説明

ATPの製造方法およびその利用

【課題】AMPからATPを製造する方法を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有する、好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを反応させる工程を含み、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素である、ATPの製造方法。および、該ポリリン酸キナーゼと、それをコードするポリヌクレオチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATPの製造方法およびその利用に関し、より具体的には、AMPからATPを製造するATPの製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、アデノシン三リン酸(ATP)をエネルギー源として利用して種々の生体化合物を合成しているが、その消費されたATPを別途再生するために、共役した反応系、例えばアデノシン二リン酸(ADP)からATPを合成する反応系がある。その一つとして、ポリリン酸とポリリン酸キナーゼとをADPと反応させることによる、安定なATP再生系が知られている(特許文献1〜5)。
【0003】
ポリリン酸は、数十〜数百の無機リン酸が高エネルギーであるリン酸結合によって直鎖状につながった無機ポリマーである。ポリリン酸キナーゼは、ポリリン酸とADPとからATPを合成する酵素である。ポリリン酸キナーゼとしては、ポリリン酸キナーゼ1型(PPK1)が知られている。特に、特許文献5に開示された、好熱菌Thermus thermophilus由来のポリリン酸キナーゼ1型(PPK1)は、耐熱性を有しているため、安定的にATPを合成することができる。また、ポリリン酸キナーゼとしては、上述したPPK1の他に、ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)も報告されている(非特許文献1)。非特許文献1によれば、PPK1およびPPK2は、どちらも、ポリリン酸とADPとからATPを生成する反応に関与し、PPK2は、PPK1と比較して、上記反応を触媒する活性が1000倍程度高いことが報告されている。
【0004】
このように、ポリリン酸とポリリン酸キナーゼとによるADPからのATP再生系は、安価で実用的なATP再生系として知られている。
【0005】
ところで、ATPからADPへの分解を利用して反応する酵素の他に、ATPからAMP(アデノシン一リン酸)への分解を利用して反応する酵素がある(例えば、アセチルCoA合成酵素等は、より大きい自由エネルギー変化が得られるATPからAMPへの分解と共役する。)。このため、このような酵素を利用して物質を生産する際には、ATPを絶えず反応系に供給する必要があるが、AMPからATPへの再生系と共役させることができれば酵素を連続的に反応させることが容易になる。特許文献1〜4には、AMPからATPを合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−299390公報(2001年10月30日公開)
【特許文献2】特開2005−46010公報(2005年 2月24日公開)
【特許文献3】特開2006−81506公報(2006年 3月30日公開)
【特許文献4】国際公開第98/48031号パンフレット(1998年10月29日公開)
【特許文献5】特開2007−143463号公報(2007年 6月14日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zhang et. al., PNAS, 2002, vol. 99, no. 26, p.16678-16683
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜4に開示された方法は、単一の酵素を用いてAMPから直接ATPを合成する方法ではない。
【0009】
具体的には、特許文献1〜4に開示された方法では、まず、第1段階の反応として、ATPを利用して、アデニレートキナーゼによってAMPからADPを合成する。次いで、第2段階の反応として、第1段階で合成したADPを基質として、ポリリン酸キナーゼによってATPを合成するものである。このため、AMPからATPを合成するためには、アデニレートキナーゼおよびポリリン酸キナーゼの2種類の酵素を利用する必要がある。2種類の酵素を利用する反応系は、単一の酵素のみを利用する反応系と比較すると、反応系の制御が複雑になるという問題を有している。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡便にAMPからATPを合成することができる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、既にADPを基質としてATPを合成する酵素として知られていたポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)が、AMPを基質としてATPを合成する活性を有していることを初めて見出し、かかる新規知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0012】
これまでに、PPK2が、AMPを基質としてATPを合成する活性を有しているという知見は、一切報告されていない。そもそも、ポリリン酸キナーゼに関わらず、単一の酵素のみで、AMPからATPを合成(再生)し得るという知見自体がない。従って、PPK2を用いることによって、単一の酵素のみで、AMPからATPを合成し得ることは、本発明者らが初めて見出し、ここに開示するものである。
【0013】
すなわち、本発明に係るATPの製造方法は、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを反応させる工程を含み、
上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴としている。
【0014】
