説明

B−C−N−O蛍光体の製造方法

【課題】蛍光量子収率の高いB−C−N−O蛍光体の製造方法を提供すること。
【解決手段】含窒素ホウ素化合物を酸化性雰囲気下で焼成する酸化焼成工程を含み、前記含窒素ホウ素化合物を構成するホウ素と窒素とのモル比が0.05:1〜0.5:1の範囲である、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)からなるB−C−N−O蛍光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、LEDの色調変換剤、化粧品材料などの用途に有用な無機蛍光体の製造方法、より詳細には、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)からなるB−C−N−O蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機蛍光体はLEDの色調変換剤として照明機器や各種表示機器に用いられている。また化粧品材料への応用も検討されている。かかる使用目的に適した発光色、発光スペクトル強度、経済性、耐久性を実現するために、種々の無機蛍光体についての研究が行われている。
【0003】
発光中心としてEuやCeなどの高価で希少な希土類元素を含有する無機蛍光体が広く知られているが、かかる希土類元素の安定供給は工業生産上の課題となる。また、Zn、Cu、Mn、Cdなどの重金属を含む無機蛍光体も広く知られているが、かかる無機蛍光体は環境保護の観点から望ましくない。
【0004】
一方、希土類元素および重金属を含まない無機蛍光体も近年報告されている。例えば、特許文献1にはSiO2-Al2O3系の蛍光体が開示されており、特許文献2には無機蛍光体として一般式CaxSn1-yTiySizOrで表される蛍光体が開示されている。
【0005】
また、特許文献3および4には、IIIB族元素(M)、炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)からなるM−C−N−O蛍光体が開示されている。さらに、特許文献4には、ホウ酸、尿素、および有機系分散剤として作用するポリエチレングリコールからなる混合物を加熱して得られる熱分解物を解砕した後、酸素雰囲気下で焼成することにより色純度の高いB−C−N−O蛍光体が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献1〜4に開示された無機蛍光体は、希土類元素が含まれていないため、原料の安定的な供給が容易であり、また重金属も含まれていないため、環境保護の観点からも望ましい無機蛍光体である。とりわけ、特許文献3および4に示された無機蛍光体は、炭素の含有量を調整することによって、発光スペクトルのピークトップ波長を変動させることができ、発光スペクトルの異なる無機蛍光体を容易に調製できる。例えば、青色蛍光体、緑色蛍光体、赤色蛍光体を別個に調製し、それらを組み合わせて優れた演色性を示す白色蛍光体を作製することも可能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−173937号公報
【特許文献2】特開2010−215772号公報
【特許文献3】国際公開第2008/126500号
【特許文献4】国際公開第2010/067767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、無機蛍光体の性能の向上および用途の拡大を図るために、蛍光量子収率を高めることが望まれている。特許文献1〜4に示された無機蛍光体は蛍光量子収率が不十分であり、LEDの波長変換剤として使用した場合にLEDの発光を白色化することは困難であると考えられる。
【0009】
本発明は、蛍光量子収率を改善したB−C−N−O蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、特許文献4に記載のB−C−N−O蛍光体を作成し、蛍光顕微鏡で観察したところ、発光強度の強い部分と弱い部分が微細に混在していることを見出した。このことから発光強度の弱い部分の発光強度を高めることで、蛍光量子収率が高く、より均一な発光強度を示すB−C−N−O蛍光体が得られると考えた。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]含窒素ホウ素化合物を酸化性雰囲気下で焼成する酸化焼成工程を含み、含窒素ホウ素化合物を構成するホウ素と窒素とのモル比が0.05:1〜0.5:1の範囲であることを特徴とする、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)からなるB−C−N−O蛍光体の製造方法;
