説明

4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの製造方法

【課題】 工業的に優位な高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの製造方法及び精製方法を提供すること。
【解決手段】 塩基性条件下で式(1):
【化1】


で示される2−ハロゲノピリジン類をカップリング反応せしめ、得られた反応混合物を、酸でpH4〜6の範囲に調整して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることを特徴とする4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの製造方法、及びイソニコチン酸を含有する4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを精製するにあたり、当該4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの塩基性水溶液を調製し、次いでその塩基性水溶液を酸でpH4〜6の範囲に調製して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることを特徴とする4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの精製方法。
【図面】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンは、色素増感太陽電池用色素材料として有用な化合物である(例えば、特許文献1〜3参照)。最近では色素増感太陽電池の性能向上のため、高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンが求められている。
【0003】
4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンは、例えば、パラジウム触媒及び塩基の存在下、2−クロロピリジン−4−カルボン酸又は2−クロロ−4−シアノピリジン等を原料として、カップリング反応を行った後、得られた反応混合物に酸を添加して、反応混合物をpH1程度の酸性にし、析出した4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの結晶を濾過等で分離して得られる(例えば、特許文献4参照)。このようにして得られた4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンは純度が約90%と低く、特に色素増感太陽電池の分野では満足できるものではない。
【特許文献1】特開平6−279474
【特許文献2】特開2000−100482
【特許文献3】特開2001−247546
【特許文献4】特表2002−513003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、工業的に優位な高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを製造する方法を提供することを課題とする。また、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が上記課題を解決するために検討を行ったところ、上記のカップリング反応では副生成物としてイソニコチン酸が生成し、それが4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと同時に析出することで、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの純度低下を招いている知見を得た。そこで、さらに鋭意検討を重ねた結果、反応混合物に酸を加えて4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの結晶を析出させる際に、反応混合物のpHを特定範囲に調整することで、容易に高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は塩基性条件下で式(1):
【0007】
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を表し、Rはシアノ基、カルボキシル基又は−COMで示される基を表す。ここでMはアルカリ金属原子を表す。)で示される2−ハロゲノピリジン類(以下、2−ハロゲノピリジン類(1)という。)をカップリング反応せしめ、得られた反応混合物を、酸でpH4〜6の範囲に調整して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることを特徴とする4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの製造方法、及びイソニコチン酸を含有する4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを精製するにあたり、当該4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの塩基性水溶液を調製し、次いでその塩基性水溶液を酸でpH4〜6の範囲に調製して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることを特徴とする4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの精製方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、工業的に容易に高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを製造、また精製できるため、本発明は工業的利用可能性大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
式(1)中、ハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、アルカリ金属原子としては、例えばリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられ、ナトリウム原子及びカリウム原子が好ましい。
【0010】
2−ハロゲノピリジン類(1)としては、例えば2−クロロ−4−シアノピリジン、2−ブロモ−4−シアノピリジン、2−ヨード−4−シアノピリジン、2−クロロピリジン−4−カルボン酸、2−ブロモピリジン−4−カルボン酸、2−ヨードピリジン−4−カルボン酸、2−クロロピリジン−4−カルボン酸ナトリウム、2−ブロモピリジン−4−カルボン酸ナトリウム、2−ヨードピリジン−4−カルボン酸ナトリウム、2−クロロピリジン−4−カルボン酸カリウム、2−ブロモピリジン−4−カルボン酸カリウム、2−ヨードピリジン−4−カルボン酸カリウム等が挙げられる。
【0011】
かかる2−ハロゲノピリジン類(1)は、フリー体を用いてもよいし、例えば塩酸塩等の酸付加塩を用いてもよい。
【0012】
本発明における反応混合物は、通常特許文献4の公知の製造方法に従って得ることができる。例えば塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)及び触媒(パラジウム炭素等)の存在下、2−ハロゲノピリジン類(1)を、水と有機溶媒(メタノール等)との混合溶媒中で約60℃〜90℃程度に加熱してカップリング反応せしめた後、濾過等の公知の分離操作により、反応に使用した触媒等を濾別することで得られる。また、反応には必要に応じて、還元性のある添加剤(ヒドラジン、ヒドロキシルアミン等)を加えてもよい。また、反応混合物は、必要に応じて含有する有機溶媒を除去したものを用いてもよいし、着色が見られる場合には、活性炭等の公知の脱色剤を用いて処理したものを用いてもよい。反応混合物の液体クロマトグラフィー分析によれば、反応混合物中のイソニコチン酸と4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの比率は、通常3:97〜30:70程度である。