上記構成であれば、単一の酵素のみでAMPからATPを合成し得るので、より簡便にAMPからATPを製造することができる。
【0015】
本発明に係るATPの製造方法では、上記ポリリン酸キナーゼ2型が、好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型であることが好ましい。
【0016】
好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型は、耐熱性を有しているので、より安定的にAMPからATPを製造することができる。
【0017】
本発明に係るATPの製造方法では、上記好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型が、以下の(a)または(b)のポリペプチドであり得る:
(a)配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、AMPからATPを生成する活性を有するポリペプチド。
【0018】
上記の好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型は、耐熱性を有しているので、より安定的にAMPからATPを製造することができる。
【0019】
本発明に係るATPの製造方法では、上記好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型が、以下の(c)または(d)のポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドであり得る:
(c)配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、AMPからATPを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0020】
上記の好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型は、耐熱性を有しているので、より安定的にAMPからATPを製造することができる。
【0021】
本発明に係るキットは、AMPからATPを製造するためのキットであって、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを少なくとも備え、
上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴としている。
【0022】
かかる構成のキットを用いれば、単一の酵素のみでAMPからATPを合成し得るので、より簡便にAMPからATPを製造することができる。
【0023】
本発明に係る物質の製造方法は、ATPを利用して物質を製造する方法であって、上記製造方法によってATPから生成されたAMPに、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸とを反応させてATPを再生するATP再生反応と、当該製造方法とが共役しており、上記製造方法が利用するATPは、当該製造方法と共役している上記ATP再生反応によって再生されたATPであり、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴としている。
【0024】
上記構成であれば、ATPを消費する物質の生成系に、ATP再生系を共役させるので、ATPを供給する必要がなく、コストを抑えることができる。また、副反応が起こらない高効率の反応系を構築することができる。このため、より安価にかつより効率よく物質を製造することができる。
【0025】
本発明に係る物質の製造方法では、上記物質は、アセチル−CoAであることが好ましい。
【0026】
上記構成であれば、ATPを消費するアセチル−CoAの生成系に、ATP再生系を共役させるので、ATPを供給する必要がなく、コストを抑えることができる。また、副反応が起こらない高効率の反応系を構築することができる。このため、より安価にかつより効率よくアセチル−CoAを製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るATPの製造方法は、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを反応させる工程を含み、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素である構成である。また、本発明に係るキットは、AMPからATPを製造するためのキットであって、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを少なくとも備え、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素である構成である。従って、本発明によれば、単一の酵素のみでAMPからATPを合成し得るので、より簡便にAMPからATPを製造することができるという効果を奏する。
【0028】
さらには、本発明に係る物質の製造方法は、ATPを利用して物質を製造する方法であって、上記製造方法によってATPから生成されたAMPに、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸とを反応させてATPを再生するATP再生反応と、当該製造方法とが共役しており、上記製造方法が利用するATPは、当該製造方法と共役している上記ATP再生反応によって再生されたATPであり、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素である構成である。従って、本発明によれば、ATPを消費する物質の生成系に、ATP再生系を共役させるので、ATPを供給する必要がなく、コストを抑えることができる。また、副反応が起こらない高効率の反応系を構築することができる。このため、より安価にかつより効率よく物質を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る物質の製造方法の概略を示す図である。