[2]前記含窒素ホウ素化合物が、ホウ酸またはホウ酸誘導体と含窒素化合物との塩である、上記[1]のB−C−N−O蛍光体の製造方法;
[3]酸化焼成工程の前に、含窒素有機化合物を含窒素ホウ素化合物に混合する、上記[1]または[2]のB−C−N−O蛍光体の製造方法;
[4]酸化焼成工程の前に、有機系分散剤を含窒素ホウ素化合物に混合する、上記[1]〜[3]のいずれかのB−C−N−O蛍光体の製造方法;および
[5]前記含窒素ホウ素化合物がホウ酸メラミンである、上記[1]〜[4]のいずれかのB−C−N−O蛍光体の製造方法;
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蛍光量子収率の改善されたB−C−N−O蛍光体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のB−C−N−O蛍光体の製造原料として使用される含窒素ホウ素化合物を構成する、ホウ素と窒素とのモル比は0.05:1〜0.5:1の範囲であり、0.08:1〜0.46:1の範囲であることが好ましい。窒素に対するホウ素のモル比が0.5より大きい場合、得られるB−C−N−O蛍光体中の窒素の含有率が低下し、発光強度が不十分になる。また、窒素に対するホウ素のモル比が0.05より小さい場合には、得られるB−C−N−O蛍光体中のホウ素の均一性が低下し、B−C−N−O蛍光体の蛍光量子収率が低下する。このような含窒素ホウ素化合物としては、ホウ酸またはホウ酸誘導体と含窒素化合物との塩(例えばホウ酸メラミンなど)、トリスジメチルアミノボランなどのアミノボラン類縁体、ボラジン、トリメチルボラジン、ヘキサメチルボラジンなどのボラジン類縁体、アンモニアボラン錯体などの錯体が挙げられる。含窒素ホウ素化合物が炭素を含まない場合には、炭素源として後述する含窒素有機化合物および/または有機系分散剤を含窒素ホウ素化合物に配合して混合物とした後、酸化性雰囲気下で焼成することが望ましい。
【0014】
含窒素ホウ素化合物は、ホウ素化合物と含窒素化合物との酸塩基反応により塩として生成させることができる。この反応に使用するホウ素化合物としては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、無水ホウ酸およびこれらの誘導体;ジボラン、アルキルボランなどのボラン類;などが挙げられ、入手容易性などの観点から、オルトホウ酸、無水ホウ酸が好ましい。これらは1種を単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
また、ホウ素化合物と反応させる含窒素化合物としては、アンモニア、ヒドラジン、グアニジン、ジシアンジアミド、メチルアミン、エチレンジアミンなどのアミン類;尿素、ホルムアミド、アセトアミドなどのアミド類;メラミン、アミノピリミジン、メラミンフェノール樹脂、アンメリン、アンメリドなどの芳香族アミン類;などが挙げられ、入手容易性などを考慮して、アンモニア、尿素、メラミンが好ましい。これらは1種を単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明の製造方法における酸化焼成工程の前に、含窒素有機化合物を含窒素ホウ素化合物に混合してもよい。含窒素有機化合物は、目的のB−C−N−O蛍光体の炭素源および窒素源となる。
【0017】
ここで含窒素有機化合物とは、炭素、水素および窒素の各元素を含み、酸素のみを任意成分とする有機化合物を指し、分解してアンモニアを生成する有機化合物が挙げられる。例えば、グアニジン、ジシアンジアミド、メチルアミン、エチレンジアミンなどのアミン類;尿素、ホルムアミド、アセトアミドなどのアミド類;メラミン、アミノピリミジン、メチロールメラミン、アンメリン、アンメリドなどの複素芳香族アミン類;などが挙げられ、入手容易性などを考慮して、尿素、メラミン、グアニジン、ジシアンジアミドが好ましい。これら含窒素有機化合物は1種を単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
