する条件についても特に限定はなく、使用する3価クロムめっき液に応じてめっき条件を決めればよい。
【0019】
本発明の電解処理方法では、上記した3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜を有する物品を被処理物として用い、前述した電解処理液中に被処理物を浸漬し、被処理物を陰極として電解処理を行えばよい。これにより、被処理物のクロムめっき皮膜の耐食性を大きく向上させることができる。
【0020】
電解条件については特に限定されないが、電解処理液中から金属クロムが析出しない電流密度あるいは電位を適応することが望ましい。また、金属クロムが析出しない電流密度範囲であっても、電流密度が高すぎると被処理物表面に黄色の皮膜が形成され外観が損なわれることがある。このため、陰極電流密度は、0.1〜5A/dm程度とすることが好ましく、0.3〜2A/dm程度とすることがより好ましい。
【0021】
電解処理温度については特に限定されないが、例えば、20℃〜60℃程度の温度範囲とすればよい。
【0022】
電解処理時間については、処理時間が極端に短い場合には十分な耐食性の向上が認められない。また,処理時間が必要以上に長い場合には、クロムめっき皮膜表面に黄色い膜が形成されて皮膜外観を損なうことがあるので好ましくない。このため、通常は、10秒〜10分程度の電解処理時間とすればよく、30秒〜2分程度の電解処理時間とすることが好ましい。
【0023】
電解処理に用いるアノードについては特に限定されないが、ステンレス鋼などを用いると、長期間の電解処理により電解処理液中に金属成分(Fe,Ni,Crなど)の溶出が起こることがある。溶出した各種金属成分(特にFe,Ni)は、クロムより貴な金属であるため、電解処理時にカソード側の3価クロムめっき皮膜表面への析出が懸念される。このことから、アノードとしては、不溶解性アノードの使用が望ましく、例えば、カーボン、Ti-Pt、DSA電極(Ru酸化物系,Ir酸化物系)等の不溶性電極を用いることが好ましい。
【0024】
本発明の電解処理方法では、陰極電解処理を行うことにより、処理液のpHが低下する傾向がある。このため、連続的に電解処理を行う場合には、電解処理液のpHが2〜8の範囲内となるようにpHを管理することが必要となる。この場合、pHの調整には、NaOH等のアルカリ水溶液を用いることができるが、アルカリ水溶液を添加する際に、クロムの水酸化物生成を抑制できるように徐々に添加することが必要である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電解処理液は、6価クロム化合物を含まない処理液であって、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜に対して、外観を損なうことなく、良好な耐食性を付与できる。
【0026】
よって、3価クロムめっき液から形成されたクロムメッキ皮膜に対して、本発明の電解処理液を用いて電解処理を行うことによって、6価クロムフリーのめっきプロセスによって、外観及び耐食性に優れたクロムめっき皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
実施例1〜4
膜厚5μmの光沢ニッケルめっき皮膜を形成した真鍮板に、市販の3価クロムめっき液(商標名:トップファインクロム、奥野製薬工業(株)製)を用いて、液温45℃、電流密度8A/dmの条件で膜厚約0.1μmの3価クロムめっき皮膜を形成した。
【0029】
上記した方法で3価クロムめっき皮膜を形成した試料を試験片として用い、下記表1に記載した組成を有する実施例1〜4の各電解処理液中に浸漬して、表1に記載の条件で電解処理を行った。
【0030】
次いで、電解処理後の各試験片について、JIS 2371に従った塩水噴霧試験法によって耐食性試験を行い、白サビ発生までの時間により耐食性を評価した。尚、電解処理を行なっていない試料では、塩水噴霧試験開始後72時間で白サビが発生した。
【0031】
また、目視により電解処理後のクロムめっき皮膜の外観を評価した。めっきした状態と変化のない試験片を○、電解処理後に僅かに黄色く変色した試験片を△、電解処理後に茶色く変色した試験片を×で示す。
【0032】
以上の結果を下記表1に記載する。
【0033】
【表1】

【0034】
以上の結果から明らかなように、実施例1〜4の電解処理液を用いて電解処理を行った場合には、塩水噴霧試験法によって白サビが発生するまでの時間が168時間以上となった。これに対して、電解処理を行わなかった場合には、塩水噴霧試験開始後72時間程度で3価クロムめっき皮膜に白サビが発生しており、本発明の電解処理液を用いて電解処理を行うことによって3価クロムめっき皮膜の耐食性を大きく向上できることが確認できた。
【0035】
また、電解処理時間を延長した実施例3及び4では、白サビ発生までの時間は216時間となり、耐食性を更に大幅に延長できることが確認できた。
【0036】
また、実施例1〜4では、いずれも電解処理後の皮膜外観は良好であった。
【0037】
よって、本発明の電解処理液を用いて電解処理を行うことによって、3価クロムめっき皮膜の外観を低下させることなく、耐食性を大きく向上できることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性3価クロム化合物を含有する水溶液からなる、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜用電解処理液。
【請求項2】
水溶性3価クロム化合物を3価クロムイオン濃度として5〜50g/L含有するpH2〜8の水溶液である請求項1に記載の電解処理液。
【請求項3】
更に、pH緩衝能力を有する化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電解処理液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電解処理液中において、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜を有する物品を陰極電解することを特徴とする、3価クロムめっき液から形成されたクロムめっき皮膜の電解処理方法。
【請求項5】
陰極電流密度0.1〜5A/dmで陰極電解処理を行う請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2009−235456(P2009−235456A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80755(P2008−80755)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】