【図2】薄層クロマトグラフィーの結果を表す図である。
【図3】耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型のATP合成活性を測定した結果を表すグラフである。
【図4】耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型のATP合成活性を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0031】
〔1.ATPの製造方法〕
本発明に係るATPの製造方法は、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを反応させる工程を含み、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴としている。
【0032】
本発明に係るATPの製造方法では、下記の反応式(1)に示すように、AMPは、ポリリン酸キナーゼ2型(以下、「PPK2」と略記する。)の触媒作用によりポリリン酸(polyP)からリン酸基を受け取り、ATPを生じる。
【0033】
【化1】

【0034】
(式中、nは、ポリリン酸におけるリン酸の数を表す。)
PPK2と、ポリリン酸と、AMPとの反応条件は、AMPからATPが合成される条件であれば特に限定されず、適切な緩衝液中で、適切な温度で、適切な時間にわたって、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを反応させればよい。
【0035】
緩衝液としては、例えば、PPK緩衝液(50mM MOPS−NaOHバッファ、40mM (NHSO、4mM MgCl、10mM MnCl、pH7.0)、Tris緩衝液、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液等を挙げることができる。緩衝液には、例えば、Mgイオンなどの二価金属イオンが含まれていることが好ましい。
【0036】
反応温度は特に限定されず、用いるPPK2に応じて適宜選択することができる。例えば、20〜40℃であってもよく、25〜30℃であってもよい。反応温度が20℃より低いと、一般的にPPK2の酵素活性が低くATPが充分に合成されないおそれがある。また、反応温度が40℃を超えると、一般的にPPK2が失活することによりATPが充分に合成されないおそれがある。
【0037】
なお、好熱菌由来のPPK2を用いる場合は、反応温度の好ましい範囲は上記の限りではない。好熱菌由来のPPK2は、耐熱性を有しているので、好ましくは、30〜80℃、より好ましくは50〜70℃の反応温度にて、安定的にATPを合成することができる。
【0038】
高熱菌由来のPPK2は、高温条件下であっても失活し難い。そのため、高温条件下での反応系においても安定にATPを生産することができる。よって、高熱菌由来のPPK2を用いれば、高温での物質生産反応系とATP生産反応系とを共役させることが可能となる。
【0039】
また、PPK2を用いたATP生産反応系と、当該ATPを用いた物質生産反応系がカップリングしている反応システムについて考える。このとき、ATPを用いた物質生産反応系が発熱反応である場合、上記反応システム自体が高温になり易い。しかしながら、高熱菌由来のPPK2を用いれば、たとえ反応システムが高温条件になったとしても、安定に所望の物質を生産することができる。
【0040】
反応時間は、特に限定されないが、1分〜720分が好ましく、10分〜120分がより好ましい。
【0041】
ATP合成反応溶液中のPPK2は、最終濃度が1〜500μg/mlとなるように含有されていることが好ましく、最終濃度が50〜200μg/mlとなるように含有されていることがより好ましい。反応溶液中に含まれているPPK2の濃度が最終濃度で1μg/mlより低いと、再生されるATP量が少なくなるおそれがある。また、反応溶液中に含まれているPPK2の濃度が最終濃度で500μg/mlを超えると、反応あたりのコストが高くなるおそれがある。
【0042】
また、ATP合成反応溶液中のポリリン酸は、最終濃度が0.5〜200mMとなるように含有されていることが好ましく、最終濃度が1〜100mMとなるように含有されていることがより好ましい。反応溶液中に含まれているポリリン酸の濃度が最終濃度で0.5mMより少ないと、再生されるATP量が少なくなるおそれがある。また、反応溶液中に含まれているポリリン酸の濃度が最終濃度で500mMを超えると、反応液中の金属イオンがキレートされるおそれがある。
【0043】
また、ATP合成反応溶液中のAMPは、最終濃度が0.1〜500mMとなるように含有されていることが好ましく、最終濃度が0.2〜2mMとなるように含有されていることがより好ましい。反応溶液中に含まれているAMPの濃度が最終濃度で0.1mMより少ないと、再生されるATP量が少なくなるおそれがある。また、反応溶液中に含まれているAMPの濃度が最終濃度で500mMを超えると、反応あたりのコストが高くなるおそれがある。
【0044】
本発明に係るATPの製造方法によってATPが製造されたことは、後述する実施例に示した薄層クロマトグラフィー法の他に、液体クロマトグラフィー法、ルシフェラーゼ法等によって確認することができる。
【0045】
以下に、「PPK2」、「ポリリン酸」および「AMP」について、それぞれ説明する。
【0046】
(1−1)PPK2
本明細書において、「PPK2」は、ポリリン酸キナーゼの内、PPK2ドメインを有しているポリリン酸キナーゼが意図される(例えば、非特許文献1等を参照)。PPK2ドメインのアミノ酸配列は、PPK1と同じ部分は全くなく、PPK1とは明確に区別されている。
【0047】
さらに、本明細書において、「PPK2」は、PPK2ドメインを有しているポリリン酸キナーゼの中でも、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素が意図される。このような「PPK2」を、当業者は、PPK2ドメインを有している周知のポリリン酸キナーゼの中から、単一の酵素でAMPからATPを合成する活性を指標として検索することによって、明確に確定し得る。