本発明の製造方法における酸化焼成工程の前に、有機系分散剤を含窒素ホウ素化合物に混合してもよい。有機系分散剤は、B−C−N−O蛍光体を構成する炭素の供給源となる。B−C−N−O蛍光体においては、炭素含有量と発光スペクトルのピーク波長との間には一定の相関関係が存在し、炭素含有量に応じてピーク波長は変動し、発光色の変化が観察される。
【0019】
本発明に使用することができる有機系分散剤としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、糖類、ポリビニルグリセリン、ポリビニルアルコールなどの多価アルコール類、ジメトキシエタン、1,2−プロパンジオールジメチルエーテル、1,3−プロパンジオールジメチルエーテル、1,2−ブタンジオールジメチルエーテル、1,4−ブタンジオールジメチルエーテル、グリセリントリメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエトキシエタン、1,2−プロパンジオールジエチルエーテル、1,3−プロパンジオールジエチルエーテル、1,2−ブタンジオールジエチルエーテル、1,4−ブタンジオールジエチルエーテル、グリセリントリエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレンオキサイドなどのエーテル類などの含酸素有機系分散剤;並びに、ラクタム(N−メチルピロリドンなど)、アミン(ポリアリルアミンなど)、イミン(ポリエチレンイミンなど)、ポリビニルピロリドン、アミノ酸、たんぱく質などの含窒素有機化合物からなる分散剤などが挙げられ、入手容易性、炭素の導入容易性などの観点から、エチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、ポリエチレングリコールなどのエーテル類が好ましい。
【0020】
上記の有機系分散剤が含窒素ホウ素化合物に対して反応性を有する化合物である場合には、焼成後に得られるB−C−N−O蛍光体の組成の均一性を更に高めることができる。
【0021】
本発明では、上述のとおり、含窒素ホウ素化合物、さらに任意成分として含窒素有機化合物、有機系分散剤からなる原料を酸化焼成することによりB−C−N−O蛍光体を製造できる。該原料は溶媒に溶解または分散させた状態で(すなわち溶液または分散液として)焼成することができる。溶媒としては、例えば、水、またはメタノール、エタノールなどのアルコール類が挙げられ、安全性を考慮して水が好ましい。
【0022】
原料として含窒素有機化合物を用いる場合、含窒素ホウ素化合物に対する含窒素有機化合物の使用量は、使用する化合物の種類、焼成温度、時間などを考慮して決めることができるが、通常、含窒素ホウ素化合物100質量部に対して1〜1000質量部の範囲、より好ましくは5〜800質量部の範囲で使用される。
【0023】
有機系分散剤を使用する場合、含窒素ホウ素化合物に対する有機系分散剤の使用量は、使用する化合物の種類、焼成温度、時間などを考慮して決めることができるが、通常含窒素ホウ素化合物100質量部に対して1〜200質量部の範囲、より好ましくは、5〜190質量部の範囲で使用される。
【0024】
溶媒を使用する場合、その使用量は、使用する化合物の種類、焼成温度、時間などを考慮して決めることができるが、通常含窒素ホウ素化合物100質量部に対して1〜50000質量部の範囲、好ましくは1〜10000質量部の範囲、より好ましくは1〜5000質量部の範囲で使用される。使用量が多すぎると、溶媒の除去のために時間やエネルギーを多量に消費することになり経済的でない。
【0025】
含窒素ホウ素化合物に含窒素有機化合物や有機系分散剤を混合する場合、化学物質を混合するために一般的に使用され得るいずれの方法を用いてもよい。例えば、固体同士を混合する場合には、ボールミル、ターボミル、ジェットミルなどの装置を用いてもよいし、乳鉢などの器具を用いて手動で混合してもよい。
【0026】
含窒素ホウ素化合物に含窒素有機化合物や有機系分散剤を混合する操作を液体媒体中で実施してもよい。すなわち、含窒素ホウ素化合物、または、該化合物に必要に応じて含窒素有機化合物や有機系分散剤を加えた混合物を液体媒体中に溶解または分散させて溶液、または分散液を調製し、これを原料混合物として酸化焼成工程に使用することができる。あるいは、含窒素ホウ素化合物、含窒素有機化合物および有機系分散剤のそれぞれについて溶液又は分散液を調製して混合物の調製に使用することができる。