【0013】
本発明の製造方法は、攪拌下、反応混合物に酸を添加して、反応混合物を通常pH4〜6、好ましくはpH4.5〜5.5の範囲に調整することで実施される。このようにすれば、析出した4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンに含有するイソニコチン酸の量が0.5%以下となる。
【0014】
酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸又は過塩素酸等の無機酸或いは酢酸、プロピオン酸又はメチルスルホン酸等の有機酸が挙げられ、好ましくは無機酸であり、特に好ましくは塩酸、硫酸又は硝酸である。
【0015】
酸添加時の温度は、通常0℃〜80℃、好ましくは10℃〜40℃である。
【0016】
酸添加終了後、反応混合物から析出した4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの結晶を濾過等の公知の方法により分離し、乾燥することで高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンが得られる。
【0017】
本発明の精製方法は、イソニコチン酸を含有する4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを、まずこれらを十分に中和できる量の塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を含有する水溶液と混合して溶解し、次いで得られた水溶液を0℃〜80℃、好ましくは10℃〜40℃に保ちながら前述の酸を添加して通常pH4〜6、好ましくはpH4.5〜5.5の範囲に調整して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることで実施される。このようして析出した4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを濾過乾燥すれば、高純度の4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンが得られる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではない。なお、反応混合物中の4,4‘−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンとイソニコチン酸の比率は、液体クロマトグラフィー分析の面積比率により算出した。
【0019】
製造例1
水酸化ナトリウム44.6g(1.12モル)、水90g、メタノール500gの混合溶液に5%カーボン担持型パラジウム触媒(水50%含有)4.00g及び2−クロロ−4−シアノピリジン50.0g(0.36モル)を添加し、窒素雰囲気下、75℃で25時間攪拌して反応させた。反応終了後、冷却し、水355.0gで希釈した。この希釈液より触媒を濾過し、メタノールを減圧留去した後、濃縮残渣に水627.3gを加えた。その濃縮残渣に30℃で10%塩酸水溶液60.4gを加えてpH6.5とした。この中和液に活性炭2.50gを加え30℃で2時間攪拌し、活性炭を濾過後、反応混合物を得た。
【0020】
製造例2
85%水酸化カリウム64.1g(1.06モル)、水472.2g、メタノール248.7gの混合溶液に5%カーボン担持型パラジウム触媒(水50%含有)3.94g、80%ヒドラジン11.9g及び2−クロロピリジン−4−カルボン酸78.7g(0.50モル)を添加し、窒素雰囲気下、65℃で4時間攪拌して反応させた。反応終了後、冷却し、水314.0gで希釈した。この希釈液より触媒を濾過し、メタノールを減圧留去した後、濃縮残渣に水119.7gを加えた。その濃縮残渣に30℃で10%塩酸水溶液44.3gを加えてpH7.2とした。この中和液に活性炭3.90gを加え30℃で2時間攪拌し、活性炭を濾過後、反応混合物を得た。
【0021】
実施例1
製造例1で得られた反応混合物(イソニコチン酸:4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン=22:78)に30℃で10%塩酸水溶液を滴下してpH4.5とした以外は実施例1と同様にして行い、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを得た(純度99.6%)。得られた4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンにはイソニコチン酸が0.4%含有していた。
【0022】
比較例1
製造例1と同様にして得られた反応混合物(イソニコチン酸:4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン=17:83)に30℃で98%硫酸水溶液を滴下してpH3.3とした以外は実施例1と同様にして行い、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを得た(純度83.1%)。得られた4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンにはイソニコチン酸が11%含有していた。
【0023】
実施例2
製造例2で得られた反応混合物(イソニコチン酸:4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン=4:96)に30℃で10%塩酸水溶液を滴下してpH5.5とし、30℃で15分攪拌した。析出した結晶を濾過し、水及びメタノールで洗浄後、得られた結晶を減圧下で乾燥し、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを得た(純度99.5%)。得られた4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンにはイソニコチン酸が0.4%含有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性条件下で式(1):
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を表し、Rはシアノ基、カルボキシル基又は−COMで示される基を表す。ここでMはアルカリ金属を表す。)で示される2−ハロゲノピリジン類をカップリング反応せしめ、得られた反応混合物を、酸でpH4〜6の範囲に調整して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることを特徴とする4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの製造方法。
【請求項2】
イソニコチン酸を含有する4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを精製するにあたり、当該4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの塩基性水溶液を調製し、次いでその塩基性水溶液を酸でpH4〜6の範囲に調製して4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを析出させることを特徴とする4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの精製方法。

【公開番号】特開2006−206516(P2006−206516A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21677(P2005−21677)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】