【0048】
PPK2は、その由来は特に限定されず、細菌、酵母、動物、植物等、いずれの生物由来であってもよい。
【0049】
耐熱性を有しており、より安定的にATPを合成できることから、本発明に係るATPの製造方法では、PPK2が、好熱菌由来のPPK2であることが好ましい。上記好熱菌としては、例えば、Thermosynechococcus elongatus、Meiothermus ruber、Meiothermus silvanus、Deinococcus geothermalis、Thermanaerovibrio acidaminovorans、Thermus thermophilus等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
このような好熱菌のPPK2としては、例えば、PPK2ドメインを有し、さらに、公知のThermosynechococcus elongatus BP-1由来のPPK2(TePPK2)のアミノ酸配列(配列番号1)(Genbank、アクセッションNo.AAN87337.1)に対して、約35%以上の同一性を有しているアミノ酸配列からなり、且つAMPからATPを生成する活性を有するポリペプチドが意図される。なお、アミノ酸配列の同一性は、BLASTの方法によって決定することができる。
【0051】
上記好熱菌のPPK2としては、例えば、以下の(a)または(b)のポリペプチドであり得るが、本発明はこれらに限定されない:
(a)配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、AMPからATPを生成する活性を有するポリペプチド。
【0052】
上記(a)〜(b)以外の好熱菌由来のPPK2については、公知のPseudomonas aeruginosa由来のPPK2の塩基配列の情報を元にデータベースにアクセスすることによって、その具体的な塩基配列およびアミノ酸配列の情報を、簡単かつ十分に取得し得る。
【0053】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。
【0054】
ここで、上記「1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換および/または付加できる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されることを意味する。1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加される部位は、アミノ酸が欠失、置換および/または付加された後のタンパク質が、AMPからATPを生成する活性を有していれば、当該アミノ酸配列中のどの部位であってもよい。
【0055】
このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0056】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0057】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。好ましくは、サイレント置換、付加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
【0058】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0059】
上記好熱菌のPPK2としては、以下の(c)または(d)のポリヌクレオチドにコードされたポリペプチドであってもよい。つまり、
(c)配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、AMPからATPを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0060】
なお、配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、各々、配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列からなるポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0061】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件」は、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルタを洗浄することが意図されるが、ハイブリダイゼーションさせるポリヌクレオチドによって、高ストリンジェンシーでの洗浄条件は適宜変更され、例えば、哺乳類由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.5×SSC中にて65℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、E.coli由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、RNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、オリゴヌクレオチドを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にてハイブリダイゼーション温度での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましい。また、上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いポリヌクレオチドを取得することができる。なお、塩基配列の同一性は、サンガー法によって決定することができる。
【0062】
PPK2は、例えば、遺伝子組み換え技術を用いて生産されたものであってもよく、アミノ酸合成機などを用いて化学合成されたものであってもよい。
【0063】