【0027】
さらに、液体媒体中で調製された混合物から、スプレードライのような方法で液体媒体(溶媒または分散媒)を除去して固体混合物を入手することもできる。
【0028】
本発明の酸化焼成工程において、原料化合物から目的のB−C−N−O蛍光体を製造するための焼成温度は、使用する含窒素ホウ素化合物、含窒素有機化合物、有機系分散剤の量などに影響されるが、通常、焼成時の原料化合物の温度(焼成温度)は500〜1000℃の範囲、好ましくは510〜950℃の範囲、より好ましくは520〜900℃の範囲で実施する。焼成温度が低すぎると原料化合物に含まれる炭素の一部が燃焼せずに残留し、炭化物としてB−C−N−O蛍光体の表面に付着して、蛍光量子収率を低下させる傾向となる。また、焼成温度が高すぎると炭素分が完全に燃焼されて消失し、B−C−N−O系蛍光体を構成する炭素に欠損が生じて発光色が変化する傾向となる。
【0029】
酸化焼成工程における昇温速度は、通常、1〜80℃/分の範囲、好ましくは2〜50℃/分の範囲に設定する。昇温速度が速すぎると特殊な焼成炉を使用しなければならず、設備面コスト負担が大きくなる。
【0030】
酸化焼成工程中、原料が供給された焼成装置(特に反応容器)内は、原料中に含まれる余分な炭素分を燃焼させるために、酸化性雰囲気下である必要がある。通常、酸素濃度は1〜30%の範囲、好ましくは3〜25%の範囲とする。また、焼成温度を保持する間に、窒素、アルゴンなどの不活性ガスで置換して不活性雰囲気に切り替え、更なる炭素の欠損や酸化物の生成を抑制することもできる。かかる酸化焼成工程はガス気流下でも、密閉された雰囲気下でも実施できる。
【0031】
上記酸化焼成工程において、焼成温度から降温させる速度は、通常、1〜80℃/分の範囲、好ましくは2〜50℃/分の範囲である。降温速度が速すぎると特殊な焼成炉を使用しなければならず、設備面コスト負担が大きくなる傾向となる。
【0032】
酸化焼成工程における降温時の雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気、酸素が存在する酸化性雰囲気のいずれでもよい。操作の安全性等の観点から、不活性雰囲気下で降温させることが好ましい。さらに焼成温度が300℃以下では、目的とするB−C−N−O蛍光体の表面に水分が付着するため、乾燥ガス雰囲気下で降温することが好ましい。
【0033】
酸化焼成工程における焼成温度での保持時間(本明細書中「焼成時間」と称する。)は、原料として使用する含窒素ホウ素化合物、含窒素有機化合物、有機系分散剤の量などを考慮して決めることができるが、通常、0〜180分の範囲、好ましくは1〜150分の範囲、より好ましくは5〜120分の範囲である。焼成時間が短すぎると熱伝達が十分ではなくなり、B−C−N−O蛍光体の組成に不均一性が生じる傾向となる。反対に焼成時間が長すぎるとB−C−N−O蛍光体を構成する炭素に欠損が生じる傾向となる。
【0034】
酸化焼成工程に供給される原料は、必要に応じて、含窒素ホウ素化合物、又は含窒素ホウ素化合物と任意成分(含窒素有機化合物および有機系分散剤)との混合物を加熱して熱分解物を生成させた後、解砕したものを使用することができる。このような前処理を施した原料を酸化焼成工程に供給すると、原料の凝集が抑制されて、各元素の分布状態の偏在化が促進されず、また、原料への酸化性ガス気流の拡散・浸透が維持されるため、焼成がムラなく実施されるという効果がある。
【0035】
酸化焼成工程の前に原料から熱分解物を生成させるための加熱処理工程は、含窒素ホウ素化合物、又はこれに含窒素有機化合物および有機系分散剤を添加して得られる混合物の熱分解を生じさせることが可能ないずれの方法で実施してもよい。例えば、ロータリーキルン炉やコニカルキルン炉のような移動床、ローラーハース炉やプッシャー炉のような連続式固定床、雰囲気調整炉のようなバッチ式固定床などの加熱焼成炉、スプレーや噴霧法などを採用する熱分解炉などを用いることができるほか、加熱混練装置、例えば一軸押出機、二軸押出機のような押出機、トーラスディスクなどの加熱混合機を使用することもできる。
【0036】
上記加熱処理工程において、熱分解物を生成させるために必要な加熱温度は、使用する含窒素ホウ素化合物、含窒素有機化合物、有機系分散剤の量などに影響されるため一概に規定できないが、通常、150〜1000℃の範囲、好ましくは200〜950℃の範囲、より好ましくは300〜900℃の範囲である。加熱温度が低すぎると、含窒素ホウ素化合物や含窒素有機化合物、有機系分散剤が分解せず、反対に加熱温度が高すぎると、エネルギー消費が増加するため傾向となる。