例えば、大腸菌などの宿主にてPPK2を強制発現することによってPPK2を生産することができる。好熱菌のPPK2を用いる場合には、PPK2を強制発現した宿主、または、当該宿主から粗精製したPPK2を加熱することによって、PPK2以外の酵素を失活させることが可能であるので、より簡便に、純粋なPPK2を入手することができる。
【0064】
(1−2)ポリリン酸
ポリリン酸(polyP)としては、好ましくは3〜1000個、より好ましくは10〜700個の無機リン酸が、高エネルギーであるリン酸結合によって直鎖状に重合したものであれば特に限定されない。また、ポリリン酸は、生体(例えば、細菌)由来のものであってもよく、化学合成によって得られたものであってもよく、ポリリン酸合成酵素を用いてATPから合成されたものであってもよい。ポリリン酸合成酵素を用いてATPからポリリン酸を合成する場合には、例えば、特開平5−153993号公報等に開示された従来公知のポリリン酸の製造方法を利用すればよい。
【0065】
また、ポリリン酸は、ポリリン酸の塩の形態であってもよい。
【0066】
(1−3)AMP
AMPとしては、特に限定されず、生体(例えば、細菌)由来のものであってもよく、化学合成によって得られたものであってもよい。
【0067】
本発明に係るATPの製造方法によれば、単一の酵素のみでAMPからATPを合成し得るので、従来の方法と比較して、より簡便にAMPからATPを製造することができる。
【0068】
〔2.キット〕
本発明に係るキットは、AMPからATPを製造するためのキットであって、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを少なくとも備えていることを特徴としている。「PPK2」、「ポリリン酸」および「AMP」については、上記「1.ATPの製造方法」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0069】
本発明に係るキットでは、上記「PPK2」をポリペプチドの形態として備えていてもよいし、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの形態(例えば、当該ポリヌクレオチドを含む形質転換ベクター等)として備えていてもよい。
【0070】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C、およびTと省略される)の配列として示される。
【0071】
本発明にかかるキットは、上記「PPK2」、「ポリリン酸」および「AMP」以外の成分を備えていてもよい。例えば、PPK2、ポリリン酸およびAMPを反応させるための緩衝液を備えていてもよい。適切な緩衝液については、上記「1.ATPの製造方法」の項で説明したとおりである。また、上記キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビン等)を含んでいてもよく、本発明にかかるキットを使用するための指示書を備えていてもよい。
【0072】
本発明に係るキットを用いれば、単一の酵素のみでAMPからATPを合成し得るので、従来の方法と比較して、より簡便にAMPからATPを製造することができる。
【0073】
〔3.物質の製造方法〕
本発明に係る物質の製造方法は、ATPを利用して物質を製造する方法であって、上記製造方法によってATPから生成されたAMPに、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸とを反応させてATPを再生するATP再生反応と、当該製造方法とが共役しており、上記製造方法が利用するATPは、当該製造方法と共役している上記ATP再生反応によって再生されたATPであり、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴としている。
【0074】
本発明に係る物質の製造方法は、以下のように言い換えることもできる。すなわち、本発明に係る物質の製造方法は、ATPを利用して物質を生成する反応を用いた、物質の製造方法であって、上記反応によってATPから生成されたAMPに、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸とを反応させてATPを再生する工程を含み、上記反応が利用するATPは、上記再生工程によって再生されたATPであり、上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴としている。本発明に係る物質の製造方法では、上記物質は、アセチル−CoAであることが好ましい。すなわち、上記反応は、アセチル−CoA合成酵素によってアセチル−CoAを生成する反応であり得る。「PPK2」、「ポリリン酸」および「AMP」については、上記「1.ATPの製造方法」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0075】
なお、上記「物質」は、特に限定された物質ではなく、ATP再合成反応と共役している製造方法に係る物質であればよい。すなわち、ATP再生反応(ATP再生系)と共役して生成される物質であれば特に限定されるものではない。例えば、アセチル−CoA等の生理活性物質等のあらゆる物質が含まれる。
【0076】
ここで、アセチル−CoA合成酵素によってアセチル−CoAを生成する反応を用いてアセチル−CoAを製造する場合を例として、本発明の概略を図1に示す。図1に示すように、アセチル−CoA合成酵素は、ATPを利用してアセチル−CoAを生成し、AMPを生成する酵素である。アセチル−CoA合成酵素によってATPから生成されたAMPは、PPK2とポリリン酸とによってATPへと再生される。これによて、効率よくアセチル−CoAを製造することが可能となる。
【0077】
ATPを利用して物質を生成する反応としては、例えば、ATPを利用して物質を生成する酵素を用いて物質を生成する反応が含まれ、その一例として、アセチル−CoA合成酵素によってアセチル−CoAを生成する反応を挙げたが、本発明はこれに限定されない。ATPを利用して物質を生成する反応としては、ATPを利用して物質を生成するとともにAMPを生成する反応であればよい。このような反応としては、例えば、プロパノイル−CoA合成酵素による反応(この場合、生成される物質はプロパノイルCoA)、ホタルルシフェリン−4−モノオキシゲナーゼによる反応(この場合、生成される物質はオキシルシフェリン)、ATP−GTP 3’−ジホスホトランスフェラーゼによる反応(この場合、生成される物質はグアノシン3’−二リン酸5’−三リン酸)、ホスホリボシルピロリン酸シンテターゼによる反応(この場合、生成される物質は5−ホスホリボシル1−ピロリン酸)、アシル−CoAシンテターゼによる反応(この場合、生成される物質はアシル−CoA)、ビオチン−CoAリガーゼによる反応(この場合、生成される物質はビオチン−CoA)、アミノアシル−tRNAシンテターゼによる反応(この場合、生成される物質はアミノアシル−tRNA)、ポリリボヌクレオチドリガーゼによる反応(EC6.5.1.3)(この場合、生成される物質は環状RNA)、L−アスパルテートアンモニアリガーゼ(EC6.3.1.1)による反応(この場合、生成される物質はL−アスパラギンまたはL−アスパラギン酸)等を挙げることができる。なお、ATPを利用して物質を生成する反応は、上記の例示に限定されない。当業者であれば、例えば、AMPあるいはピロリン酸を生成する酵素反応に関してKEGG: 生命システム情報統合データベース(http://www.genome.jp/kegg/kegg_ja.html)〔2011年 7月19日検索〕を検索することによって、上述した以外の反応も容易に理解することができる。
【0078】
本発明に係る物質の製造方法によれば、ATPを消費する物質の生成系に、ATP再生系を共役させるので、ATPを供給する必要がなく、コストを抑えることができる。また、副反応が起こらない高効率の反応系を構築することができる。このため、より安価にかつより効率よく物質(具体的には、例えば、アセチル−CoA、プロパノイルCoA、L−アスパラギン、グアノシン3’−二リン酸5’−三リン酸、5−ホスホリボシル1−ピロリン酸、アシル−CoA、ビオチン−CoA、アミノアシル−tRNA、環状RNA、L−アスパラギンまたはL−アスパラギン酸等)を製造することができる。
【0079】
また、上述のホタルルシフェリン−4−モノオキシゲナーゼの生物発光反応においては、物質の生産ではなく、反応そのものを効率良く進めることにより発光強度の増強が期待される。この様に、ATP再生系を共役させることによって酵素反応の効率を向上させる効果も期待される。すなわち、本発明に係るATP再生系と共役させる反応は、上述したような物質の生成反応のみに限定されず、生物発光反応等とも共役させることができる。
【0080】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0082】
(1.耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)の取得)
微生物ゲノムを対象としたBLAST解析(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/genom_table.cgi)〔2011年 7月12日検索〕によって、Thermosynechococcus elongatus BP-1のPPK2アミノ酸配列を用いてTBLASTNプログラムモードでホモログ検索を行った。
【0083】
具体的には、公知のThermosynechococcus elongatus BP-1由来のPPK2(TePPK2)の塩基配列(配列番号6)を元に、データベース(TBLASTN)の検索を行い、その結果、好熱菌であるMeiothermus ruber DSM 1279において、Pseudomonas aeruginosa由来のPPK2とアミノ酸配列において42%の同一性を有する遺伝子を見出した。そして、PCRによって、Meiothermus ruber DSM 1279由来のPPK2(MrPPK2)を取得した。MrPPK2のアミノ酸配列を配列番号2に、塩基配列を配列番号7に示す。
【0084】
また、好熱菌であるMeiothermus silvanus DSM 9946において、Thermosynechococcus elongatus BP-1由来のPPK2とアミノ酸配列において43%の同一性を有する遺伝子を見出した。そして、PCRによって、Meiothermus silvanus DSM 9946由来のPPK2(MsPPK2)を取得した。MsPPK2のアミノ酸配列を配列番号3に、塩基配列を配列番号8に示す。
【0085】
同様にしてデータベースサーチを行い、好熱菌であるDeinococcus geothermalis DSM11300において、Thermosynechococcus elongatus BP-1由来のPPK2とアミノ酸配列において45%の同一性を有する遺伝子を見出した。Deinococcus geothermalis DSM11300由来のPPK2(DgPPK2)のアミノ酸配列を配列番号4に、塩基配列を配列番号9に示す。
【0086】
また、好熱菌であるThermanaerovibrio acidaminovorans DSM6589において、Thermosynechococcus elongatus BP-1由来のPPK2とアミノ酸配列において36%の同一性を有する遺伝子を見出した。Thermanaerovibrio acidaminovorans DSM6589由来のPPK2(TaPPK2)のアミノ酸配列を配列番号5に、塩基配列を配列番号10に示す。
【0087】
(2.PPK2の生化学的性質の測定)
得られたPPK2の生化学的性質を確認した。具体的には、TePPK2、MrPPK2およびMsPPK2について、「Vmax」、「K」、「至適温度」、「至適pH」および「コファクターの要求性」について確認した。
【0088】
「Vmax」は、以下の方法によって測定した。
【0089】
「K」は、以下の方法によって測定した。
【0090】