【0037】
上記加熱処理工程において、昇温速度は、好ましくは1〜80℃/分の範囲、より好ましくは2〜50℃/分の範囲である。昇温速度が速すぎると特殊な焼成炉を使用しなければならず、設備コストの負担が大きくなる。
【0038】
上記加熱処理工程における加熱装置(特に反応容器)内は、窒素、希ガス(例えばアルゴン)などの不活性ガスが充填された不活性雰囲気下、または酸素が存在する酸化性雰囲気下のいずれでもよい。含窒素ホウ素化合物が熱分解を生じる温度ではアンモニアの発生による爆発の危険性の観点から、不活性雰囲気下が好ましい。かかる加熱処理工程は、ガス気流下でも、密閉された雰囲気下でも実施できる。
【0039】
上記加熱処理工程中、昇温温度からの降温速度は、通常、1〜80℃/分の範囲、より好ましくは2〜50℃/分の範囲である。降温速度が速すぎると特殊な焼成炉を使用しなければならず、設備コストの負担が大きくなる。
【0040】
上記加熱処理工程において、降温時の反応容器内は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスが充填された不活性雰囲気下、または酸素が存在する酸化性雰囲気下のいずれでもよい。加熱処理工程の安全性の観点から、不活性雰囲気下で降温することが好ましい。さらに、温度が300℃以下まで降下すると、目的とするB−C−N−O蛍光体の表面に水分が付着するため、乾燥ガス雰囲気下で降温することが好ましい。
【0041】
上記加熱処理工程の開始から終了までに要する時間(本明細書中「加熱処理時間」という)は、使用する含窒素ホウ素化合物、含窒素有機化合物、有機系分散剤の量などを考慮して決定できるが、通常0〜180分の範囲、好ましくは1〜150分の範囲、より好ましくは5〜120分の範囲である。加熱処理時間が短すぎると熱伝達が十分でなくなり、B−C−N−O蛍光体の組成に不均一性が生じるおそれがある。反対に加熱処理時間が長すぎるとB−C−N−O蛍光体を構成する炭素に欠損が生じる傾向となる。
【0042】
上記加熱処理工程により生じた熱分解生成物を含む原料は、さらに解砕されることが好ましい。解砕の際に、含窒素有機化合物や有機系分散剤を追加してもかまわない。解砕する方法としては、例えば固体同士を解砕する場合には、ボールミル、ターボミル、ジェットミルなどを用いてもよく、乳鉢などの器具を用いて手動で解砕してもよい。解砕の程度は、平均粒径が通常0.1μm〜2mmの範囲、好ましくは、0.2μm〜1mmの範囲内となるように解砕する。微細に解砕し過ぎると、焼成時に酸化性気体の流通・拡散が悪くなり、焼成が不均一になりムラが生じる傾向となる。
【0043】
上記の解砕工程により得られた解砕物を酸化焼成工程に供して、B−C−N−O蛍光体を得ることができる。
本発明では、得られたB−C−N−O蛍光体を粉砕して、更に微細な粒子とすることも可能である。粉砕には、乳鉢などの器具や、ボールミル、ターボミル、ジェットミルなどの装置を用いることができる。これらの粉砕処理は乾式で行っても、アルコールなどの溶媒を用いて湿式で行ってもよい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。蛍光量子収率および発光色の測定は、日本分光株式会社製の分光蛍光光度計FP−6500を用いて行った。
なお、本明細書において「蛍光量子収率」とは、入射光によって励起された蛍光体から放出される光子の数と入射光の光子の数との比であり、この数値が大きいほどB−C−N−O蛍光体として好ましい。
【0045】
[実施例1]
ホウ酸(HBO、和光純薬社製試薬特級)5.1g(0.084モル)、メラミン(和光純薬社製試薬特級)4.4g(0.035モル)をエタノール80mLと水110mLの混合溶媒に添加し、100℃まで加熱して全部を溶解させた後、20℃まで冷却して8.4gのホウ酸メラミン(C・2HBO(ホウ素と窒素のモル比=1:3))を析出させた。その後、ホウ酸メラミンをろ取し乾燥させた。得られたホウ酸メラミン5gをアルミナ製のるつぼにとり、加熱炉に入れ、大気気流下でるつぼを10℃/分の昇温速度で650℃まで上昇させた。引き続き、窒素雰囲気に切り替えて650℃に保ちながら30分間焼成した後、10℃/分の降温速度で室温まで冷却し、B−C−N−O蛍光体を得た。