「Vmax」および「K」は、PPK2によるATP合成速度のミカエリス・メンテン式を用いた反応速度論的解析によって測定した。すなわち異なるADP濃度において、PPK2とポリリン酸によるATP合成速度を測定し、ラインウィーバー・バーク・プロットを作成してVmaxおよびKを求めた。ATP合成反応は、以下の組成の反応液中で行った。ADP(0.1,0.2,0.5,1.0,2.0,5.0mM(終濃度)),5mM ポリリン酸polyP65(Sigma社製,型番:015K012)、PPK緩衝液(40mM (NHSO、4mM MgCl、10mM MnCl)、精製酵素4μg/ml。反応液のpH、温度はそれぞれの酵素の至適条件に調整して行った(後述)。
【0091】
「至適温度」は、以下の反応液中で温度を変化させて一定時間反応させ、生成したATP量を比較することによって測定した。0.25mMのADP,5mMのポリリン酸polyP65(Sigma社製,型番:015K012)、PPK緩衝液(50mM MOPS−NaOHバッファ(pH7.0)、40mM (NHSO、4mM MgCl、10mM MnCl)、精製酵素4μg/ml。反応温度は30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃の間で測定した。
【0092】
「至適pH」は、前述の反応液に用いる緩衝液を以下の緩衝液に変え、pH6.0〜10の範囲でATP合成活性を測定することで解析した。MES−HCl(pH6.0〜7.0),HEPES−NaOH(pH7.0〜8.0),Tris−NaOH(pH8.0〜9.0),CHES−NaOH(pH9.0〜10)。
【0093】
「コファクターの要求性」は、前述の反応液中にMnCl(終濃度0〜20mM)を添加し、ATP合成活性を測定することにより解析した。
【0094】
比較対象として、Thermus thermophilius由来のPPK1の「Vmax」、「Km」、「至適温度」、「至適pH」および「コファクターの要求性」を同様に測定した。
【0095】
結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
(3.耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)の活性測定(1))
得られた耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)のATP合成活性を確認した。
【0098】
PPKバッファ(50mM MOPS−NaOHバッファ、40mM (NHSO、4mM MgCl、10mM MnCl、pH7.0)30μl中に、平均鎖長75のポリリン酸polyP75+(Sigma社製,型番:S-8262)を最終濃度10mM、AMP(オリエンタル酵母,45102000)を最終濃度10mMとなるように添加し、MrPPK2を最終濃度8μg/mlとなるように添加して、70℃にて20分間反応させた。反応後のサンプル1μlをPEI−セルロース(Merck社製,型番:1055790001)にスポットし、展開液(1M ギ酸+0.6M LiCl)を用いて展開した。なお、10mM AMP、10mM ADPおよび10mM ATPの標準品、並びに反応時間0分のサンプルについても、同時にスポットし、比較対象とした。
【0099】
図2は、薄層クロマトグラフィーの結果を表す図である。図2に示したように、反応時間0分のサンプルでは、基質として加えたAMPのみしか確認されないのに対して、反応時間20分のサンプルでは、基質として加えたAMPが減少し、代わりにATPが生成されていることが確認された。また、ADPの生成も認められた。
【0100】
(3.耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)の活性測定(2))
得られた耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)のATP合成活性を確認した。
【0101】
PPKバッファ(50mM MOPS−NaOHバッファ、40mM (NHSO、4mM MgCl、10mM MnCl、pH7.0)50μl中に、平均鎖長65のポリリン酸polyP65(SIGMA,015K5012)を最終濃度5mM、ADP(SIGMA,A−4386)またはAMP(オリエンタル酵母,45102000)を最終濃度0.25mMとなるように添加し、酵素を10μg(濃度200μg/ml)を用いて反応させた。反応温度は、TePPK2では60℃に設定し、MrPPK2およびMsPPK2では70℃に設定した。一定時間ごとにサンプルを採取し、氷上で反応を停止させたサンプルのATP濃度を測定した。
【0102】
ATPの測定は、サンプル5μlに対し、40μlのATP Bioluminescence Assay Kit CLS II(Roche)を反応させ、ARVO(Wallac)を用いて発光量を検出した。PPK2の酵素活性は、検出された発光量から算出した。
【0103】
反応液中に基質として0.25mMのADPを加えたサンプルと、0.25mMのAMPを加えたサンプルとで、ATP合成活性を比較した。
【0104】
コントロールの酵素として、Thermus thermophilius由来のPPK1(TPPK1)(配列番号11)を用いて同様に実験を行なった。
【0105】
図3は、耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型のATP合成活性を測定した結果を表すグラフである。グラフ中、四角は、基質としてADPを用いた場合のATP合成活性を表し、三角は、基質としてAMPを用いた場合のATP合成活性を表す。図3に示したように、TePPK2、MrPPK2およびMsPPK2は、それぞれ、AMPを基質としてATPを合成し得ることが確認された(図3の(A)、(B)および(C))。なお、TePPK2、MrPPK2およびMsPPK2では、AMPを基質とした場合の反応率は、ADPを基質とした場合の反応率と比較して、70%程度であった。
【0106】
これに対して、コントロールの酵素であるPPK1は、ADPを基質としてATPを合成することができなかった(図3の(D))。
【0107】
以上のことから、ポリリン酸キナーゼ2型を用いることによって、単一の酵素のみで、より簡便に且つ効率よくAMPからATPを製造し得ることが確認された。
【0108】
(4.耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)の活性測定(3))
DgPPK2とTaPPK2のATP合成活性を測定した。具体的には、DgPPK2を発現している大腸菌pCold−DgPPK2(Deinococcus geothermalis DSM11300由来)と、TaPPK2を発現している大腸菌pCold−TaPPK2(Thermanaerovibrio acidaminovorans DSM6589由来)の前培養液を新しいLB培地に1%稙菌し、OD600=0.5になるまで37℃で振とう培養を行なった。
【0109】
IPTGを終濃度0.25mMになるよう添加し、15℃で30分静置した後、15℃で24時間振とう培養した。菌体0.6mLを集菌し、沈殿を0.2mlのPPKバッファ(50mM MOPS−NaOHバッファ、40mM (NHSO、4mM MgCl、pH7.0)に再懸濁し、70℃、10分間の熱処理を行なった。熱処理後、遠心分離(15000rpm,5min)により上清と沈殿物に分離した。沈殿物は0.2mlの同バッファに再懸濁した。反応液50ml中に0.25mM ADPおよび5mM polyP65を加え、さらに懸濁液と上清とをそれぞれ10ml用いて、混合し、70℃にてATP合成活性を調べた。サンプリングとATP合成活性の測定は並行して経時的に行なった。ATPの測定方法は、上記「3.耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型(PPK2)の活性測定(1)」の項で説明した方法に同じ。
【0110】
図4は、耐熱性ポリリン酸キナーゼ2型のATP合成活性を測定した結果を表すグラフである。図4の(A)および(C)は、pCold−DgPPK2およびpCold−TaPPK2が、それぞれDgPPK2およびTaPPK2を発現していることSDS−PAGEにて確認した図である。図4の(B)および(D)に示したように、DgPPK2およびTaPPK2は、それぞれ、ADPを基質としてATPを合成し得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係るATPの製造方法または本発明に係るキットによれば、単一の酵素のみでAMPからATPを合成し得るので、より簡便にAMPからATPを製造することができる。さらに、本発明に係る物質の製造方法によれば、ATPを消費する物質の生成系に、ATP再生系を共役させるので、より効率よく物質を製造することができる。したがって、本発明は、物質を合成する際のエネルギー源としてATPを消費するバイオプロセスを利用する産業分野(例えば、医薬品産業、食品産業等)において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを反応させる工程を含み、
上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴とする、ATPの製造方法。
【請求項2】
上記ポリリン酸キナーゼ2型が、好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型であることを特徴とする、請求項1に記載のATPの製造方法。
【請求項3】
上記好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型が、以下の(a)または(b)のポリペプチドであることを特徴とする、請求項2に記載のATPの製造方法:
(a)配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1、2、3、4または5に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、AMPからATPを生成する活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
上記好熱菌のポリリン酸キナーゼ2型が、以下の(c)または(d)のポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドであることを特徴とする、請求項3に記載のATPの製造方法:
(c)配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)配列番号6、7、8、9または10の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、AMPからATPを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
AMPからATPを製造するためのキットであって、
ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸と、AMPとを少なくとも備え、
上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴とするキット。
【請求項6】
ATPを利用して物質を製造する方法であって、
上記製造方法によってATPから生成されたAMPに、ポリリン酸キナーゼ2型と、ポリリン酸とを反応させてATPを再生するATP再生反応と、当該製造方法とが共役しており、
上記製造方法が利用するATPは、当該製造方法と共役している上記ATP再生反応によって再生されたATPであり、
上記ポリリン酸キナーゼ2型は、単一の酵素でAMPからATPの合成を可能とする酵素であることを特徴とする物質の製造方法。
【請求項7】
上記物質は、アセチル−CoAであることを特徴とする、請求項6に記載の物質の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−21967(P2013−21967A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159349(P2011−159349)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】