【0046】
[比較例1]
ホウ酸4.33g(0.07モル)および尿素(和光純薬社製、試薬特級)10.5g(0.175モル)を乳鉢で粉砕混合したものをアルミナ製のるつぼに入れた。るつぼを加熱炉に入れ、大気気流下で10℃/分の昇温速度で700℃まで上昇させた。引き続き650℃に保ちながら30分焼成した後、10℃/分の降温速度で室温まで冷却し、B−C−N−O蛍光体を得た。
【0047】
実施例1と比較例1で得られたB−C−N−O蛍光体に、20℃において励起波長350nmの励起光を照射して放出される蛍光について蛍光量子収率を測定した。また、かかるB−C−N−O蛍光体の発光色を分光蛍光光度計FP6500(日本分光株式会社製)にて測定した。測定した蛍光量子収率および発光色(CIE色度座標(x,y)値)を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
実施例1で得られたホウ酸メラミン5gおよびポリエチレングリコール(分子量20000)2gを乳鉢で粉砕混合したものをアルミナ製のるつぼに入れた。るつぼを加熱炉に入れ、窒素気流下で10℃/分の昇温速度で500℃まで上昇させた。引き続き、500℃に保ちながら1時間加熱を続けた後、10℃/分の降温速度で室温まで冷却した。得られた粉末状の一次焼成物を乳鉢で粉砕した後、再度るつぼに移した。るつぼを加熱炉に入れ、大気気流下で10℃/分の速度で750℃まで昇温した。引き続き、加熱炉内の雰囲気を窒素雰囲気に切り替えて750℃に保ちながら30分間焼成した後、10℃/分の降温速度で室温まで冷却し、B−C−N−O蛍光体を得た。
【0049】
[比較例2]
ホウ酸4.33g(0.07モル)および尿素10.5g(0.175モル)、ポリエチレングリコール(分子量20000)1.5gを乳鉢で粉砕混合したものを、アルミナ製のるつぼに移した。るつぼを加熱炉に入れ、窒素気流下で10℃/分の昇温速度で500℃まで上昇させた。引き続き500℃に保ちながら1時間加熱を続けた後、10℃/分の降温速度で室温まで冷却した。得られた粉末状の一次焼成物を乳鉢で粉砕混練した後、再度るつぼに移した。るつぼを加熱炉に入れ、大気気流下で750℃になるまで10℃/分の速度で昇温した。引き続き、大気気流下で750℃に保ちながら30分間加熱を続けた後、10℃/分の降温速度で室温まで冷却し、B−C−N−O蛍光体を得た。
【0050】
実施例2と比較例2で得られたB−C−N−O蛍光体に、20℃において励起波長350nmの励起光を照射して放出される蛍光について蛍光量子収率を測定した。また、かかるB−C−N−O蛍光体の発光色を分光蛍光光度計FP6500(日本分光株式会社製)にて測定した。測定した蛍光量子収率および発光色(CIE色度座標(x,y)値)を表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法によれば、蛍光量子収率の高いB−C−N−O蛍光体を得ることができ、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素ホウ素化合物を酸化性雰囲気下で焼成する酸化焼成工程を含み、前記含窒素ホウ素化合物を構成するホウ素と窒素とのモル比が0.05:1〜0.5:1の範囲であることを特徴とする、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)からなるB−C−N−O蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記含窒素ホウ素化合物が、ホウ酸またはその誘導体と含窒素化合物との塩である、請求項1記載のB−C−N−O蛍光体の製造方法。
【請求項3】
酸化焼成工程の前に、含窒素有機化合物を含窒素ホウ素化合物に混合する、請求項1または2に記載のB−C−N−O蛍光体の製造方法。
【請求項4】
酸化焼成工程の前に、有機系分散剤を含窒素ホウ素化合物に混合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のB−C−N−O蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記含窒素ホウ素化合物がホウ酸メラミンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のB−C−N−O蛍光体の製造方法。